説明

輸液蘇生の効果をモニタする方法

平均動脈圧の相対値が、患者の選択されたサイトにおける水分測定値を得るためのプローブを用いて、非浸潤的に得られる。制御部はデータ・サンプルを収集する。コンバータは、MAP=(DPM−DPM(0))/K(I)によって定義される相関に従って、収集されたデータ(DPM)に応じて平均動脈圧(MAP)の相対値を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に外傷性ショックの診断に関し、より具体的には非侵襲的処置によりそれらの診断を与えるための方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外傷の様々な事例において、被害者は結果として生じる出血性ショックを受けることが多い。出血性ショックは、即座に処置しなければ、外傷に関連した死の重大な原因となり得る。事実、出血性ショックは戦闘死傷の主要な原因である。
【0003】
出血性ショックに対する標準的な治療は、失血を補うための輸液蘇生によるものである。輸液蘇生をモニタすることは、終末器官の灌流と、基となる細胞生理機能への様々なレベルのショックの影響とを判断することを含む。この判断は、輸液投与のタイミングと速度、及び蘇生レベルを判断するのに必須である。普通、平均動脈圧(MAP)が輸液蘇生治療をモニタするのに用いられる変数又はパラメータであるが、しかしMAPを測定するための認められている方法は高度に侵襲的である。
【0004】
病院においては、医療スタッフ及び施設が、安全な環境の中でMAPを測定するために利用できる。即ち、病院には侵襲的処置を行って結果を解釈するための熟練した人員が居る。そのような侵襲的処置のための無菌条件が存在する。
【0005】
しかし、これらの病院の条件は、戦場又は事故現場などの外傷現場には存在しない。MAP測定処置を行うための人員が居たとしても、必要な器具、条件、及び結果を解釈するための訓練された人員が利用できないことは、それらの方法を戦場用に用いることを妨げる。さらに、外傷現場の環境は、なんらかの侵襲的処置を行っている間、患者の最適の安全に対する助けにはならない。
【0006】
輸液蘇生治療はできる限り早く開始しなければならず、輸液蘇生のレベルは外傷患者に対して最適の速度に制御されなければならない。外傷被害者を病院に輸送するのに要する如何なる遅れも、輸液蘇生におけるあらゆる試みの有効性を減ずる可能性がある。しかし、戦場においては、2つの要因が迅速で集中的な治療を妨げる。第1に、使用できる蘇生用輸液の量が、兵士が運べる重さによって制限される。また、戦場環境においては、器官の灌流の適切さを認識することが困難なことが多い。このように、外傷現場における人員が輸液蘇生の有効性に関するフィードバックを適宜に得ることができないことは、最終結果に著しく悪影響を与える。
【発明の開示】
【0007】
従って、本発明の目的は、出血性ショックに対する輸液蘇生治療の効果を評価するための非侵襲的な処置及び方法を提供することである。
本発明の別の目的は、救急救命士が出血性ショックに対する輸液蘇生治療の効果を評価する際に用いるための非侵襲的な処置及び方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、外傷現場において人員が容易に使用できる、出血性ショックに対する輸液蘇生の効果を評価するための非侵襲的な処置及び方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、出血性ショックに対する輸液蘇生治療の効果を評価するための非侵襲的な処置及び方法を実行するための装置を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、救急救命士が出血性ショックに対する輸液蘇生治療の効果を評価する際に用いる、非侵襲的な処置及び方法を実行するための装置を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、外傷現場において人員が容易に使用できる、出血性ショックに対する輸液蘇生の効果を評価するための非侵襲的な処置及び方法を実行するための装置を提供することである。
【0009】
本発明によれば、患者の灌流組織の選択された領域における水分含有量を表すデータ・サンプルを取得することによって、平均動脈圧の示度が得られる。取得されたデータ・サンプルは、次に平均動脈圧と相関を有する表示のための表示値に変換される。
添付の特許請求項は、本発明の内容を詳細に指摘し明確に請求する。本発明の様々な目的、利点、及び新規の特徴は、類似の参照数字が類似の部品を意味する添付の図面と共に以下の詳細な説明を理解することによって、さらに十分に明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、平均動脈圧に関連する表示値を得るための、プローブ11を有する皮膚相計測器10を含んだ装置を示す。プローブ11は基部端にハンドル12を有し、ハンドル12はハンドル12と末端チップ14の間のエクステンション13を有する。末端チップは様々な形状をもつことのできる測定表面15を有する。
基本的に表面15は、絶縁性材料で間隔を空けられた2つの電極によって規定される。この実施形態においては、チップの外側部分は外側の円筒状又は環状の電極を形成する。一つのロッドが内側の電極を形成する。絶縁性材料は環状の形を有し、外側と内側の電極の間に配置される。
【0011】
導電体16は末端チップ14内の電極を、電極を横切って発生する信号をあるサンプリング頻度で読み取るサンプリング・データのための種々の電子回路を含むインタフェース17に結合させる。
米国特許第6,370,426号(2002年)は、基質の相対的水和量を測定するための方法と装置を開示しているが、これは本発明を実行する上で用いることのできる皮膚相計測器10の一例である。
【0012】
MAPコンバータ20は、インタフェース17を通じてプローブ11の動作を制御する。MAPコンバータ20は、キーボード21の形態で示される入力デバイス、並びに、ビデオ・ディスプレイ22及びハード・コピー印刷デバイス23として示される1つ又はそれ以上の出力デバイスに接続する。MAPコンバータ20の特定的な実施は、当業者の視野の範囲内に十分に入る多くの形態を取り得ることが明白となるであろう。
【0013】
メモリ25をもったプロセッサ24を有するMAPコンバータ20の一実施例が図2に示される。プロセッサ24及びメモリ25は、入力インタフェース26を通じてインタフェース17からDPM信号を受け取るために交信する。出力インタフェース27は、信号を1つ又はそれ以上の出力デバイスに転送する。以下で明白となるように、MAPコンバータ20及びディスプレイ22は、以下で説明されるように必要なデータの格納及び解析を実行するため、及び、MAP表示値を提供するために、パーソナル・コンピュータ、又は、DPM信号を受け取る容量をもった他の類似のデバイス中に組み込むことができる。
【0014】
図3は、本発明をコンピュータ・ベースのMAPコンバータ20において実行できる形態で実施するための1つの手続を示す。この手続を論ずる前に、これらの測定を行うためのプロトコルにおける変形と、皮膚相計測器の幾つかの動作特性とを理解することが有用となる。DPM−9003皮膚相計測器などの皮膚相計測器は、一般に製造者によって、しかし幾つかの実施形態においてはユーザによって設定された頻度で、一連の離散的な表示値を発生する。それら表示値が取得される速度は表示速度であり、表示時間は連続した表示の間の時間である。サンプルは一組の表示値を含む。その組は時間又は表示値によって範囲を定めることができる。本発明の評価のために、時間がサンプルの範囲を定めると仮定される。1つの評価のプロトコルにおいては、サンプル時間はプローブがあるサイトで組織に接触した直後に始まり、約10秒後に終了する。
【0015】
評価として、内耳管、舌又は鼻腔の粘膜、肛門、舌下腺、又は灌流組織の任意の他の領域におけるような、1つ又はそれ以上の灌流組織領域からのサンプルを取得するステップを含むことができる。評価はまた、異なる灌流組織領域からの多数のサンプルの連続した組を、別の領域での前の組に対する表示値が完了した後、ある時間間隔をおいて開始する組における第1の領域に関する表示値と共に、取得するステップを含むことができる。
【0016】
MAP表示値を得るための図3に示される手続は、ステップ31でシステムを初期化することによって開始する。図3の特定的に開示された実施においては、システム10を実行する人がサンプル時間を設定する。即ち、その人が表示値を取得する時間幅を識別することになる。ステップ31はまた、初期化が必要である場合には、表示値の時間など、他の変数を設定するステップを含む。
【0017】
ステップ32は検査するサイトを選択する。これは、オペレータに単一又は複数のサイトから表示値を取得する可能性を与える。ステップ33は、一旦プローブ11が患者の口腔内のサイトに適切に配置されると、サンプルに関する表示値取得を開始する。
ステップ34は、図1のDPMインタフェース17からのデータ表示値を受け取り、及び記録するためのループ制御である。初めにステップ34は、普通タイム・スタンプ形式でデータ表示値を記録するステップ35に制御を移す。次にステップ36は、表示値時間に相当する待ち時間を確立する。このループは、検査サンプルがステップ31に規定された通りに完了するまで続き、その後制御はステップ37に移る。
【0018】
ステップ37は、評価を行っている人が追加のサイトがサンプルされるべきかどうかを判断するステップを表す。更なるサイトがサンプルされることになる場合には、プローブ11を別のサイトに移動させることによって選択を実行するために、制御はステップ32に戻る。このように、ステップ32からステップ37までを含むループは、例えば多数のサイトから単一のサンプルを取得するために用いることが可能となる。
【0019】
全てのサイトがサンプルされたときには、ステップ37は制御を、診断の管理者に対してもう一つの制御ポイントを示すステップ40に移動させる。検査は、全てのサイトが一度測定されている場合に、完了したと見なすことができる。検査が多数のサイトからの多数のサンプルを含むべき場合には、ステップ40は制御を、別の組のサンプルを生成するためにステップ32に戻す。示されてはいないが、ステップ40は、制御がその中で移動することになる環境を制御するための、ある時間間隔又は遅延時間又は他のパラメータを含むことが可能であることは明白であろう。
【0020】
検査が完了したときには、ステップ40は制御を、このサンプリングをMAP値に変換するステップ41に移し、ステップ42において例えば図1及び図2のディスプレイでMAP値を表示させる。次いで、ステップ43は図3の手続を終了する。
図4は、平均動脈圧に対する平均DPM表示値の関係を示す。DPM表示値は豚の鼻中隔及び耳道において取得されたものである。図4ではこの関係は直線的である。このグラフの勾配は次に対応するK(I)定数を表す。
【0021】
図4のグラフは、平均DPM表示値と、侵襲的処置によって得られた平均動脈圧の測定値との間の強い相関を示す。平均DPM表示値をDPMで表し、対応する平均動脈圧の相対的な計算値をMAPで表し、ゼロMAP値に対応するDPMをDPM0で表すことにする。図4は、
DPM=K(I)MAP+DPM(0) (1)
の一般的な相関を規定する。MAPについて解くと、
MAP={DPM−DPM(0)}/K(I) (2)
が得られる。
【0022】
明らかなように、K(I)は各解析とともに変化する。図4を見ると、K(I)は正数である。具体的には、K(I)=0.0859及びDPM(0)=28.085である。再び図3を見ると、ステップ41は、データをMAP表示値に変換するためのK(I)の適切な値を、その選択が可能な場合には、選択する。
【0023】
図3による手続と組み合わせた図1及び図2の装置、又は同等の装置及びプログラミングは、現在実施されている高度に侵襲的な方法で得られた通常のMAP表示値との相関を有する、平均動脈圧の表示値及び相対値を与える。さらに、本発明を利用して得られる平均動脈圧は、看護士、救急救命士、及び他の医師以外のスタッフに容易に教示できる、簡単に実施される組織測定に基づいている。従って、医療スタッフを、この診断法を外傷現場で実施するために訓練することが可能である。また、図1から図3までに開示された特定の構造体及び方法の構成部分は、構造体又は構造体の動作の利用を容易にするように修正できることも明白であろう。全てのそれら変更及び修正を、本発明の真の精神と範囲の内に入るものとして包含することが、添付の特許請求項において意図されている。
【0024】
本発明は特定の実施形態によって開示されている。本発明から逸脱することなしに、開示された装置に多くの修正を施すことが可能であることは明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】輸液蘇生治療の効果の示度として平均動脈圧の測定値を得るための、本発明を具体化する装置を描く図である。
【図2】図1に示される制御部の一つの実施形態のブロック図である。
【図3】本発明による、測定中に得られるデータを処理するために用いられる手続の流れ図である。
【図4】図1の装置によって取得される測定値と平均動脈圧との間の1つの関係を描く図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の平均動脈圧の相対値を提供する方法であって、
A.前記患者の灌流組織の選択された領域における組織含有水分量を測定するステップと、
B.前記選択された領域における前記測定された水分量のデータ・サンプルを取得するステップと、
C.前記収集されたデータを平均動脈圧の値に変換するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記測定は、前記選択された領域において連続するインピーダンス測定を行うステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定は、灌流組織の複数の領域において連続するインピーダンス測定を行うステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変換するステップは、DPMがインピーダンス測定値の平均値を表し、DPM(0)がMAP=0に対するDPMの値であり、K(I)が定数であるときに、MAP={DPM−DPM(0)}/K(I)に従って、前記平均動脈圧の相対値MAPを生成するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
異なる解析に対して異なるK(I)の値が保管されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記測定は、前記選択された領域において連続するインピーダンス測定を行うステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記測定は、灌流組織の複数の領域において連続するインピーダンス測定を行うステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
異なる解析に対して異なるK(I)の値が保管されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
患者の平均動脈圧の相対値を提供する装置であって、
A.前記患者の灌流組織の選択された領域における組織含有水分量を測定する手段と、
B.前記選択された領域における前記測定された水分量のデータ・サンプルを取得する手段と、
C.前記収集されたデータを前記平均動脈圧の相対値に変換する手段と、
を含む装置。
【請求項10】
前記測定手段は、前記選択された領域において連続するインピーダンス測定値を生成するための皮膚相計測器を含むことを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記測定手段は、灌流組織の複数の領域において連続するインピーダンス測定値を生成するための皮膚相計測器を含むことを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記変換する手段は、DPMがインピーダンス測定値の平均値を表し、DPM(0)がMAP=0に対するDPMの値であり、K(I)が定数であるときに、MAP={DPM−DPM(0)}/K(I)に従って、前記平均動脈圧の相対値MAPを生成する手段を含むことを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項13】
異なる解析に対して異なるK(I)の値を保管するための手段を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記測定手段は、前記選択された領域において連続するインピーダンス測定値を作成するための、皮膚相計測器手段を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記測定手段は、灌流組織の複数の領域において連続するインピーダンス測定値を作成するための、皮膚相計測器手段を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項16】
異なる解析に対して異なるK(I)の値を保管するための手段を含むことを特徴とする請求項15に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−500144(P2008−500144A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527542(P2007−527542)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/018010
【国際公開番号】WO2005/112756
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(506388761)ノヴァ テクノロジー コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】