説明

近接センサ

【課題】簡単な構成で温度補償が行える近接センサを提供することにある。
【解決手段】近接センサは、被検知体の検知用の検知コイル10を有したLC共振回路部1と、LC共振回路部1を発振させる発振回路部2と、LC共振回路部1の発振振幅に基づいて被検知体の検知信号を作成する信号処理部4とを備え、発振回路部2は、LC共振回路部1の発振電圧をレベルシフトしてレベルシフト電圧を生成するレベルシフト回路21と、当該レベルシフト電圧がベースに入力されるトランジスタQ1からなるエミッタフォロワ回路22と、エミッタフォロワ回路22が出力する電流の大きさに応じた帰還電流をLC共振回路部1に供給する電流帰還回路23とを有し、レベルシフト回路21は、レベルシフト電圧の温度係数をトランジスタQ1のベース−エミッタ間電圧の温度係数とは異ならせる温度係数設定手段となる抵抗RLからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波発振型の近接センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、非接触で金属体(導電体)や磁性体などからなる被検知体を検知する近接センサとして、高周波発振型の近接センサが提案されている。
【0003】
上記高周波発振型の近接センサは、検知コイルとコンデンサとの並列回路よりなるLC共振回路部と、LC共振回路部に電流を正帰還させることによってLC共振回路部を発振させる発振回路部とを有している。
【0004】
このような近接センサでは、LC共振回路部を構成する検知コイルに被検知体が接近した際に、電磁誘導作用によって渦電流損が生じて検知コイルのコンダクタンスが変化するという現象を利用して被検知体の検知を行っている。つまり、LC共振回路部が発振するための条件は、検知コイルのコンダクタンスと共振回路部の負性コンダクタンスとの和が0以下となることであるから、検知コイルのコンダクタンスが変化して、検知コイルのコンダクタンスと発振回路部の負性コンダクタンスとが上記発振条件を満たさなくなると、LC共振回路部の発振振幅が減衰してやがて発振が停止する。
【0005】
したがって、上記近接センサでは、LC共振回路部の発振が停止または発振振幅が所定値以上減衰した際に、被検知体が存在していると判定する。
【0006】
ところで、検知コイルのコンダクタンスは正の温度係数(温度特性)を有しており、温度によってその値が増減することになる。そのため、検知コイルの温度が変化した場合には、検知コイルと被検知体との距離が変化していないにも関わらず、検知コイルのコンダクタンスと発振回路部の負性コンダクタンスとが上記発振条件を満たさなくなって、LC共振回路部の発振が停止または発振振幅が所定値以上減衰して、近接センサが誤動作してしまうおそれがあった。
【0007】
上述したような温度による近接センサの誤動作を防止するためには、検知コイルのコンダクタンスが温度変化したときでも、検知コイルのコンダクタンスと発振回路部の負性コンダクタンスとが上記発振条件を満たすように、負性コンダクタンスに温度特性を持たせることが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0008】
例えば、特許文献1には、検出コイルとコンデンサとからなる並列共振回路(LC共振回路部)と、並列共振回路に電流を帰還するカレントミラー回路とを含む発振回路を備えた近接センサにおいて、カレントミラー回路の基準電流側のトランジスタのエミッタに温度によって電圧または抵抗が変化する温度補償素子(例えばサーミスタなど)を接続することが開示されている。
【0009】
一方、特許文献2には、LC共振回路と、レベルシフト回路と、レベルシフト回路の出力電圧を電流に変換する電圧−電流変換回路と、電圧−電流変換回路の出力電流に等しい電流を共振回路に帰還させるカレントミラー回路とを備えた近接センサにおいて、カレントミラー回路の電流帰還回路に差動増幅器を挿入し、この差動増幅器の入力端に、当該入力端の電位差を調整する電位差発生回路を接続し、電位差発生回路の入力端にトランジスタからなる温度補償回路を接続したものが開示されている。
【特許文献1】特開2005−295248号公報
【特許文献2】特公平2−12415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に示す例では、温度補償素子によってカレントミラー回路から並列共振回路に帰還する電流に温度特性を持たせることで、発振回路部の負性コンダクタンスに温度特性を持たせ、これによって温度補償を行っている。上記特許文献1によれば、温度補償素子を付加するだけでよいので、回路構成は簡単であるが、温度補償素子として用いているサーミスタは抵抗値のばらつきが大きいために、負性コンダクタンスがばらついて、このことが検知精度の低下の一因となるという問題があった。
【0011】
一方、上記特許文献2によれば、サーミスタなどの温度補償素子を用いなくて済むから、上記特許文献1の問題点を解消することはできいていたが、差動増幅器や、電位差発生回路、温度補償回路などを付加する必要があり、回路構成が複雑になるという問題があった。
【0012】
本発明は上述の点に鑑みて為されたもので、その目的は、簡単な構成で温度補償が行える近接センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明では、被検知体の検知に用いられる検知コイルおよびコンデンサからなるLC共振回路部と、LC共振回路部を発振させる発振回路部と、LC共振回路部の発振振幅に基づいて被検知体の検知信号を作成する信号処理部とを備え、発振回路部は、LC共振回路にバイアス電流を供給するバイアス回路と、LC共振回路部の発振電圧をレベルシフトしてレベルシフト電圧を生成するレベルシフト回路と、当該レベルシフト電圧がベースに入力されるトランジスタからなるエミッタフォロワ回路と、エミッタフォロワ回路が出力する電流の大きさに応じた帰還電流をLC共振回路部に供給する電流帰還回路とを有し、レベルシフト回路とバイアス回路との少なくとも一方は、上記レベルシフト電圧の温度係数を上記トランジスタのベース−エミッタ間電圧の温度係数とは異ならせる温度係数設定手段を有していることを特徴とする。
【0014】
請求項1の発明によれば、エミッタフォロワ回路のトランジスタのベース−エミッタ間電圧の温度係数と、このトランジスタのベースに入力されるレベルシフト電圧の温度係数とが異なっているために、ベース−エミッタ間電圧とレベルシフト電圧との差が温度によって増減するので、エミッタフォロワ回路の出力電流も温度によって増減して、当該出力電流が増減した際には、負性コンダクタンスの大きさを決定する帰還電流も増減することになるから、上記ベース−エミッタ間電圧の温度係数と、上記レベルシフト電圧の温度係数とを異ならせることによって、負性コンダクタンスの温度係数を検知コイルのコンダクタンスの温度係数と等しくすることが可能となって、温度補償を行うことができる。しかも、上記ベース−エミッタ間電圧の温度係数と、上記レベルシフト電圧の温度係数とを異なる値に設定するだけでよいから、温度補償のためにサーミスタなどの温度検知用の素子などを設けなくて済み、簡単な構成で温度補償を実現できる。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記レベルシフト回路は、上記LC共振回路部1と上記トランジスタのベースとの間に挿入された1乃至複数の抵抗を有し、上記温度係数設定手段は、上記抵抗であることを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明によれば、簡単な構成で温度係数設定手段を有するレベルシフト回路を得ることができる。
【0017】
請求項3の発明では、請求項1または2の発明において、上記バイアス回路は、バイアス電流の大きさを設定するバイアス電流設定回路と、当該バイアス電流設定回路で設定された大きさのバイアス電流を出力するバイアス電流出力回路とを備え、バイアス電流設定回路は、少なくとも1つのダイオードと、バイアス電流設定用抵抗との直列回路からなり、上記温度係数設定手段は、バイアス電流設定回路であることを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明によれば、簡単な構成で温度係数設定手段を有するバイアス回路を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、簡単な構成で温度補償が行えるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施形態1)
本実施形態の近接センサは、図1に示すように、被検知体(図示せず)の検知に用いられる検知コイル10およびコンデンサ11の並列回路からなるLC共振回路部1と、LC共振回路部1を発振させる発振回路部2と、LC共振回路部1の発振振幅を検出するモニタ部3と、LC共振回路部1の発振振幅に基づいて被検知体の検知信号を作成する信号処理部4とを備えている。
【0021】
LC共振回路部1に用いる検知コイル(検出コイル)10は、例えば、円筒状のコイルボビン(図示せず)の外周面に、コイルボビンの軸方向に巻軸方向を沿わせた形で巻回されたものを用いている。そして、被検知体は、例えば、金属体(導電体)や磁性体よりパイプ状に形成されたものであって、検知コイル10の巻軸方向に沿って検知コイル10のすぐ外側を通る形で配置されている。LC共振回路部1の発振電圧の周波数は、検知コイル10のインダクタンスとコンデンサ11の静電容量とにより決定される。なお、上述したような検知コイル10および被検知体の構成は一例に過ぎず、例えば、被検知体は磁性体により形成されたものであってもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更できる。
【0022】
本実施形態の近接センサでは、発振回路部2と、モニタ部3と、信号処理部4とはモノリシックICとして一体化されている。
【0023】
発振回路部2は、内部電源VccよりLC共振回路1に一定のバイアス電流を供給する定電流源であるバイアス回路20と、LC共振回路部1の発振電圧をレベルシフトしてレベルシフト電圧VLを生成するレベルシフト回路21と、当該レベルシフト電圧VLがベースに入力されるトランジスタQ1からなるエミッタフォロワ回路22と、エミッタフォロワ回路22が出力する電流の大きさに応じた帰還電流をLC共振回路部1に供給する電流帰還回路23と、感度設定用抵抗24とを有している。
【0024】
レベルシフト回路21は、LC共振回路部1とトランジスタQ1のベースとの間に挿入された抵抗RLからなる。したがって、レベルシフト回路21のレベルシフト電圧VLは、抵抗RLの両端電圧だけLC共振回路部1の発振電圧をレベルシフトさせてなる電圧である。抵抗RLの両端電圧は、バイアス回路20が出力するバイアス電流と抵抗RLの抵抗値とで決定され、本実施形態におけるバイアス回路20は一定のバイアス電流を出力するから、抵抗RLの両端電圧は、抵抗RLの抵抗値の温度係数に応じて温度変化する。
【0025】
したがって、レベルシフト回路21の抵抗RLの温度係数を適宜設定することによって、レベルシフト電圧VLの温度係数を所望の値に設定することができる。つまり、本実施形態の近接センサでは、レベルシフト回路21の抵抗RLが、レベルシフト電圧VLの温度係数をトランジスタQ1のベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数とは異ならせる温度係数設定手段を構成している。
【0026】
エミッタフォロワ回路(エミッタホロワ回路)22は、トランジスタQ1により構成され、トランジスタQ1のベースに入力された電圧に応じた電流を出力する電圧電流変換回路として用いられている。トランジスタQ1のエミッタは、感度設定用抵抗24を介してグラウンド(グランド)に接続され(接地され)ている。このエミッタフォロワ回路22のトランジスタQ1のベースには、レベルシフト回路21で生成されたレベルシフト電圧VLが入力される。したがって、エミッタフォロワ回路22のエミッタ電圧Veは、レベルシフト電圧VLからトランジスタQ1のベース−エミッタ電圧Vbeを差し引いた値(=VL−Vbe)となる。そのため、レベルシフト回路21の抵抗RLの抵抗は、トランジスタQ1のベース−エミッタ間電圧Vbe以上、発振電圧をレベルシフトさせる値に設定されている。
【0027】
電流帰還回路23は、pnp形のトランジスタQ2,Q3により構成されたカレントミラー回路であり、LC共振回路部1の発振を維持するためにLC共振回路部1に電流を正帰還させる。トランジスタQ2は、エミッタフォロワ回路22のトランジスタQ1と内部電源Vccとの間に、コレクタをトランジスタQ1のコレクタに、エミッタを内部電源Vccにそれぞれ接続する形で挿入されている。トランジスタQ2のベースは、トランジスタQ3のベースに接続され、トランジスタQ3のエミッタは内部電源Vccに接続され、コレクタはLC共振回路部1とレベルシフト回路21との接続点に接続されている。
【0028】
ここで、エミッタフォロワ回路22から電流が出力される際には、この電流に等しいトランジスタQ1のコレクタ電流が、トランジスタQ2のエミッタ−コレクタ間に流れることになる。そして、トランジスタQ3のエミッタ−コレクタ間には、トランジスタQ2のエミッタ−コレクタ間に流れた電流に等しい電流が流れ、この電流がLC共振回路部1に供給される帰還電流となる。つまり、本実施形態における電流帰還回路23は、エミッタフォロワ回路22が出力する電流に等しい帰還電流をLC共振回路部1に供給する。
【0029】
感度設定用抵抗24は、エミッタフォロワ22が出力する電流の大きさを制限、すなわち帰還電流を制限することで、LC共振回路部1の発振が停止する被検知体と検知コイル10との距離(つまり検知コイルの検知範囲)を設定するためのものである。なお、感度設定用抵抗24としては少なくとも近接センサの使用が想定される温度範囲において温度係数がほぼ0であるようなものを採用している。
【0030】
モニタ部3は、トランジスタQ1のエミッタ電圧を監視することでLC共振回路部1の発振振幅を検出する検波回路からなる。このようなモニタ部3としては、例えば、発振振幅を示す値として、発振電圧のピーク値を検出する回路や、発振電圧の積分値を検出する回路、発振電圧の実効値を検出する回路などが採用できる。なお、モニタ部3は従来周知のものを採用できるから詳細な説明は省略する。
【0031】
信号処理部4は、例えばCPUなどからなり、上述したように、モニタ部3で検出した発振振幅に基づいて、LC共振回路部1の発振状態を識別し、発振が停止していなければ、被検知体が検知コイル10の検知範囲内に存在しないことを示す検知信号を出力し、発振が停止していれば、被検知体が検知コイル10の検知範囲内に存在することを示す検知信号を作成し、外部へ出力する。
【0032】
次に本実施形態の近接センサにおける温度補償の方法について説明する。
【0033】
LC共振回路部1が発振する条件は、発振回路部2の負性コンダクタンスの絶対値が、検知コイル10のコンダクタンスの絶対値以上であること、すなわち、発振回路部2の負性コンダクタンスをGosc(ただしGoscは負の値である)、検知コイル10のコンダクタンスをGcoil(ただしGcoilは正の値である)とすれば、負性コンダクタンスGoscとコンダクタンスGcoilとが、Gcoil≦|Gosc|の関係にあるときである。そして、検知コイル10のコンダクタンスGcoilは、正の温度係数を有しているから、温度によって発振状態が変化しないためには(温度補償を行うためには)、発振回路部2の負性コンダクタンスGoscの絶対値が、検知コイル10のコンダクタンスGcoilと同様に正の温度係数を有している必要がある。
【0034】
負性コンダクタンスGoscは、LC共振回路部1の発振振幅をVT、帰還電流をIfbとすると、次式(1)で表すことができる。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、帰還電流Ifbは、エミッタフォロワ回路22のエミッタ電圧Veと、感度設定用抵抗24の抵抗値とで決まり、感度設定用抵抗24の抵抗値をReとすれば、次式(2)で表すことができる。
【0037】
【数2】

【0038】
そうすると、負性コンダクタンスGoscの絶対値がコンダクタンスGcoilと同様に正の温度係数を有するためには、エミッタ電圧Veが正の温度係数を有している必要がある。エミッタ電圧Veは、レベルシフト電圧VLからベース−エミッタ間電圧Vbeを差し引いた値であるから、レベルシフト電圧VLの温度係数と、ベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数とが同じでなければ、エミッタ電圧Veの値は温度依存性を示す。そして、エミッタ電圧Veが正の温度係数を有するためには、ベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数(一般には負の値をとる)よりも、レベルシフト電圧VLの温度係数が大きいことが必要である。
【0039】
つまり、負性コンダクタンスGoscの絶対値の温度係数はエミッタ電圧Veの温度係数によって決まり、エミッタ電圧Veの温度係数はレベルシフト電圧VLとベース−エミッタ間電圧Vbeそれぞれの温度係数によって決まり、レベルシフト電圧VLの温度係数はレベルシフト回路21の抵抗RLの温度係数によって決まるため、抵抗RLの温度係数によって、負性コンダクタンスGoscの絶対値の温度係数を設定することができる。
【0040】
そのため、抵抗RLの温度係数を、負性コンダクタンスGoscの絶対値の温度係数が、コンダクタンスGcoilの温度係数に等しくなる値に設定することによって、コンダクタンスGcoilと負性コンダクタンスGoscとの差が温度によらずに一定にすることができ、温度によって発振状態が変化することを抑制できるから、温度変化に起因する誤検知を防止できる。
【0041】
このように本実施形態の近接センサでは、抵抗RLの温度係数を、コンダクタンスGcoilと負性コンダクタンスGoscとの温度係数が等しくなる値に設定することによって、温度補償を行っている。
【0042】
以上述べたように本実施形態の近接センサによれば、エミッタフォロワ回路22のトランジスタQ1のベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数と、このトランジスタQ1のベースに入力されるレベルシフト電圧VLの温度係数とが異なっているために、ベース−エミッタ間電圧Vbeとレベルシフト電圧VLとの差が温度によって増減するので、エミッタフォロワ回路22の出力電流も温度によって増減して、当該出力電流が増減した際には、負性コンダクタンスGoscの大きさを決定する帰還電流Ifbも増減することになるから、ベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数と、レベルシフト電圧VLの温度係数とを異ならせることによって、負性コンダクタンスGoscの温度係数を検知コイル10のコンダクタンスGcoilの温度係数と等しくすることが可能となって、温度補償を行うことができる。しかも、ベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数と、レベルシフト電圧VLの温度係数とを異なる値に設定するだけでよいから、上記特許文献1のように温度補償のためにサーミスタなどの温度補償用の素子などを設けなくて済み、温度補償用の素子を用いたことによって負性コンダクタンスがばらついて、検知精度が低下するといった問題が生じることもなく、上記特許文献2のように差動増幅器や、電位差発生回路、温度補償回路などを付加する必要がないから回路構成が複雑になることもなく、簡単な構成で温度補償を実現できる。
【0043】
特に本実施形態におけるレベルシフト回路21は、LC共振回路部1とトランジスタQ1のベースとの間に挿入された抵抗RLからなり、温度係数設定手段は、抵抗RLであるので、簡単な構成で温度係数設定手段を有するレベルシフト回路21を得ることができる。
【0044】
なお、本実施形態におけるレベルシフト回路21は、LC共振回路部1とトランジスタのベースとの間に挿入された抵抗RLを1つ有しているが、抵抗RLの数は1つに限定されず、複数であってもよく、その接続方法も、直列接続や並列接続に限らず種々の接続方法を採用できる。この場合においても複数の抵抗RLの合成抵抗の温度係数によって、レベルシフト電圧VLの温度係数を設定できるため、抵抗RLが温度係数設定手段を構成することになる。
【0045】
また、本実施形態における近接センサは、常時はLC共振回路部1が発振しており、被検知体の接近によってLC共振回路部1の発振が停止する近接センサを利用しているが、常時はLC共振回路部1の発振が停止しており、被検知体の接近によってLC共振回路部1が発振する近接センサを利用するようにしてもよい。また、本実施形態における近接センサの例はあくまでも一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない程度の変更は可能である。
【0046】
(実施形態2)
本実施形態の近接センサは、図2に示すように、バイアス回路20の構成が実施形態1と異なっており、その他の構成は実施形態1と同様であるから、同様の構成については同一の符合を付して説明を省略する。
【0047】
本実施形態におけるバイアス回路20は、バイアス電流の大きさを設定するバイアス電流設定回路20aと、当該バイアス電流設定回路20aで設定された大きさのバイアス電流を出力するバイアス電流出力回路20bとを備えている。
【0048】
バイアス電流設定回路20aは、直列接続された複数のダイオードDと、バイアス電流設定用抵抗RBとの直列回路からなる。ダイオードDは、バイアス電流に温度依存を生じさせるためのものである。バイアス電流設定用抵抗RBは、直列接続された複数のダイオードDのカソード側とグラウンドとの間に挿入されている。バイアス電流設定用抵抗RBはレベルシフト回路21の抵抗RLと同種の抵抗を用いることが好ましく、このようにすれば、レベルシフト電圧VLのばらつきを抑制できる。
【0049】
バイアス電流出力回路20bは、pnp形のトランジスタQ4,Q5により構成されたカレントミラー回路である。トランジスタQ4のエミッタは内部電源Vccに接続され、コレクタはバイアス設定用回路20aにおける直列接続された複数のダイオードDのアノード側に接続されている。またトランジスタQ4のコレクタとベースとは互いに接続されている。トランジスタQ5のベースはトランジスタQ4のベースに接続され、エミッタは内部電源Vccに接続されている。トランジスタQ5のコレクタはレベルシフト回路21の抵抗RLを介してLC共振回路部1に接続されている。
【0050】
このようなバイアス電流出力回路20bからは、バイアス電流設定回路20aに流れる電流と同じ大きさのバイアス電流が出力されることになる。
【0051】
ここで、バイアス電流設定回路20aに流れる電流は、主として、直列接続された複数のダイオードDの順方向電圧の合計値と、バイアス電流設定用抵抗RBの抵抗値とによって決定される。ここで、ダイオードDの順方向電圧は一般に負の温度係数を有しているので、バイアス電流設定回路20aに流れる電流の温度係数は、ダイオードDの温度係数によって決まる。
【0052】
そのためバイアス電流出力回路20bから出力されるバイアス電流も、ダイオードDの温度係数によって決まる温度係数を有することになる。
【0053】
そして、バイアス電流が温度によって変化すれば、バイアス電流と抵抗RLの抵抗値とで決まる抵抗RLの両端電圧も温度によって変化することになるから、レベルシフト電圧VLも温度によって変化することになる。
【0054】
したがって、バイアス回路20のバイアス電流設定回路20bに流れる電流の温度係数を適宜設定することによって、レベルシフト電圧VLの温度係数を所望の値に設定することができる。つまり、本実施形態の近接センサのバイアス回路20では、バイアス電流設定回路20bが、レベルシフト電圧VLの温度係数をトランジスタQ1のベース−エミッタ間電圧Vbeの温度係数とは異ならせる温度係数設定手段を構成している。
【0055】
なお、温度係数設定手段によって、温度補償を行う方法については実施形態1で述べたとおりであり、バイアス電流設定回路20bによっても同様の方法により温度補償を行うことができるから、詳細な説明は省略する。
【0056】
以上述べた本実施形態の近接センサによれば、上記実施形態1と同様の効果を奏する上に、簡単な構成で温度係数設定手段を有するバイアス回路20を得ることができる。
【0057】
なお、本実施形態の近接センサは、レベルシフト回路21とバイアス回路20との両方に温度係数設定手段を設けているが、バイアス回路20にのみ温度係数設定手段を設けるようにしてもよい。
【0058】
ただし、レベルシフト回路21と、バイアス回路20との両方に温度係数設定手段を設けているほうが、レベルシフト回路21の温度係数設定手段だけでは、負性コンダクタンスGoscの絶対値の温度係数を所望の値に設定することが難しいような場合であっても、バイアス回路20の温度係数設定手段を併せて用いることで負性コンダクタンスGoscの絶対値の温度係数を所望の値に設定することができ、レベルシフト電圧VLの温度係数の設定が行いやすくなる点で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施形態1の近接センサの回路ブロック図である。
【図2】実施形態2の近接センサの回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0060】
1 LC共振回路
2 発振回路部
4 信号処理部
10 検知コイル
11 コンデンサ
20 バイアス回路
20a バイアス電流設定回路
20b バイアス電流出力回路
21 レベルシフト回路
22 エミッタフォロワ回路
23 電流帰還回路
Q1 トランジスタ
RL 抵抗(温度係数設定手段)
RB バイアス電流設定用抵抗
D ダイオード(温度係数設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知体の検知に用いられる検知コイルおよびコンデンサからなるLC共振回路部と、LC共振回路部を発振させる発振回路部と、LC共振回路部の発振振幅に基づいて被検知体の検知信号を作成する信号処理部とを備え、
発振回路部は、LC共振回路にバイアス電流を供給するバイアス回路と、LC共振回路部の発振電圧をレベルシフトしてレベルシフト電圧を生成するレベルシフト回路と、当該レベルシフト電圧がベースに入力されるトランジスタからなるエミッタフォロワ回路と、エミッタフォロワ回路が出力する電流の大きさに応じた帰還電流をLC共振回路部に供給する電流帰還回路とを有し、
レベルシフト回路とバイアス回路との少なくとも一方は、上記レベルシフト電圧の温度係数を上記トランジスタのベース−エミッタ間電圧の温度係数とは異ならせる温度係数設定手段を有していることを特徴とする近接センサ。
【請求項2】
上記レベルシフト回路は、上記LC共振回路部1と上記トランジスタのベースとの間に挿入された1乃至複数の抵抗を有し、
上記温度係数設定手段は、上記抵抗であることを特徴とする請求項1記載の近接センサ。
【請求項3】
上記バイアス回路は、バイアス電流の大きさを設定するバイアス電流設定回路と、当該バイアス電流設定回路で設定された大きさのバイアス電流を出力するバイアス電流出力回路とを備え、
バイアス電流設定回路は、少なくとも1つのダイオードと、バイアス電流設定用抵抗との直列回路からなり、
上記温度係数設定手段は、バイアス電流設定回路であることを特徴とする請求項1または2記載の近接センサ。

【図1】
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【図2】
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