軽金属平板の補強壁構造
【課題】小規模建物を主な対象とする耐震補強壁として、金属平板の板厚を極めて薄くし且つ材料強度の低いアルミニウム合金等の軽金属材料を利用することを考え、せん断降伏荷重を確保して降伏後も荷重が下がることなく安定的な力学挙動となるようにする。
【解決手段】本発明の補強金属壁板は、表裏二枚の薄い金属平板2の間に平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4を挟んで一体とする複層金属平板1とし、補強のため周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で添接する額縁状の金属枠組み3を前記金属平板2の外側(a)乃至内側(b)に配し、表裏両面の金属平板2を面的に補剛して金属平板のせん断座屈荷重を上げるとともにせん断降伏後の塑性変形能力を高めている。
【解決手段】本発明の補強金属壁板は、表裏二枚の薄い金属平板2の間に平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4を挟んで一体とする複層金属平板1とし、補強のため周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で添接する額縁状の金属枠組み3を前記金属平板2の外側(a)乃至内側(b)に配し、表裏両面の金属平板2を面的に補剛して金属平板のせん断座屈荷重を上げるとともにせん断降伏後の塑性変形能力を高めている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ないし耐震を目的とする補強壁構造で、主にせん断力を受ける軽金属平板について弾性領域での早期のせん断座屈発生を回避してせん断降伏荷重を確保するとともに降伏後の変形に伴う荷重の低下を防ぎ、軽金属平板の塑性変形能力を高めることを意図した補強壁構造に関するものである。
【0002】
本発明の補強壁構造は、小規模建物を主な対象とするために壁板一枚当たりのせん断耐力を低く抑える必要があり、金属平板の板厚を極めて薄くし且つ材料強度の低いアルミニウム合金等の利用を考えており、こうした剛性・強度の低い金属材料に対しせん断降伏荷重の確保と安定した座屈後挙動が得られるようにすることである。
【背景技術】
【0003】
壁板として要求されるせん断耐力を満たし且つ降伏以降の耐力が安定的に推移するようにした壁板として、金属板に多数の小孔を設けたり複数のスリットを平行に設けたりしたものや、壁板と建物骨組みとの周辺部隙間に変形吸収層を設け制振機能を付与した補強壁構造や、壁板と建物骨組みとの取付け方法を工夫した制振ないし耐震を目的とする補強壁構造等がある。
【0004】
この他、木造住宅等小規模建物の耐震補強壁として、補強壁のせん断強度を低く押さえるために軽金属材料を利用したものもあり、アルミニウム発泡体を免震材とする壁板や粘弾性材料から成る制振用板材を挿んでアルミニウム合金の波板を層状に重ねた補強壁等がある。
【特許文献1】特開平11−247351 公開特許公報
【特許文献2】特開2002−67217 公開特許公報
【特許文献3】特開2002−235379 公開特許公報
【特許文献4】特開2003−314083 公開特許公報
【特許文献5】特開2004−124605 公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、せん断力を受ける金属平板に対して板厚を出来る限り薄くし且つ剛性,強度の低いアルミニウム合金等の金属材料を利用出来るようにすることで、弾性領域でのせん断座屈発生を回避してせん断降伏荷重を確保し更にせん断降伏後の荷重低下を防いで塑性変形能力を高め、簡単で有効な補強構造による小規模建物等に対する軽量で安価な耐震補強壁を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
主にせん断力を受ける補強壁板に対し、薄い二枚の金属平板を平行に配置しその内部略全面に平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体を挿んで複層に構成し且つ補強のため周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で構成する額縁状の金属枠組みを設け、これらを一体とする複層金属平板として表裏面の薄い金属平板がせん断荷重に対し安定した力学挙動となることを意図している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の補強壁構造は、複層金属平板とすることで表裏面の薄い金属平板が前記中間層により面的に座屈補剛されてせん断座屈荷重が高くなり、加えて周辺を取り囲む額縁状帯板の曲げ剛性及びサンブナン捩り剛性の効果で座屈波形の成長が抑止され降伏以降もせん断耐力の安定的な維持が可能となる。
【0008】
本発明の補強金属壁板は、表裏金属平板を面的に拘束することにより極めて薄い板厚で且つ剛性の低い軽金属材料を利用でき、しかも金属平板に特別な加工を必要とせず中小建物の制振ないし耐震補強壁として有効である。加えて中間層を構成する材料についても一般的に利用されている紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体が使える等安価に製作でき、又壁板として軽量であり小規模建物の工事に於ける取り扱いも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の補強金属壁板として図1(a)に代表的な形態の一例を示しているが、薄い軽金属平板2を表裏に平行に配し且つ略全面に亘り平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4を挿入して前記金属平板2と一体とし、更にその周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で構成する額縁状の金属枠組み3を表裏金属平板の片側面又は両側面に添接して補強する構造である。
【0010】
本発明の補強金属壁板として図1(b)に代表的な形態の他の一例を示したが、表裏金属平板2の周辺部内側に額縁状枠組み3を配し且つその内部略全面に平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4を挿入し一体とした複層金属平板で、周辺部枠組みを構成する帯状金属板3を前記中間層と同じ板厚とする補強壁構造である。
【実施例1】
【0011】
図2は、本補強金属壁板の力学的性能を確認するための説明図で、(a)図は大きさ1,800mmx900mmの壁板と周辺部枠組みに加わるせん断力Qの作用図で、又(b)図は壁板周辺の補強枠断面図で上から枠のない場合,表裏金属平板にはさまれた枠,各面別々に添接された枠,一方の面にのみ添接された枠である。以下で示す実施例は木造住宅等小規模建物の耐震補強壁として壁板の大きさを固定し且つ一枚の壁板のせん断耐力を略Q=10kN乃至それ以下としたが、本発明の補強壁構造はこれだけに限定するものではない。
【0012】
図3は、前記大きさの複層金属平板について中間層の厚さTmmと弾性せん断座屈荷重τcrとの関係を示したものであるが、発泡体の剛性により若干差はあるものの層が少し厚くなるだけで弾性せん断座屈荷重が大幅に上がる。ヤング係数E=6000kN/cm2の金属材料に対してヤング係数E=3kN/cm2の発泡体はもとよりそれを下回る軟質の発泡体でも十分機能し、本補強構造とすることで弾性せん断座屈を回避し降伏点荷重を確保することが可能になる。
【0013】
図4は、3mm厚の発泡体平板と90mmx3mmの帯板による周辺枠組みとで構成する中間層に0.5mm板厚の表裏金属平板を添接した壁板で、金属材料は非調質アルミニウム合金1050−Oとし、中間層が軟質の発泡体を想定したE=0.5kN/cm2と硬いゴム体を想定したE=15kN/cm2の場合の解析結果である。△印,○印で示す周辺枠がない場合の結果から何れの場合も最大耐力後に耐力は低下するが、▲印,●印で示す周辺枠組みを配した場合の二つの結果は耐力が安定的に維持されていることから、金属平板への周辺枠組みの補強効果が大きいことが判る。
【0014】
図5は、前記解析例と同じ壁板について周辺部の枠組みの効果を見たもので、厚さ3mmの中間層はヤング係数E=3kN/cm2の発泡体としている。枠組みだけの金属平板では+印で示す結果となり降伏耐力の確保には中間層の発泡体が重要であるが、○印等で示すように枠の断面が45mmx3mm,60mmx3mm,90mmx3mmと大きくなるに伴って降伏後のせん断耐力は順次安定して行き、降伏以降耐力を維持し続けるためには周辺枠の存在は極めて重要でありしかもその帯板幅を適正な大きさにすることが必要であることが判る。
【0015】
図6は、壁板を構成する周辺部枠組みが表裏金属平板の両側外面及び片側外面にのみ添接された場合の解析結果であるが、両側外面に90mmx1.5mmの帯板で非調質アルミニウム合金1050−Oとした場合を○印で示し、帯板を6063−Oと強度を上げて板厚を薄く両側外面に90mmx0.5mmとした場合を◇印,片側外面にのみ90mmx1.5mmとした場合を◆印で示したが、何れも降伏後の耐力維持に効果があることが判る。
【実施例2】
【0016】
図7は、表裏金属平板2がはさむ中間層が紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体の平板4であることは前例と同じであるが、周辺枠組みである帯板3が表裏金属平板2の一方にのみ添接され他方とは縁が切られた場合であり、加わるせん断力は枠組みが添接された側の金属平板に偏ることが想定されるものの、表裏両面の板厚を意図的に変えたり周辺枠の形状,寸法を必要に応じて選べることもあってせん断降伏耐力の確保及びその後の耐力維持が図られるならば有効な補強構造となりうる。
【0017】
図8は、1,800mmx900mmの壁板に周辺枠を90mmx3mmとし、表裏金属平板の一方が1.0mm板厚で他方側の補剛板が0.3mm板厚とする場合を●印で示したが、○印の補剛平板のない場合の結果と比較して見れば耐力,変形能力に於ける差異は顕著である。なお、補剛側の金属平板に力が伝達し難くするため発泡体のヤング係数はE=0.5kN/cm2としており、又アルミニウム合金材料と接触しないため補剛平板を板厚0.03mmのSUS304ステンレス鋼とした結果も+印で示している。
【実施例3】
【0018】
図9は、既存木造建物の耐震補強壁を意図し建物への取り付けを並行する柱面だけとする補強壁板で、両側長手方向の枠組み3は表裏金属平板2の内側に配して平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4と共に中間層を構成し、短手方向の枠組みである帯板3は上下両端位置での面外への変形を阻止すべく金属平板2の片側外面に添接しているものであるが、図で示す帯板以外に壁面外へ突出した部材断面とすることは効果的である。
【0019】
図10(a)は、既存木造建物の木枠5の柱面に前記壁板を取り付けた外観を示しているが、両側の柱見付け面にのみに釘,ネジ等で止めつけ地震せん断力に対処しようとするものである。又(b)図は開口部下の半面に取り付けた場合を示したが、小規模な建物工事に於いては取り扱いの容易さから前記壁板二枚で全面を覆うことも考えられ、その際には上下の壁板同士で座屈変形を拘束しあうよう工夫することは有効である。
【0020】
図11は、壁板が1,620mmx900mmで層厚2mmの解析結果であるが、上下補強材が壁板の塑性化が進む過程で弾性剛性を保つことが重要な要件であるため補強材を6063−T6とし、外側に添接する帯板が90mmx4mmの場合が○印であり60mmx6mmと面外への剛性を上げた場合が●印である。又壁板の内側へ枠組みを設けた場合は面外剛性を確保するため中間層の厚さを4mmとしたが、周辺枠の断面が大きく表裏面板厚を0.35mmと薄くして壁板のせん断耐力を同程度とした結果が□印である。
【0021】
木造住宅等小規模建物の耐震補強壁は900mm幅一枚当たりのせん断耐力は10kN前後乃至それ以下が要求され、アルミニウム合金材料の中で純アルミニウム金属に近い1000番台〜3000番台の非調質アルミニウム合金が強度も低く現時点での最適なものと考えられる。図12は前記非調質アルミニウム合金材料の応力−歪み関係図を示しているがそれら弾性ヤング係数は略E=6000kN/cm2であり、構造材料であるアルミニウム合金5083−O,6063−T6との比較のなかで示している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
せん断力を受ける薄い金属平板による本発明の補強壁構造は、表裏二面に配した金属平板と中間層を平板状の木質体,ゴム体,各種発泡体とする複層金属平板で、表裏の軽金属平板は一定板厚の平板でよく敢えて特別の加工を施した金属平板としたり特殊な金属素材である必要はなく、又前記中間層を構成する材料は一般的に多用されておりその調達も容易且つ安価なものである。
【0023】
本発明の補強構造によれば極めて薄く且つ剛性・強度の低い軽金属平板に対してもせん断座屈荷重を上げてせん断降伏荷重を確保し、又周辺の帯板状枠組みを設けるだけの簡単な構成により降伏以降の座屈波形の成長に対してもせん断荷重の低下を回避でき、小規模建物に対する制振乃至耐震の構造壁として有効であって幅広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の補強金属壁板の構造詳細を示す斜視図である。
【図2】壁板へのせん断力の作用図と周辺枠組みの説明図である。(実施例1)
【図3】複層金属平板の厚さと弾性せん断座屈荷重の関係図である。
【図4】本補強構造の発泡体の剛性を検証する解析結果の説明図である。
【図5】本補強構造の内部周辺枠の効果を検証する解析結果の説明図である。
【図6】本補強構造の外部周辺枠の効果を検証する解析結果の説明図である。
【図7】本発明の壁板で表裏金属板の力分担を異にする構造図である。(実施例2)
【図8】前記本補強構造に関する解析結果の説明図である。
【図9】本補強構造の壁板として枠組み配置を異にする組立図である。(実施例3)
【図10】前記構造壁の既存木造建物への取付け説明図である。
【図11】本補強壁に並行してせん断力が作用した解析結果の説明図である。
【図12】本数値解析で扱った金属材料の応力−歪み関係図である。
【符号の説明】
【0025】
1 複層金属平板とする補強壁
2 表裏両面を構成する金属平板
3 帯板等で構成する周辺枠組み
4 中間層を構成する発泡体等
5 木造建物の柱・梁軸組み
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ないし耐震を目的とする補強壁構造で、主にせん断力を受ける軽金属平板について弾性領域での早期のせん断座屈発生を回避してせん断降伏荷重を確保するとともに降伏後の変形に伴う荷重の低下を防ぎ、軽金属平板の塑性変形能力を高めることを意図した補強壁構造に関するものである。
【0002】
本発明の補強壁構造は、小規模建物を主な対象とするために壁板一枚当たりのせん断耐力を低く抑える必要があり、金属平板の板厚を極めて薄くし且つ材料強度の低いアルミニウム合金等の利用を考えており、こうした剛性・強度の低い金属材料に対しせん断降伏荷重の確保と安定した座屈後挙動が得られるようにすることである。
【背景技術】
【0003】
壁板として要求されるせん断耐力を満たし且つ降伏以降の耐力が安定的に推移するようにした壁板として、金属板に多数の小孔を設けたり複数のスリットを平行に設けたりしたものや、壁板と建物骨組みとの周辺部隙間に変形吸収層を設け制振機能を付与した補強壁構造や、壁板と建物骨組みとの取付け方法を工夫した制振ないし耐震を目的とする補強壁構造等がある。
【0004】
この他、木造住宅等小規模建物の耐震補強壁として、補強壁のせん断強度を低く押さえるために軽金属材料を利用したものもあり、アルミニウム発泡体を免震材とする壁板や粘弾性材料から成る制振用板材を挿んでアルミニウム合金の波板を層状に重ねた補強壁等がある。
【特許文献1】特開平11−247351 公開特許公報
【特許文献2】特開2002−67217 公開特許公報
【特許文献3】特開2002−235379 公開特許公報
【特許文献4】特開2003−314083 公開特許公報
【特許文献5】特開2004−124605 公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、せん断力を受ける金属平板に対して板厚を出来る限り薄くし且つ剛性,強度の低いアルミニウム合金等の金属材料を利用出来るようにすることで、弾性領域でのせん断座屈発生を回避してせん断降伏荷重を確保し更にせん断降伏後の荷重低下を防いで塑性変形能力を高め、簡単で有効な補強構造による小規模建物等に対する軽量で安価な耐震補強壁を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
主にせん断力を受ける補強壁板に対し、薄い二枚の金属平板を平行に配置しその内部略全面に平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体を挿んで複層に構成し且つ補強のため周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で構成する額縁状の金属枠組みを設け、これらを一体とする複層金属平板として表裏面の薄い金属平板がせん断荷重に対し安定した力学挙動となることを意図している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の補強壁構造は、複層金属平板とすることで表裏面の薄い金属平板が前記中間層により面的に座屈補剛されてせん断座屈荷重が高くなり、加えて周辺を取り囲む額縁状帯板の曲げ剛性及びサンブナン捩り剛性の効果で座屈波形の成長が抑止され降伏以降もせん断耐力の安定的な維持が可能となる。
【0008】
本発明の補強金属壁板は、表裏金属平板を面的に拘束することにより極めて薄い板厚で且つ剛性の低い軽金属材料を利用でき、しかも金属平板に特別な加工を必要とせず中小建物の制振ないし耐震補強壁として有効である。加えて中間層を構成する材料についても一般的に利用されている紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体が使える等安価に製作でき、又壁板として軽量であり小規模建物の工事に於ける取り扱いも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の補強金属壁板として図1(a)に代表的な形態の一例を示しているが、薄い軽金属平板2を表裏に平行に配し且つ略全面に亘り平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4を挿入して前記金属平板2と一体とし、更にその周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で構成する額縁状の金属枠組み3を表裏金属平板の片側面又は両側面に添接して補強する構造である。
【0010】
本発明の補強金属壁板として図1(b)に代表的な形態の他の一例を示したが、表裏金属平板2の周辺部内側に額縁状枠組み3を配し且つその内部略全面に平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4を挿入し一体とした複層金属平板で、周辺部枠組みを構成する帯状金属板3を前記中間層と同じ板厚とする補強壁構造である。
【実施例1】
【0011】
図2は、本補強金属壁板の力学的性能を確認するための説明図で、(a)図は大きさ1,800mmx900mmの壁板と周辺部枠組みに加わるせん断力Qの作用図で、又(b)図は壁板周辺の補強枠断面図で上から枠のない場合,表裏金属平板にはさまれた枠,各面別々に添接された枠,一方の面にのみ添接された枠である。以下で示す実施例は木造住宅等小規模建物の耐震補強壁として壁板の大きさを固定し且つ一枚の壁板のせん断耐力を略Q=10kN乃至それ以下としたが、本発明の補強壁構造はこれだけに限定するものではない。
【0012】
図3は、前記大きさの複層金属平板について中間層の厚さTmmと弾性せん断座屈荷重τcrとの関係を示したものであるが、発泡体の剛性により若干差はあるものの層が少し厚くなるだけで弾性せん断座屈荷重が大幅に上がる。ヤング係数E=6000kN/cm2の金属材料に対してヤング係数E=3kN/cm2の発泡体はもとよりそれを下回る軟質の発泡体でも十分機能し、本補強構造とすることで弾性せん断座屈を回避し降伏点荷重を確保することが可能になる。
【0013】
図4は、3mm厚の発泡体平板と90mmx3mmの帯板による周辺枠組みとで構成する中間層に0.5mm板厚の表裏金属平板を添接した壁板で、金属材料は非調質アルミニウム合金1050−Oとし、中間層が軟質の発泡体を想定したE=0.5kN/cm2と硬いゴム体を想定したE=15kN/cm2の場合の解析結果である。△印,○印で示す周辺枠がない場合の結果から何れの場合も最大耐力後に耐力は低下するが、▲印,●印で示す周辺枠組みを配した場合の二つの結果は耐力が安定的に維持されていることから、金属平板への周辺枠組みの補強効果が大きいことが判る。
【0014】
図5は、前記解析例と同じ壁板について周辺部の枠組みの効果を見たもので、厚さ3mmの中間層はヤング係数E=3kN/cm2の発泡体としている。枠組みだけの金属平板では+印で示す結果となり降伏耐力の確保には中間層の発泡体が重要であるが、○印等で示すように枠の断面が45mmx3mm,60mmx3mm,90mmx3mmと大きくなるに伴って降伏後のせん断耐力は順次安定して行き、降伏以降耐力を維持し続けるためには周辺枠の存在は極めて重要でありしかもその帯板幅を適正な大きさにすることが必要であることが判る。
【0015】
図6は、壁板を構成する周辺部枠組みが表裏金属平板の両側外面及び片側外面にのみ添接された場合の解析結果であるが、両側外面に90mmx1.5mmの帯板で非調質アルミニウム合金1050−Oとした場合を○印で示し、帯板を6063−Oと強度を上げて板厚を薄く両側外面に90mmx0.5mmとした場合を◇印,片側外面にのみ90mmx1.5mmとした場合を◆印で示したが、何れも降伏後の耐力維持に効果があることが判る。
【実施例2】
【0016】
図7は、表裏金属平板2がはさむ中間層が紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体の平板4であることは前例と同じであるが、周辺枠組みである帯板3が表裏金属平板2の一方にのみ添接され他方とは縁が切られた場合であり、加わるせん断力は枠組みが添接された側の金属平板に偏ることが想定されるものの、表裏両面の板厚を意図的に変えたり周辺枠の形状,寸法を必要に応じて選べることもあってせん断降伏耐力の確保及びその後の耐力維持が図られるならば有効な補強構造となりうる。
【0017】
図8は、1,800mmx900mmの壁板に周辺枠を90mmx3mmとし、表裏金属平板の一方が1.0mm板厚で他方側の補剛板が0.3mm板厚とする場合を●印で示したが、○印の補剛平板のない場合の結果と比較して見れば耐力,変形能力に於ける差異は顕著である。なお、補剛側の金属平板に力が伝達し難くするため発泡体のヤング係数はE=0.5kN/cm2としており、又アルミニウム合金材料と接触しないため補剛平板を板厚0.03mmのSUS304ステンレス鋼とした結果も+印で示している。
【実施例3】
【0018】
図9は、既存木造建物の耐震補強壁を意図し建物への取り付けを並行する柱面だけとする補強壁板で、両側長手方向の枠組み3は表裏金属平板2の内側に配して平板状の紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体4と共に中間層を構成し、短手方向の枠組みである帯板3は上下両端位置での面外への変形を阻止すべく金属平板2の片側外面に添接しているものであるが、図で示す帯板以外に壁面外へ突出した部材断面とすることは効果的である。
【0019】
図10(a)は、既存木造建物の木枠5の柱面に前記壁板を取り付けた外観を示しているが、両側の柱見付け面にのみに釘,ネジ等で止めつけ地震せん断力に対処しようとするものである。又(b)図は開口部下の半面に取り付けた場合を示したが、小規模な建物工事に於いては取り扱いの容易さから前記壁板二枚で全面を覆うことも考えられ、その際には上下の壁板同士で座屈変形を拘束しあうよう工夫することは有効である。
【0020】
図11は、壁板が1,620mmx900mmで層厚2mmの解析結果であるが、上下補強材が壁板の塑性化が進む過程で弾性剛性を保つことが重要な要件であるため補強材を6063−T6とし、外側に添接する帯板が90mmx4mmの場合が○印であり60mmx6mmと面外への剛性を上げた場合が●印である。又壁板の内側へ枠組みを設けた場合は面外剛性を確保するため中間層の厚さを4mmとしたが、周辺枠の断面が大きく表裏面板厚を0.35mmと薄くして壁板のせん断耐力を同程度とした結果が□印である。
【0021】
木造住宅等小規模建物の耐震補強壁は900mm幅一枚当たりのせん断耐力は10kN前後乃至それ以下が要求され、アルミニウム合金材料の中で純アルミニウム金属に近い1000番台〜3000番台の非調質アルミニウム合金が強度も低く現時点での最適なものと考えられる。図12は前記非調質アルミニウム合金材料の応力−歪み関係図を示しているがそれら弾性ヤング係数は略E=6000kN/cm2であり、構造材料であるアルミニウム合金5083−O,6063−T6との比較のなかで示している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
せん断力を受ける薄い金属平板による本発明の補強壁構造は、表裏二面に配した金属平板と中間層を平板状の木質体,ゴム体,各種発泡体とする複層金属平板で、表裏の軽金属平板は一定板厚の平板でよく敢えて特別の加工を施した金属平板としたり特殊な金属素材である必要はなく、又前記中間層を構成する材料は一般的に多用されておりその調達も容易且つ安価なものである。
【0023】
本発明の補強構造によれば極めて薄く且つ剛性・強度の低い軽金属平板に対してもせん断座屈荷重を上げてせん断降伏荷重を確保し、又周辺の帯板状枠組みを設けるだけの簡単な構成により降伏以降の座屈波形の成長に対してもせん断荷重の低下を回避でき、小規模建物に対する制振乃至耐震の構造壁として有効であって幅広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の補強金属壁板の構造詳細を示す斜視図である。
【図2】壁板へのせん断力の作用図と周辺枠組みの説明図である。(実施例1)
【図3】複層金属平板の厚さと弾性せん断座屈荷重の関係図である。
【図4】本補強構造の発泡体の剛性を検証する解析結果の説明図である。
【図5】本補強構造の内部周辺枠の効果を検証する解析結果の説明図である。
【図6】本補強構造の外部周辺枠の効果を検証する解析結果の説明図である。
【図7】本発明の壁板で表裏金属板の力分担を異にする構造図である。(実施例2)
【図8】前記本補強構造に関する解析結果の説明図である。
【図9】本補強構造の壁板として枠組み配置を異にする組立図である。(実施例3)
【図10】前記構造壁の既存木造建物への取付け説明図である。
【図11】本補強壁に並行してせん断力が作用した解析結果の説明図である。
【図12】本数値解析で扱った金属材料の応力−歪み関係図である。
【符号の説明】
【0025】
1 複層金属平板とする補強壁
2 表裏両面を構成する金属平板
3 帯板等で構成する周辺枠組み
4 中間層を構成する発泡体等
5 木造建物の柱・梁軸組み
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にせん断力を受ける略矩形金属平板の補強壁構造で、紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体等よりなる平板の表裏両面に軽金属平板を添接して複層金属平板とし、更に周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で構成する額縁状の枠組みを前記二枚の金属平板の内側乃至外側に配し、前記中間層の面的な座屈補剛と周辺部の額縁状枠組みの補強とによりせん断降伏荷重の確保と降伏後の荷重低下を防いで塑性変形能力を高めた制振乃至耐震補強壁。
【請求項2】
複層金属平板の中間層を構成する紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体等の材料として弾性ヤング係数がE=0.2kN/cm2からE=20kN/cm2である請求項1に記載の複層金属平板の補強壁構造。
【請求項3】
表裏面を構成する軽金属平板の材料が1000番台〜3000番台の非調質アルミニウム合金である請求項1に記載の複層金属平板の補強壁構造
【請求項1】
主にせん断力を受ける略矩形金属平板の補強壁構造で、紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体等よりなる平板の表裏両面に軽金属平板を添接して複層金属平板とし、更に周囲四辺に金属帯板が幅を与える面で構成する額縁状の枠組みを前記二枚の金属平板の内側乃至外側に配し、前記中間層の面的な座屈補剛と周辺部の額縁状枠組みの補強とによりせん断降伏荷重の確保と降伏後の荷重低下を防いで塑性変形能力を高めた制振乃至耐震補強壁。
【請求項2】
複層金属平板の中間層を構成する紙質体,木質体,ゴム体,各種発泡体等の材料として弾性ヤング係数がE=0.2kN/cm2からE=20kN/cm2である請求項1に記載の複層金属平板の補強壁構造。
【請求項3】
表裏面を構成する軽金属平板の材料が1000番台〜3000番台の非調質アルミニウム合金である請求項1に記載の複層金属平板の補強壁構造
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−2416(P2007−2416A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180227(P2005−180227)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(305025669)株式会社 構造材料研究会 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(305025669)株式会社 構造材料研究会 (12)
【Fターム(参考)】
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