説明

軽量気泡コンクリートパネルの製造方法

【課題】 ALC特有の気泡の成長を妨げることなく、最上部鉄筋の上側における発泡巣の生成を抑制する。
【解決手段】 このALCパネルの製造方法では、補強鉄筋11が上下方向位置及び水平方向位置を拘束された型枠10内で原料スラリー2を発泡させ、原料スラリー2の上面が補強鉄筋11の最上部鉄筋3を20mm越えてから発泡終了高さより10mm低い位置に達するまでの最適期間から選ばれる30mm以上の範囲の一部期間を少なくとも含む揺動期間に、型枠10を揺動し、該揺動により原料スラリー2の凝結を遅らせる。発泡終期において、原料スラリー2の上面が発泡終了高さより30mm〜2mm低い位置に達したときに、型枠11に対する補強鉄筋11の上下方向位置の拘束を解除し、最上部鉄筋3を原料スラリー2の体積膨張に追従させ、最上部鉄筋3の上側における発泡巣の生成を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強鉄筋が上下方向位置及び水平方向位置を拘束された型枠内で原料スラリーを発泡させて、軽量気泡コンクリートパネル(以下ALCパネルという)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ALCパネルの製造にあたっては、鉄筋が格子状に組まれてなる補強鉄筋を型枠内に配設し、石灰質原料と珪酸質原料との混合物にアルミニウム粉末、界面活性剤水溶液等を加えた原料スラリーを前記型枠内に打設し、アルミニウム粉末を発泡させて気泡を形成し、原料スラリーを体積膨張させつつ硬化させる。そして、発泡が終了した半硬化体を脱型し、所定厚さにスライスした後にオートクレープ養生させ、本硬化したパネルの小口表層部を切除して、所要寸法のALCパネルを完成する。
【0003】
ところで、原料スラリーの発泡過程では、スラリー上面が補強鉄筋のうちの最上部の鉄筋を通過するときに、この鉄筋に気泡が当って潰れ、気泡から出たガスが最上部鉄筋(型枠内で、補強鉄筋のうちの最上部に位置する、水平方向に延びる鉄筋)の上側に集合して発泡巣(粗大空洞部)を形成する。図8(a)に示すように、この発泡巣4は最上部鉄筋3の上面から約70mm〜80mmの高さまで成長し、ALCパネル51の切断面51aの強度に悪影響を与える。また、ALCパネル51を鉄筋3の延伸方向に切断すると、図8(b)に示すように、発泡巣4が小口面51bに露出し、ALCパネル51の外観を低下させ、商品価値を下げる。
【0004】
従来、この種の発泡巣の生成を抑えるために、以下のような方法が提案されている。
特許文献1:棒状振動体を最上部鉄筋近くの原料スラリー中に挿入して回転または水平移動させ、スラリーの粘度を低下させ、余分なガスを上方へ逃がす方法。
特許文献2:水または水溶液を最上部鉄筋近くの原料スラリー中に注入し、スラリーの粘度上昇を遅らせ、余分なガスを上方へ逃がす方法。
特許文献3:空気を原料スラリーの表面に吹き付け、スラリーの表層部を波動させて撹拌し、スラリーを均一に体積膨張させる方法。
【0005】
特許文献4:打設直後の原料スラリーに棒状バイブレーターで振動を与え、スラリーの混練中に巻き込まれた粗大気泡をスラリー上面から脱泡する方法。
特許文献5:原料スラリー中の発泡剤が発泡を開始する前の段階で、鉄筋を振動させ、スラリーの打設時に混入した気泡を排出する方法。
特許文献6:発泡剤が少量部分発泡している発泡初期段階で、型枠の底板を振動させ、スラリーの打設時に巻き込まれた気泡を脱泡する方法。
【0006】
【特許文献1】特開平8−72035号公報
【特許文献2】特開平7−277854号公報
【特許文献3】特開平9−110548号公報
【特許文献4】特開昭58−20767号公報
【特許文献5】特開昭2001−232622号公報
【特許文献6】特開昭60−141683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来方法によると次のような問題点があった。
特許文献1:棒状振動体をスラリー中に挿入するため、振動によりALC特有の気泡が潰れ、潰れた気泡が最上部鉄筋の上側に新たな粗大気泡を形成する。
特許文献2:注水チューブをスラリー中に挿入するため、チューブによって正常な気泡が潰れ、チューブの周辺に粗大気泡が発生する。
特許文献3:空気による撹拌作用はスラリー表層部に限られるため、より深い位置の最上部鉄筋の上側で発泡巣の成長を抑制できない。
【0008】
特許文献4:スラリーの混練中に巻き込まれた粗大気泡はスラリー打設直後の振動により脱泡できるが、スラリー自体が生成した粗大気泡は粘度が高くなった段階のスラリーに振動を与えても脱泡することが困難である。
特許文献5:同様、凝結が進み粘度が高くなった段階のスラリーに鉄筋を介して振動を与えても粗大気泡を排出することは困難である。
特許文献6:型枠の底板に与えた振動は最上部鉄筋付近で大幅に減衰するため、スラリー上面が最上部鉄筋を越えた後に生成する発泡巣の成長を抑えることができない。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決し、ALC特有の気泡の成長を妨げることなく、最上部鉄筋の上側における発泡巣の生成を効果的に抑制できるALCパネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のALCパネルの製造方法は、補強鉄筋が上下方向位置及び水平方向位置を拘束された型枠内で原料スラリーを発泡させ、原料スラリーの上面が補強鉄筋の最上部鉄筋(型枠内で、補強鉄筋のうちの最上部に位置する、水平方向に延びる鉄筋)を越えた後における一部期間を少なくとも含む揺動期間に、型枠を揺動し、該揺動により原料スラリーの凝結を遅らせることに加え、原料スラリーの発泡終期に補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除し、最上部鉄筋を原料スラリーの体積膨張に追従させて上昇させることにより、最上部鉄筋の上側における発泡巣の生成を抑制することを特徴とする。
【0011】
上記方法において、型枠を揺動すると、原料スラリーが液状化し、スラリーの凝結が遅れ、液状化したスラリー中に気泡が分布する。このため、気泡が最上部鉄筋と接触しにくくなり、破泡による発泡巣の生成が抑制される。
加えて、発泡終期には、補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除し、最上部鉄筋をスラリーの体積膨張に追従させて上昇させる。このため、最上部鉄筋の上側に空隙が生じにくくなり、集泡による発泡巣の生成が抑制される。この発泡終期では、最上部鉄筋の付近でスラリーが液状化していても、それより下位ではスラリーの凝結が進行しているため鉄筋保持力は強い。従って、補強鉄筋の下部鉄筋ないし中央高さ部鉄筋はほとんど上昇しないが、最上部鉄筋はスラリーの体積膨張に追従して撓むように上昇することになる。
【0012】
[1]型枠の揺動距離
ここで、型枠の揺動距離は、特に限定されないが、型枠の揺動方向長さの0.3%〜10%であるのが好ましい。型枠の大きさは、特に限定されないが、例えば、実際の製造設備で使用する標準的な型枠は長さが6000mm程度、幅が1500mm程度のものである。この型枠を長さ方向へ揺動する場合の距離は、0.3%で18mm程度、10%で600mm程度である。幅方向へ揺動する場合の距離は、0.3%で4.5mm程度、10%で150mm程度である。
【0013】
型枠の揺動距離が揺動方向長さの0.3%〜10%であると、型枠内で原料スラリーの全体が大きく揺れ、スラリーの凝結が遅れ、気泡がスラリー中に均一に分布しやすくなる。揺動距離が0.3%未満になると、スラリーの移動距離が不足し、凝結が進行し、気泡の流動性が低下し、発泡巣が生成しやすくなる傾向がある。揺動距離が10%を超えると、凝結を遅らせる効果は変わらないが、揺動設備が大規模になる。小型の揺動設備で凝結を効果的に遅らせることができる点で、型枠の揺動距離は1%〜5%であるのがより好ましい。
【0014】
[2]型枠の揺動方向
型枠の揺動方向は、特定の方向に限定されず、原料スラリーが型枠内で動けばよく、型枠の長さ方向、幅方向、斜め方向、上下方向のいずれでもよく、水平面内で回転してもよい。
【0015】
[3]型枠の揺動加速度
型枠の揺動加速度は、特に限定されないが、0.001m/s2 〜0.2m/s2 であるのが好ましい。一般に、型枠内に打設された原料スラリーは珪石、セメント、生石灰等の粒子同士の摩擦力により混合に抵抗している状態にある。この状態で、型枠を揺動してスラリーを揺らすと、粒子間の接触が切れ、水がスラリー中に均一に分布するので、スラリーを液状化させ、スラリーの凝結速度を自然発泡時のそれよりも遅らせることができる。しかし、型枠の揺動加速度が0.001m/s2 未満であると、スラリーが型枠の揺動に追従し、粒子同士が接触を保ち、凝結が進行してスラリーの粘度が低下しにくくなる傾向となる。
【0016】
一方、原料スラリーはアルミニウム粉末とアルカリ物質との反応に伴ってALC特有の気泡を発生する。この気泡は衝撃や振動に対し非常に脆いため、気泡の成長過程ではスラリーに与える衝撃を極力低く抑えたい。型枠の揺動加速度が0.2m/s2 を超えると、衝撃によって正常な気泡が破壊されやすくなる。スラリー粘度を低下させかつ破泡を確実に防止できる点で、型枠の揺動加速度は0.01m/s2 〜0.1m/s2 であるのがより好ましい。
【0017】
[4]型枠の揺動期間
型枠の揺動期間は、原料スラリーの上面が補強鉄筋の最上部鉄筋を越えた後における一部期間のみでもよいし、この一部期間に加えてその前、後又は前後の所定期間を含んでもよい。
この一部期間は、原料スラリーの上面が補強鉄筋のうちの最上部鉄筋を20mm越えてから発泡終了高さより10mm低い位置に達するまでの期間(本明細書では同期間で揺動による発泡巣抑制作用が最もよく奏されることから「最適期間」という。)から選ばれる30mm以上の範囲の期間であることが好ましい。この最適期間は、原料スラリーが自然発泡するときに発泡巣が成長する期間に対応するものであり、この期間に揺動させることが最も効果的であることから規定している。次に、始期と終期に分けて詳述する。
【0018】
[4−1]最適期間の始期について
発泡巣の生成時期は原料スラリーの配合や発泡終了高さによって相違するが、通常、図1(a)に示すように、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3を超えた後に、その鉄筋3と衝突して潰れた気泡が鉄筋3の真上に発泡巣4を生成し始める。ただし、スラリー2の上面が最上部鉄筋3を20mm越える前の発泡過程では、スラリー2の粘度が低く、スラリー2と共に上昇してくる内部気泡は鉄筋3と接触しても破泡することがないため、発泡巣4が発生しにくい。よって、この段階では、型枠を揺動しても発泡巣抑制の意味が薄い。従って、最適期間の始期は、スラリー2の上面が最上部鉄筋3を20mm越える頃である。
【0019】
[4−2]最適期間の終期について
発泡巣は原料スラリーの凝結の進行、つまりスラリー粘度の上昇に伴って成長する。図1(b)に示すように、スラリー2の上面がさらに上昇すると、最上部鉄筋3周辺のスラリー粘度が上昇し、破泡が進行し、発泡巣4が成長を続ける。図1(c)に示すように、スラリー2の上面が発泡終了高さ(H)に近づく頃には、最上部鉄筋3周辺のスラリー粘度が相当高くなるため、破泡が昂進し、発泡巣4が最上部鉄筋3の上に大きな空隙4aとして形成される。これ以降、スラリー2は比較的長い時間をかけて僅かに上昇し、発泡を終了する。発泡終了間際に型枠を揺動しても、最上部鉄筋3周辺のスラリー粘度は低下しにくいため発泡巣抑制の意味が薄い。従って、最適期間の終期は、スラリー2の上面が発泡終了高さ(H)より10mm低い位置に達する頃である。
【0020】
[4−3]最適期間から選ばれる一部期間の範囲について
上記の最適期間のうちから適宜選ばれる一部期間において型枠を揺動すれば、発泡巣抑制効果が得られるが、その一部期間の範囲(スラリー上面の進行でみた範囲)は30mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがより好ましい。30mm未満の期間でのみ型枠を揺動させると、発泡巣を抑制できる部分のみならず抑制できない部分が生じる傾向となる。一方、同範囲の上限は、スラリーの発泡終了高さが最上部鉄筋からどの程度上位になるかによって制限され、例えば140mm上位になる場合には同範囲を110mmまでで設定できるが、例えば70mm上位になる場合には同範囲は40mmまでとなる。
【0021】
[5]連続的揺動と間欠的揺動
上記一部期間において、型枠を休まず連続的に揺動してもよく、休止時間を設定して間欠的に揺動してもよい。但し、間欠的揺動の場合、該揺動の合計時間は一部期間の50%以上とし、かつ該揺動の一回の休止時間は2分以下とすることが望ましい。この合計揺動時間が50%未満になると、連続的に揺動した場合と比較し、スラリーの凝結が進み、液状化が進行しにくい傾向となる。また、2分を超えて型枠の揺動を休止させると、スラリーの凝結が進み、粘度上昇を抑えにくい傾向となる。
【0022】
[6]補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除するタイミング
上述したように、原料スラリーの発泡終期には、最上部鉄筋の周辺でスラリー粘度が上昇する。この時期に補強鉄筋が型枠に上下方向位置を拘束されていると、原料スラリーが固定状態の最上部鉄筋を通過する過程で該鉄筋の上側に空隙を形成する。例えば、原料スラリーの上面が発泡終了高さより10mm低い位置で揺動を終了した場合、その後の体積膨張に伴い、図1(d)に示すように、最上部鉄筋3の上側に高さ10mm程度の空隙4aが残る。この空隙4aは最上部鉄筋3に沿って走り、完成後のALCパネル1の長さ方向に亀裂状の発泡巣4として内在する。そこで、本発明では、原料スラリーの発泡終期に、補強鉄筋の上下方向位置を拘束する手段(例えば、ロッドピン等の拘束部材)を解除位置に操作し、補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解放し、図1(e)に示すように、最上部鉄筋3の上側における発泡巣4を極力小さくする。
【0023】
補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除するタイミングは、原料スラリーの発泡終期において、スラリー上面が発泡終了高さより30mm〜2mm低い位置に達したときであるのが好ましい。原料スラリーの粘度に着目すると、補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除するタイミングは、スラリー粘度が発泡終了時の粘度の55%〜84%に達したときであるのが好ましい。スラリー上面が発泡終了高さより30mm低い位置よりさらに低い段階、または、スラリー粘度が55%未満の段階では、スラリーによる補強鉄筋の保持力が弱いため、補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除すると、スラリーの揺れに伴い、型枠に対する補強鉄筋の位置がずれてしまう可能性が高くなる。スラリー上面が発泡終了高さより2mm低い位置より高くなった段階、または、スラリー粘度が84%超の段階では、スラリーが補強鉄筋を強固に保持しているため、補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除しても、最上部鉄筋がスラリーの体積膨張に追従できない。このため、補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除するタイミングは、スラリー上面が発泡終了高さより24mm〜4mm低い位置に達したとき、または、スラリー粘度が発泡終了時の粘度の61%〜79%に達したときであるのが、より好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のALCパネルの製造方法によれば、型枠を揺動し、液状化した原料スラリー中に気泡を均一に分布させ、最上部鉄筋との接触による破泡を抑制する。加えて、発泡終期に補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除し、最上部鉄筋をスラリーの体積膨張に追従させて上昇させ、最上部鉄筋の上側における空隙を小さくする。従って、ALC特有の気泡を潰すことなく、発泡巣の生成をタイミングよく抑制し、外観と強度共に優れた商品価値の高いALCパネルを製造できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態のALCパネルの製造方法は、図2に示すように、補強鉄筋11が上下方向位置及び水平方向位置を拘束された型枠10内で原料スラリー2を発泡させ、原料スラリー2の上面が補強鉄筋11の最上部鉄筋3を20mm越えてから発泡終了高さより10mm低い位置に達するまでの最適期間から選ばれる30mm以上の範囲の一部期間を少なくとも含む揺動期間に、型枠10を揺動し、該揺動により原料スラリー2の凝結を遅らせる。加えて、原料スラリー2の上面が発泡終了高さより2mm〜30mm低い位置に達したときに、補強鉄筋11の上下方向位置の拘束を解除し、最上部鉄筋3を原料スラリー2の体積膨張に追従させて上昇させる。もって、最上部鉄筋3の上側における発泡巣の生成を抑制する。
【実施例】
【0026】
次に、上記製造方法を実施例に基づいて詳細に説明する。この実施例では、図3、図4に示すような試験的な型枠10を使用して、三枚のALCパネル1を製造した。型枠10の大きさは、長さ1000mm、幅350mm、高さ700mmである。ALCパネル1の大きさは、長さ840mm、幅600mm、厚さ100mmである。なお、ALCパネル1は長さ方向を横にし、幅方向を縦にして製造される。
【0027】
このパネル1の製造にあたり、まず、型枠10の内側に三組の補強鉄筋11をセットした。各補強鉄筋11は、型枠10の長さ方向へ水平に延びる主筋12と、型枠10の高さ方向(パネル1の幅方向)へ垂直に延びる副筋13とで格子状に組まれた2枚の鉄筋マットが上段と下段の連結筋14で連結され、全体がかご形に構成されている。主筋12、副筋13、連結筋14には、直径5mmの鉄筋が用いられている。
【0028】
図5に示すように、上下段の連結筋14はそれぞれ、2枚の鉄筋マット間に掛け渡される2本の長筋14aと、これにの長筋14aの中間部に掛け渡される2本の短筋14bとにより井桁状に組まれている。上段の連結筋14の2本の短筋14bの間隔はロッドピン15の直径より大きいので、該2本間(井桁中央部内側)にロッドピン15が挿通(遊挿)されている。下段の連結筋14の短筋14bの間隔は、ロッドピン15の直径より小さく、且つ、ロッドピン15の下端から突設された掛止ピン19(ロッドピン15より細い)の直径より大きいので、該2本の上面にロッドピン15の下端部が当接し、該2本間に掛止ピン19が上方から挿通(遊挿)されている。これら上下段の挿通により、補強鉄筋11は水平方向位置が拘束される。掛止ピン19は、2本間を挿通し終えたところで側方へ折曲した掛止部19aとなっている。
【0029】
ロッドピン15の上端はプレート16の挿通孔16aを通って型枠10の上方に突出し、この突出部15cにロッドピン15を回動操作するためのハンドル17が固着されている。プレート16の両端は型枠10の上面に支持され(図3参照)、ロッドピン15がハンドル17によってプレート16の下側に吊り下げられている。ハンドル17の先端には、該ハンドル17を拘束位置に回動したときにプレート16の下面に係止される係止片17aが形成されている。
【0030】
ハンドル17を操作して、ロッドピン15を図5(a)に示す拘束位置に回動したときには、ハンドル17の係止片17aがプレート16の下面に係止されてロッドピン15自体の上昇が止められ、該ロッドピン15の下端部が下段の連結筋14の短筋14bに上方から当接するとともに、掛止ピン19の掛止部19aが該短筋14bの下側に掛止するため、補強鉄筋11が型枠10に対し上下動不能な状態になり、すなわち補強鉄筋11の上下方向位置が拘束される。
【0031】
ハンドル17を操作して、ロッドピン15を図5(b)に示す解除位置に回動したときには(以下、この操作を「ピン返し」と呼ぶ)、ハンドル17の係止片17aがプレート16の下面から外れてロッドピン15自体の上昇が可能になり、掛止ピン19の掛止部19aが短筋14bから外れ、連結筋14がロッドピン15を上下動できるため、補強鉄筋11が型枠10に対し上下動可能な状態になり、すなわち補強鉄筋11の上下方向位置の拘束が解放される。但し、このピン返しを行う発泡終期にはスラリーの粘度が高くなっているので、掛止部19aが短筋14bから外れても、補強鉄筋11が沈むことはなく、もっぱら、補強鉄筋11全体(ひいては最上部鉄筋3)を原料スラリー2の体積膨張に追従させて上昇させることが可能となる。掛止部19aが短筋14bから外すのは、その後にロッドピン15を抜き上げるためである。
【0032】
そして、図4に示すように、複数本のロッドピン15を用いて、三組の補強鉄筋11を等間隔で型枠10の内側に吊り下げた。このとき、原料スラリー2の発泡終了高さを660mm(目標値)に設定し、この高さが主筋12のうちの最上部の鉄筋3より140mm上位となるように、すなわち最上部の鉄筋3が型枠10の底面から520mm高くなるように各補強鉄筋11をセットした。
【0033】
次に、型枠10の内側に原料スラリー2を打設した。以下の比較例、参考例および実施例では、原料スラリー2として、珪石粉末40質量部、セメント15質量部、生石灰粉末10質量部、石膏5質量部、クラスト20質量部、ALCの破砕粉末10質量部からなる固形分に対し、外割で70質量部の水と0.06質量部のアルミニウム粉末(発泡剤)とを添加し、ミキサーで十分に混練したモルタルスラリーを使用した。
【0034】
続いて、補強鉄筋11を上下方向位置及び水平方向位置を拘束した型枠10内で原料スラリー2を発泡させた。この発泡工程では、型枠10を揺動しない比較例1〜5の方法と、型枠10を揺動し発泡終了時にピン返しを行う参考例1〜5の方法と、型枠10を揺動し発泡終期にピン返しを行う実施例1〜4の方法とを適用した。そして、スラリー2の発泡および体積膨張が終了した状態で、型枠10からALC半硬化体2を取り出してピアノ線で切断し、通常のオートクレーブ養生により本硬化させて、三枚のALCパネル1を完成した。
【0035】
<比較例1>
比較例1では、補強鉄筋11をロッドピン15で型枠10内に上下方向位置及び水平方向位置を拘束し(図5a参照)、全発泡期間にわたり型枠10および補強鉄筋11を静止させ、原料スラリー2を自然発泡させた。そして、図6に示すように、発泡期間中に原料スラリー2の発泡高さと強張り(粘度)とを測定した。強張りの測定にあたっては、図7に示すような直径4mm、長さ400mmのアルミ製スケール21を使用し、これを原料スラリー2中に静かに沈下させ、自然に停止したときに、スラリー2の上面より突出する長さを測って貫入値(mm)とした。
【0036】
また、図8(a)に示すように、完成したALCパネル51を幅方向の任意位置で縦方向に切断するとともに、図8(b)に示すように、パネル51の上端部を横方向に切断し、縦断面51aおよび横断面51bにおける発泡巣4の生成状態を観察した。その結果、図8(a)に示すように、縦断面51aには、発泡巣4が最上部鉄筋3から約70mmの高さまで立ち上がっていた。
【0037】
横断面51bについては、図8(b)に示すように、三枚のALCパネル51を最上部鉄筋3からのかぶり高さTが10mm、20mm、30mm、70mmとなるように切断した。そして、切断面に現れた発泡巣4のうち最上部鉄筋3の延伸方向に最も長い発泡巣4の長さXに関し、次の基準に基づいて点数評価した。評価結果を表1に示す。
【0038】
評価基準
X>20mm 4点
20mm≧X>10mm 3点
10mm≧X>5mm 2点
5mm≧X>2mm 1点
発泡巣無し 0点
【0039】
【表1】

【0040】
<参考例1>
参考例1では、図4に示すように、補強鉄筋11をロッドピン15で型枠10に上下方向位置及び水平方向位置を拘束し、型枠10を台車18の上に載せ、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3を越えた後に、台車18と共に型枠10を試験員によって床面上で揺動した。そして、発泡終了時にピン返しを行い、型枠10を外して、三枚のALCパネルを完成した。揺動条件は次の通りである。なお、実際の製造設備では、前述した大型の型枠をローラコンベア等の移動体上に載置し、モータや流体圧シリンダを用いた揺動装置によって駆動することができる。
【0041】
揺動条件
揺動期間:原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3を20mm越えてから発泡終了高さより20mm低い位置に達するまでの期間
揺動時間:揺動期間の100%(約20分間休まず連続的に揺動)
揺動方向:最上部鉄筋3の延伸方向と直角を成す水平方向(型枠10の幅方向)
揺動距離:型枠10の幅寸法の約5%(17.5mm程度)
揺動加速度:0.07m/s2
揺動周期:120サイクル毎分
【0042】
比較例1と同様、原料スラリー2の発泡期間中にスラリー2の発泡高さと強張りとを測定した。測定結果を図9に示す。また、図10に示すように、完成したALCパネル1を縦、横両方向に切断し、縦断面1aと横断面1bにおける発泡巣4の生成状態を観察し、比較例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
参考例1のALCパネル1では、縦断面1aの発泡巣4が三枚のパネル1,2,3共に最上部鉄筋3から25mm以下の長さに収まっていた(図10a参照)。表2に示すように、横断面1bでは、パネル1のかぶり高さ10mmに長さ5〜7mmの発泡巣4が現れ、パネル2,3のかぶり高さ10mmに長さ2,3mmの発泡巣4が散在していた。かぶり高さ20mmでは、パネル1に長さ2,3mmの発泡巣4が現れていたが、パネル2,3には発泡巣4が現れていなかった。かぶり高さ30mmと70mmでは、三枚共に発泡巣4が現れていなかった。表1と表2とを対比すると、型枠10の揺動によって発泡巣4の生成が効果的に抑制されていることが分かる。
【0045】
次に、型枠10の揺動が原料スラリー2に与えた質的な変化を図11、図12に基づいて確認する。図11は、比較例1および参考例1において、原料スラリー2の発泡高さの経時変化を示し、図12は強張りの経時変化を示す。なお、図11、図12では、図6に示す比較例1の測定データと図9に示す参考例1の測定データとを引用した。
【0046】
図11に示すように、原料スラリー2の発泡高さは、比較例1と参考例1とでほぼ同様に変化しており、有意差が見られない。また、原料スラリーの温度変化も比較例1と参考例1とでほぼ同様であった。このことから、型枠10の揺動が原料スラリー2の水和反応に影響を及ぼしていないことが分かる。これに対し、図12に示すように、原料スラリー2の強張りは、貫入値において比較例1と参考例1とで格段の有意差が見られる。
【0047】
参考例1の貫入値は、型枠揺動期間の初期から比較例1よりも緩やかに上昇し、型枠揺動期間の終期で比較例1の貫入値との間に大きな格差を生じる。また、参考例1の貫入値は、型枠10の揺動が終了した直後に上昇を加速し、原料スラリー2の発泡が終了した時点で比較例1と同程度の値を示す。これらのことから、型枠10の揺動が、原料スラリー2の発泡期間およびALC半硬化体の硬度に影響を与えることなく、スラリー2の凝結を一時的に遅らせ、発泡巣4の生成を効果的に抑制できていることが分かる。
【0048】
<参考例2>
参考例2では、参考例1と同じ型枠10と台車18を使用し、ロッドピン15で補強鉄筋11を型枠10に上下方向位置及び水平方向位置を拘束し、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3を越えた後に、図13に示すように、型枠10を参考例1と異なる方向、距離、加速度および周期で揺動し、発泡終了時にピン返しを行い、型枠10を外して、三枚のALCパネルを完成した。そして、完成したALCパネルを参考例1と同様に縦、横両方向に切断し、縦断面と横断面における発泡巣の生成状態を観察評価した。揺動条件を次に示し、評価結果を表3に示す。
【0049】
揺動条件
揺動期間:原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3を20mm越えてから発泡終了高さより20mm低い位置に達するまでの期間
揺動時間:揺動期間の100%(約20分間休まず連続的に揺動)
揺動方向:最上部鉄筋3の延伸方向と一致する方向(型枠10の長さ方向)
揺動距離:型枠10の長さ寸法の約3%(30mm程度)
揺動加速度:0.03m/s2
揺動周期:60サイクル毎分
【0050】
【表3】

【0051】
参考例2のALCパネル1も、参考例1とほぼ同様、パネル縦断面の発泡巣が三枚共に最上部鉄筋から25mm以下の長さに収まっていた。表3に示すように、パネル横断面では、パネル1,3のかぶり高さ10mmに長さ5〜7mmの発泡巣4が現れ、パネル2のかぶり高さ10mmに長さ2,3mmの発泡巣4が散在していた。かぶり高さ20mmでは、パネル1,3に長さ2,3mmの発泡巣4が現れていたが、パネル2には発泡巣4が現れていなかった。かぶり高さ30mmと70mmでは、三枚共に発泡巣が現れていなかった。なお、表2と表3の対比から、型枠10の揺動方向の違いは発泡巣の抑制効果にさほど影響していないことが分かる。
【0052】
<参考例3>
参考例3では、参考例1の揺動条件のうち、揺動時間のみが相違する二通りの方法で型枠10を揺動した。
第一の方法では、合計揺動時間が揺動期間の50%(約10分)となるように、一回で2分未満の揺動休止時間を設定して型枠10を間欠的に揺動した。
第二の方法では、50%以上の合計揺動時間を確保したうえで、一回で2分以上の揺動休止時間を設定して型枠10を間欠的に揺動した。図14は揺動時間の変化が原料スラリー2の強張りに与えた影響を示す。
【0053】
図14から明らかなように、参考例3の第一又は第二の方法のいずれによっても、比較例1と比較すると、貫入値の上昇速度つまり凝結の進度が遅くなる効果がある。但し、参考例3の第一の方法の場合は、連続的に揺動した参考例1と比較すると、貫入値の上昇速度が若干速くなる。参考例3の第二の方法の場合は、特に型枠揺動期間において、貫入値の上昇速度がさらに加速する。従って、発泡巣をより効果的に抑制するためには、型枠10の合計揺動時間が揺動期間の50%以上であり、かつ全揺動期間を通して型枠10の揺動を2分以上継続的に休止させないことが望ましいことが分かる。
【0054】
<参考例4>
参考例4では、参考例1と同じく原料スラリーの発泡終了高さ(目標値)を最上部鉄筋3よりも140mm上位に設定したが、参考例1の揺動条件のうち、揺動期間のみが相違する三通りの方法で型枠10を揺動した。
【0055】
第一の方法では、スラリー上面が最上部鉄筋3よりも0mm〜30mm上方に位置する期間(最上部鉄筋3を超えた直後から発泡終了高さより110mm低い位置に達するまでの期間)に型枠10を揺動した。この場合、図15(a)に示すように、完成品のパネル縦断面1aには、ALC特有の気泡が各部均一に分布していたが、長さ55mmの発泡巣4が生成していた。
【0056】
第二の方法では、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3よりも60mm〜90mm上方に位置する期間(最上部鉄筋3を60mm越えてから発泡終了高さより50mm低い位置に達するまでの期間)に型枠10を揺動した。この場合は、図15(b)に示すように、気泡の状態が良好であり、発泡巣4が40mmの長さに短縮していた。
【0057】
第三の方法では、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3よりも60mm〜120mm上方に位置する期間(最上部鉄筋3を60mm越えてから発泡終了高さより20mm低い位置に達するまでの期間)に型枠10を揺動した。その結果、図15(c)に示すように、気泡の状態も良好であり、発泡巣4も25mmの長さまで短縮していた。
【0058】
このように、発泡終了高さが最上部鉄筋3よりも140mm上位である参考例4においては、スラリーが最上部鉄筋3を20mm超えてから発泡終了高さより10mm低い位置に達するまでの最適期間のうちから選ばれる、30mm以上の範囲の一部期間に型枠10を揺動することで(第二又は第三の方法)、外観と強度共に優れたALCパネル1が得られること、また同範囲は広い方がより好ましいことが確認された。
【0059】
以下の比較例2〜5では、発泡巣を抑制するための従来方法がALC特有の気泡の成長に与える影響について検証し、もって型枠10を揺らす方法の優位性を確認する。
【0060】
<比較例2>
比較例2では、図16(a)に示すように、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3より90mm〜115mm上方に位置する期間に、熊手23を使用してスラリー2の上部を掻き混ぜた。その結果、図16(b)に示すように、発泡巣4は10mm程度の長さに短縮していたが、発泡巣とも云えるほどの多数の粗大気泡6が最上部鉄筋3の上側の広い範囲に拡散していた。これは、掻き混ぜによってALC特有の気泡が潰れた結果であり、商品価値を著しく低下させている。
【0061】
<比較例3>
比較例3では、図17(a)に示すように、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3より30mm程度上方に達した時点で、ジョウロ24で水を散布した。その結果、図17(b)に示すように、パネル縦断面1aに現れる気泡の状態は良好であったが、発泡巣4が比較例1と同じ約70mmの長さに成長していて、抑制効果を確認できなかった。
【0062】
<比較例4>
比較例4では、図18(a)に示すように、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3より30mm〜70mm上方に位置する期間に、ジョウロ24と熊手23とを併用し、スラリー2に散水しつつ掻き混ぜた。その結果、図18(b)に示すように、発泡巣4の長さは約50mmに短くなったが、発泡巣4の上側に高さ30mm程度の無気泡部分7が発生し、さらにその上側に粗大気泡6が散在していた。これは、散水と掻き混ぜの相乗作用によって気泡が広範囲にわたって潰れた結果であり、気泡の見栄えを悪化させている。
【0063】
<比較例5>
比較例5では、図19(a)に示すように、原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3より90mm〜120mm上方に位置する期間に、プレート16上に取り付けたバイブレーター25により加振板26とロッドピン15とを介して補強鉄筋11に約200Hzの振動を与えた。その結果、図19(b)に示すように、気泡の状態はほぼ良好であったが、発泡巣4が65mmと長く、抑制効果を確認できなかった。この発泡巣4の上端部分は、スラリー粘度の上昇に伴って生成した粗大気泡ではなく、バイブレーター25による加振期間中に、最上部鉄筋3を通過したスラリー中の気泡が振動により潰れて形成した粗大気泡である。
【0064】
上記参考例1〜4の揺動による方法は、比較例2〜5とは異なり、発泡過程の原料スラリー2に直接的に接触する手段を使用しない。また、揺動による方法は、生成してしまった発泡巣4を物理的に破壊する方法ではなく、原料スラリー2を揺らすことで発泡巣3の生成を未然に抑制する方法である。従って、ALC特有の気泡を潰すことなく液状化したスラリー中に均一に分布させて、外観の見栄えが優れたALCパネル1を製造することができる。
【0065】
次に、本発明の実施例1〜4を参考例5および比較例6と合わせて説明する。各例では、それぞれ、同じ条件で型枠10を揺動し、異なるタイミングでピン返しを行った。ピン返しのタイミングを図20に示す。また、型枠10の揺動を終了した時点、ピン返しを行った時点、発泡が終了した時点の三点で、原料スラリー2の発泡高さと強張りを測定した。測定結果を表4に示す。そして、完成した三枚のALCパネル1を切断し、縦断面と横断面の発泡巣4を観察し、上記した基準で評価した。評価結果を表5〜表9に示す。
【0066】
図20において、「発泡高さ」は原料スラリー2の発泡終了高さ(0mm)からスラリー上面までの距離を示す。表4において、「発泡高さ」は型枠10の底面からスラリー上面までの高さを示す。図20、表4において「貫入値」は、長さ400mmのスケール21(図7参照)を用いて測定したスラリー粘度を示す。なお、実施例1〜4、参考例5、比較例6では、原料スラリー2の発泡終了高さを670mm(目標値)に設定した。
【0067】
揺動条件
揺動期間:原料スラリー2の上面が最上部鉄筋3を20mm越えてから発泡終了高さより10mm低い位置に達するまでの期間(図2に示す揺動の最適期間)
揺動時間:揺動期間の100%(約24分間休まず連続的に揺動)
揺動方向:最上部鉄筋3の延伸方向と一致する方向(型枠10の長さ方向)
揺動距離:型枠10の長さ寸法の約1%(10mm程度)
揺動加速度:0.05m/s2
揺動周期:40サイクル毎分
【0068】
【表4】

【0069】
<比較例6>
表4、図20に示すように、比較例6では、スラリー上面が発泡終了高さよりも34mm低い位置に達したときにピン返しを行い、型枠10の揺動期間中に補強鉄筋11の上下方向位置の拘束を解除した。このとき、貫入値は184mmであり、発泡終了時の貫入値の51%と低かった。この結果、液状化状態のスラリーと一緒に補強鉄筋11が揺れ、型枠10に対する補強鉄筋11の位置が大きくずれていた。完成したALCパネル1は、発泡巣を評価するまでもなく、商品価値を認めることができなかった。
【0070】
<実施例1>
実施例1では、スラリー上面が発泡終了高さよりも24mm低い位置に達したときにピン返しを行い、型枠10の揺動期間中に補強鉄筋11の上下方向位置の拘束を解除した。このとき、貫入値は220mmであり、発泡終了時の貫入値の61%であった。完成したALCパネル1の縦断面1aには、図1(e)に示すように、発泡巣4が5mm以下の長さに収まっていた。横断面については、表5に示すように、三枚のパネル共に、どのかぶり高さにも発泡巣が現れていなかった。
【0071】
【表5】

【0072】
実施例1では、比較例6よりも遅いタイミングでピン返しを行ったので、最上部鉄筋3の付近でスラリーが液状化していても、それより下位で凝結を進行させ、スラリー全体としての鉄筋保持力を強化することができた。この結果、型枠10の揺動期間中であっても、補強鉄筋11を定位置に保持した状態で型枠10から解放し、最上部鉄筋3をスラリーの体積膨張に追従させて上昇させ、発泡巣4の生成を抑制できた。実施例1と比較例6とを対比すると、ピン返しのタイミングは、スラリー上面が発泡終了高さより30mm低い位置に達した以後、または、スラリー粘度が発泡終了時の粘度の55%(貫入値200mm)に達した以後、であるのが望ましいと云える。
【0073】
実施例1における最上部鉄筋3の上昇について詳述すると、図5(a)の拘束位置からピン返しを行って図5(b)の解除位置にしたところ、補強鉄筋11全体がスラリーの体積膨張に追従させて上昇し、下段の連結筋14の個所で測って3〜4mm上昇した。この上昇に加え、最上部鉄筋3のうち副筋13のスパン間にある部分が、図5(b)に2点鎖線から実線への変化で示すように上方へたわみ変形し、そのたわみ量は3〜4mmであった。従って、最上部鉄筋3は、副筋13との接続部分では3〜4mm上昇し、副筋13のスパン間にある部分ではトータルで6〜8mm上昇した。
【0074】
<実施例2>
実施例2では、ピン返しのタイミングをさらに遅らせ、スラリー上面が発泡終了高さよりも10mm低い位置、つまり型枠10の揺動を終了する位置に達したときに、型枠10に対する補強鉄筋11の上下方向位置の拘束を解除した。このとき、貫入値は248mmであり、発泡終了時の貫入値の69%であった。完成したパネルの縦断面には、実施例1と同様、発泡巣が5mm以下の長さに収まっていた。横断面については、表6に示すように、三枚共にどのかぶり高さにも発泡巣が現れていなかった。
【0075】
【表6】

【0076】
実施例2では、ピン返しのタイミングを揺動終了のタイミングと一致させたので、発泡巣を抑制するための操作を同時に行うことができた。このため、型枠10の揺動およびロッドピン15の回動を自動操作する場合に、ALCパネルの製造工程を容易に管理できる。その他の効果は、実施例1と同じである。
【0077】
<実施例3>
実施例3では、型枠10の揺動を終了した後において、スラリー上面が発泡終了高さよりも4mm低い位置に達したときに、ピン返しを行った。このとき、貫入値は285mmであり、発泡終了時の貫入値の79%であった。完成したパネルの縦断面には、発泡巣が5mm以下の長さに収まっていた。横断面については、表7に示すように、三枚共にどのかぶり高さにも発泡巣が現れていなかった。
【0078】
【表7】

【0079】
実施例3により、ピン返しが揺動終了後のタイミングでも有効であることを確認できた。特に、揺動終了後は、型枠10が静止しているため、補強鉄筋11の全体に位置ずれが生じなかった。また、高粘度状態のスラリーにより補強鉄筋11の全体を強固に保持し、最上部鉄筋のみをスラリーの最終発泡に追従させ、発泡巣をタイミングよく抑制できた。
【0080】
<実施例4>
実施例4では、揺動終了後において、スラリー上面が発泡終了高さよりも2mm低い位置に達したときに、ピン返しを行った。このとき、貫入値は303mmであり、発泡終了時の貫入値の84%であった。完成したパネルの縦断面1aには、図1(d)に示すように、最上部鉄筋3の上側に10mm程度の空隙4aが現れていた。横断面については、表8に示すように、三枚のパネル1,2,3のかぶり高さ10mmに、長さ2,3mmの発泡巣が散在していた。
【0081】
【表8】

【0082】
実施例4により、ピン返しによる発泡巣の抑制効果が発泡終了間際で低下することを確認した。発泡終了間際のスラリーは補強鉄筋11の全体を強固に保持しているため、補強鉄筋11の上下方向位置の拘束を解除しても、最上部鉄筋3がスラリーの体積膨張に追従できない。このことから、ピン返しのタイミングは、スラリー上面が発泡終了高さより2mm低い位置に達する以前、または、スラリー粘度が発泡終了時の粘度の84%(貫入値303mm)に達する以前、であるのが望ましいと云える。
【0083】
<参考例5>
参考例5では、原料スラリーの発泡が終了した時点(図9において、発泡開始から約40分経過した時点)に、ピン返しを行った。このときの貫入値は360mm(100%)であった。完成したパネルの縦断面1aには、参考例2と同様、図10(a)に示すように、最上部鉄筋3の上側に10mm〜25mm程度の発泡巣4が現れていた。横断面についても、参考例2と同様、表9に示すように、かぶり高さ10mmに5〜7mmの発泡巣が現れ、かぶり高さ20mmに2,3mmの発泡巣が散在していた。
【0084】
【表9】

【0085】
参考例5との比較において、実施例1〜4のピン返しによる発泡巣抑制効果を再確認できた。なお、次の表10は、実施例1〜4、参考例5、比較例6のピン返しのタイミングを総合的に評価した結果を示す。
【0086】
【表10】

【0087】
本発明は、上記実施例に限定されるもではなく、以下に例示するように、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更して具体化することも可能である。
(1)補強鉄筋11を型枠10に上下方向位置及び水平方向位置を拘束する手段は、図5に示すロッドピン15に限定されず、型枠10の底面または側面に設けた上下方向位置及び水平方向位置を拘束部材を使用することもできる。
(2)スラリー粘度の測定には、図7に示すスケール21にかえ、毛管粘度計等を使用できる。複数の粘度計を用いて、原料スラリーの複数個所の粘度を測定してもよい。
(3)型枠10を揺動する期間は、参考例および実施例の期間に限定されず、原料スラリー2の配合に対応して、スラリー上面が最上部鉄筋3を越えた後から発泡終了高さに達するまでの任意の期間に設定することができる。
(4)型枠10の揺動装置には、往復回動する回転テーブルなども使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】ALCパネルにおける発泡巣の生成メカニズムを説明する模式図である。
【図2】本発明によるパネル製造方法の概要を示す型枠の断面図である。
【図3】本発明の実施例に使用する型枠とALCパネルを示す斜視図である。
【図4】内部に補強鉄筋がセットされた型枠の縦断面図である。
【図5】補強鉄筋を型枠に上下方向位置及び水平方向位置を拘束するロッドピンを示す斜視図である。
【図6】比較例1において原料スラリーの発泡高さと強張りを示すグラフである。
【図7】スラリーの強張りを測定する方法を示す型枠の縦断面図である。
【図8】比較例1の方法を評価するALCパネルの斜視図である。
【図9】参考例1において原料スラリーの発泡高さと強張りを示すグラフである。
【図10】参考例1の方法を評価するALCパネルの斜視図である。
【図11】参考例1の方法を評価するスラリーの発泡高さ変化を示すグラフである。
【図12】参考例1の方法を評価するスラリーの強張り変化を示すグラフである。
【図13】参考例2の方法を示す型枠の正面図である。
【図14】参考例3の方法を評価するグラフである。
【図15】参考例4の方法を示すパネルの縦断面図である。
【図16】比較例2の方法を示す型枠とパネルの縦断面図である。
【図17】比較例3の方法を示す型枠とパネルの縦断面図である。
【図18】比較例4の方法を示す型枠とパネルの縦断面図である。
【図19】比較例5の方法を示す型枠とパネルの縦断面図である。
【図20】実施例1〜4の方法においてピン返しのタイミングを示す立面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 ALCパネル
2 原料スラリー
3 最上部鉄筋
4 発泡巣
10 型枠
11 補強鉄筋
15 ロッドピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強鉄筋が上下方向位置及び水平方向位置を拘束された型枠内で原料スラリーを発泡させ、原料スラリーの上面が補強鉄筋の最上部鉄筋を越えた後における一部期間を少なくとも含む揺動期間に、型枠を揺動し、該揺動により原料スラリーの凝結を遅らせることに加え、原料スラリーの発泡終期に補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除し、最上部鉄筋を原料スラリーの体積膨張に追従させて上昇させることにより、最上部鉄筋の上側における発泡巣の生成を抑制することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。
【請求項2】
前記一部期間が、原料スラリーの上面が最上部鉄筋を20mm越えてから発泡終了高さより10mm低い位置に達するまでの最適期間から選ばれる30mm以上の範囲の期間である請求項1記載の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。
【請求項3】
前記補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除するタイミングが、原料スラリーの上面が発泡終了高さより2mm〜30mm低い位置に達したときである請求項1又は2記載の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。
【請求項4】
前記補強鉄筋の上下方向位置の拘束を解除するタイミングが、原料スラリーの粘度が発泡終了時の粘度の55%〜84%に達したときである請求項1又は2記載の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−107274(P2009−107274A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283730(P2007−283730)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】