説明

軽量気泡コンクリート板用膨張セメント系目地材

【課題】軽量気泡コンクリート板(ALC)を用いた床板施工において、目地材注入面下地処理を従来の一回実施条件下でALCと目地材との界面における隙間発生を防止し、ALCの剛性、遮音最大性能を生かしつつ、ALCの乾燥収縮と目地材の長さ変化を合成した応力を低減させ、長期的隙間発生防止、現行施工期間の維持しうる目地材を提供する。
【解決手段】従来の、骨材、セメント、保水剤、水からなる目地材に、膨張剤と増泡剤と水溶性樹脂、さらには石膏を特定量加えて用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリート板、特に床板の施工に使用する膨張セメント系目地材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量気泡コンクリート板(ALC)の床板目地には目地材として骨材、普通セメント、保水剤、水からなる普通モルタルが使用されている。また、係る目地材においては、ALCと普通モルタルの接着性向上、ALCの吸水防止のための普通モルタル注入面下地処理(以下、「ALC小口処理」と記す)を行っているが、その効果は十分ではなく、モルタル充填初期、ALCに普通モルタルの水分が吸収されることによる乾燥収縮、さらに普通モルタル外気接触面からの水分蒸発による乾燥収縮、セメント硬化による硬化収縮により、ALCと普通モルタルとの界面において、普通モルタル外気接触面部分から隙間が発生進行する。特許文献1には施工が容易なプレキャストパネルの目地充填材が開示されているが、係る目地充填材も上記普通モルタルと同様にALCと目地充填材との界面に隙間が発生する。また、特許文献2には低収縮セメント組成物が開示されている。しかしながら該低収縮セメント組成物を目地材として使用した場合も、上記普通モルタルと同様にALCと低収縮セメント組成物との界面に隙間が生じる。また、低収縮セメント組成物の膨張剤を増量して膨張量を大きくし、ALCと低収縮セメント組成物の隙間を防止すると、低収縮セメント組成物の膨張応力がALCの圧縮強度よりも大きな応力となりALCが破壊されてしまう恐れがある。
【0003】
また、従来の技術ではALC小口処理を一回で完了しているため、ほとんどの床板目地にはALCと普通モルタルとの界面に隙間が発生している。このことにより、床そのものの剛性、遮音性が低減し、ALCの剛性、遮音最大性能を生かしきれていない。前記性能を最大限に生かすために、ALC小口処理を数回繰り返し、ALCによる普通モルタル水分の移動を防止して、ALCと普通モルタルとの界面における隙間発生を防止する工法が行われているが、ALC小口処理に掛かる工期の延長、作業工数の増加によるコストアップにつながる。また、隙間発生防止策として、普通モルタル施工後、普通モルタルの水分蒸発を低減させ、普通モルタル自体の乾燥収縮量を抑えるシートかけ養生も行われているが、普通モルタルの硬化に時間が掛かり工期の延長になる。さらに、上記2方式ではALCの乾燥収縮と普通モルタル自体の乾燥収縮が合成し、ALCと普通モルタル界面の接着力よりも大きな応力になる場合があり、初期の隙間発生防止はできるものの長期的にはALCと普通モルタルとの界面に隙間が発生し、ALCの剛性、遮音最大性能を維持できていない。
【0004】
【特許文献1】特開平6−263493号公報
【特許文献2】特開平4−214057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ALC小口処理を従来の一回実施条件下でALCと目地材との界面における隙間発生を防止し、ALCの剛性、遮音最大性能を生かしつつ、ALCの乾燥収縮と目地材の長さ変化を合成した応力を低減させ、長期的隙間発生防止、現行施工期間の維持を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、
(a)骨材:100重量部
(b)ポルトランドセメント:36〜41重量部
(c)膨張剤:0.7〜4重量部
(d)増泡剤:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(e)水溶性樹脂:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(f)保水剤:(b)100重量部に対して0.1〜0.3重量部
(g)水:10〜25重量部
を含有することを特徴とするALC用膨張セメント系目地材である。
【0007】
本発明の第2は、
(a)骨材:100重量部
(b)ポルトランドセメント:36〜41重量部
(c)膨張剤:0.7〜4重量部
(e)水溶性樹脂:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(f)保水剤:(b)100重量部に対して0.2〜0.5重量部
(g)水:10〜25重量部
を含有することを特徴とするALC用膨張セメント系目地材である。
【0008】
また、本発明第1及び第2の目地材においては、それぞれ(c)100重量部に対して1〜3重量部の(h)石膏を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ALCの剛性、遮音最大性能を低下させることなく良好な目地を形成することができる。また本発明の目地材を用いて目地を形成したALC床板構造においては、ALCの乾燥収縮と充填モルタルの長さ変化を合成した引っ張り残存応力を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の目地材は、セメント添加剤にて目地材中の水の移動を阻害させることで該目地材の初期の乾燥収縮を低減し、初期のALCと目地材との界面における隙間発生を防止する。また、該目地材を膨張させることで、ALCと目地材の乾燥収縮合成応力を低下させ、長期的なALCと目地材との界面における隙間発生を防止する。
【0011】
本発明について、以下に具体的に説明する。
【0012】
本発明第1及び第2の目地材において共通する構成要件は以下の通りである。
(a)骨材:100重量部
(b)ポルトランドセメント:36〜41重量部
(c)膨張剤:0.7〜4重量部
(e)水溶性樹脂:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(g)水:10〜25重量部
【0013】
本発明第1の目地材においては、上記構成にさらに、
(d)増泡剤:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(f)保水剤:(b)100重量部に対して0.1〜0.3重量部
を加え、第2の目地材においては、上記構成にさらに、
(f)保水剤:(b)100重量部に対して0.2〜0.5重量部
を加える。
【0014】
各構成成分について説明する。
【0015】
(a)骨材としては、公知の細骨材、粗骨材、砕砂、砕石等を使用できる。好ましくは細骨材である。
【0016】
(b)原料セメントとしては、特に限定せず、公知の各種のポルトランド系セメントを用いることができる。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどが挙げられる。係るセメントは(a)骨材100重量部に対して36〜41重量部用いる。
【0017】
(c)膨張剤としては、生石灰及びカルシウムサルホアミネートのいずれでも良い。添加量は、ALC目地形状を考慮することが必要で、本発明においては、(a)骨材100重量部に対して0.7〜4重量部用いられるが、現行のALC目地形状では1〜2重量部が最も好ましい。添加量が4重量部を超えると過剰膨張によりALC目地部が破壊され易くなってしまい、また、0.7重量部未満では膨張効果が十分に得られず、いずれも好ましくない。
【0018】
(d)増泡剤としては、目地材の混練時、微細気泡を発生することが重要で、該微細気泡が目地材中の水分の移動を阻害し、ALCによる水分の吸水を低下させる効果がある。但し、気泡混入による比重低下で目地強度は低下する。使用される増泡剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤いずれでも良い。係る増泡剤は(b)セメントと(c)膨張剤との合計量100重量部に対して0.5〜3.0重量部用いる。増泡剤の添加量が0.5重量部未満の場合には、十分な気泡が得られず、3.0重量部を超えると微細気泡が過剰に発生してALC圧縮強度よりも目地材の圧縮強度が低い値となり、いずれも好ましくない。
【0019】
(e)水溶性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を使用できる。水溶性樹脂を添加することで、ALC面と目地材面の接着力を増加させる効果及び目地材自体の亀裂を防止する効果がある。係る水溶性樹脂は(b)セメントと(c)膨張剤との合計量100重量部に対して0.5〜3.0重量部用いる。水溶性樹脂の添加量が0.5重量部未満では添加効果が不十分であり、3.0重量部を超えると目地部の表面に水溶性樹脂成分がしみ出し、水溶性樹脂添加効果が低下するため、いずれも好ましくない。
【0020】
(f)保水剤としては、市販のメチルセルロースが好ましく使用される。係る保水剤を第1の目地材においては(b)セメント100重量部に対して0.1〜0.3重量部添加し、第2の目地材においては(b)セメント100重量部に対して0.2〜0.5重量部添加する。第1の目地材と第2の目地材において添加量が異なる理由は増泡剤の有無である。第1の目地材では増泡剤効果により初期のALCと目地材との界面での隙間発生を防止しているが、第2の目地材ではこの効果を保水剤増量で補うものである。第1、第2の目地材のそれぞれにおいて、保水剤の添加量が上記範囲未満の場合にはALCと目地材との界面での隙間発生を低減することができず、また、上記範囲を超える場合にもALCと目地材との界面での隙間発生量が増加する傾向があり、いずれも好ましくない。
【0021】
本発明の目地材は、上記成分に水を加えて用いる。水の添加量は(a)骨材100重量部に対して10〜25重量部である。水の添加量が10重量部未満の場合には充填モルタルの流動性が低下し作業性が著しく困難となり、25重量部を超えるとALCパネル突き合わせ部分から水分がしみ出し、ひいては乾燥収縮が大きくなるため隙間発生量が増加することとなり、いずれも好ましくない。
【0022】
また、本発明においては、上記成分にさらに、(h)石膏を加えて用いることができる。
【0023】
(h)石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏いずれでも良いが、好ましくは二水石膏である。石膏を添加することで、石灰の水和反応を遅延させ、目地材未硬化時の膨張を抑える効果を得る。目地材未硬化時に石灰を膨張させると、目地材上部露出面に膨張応力が逃げてしまい、ALCに膨張応力を伝達する量が低下する。よって、石灰の膨張を遅延させることにより目地材の硬化を進行させた後、石灰の膨張が起こることで、ALCへの膨張応力伝達を多くする効果がある。係る石膏の添加量は、(c)膨張剤100重量部に対して1〜3重量部である。石膏の添加量が1重量部未満では上記遅延効果が十分に得られず、3重量部を超えて添加しても遅延効果の増加はなく、いずれも好ましくない。
【実施例】
【0024】
表1に示す砕石を骨材として用い、表2に示す配合割合で実施例1,2及び比較例1の目地材を用意した。比較例1の目地材は、従来の普通モルタルに相当する。
【0025】
セメントは市販の普通ポルトランドセメント(宇部三菱社製)、膨張剤は石灰系の生石灰、増泡剤は陰イオン界面活性剤、水溶性樹脂はエチレン−酢酸ビニル系樹脂、保水剤は市販のメチルセルロース(信越社製)、石膏は二水石膏を用いた。これら原料を表2に示す割合で水と混合して目地材とした。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
上記の様に調合された実施例1、比較例1の目地材を40mm×40mm×160mm鉄製型枠に詰め、押し棒を用い締め硬めを行った。続いて半日間硬化するのを待ち、脱型し各サンプルに歪みゲージ(東京測器研究所社製)を添付し、温度20℃、湿度60%雰囲気下の室内に静置して長さ変化を測定した。それらの結果を図1に記載する。加えて、28日硬化後、圧縮強度を測定した。結果を表3に記載する。圧縮強度の測定方法は以下の通りである。
【0029】
〔圧縮強度〕
40mm×40mm×160mmの試料を用い、載荷速度1mm/minで圧縮した強度を以下の計算式にて算出した。
【0030】
圧縮強度(N/mm2)=最大荷重(N)/断面積(mm2
【0031】
【表3】

【0032】
実施例1と比較例1の目地材の長さ変化は、図1が示す通り、比較例1の収縮が大きいことが判る。また、圧縮強度は比較例1に対し実施例1が低下して強度的には悪化しているものの、ALCよりも強度が高いため、ALC用目地材として問題は無いことがわかった。
【0033】
さらに、温度20℃、湿度60%雰囲気下の室内に静置して、含水率調整を行ったALC板2枚を図2に示すように端部同士突き合わせ、防水及び接着向上させるALC小口処理を隙間が発生しない様に数回繰り返し、ALC表面に歪みゲージの中央部と目地材1の露出面側端部との距離が15mmとなるように歪みゲージを添付した。次いで目地となる個所に上記実施例1及び比較例1の目地材を詰め、乾燥収縮によるALC歪み残存量をそれぞれゲージより読み取って測定した。結果を表4に記載する。
【0034】
【表4】

【0035】
表4に示す通り、実施例1の目地材ではALC歪みが負であるので、ALCには圧縮歪みが残存しており、比較例1ではALC歪みが正であるので、ALCには引っ張り歪みが残存している。このことより、ALCと比較例1の目地材との界面が密着している場合、前記残存歪みとALC乾燥収縮が合一されるため、ALCと比較例1の目地材との界面では接着維持限界強度に近い状態となり、ALCに若干外力が加わることで、容易に界面に隙間を生じさせることにつながる。しかしながら、実施例1の目地材では、ALCに圧縮歪みが残存しているので、最大乾燥収縮(飽水状態から気乾状態のALC歪み)を合一しても、ALCと実施例1の目地材との界面では接着維持限界強度に近い状態にはならないので、ALCに若干外力が加わっても隙間が発生することはない。
【0036】
続いて、従来施工している条件下でのALCを用い、ALCに対する各例の目地材の影響を確認した。ALCの小口処理を現行方法で行い、ALC表面に歪みゲージを詰め部分から15mm部分に複数枚添付し、実施例1,2、比較例1の各目地材を目地となる個所に詰め込み、1ヶ月硬化させた後、ALC歪み残存量を測定した。結果を表5に記載する。
【0037】
【表5】

【0038】
表5に示すように、実施例1、実施例2の目地材では、ALCにほぼ同等の圧縮応力が残存していることを確認した。比較例1の目地材ではALCへの影響はなくALCの歪みは確認されなかった。これは、ALCと比較例1の目地材との界面に隙間が発生しているため、ALCの歪みが解放されたためである。
【0039】
さらに、ALCと実施例1、実施例2、比較例1の各目地材との界面の隙間を確認するため、ALCを図2の様に目地方向垂直に切断し、切断面のALCと実施例1、実施例2、比較例1の各目地材との界面部分を観察した。図2中、1は目地材、2はALC、a,a’,b,b’はALC2と目地材1との界面である。その結果、実施例1の目地材ではALCと目地材との界面に隙間が発生せず、図2中のa面、a’面が密着していることを確認した。また、比較例1の目地材では、図2中のALCと目地材との界面(a面、a’面)切断ラインを10割とし、ALCと目地材との界面に隙間が発生している長さを測定すると約8割であることを確認した。また、同様にして、実施例2の目地材では、約2割であることを確認した。
【0040】
本発明第1の目地材で使用する増泡剤には、ALC吸水による目地材中の水分の移動を阻害し、詰め込み初期の乾燥収縮を抑える効果があり、実施例1の目地材で示されるように、ALCと目地材との界面における初期の隙間発生を防止することができる。
【0041】
また、本発明第2の目地材では、実施例2に示されるように、保水剤を増量することでALCの吸水を防止し、ALCと目地材との界面に発生する隙間を約2割まで低減することができる事を確認した。本発明第2の目地材では、ALCと目地材との界面において初期に発生する隙間を完全に防止することはできないものの、表3に示す通り、目地自体の強度が高く、剛性、遮音性向上に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1、比較例1の目地材の経時的長さ変化を示す図である。
【図2】本発明の実施例において形成した目地形状を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 目地材
2 ALC
a,a’,b,b’ 目地材とALCとの界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)骨材:100重量部
(b)ポルトランドセメント:36〜41重量部
(c)膨張剤:0.7〜4重量部
(d)増泡剤:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(e)水溶性樹脂:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(f)保水剤:(b)100重量部に対して0.1〜0.3重量部
(g)水:10〜25重量部
を含有することを特徴とする軽量気泡コンクリート板用膨張セメント系目地材。
【請求項2】
さらに、(h)石膏:(c)100重量部に対して1〜3重量部を含有する請求項1に記載の軽量気泡コンクリート板用膨張セメント系目地材。
【請求項3】
(a)骨材:100重量部
(b)ポルトランドセメント:36〜41重量部
(c)膨張剤:0.7〜4重量部
(e)水溶性樹脂:(b)+(c)の合計100重量部に対して0.5〜3.0重量部
(f)保水剤:(b)100重量部に対して0.2〜0.5重量部
(g)水:10〜25重量部
を含有することを特徴とする軽量気泡コンクリート板用膨張セメント系目地材。
【請求項4】
さらに、(h)石膏:(c)100重量部に対して1〜3重量部を含有する請求項3に記載の軽量気泡コンクリート板用膨張セメント系目地材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−50177(P2008−50177A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225071(P2006−225071)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】