説明

近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置

【課題】 高密度な情報を記録する近接場光アシスト磁気記録ヘッドおよび、そのヘッドを利用した小型記録装置を提供する。
【解決手段】 先端に近接場光を発生させる錐状ティップ43と、近接場光によってアシストされて磁気記録を行う近接場光アシスト磁気記録ヘッドであって、磁気記録素子13が第一磁極16aと第二磁極16bから成り、第一磁極がティップの第一側面上の第一薄膜から成り、第二磁極がティップの第一側面に対向する第二側面上の第二薄膜から成り、第一薄膜と第二薄膜は膜厚が異なるものであることを特徴とする近接場光アシスト磁気記録ヘッドことを特徴とする近接場光利用ヘッドとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微細な領域に光を局在化させることで回折限界を超える分解能を持つ近接場光を利用した近接場光利用ヘッド、特に近接場光と磁場の両者を利用することで超高記録密度を実現した近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年情報化社会における画像・動画情報の急激な増加に対応するため、情報記録再生装置は大容量化・小型化が進められている。光を用いた情報記録再生装置においては、記録密度が光波長に依存するため、短い波長の光を用いることで高密度化が図られてきた。波長に依存しない記録密度の実現の方法としては、近接場光を用いた記録再生原理が注目されている。磁気を用いた情報記録再生装置においては、記録媒体表面の微小領域を分離して磁化するために、微小領域のみに近接場光を照射することで加熱して保磁力を低下させてから磁化させる近接場光アシスト磁気記録方式が、次世代の記録再生原理の有力候補と見られている。
【0003】
記録媒体への情報の記録は、従来、記録層の微小領域を記録媒体表面に平行な方向に磁化させる、いわゆる長手記録方式が行われてきたが、熱揺らぎの問題から記録密度の向上が困難になってきていた。この問題を解決するために、記録層の微小領域を記録媒体表面に垂直方向に磁化させるいわゆる垂直記録方式が採用され始めている。この方式では、記録層内においてN極とS極とがループを作り難いため、エネルギー的により安定で、長手記録方式に対して熱減磁に強くなっている。更に記録密度を向上させるために、隣り合う磁区同士の影響や、熱揺らぎを最小限に抑えるために、更に保磁力の強いものが記録媒体として採用され始めている。そのため、上述した垂直記録方式であっても、記録媒体に情報を記録することが困難になっていた。
【0004】
そこで保磁力の強い記録媒体に対して、瞬間的に微小領域を加熱することで保磁力を低下させて磁化記録する方式が注目されている。これは、空気浮上スライダーに搭載された磁気記録素子の近傍に熱源となる素子を形成し、熱源から放射された熱によって記録媒体表面を加熱しつつ磁気記録素子が発生する磁場によって媒体記録層の磁化を反転させるという方式である。記録層の保磁力が高いため、いったん磁化された領域は隣りの領域に近接していても熱揺らぎに対して安定に存在することができる。これを熱アシスト磁気記録方式と呼ぶ。
【0005】
熱アシスト磁気記録方式において記録の高密度化に重要な要因は、アシストのために加熱された領域をできるだけ微小化し、記録したい領域のみを加熱することであある。また、磁場を発生させる磁極の微小化も重要であり、加熱された領域のうちできるだけ微小領域のみを磁化させる必要がある。高周波数でオンオフの切り替えができ、かつ数〜数十nmという領域のみに熱を与える方法として近接場光を利用することができる。これを近接場光アシスト磁気記録方式と呼ぶ。
【0006】
近接場光アシスト磁気記録方式のヘッドは、従来の磁気ヘッドの記録磁極に隣接して近接場光発生素子を持つ構造となっている。近接場光発生素子は、例えば薄膜金属から成る散乱体であり、レーザーからの光を照射することによって微小領域に近接場光を発生させる(特許文献1)。
【0007】
また、ヘッド底面にボウタイ形状の金属薄膜を形成し、光を記録媒体の上方から垂直に照射することで近接場光を発生させて、磁場を強くかけている領域に近接場光を重ねる構造も提案されている。この近接場光アシスト磁気記録ヘッドでは、近接場光発生素子はヘッド底面に形成された平面膜のボウタイ形状金属であり、レーザーからの光を光ファイバーなどで導入したのちミラーで反射させてボウタイに照射させることで、ボウタイ中央のギャップに近接場光を発生させる。さらにこのボウタイが磁気記録素子も兼ねていることで、近接場光によって加熱される媒体表面領域と、磁場によって磁化される領域が一致している。これにより近接場光による微小スポットを限界まで微小化することが可能となり、高密度記録に適している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−158067号公報(第5−6頁、第1図)
【特許文献2】特開2002−298302号公報(第4−6頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来の構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッドでは、近接場光発生素子が磁気記録素子に隣接して形成されており、レーザーからの入射光がヘッドの斜め前方から照射される構成になっているため、近接場光発生素子は磁気記録素子の外側すなわちスライダーの端側に配置されている。空気浮上ヘッドは空気の流入端(リーディングエッジ)が流出端(トレイリングエッジ)よりも高い浮上量となって傾いて浮上するものであり、磁気記録素子は高密度記録のために、記録媒体表面にできるだけ近接させる必要があるため、流出端付近に搭載される。近接場光発生素子はその外側になるため、結果として媒体から見た場合にヘッドの走査方向に対して磁気記録素子よりも常に後ろ側に配置される(特許文献1、図1〜4)。
【0009】
近接場光によって媒体表面の微小領域を加熱した後に磁気記録素子によって記録する近接場光アシスト磁気記録においては、近接場光発生素子は磁気記録素子よりも前側に配置されることが望ましい。従来技術においては後ろ側に配置されているため、近接場光によって加熱する領域は、近接場光発生素子直下だけでなくその前方まで含めた広い領域にならざるを得ない。このため、近接場光発生素子が本来持っている微小スポット性能を十分に発揮できないという問題点があった。またこの従来構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッドでは、近接場光発生素子への光入射がレーザーからの空中伝播となっており、光学系を小型化単純化する上で困難があった。
【0010】
別の従来構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッドは、近接場光と磁場の両方を発生させるボウタイがヘッド底面に形成された平面膜から成っているため、発生する磁場がボウタイ全体に広がってしまう。長手記録の場合はボウタイ中央のギャップが記録密度を規定するが、垂直記録の場合は主磁極の媒体に対向する部分のサイズが記録密度を規定する。ボウタイを記録媒体側から見た場合に、主磁極がボウタイの片側全体となるため、高記録密度のためにはボウタイ自体を微小化する必要がある。ボウタイのサイズを小さくすると、ボウタイ周辺部が入射光スポットの中に含まれてしまい、近接場光がボウタイ中央部だけでなく周辺部でも発生し、ボウタイ周辺部において誤記録が行われてしまう。このように、近接場光が局在するボウタイ中央部にのみ強い記録用磁場が発生する構造を持つヘッドが必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、先端に近接場光を発生させる錐状ティップと、近接場光によって媒体表面の微小領域を加熱するとともに微小領域に磁化反転を生じさせる磁気記録素子とを持つ近接場光アシスト磁気記録ヘッドであって、磁化が媒体表面に対して略垂直方向であり、磁気記録素子が第一磁極と第二磁極から成り、第一磁極がティップの第一側面上の第一薄膜から成り、第二磁極がティップの前記第一側面に対向する第二側面上の第二薄膜から成り、第一薄膜と第二薄膜は膜厚が異なるものであることを特徴とする近接場光アシスト磁気記録ヘッドとした。
【0012】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、ティップが平面基板上に形成され、断面が多角形で先端に平坦部を持つ透明な材質から成ることを特徴とした。
【0013】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、ティップ断面が台形であり、台形の第一辺がそれに対向する第二辺の長さよりも短く、第一側面が第一辺を含み、第二側面が第二辺を含むことを特徴とした。
【0014】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、ティップ側面のうち、第一側面と第二側面以外の側面のうち少なくとも一面が遮光膜で覆われていることを特徴とした。
【0015】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、第一薄膜の第一側面と反対側の表面、および、第二薄膜の第二側面と反対側の表面、が磁気シールド層で覆われていることを特徴とした。
【0016】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、媒体が回転することで発生する動圧を受けて媒体表面から所定の浮上量を持って浮上する空気浮上面を持つことを特徴とした。
【0017】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、ティップと空気浮上面が同一プロセスによって同時に作製され、略同一高さであることを特徴とした。
【0018】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドにおいて、ティップと空気浮上面が同一プロセスによって同時に作製され、両者の高さの差が所定量であることを特徴とした。
【0019】
また本発明は、近接場光アシスト磁気記録ヘッドと、媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で、近接場光アシスト磁気記録ヘッドを先端側で支持するサスペンションアームと、近接場光アシスト磁気記録ヘッドに対して光束を入射させる光源と、サスペンションアームの基端側を支持すると共に、サスペンションアームを前記媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエーターと、媒体を一定方向に回転させる回転駆動部と、近接場光アシスト磁気記録ヘッドと光源と前記回転駆動部との作動を制御する制御部とを備えていることを特徴とする記録装置とした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、強い保磁力を持つ磁気記録媒体のナノレベルの微小領域を加熱することによってその領域のみの保磁力を一時的に低下させた後に磁気記録を行うことができ、超高密度の記録を安定的に実現できる。
【0021】
また本発明によれば、近接場光を発生させると同時に磁場を発生させる素子を、通常のフォトリソグラフィーなどの半導体プロセス技術を用いて作製することが可能となり、低コストで大量に近接場光アシスト磁気記録ヘッドを安定製造することができる。
【0022】
また本発明によれば、ヘッドの走査方向と垂直に磁場や近接場光が広がることを防止でき、トラック密度の向上も実現できる。
【0023】
また本発明によれば、背景光を遮ることで出力信号のS/Nを向上させることができる。
【0024】
また本発明によれば、背景磁場を遮ることで出力信号のS/Nを向上させることができる。
【0025】
また本発明によれば、媒体表面にナノメートルレベルで近接場光アシスト磁気記録ヘッドを近接させた状態で高速に媒体を回転させることで高速記録再生が実現できる。
【0026】
また本発明によれば、ティップを媒体表面に極めて近接させることができ、近接場光と磁場の両方を微小領域に局在化させることによって高密度記録が実現できる。
【0027】
また本発明によれば、ティップを空気浮上面よりも更に媒体表面に近接させることができ、媒体表面における近接場光と磁場の両方を更に局在化することによって更なる高密度記録が実現できる。
【0028】
また本発明によれば、高い保磁力を持つ材質から成る記録媒体に対して極微小領域のみを近接場光によって瞬時に加熱して保磁力をその瞬間のみ低下させ、同時に磁場を印加することによって情報の記録を行うことができる。これを用いた記録装置は従来実現できなかった高密度大容量の装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド及びそれを用いた記録装置の第1実施形態を、図1から図5を参照して説明する。本実施形態の記録装置1は、図1に示すように、近接場光アシスト磁気記録ヘッド2と、ディスク面(磁気記録媒体の表面)Dに平行な方向に移動可能とされ、ディスク面Dに平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸とする)回りに回動自在な状態で近接場光アシスト磁気記録ヘッド2を先端側で支持するサスペンションアーム3と、光導波路4の基端側から該光導波路4に対して光束を入射させる光信号コントローラー(光源)5と、サスペンションアーム3の基端側を支持すると共に、サスペンションアーム3をディスク面Dに平行なXY方向に向けてスキャン移動させるアクチュエーター6と、ディスクDを一定方向に回転させるスピンドルモーター(回転駆動部)7と、情報に応じて変調した電流を近接場光アシスト磁気記録ヘッド2に対して供給すると共に、光信号コントローラー5の作動を制御する制御部(図示略)と、これら各構成品を内部に収容するハウジング8とを備えている。
【0030】
ハウジング8は、アルミニウム等の金属材料により、上面視四角形状に形成されていると共に、内側に各構成品を収容する凹部8aが形成されている。また、このハウジング8には、凹部8aの開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。凹部8aの略中心には、上記スピンドルモーター7が取り付けられており、該スピンドルモーター7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定される。凹部8aの隅角部には、上記アクチュエーター6が取り付けられている。このアクチュエーター6には、軸受9を介してキャリッジ10が取り付けられており、該キャリッジ10の先端にサスペンションアーム3が取り付けられている。
【0031】
そして、キャリッジ10及びサスペンションアーム3は、アクチュエーター6の駆動によって共に上記XY方向に移動可能とされている。なお、キャリッジ10及びサスペンションアーム3は、ディスクDの回転停止時にはアクチュエーター6の駆動によって、ディスクD上から退避する。また、光信号コントローラー5は、アクチュエーター6に隣接するように凹部8a内に取り付けられている。そして、このアクチュエーター6に隣接して、上記制御部が取り付けられている。近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は、導入された光束から近接場光を発生させてディスクDの微小領域を加熱すると共に磁界を与えて磁化反転を生じさせ、情報を記録させる。
【0032】
図2に本実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2とサスペンションアーム3、光導波路4の断面図を示す。近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は厚さ200μmの石英ガラス基板から成り、上面に直径80μmのマイクロレンズ11を持ち、底面に空気浮上面12と記録素子13を持つ。空気浮上面12は高さ10μmの四角錐台レール状であり、底面に2本形成されているが、これはコの字状に配置する構造に設計することも可能であり、底面に3ヶ所形成するトライポッド型にすることも可能である。記録素子13は空気浮上面12と同じ高さの四角錐台形状であり、微小構造の詳細は図4で後述する。光導波路4は先端が斜めに研磨されたミラー面14となっている。
【0033】
回転する記録媒体(図示略)に空気浮上面12を対向させることで、空気浮上面12は空気浮上力を受ける。一方、サスペンションアーム3からは負荷荷重がかけられ、空気浮上力と均衡することにより、近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は記録媒体表面から所定の微小浮上量をもって浮上する。図示を略した光源からの入射光ILは光導波路4内を伝播した後、ミラー面14で反射して方向を変え、マイクロレンズ11によって集光されて記録素子13に入射する。この光が記録素子13の先端から発生する近接場光NLとなる。
【0034】
図3は本実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2底面の斜視図である。石英ガラスから成る基板15の表面に、前述したレール状の空気浮上面12と、記録素子13が形成されている。記録素子13は四角錐台形状をしており、その頂面は光学的微小ギャップ19となっており、側面には磁極磁性膜16が成膜されている。磁極磁性膜16はNiFe、NiFeCoなどの軟磁性材料から成る。磁極磁性膜16は記録素子13の底面において、基板15の表面にパターニングされた基板上磁性膜17に接続する。基板上磁性膜17は磁極磁性膜16と同一材料から成る。基板上磁性膜17の一部の周辺を周回するようにコイル18が形成されている。
【0035】
コイル18はCuから成る。磁極磁性膜16、基板磁性膜17、とコイル18は全体として電磁石を構成する。記録媒体表面から微小浮上量をもって浮上した状態でコイル18に電流を流すことで磁極磁性膜16から磁束を放出する。上述したように記録素子13の先端の光学的微小ギャップ19からは近接場光NLが発生しており、これによって記録媒体表面の所定領域を加熱することでその領域のみ保磁力を一時的に低下させる。それと同時に上述の磁束によって記録媒体の該領域の磁化を保持あるいは反転させ、情報の記録を行う。近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の底面にはまた、再生素子20が記録素子13と同様の四角錐台形状で形成されている。再生素子20は磁気抵抗素子となっており、配線パターン21によって外部に信号を出力する。
【0036】
図4は本実施の形態に係る記録素子13の斜視図である。図中左右方向に記録媒体(図示略)が移動しながら記録再生を行う。記録素子13は底面が一辺約10μmの正方形である四角錐台の一側面(図中右側)に主磁極磁性膜16a、それに対向する側面(図中左側)に副磁極磁性膜16b、が形成された構造となっている。主磁極磁性膜16aと副磁極磁性膜16bはどちらも同一の軟磁性材料から成る薄膜であり、図3では磁極磁性膜16として総称したが、主磁極磁性膜16aの先端平坦部31の記録媒体移動方向厚みT1が数nmであるのに対し、副磁極磁性膜16bの先端平坦部32の記録媒体移動方向厚みT2は約100nmになっている。主磁極磁性膜16aと副磁極磁性膜16bは上方から見たときにボウタイ形状を成し、中央が光学的微小ギャップ19となる。
【0037】
光学的微小ギャップ19は一辺約20nmの略正方形である。記録媒体への記録に使われる磁束は主磁極磁性膜16aから発生する。光学的微小ギャップ19から発生する近接場光NLの空間的広がりと、主磁極磁性膜16aから発生する磁束の空間的広がりが重なる領域の大きさが、記録密度を規定する。本実施の形態では近接場光NLは光学的微小ギャップ19のギャップサイズ約20nmとほぼ同一の広がりを持つが、磁束は主磁極磁性膜16aの記録媒体移動方向厚みT1が数nmであるので、数nm程度の微小領域への記録が可能である。記録動作に寄与する磁束は主磁極磁性膜16aのうち、記録媒体に対向する部分から発生するもののみであるため、主磁極磁性膜16aのうち記録素子13の四角錐台の側面上に位置している部分は記録には影響しない。
【0038】
このような立体構造を持つ記録素子13によると、光学的にはボウタイの中央部に位置する光学的微小ギャップ19が極めて局在化した近接場光を発生させ、磁気記録をアシストする。また、記録のための磁束は主磁極磁性膜16aの先端平坦部31から発生し、四角錐台の側面上の磁性膜からの寄与は無視できる。また、副磁極磁性膜16bの先端平坦部32は、主磁極磁性膜16aの先端平坦部31に比べて面積が数十から数百倍大きく、この平坦部32によって記録に影響が出ることは無い。これにより、記録素子13全体のサイズを微小化することなく、近接場光と磁束の両方を局在化した領域に強く発生させることが可能になった。
【0039】
図5は本実施の形態に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の製造方法を示す。製造ステップS1〜S7に、図3中A−A’における断面図を示す。簡単のため配線パターン21は図示を略した。
【0040】
ステップS1において石英ガラス基板15にレジスト41、42をフォトリソグラフィーによってパターニングする。レジスト41はヘッドの一辺に沿って長く延びた長方形パターンであり、レジスト42はヘッドの一方の端の近くに配置された正方形パターンである。ステップS2では、これらのレジストを用いて石英ガラス基板15を等方性エッチングする。その結果、レジスト41に保護された部分が空気浮上面12となり、レジスト42に保護された部分が四角錐台ティップ43となる。四角錐台ティップ43は四角錐台形状である。
【0041】
ステップS3ではこの基板全体に対して図中右斜め上方から磁性材料を斜方蒸着することで、主磁極用磁性膜44を形成する。主磁極用磁性膜44は、四角錐台ティップ43先端からの記録媒体移動方向厚みがT1である。T1は典型的には数nmである。ステップS4では図中左斜め上方から同じく磁性材料を斜方蒸着することで、副磁極用磁性膜45を形成する。副磁極用磁性膜45は、四角錐台ティップ43先端からの記録媒体移動方向厚みがT2である。T2は典型的には100nmである。
【0042】
ステップS5で、四角錐台ティップ43を含む近傍をレジスト46で保護し、ステップS6で磁性膜をエッチングし、磁極用磁性膜47を形成する。最後にステップS7において四角錐台ティップ43の先端の磁性膜を機械的圧力によって塑性変形させて光学的微小ギャップ19を形成する。このとき、磁性膜は光学的微小ギャップ19の両側に分離されて、主磁極磁性膜16aと副磁極磁性膜16bとなる。また、図示は略したが主磁極磁性膜16a、副磁極磁性膜16bの表面(四角錐台ティップ43の反対側の面)に磁気シールド層を形成することも容易にできる。
【0043】
このようにして、微小領域に近接場光と磁束の両方を同時に局在化させる機能を持つ近接場光アシスト磁気記録ヘッド2を量産に適した安価な方法で安定的に製造することができる。本願における近接場光アシスト磁気記録ヘッド2は、近接場光と磁束を発生させる記録素子13が図4に示すような立体構造を持っており、強い近接場光を局在させるだけでなく、垂直磁気記録のための主磁極の記録媒体に対向する部分の面積を極めて微小化することができる。また、記録素子13と空気浮上面12を同一プロセスによって形成するため、両者の基板からの高さを厳密に揃えることが容易であり、空気浮上面12がナノレベルの微小浮上量をもって浮上したときに、記録素子13が記録媒体表面に対して同一の微小浮上量を持って近接することができる。これにより、従来極めて困難であった超高密度の記録を実現することができる。
(実施の形態2)
図6は本発明の実施の形態2に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドの記録素子51の構造を示す。本実施の形態においては記録装置全体の構成やヘッド構造は実施の形態1とほぼ同一であるので説明を省略する。実施の形態1と同様に、図中左右方向が記録媒体の移動方向である。実施の形態1との違いは、四角錐台形状を持つ記録素子51の断面が正方形ではなく台形である点である。四角錐台ティップ52は石英ガラスの等方性エッチングによって形成する。断面が台形の四角錐台ティップ52は、ガラス基板のエッチングの際に使用するレジストパターンの形状を正方形の代わりに台形にすることで、正方形の場合と同じく容易に形成可能である。
【0044】
四角錐台ティップ52の一側面(図中右側)に主磁極磁性膜53が成膜されており、その面に対向する側面(図中左側)に副磁極磁性膜54が成膜されている。主磁極磁性膜53はその頂面55が記録媒体表面に対向し、記録のための磁束放出面となる。副磁極磁性膜54はその頂面56が記録媒体表面に対向し、磁束戻り面となる。主磁極磁性膜53の頂面55の、記録媒体移動方向厚みT11は典型的には数nmであり、副磁極磁性膜54の頂面56の、記録媒体移動方向厚みT12は約100nmである。実施の形態1と同様に、主磁極磁性膜53のうち、四角錐台ティップ52の側面に接している部分は記録媒体に対向しておらず、記録には寄与しない。
【0045】
記録密度は頂面55の厚みT11によって規定されるため、極めて高密度記録が可能となる。四角錐台ティップ52の頂面が光学的微小ギャップ57となって近接場光を発生し、記録媒体表面の微小領域を加熱して一時的に保磁力を低下させることで磁気記録のアシストを行う点は、実施の形態1と同一の作用である。四角錐台ティップ52は断面が台形であるので、主磁極磁性膜53の頂面55の、記録媒体移動方向に直交する方向の厚みT13は、それに対応する副磁極磁性膜54頂面56の、記録媒体移動方向に直交する方向の厚みT14に比べて小さい。これにより、ヘッドの走査方向の記録密度(線密度)だけでなく、それに垂直方向にも記録密度(トラック密度)を上げることができ、記録装置全体としての高密度化が実現される。
(実施の形態3)
図7は本発明の実施の形態3に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドの記録素子61の構造を示す。本実施の形態においては記録装置全体の構成やヘッド構造は実施の形態1とほぼ同一であるので説明を省略する。記録素子61は全体として四角錐台形状であり、その一側面(図中右側)に主磁極磁性膜62、それに対向する側面(図中左側)に副磁極磁性膜63が形成されている。主磁極磁性膜62の頂面64が磁束を放出し、副磁極磁性膜63の頂面65に磁束が戻る。ティップの先端部は光学的微小ギャップ66となっており、ここから近接場光を発生して記録媒体表面の微小領域を加熱して一時的に保磁力を低下させて、磁気記録をアシストする。
【0046】
本実施の形態と実施の形態1との違いは、ティップの残りの二側面(図中下側と上側)に遮光膜67が形成されている点である。遮光膜67はAlから成るが、他の遮光性のある材料から形成してもよい。ティップは前述のように石英ガラスから成るため光を透過するが、この遮光膜67によってティップ側面からの光の漏れを防止する。光学的微小ギャップ66の周辺部からの漏れ光が背景エネルギーとなって記録媒体に照射されることを防ぐことで、より安定した高密度記録が実現される。
(実施の形態4)
図8は本発明の実施の形態4に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド71、81を示す。図3におけるA−A’に沿った断面図を示す。記録装置全体あるいはヘッド構造は実施の形態1と同様であるので説明を省略する。近接場光アシスト磁気記録ヘッド71は、空気浮上面12にくらべて記録素子の四角錐台ティップ72が高い構造になっている。四角錐台ティップ72の一側面には主磁極磁性膜73、それに対向する側面には副磁極磁性膜74が形成されている。四角錐台ティップ72が空気浮上面12よりも基板側から見て記録媒体に向かって突出した構造になっていることにより、ヘッドが微小浮上量をもって浮上しているときに、磁極が空気浮上面12よりも更に記録媒体表面に近接する。こうすることによって、記録媒体表面における近接場光と磁束の両方をより強く発生させ、また局在化させることが可能となる。
【0047】
また別の構造の近接場光アシスト磁気記録ヘッド81では、空気浮上面12にくらべて記録素子の四角錐台ティップ82が低い構造になっている。四角錐台ティップ82の一側面には主磁極磁性膜83、それに対向する側面には副磁極磁性膜84が形成されている。四角錐台ティップ82が空気浮上面12よりも奥まった場所に位置することによって、空気浮上面12が記録媒体表面に接触した場合でも記録素子を損傷することがなくなる。
【0048】
四角錐台ティップ72、82と空気浮上面12の高さに所定の差を設けることは、図5で説明した作製方法の最初のステップの前にあらかじめ基板の所定領域を所定量エッチングすることによって容易に実現できる。
【0049】
このように記録素子と空気浮上面の高さを自在に設計することによって、より高密度な記録あるいはより信頼性の高い近接場光アシスト磁気記録ヘッドを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態1に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッドを用いた情報記録装置の概略図。
【図2】実施の形態1に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2とサスペンションアーム3、光導波路4の断面図。
【図3】実施の形態1に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2底面の斜視図。
【図4】実施の形態1に係る記録素子13の斜視図。
【図5】実施の形態1係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド2の製造方法を説明するための断面図。
【図6】実施の形態2に係る記録素子51の斜視図。
【図7】実施の形態3に係る記録素子61の斜視図。
【図8】実施の形態4に係る近接場光アシスト磁気記録ヘッド71、81の断面図。
【符号の説明】
【0051】
1 記録装置
2、71、81 近接場光アシスト磁気記録ヘッド
3 サスペンションアーム
4 光導波路
5 光信号コントローラー(光源)
6 アクチュエーター
7 スピンドルモーター(回転駆動部)
8 ハウジング
9 軸受
10 キャリッジ
11 マイクロレンズ
12 空気浮上面
13、51、61、 記録素子
14 ミラー面
15 基板
16 磁極磁性膜
47 磁極用磁性膜
16a、44、53、62、73、83 主磁極磁性膜
16b、45、54、63、74、84 副磁極磁性膜
17 基板上磁性膜
18 コイル
19、57、66 光学的微小ギャップ
20 再生素子
21 配線パターン
41、42、46 レジスト
43、52、72、82 四角錐台ティップ
67 遮光膜
D 磁気記録媒体の表面
IL 入射光
NL 近接場光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に近接場光を発生させる錐状ティップと、前記近接場光によって媒体表面の微小領域を加熱するとともに前記微小領域に磁化反転を生じさせる磁気記録素子とを持つ近接場光アシスト磁気記録ヘッドであって、
前記磁化が前記媒体表面に対して略垂直方向であり、
前記磁気記録素子が第一磁極と第二磁極から成り、
前記第一磁極が前記ティップの第一側面上の第一薄膜から成り、
前記第二磁極が前記ティップの前記第一側面に対向する第二側面上の第二薄膜から成り、
前記第一薄膜と前記第二薄膜は膜厚が異なるものであることを特徴とする近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項2】
前記ティップが平面基板上に形成され、断面が多角形で先端に平坦部を持つ透明な材質から成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項3】
前記ティップ断面が台形であり、前記台形の第一辺がそれに対向する第二辺の長さよりも短く、前記第一側面が前記第一辺を含み、前記第二側面が前記第二辺を含むことを特徴とする請求項2記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記ティップ側面のうち、前記第一側面と前記第二側面以外の側面のうち少なくとも一面が遮光膜で覆われていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記第一薄膜の前記第一側面と反対側の表面、および、前記第二薄膜の前記第二側面と反対側の表面、が磁気シールド層で覆われていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記媒体が回転することで発生する動圧を受けて前記媒体表面から所定の浮上量を持って浮上する空気浮上面を持つことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項7】
前記ティップと前記空気浮上面が同一プロセスによって同時に作製され、略同一高さであることを特徴とする請求項6に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項8】
前記ティップと前記空気浮上面が同一プロセスによって同時に作製され、両者の高さの差が所定量であることを特徴とする請求項6に記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の近接場光アシスト磁気記録ヘッドと、
前記媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、前記媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で、前記近接場光アシスト磁気記録ヘッドを先端側で支持するサスペンションアームと、
前記近接場光アシスト磁気記録ヘッドに対して光束を入射させる光源と、
前記サスペンションアームの基端側を支持すると共に、前記サスペンションアームを前記媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエーターと、
前記媒体を一定方向に回転させる回転駆動部と、
前記近接場光アシスト磁気記録ヘッドと前記光源と前記回転駆動部との作動を制御する制御部とを備えていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−27543(P2008−27543A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200346(P2006−200346)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】