説明

近接型アンテナ及び無線通信機

【課題】従来より広く他の部品の設置場所を確保できる近接型アンテナを提供すること。
【解決手段】近接型アンテナ10は、信号端12aから接地端12bに向かって水平面内の所定方向に巻回された配線パターン12と、信号端13aから接地端13bに向かって水平面内の上記所定方向の逆方向に巻回された配線パターン13とを備え、配線パターン12と配線パターン13とが垂直方向に並置されていることを特徴とする。これにより、1ターン分の配線幅でスパイラルコイル数ターン分の特性を得ることができるので、従来より広く他の部品の設置場所を確保することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接型アンテナ及びこの近接型アンテナを搭載した無線通信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの小型無線機器の高性能化は目覚ましく、非接触型ICカード(例えば、NFC(Near Field Communication)規格準拠のICカード。具体的には、MIFARE(登録商標)やFelica(登録商標)など。)に対応するものも登場している。そのような小型無線機器には、MHz帯の周波数での非接触通信用のアンテナ(以下、近接型アンテナという。)が搭載される。
【0003】
近接型アンテナとしては、プリント基板上にエッチング加工によって形成した数ターンのスパイラルコイルを用いることが一般的である(例えば特許文献1参照。)。数ターンにするのは、数ターン未満のターン数では十分な通信特性が得られないからである。他に、小型無線機器の筐体内面にワイヤーを数回巻いて近接型アンテナとする例も知られているが、形状が崩れやすく、アンテナ特性にバラつきが生じやすく、通信距離が短くなってしまう場合などもある。
【0004】
話は変わるが、共振器の構造のひとつとして、インターディジタル結合という構造が知られている。これは、一対の板状の共振器を近傍に並べ、それぞれの開放端(信号供給端)と短絡端とが互いに向かい合うようにしたもので、共振器単体での共振周波数を中心にして、高低に分離するという特徴を有する(以下、この分離した状態を、混成共振モードという。)。インターディジタル結合共振器では、低い方の共振周波数を動作周波数とすることにより、各共振器の長さを単体で用いる場合に比べて短くすることができるとともに、良好なバランス特性が得られる。また、導体損失も少なくなる。特許文献2の[0038]段落〜[0055]段落には、以上のことが詳しく説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−93867号公報
【特許文献2】特開2007−60618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、小型無線機器の高性能化に伴い、使用部品点数も増大の一途をたどっている。そのような状況の中にあって、例えば、上記近接型アンテナは縦40mm、横30mm、3ターン分の配線幅4mmと小型無線機器の搭載部品としては極めて占有面積が大きく、他の部品の設置場所を狭めている。それだけでなく、近接型アンテナのアンテナ特性は、近傍(特にコイル導体の真下)に金属製の部品があるだけで悪化してしまうという問題もあり、近接型アンテナは部品レイアウト上の難題となっている。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、従来より広く他の部品の設置場所を確保できる近接型アンテナ及びこの近接型アンテナを搭載した無線通信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明による近接型アンテナは、信号端から接地端に向かって水平面内の所定方向に巻回された第1のループアンテナと、信号端から接地端に向かって水平面内の前記所定方向の逆方向に巻回された第2のループアンテナとを備え、前記第1のループアンテナと前記第2のループアンテナとが垂直方向に並置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、1ターン分の配線幅で、スパイラルコイル数ターン分の特性を得ることができる。したがって、従来より広く他の部品の設置場所を確保することが可能になる。
【0010】
また、上記近接型アンテナにおいて、絶縁性材料で構成された基板をさらに備え、前記第1のループアンテナは前記基板の一方面に形成され、前記第2のループアンテナは前記基板の他方面に形成されることとしてもよい。これによれば、基板の両面を用いて、第1のループアンテナと第2のループアンテナとを垂直方向に並置することが可能になる。
【0011】
また、上記近接型アンテナにおいて、前記基板は、前記一方面に形成された第1乃至第3のパッド電極と、前記他方面に形成された第4乃至第6のパッド電極と、前記第1のパッド電極と前記第4のパッド電極とを接続する第1のスルーホール導体と、前記第2のパッド電極と前記第5のパッド電極とを接続する第2のスルーホール導体と、前記第3のパッド電極と前記第6のパッド電極とを接続する第3のスルーホール導体とを有し、前記第1のパッド電極は前記第1のループアンテナの信号端と接続し、前記第2のパッド電極は前記第1のループアンテナの接地端と接続し、前記第5のパッド電極は前記第2のループアンテナの接地端と接続し、前記第6のパッド電極は前記第2のループアンテナの信号端と接続することとしてもよい。これによれば、基板の両面を対称構造とすることができるので、近接型アンテナを通信機内に設置する際の設計が容易になる。
【0012】
また、本発明による無線通信機は、上記各近接型アンテナを搭載することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来より広く他の部品の設置場所を確保できる近接型アンテナを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好ましい実施の形態による近接型アンテナの概観を示す略斜視図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の好ましい実施の形態による近接型アンテナをおもて面及びうら面から見た平面図である。
【図3】本発明の好ましい実施の形態による近接型アンテナへの接続関係を示した模式図である。
【図4】(a)は、互いにインターディジタル結合する共振器を有するアンテナの平面図である。(b)は、(a)に示したアンテナの動作周波数を共振周波数fとした場合に、各共振器に流れる電流と、各共振器に発生する電界Eの分布とを示す図である。(c)は、(a)に示したアンテナの動作周波数を共振周波数fとした場合に、各共振器に流れる電流と、各共振器に発生する電界Eの分布とを示す図である。(d)(e)はともに、(a)のA−A’線断面図である。(d)には、(a)に示したアンテナの動作周波数を共振周波数fとした場合に各共振器の周囲に生ずる磁界Hの分布を示している。(e)には、(a)に示したアンテナの動作周波数を共振周波数fとした場合に各共振器の周囲に生ずる磁界Hの分布を示している。
【図5】(a)は、本発明の好ましい実施の形態による近接型アンテナを使用する小型無線通信機の回路構成を示す図である。(b)は、近接型アンテナの各配線パターンの他端をグランドに接続しない場合における小型無線通信機の回路構成の例を示す図である。
【図6】本発明の好ましい実施の形態の比較例1による近接型アンテナの概観を示す略斜視図である。
【図7】本発明の好ましい実施の形態による近接型アンテナの効果を確認するためのシミュレーションの構成を示す図である。
【図8】シミュレーションの結果得られた「電力伝送効率」を対周波数で示したグラフである。(a)は動作周波数を含む比較的広い周波数帯域を示しており、(b)は動作周波数付近のみの比較的狭い周波数帯域を示している。
【図9】(a)は、本発明の好ましい実施の形態の実施例2による近接型アンテナの概観を示す略斜視図である。(b)は、本発明の好ましい実施の形態の比較例2による近接型アンテナの概観を示す略斜視図である。
【図10】本発明の好ましい実施の形態による近接型アンテナの効果を確認するための実験の構成を示す図である。
【図11】本発明の好ましい実施の形態の変形例による整合回路を含む近接型アンテナを使用する小型無線通信機の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態による近接型アンテナ10の概観を示す略斜視図である。また、図2(a)及び図2(b)はそれぞれ、近接型アンテナ10をおもて面及びうら面から見た平面図である。また、図3は、近接型アンテナ10への接続関係を示した模式図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、近接型アンテナ10は、ランド状の突起11aを有する略環状の基板11と、基板11のおもて面に形成された略環状の配線パターン12(第1のループアンテナ)と、基板11のうら面に形成された略環状の配線パターン13(第2のループアンテナ)と、突起11aのおもて面に形成されたパッド電極20〜22(第1乃至第3のパッド電極)と、突起11aのうら面に形成されたパッド電極30〜32(第4乃至第6のパッド電極)と、突起11aに形成されたスルーホール導体40〜42(第1乃至第3のスルーホール導体)とを備えている。
【0018】
なお、ランド状の突起11aを有することは必須ではない。つまり、パッド電極を形成する場所は必ずしも突起11aでなくともよく、例えば基板11の環状部分にパッド電極を形成することも可能である。
【0019】
基板11は、ガラスエポキシ、ポリイミド、ポリエチレン、アラミド、紙フェノール、紙エポキシ、ポリエステル、セラミックなどの絶縁性材料によって構成される。突起11aを除いた基板11の外形は長方形となっている。また、基板11の中央(配線パターン12及び13で囲まれた部分)は、中空の開口部11vとなっている。
【0020】
配線パターン12,13、パッド電極20〜22,30〜32、スルーホール導体40〜42は、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、金などの導体材料によって構成される。後述するように、配線パターン12,13は1ターンのループアンテナを構成するので、配線パターン12,13の導体幅と配線幅とは等しくなっている。
【0021】
配線パターン12は、一端12aから他端12bに向かって水平面内を、基板11のおもて面側から見て反時計回りに巻回された1ターンのループアンテナ(第1のループアンテナ)を構成する。両端12a,12bはそれぞれパッド電極20,21に接続している。また、配線パターン13は、一端13aから他端13bに向かって水平面内を、基板11のおもて面側から見て時計回りに巻回された1ターンのループアンテナ(第2のループアンテナ)を構成する。両端13a,13bはそれぞれパッド電極32,31に接続している。パッド電極20と30、パッド電極21と31、パッド電極22と32は、それぞれ基板11のうらおもての互いに対応する位置に設けられており、それぞれスルーホール導体40〜42によって接続されている。
【0022】
図3に示すように、近接型アンテナ10を使用する際には、一端12a(パッド電極20)及び一端13a(パッド電極22)は一対の信号線PL1,PL2に接続される。また、他端12b,13b(パッド電極21)はともにグランドに接続される。信号線PL1,PL2の具体的な例を挙げると、NFC(Near Field Communication)規格準拠のICカードで用いられる信号線、より具体的には、差動伝送方式(ディファレンシャル方式)で用いられる信号線が挙げられる。この場合、近接型アンテナ10は、ICカードやICカード機能を搭載した携帯電話などの小型無線通信機に搭載される。
【0023】
以上のような構成により、図3に示すように、配線パターン12の両端12a,12bはそれぞれ開放端(信号供給端)及び短絡端を構成し、配線パターン13の両端13a,13bもそれぞれ開放端(信号供給端)及び短絡端を構成する。そして、配線パターン12の開放端と配線パターン13の短絡端、配線パターン13の開放端と配線パターン12の短絡端とがそれぞれ向かい合っている。つまり、近接型アンテナ10は、上述したインターディジタル結合共振器に相当する構造を有している。
【0024】
ここで、インターディジタル結合について詳しく説明する。
【0025】
図4(a)は、互いにインターディジタル結合する共振器12,13を有するアンテナ10の平面図である。図4(b)は、アンテナ10の動作周波数を共振周波数fとした場合に、共振器12,13に流れる電流i,iと、共振器12,13に発生する電界Eの分布とを示す図である。図4(c)は、アンテナ10の動作周波数を共振周波数fとした場合に、共振器12,13に流れる電流i,iと、共振器12,13に発生する電界Eの分布とを示す図である。図4(d)(e)はともに、図4(a)のA−A’線断面図である。図4(d)には、アンテナ10の動作周波数を共振周波数fとした場合に共振器12,13の周囲に生ずる磁界Hの分布を示している。一方、図4(e)には、アンテナ10の動作周波数を共振周波数fとした場合に共振器12,13の周囲に生ずる磁界Hの分布を示している。図4(d)(e)には、電流i,iの向きも示している。
【0026】
図4(a)に示すように、アンテナ10は、一対の共振器12,13を近傍に並べ、それぞれの開放端(信号供給端)と短絡端とが互いに向かい合うようにした構成を有している。アンテナ10の共振周波数f,fは、共振器単体での共振周波数fを中心にして高低(共振周波数f,f)にそれぞれ周波数間隔Dだけ分離するが、結合の度合いが強いほど共振周波数f,fは共振周波数fから離れる。つまり、共振周波数fとf及び共振周波数fとfの周波数間隔Dが長くなる。
【0027】
共振器単体での共振周波数fは共振器が短いほど高くなるが、アンテナ10では、より低帯域の共振周波数fが得られる。したがって、共振周波数fを動作周波数とすることにより、共振器12,13の長さを、それぞれを単体で用いる場合に比べて短くすることが可能になる。
【0028】
ところで、共振周波数fを動作周波数とするメリットは他にもある。共振周波数fを動作周波数とする場合、図4(c)に示すように、共振器12,13に流れる電流i,iが同一方向の電流となり、また、共振器12と共振器13とでは左右対称の位置で電界Eの位相が互いに180°異なる。つまり、電磁波が逆相に励振されることから、共振周波数fを動作周波数とする場合、差動伝送方式(ディファレンシャル方式)で用いられる平衡信号をバランス特性に優れた状態で伝送することが可能になる。つまり、一対の信号線PL1、PL2から入力された平衡信号を電磁波として送信する送信アンテナ、またはアンテナ10で受信した電磁波を一対の信号線PL1、PL2から平衡信号として出力する受信アンテナとして構成される。
【0029】
また、図4(e)に示すように、共振器12,13の周囲に生ずる磁界Hの分布は、共振器12,13を1つの導体とみなした場合に生ずる分布に等しくなる。これは仮想的に導体厚みが厚くなることを意味しており、したがって、導体損失が少なくなる。
【0030】
これに対し、共振周波数fを動作周波数とする場合には、以上のようなメリットは得られない。すなわち、共振周波数fを動作周波数とする場合、図4(b)に示すように、共振器12,13に流れる電流i,iが互いに逆方向の電流となり、また、共振器12と共振器13とで電界Eの位相が同じになる。つまり、電磁波が同相に励振されることから、差動伝送方式(ディファレンシャル方式)で用いられる平衡信号のバランス特性は悪化する。また、図4(d)に示すように、共振器12と共振器13とで磁界Hが打ち消し合うため、電気的ロスが大きくなる。
【0031】
インターディジタル結合が以上のような特性を有することから、近接型アンテナ10では、低い方の共振周波数fを動作周波数として用いることで、各配線パターンの長さを単体で用いる場合に比べて短くすることができ、かつ良好なバランス特性及び少ない導体損失を実現することが可能になる。
【0032】
なお、上記の効果を得るためには、近接型アンテナ10の各配線パターンの他端12b,13bをグランドに接続することが必須である。以下、詳しく説明する。
【0033】
図5(a)は、近接型アンテナ10を使用する小型無線通信機の回路構成を示す図である。同図に示すように、小型無線通信機には非接触型ICカードの本体部50が搭載される。本体部50は端子Tx1,Tx2を有し、それぞれ上記信号線PL1,PL2に接続される。信号線PL1,PL2にはフィルタ51及び整合回路52が設けられている。
【0034】
図5(a)に示すように、フィルタ51は信号線ごとにLCフィルタを有しており、LCフィルタを構成するキャパシタは各信号線とグランドの間に設けられる。また、整合回路52も信号線ごとに2つのキャパシタからなる整合回路を有しており、それぞれ一方のキャパシタはグランドとの間に設置される。そして、上述したように、近接型アンテナ10の各配線パターンの他端12b,13bはいずれもグランドに接続されている。このような回路構成としていることにより、回路側から見て配線パターン12と配線パターン13とが個々のアンテナとして機能するようにみえる。したがって、各配線パターン12,13がインターディジタル結合し、各配線パターン単体での共振周波数を中心にして、共振周波数が高低に分離することになる。そしてこれにより、上述したように、各配線パターンの長さを単体で用いる場合に比べて短くすることができるとともに、良好なバランス特性及び少ない導体損失が実現される。
【0035】
仮に、図5(b)に示すように近接型アンテナ10の各配線パターンの他端12b,13bをグランドに接続しない場合、回路側から見て配線パターン12と配線パターン13とが1つのアンテナとして機能するようにみえることになる。したがって、このような回路構成では、各配線パターン12,13がインターディジタル結合せず、上記の効果は得られない。
【0036】
以上説明した近接型アンテナ10によれば、近接型アンテナ10がインターディジタル結合に相当する構造を有していることにより、配線パターン12,13の長さを従来より短くすることができるとともに、良好なバランス特性及び少ない導体損失が実現される。具体的には、1ターン分の配線幅で、スパイラルコイル数ターン分の特性を得ることができる。
【0037】
以下、シミュレーション及び実験の結果を示しながら、上記効果についてより具体的に説明する。なお、シミュレーションでは以下に説明する実施例1及び比較例1を用い、実験では以下に説明する実施例2及び比較例2を用いた。
【0038】
まず、シミュレーションについて説明する。
【0039】
図1及び図2は、実施例1による近接型アンテナ10を示している。この近接型アンテナ10では、基板11の高さh1を約40mmとし、幅w1を約30mmとした。また、配線パターン12,13の導体幅w3を約1.0mmとした。したがって、配線幅も約1.0mmである。なお、配線パターン12,13を構成する銅箔の厚みは35μmとした。また、基板11の余白部分の幅を約0.1mmとした。したがって、基板11の開口部11vの大きさは、高さh2が約37.6mm、幅w2が約27.6mmとなっている。
【0040】
図6は、比較例1による近接型アンテナ100の概観を示す略斜視図である。この近接型アンテナ100は、環状の基板101と、基板101のおもて面に形成されたスパイラルコイル102とを備えている。スパイラルコイル102の両端102a,102bは一対の信号線(不図示)に接続される。基板101の大きさは、近接型アンテナ10と同じ約40mm×約30mmとし、スパイラルコイル102の導体幅は約1.3mmとした。なお、スパイラルコイル102を構成する銅箔の厚みは35μmとした。また、スパイラルコイル102の線間距離及び基板101の余白部分の幅は約0.1mmとした。スパイラルコイル102は3ターン分あるため、配線幅は近接型アンテナ10よりも広く、導体間の余白を含めて4.3mmとなっている。また、基板101の開口部101vの大きさは約31.4mm×約21.4mmとなっている。
【0041】
図7は、本シミュレーションの構成を示す図である。同図に示すように、各近接型アンテナの基板のうら側には、磁気シート60と金属シート61とをこの順で貼り付けたものと仮定した。これは、小型無線通信機内の環境を疑似的に再現したものである。そして、近接型アンテナ10,100が露出している表面に市販のRFIDリーダライタ62を接近させ、その状態でRFIDリーダライタ62に電力を入力した場合に、近接型アンテナ10,100に伝達される電力量を、Anasoft社の電磁界解析ソフトHFSSを用いてシミュレートした。具体的には近接型アンテナ10のパッド電極20,22間に現れる電力と、近接型アンテナ100の一端102a,他端102b間に現れる電力とをシミュレートした。こうして得られる電力値は「電力伝送効率(電力伝送特性又はS21値ともいう。)」と呼ばれ、値が大きいほど電力が多く伝わったことを意味する。
【0042】
なお、RFIDリーダライタ62側に設けるアンテナとしては、近接型アンテナ100と同様のスパイラルコイルを用い、そのサイズは約104mm×約67mmとした。これは、実際に改札機に用いられているアンテナをモデリングしたものである。各アンテナの中心軸を合わせた状態のシミュレーションを行った。
【0043】
図8(a)(b)は、本シミュレーションの結果得られた「電力伝送効率」を対周波数で示したグラフである。図8(a)は動作周波数f(=13.56MHz)を含む比較的広い周波数帯域を示しており、図8(b)は動作周波数f付近のみの比較的狭い周波数帯域を示している。同図に示すように、近接型アンテナ10と近接型アンテナ100とでは、動作周波数fでの「電力伝送効率」を含め、ほぼ同様の結果が得られた。この結果は、1ターン分の配線幅の近接型アンテナ10により、スパイラルコイル3ターン分の配線幅の近接型アンテナ100と同等の特性を得られることを示している。
【0044】
次に、実験について説明する。
【0045】
図9(a)は、実施例2による近接型アンテナ10の概観を示す略斜視図である。裏面は示していないが、図2(b)に示した近接型アンテナ10と同様に、配線パターン13などが形成されている。この近接型アンテナ10では、基板11を、約35mm四方の正方形とした。また、配線パターン12,13の導体幅を約1.0mmとした。したがって、配線幅も約1.0mmである。なお、配線パターン12,13を構成する銅箔の厚みは35μmとした。また、基板11の余白部分の幅を約0.1mmとした。したがって、基板11の開口部11vの大きさは約32.6mm四方となっている。
【0046】
図9(b)は、比較例2による近接型アンテナ100の概観を示す略斜視図である。この比較例による近接型アンテナ100も、環状の基板101と、基板101のおもて面に形成されたスパイラルコイル102とを備えている。スパイラルコイル102の両端102a,102bは一対の信号線(不図示)に接続される。基板101の大きさ及びスパイラルコイル102の導体幅は、近接型アンテナ10のそれと同一にしている。つまり、基板101の大きさを約35mm四方とし、スパイラルコイル102の導体幅を約1.0mmとした。なお、スパイラルコイル102を構成する銅箔の厚みは35μmとした。また、スパイラルコイル102の線間距離及び基板101の余白部分の幅は約0.5mmとした。スパイラルコイル102は4ターン分あるため、配線幅は近接型アンテナ10よりも広く、導体間の余白を含めて6.5mmとなっている。また、基板101の開口部101vの大きさは約22mm四方となっている。
【0047】
図10は、本実験の構成を示す図である。同図に示すように、近接型アンテナ10,100に市販のRFIDリーダライタ63を接近させ、その状態でRFIDリーダライタ63から読取信号を出力した。近接型アンテナ10,100には整合回路64を介して通信回路65を取り付けておき、近接型アンテナ10,100で受信された上記読取信号を検出できるようにした。
【0048】
なお、RFIDリーダライタ63側に設けるアンテナとしては、近接型アンテナ100と同様のスパイラルコイルを用い、そのサイズは約54mm×約35mmとした。また、近接型アンテナ10,100、RFIDリーダライタ63側のアンテナともに空芯(金属などの周囲環境がない状態)とし、各アンテナの中心軸を合わせた状態で実験を行った。
【0049】
以上のような実験の結果、近接型アンテナ10,100それぞれの最大通信可能距離は、56mm,52mmであった。このことから、1ターン分の配線幅の近接型アンテナ10により、スパイラルコイル4ターン分の配線幅の近接型アンテナ100と同等以上の特性を得られることが理解される。
【0050】
以上説明したように、近接型アンテナ10によれば、1ターン分の配線幅で、スパイラルコイル数ターン分の特性を得ることができる。したがって、従来より広く他の部品の設置場所(基板11の開口部11v)を確保することが可能になる。また、配線が占める面積が小さくなるため、背面金属の影響も少なくなる。
【0051】
また、近接型アンテナ10では、基板11の両面を用いて、配線パターン12と配線パターン13とを垂直方向に並置することが可能になる。したがって、各が1ターンであっても、配線幅は1ターン分で足りることになる。
【0052】
また、基板11の両面を対称構造としているので、近接型アンテナ10を通信機内に設置する際の設計が容易になる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0054】
例えば、上記実施の形態では基板11に開口部11vを設けたが、開口部11vを設けなくても近接型アンテナ10のアンテナとしての特性は変わらない。したがって、他の部品の具体的な設置態様や形状などによって必要でない場合には、必ずしも開口部11vを設けなくともよい。
【0055】
また、整合回路52の具体的な回路構成は、図5(a)に示したものに限られるものではない。図11には、他の一例による整合回路52を含む小型無線通信機の回路構成を示している。この例を図5(a)に示した例と比較すると、信号線に間挿されるキャパシタと、信号線とグランドの間に接続されるキャパシタとの位置関係が逆になっている。つまり、図5(a)の例では、前者のキャパシタが近接型アンテナ10寄りに配置されていたが、図11の例では、後者のキャパシタが近接型アンテナ10寄りに配置されている。このように、整合回路52には様々な回路構成を採用できる。
【符号の説明】
【0056】
10 近接型アンテナ
11 基板
11a 突起
11v 開口部
12,13 配線パターン
20〜22,30〜32 パッド電極
40〜42 スルーホール導体
50 通信回路本体部
51 フィルタ
52 整合回路
60 磁気シート
61 金属シート
62,63 リーダライタ
64 整合回路
65 通信回路
PL1,PL2 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号端から接地端に向かって水平面内の所定方向に巻回された第1のループアンテナと、
信号端から接地端に向かって水平面内の前記所定方向の逆方向に巻回された第2のループアンテナとを備え、
前記第1のループアンテナと前記第2のループアンテナとが垂直方向に並置されていることを特徴とする近接型アンテナ。
【請求項2】
絶縁性材料で構成された基板をさらに備え、
前記第1のループアンテナは前記基板の一方面に形成され、前記第2のループアンテナは前記基板の他方面に形成されることを特徴とする請求項1に記載の近接型アンテナ。
【請求項3】
前記基板は、
前記一方面に形成された第1乃至第3のパッド電極と、
前記他方面に形成された第4乃至第6のパッド電極と、
前記第1のパッド電極と前記第4のパッド電極とを接続する第1のスルーホール導体と、
前記第2のパッド電極と前記第5のパッド電極とを接続する第2のスルーホール導体と、
前記第3のパッド電極と前記第6のパッド電極とを接続する第3のスルーホール導体とを有し、
前記第1のパッド電極は前記第1のループアンテナの信号端と接続し、
前記第2のパッド電極は前記第1のループアンテナの接地端と接続し、
前記第5のパッド電極は前記第2のループアンテナの接地端と接続し、
前記第6のパッド電極は前記第2のループアンテナの信号端と接続することを特徴とする請求項2に記載の近接型アンテナ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の近接型アンテナを搭載することを特徴とする無線通信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−200309(P2010−200309A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5243(P2010−5243)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】