説明

輸液入り容器及び輸液製剤

【目的】 糖、アミノ酸、電解質、脂肪乳剤及びビタミンを含有する輸液を調製する際に有用な輸液セット(輸液入り容器)を提供することを目的とする。
【構成】 隔離手段により2つの個室が形成された容器を用い、第1室には脂肪乳剤、糖、脂溶性ビタミン及び特定の水溶性ビタミンを含有する輸液が収容されており、第2室にはアミノ酸、電解質及び他の特定の水溶性ビタミンを含有する輸液が収容されている。用時に、隔離手段を取り除き、第1室と第2室に収容されている輸液を混合することにより、糖、アミノ酸、電解質、脂肪乳剤及びビタミンを含有する輸液製剤を、容易且つ無菌的に調製することができる。また、各室の輸液成分は良好な安定性を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミン類を含有する輸液製剤並びに当該輸液製剤の調製に用いられる輸液入り容器及び輸液製剤に関する。より詳細には、■脂肪乳剤、糖及び特定のビタミン類を含有する輸液製剤、■アミノ酸、電解質及び他のビタミン類を含有する輸液製剤、■上記■及び■の輸液製剤を各個室に収容してなる輸液入り容器、及び■各個室に収容されている輸液を混合してなる輸液製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、患者の生命の維持において、経口栄養、経管栄養が不可能であったり、あるいは不十分な状態であったり、又はそれらが可能ではあっても患者の消化吸収機能が著しく不良であったり、更には食物が消化管を通過するのが原疾患の悪化につながるような病態の場合には、栄養補給のために、経静脈的に輸液の投与が行われている。このような輸液製剤としては、還元糖等を含有する糖輸液、必須アミノ酸等を含有するアミノ酸輸液、ミネラル類を含有する電解質輸液、植物油乳剤等を含有する脂肪乳剤、混合ビタミン剤等が市販されており、これらの輸液製剤を患者の症状等に合わせて使用時に適宜混合して用いられている。しかし、輸液製剤の使用時における混合は作業従事者にとって煩雑な操作であり、なによりも混合時に菌汚染の問題がある。このような問題から、上記の各種輸液を事前に混合した輸液製剤が提案されており、特に患者への栄養補給に必要な成分である糖、アミノ酸、電解質及び脂肪乳剤を含有する輸液製剤は、臨床上、極めて有用である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、糖輸液、アミノ酸輸液、電解質輸液及び脂肪乳剤は安定に存在し得る条件がそれぞれ異なり、これらを混合すると種々の問題を生じ、輸液として使用できなくなる。例えば、脂肪乳剤は不安定な製剤であり、他の輸液と混合すると、油脂粒子の粗大化、相分離(クリーミング)を生じやすい。特に、電解質輸液に含有されている2価金属イオンは脂肪乳剤の凝集や粒子の崩壊を起こす。また、電解質輸液は、電解質バランスを維持するために必要な成分であるカルシウム及びリン酸を含んでいるが、リン酸とカルシウムとが反応してリン酸カルシウムを形成し、濁りや沈殿を生じやすい。この濁りや沈殿生成を防止するため、電解質輸液は通常低pH(pH5未満)に調整されている。この電解質輸液とアミノ酸輸液とを混合すると、アミノ酸の強い緩衝作用によりアミノ酸側にpHが支配され、輸液を低pHとするには多量の酸剤(例えば、塩酸、酢酸等)が必要となる。しかし、多量の酸剤の使用は輸液成分のバランスを崩すので、酸剤の使用量には制限があり、輸液を低pHにすることができず、電解質輸液とアミノ酸輸液とを混合すると、加熱滅菌の際、濁りや沈殿を生じやすい。更に、アミノ酸輸液と糖輸液を混合し、加熱滅菌すると、メイラード反応により、著しい着色を生ずることが知られている。
【0004】上記のように、各種輸液を混合すると、沈殿生成、変質、着色など種々の問題を生ずるため、糖、アミノ酸、電解質及び脂肪乳剤を含有する輸液を事前に調製し、保存することは困難である。そのため、従来は脂肪乳剤、糖輸液、アミノ酸輸液及び電解質輸液を使用時に混合して用いており、糖、アミノ酸、電解質及び脂肪乳剤を含有し、かつ安定な輸液製剤が切望されている。本発明者らは上記事情に鑑み、糖、アミノ酸、電解質及び脂肪乳剤を含む安定な輸液製剤の調製法を鋭意検討した結果、これら成分を含む輸液の組合せを工夫することにより、保存性に優れると共に用時に糖、アミノ酸、電解質及び脂肪乳剤を含有する輸液が容易に得られ、しかも沈殿生成、変質、着色など種々の問題を解消できることを見出した。即ち、隔離手段により2つの個室が形成された容器を用い、第1室には脂肪乳剤及び糖を含有する輸液を収容し、第2室にはアミノ酸及び電解質を含有する輸液を収容し、この状態で滅菌・保存し、用時に隔離手段を取り除き、第1室及び第2室の輸液を混合することにより、上記の問題を解消できることが明らかになった(特開平5−31151号公報参照)。
【0005】ところで、高カロリー輸液療法においては、各種ビタミンを併用することが常識化しており、高カロリー輸液に用時、各種ビタミンを添加して臨床に用いられる。そこで、上記の新規に開発された糖・アミノ酸・電解質及び脂肪乳剤を含有する輸液製剤においても、ビタミンを臨床適用時に添加する手間を省き、更に完全な高カロリー輸液製剤を提供する為には、予めビタミンが配合された高カロリー輸液製剤を開発する必要がある。しかし、ビタミンは一般に不安定であり、或る種のビタミンを組み合わせると分解や液の濁りを引き起こす。例えば、本発明者らは、葉酸とビタミンCを混合すると濁りが発生すること、ビタミンCはビタミンB12の分解を促進させることなどの知見を得ており、ビタミンの組合せには十分に注意を払う必要があることが判明した。また、ビタミンには水溶性のものと脂溶性のものが存在し、両者は物理化学的性質に大きな違いがある。特に水溶性ビタミンには溶液中で不安定なものが多い。そこで、ビタミンの配合、即ち、上記第1室(脂肪+糖)に添加すべきビタミン及び第2室(アミノ酸+電解質)に添加すべきビタミンの配合を検討し、さらに添加手段に若干の工夫を加えることにより、糖・アミノ酸・電解質及び脂肪乳剤の安定性に影響を及ぼすことなく、しかもビタミンの安定性も良好な輸液製剤を調製することに成功し、本発明を完成した。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するためになされた本発明の輸液入り容器は、隔離手段により2つの個室が形成された容器であり、第1室には脂肪乳剤、糖、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE及びビタミンKを含有する輸液が収容されており、また第2室にはアミノ酸、電解質、ビタミンB6、ビタミンB12及び葉酸を含有する輸液が収容されていることからなる。かかる構成を採用することにより、用時に隔離手段を取り除き、第1室と第2室を連通させ、第1室に収容されている輸液と第2室に収容されている輸液とを混合することにより、脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミンを含有する輸液を調製することができる。なお、第1室に収容される脂肪乳剤の平均粒子径は0.17μm以下とするのが好ましく、また第2室に収容される輸液はリンの供給源として多価アルコール又は糖のリン酸エステル又はその塩を配合するのが好ましい。また、本発明の輸液製剤は、上記の輸液入り容器の第1室及び第2室にそれぞれ収容される輸液製剤、及び上記の輸液入り容器の隔離手段を取り除くことにより得られる輸液製剤である。
【0007】上記の構成からなる本発明において、第1室には脂肪乳剤及び糖並びに少なくともビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE及びビタミンKを含有する輸液が収容される。なお、以下の記載において、例えば、ビタミンB1及びビタミンB2を表す場合に、ビタミン(B1、B2)のように表記する。脂肪乳剤としては、油脂を乳化剤を用いて水に分散させて調製された水中油型乳剤が用いられる。脂肪乳剤の調製は常法に準じて行うことができ、例えば、水に油脂及び乳化剤を加えた後、撹拌して粗乳化液を調製し、次いで粗乳化液を高圧乳化法等の慣用の方法により乳化することにより行うことができる。上記の油脂としては食用油であればいずれの油脂も使用でき、例えば、植物油(例えば、大豆油、綿実油、サフラワー油、トウモロコシ油、ヤシ油、シソ油、エゴマ油等)、魚油(例えば、タラ肝油等)、中鎖脂肪酸トリグリセリド[例えば、パナセート(商品名)、ODO(商品名)等]及び化学合成トリグリセリド類[例えば、2-リノレオイル-1,3-ジオクタノイルグリセロール(8L8)、2-リノレオイル-1,3-ジデカノイルグリセロール(10L10)等のChemically defined triglycerides]から選ばれた1種又は2種以上の油脂が好適に用いられる。また、乳化剤としては医薬製剤に使用される乳化剤であればいずれの乳化剤も用いることができ、例えば、卵黄リン脂質、水素添加卵黄リン脂質、大豆リン脂質、水素添加大豆リン脂質及び非イオン性界面活性剤[例えば、プルロニックF68、HCO-60(いずれも商品名)等]から選ばれた1種又は2種以上の乳化剤が好適に用いられる。特に好ましくは、油脂として大豆油、乳化剤として卵黄リン脂質を用いた脂肪乳剤が挙げられる。
【0008】本発明において、脂肪乳剤の平均粒子径は0.17μm以下に調製するのが好ましい。この粒子径とすることにより、従来の脂肪乳剤(平均粒子径0.2〜0.3μm)に比べ、安定性が高められ、特に比重の相違に起因する脂肪乳剤の相分離を効果的に抑制できる。平均粒子径が0.17μm以下である脂肪乳剤は、脂肪乳剤の調製時にグリセリン及びブドウ糖から選ばれた1種又は2種を添加して乳化することにより得ることができる。従来から脂肪乳剤の調製には、水に油脂及び乳化剤を加えた後、撹拌して粗乳化液を調製し、次いで粗乳化液を高圧乳化法等により乳化する方法が用いられているが、この方法では平均粒子径が0.2μm以下の乳剤を容易に得ることは困難である。しかしながら、発明者らはグリセリン及びブドウ糖に微粒子化を促進する特異的な作用があることを見出しており、上記の製造法によれば平均粒子径が0.17μm以下である脂肪乳剤を容易に調製することができる。
【0009】上記の脂肪乳剤の製法をより具体的に説明すため、その一例を挙げると、水に油脂及び乳化剤を加えると共にグリセリン及びブドウ糖から選ばれた1種又は2種を加えた後、撹拌して粗乳化液を調製し、次いで粗乳化液を高圧乳化法等の慣用の方法により乳化することにより脂肪乳剤を調製することができる。上記の乳化を高圧乳化法で行なう場合、例えば、マントンゴーリンホモジナイザー等の乳化機を用い、粗乳化液を20〜700Kg/cm2程度の条件下、5〜50回程度通過させることにより行われる。なお、この方法において、グリセリン及び/又はブドウ糖は乳化する際に存在すればよく、例えば、油脂と乳化剤とで調製した粗乳化液にグリセリン及び/又はブドウ糖を添加して乳化を行なってもよい。なお、得られた乳剤の平均粒子径の測定は、光散乱法などの慣用の測定法を用いることにより行なうことができる。
【0010】上記の製造法において、油脂、乳化剤並びにグリセリン及び/又はブドウ糖の使用量としては、得られた脂肪乳剤が、油脂0.1〜30W/V%(以下、特別な明示のない限り、%はW/V%を示す)程度、好ましくは1〜20%程度、乳化剤0.01〜10%程度、好ましくは0.05〜5%程度、グリセリン及び/又はブドウ糖30〜70%程度、好ましくは40〜60%程度及び適量の水とから構成されるように調整して使用される。
【0011】第1室に収容される輸液に含有される糖としては、各種糖類を配合することができるが、還元糖が好適に用いられる。還元糖としては、例えば、ブドウ糖、果糖、マルトースなどが挙げられ、これらの還元糖は2種以上を混合して用いてもよい。更に、これらの還元糖にソルビトール、キシリトール、グリセリン等を加えた混合物を用いてもよい。
【0012】第1室には、ビタミンとして少なくともビタミン(C、B1、B2、A、D、E、K)が含まれている。かかるビタミンは誘導体であってもよく、具体的には、ビタミンCとしてはアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ジパルミテート、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩などが、ビタミンB1としては塩酸チアミン、プロスルチアミン、オクトチアミンなどが、ビタミンB2としてはリン酸リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチドなどが、ビタミンAとしてはパルミチン酸レチノールなどが、ビタミンDとしてはコレカルシフェロール(D3)、エルゴカルシフェロール(D2)などが、ビタミンEとしてはdl−α−トコフェロール、酢酸トコフェロールなどが、ビタミンKとしてはフィトナジオン、メナテトレノン、メナジオンなどが挙げられる。
【0013】第1室に収容される輸液の調製は種々の方法により行うことができ、例えば、前記の方法により調製した脂肪乳剤に糖を添加してもよく、脂肪乳剤の調製時に糖を予め添加しておいてもよい。ビタミン(C、B1、B2、A、D、E、K)の添加方法としては、脂溶性ビタミン[ビタミン(A、D、E、K)]は予め油脂に溶解しておけばよい。また、ビタミン(C、B1、B2)は乳剤調製後、注射用水での液量調整時に当該注射用水に溶解しておけばよい。第1室における脂肪乳剤と糖の組成は、第2室に収容される輸液(即ち、アミノ酸、電解質及びビタミンを含有する輸液)の濃度、第1室と第2室に収容される輸液の容量比などにより適宜調整することができるが、例えば、油脂0.1〜30%程度、好ましくは1〜20%程度、より好ましくは2〜10%程度、乳化剤0.01〜10%程度、好ましくは0.05〜5%程度、より好ましくは0.1〜1%程度、糖5〜60%程度、好ましくは7〜40%程度、より好ましくは10〜30%程度、及び適量の水とからなる輸液が例示される。
【0014】第2室には、アミノ酸及び電解質並びに少なくともビタミン(B6、B12)及び葉酸を含有する輸液が収容される。アミノ酸としては、従来から生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に含有されている各種アミノ酸(必須アミノ酸、非必須アミノ酸)が挙げられ、例えば、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、グリシン、L−アラニン、L−プロリン、L−アスパラギン酸、L−セリン、L−チロシン、L−グルタミン酸、L−システインなどが例示される。これらのアミノ酸は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いられる必要はなく、無機酸塩(例えば、L−リジン塩酸塩等)、有機酸塩(例えば、L−リジン酢酸塩、L−リジンリンゴ酸塩等)、生体内で加水分解可能なエステル体(例えば、L−チロシンメチルエステル、L−メチオニンメチルエステル、L−メチオニンエチルエステル等)、N−置換体(例えば、N−アセチル−L−トリプトファン、N−アセチル−L−システイン、N−アセチル−L−プロリン等)、同種又は異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(例えば、L−チロシル−L−チロシン、L−アラニル−L−チロシン、L−アルギニル−L−チロシン、L−チロシル−L−アルギニン等)などの形態で用いてもよい。
【0015】また、電解質としては、従来から輸液に用いられている各種水溶性塩が挙げられ、例えば、生体の機能や体液の電解質バランスを維持する上で必要とされる各種無機成分(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、銅、マンガン、ヨウ素、リン等)の水溶性塩(例えば、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩等)が挙げられる。これらの水溶性塩は、水和物を配合してもよい。
【0016】上記の電解質成分において、リンの供給源としては、多価アルコール又は糖のリン酸エステル又はその塩が好適に用いられる。多価アルコールのリン酸エルテルとしては、グリセロリン酸、マンニトール−1−リン酸、ソルビトール−1−リン酸等が挙げられる。また、糖のリン酸エステルとしてはグルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸、マンノース−6−リン酸等が挙げられる。これらのリン酸エステルの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好適に用いられる。好ましいリン酸エステル塩としては、グリセロリン酸のナトリウム塩又はカリウム塩が挙げられる。
【0017】電解質成分の好ましい態様としては、下記の化合物が挙げられる。
ナトリウム:塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウムカリウム:塩化カリウム、グリセロリン酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウムカルシウム:グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、酢酸カルシウムマグネシウム:硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウムリン:グリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸マグネシウム、グリセロリン酸カルシウム亜鉛:硫酸亜鉛、塩化亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛
【0018】第2室には、ビタミンとして少なくともビタミン(B6、B12)及び葉酸が含まれている。かかるビタミンは誘導体であってもよく、具体的には、ビタミンB6としては塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、リン酸ピリドキサミンなどが、ビタミンB12としてはシアノコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミンなどが挙げられる。
【0019】第2室に収容される輸液の調製は種々の方法により行うことができ、例えば、注射用水などの精製水に、配合する各種アミノ酸及び電解質を溶解することにより調製される。ビタミン(B6、B12)及び葉酸の添加方法としては、アミノ酸及び電解質の溶解時に併せて添加溶解すればよい。第2室におけるアミノ酸と電解質の組成は、第1室に収容される輸液(即ち、脂肪乳剤、糖及びビタミンを含有する輸液)の濃度、第1室と第2室に注入する輸液の容量比などにより適宜調整することができるが、例えば、アミノ酸総量1〜15%程度、好ましくは2〜13%程度、より好ましくは3〜12%程度、電解質として、ナトリウム50〜180mEq/l程度、カリウム40〜135mEq/l程度、カルシウム10〜50mEq/l程度、マグネシウム5〜30mEq/l程度、塩素0〜225mEq/l程度、リン3〜40mEq/l程度及び亜鉛0〜100μmol/l程度並びに適量の水とからなる輸液が例示される。
【0020】他のビタミンであるニコチン酸類(例えば、ニコチン酸、ニコチン酸アミドなど)、パントテン酸類(例えば、パントテン酸ナトリウム、パントテン酸カルシウム、パントテノールなど)及びビオチンは、第1室、第2室のいずれかに添加してもよく、また両室に添加してもよい。また、これらのビタミンは誘導体として添加してもよい。調製方法は第1室に添加する場合はビタミン(B1、B2)の溶解時に併せて行えばよい。また、第2室に添加する場合はビタミン(B6、B12)及び葉酸の溶解時に併せて行えばよい。
【0021】第1室及び第2室に収容する輸液の量、並びに各輸液の脂肪乳剤、糖、アミノ酸及び電解質の種類、配合割合及び濃度は、用途、投与する患者の疾患、症状などに応じて適宜調整することができるが、好ましくは、第1室及び第2室に収容された輸液を混合した際に、下記の組成範囲からなるように調整される。
油脂 5 〜 50 g/l 乳化剤 0.5 〜 10 g/l 糖 50 〜250 g/l L−イソロイシン 0.5 〜 5 g/l L−ロイシン 0.5 〜 7 g/l L−バリン 0.5 〜 5 g/l L−リジン 0.5 〜 7 g/l L−メチオニン 0.1 〜 4 g/l L−フェニルアラニン 0.3 〜 5 g/l L−トレオニン 0.3 〜 5 g/l L−トリプトファン 0.1 〜 1 g/l L−アルギニン 0.3 〜 7 g/l L−ヒスチジン 0.2 〜 3 g/l グリシン 0.2 〜 3 g/l L−アラニン 0.3 〜 5 g/l L−プロリン 0.2 〜 5 g/l L−アスパラギン酸 0.03〜 2 g/l L−セリン 0.2 〜 3 g/l L−チロシン 0.03〜 0.5 g/l L−グルタミン酸 0.03〜 2 g/l L−システイン 0.03〜 1 g/l ナトリウム 15 〜 60 mEq/l カリウム 10 〜 50 mEq/l カルシウム 3 〜 15 mEq/l マグネシウム 2 〜 10 mEq/l 塩素 0 〜 80 mEq/l リン 1 〜 15 mEq/l 亜鉛 0 〜 30 μmol/l
【0022】また、本発明製剤におけるビタミンの各成分は、1投与単位当りビタミンB21〜10mg、ビタミンB61〜10mg、パントテン酸類5〜25mg、ビタミンC50〜250mg、ビタミンB11〜10mg、ビタミンB121〜30μg、葉酸100〜1000μg、ビオチン20〜300μg、ニコチン酸類10〜50mg、ビタミンA2000〜5000IU、ビタミンD200〜1000IU、ビタミンE5〜20IU、ビタミンK0.2〜10mgの割合で配合されていることが望ましい。
【0023】第1室及び第2室に収容される輸液の液性は特に限定されないが、生体に対する安全性の面からpHは5.0〜8.0、好ましくは5.5〜7.0に調整するのがよい。特に、第2室に収容される輸液に、リンの供給源として多価アルコール又は糖のリン酸エステル又はその塩を用いた場合には、比較的高いpHにおいても沈殿生成を効果的に抑制することができる。上記各輸液のpH調整に用いられるpH調整剤としては、生理的に許容できるものであれば特に限定されず、各種の酸剤を使用できるが、好適には有機酸が用いられる。有機酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられ、特に2価金属イオンに対してキレート力を有する有機酸が好ましく、好適にはクエン酸が使用される。
【0024】また、第1室及び第2室に収容される輸液には、滅菌時及び保存時の着色を防止するために着色防止剤(例えば、チオグリセロール、ジチオスレイトール等)を添加してもよく、着色防止剤の添加量は、通常、1%程度以下とされる。着色防止剤は、第1室の輸液若しくは第2室の輸液又はその両方に添加してもよい。更に、第1室に収容される輸液には、L−ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の緩衝剤を添加してもよく、これらの添加量は、通常、1%程度以下とされる。また、第2室に収容される輸液には、抗酸化剤として、チオグリセロール、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等を添加してもよい。これらの添加量は、通常、0.001%〜0.1%程度である。
【0025】第1室及び第2室に収容される輸液は、加熱滅菌などにより予め滅菌されたものを各室に無菌的に充填・密封してもよいが、好ましくは、第1室及び第2室にそれぞれ輸液を充填(好ましくは、不活性ガス存在下にて)・密封し、次いで滅菌する方法が用いられる。滅菌は、常法に準じて行なうことができ、例えば、高圧蒸気滅菌、熱水浸漬滅菌、熱水シャワー滅菌等の加熱滅菌法により行なうことができる。
【0026】本発明に用いられる容器としては、ガラス製容器、プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステルなど)製容器などが挙げられる。特に、プラスチックフィルム又はシートからなる柔軟性容器が好適に使用され、プラスチックフィルム及びシートの材料としては上記の材料及びそれらの積層体が用いられる。また、容器としては、加熱滅菌に耐え得る材料からなる容器が好ましい。また、保存時の安定性を考慮すれば、容器は遮光性を有することが好ましく、例えば、遮光袋、紫外線遮断容器などが例示できる。
【0027】
【実施例】以下、実施例を示す図面に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。図1は本発明の輸液入り容器の1実施例を示す概略図である。同図において、容器1はプラスチックフィルム(シートも含む、以下同様)などの材料で形成されており、第1室2及び第2室3の2つの個室を有している。第1室2には脂肪乳剤及び糖並びにビタミン(C、B1、B2、A、D、E、K)(以下、第1室ビタミン類という)を含有する輸液4が収容されており、また第2室3にはアミノ酸及び電解質並びにビタミン(B6、B12)及び葉酸(以下、第2室ビタミン類という)を含有する輸液5が収容されているが、第1室2に収容されている輸液4と第2室3に収容されている輸液5が混合しないように、第1室2と第2室3はそれらを連通する連通部6に設けられたピンチコック7等の隔離手段により隔離されている。また、容器1には、第1室2に輸液4を注入するためのポート8、第2室3に輸液5を注入するためのポート9、及び混合後の輸液を取り出すためのポート10が設けられている。また必要ならば、これらのポートから他剤の混入も可能である。
【0028】上記の輸液入り容器は、次のようにして得られる。まず、容器1の連通部6をピンチコック7などの隔離手段で遮断して第1室2と第2室3とを隔離し、次いでポート8を介してを脂肪乳剤、糖及び第1室ビタミン類を含有する輸液を第1室2に注入し、またポート9を介してをアミノ酸、電解質及び第2室ビタミン類を含有する輸液を第2室3に注入する。この際、第1室2及び/又は第2室3に収容される輸液には、必要に応じて、ニコチン酸類、パントテン酸類及びビオチンが添加されていてもよい。なお、第1室2及び第2室3への輸液4及び5の注入は不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)の気流下に行うのが好ましい。第1室2及び第2室3への輸液4及び5の注入が終了した後、ポート8及び9をそれぞれ封止し、次いで滅菌することにより、図1に示される輸液入り容器が得られる。なお、滅菌は、常法に準じて行なうことができ、例えば、高圧蒸気滅菌、熱水浸漬滅菌、熱水シャワー滅菌等の加熱滅菌法により行なうことができ、本例のようにプラスチック容器を用いる場合には、実質的に酸素を含まない雰囲気下で滅菌するのが好ましい。かくして得られた本発明の輸液入り容器はその状態で保存することができ、用時にピンチコック7を取り除いて第1室2と第2室3とを連通させ、それぞれに収容されている輸液4及び5を混合することにより、脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミンを含有する輸液を無菌的に調製することができる。次いで、ポート8からチューブ(図示せず)を介して上記の混合輸液を無菌的に取り出し、生体に投与される。
【0029】図2は本発明の輸液入り容器の他の実施例を示す概略図である。同図において、容器11はプラスチックフィルムなどの材料からなり、大型のスクリューコック16で隔離することにより、第1室12及び第2室13の2つの個室が形成されている。第1室12には脂肪乳剤、糖及び第1室ビタミン類を含有する輸液14が収容されており、また第2室13にはアミノ酸、電解質及び第2室ビタミン類を含有する輸液15が収容されているが、上記スクリューコック16で第1室12及び第2室13は隔離されているので、第1室12に収容されている輸液14と第2室13に収容されている輸液15が混合することはない。また、容器11には、第1室12に輸液14を注入するためのポート17、第2室13に輸液15を注入するためのポート18、及び混合後の輸液を取り出すためのポート19が設けられている。また必要ならば、これらのポートから他剤の混入も可能である。なお、図2に示される輸液入り容器の製造法及び使用法は、図1に示した輸液入り容器のそれらと実質的に同様である。
【0030】図3は本発明の輸液入り容器の他の実施例を示す概略図である。同図において、容器21はプラスチックフィルムなどの材料からなり、容器を構成するフィルムを熱融着して形成された仕切り帯部28で隔離することにより、第1室22及び第2室23の2つの個室が形成されている。仕切り帯部28は外力を加えることにより剥離可能に形成されている。第1室22には脂肪乳剤、糖及び第1室ビタミン類を含有する輸液24が収容されており、また第2室23にはアミノ酸、電解質及び第2室ビタミン類を含有する輸液25が収容されているが、仕切り帯部28で第1室22及び第2室23は隔離されているので、第1室22に収容されている輸液24と第2室23に収容されている輸液25が混合することはない。また、容器21には、第1室22に輸液24を注入するためのポート26、及び第2室23に輸液25を注入するためのポート27が設けられている。また必要ならば、これらのポートから他剤の混入も可能である。輸液の取り出しはポート26又は27を使用する。なお、図3に示される輸液入り容器は、仕切り帯部28で隔離された第1室22及び第2室23の何れかに輸液を充填して密封した後、反転し、他室に輸液を充填することにより製造される。滅菌方法及び使用法は、図1に示した輸液入り容器のそれらと実質的に同様であるが、この容器においては、用時に外力を加えて仕切り帯部28を剥離させ、開放することにより第1室22及び第2室23に収容されている輸液を混合する。
【0031】図1、図2及び図3に示した輸液入り容器は本発明の一態様であって、これらに限定されるものではない。容器の形状、寸法等は適宜変更することができ、更に容器本体には輸液入り容器を慣用の懸吊具に係止するための懸吊部を適所に設けてもよい。また、隔離手段も上記の例に限定されるものではなく、例えば、図1R>1において、ピンチコック7の代りにクリップなどを用いてもよく、更に連通部6内にボール栓を設けて第1室2と第2室3を隔離してもよい。
【0032】本発明の輸液入り容器は、容器内の輸液の変質を防止するために、酸素非透過性の膜材で包装してもよい。酸素非透過性の膜材としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等を中間層として含む三層ラミネートフィルム(例えば、外層がポリエステルフィルム、延伸ナイロンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルム等からなり、内層が未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルム等)、アルミニウム層を含むラミネートフィルム(例えば、ポリエステルフィルム−アルミニウム層−未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルム等)、無機質蒸着フィルムを含むラミネートフィルム(例えば、ポリエステルフィルム−ケイ素蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、延伸ナイロンフィルム−ケイ素蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム−アルミニウム蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、アルミナ蒸着ポリエステルフィルム−ポリ塩化ビニリデンフィルム−未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルム等)などが挙げられる。また、外包装と容器との間に脱酸素剤(例えば、エージレス、商品名)を収容してもよく、更に常法に準じて、真空包装、不活性ガス(例えば、窒素ガス等)充填包装などとしてもよい。
【0033】第1室及び第2室に収容された輸液を混合して得られた脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミンを含有する輸液は良好な保存性を有し、沈殿生成、変質、着色等を生ずることなく、約1週間保存することができる。当該輸液は、そのままで若しくは水で希釈して、又単独で若しくは必要に応じて薬剤等と混合して患者に経静脈投与される。更に経口、経腸等の投与形態での投与にも用いることができる。
【0034】以下、製造例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
製造例1(1)脂肪乳剤、糖及びビタミン類を含有する輸液の調製ビタミンAパルミテート5000IU、ビタミンD2200IU、ビタミンE(α−トコフェロール)140mg、ビタミンK1200μgを大豆油66gに溶解したもの及び卵黄リン脂質9.5g及びブドウ糖500gを水に加えホモミキサーにより粗乳化した後、アスコルビン酸Na80mg、硝酸チアミン3.5mg、リン酸リボフラビン5.4mg、パントテノール20mgを溶解した水を加え、更に全量を1000mlに調整して粗乳化液を得た。得られた粗乳化液を、マントンゴーリンホモジナイザー(ゴーリン社製、15M-8TA型)により平均粒子径が0.17μm以下になるまで乳化して乳剤を得た。得られた乳剤500mlに水を加えて全量を1000mlとした。得られた輸液の組成を表1に示す。
【0035】
【表1】


【0036】(2)アミノ酸、電解質及びビタミン類を含有する輸液の調製約80℃に加温した注射用水に、窒素気流下、表2、表3及び表4に示されるアミノ酸、電解質及びビタミン類を各濃度となるように添加し溶解させ、クエン酸を用いてpHを6.2に調整した。
【0037】
【表2】


【0038】
【表3】


【0039】
【表4】


【0040】(3)輸液入り容器の調製図1に示される形状をしたポリプロピレン製の容器を用いた。ピンチコック7で連通部6を遮断した後、第1室2に前記(1)で得られた脂肪乳剤、糖及びビタミンを含有する輸液600mlを窒素ガスを充填しながらポート8から注入し、注入後ポート8を封止した。一方、第2室3には、上記で得られたアミノ酸、電解質及びビタミンを含有する輸液300mlを窒素ガスを充填しながらポート9から注入し、注入後ポート9を封止した。各輸液を収容した容器1に、高圧蒸気滅菌(115℃、30分間)を施し、次いで室温まで冷却し、本発明の輸液入り容器を得た。
【0041】(4)本発明の輸液入り容器を用いて調製された輸液の安定性試験上記(3)で得られた輸液入り容器の連通部6のピンチコック7を取り除き、連通部6を通じて第1室2の輸液と第2室3の輸液とを十分に混合して、脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミン類を含有する輸液を得た。かくして得られた輸液の組成を表5に示す。上記で得られた輸液を25℃で1週間保存し、その間の外観、脂肪乳剤の平均粒子径及び濁度の変化を測定した。その結果を表6に示す。なお、対照としては、第2室3に注射用水300mlを注入し、同様に滅菌し、混合した輸液を用いた。脂肪乳剤の平均粒子径は光散乱法により、濁度は620nm(1cmセル)の吸光度により測定した。表6に示されるように、外観、粒子径及び濁度に変化は認められず、本発明の輸液入り容器を用いて調製された輸液は安定性が高いことが明らかとなった。
【0042】
【表5】


【0043】
【表6】


【0044】実験例(1)方法各室のビタミン組成と輸液製剤の安定性の関係を調べた。表7に従って、第1室の輸液成分及び第2室の輸液成分を各々調製し、遮光下で40℃3ヵ月保存した後の各種ビタミンの残存率を比較した。その結果を表8に示す。なお、比較例として、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)を第1室に、水溶性ビタミン(B、C、ニコチン酸アミド、パントテノール、葉酸、ビオチン)を第2室に各々添加した態様も実施した。
【0045】
【表7】


【0046】
【表8】


【0047】(2)結果表8に示されるように、本発明の態様によれば、各種ビタミンがバランス良く安定に保持される。これに対して、ビタミンB6を第1室(脂肪+糖)側に添加した場合、本発明の態様に比べてビタミンB6の安定性が悪く、好ましい組成とはいえない。また、脂溶性ビタミンを第1室に、水溶性ビタミンを第2室に各々添加した系では水溶性ビタミン、特にビタミンC、B1、B6、B12、葉酸、ビオチンの安定性が悪く、好ましい組成とはいえない。ビタミンの配分としては比較例1が当業者にとっては最も容易に案出されるが、当該組成での効果は必ずしも良好とはいえない。従って、ビタミンの配合に工夫を加えて、安定性の良い組成を見出したことは特筆すべきことである。
【0048】
【発明の効果】以上のように、本発明においては、隔離された2つの室内に、脂肪乳剤、糖及びビタミンを含有する輸液並びにアミノ酸、電解質及びビタミンを含有する輸液が予め充填されており、使用時に隔離手段を取り除くだけで、糖、アミノ酸、電解質、脂肪乳剤及びビタミンを含有する輸液を調製することができ、しかも、得られた輸液はこれらの各成分を含有するにもかかわらず、沈殿、相分離、変質などを生ずることがなく、高い安定性を示す。従って、本発明によれば、安定性及び安全性に優れた輸液を得ることができ、更に脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミンを混合する操作を必要としないので、操作が簡便化されると共に混合時の菌汚染を防止できるという効果を奏する。特に、ビタミンの配合、即ち、上記第1室(脂肪+糖)に添加すべきビタミン及び第2室(アミノ酸+電解質)に添加すべきビタミンの配合を検討し、さらに添加手段に工夫を加えることにより、糖・アミノ酸・電解質及び脂肪乳剤の安定性に影響を及ぼすことなく、しかもビタミンの安定性も良好な輸液製剤を調製することができた。従って、糖・アミノ酸・電解質及び脂肪乳剤を含有する輸液製剤において、ビタミンを臨床適用時に添加する手間を省き、更に完全な高カロリー輸液製剤を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の輸液入り容器の一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明の輸液入り容器の他の実施例を示す概略図である。
【図3】本発明の輸液入り容器の他の実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
1、11、21 容器
2、12、22 第1室
3、13、23 第2室
4、14、24 脂肪乳剤、糖及び第1室ビタミン類を含有する輸液
5、15、25 アミノ酸、電解質及び第2室ビタミン類を含有する輸液
6 連通部
7、16、28 隔離手段
8、9、10、17、18、19、26、27 ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 隔離手段により2つの個室が形成された容器であり、第1室には脂肪乳剤、糖、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE及びビタミンKを含有する輸液が収容されており、第2室にはアミノ酸、電解質、ビタミンB6、ビタミンB12及び葉酸を含有する輸液が収容されていることを特徴とする輸液入り容器。
【請求項2】 第1室及び第2室の少なくとも一方が、パントテン酸類、ニコチン酸類及びビオチンを含有する請求項1記載の輸液入り容器。
【請求項3】 脂肪乳剤、糖、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE及びビタミンKを含有する輸液製剤。
【請求項4】 アミノ酸、電解質、ビタミンB6、ビタミンB12及び葉酸を含有する輸液製剤。
【請求項5】 請求項1又は2記載の輸液入り容器の隔離手段を取り除き、第1室及び第2室に収容されている輸液を混合して調製される脂肪乳剤、糖、アミノ酸、電解質及びビタミン類を含有する輸液製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−209979
【公開日】平成6年(1994)8月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−287419
【出願日】平成5年(1993)10月21日
【出願人】(000137764)株式会社ミドリ十字 (2)