説明

輝尽性発光体を用いたイメージングプレートイオン分析装置

【課題】
従来の固体飛跡検出素子を使用するイオン分析装置と異なりその前処理が不要で、しかも高速読み取りができるイオン分析装置を提供することにある。
【解決手段】
イメージングプレートイオン分析装置では、輝尽性発光体であるイメージングプレートを検出素子として用いることにより、イオンを前処理不要で且つ高速読み取りができることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームの評価装置に関する輝尽性発光体を用いたイメージングプレートイオン分析装置についてのものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、イオン分析装置は、主に検出素子としてCR-39等の固体飛跡検出素子が用いられてきた。図1に従来例のイオン分析装置の構成図を示す。しかし、この固体飛跡検出素子6を用いた計測システムでの読み出しには、前処理即ちエッチングが必要で、且つ読み取りにも時間が掛かる技術課題があった。又、イオンビームを分析対象としたものではないが、電子ビームを分析対象とした分析装置で検出素子を使用したものが既に存在している。
【特許文献1】特開2003−45367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、上記前処理不要で、高速読み取りができるイオン分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するために、本発明のイメージングプレートイオン分析装置では、輝尽性発光体であるイメージングプレートを検出素子として用いることにより、イオンを前処理不要で且つ高速読み取りができることを特徴としている。本発明で使用されるイメージングプレートには、例えば、表面に保護層のない、蛍光層50ミクロンのBaFBrI:Eu蛍光体からなるもので、富士フイルム株式会社製型番BAS−TR等が使用される。
【0005】
本発明では、図2に示すように、磁石4と電極5によって構成される分析部により、2次元的にエネルギー・質量に対応して偏向されるイオンの軌道上にイメージングプレート7を配置する事を特徴としている。このイメージングプレート7は輝尽性発光体であり、読み取り装置8によって、直接イオン強度に応じた空間的に強度分布を持つ画像がデジタル情報として得られる。この画像に解析装置9を用いて強度補正演算を行うことで、イオン個数を見出し前処理が不要で高速読み取りが達成できる。
【0006】
即ち、本発明は、イオン源、ピンホール、磁石、電極、検出素子、検出素子読み取り装置、及び解析装置から構成されるイオン分析装置において、検出素子として輝尽性発光体からなるイメージングプレートを使用し、イオン源からのイオンビームをピンホールを経て、前記磁石及び電極により生ずる磁場及び電場中を通過させて前記イオンビームの各イオンの軌道を曲げてイメージングプレートに記録させ、この空間的に分離されて記録されたイオンビームをイメージングプレート読み取り装置によりデジタル情報として記憶し、この記憶された情報を解析装置により各イオンの有するエネルギー、核種、及び電離度に対応する情報として出力し、読み取り後のイメージングプレートを白色光を用いて前記輝尽性発光体に残存している露光情報を消去することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイオン分析器を用いることにより、旧来の手法と比較して固体飛跡検出素子の前処理を行う必要がなくなるので分析作業工程の省力化ができる。さらに、読み取りも旧来の手法と比較して高速であるので分析作業を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のイメージングプレートイオン分析装置について、図面を参照して説明する。図3に本発明の実施形態にかかる例としてのイメージングプレートイオン分析装置を示す。本実施例は、イオン源2、ピンホール3、磁石4、電極5、イメージングプレート7、イメージングプレート読み取り装置8、解析装置9から構成されている。
【0009】
イオン源2から放出されるイオンビーム1はピンホール3を通過する事で、ビームの発散を抑制させるとともにビーム断面を微小にする。このビームを磁石4で発生する磁場と電極5に電圧を供給することで得られる電場によってビームを偏向する。このとき、偏向の大きさは、イオンのエネルギー・核種・電離度に依存するので、イオンビームはエネルギー・核種・電離度に応じて空間的に分離する。この空間的に分離したイオンビームはイメージングプレート7によって記録される。このイメージングプレートは、イメージングプレート読み取り装置8によってデジタル情報として記憶され、解析装置9によりイオンのエネルギー・核種・電離度に対応するイオンの個数情報として出力される。
【0010】
イメージングプレートを用いることにより、従来の固体飛跡検出素子例えばCR-39を用いた分析方法と比較して前処理が不要で、且つ読み取り作業も高速なイオンの分析が可能となる。
【実施例】
【0011】
以下に実際の実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。図3で示した構成で実験を行った。イオン源2には、レーザー・プラズマ相互作用によって発生する最大800keVのエネルギーを有する陽子ビームを用いた。この陽子ビームの生成には、パルスあたりのエネルギーが250mJ、レーザー波長800nm、パルス幅250fs(半値全幅)、直線偏光のレーザービーム10を用いた。このレーザー光をf=650mmの軸外し放物面鏡によって、水素炭化物が表面に吸着されている厚み3umのチタン薄膜上に集光・照射を行い、このターゲットの裏面からレーザー・プラズマ相互作用によって陽子(水素)ビームが発生する。この陽子ビームをイオンビーム1として径100umのピンホールに入射して、電場・磁場によって構成される分析部を通じて、イメージングプレート7に照射した。このイメージングプレート7をイメージングプレート読み取り装置8で読み取り、解析装置9で計算機処理する事によって前処理不要で高速に分析を行った。
【0012】
図4にイメージングプレートで画像情報として読み取ったプロトンp+の画像情報を示す。この画像情報は、解析装置で解析する事によって図5に示すスペクトル分布として記憶される。この解析結果は図6および図7に示す従来の固体飛跡検出器で取得した場合のイオン分析結果と同等な結果が得られ、実施例の比較から前処理が不要で、一連の作業で旧来5時間程度掛かっていた前処理とその読み取りについて、10分程度で高速に読み取りできることを達成した。
【0013】
即ち、図4及び図6は、それぞれ、電場及び磁場によって偏向され、イメージングプレート(又は固体飛跡検出素子)上にイメージされたイオンビームの像を示す。像には、陽子線(濃い線)の他に上記の実験で副次的に生成された炭素線(薄く複数の線)も加わっている。横軸のスケールは陽子線のエネルギーを表し、像は、このスケールに相当する位置のイメージングプレート(又は固体飛跡検出素子)上に現れる。イメージングプレートの場合輝度、固体飛跡検出素子の場合エッチピット(穴)の個数によってエネルギー当たりの個数をカウントすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来例のイオン分析装置を示す図である。
【図2】本発明のイオン分析装置構成の概念図を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる例としてのイオン分析装置構成の構成図を示す。
【図4】本発明におけるイオン分析結果の画像を示す図である。
【図5】本発明におけるのイオン分析結果を示す図である。
【図6】従来例におけるイオン分析結果の画像を示す図である。
【図7】従来例におけるイオン分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
1・・・イオンビーム
2・・・イオン源
3・・・ピンホール
4・・・磁石
5・・・電極
6・・・固体飛跡検出素子
7・・・イメージングプレート
8・・・イメージングプレート読み取り装置
9・・・解析装置
10・・レーザービーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンのエネルギー・核種・電離度いずれか少なくとも1つを評価するためのイオン分析装置であって、電場・磁場中に通過させることにより前記イオンビームの各イオンの軌道を曲げて質量分析を行うピンホールを含むエネルギー・質量分析部と、イオンを蓄積し空間的にエネルギー・質量分解された画像をイメージングプレートに記録する撮像部を備えていることにより、短時間で高いコントラストでイオンのエネルギー・核種・電離度を分析できる事を特徴とする輝尽性発光体を用いたイオン分析装置。
【請求項2】
イメージングプレートによって記録されたイオンビームの情報を、イメージングプレート読みとり装置によって露光されたイオンの信号強度の情報がデジタル情報として記憶される事を特徴とする請求項1記載の輝尽性発光体を用いたイオン分析装置。
【請求項3】
電子的に記憶された強度情報を、計算機処理によってイオンビームのイオンの各エネルギー・核種・電離状態における絶対計測数として取り出す事を特徴とする請求項1記載の輝尽性発光体を用いたイオン分析装置。
【請求項4】
読み取られた後のイメージングプレートを、白色光を用いて前記輝尽性発光体に残存している露光情報を消去することで、イメージングプレートの再生的な利用ができる請求項1記載の輝尽性発光体を用いたイオン分析装置。




【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−248423(P2007−248423A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76341(P2006−76341)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 レーザー学会発行、レーザー学会学術講演会第26回年次大会 講演予稿集、2006年2月9日発行
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】