説明

農作物の機能性成分の増収方法

【課題】農産物に含まれるポリフェノール類化合物を増収する方法を提供する。
【解決手段】農産物を代謝可能な環境で活性酸素、例えばオゾンの分解により生成されるものに暴露させてその中に含まれる抗酸化性の機能性成分としてのポリフェノール類化合物を増収させる。好ましくは、農産物に応じて、濃度及び/または時間を調整して活性酸素に暴露する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物に含まれる機能性成分、特にポリフェノール類化合物の増収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
緑茶は、日本において古くから人々に最も親しまれてきた茶飲料であり、従来は屋内で茶葉を湯に抽出させて飲用するのが一般的であったが、最近ではペットボトルに入れた状態での提供が普及したこともあって、ジュース等の清涼飲料等と同じように屋外でも手軽に飲用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−261226号公報
【特許文献2】特開平04―258255号公報
【特許文献3】特開平04−258256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、茶葉に種々の処理を施すことは試みられている。
例えば、特許文献1には、茶葉にオゾンを接触させることで、残留農薬を分解すると共に、タンニンと言った苦み成分も分解することが提案されている。
また、特許文献2や特許文献3には、乾燥した茶葉に所定の水分を加え、加熱した上で酸化剤を添加して茶葉に含まれるポリフェノール類化合物を酸化させることにより抽出液の「濁り度」を減らすことが提案されている。
【0005】
最近では、健康志向の高まりにより、ポリフェノール類化合物の呈するコレステロール上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用等と言った効用が着目されている。
而して、従来の茶葉の処理方法は、上記したように、悪影響を及ぼす成分の除去を目的としたものに留まることから、茶葉に含まれる各種成分のうち目的とする有用な機能性成分を増収できれば、その他の茶葉と差別化でき、有望な商品となるものと期待される。
また、上記した処理方法が、茶葉以外の農産物にも適用可能なものであれば、広く一般農産物にも活用できることになる。
【0006】
本発明は、上記した問題点に鑑みて為されたものであり、農産物に含まれる機能性成分を増収する方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、機能性成分として知られるポリフェノール類化合物が抗酸化性物質であり、活性酸素があるとその酸化力を弱めるために、代謝により抗酸化性物質を生成することから、農産物を活性酸素に暴露して農産物の代謝を人工的に励起させることにより、代謝産物であるポリフェノール類化合物を上手く増収できること、更には、ポリフェノール類化合物には種々のものがあり、化合物毎に代謝の励起に濃度や時間の依存性があることから暴露条件を調整することで、農産物毎に目的とするポリフェノール類化合物を効率良く増収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1の発明は、農産物を代謝可能な環境で活性酸素に暴露させてその中に含まれる抗酸化性の機能性成分としてのポリフェノール類化合物を増収させることを特徴とする農産物に含まれる機能性成分の増収方法である。
請求項2の発明は、請求項1に記載した農産物に含まれる機能性成分の増収方法において、農産物に応じて、濃度及び/または時間を調整して活性酸素に暴露することを特徴とする方法である。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した農産物に含まれる機能性成分の増収方法において、オゾンあるいはその分解により発生した活性酸素を用いることを特徴とする方法である。
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した農産物に含まれる機能性成分の増収方法において、農産物として茶葉を用いることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、農産物に含まれるポリフェノール類化合物を増収することができ、より有利なことに、各種化合物群のうち目的とする化合物を効率良く増収できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例における試験結果(エピガロカテキン)を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例における試験結果(ケンフェロール(配糖体))を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例における試験結果(ケルセチン(配糖体))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
処理対象物はポリフェノール類化合物を含む農作物である。
本発明におけるポリフェノール類化合物は、カテキン類(カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)、フラボノール類(ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン)やその他のフラボノイド類(フラバノン、フラボン、イソフラボン、フラバノノール、カルコン、オーロン類等)を含み、分子内にフェノール性水酸基を複数有する。これらは4000種類以上があるが、いずれの化合物も抗酸化性を有する限り、増収対象となり得る。
従って、ポリフェノール類化合物を含む農産物には、煎茶、抹茶などの緑茶に代表される不発酵茶や紅茶等の酸化発酵茶からなる茶類、小豆、大豆等の豆類、赤キャベツ、玉ねぎ、なす、カリフラワー、ニンジン、ピーマン、ほうれんそう等の野菜類、オレンジ、グレープフルーツ、柿、バナナ等の果物類など、広範囲のものが該当することになり、種類に応じて、スプラウト、葉、種子、果実等の部位となっている。なお、茶葉の場合には、流通過程に行く前に既に加熱処理されているものもあるが、本発明の方法では代謝を利用していることから、細胞が死んでいない生茶葉が処理対象物となる。
【0012】
上記した処理対象物たる農産物を代謝可能な環境で活性酸素に暴露させる。
活性酸素はオゾン(O)の分解により生成され、現在のところ、オゾンガス発生器は比較的廉価でしかもコンパクトに提供されることから、活性酸素の供給源としてオゾンを利用するのが最も都合が良い。
オゾンガスを用いる場合には、代謝可能な環境で活性酸素に暴露させることから、オゾンガスを含んだ混合空気が流通する雰囲気下に農産物の表面が晒され得るようにしておく。なお、オゾンは酸化作用を併せ持っており、適正範囲を超えて高濃度に存在すると、野菜の組織が損傷する危険性があるので、その点から農作物毎に上限濃度は存在する。
【0013】
上記したようにポリフェノール類化合物には種々のものがあり、化合物毎に代謝の励起に濃度や時間の依存性があることから、目的とするポリフェノール類化合物の励起に最も適した暴露条件、即ちオゾンガス濃度や暴露時間を設定するにより、その化合物を効率良く増収できる。
【実施例】
【0014】
切り取った茶葉(長さ約5cm)とオゾン発生器(商品名:リオン、型番:TM-08IRZ、製造:株式会社タムラテコ)を密閉空間に置き、3〜4ppmおよび0.03ppmの2種類のオゾンガス濃度の混合空気雰囲気下で活性酸素に暴露した。雰囲気の温度は20℃〜25℃、湿度40%〜70%とした。暴露時間は12時間、24時間と分け、それぞれの時間暴露した。
その後、茶葉を液体窒素の存在下乳鉢・乳棒を用いて粉末にし、HO:MeOH=1:1で抽出し、超音波破砕した。フィルター(Millex−LG)でろ過後、Waters UPLC−TOF−MSを用いて以下の条件で分析した。
HPLC条件:カラム、BEHC18(waters);移動相、水-アセトニトリル;カラム温度、40℃;サンプル温度、4℃;インジェクション量、3μl;流量、0.25ml/分
分析結果は、ソフトMarkerLynxにより解析し、さらにChemSpiderに照合した。
【0015】
図1〜図3において縦軸はWaters UPLC−TOF−MSでのイオン数(ion count)である。
その結果、図1に示すように、エピガロカテキンについては、暴露時間が12時間、24時間のいずれでも、増収が確認された。特に、オゾンガスの濃度が0.03ppmで暴露時間が12時間の場合に、対照と比べて顕著な増収が確認された。
また、図2に示すように、ケンフェロール(配糖体)については、保持時間3.9分の配糖体では、特にオゾンガスの濃度が3〜4ppmで暴露時間が24時間の場合に、保持時間5.2分の配糖体では、特にオゾンガスの濃度が3〜4ppmで暴露時間が24時間の場合に、それぞれ対照と比べて顕著な増収が確認された。
さらに、図3に示すように、ケルセチン(配糖体)については、保持時間4.6分の配糖体では、特にオゾンガスの濃度が3〜4ppmで暴露時間が24時間の場合に、対照と比べて顕著な増収が確認された。
上記の結果は、代表的なものであり、分子量と保持時間で同定される成分として35以上の増収が確認された。
【0016】
上記の結果から、ポリフェノール類化合物は活性酸素に暴露されれば代謝が励起されて増収されること、および、化合物毎に代謝の励起に濃度や時間の依存性があることが実証された。
したがって、農作物の種類に応じてそこに優先的に含まれるポリフェノール類化合物の種類は異なることから、その化合物に対応して最適な濃度や時間を設定することにより、農作物毎に効率良く機能性成分を増収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の方法によれば、製茶工程に加え、スプラウト生産最終過程あるいは農作物保存中での実施が可能であり、実用化の潜在性が高いと期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
農産物を代謝可能な環境で活性酸素に暴露させてその中に含まれる抗酸化性の機能性成分としてのポリフェノール類化合物を増収させることを特徴とする農産物に含まれる機能性成分の増収方法。
【請求項2】
請求項1に記載した農産物に含まれる機能性成分の増収方法において、
農産物に応じて、濃度及び/または時間を調整して活性酸素に暴露することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した農産物に含まれる機能性成分の増収方法において、
オゾンあるいはその分解により発生した活性酸素を用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した農産物に含まれる機能性成分の増収方法において、
農産物として茶葉を用いることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−90534(P2012−90534A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238332(P2010−238332)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【出願人】(000125680)株式会社ケーイーコーポレーション (9)
【Fターム(参考)】