説明

近接場光ヘッドの製造方法、近接場光ヘッド、及び情報記録再生装置

【課題】磁気記録媒体の表面に対向する対向面に金属膜を容易に形成することができる近接場光ヘッドの製造方法、近接場光ヘッド及び情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】スライダ20と、主磁極33及び補助磁極31を有する記録素子21と、近接場光発生素子26と、を備える近接場光ヘッド2の製造方法であって、近接場光発生素子26にコア23と金属膜25が備えられ、金属膜25と主磁極33の間に、磁気記録媒体の表面側に向けて露出されて磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有する中間層50を介在された状態で、近接場光発生素子26を形成する近接場光発生素子形成工程と、コア23の基端側から光束を入射させて近接場光を発生させ、近接場光によって金属膜25を溶解して中間層50の対向面上に金属膜25を溶け出させ、中間層50の対向面に金属膜25の端部25aを形成する金属膜溶解工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体を近接場光で加熱しつつその磁気記録媒体に磁界によって情報を記録する近接場光ヘッドの製造方法、近接場光ヘッド、及び情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ機器におけるハードディスク等の容量増加に伴い、単一記録面内における情報の記録密度が増加している。例えば、磁気ディスクの単位面積当たりの記録容量を多くするためには、面記録密度を高くする必要がある。ところが、記録密度が高くなるにつれて、記録媒体上で1ビット当たりの占める記録面積が小さくなっている。このビットサイズが小さくなると、1ビットの情報が持つエネルギーが、室温の熱エネルギーに近くなり、記録した情報が熱揺らぎ等のために反転したり、消えてしまったりする等の熱減磁の問題が生じてしまう。
【0003】
一般的に用いられてきた面内記録方式では、磁化の方向が記録媒体の面内方向に向くように磁気を記録する方式であるが、この方式では上述した熱減磁による記録情報の消失等が起こり易い。そこで、このような不具合を解消するために、近年では記録媒体に対して垂直な方向に磁化信号を記録する垂直記録方式が採用されている。この方式は、記録媒体に対して、単磁極を近づける原理で磁気情報を記録する方式である。この方式によれば、記録磁界が記録膜に対してほぼ垂直な方向を向く。垂直な磁界で記録された情報は、記録膜面内においてN極とS極とがループを作り難いため、エネルギー的に安定を保ち易い。そのため、この垂直記録方式は、面内記録方式に対して熱減磁に強くなっている。
【0004】
しかしながら、近年の記録媒体は、より大量且つ高密度情報の記録再生を行いたい等のニーズを受けて、さらなる高密度化が求められている。そのため、隣り合う磁区同士の影響や、熱揺らぎを最小限に抑えるために、保磁力の強いものが記録媒体として採用され始めている。そのため、上述した垂直記録方式であっても、記録媒体に情報を記録することが困難になっていた。
【0005】
そこで、上述した不具合を解消するために、光を集光したスポット光、若しくは、近接場光を利用して磁区を局所的に加熱して一時的に保磁力を低下させ、その間に記録媒体への書き込みを行うハイブリッド磁気記録方式の記録再生ヘッドが提供されている。
このような記録再生ヘッドのうち、近接場光を利用した記録再生ヘッド(以下、近接場光ヘッドという)には、例えば下記特許文献1に示されているように、磁気記録媒体の表面に沿って移動可能なスライダと、スライダの先端部に保持された記録素子と、記録素子に接合された近接場光発生素子と、光束(レーザ光)を照射する光源と、光源から発せられた光束を近接場光発生素子まで導く光導波路と、が備えられている。
【0006】
上記した記録素子は、磁気記録媒体の表面に対向する対向面から記録磁界を発生させる素子である。この記録素子には、互いに対向配置された主磁極及び補助磁極と、それら主磁極及び補助磁極の間に配設されたコイルと、が備えられている。これら主磁極、補助磁極及びコイルは、磁気記録媒体の表面に対して略垂直にそれぞれ配設されており、また、補助磁極が基端側(スライダ側)に配置されて主磁極が先端側(スライダ側の反対側)に配置されている。
【0007】
また、上記した近接場光発生素子は、磁気記録媒体の表面に対向する対向面から近接場光を発生させる素子である。この近接場光発生素子には、基端側から入射された光束を先端側に向けて集光しながら伝播させるコアと、コアの側面に密着してコアを封止するクラッドと、コアの先端側で集光された光束から近接場光を発生させる金属膜と、が備えられている。上記したコアは、記録素子の先端面に沿って磁気記録媒体の表面に対して垂直な方向に延設されていると共に、先端を磁気記録媒体の表面に向けて配設されている。また、コアの先端面は、磁気記録媒体の表面に対向する対向面から外部に露出されており、このコアの先端部分の側面に金属膜が密着されている。上記したクラッドは記録素子の先端面(主磁極側の面)に接合されており、近接場光発生素子は、主磁極に対する補助磁極側の反対側に配置されている。上記した近接場光発生素子では、光源から照射された光束が光導波路を通ってコアの基端部からコアの内側に入射されると、そのコアに入射された光束は、基端側から先端側に向かって集光しながら伝播し、コアの先端部において光束が金属膜によって近接場光に変換され、その近接場光によって磁気記録媒体が加熱される。
【0008】
上記した近接場光ヘッドによれば、近接場光を発生させると同時に記録磁界を印加することで、記録媒体に各種の情報を記録している。すなわち、光源から出射された光束は光導波路を介してコアの基端部からコア内に入射する。この光束は、コア内を先端側に向かって伝播して金属膜に達する。すると、金属膜では、光束によって内部の自由電子が一様に振動させられるのでプラズモンが励起され、コアの先端部に近接場光を局在化させた状態で発生させる。その結果、磁気記録媒体の磁気記録層は、近接場光によって局所的に加熱され、一時的に保磁力が低下する。
また、上述した光束の照射と同時に記録素子に駆動電流を供給することで、主磁極の先端に近接する磁気記録媒体の磁気記録層に対して記録磁界を局所的に印加する。その結果、保磁力が一時的に低下した磁気記録層に各種の情報を記録することができる。つまり、近接場光と磁場との協働により、磁気記録媒体への記録を行うことができる。
【0009】
ところで、上記した近接場光ヘッドにおいては、磁気記録媒体のうちの主磁極に近い部分を加熱することが好ましい。そのため、従来、例えば下記特許文献2に示すように、磁気記録媒体の表面に対向する近接場光発生素子の対向面に金属膜(散乱体)を形成する構造が提案されている。この金属膜は、主磁極側に向かって漸次縮幅された平面視三角形状に形成されている。上記した構成の近接場光ヘッドでは、金属膜の主磁極側の角部において近接場光が発生するため、磁気記録媒体のうちの主磁極に近い部分を加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−152897号公報
【特許文献2】特開2008−159192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した近接場光ヘッドでは、記録素子を構成する主磁極、補助磁極及びコイルと、近接場光発生素子を構成するコア及びクラッドと、が、磁気記録媒体の表面に沿った方向に積層された積層構造体となっている。このため、磁気記録媒体の表面に対向する対向面に金属膜を形成する上記した従来の近接場光ヘッドでは、上記した積層構造体の積層方向に直交する端面に金属膜を形成することになるので、金属膜を形成する作業が煩雑であるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、磁気記録媒体の表面に対向する対向面に金属膜を容易に形成することができる近接場光ヘッドの製造方法、近接場光ヘッド、及び情報記録再生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法は、一定方向に回転する磁気記録媒体の表面に沿って移動可能なスライダと、該スライダに保持されていると共に、主磁極及び補助磁極を有し、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から記録磁界を発生させる記録素子と、前記主磁極に対する前記補助磁極側の反対側に配置され、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から近接場光を発生させる近接場光発生素子と、を備えており、前記近接場光発生素子の対向面から発生する近接場光によって前記磁気記録媒体を加熱すると共に、前記記録素子の対向面から発生する記録磁界によって前記磁気記録媒体に磁化反転を生じさせることで、該磁気記録媒体に情報を記録する近接場光ヘッドの製造方法であって、前記近接場光発生素子には、先端を前記磁気記録媒体の表面に向けて配設され、基端側から入射された光束を先端側に向けて集光しながら伝播させるコアと、前記コアのうちの少なくとも先端部分の主磁極側の側面に密着して配置され、前記コアの先端側で集光された光束から近接場光を発生させる金属膜と、が備えられており、前記金属膜と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に向けて露出されて該磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有する中間層を介在された状態で、前記近接場光発生素子を形成する近接場光発生素子形成工程と、前記コアの基端側から光束を入射させて近接場光を発生させ、該近接場光によって前記金属膜を溶解して前記中間層の対向面上に前記金属膜を溶け出させ、該中間層の対向面に前記金属膜の端部を形成する金属膜溶解工程と、を備えることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る近接場光ヘッドは、一定方向に回転する磁気記録媒体の表面に沿って移動可能なスライダと、該スライダに保持されていると共に、主磁極及び補助磁極を有し、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から記録磁界を発生させる記録素子と、前記主磁極に対する前記補助磁極側の反対側に配置され、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から近接場光を発生させる近接場光発生素子と、を備えており、前記近接場光発生素子の対向面から発生する近接場光によって前記磁気記録媒体を加熱すると共に、前記記録素子の対向面から発生する記録磁界によって前記磁気記録媒体に磁化反転を生じさせることで、該磁気記録媒体に情報を記録する近接場光ヘッドであって、前記近接場光発生素子には、先端を前記磁気記録媒体の表面に向けて配設され、基端側から入射された光束を先端側に向けて集光しながら伝播させるコアと、前記コアのうちの少なくとも先端部分の主磁極側の側面に密着して配置され、前記コアの先端側で集光された光束から近接場光を発生させる金属膜と、が備えられ、該金属膜と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に向けて露出されて該磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有する中間層が介在されており、前記金属膜が前記近接場光によって溶解されて前記中間層の対向面上に溶け出ることで、前記金属膜の端部が前記中間層の対向面に形成されていることを特徴としている。
【0015】
このような特徴により、磁気記録媒体を加熱する際の光束よりも高出力の光束をコアの基端側からコア内に入射させると、前記光束がコアの先端側に向かって集光しながらコア内を伝播し、コア先端側の金属膜で強い近接場光が発生する。そして、この近接場光によって金属膜が高温になって溶解され、磁気記録媒体の表面に対向する中間層の対向面上に溶け出る。これにより、金属膜の端部が磁気記録媒体の表面に対向する面まで延設され、しかも、その金属膜の端部が主磁極側に向かって漸次縮幅された形状となる。その結果、磁気記録媒体を加熱する際、上記した金属膜の端部の先端部分において近接場光が発生するので、磁気記録媒体のうちの主磁極に近い部分が加熱される。
【0016】
また、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、及び近接場光ヘッドは、前記中間層と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に露出された通電膜が介在されていることが好ましく、この場合、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法は、前記金属膜溶解工程の際に、前記通電膜に対する前記金属膜の端部の接触を検知し、該検知情報に基づいて前記コアに入射させる光束を制御する。
これにより、コアに高出力の光束を入射させて近接場光によって金属膜を溶解する際、金属膜の端部を通電膜の位置まで確実に伸延させることができる。例えば、近接場光によって金属膜を溶解する際、金属膜の端部が通電膜に接触したことを検知するまでコアに高出力の光束を入射させる。そして、金属膜の端部が通電膜に接触したことを検知した後、コアに対する光束の入射を停止する。これにより、金属膜の端部の形状のばらつきが抑えられる。
【0017】
また、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、及び近接場光ヘッドは、前記金属膜の磁気記録媒体側の反対側の端部、及び前記通電膜の磁気記録媒体側の反対側の端部が、前記記録素子の対向面の反対側の端面と面一な位置までそれぞれ延設されていることが好ましく、この場合、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法は、前記金属膜溶解工程の際に、前記金属膜の磁気記録媒体側の反対側の端部と前記通電膜の磁気記録媒体側の反対側の端部とを電気的に接続する電気回路を形成する。
これにより、コアに高出力の光束を入射させて近接場光によって金属膜を溶解する際、金属膜の端部が通電膜に接触していない状態では、金属膜の磁気記録媒体側の端部と通電膜の磁気記録媒体側の端部とが電気的に接続されてなく、電気回路が切断された状態となる。一方、金属膜の端部が通電膜に接触すると、金属膜の磁気記録媒体側の端部と通電膜の磁気記録媒体側の端部とが電気的に接続され、電気回路が閉じられた閉ループとなる。したがって、電気回路が切断されているか閉ループとなっているかを検知することで、金属膜の端部が通電膜に接触したことを検知することができる。
【0018】
また、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、及び近接場光ヘッドは、前記通電膜が、前記磁気記録媒体の表面側に露出された抵抗部と、該抵抗部の両端から前記記録素子の対向面の反対側の端面と面一な位置までそれぞれ延設された一対の接続部と、を備えているものであってもよく、この場合、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法は、前記金属膜溶解工程の際に、該一対の接続部の磁気記録媒体側の反対側の端部同士を電気的に接続する電気回路を形成し、該電気回路の電気抵抗値を検出する。
これにより、コアに高出力の光束を入射させて近接場光によって金属膜を溶解する際、電気回路の電気抵抗値に基づいて金属膜の端部が通電膜に接触したことを検知することができる。すなわち、金属膜の端部が通電膜に接触していない状態では電気回路の電気抵抗値は略一定であるが、金属膜の端部が通電膜に接触すると、電気回路の電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化に基づいて金属膜の端部が通電膜に接触したことを検知することができる。
【0019】
また、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、及び近接場光ヘッドは、前記中間層の対向面が、前記コアの先端面よりもぬれ性が高くなっていることが好ましい。
これにより、コアに高出力の光束を入射させて近接場光によって金属膜を溶解させたとき、中間層の対向面はコアの先端面よりもぬれ性(親水性)が高い、つまり、コアの先端面は中間層の対向面よりも撥水性が高いので、金属膜が溶融した金属流動体は、撥水性の高いコアの先端面側に流れにくく、ぬれ性の高い中間層の対向面側に流れやすい。このため、金属膜の端部を主磁極側に向けて延びた形状に形成しやすい。
【0020】
また、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、及び近接場光ヘッドは、複数の前記通電膜が、絶縁層を介して前記中間層と前記主磁極との間に積層されていることが好ましく、この場合、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法は、前記金属膜溶解工程の際に、複数の前記通電膜に対する前記金属膜の端部の接触をそれぞれ検知し、該検知情報に基づいて前記コアに入射させる光束の出力を段階的に低下させる。
これにより、磁気記録媒体に対向する対向面に形成される金属膜の端部が、主磁極側に向かって漸次縮径された先尖形状に確実に形成される。また、光束の出力を段階的に低下させるので、金属膜の端部が通電膜を越えて主磁極に接触するのを防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る情報記録再生装置は、上記した近接場光ヘッドと、前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、前記磁気記録媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で前記近接場光ヘッドを先端側で支持するビームと、前記コアの基端部に対して光束を入射させる光源と、前記ビームの基端側を支持するとともに、前記ビームを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、前記磁気記録媒体を前記一定方向に回転させる回転駆動部と、前記記録素子及び前記光源の作動を制御する制御部と、を備えていることを特徴としている。
このような特徴により、磁気記録媒体のうち、磁気記録する箇所に近い部分を加熱することができるため、効率的に磁気記録媒体に情報を磁気記録することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、近接場光ヘッド、及び情報記録再生装置によれば、磁気記録媒体の表面に対向する対向面に金属膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態における情報記録再生装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態における記録再生ヘッドの断面図である。
【図3】記録再生ヘッドの流出端側の側面を拡大した断面図である。
【図4】記録再生ヘッドの流出端側の下面を拡大した平面図である。
【図5】記録再生ヘッドの流出端側の下部を拡大した拡大断面図である。
【図6】図4に相当する図であって、記録再生ヘッドの製造方法を説明するための工程図である。
【図7】図4に相当する図であって、記録再生ヘッドの製造方法を説明するための工程図である。
【図8】記録再生ヘッドの製造方法を説明するための記録再生ヘッドの斜視図である。
【図9】変形例を説明するための記録再生ヘッドの斜視図である。
【図10】変形例を説明するための記録再生ヘッドの流出端側の下面を拡大した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
[情報記録再生装置]
まず、本発明に係る情報記録再生装置の一例である図1に示す情報記録再生装置1について説明する。
情報記録再生装置1は、図1に示すように、ディスク(磁気記録媒体)Dに対して、近接場光と記録磁界とを協働させたハイブリッド磁気記録方式によりディスクDに記録再生を行う装置である。この情報記録再生装置1は、図1に示すように、記録再生ヘッド(近接場光ヘッド)2と、記録再生ヘッド2を支持するビーム3と、記録再生ヘッド2にレーザ光(光束)L(図2参照)を入射させる光束入射機構4と、ビーム3を移動させるアクチュエータ5と、ディスクDを一定方向に回転させるスピンドルモータ(回転駆動部)6と、上述した各構成品を総合的に制御する制御部8と、各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0026】
ハウジング9は、アルミニウム等の金属材料により、上面視四角形状に形成されているとともに、内側に各構成品を収容する凹部9aが形成されている。また、このハウジング9には、凹部9aの開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。凹部9aの略中心には、スピンドルモータ6が取り付けられており、スピンドルモータ6に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定される。なお、本実施形態では、3枚のディスクDがスピンドルモータ6に固定されている場合を例に挙げて説明している。但し、ディスクDの数は3枚に限定されるものではない。
【0027】
凹部9aの隅角部には、アクチュエータ5が取り付けられている。このアクチュエータ5には、軸受10を介してキャリッジ11が取り付けられている。キャリッジ11は、例えば金属材を切削加工によって形成されたものであり、軸受10を介してアクチュエータ5に固定される基端部11aから先端に向かう部分が3枚のディスクDの上面に配置されるように3層構造となっている。つまり、キャリッジ11を側面から見た時に、E型になるように形成されている。そして、3層に分かれたキャリッジ11の各先端には、ビーム3の基端側が固定されている。よって、アクチュエータ5は、キャリッジ11を介してビーム3の基端側を支持しており、ビーム3をディスク面(磁気記録媒体の表面)D1(図2参照)に平行なXY方向に向けてスキャン移動させることができるようになっている。
【0028】
ビーム3は、上述したようにアクチュエータ5によってキャリッジ11とともにXY方向に移動可能とされているとともに、ディスク面D1に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸)回りに回動自在な状態で記録再生ヘッド2を先端側で支持している。なお、ビーム3及びキャリッジ11は、ディスクDの回転停止時にアクチュエータ5の駆動によって、ディスクD上から退避するようになっている。
【0029】
[近接場光ヘッド]
次に、本発明に係る近接場光ヘッドの一例である図2に示す記録再生ヘッド2について説明する。
記録再生ヘッド2は、図2,図3に示すように、レーザ光Lから生成した近接場光を利用して回転するディスクDに各種の情報を記録再生するヘッドである。記録再生ヘッド2は、ディスク面D1から所定距離Hだけ浮上した状態でディスクDに対向配置されていると共にディスク面D1に沿って移動可能なスライダ20と、ディスクDに情報を記録する記録素子21と、ディスクDに記録されている情報を再生する再生素子22と、導入されたレーザ光Lを集光しながら伝播するとともに、近接場光に生成した後に外部に発する近接場光発生素子26と、を備えている。
【0030】
スライダ20は、石英ガラス等の光透過性材料や、AlTiC(アルチック)等のセラミック等によって直方体状に形成されている。このスライダ20は、ディスク面D1に平行するディスクD側の下面20aを有しており、ジンバル部30(図2参照)を介してビーム3の先端に垂下されるように支持されている。このジンバル部30は、X軸回り及びY軸回りにのみ変位するように動きが規制された部品である。これによりスライダ20は、上述したようにディスク面D1に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸)回りに回動自在とされている。
【0031】
また、スライダ20の下面20aには、回転するディスクDによって生じた空気流の粘性から、浮上するための圧力を発生させる凸条部20bが形成されている。この凸条部20bは、長手方向(X方向)に沿って延びるように形成されており、レール状に並ぶように間隔を空けて左右(Y方向)に2つ形成されている。但し、凸条部20bはこの場合に限定されるものではなく、スライダ20をディスク面D1から離そうとする正圧とスライダ20をディスク面D1に引き付けようとする負圧とを調整して、スライダ20を最適な状態で浮上させるように設計されていれば、どのような凹凸形状でも構わない。なお、この凸条部20bの表面はABS(AIR BEARING SURFACE)20cと呼ばれている。
【0032】
そしてスライダ20は、この2つの凸条部20bによってディスク面D1から浮上する力を受けている。一方、ビーム3はディスク面D1に垂直なZ方向に撓むようになっており、スライダ20の浮上力を吸収している。つまり、スライダ20は、浮上した際にビーム3によってディスク面D1側に押さえ付けられる力を受けている。よってスライダ20は、この両者の力のバランスによって、上述したようにディスク面D1から所定距離H離間した状態で浮上するようになっている。しかもスライダ20は、ジンバル部30によってX軸回り及びY軸回りに回動するようになっているので、常に姿勢が安定した状態で浮上するようになっている。
【0033】
なお、ディスクDの回転に伴って生じる空気流は、スライダ20の流入端側(ビーム3のX方向基端側)から流入した後、ABS20cに沿って流れ、スライダ20の流出端側(ビーム3のX方向先端側)から抜けている。
以下、スライダ20の流入端側(リーディングエッジ側)、つまり図2におけるX方向右側を「後方」とし、スライダ20の流出端側(トレイリングエッジ側)、つまり図2におけるX方向左側を「前方」とする。また、記録再生ヘッド2に対してディスク面D1側、つまり図2におけるZ方向下側を「下方」とし、その反対側、つまり図2におけるZ方向上側を「上方」とする。
【0034】
記録素子21は、図2に示すディスク面D1に対向する対向面21aから記録磁界を発生させ、その記録磁界をディスクDに作用させて情報を記録する素子であり、図3に示すように、スライダ20の前方側の端部に保持されている。この記録素子21には、スライダ20の前方側の端面(前端面)に固定された補助磁極31と、補助磁極31の前方側に配設されて磁気回路32を介して補助磁極31に接続された主磁極33と、磁気回路32を中心として磁気回路32の周囲を螺旋状に巻回するコイル34と、が備えられている。つまり、スライダ20の前端面から前方側に向かって、補助磁極31、磁気回路32及びコイル34、主磁極33の順で並べて配置されている。
【0035】
上記した両磁極31,33及び磁気回路32は、磁束密度が高い高飽和磁束密度(Bs)材料(例えば、CoNiFe合金、CoFe合金等)により形成されている。また、コイル34は、ショートしないように、隣り合うコイル線間、磁気回路32との間、両磁極31,33との間に隙間が空くように配置されており、この状態で絶縁体35によってモールドされている。そして、コイル34は、情報に応じて変調された電流が図1に示す制御部8から供給されるようになっている。すなわち、磁気回路32及びコイル34は、全体として電磁石を構成している。また、上記した主磁極33、補助磁極31及び絶縁体35のディスク面D1に対向する各対向面33a,31a,35a(Z方向端面)は、スライダ20のABS20cとそれぞれ面一に形成されている。上記した構成の記録素子21では、コイル34に電流が供給されることで、磁力線が主磁極33の対向面33aから出て補助磁極31aの対向面31aに入る記録磁界が発生する。
【0036】
近接場光発生素子26は、図2に示すディスク面D1に対向する対向面26aから近接場光を発生させる素子であり、図3に示すように、記録素子21の前方側(図3に示す主磁極33に対する補助磁極31側の反対側)に配設されている。この近接場光発生素子26には、先端を図2に示すディスク面D1に向けて上下に延設されたコア23と、コア23の主磁極33側の側面(後面23g)に密着して配置されたプラズモン増強金属膜25(金属膜)と、コア23の下端部(先端部)を被覆する遮光膜27と、コア23の側面に密着してコア23を封止するクラッド24と、を備えている。
【0037】
コア23は、上端側(基端側)から入射されたレーザ光Lを下端側(先端側)に向けて集光しながら伝播させる光束伝播部材である。このコア23は、上端側から下端側にかけて漸次絞り成形されており、レーザ光Lを内部で徐々に集光させながら伝播させることができるようになっている。具体的に説明すると、コア23は、上側から反射面23aと光束集光部23bと近接場光生成部23cとを有しており、レーザ光Lの伝播方向(Z方向)から見て三角形状に形成されている。
【0038】
反射面23aは、後述する光導波路(光束導入手段)42から導入されたレーザ光Lを屈曲させるものであり、具体的には、レーザ光Lが下向きに略90度屈曲するように反射させる反射面である。この反射面23aによって光導波路42から導入されたレーザ光Lは、コア23内で全反射を繰り返しながらコア23の下端側に向けて伝播する。なお、反射面23aによる屈曲角度は適宜変更可能であり、レーザ光Lの入射方向に応じて適宜設定される。
【0039】
光束集光部23bは、上端側から下端側に向かって断面積(XY方向の断面積)が漸次縮小するように絞り成形された部分であり、導入されたレーザ光Lを集光させながら下方に伝播させている。つまり、光束集光部23bに導入されたレーザ光Lのスポットサイズを、徐々に小さいサイズに絞ることができるようになっている。
【0040】
近接場光生成部23cは、光束集光部23bの下端から下方に向けてさらに絞り成形された部分である。具体的には、内部を伝播するレーザ光Lの光軸(Z方向)に対して傾斜した状態で再生素子22に対向するように形成された傾斜面23hによって絞り成形されている。この傾斜面23hによって、コア23の下端部が尖形した状態となっている。
【0041】
なお、本実施形態では、光束集光部23b及び近接場光生成部23cが3つの側面を有するように形成されており、そのうちの後方側の側面(後面23g)が、図3,図4に示すように、記録素子21(主磁極33)の前端面と平行に形成されている。この場合、図4に示すように、後面23gの両端(Y方向両端)からは、前方側(図3に示す再生素子22側)に向かって一対の側面23dが形成され、これによりコア23はZ方向から見て前方側に向かって先細る三角形状に形成されている。そのため、近接場光生成部23cの下端で外部に露出する下端面23eが三角形状に形成されている。また、この下端面23eは、図5に示すように、記録素子21の対向面21a(主磁極33、補助磁極31及び絶縁体35の各対向面33a,31a,35a)や図3に示すスライダ20のABS20cと面一に形成されている。
【0042】
クラッド24は、コア23を封止するモールド部材であり、コア23よりも屈折率が低い材料で形成されている。このクラッド24は、図3から図5に示すように、コア23の下端面23e及び後面23gを露出させた状態でコア23を埋設させている。すなわち、クラッド24はコア23の反射面23a及び両側の側面23dにそれぞれ密着しており、クラッド24の後端面はコア23の後面23gと面一に形成されており、クラッド24の下端面24a(ディスク面D1に対向する端面)はコア23の下端面23eと面一に形成されている。
【0043】
なお、クラッド24及びコア23として使用される材料の組み合わせの一例を記載すると、例えば、石英(SiO2)でコア23を形成し、フッ素をドープした石英でクラッド24を形成する組み合わせが考えられる。この場合には、レーザ光Lの波長が400nmのときに、コア23の屈折率が1.47となり、クラッド24の屈折率が1.47未満となるので好ましい組み合わせである。
また、ゲルマニウムをドープした石英でコア23を形成し、石英(SiO2)でクラッド24を形成する組み合わせも考えられる。この場合には、レーザ光Lの波長が400nmのときに、コア23の屈折率が1.47より大きくなり、クラッド24の屈折率が1.47となるのでやはり好ましい組み合わせである。
特に、コア23とクラッド24との屈折率差が大きいほど、コア23内にレーザ光Lを閉じ込める力が大きくなるので、コア23に酸化タンタル(Ta25:波長が550nmのときに屈折率が2.16)を用い、クラッド24に石英やアルミナ(Al)等を用いて、両者の屈折率差を大きくすることがより好ましい。また、赤外領域のレーザ光Lを利用する場合には、赤外光に対して透明な材料であるシリコン(Si:屈折率が約4)でコア23を形成することも有効である。
【0044】
プラズモン増強金属膜25は、図3に示すように、コア23内を伝播してきたレーザ光Lから近接場光を発生させ、近接場光を近接場光発生素子26の対向面26aと図2に示すディスク面D1との間に局在化させるものであり、例えば金(Au)や白金(Pt)等により構成されている。プラズモン増強金属膜25は、記録素子21の対向面21aと面一な位置から記録素子21の上端面(対向面21aの反対側の端面)と面一な位置まで延設されており、記録素子21の前端面のZ方向全体に対応する範囲に亘って形成されている。すなわち、プラズモン増強金属膜25の上端はコア23の上端よりも下方に形成されており、コア23の後面23gの上端部にはプラズモン増強金属膜25が被覆されていない。
【0045】
また、図4に示すように、プラズモン増強金属膜25は、Z方向から見て前方側(図3に示す再生素子22側)に向けて先細る等脚台形状に形成されている。このとき、コア23の後面23gに密着するプラズモン増強金属膜25の前面25aのY方向における幅は、コア23の後面23gと同一の幅に形成されている。さらに、前面25aに対して傾斜したプラズモン増強金属膜25の側面25bは、コア23の側面23dと面一に形成されている。
【0046】
遮光膜27は、図4,図5に示すように、外部から近接場光生成部23cに入射される光を遮断するための膜体であり、アルミニウム(Al)等の高反射率の材料からなる。この遮光膜27は、近接場光生成部23cの側面23dとプラズモン増強金属膜25の下端部の側面25bにそれぞれ密着された離間膜28の表面に積層されている。離間膜28は、遮光膜27とプラズモン増強金属膜25とを離間するための膜体であり、近接場光生成部23cの側面23dとプラズモン増強金属膜25の下端部の側面25bとをそれぞれ覆うように形成されている。上記した遮光膜27及び離間膜28は、Z方向において、近接場光生成部23cよりも広範囲に亘って形成されている。具体的に説明すると、遮光膜27及び離間膜28の上部が光束集光部23bの下端部分を被覆しており、遮光膜27及び離間膜28の各下端面27a,28aがそれぞれコア23の下端面23eと面一に形成されている。
【0047】
ところで、図2,図3に示すように、上記した記録素子21(主磁極33)と近接場光発生素子26(プラズモン増強金属膜25)との間には、磁気シールド50(中間層)及び通電用金属膜51(通電膜)を積層させた積層構造52が介在されている。上記した磁気シールド50は、プラズモン増強金属膜25の後面に積層されており、通電用金属膜51は、磁気シールド50の後面に積層されて磁気シールド50と主磁極33との間に介在されている。すなわち、主磁極33側(後方側)からプラズモン増強金属膜25側(前方側)に向かって通電用金属膜51、磁気シールド50の順で積層されている。
【0048】
磁気シールド50は、プラズモン増強金属膜25と主磁極33との間の磁気を遮断するシールド材であり、プラズモン増強金属膜25と主磁極33との間に介在されている。この磁気シールド50は、コア23の下端面23e及び記録素子21の対向面21aとそれぞれ面一な位置からプラズモン増強金属膜25の上端面及び記録素子21の上端面(対向面21aの反対側の端面)と面一な位置まで延設されており、記録素子21の前端面(磁気シールド50の後面)のZ方向全体に亘って形成されている。すなわち、磁気シールド50は、図4,図5に示すように、ディスク面D1側に向けて露出されて図2に示すディスク面D1に対して対向配置された対向面50aを有している。この対向面50aは近接場光発生素子26や記録素子21の対向面26a,21aに対して面一に形成されている。また、図3に示すように、磁気シールド50の上端面は、プラズモン増強金属膜25の上端面と面一に形成されている。
【0049】
また、磁気シールド50は、金属流動体(プラズモン増強金属膜25が溶解した流動体)に対するぬれ性が高い材料で形成されており、例えばパーマロイ(Fe−Ni合金)や軟磁性フェライト材料などからなる。これにより、図5に示す磁気シールド50の対向面50aは、コア23の下端面23eよりもぬれ性(親水性)が高くなっている。言い換えると、コア23の下端面23eの方が、磁気シールド50の対向面50aよりも撥水性が高くなっている。
【0050】
通電用金属膜51は、通電性を有する通電膜であり、例えばクロム(Cr)等により構成されている。この通電用金属膜51は、図3に示すように、磁気シールド50と主磁極33との間に介在されている。また、通電用金属膜51は、記録素子21の対向面21aと面一な位置から記録素子21の上端面と面一な位置まで延設されており、記録素子21の前端面(磁気シールド50の後面)のZ方向全体に亘って形成されている。すなわち、通電用金属膜51は、図5に示すように、ディスク面D1側に向けて露出されて図2に示すディスク面D1に対して対向配置された対向面51aを有しており、この対向面51aは近接場光発生素子26や記録素子21の対向面26a,21a及び磁気シールド50の対向面50aに対して面一に形成されている。また、図3に示すように、通電用金属膜51の上端面は、磁気シールド50の上端面及び記録素子21の上端面とそれぞれ面一に形成されている。
【0051】
ところで、図5に示すように、上記したプラズモン増強金属膜25の下端には、磁気シールド50の対向面50a上に溶出された溶出部25aが形成されている。この溶出部25aは、プラズモン増強金属膜25が溶解されて磁気シールド50の対向面50a上に溶け出ることで形成された部分である。詳しく説明すると、コア23の上端に高出力のレーザ光を入射させることでプラズモン増強金属膜25の下端部において強い近接場光が発生し、この近接場光によってプラズモン増強金属膜25の下端部が加熱されて溶解されることで、その金属流動体が磁気シールド50の対向面50aに沿って溶け出て溶出部25aが形成される。この溶出部25aは、プラズモン増強金属膜25の後面よりも後方側に突出されていると共に、図4に示すように、平面視において後方側に向かって漸次縮径された形状に形成されている。そして、この溶出部25aの突出端(後端)は、通電用金属膜51の対向面51aまで延在されており、溶出部25aと通電用金属膜51の対向面51aとは電気的に接続されている。
【0052】
また、スライダ20の上面には光導波路42が固定されている。この光導波路42は、スライド20の後端側から前端側に向かって延在するコア42aと、コア42aを覆うように形成されたクラッド42bと、からなり、コア42a内をレーザ光Lが伝播するようになっている。光導波路42の前端(先端)は、近接場光発生素子26のコア23の後面23gの上端部に接続されており、レーザ光Lを反射面23aに向けて出射させている。なお、光導波路42のコア42a及びクラッド42bは、近接場光発生素子26のコア23及びクラッド24と同様の材料により構成されている。
【0053】
一方、光導波路42の後端側(基端側)は、図1に示すように、ビーム3及びキャリッジ11に沿って引き出された後、レーザ光源(光源)43に接続されている。このレーザ光源43は、キャリッジ11の基端部11aの側面に取り付けられた制御基板44上に図示しないICチップ等の各種電子部品とともに実装されている。特にレーザ光源43は、レーザ光Lを直線偏光の状態で出射するようになっている。すなわち、レーザ光源43及び光導波路42は、記録再生ヘッド2にレーザ光Lを直線偏光の状態で入射させる光束入射機構4として機能する。
【0054】
レーザ光源43が実装されている制御基板44は、可撓性のフラットケーブル(フレキシブル基板)45によって制御部8に接続されている。これにより制御部8は、各構成品に電気的な信号を送って総合的な制御を行っている。特にレーザ光源43は、レーザ光Lを出射するタイミングが制御部8によって制御されている。
【0055】
図2に示すように、再生素子22は、ディスクDの垂直記録層d2から漏れ出ている磁界の大きさに応じて電気抵抗が変換する磁気抵抗効果膜であり、近接場光発生素子26(クラッド24)の前端面に保持されている。この再生素子22には、図示しないリード膜等を介して図1に示す制御部8からバイアス電流が供給されている。これにより制御部8は、ディスクDから漏れ出た磁界の変化を電圧の変化として検出することでき、この電圧の変化から信号の再生を行うことができるようになっている。
【0056】
なお、本実施形態のディスクDは、図2に示すように、ディスク面D1に垂直な方向に磁化容易軸を有する垂直記録層d2と、高透磁率材料からなる軟磁性層d3との少なくとも2層で構成される垂直2層膜ディスクDを使用する。このようなディスクDとしては、例えば、基板d1上に、軟磁性層d3と、中間層d4と、垂直記録層d2と、保護層d5と、潤滑層d6とを順に成膜したものを使用する。
基板d1としては、例えば、アルミ基板やガラス基板等である。軟磁性層d3は、高透磁率層である。中間層d4は、垂直記録層d2の結晶制御層である。垂直記録層d2は、垂直異方性磁性層となっており、例えばCoCrPt系合金が使用される。保護層d5は、垂直記録層d2を保護するためのもので、例えばDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜が使用される。潤滑層d6は、例えば、フッ素系の液体潤滑材が使用される。
【0057】
[情報記録再生方法]
次に、上記した情報記録再生装置1により、ディスクDに各種の情報を記録再生する場合について以下に説明する。
まず、図1に示すように、スピンドルモータ6を駆動させてディスクDを一定方向に回転させる。次いで、アクチュエータ5を作動させて、キャリッジ11を介してビーム3をXY方向にスキャンさせる。これにより、ディスクD上の所望する位置に記録再生ヘッド2を位置させることができる。この際、記録再生ヘッド2は、スライダ20の対向面20aに形成された2つの凸条部20bによって浮上する力を受けるとともに、ビーム3等によってディスクD側に所定の力で押さえ付けられる。記録再生ヘッド2は、この両者の力のバランスによって、図2に示すようにディスクD上から所定距離H離間した位置に浮上する。
【0058】
また、記録再生ヘッド2は、ディスクDのうねりに起因して発生する風圧を受けたとしても、ビーム3によってZ方向の変位が吸収されるとともに、ジンバル部30によってXY軸回りに変位することができるようになっているので、うねりに起因する風圧を吸収することができる。そのため、記録再生ヘッド2を安定した状態で浮上させることができる。
【0059】
次に、情報の記録を行う場合、図1に示す制御部8はレーザ光源43を作動させて直線偏光のレーザ光L(図3に示す)を出射させるとともに、情報に応じて変調した電流をコイル34に供給して記録素子21を作動させる。
まず、レーザ光源43からレーザ光Lを光導波路42に入射させて、レーザ光Lをスライダ20側に導く。レーザ光源43から出射されたレーザ光Lは、図3に示すように、光導波路42のコア42a内を先端(流出端)側に向かって進み、近接場光発生素子26のコア23内に伝播する。コア23内に伝播したレーザ光Lは、反射面23aで略90度反射された後、光束集光部23b内を伝播する。光束集光部23bを伝播するレーザ光Lは、下方に向かってコア23とクラッド24との間で全反射を繰り返しながら伝播する。特に、図4に示すコア23の側面23dにはクラッド24が密着され、コア23の後面23gにはプラズモン増強金属膜25が密着されているので、コア23の外部に光が漏れることはない。よって、導入されたレーザ光Lを無駄にすることなく絞りながら他端側に伝播させて、近接場光生成部23cに入射させることができる。
この際、コア23は、下方に向かって断面積が漸次減少するように絞り成形されている。そのため、レーザ光Lは光束集光部23b内を伝播するにしたがって徐々に絞り込まれてスポットサイズが小さくなる。
【0060】
スポットサイズが小さくなったレーザ光Lは、続いて、近接場光生成部23cに入射する。この近接場光生成部23cは、下方に向けてさらに絞り成形されており、下端面23eが光の波長以下のサイズとされている。この場合、近接場光生成部23cの2つの側面23d(図4に示す)は、遮光膜27によって遮光されている。よって、近接場光生成部23cに入射したレーザ光Lは、クラッド24側に漏れることがなく、遮光膜27と離間膜28との界面で反射されながら伝播する。そして、近接場光生成部23cを伝播するレーザ光Lがプラズモン増強金属膜25に入射すると、プラズモン増強金属膜25には表面プラズモンが励起される。励起された表面プラズモンは、共鳴効果によって増強されながらプラズモン増強金属膜25とコア23(近接場光生成部23c)との界面に沿いながら、コア23の下端側に向かって伝播する。そして、プラズモン増強金属膜25の下端部から、光強度の強い近接場光となって外部に漏れ出す。つまり、近接場光発生素子26の対向面26aとディスク面D1との間に近接場光を局在化させることができる。するとディスクDは、この近接場光によって局所的に加熱されて一時的に保磁力が低下する。また、上記した記録再生ヘッド2では、プラズモン増強金属膜25の溶出部25aの突出端(後端)において強い近接場光が発生して加熱されるので、ディスクDのうちの主磁極33に近い部分の保磁力が一時的に低下する。
【0061】
一方、図1に示す制御部8によってコイル34に電流が供給されると、電磁石の原理により電流磁界が磁気回路32内に磁界を発生させるので、主磁極33と補助磁極31との間にディスクDに対して垂直方向の記録磁界を発生させることができる。すると、主磁極33側から発生した磁束が、ディスクDの垂直記録層d2を真直ぐ通り抜けて軟磁性層d3に達する。これによって、垂直記録層d2の磁化をディスク面D1に対して垂直に向けた状態で記録を行うことができる。また、軟磁性層d3に達した磁束は、軟磁性層d3を経由して補助磁極31に戻る。この際、補助磁極31に戻るときには磁化の方向に影響を与えることはない。これは、ディスク面D1に対向する補助磁極31の面積が、主磁極33よりも大きいので磁束密度が大きく磁化を反転させるほどの力が生じないためである。つまり、主磁極33側でのみ記録を行うことができる。
【0062】
その結果、近接場光と両磁極31,33で発生した記録磁界とを協働させたハイブリッド磁気記録方式により情報の記録を行うことができる。しかも垂直記録方式で記録を行うので、熱揺らぎ現象等の影響を受け難く、安定した記録を行うことができる。よって、書き込みの信頼性を高めることができる。特に、上記した記録再生ヘッド2では、ディスクDのうちの主磁極33に近い部分に近接場光を発生させるので、記録磁界による記録を行う部位の保磁力を大きく低下させることができ、特に安定した記録を行うことができる。
【0063】
また、ディスクDに記録された情報を再生する場合には、ディスクDの保磁力が一時的に低下している時に、再生素子22がディスクDの垂直記録層d2から漏れ出ている磁界を受けて、その大きさに応じて電気抵抗が変化する。よって、再生素子22の電圧が変化する。これにより制御部8は、ディスクDから漏れ出た磁界の変化を電圧の変化として検出することができる。そして制御部8は、この電圧の変化から信号の再生を行うことで、ディスクDに記録されている情報の再生を行うことができる。
【0064】
[記録再生ヘッドの製造方法]
次に、上述した記録再生ヘッド2の製造方法について説明する。図6,図7は図4に相当する部分断面図であって、記録再生ヘッド2の製造方法を説明するための工程図である。
本実施形態では、スライダ20となる基板120(例えば、AlTiC(アルチック)等)上に記録素子21、近接場光発生素子26、及び再生素子22を順に形成した後、ダイシングすることで、記録再生ヘッド2を製造する。なお、図6,図7では、説明を分かり易くするため、基板120上に形成される記録素子21のうち、補助磁極31、磁気回路32及びコイル34の記載を省略する。
【0065】
まず、基板120上に記録素子21を形成した後、その記録素子21の上に近接場光発生素子26を形成する近接場光発生素子形成工程を行う。このとき、プラズモン増強金属膜25と主磁極33との間に磁気シールド50及び通電用金属膜51からなる積層構造52が介在された状態にする。
【0066】
詳しく説明すると、初めに、図6(a)に示すように、基板120上に形成された記録素子21の上に図4に示す通電用金属膜51、磁気シールド50、プラズモン増強金属膜25及びコア23の各母材を順次積層させる(母材成膜工程)。すなわち、まず、基板120上に形成された記録素子21上に通電用金属膜51の母材(通電用金属膜母材151)を成膜する。続いて、その通電用金属膜母材151の上に磁気シールド50の母材(磁気シールド母材150)を成膜する。次いで、その磁気シールド母材150の上にプラズモン増強金属膜25の母材(プラズモン増強金属膜母材125)を成膜する。その後、そのプラズモン増強金属膜母材125の上にコア23の母材(コア母材123)を成膜する。なお、上記した各母材151,150,125,123の成膜後には、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等でそれぞれの表面を研磨して、平坦面とする。
【0067】
次に、図6(b)に示すように、コア母材123上にフォトリソグラフィ技術を用いてコア母材123を除去すべき領域が開口したマスクパターン(不図示)を形成し、このマスクパターンを介して反応性イオンエッチング(RIE)を行う(垂直エッチング工程)。これにより、マスクパターンが開口した領域のコア母材123がエッチングされ、Z方向から見て矩形状のコア母材123aが形成される。また、コア母材123aは、平面視(図6に示すA矢視)において一端側から他端側にかけて先細る台形状に形成される。なお、垂直エッチング工程においては、マスクパターンが開口した領域のコア母材123aは、完全に除去せずに僅かに残存させて残存部123bを形成することが好ましい。
【0068】
次に、図6(c)に示すように、アルゴン(Ar)等のプラズマ中でコア母材123a及び金属膜母材151をスパッタエッチングする(傾斜エッチング工程)。傾斜エッチング工程において、断面矩形状のコア母材123aをスパッタエッチングすると、コア母材123aの角部が選択的にエッチングされて斜面が形成される。そして、この状態でさらにエッチングを続けると、前記斜面が底面(図4に示す後面23gに相当)に対して一定の角度を保ちながらエッチングされることで、図6(b)に示すコア母材123aが断面三角形状に形成される。その後、さらにエッチングを続けると、図6(b)に示すコア母材123aは相似形を保ちながら幅(図6における横方向の寸法)、及び高さ(図6における縦方向の寸法)が縮小するとともに、図6(b)に示す残存部123bが除去される。その結果、2つの側面23d及び後面23gを有する三角形状のコア23が形成される。このように、垂直エッチング工程で矩形状に形成したコア母材123aに対してスパッタエッチングを行うことで、任意の幅や高さにコア23を形成することができる。
【0069】
次に、図7(a)に示すように、さらにエッチングを続けると、コア23は相似形を保ったままエッチングされるとともに、プラズモン増強金属膜母材125がエッチングされる。この場合、プラズモン増強金属膜母材125の幅方向の両端部(図4における側面25bに相当)は、コア23の側面23dと後面23gとのなす角度と同一の角度にエッチングされる。以上により、プラズモン増強金属膜25´が形成される。このプラズモン増強金属膜25´は、上記した注出部25aが形成されていない金属膜であり、このプラズモン増強金属膜25´の下端面は、コア23の下端面23eや磁気シールド50の対向面50aと面一に形成されている。
【0070】
なお、コア23以外の領域のプラズモン増強金属膜母材125を完全に除去するためには、磁気シールド母材150も僅かにエッチングされる。その結果、磁気シールド50が形成される。この場合、上述した垂直エッチング工程において、コア母材123の残存部123bを形成しておくことで、傾斜エッチング工程で磁気シールド母材150がオーバーエッチングされるのを防止できる。
【0071】
次に、図7(a)に示すように、コア23及びプラズモン増強金属膜25を覆うように離間膜28を形成する(離間膜形成工程)。具体的には、コア23の側面23dにおける近接場光生成部23cに相当する領域に離間膜28をパターニングする。
次に、図7(b)に示すように、離間膜28を覆うように遮光膜27を形成する(遮光膜形成工程)。具体的には、離間膜28の上面に遮光膜27をパターニングする。
【0072】
次に、図7(c)に示すように、コア23及び遮光膜27を覆うように、クラッド24を形成する(クラッド形成工程)。その後、CMP等でクラッド24の表面を研磨して、平坦面に形成する。
次に、クラッド24上に図3に示す再生素子22を形成する。これにより、基板120上に記録素子21、近接場光発生素子26、及び再生素子22が積層された状態で形成される。
【0073】
次に、図8に示すように、コア23の上端側から高出力のレーザ光L´を入射させてプラズモン増強金属膜25の下端部において強い近接場光を発生させ、その近接場光によってプラズモン増強金属膜25の下端部を溶解して磁気シールド50の対向面50a上にプラズモン増強金属膜25を溶け出させ、磁気シールド50の対向面50aに溶出部25aを形成する金属膜溶解工程を行う。
【0074】
具体的に説明すると、まず、高出力のレーザ光L´を照射するレーザ光源143をスライダ20上に設置すると共に、レーザ光源143を制御する制御部108を再生素子22の前端面に設置する。レーザ光源143は、コア23の反射面23aに向けて高出力のレーザ光L´を出射する光源である。制御部108は、通電用金属膜51とプラズモン増強金属膜25´とが電気的に接続されたことを検知することで後述する注出部25aが通電用金属膜51の対向面51aに接触したことを検知し、その検知情報に基づいてレーザ光源143を制御する制御手段である。この制御部108は、プラズモン増強金属膜25´の上端部と通電用金属膜51の上端部にそれぞれ電気配線101を介して電気的に接続されており、これにより電気回路100が形成されている。
【0075】
次に、レーザ光源143の電源をオンにして高出力のレーザ光L´を照射する。この高出力レーザ光L´は、コア23の上端部の後面23gからコア23内に入射し、反射面23aで略90度反射された後、光束集光部23b内を伝播する。光束集光部23bを伝播する高出力レーザ光L´は、下方に向かってコア23とクラッド24との間で全反射を繰り返しながら伝播すると共に徐々に絞り込まれてスポットサイズが小さくなり、続いて、近接場光生成部23cに入射する。そして、近接場光生成部23cに入射した高出力レーザ光L´がプラズモン増強金属膜25´に入射すると、プラズモン増強金属膜25´には表面プラズモンが励起され、プラズモン増強金属膜25´の下端部から強い近接場光が発生する。このとき、この近接場光によってプラズモン増強金属膜25´の下端部が溶解されて金属流動体となって溶け出て溶出部25aを形成する。このとき、磁気シールド50の対向面50aがコア23の先端面23eよりもぬれ性が高いため、前記した金属流動体は磁気シールド50の対向面50a側に流れる。また、プラズモン増強金属膜25´の下端部のうちの幅方向(図4におけるY方向)の中央部分が最も高温となるため、プラズモン増強金属膜25´の下端部のうちの幅方向の中央部分から金属流動体が流れ出す。
【0076】
そして、上記した金属流動体(溶出部25a)が通電用金属膜51の対向面51aまで流れると、プラズモン増強金属膜25と通電用金属膜51とが溶出部25aを介して電気的に接続される。これにより、上記した電気回路100が閉じられた回路となって電流が流れる状態となる。そして、電気回路100に電流が流れることを制御部108が検知すると、制御部108に電気的に接続されたレーザ光源143の電源がオフになる。これにより、上記した近接場光が消滅し、プラズモン増強金属膜25の溶出部25aの伸延が停止し、磁気シールド50の対向面50aに所望の大きさのプラズモン増強金属膜25の溶出部25aが形成される。
【0077】
次に、基板120をダイシングして、一方向(Y方向)に沿って複数のスライダ20が連なった状態のバー(不図示)を形成する。その後、ダイシングしたバーの側面(切断面)を研磨する(研磨工程)。この研磨工程では、ELG(electro lapping guide)を用い、バーの側面の位置だしを行う。ELGとは、ELG素子の抵抗値を確認しながら研磨を行って研磨量を制御するものである。本実施形態では、例えばバーのELGエリア(後述するスライダ工程におけるダイシング代)に、ELG素子と、ELG素子の両端に接続された一対のパッドと、を形成し、パッドを介してELG素子に通電しながら研磨する。すると、バーの側面とともにELG素子も研磨され、ELG素子のZ方向における幅が減少し、電気抵抗が増加する。そこで、ELG素子の電気抵抗と研磨量との相関を予め求めておき、ELG素子の抵抗値をモニタしながら研磨して、抵抗値が所定の値に達した時点で所望の研磨量が得られたと判断して研磨を終了する。なお、ELG素子やパッドは研磨時に電気抵抗の変化を検出するのが基本的な機能であるため、極端な微細構造とする必要はない。
その後、各スライダ20ごとの大きさになるようにバーを切断する(スライダ形成工程)。
以上により、記録再生ヘッド2が完成する。
【0078】
上記した記録再生ヘッド2、及びその製造方法によれば、ディスク面D1に対向する対向面50aにプラズモン増強金属膜25の端部(溶出部25a)を容易に形成することができる。
【0079】
また、上記した記録再生ヘッド2、及びその製造方法によれば、磁気シールド50の主磁極33との間に通電用金属膜51が介在されているので、コア23に高出力のレーザ光L´を入射させて強い近接場光によってプラズモン増強金属膜25の下端部を溶解して溶出部25aを形成する際、溶出部25aを通電用金属膜51の位置まで確実に伸延させることができる。これにより、プラズモン増強金属膜25の溶出部25aの形状のばらつきを抑えることができ、安定した品質の記録再生ヘッド2を量産することができる。
【0080】
特に、上記した記録再生ヘッド2、及びその製造方法によれば、プラズモン増強金属膜25及び通電用金属膜51の上端部が記録素子21の上端面の位置まで延設されており、これらプラズモン増強金属膜25及び通電用金属膜51の上端部同士を電気的に接続した電気回路100を形成し、その電気回路100に電流が流れることを検知するとレーザ光源143の電源をオフにする制御を行うので、溶出部25aが通電用金属膜51まで伸延したことを容易に検知することができる。
【0081】
また、上記した記録再生ヘッド2、及びその製造方法によれば、磁気シールド50の対向面50aが、コア23の下端面23eよりも前記金属流動体に対してぬれ性が高くなっているため、上述したように近接場光によってプラズモン増強金属膜25´の下端部を溶解させたとき、プラズモン増強金属膜25´の下端部が溶融した金属流動体は、撥水性の高いコア23の下端面23e側に流れにくく、ぬれ性の高い磁気シールド50の対向面50a側に流れやすい。このため、プラズモン増強金属膜25の溶出部25aを主磁極33側に向けて延びた形状に容易かつ確実に形成することができる。
【0082】
また、上記した情報記録再生装置1によれば、ディスクDのうちの磁気記録する箇所に近い部分を加熱することができるので、情報の記録再生の高密度化を図ることができると共に、情報の記録再生不良が起こりにくく情報の記録再生の信頼性を向上させることができる。
【0083】
次に、本発明に係る近接場光ヘッド、及びその製造方法の実施形態の変形例について説明する。
【0084】
[変形例1]
図9に示す変形例1に係る記録再生ヘッド202では、磁気シールド50と主磁極33との間にコ字状の通電用金属膜251が介在されている。この通電用金属膜251は、ディスクD1側に露出された抵抗部251aと、抵抗部251aの両端から記録素子21の上端面と面一な位置までそれぞれ延設された一対の接続部251b,251bと、を備えている。抵抗部251aは、磁気シールド50の対向面50aに沿って延在する帯状の金属膜であり、抵抗部251aの下端面は磁気シールド50の対向面50aと面一に形成されている。また、一対の接続部251b,251bは、抵抗部251aよりも幅広の帯状の金属膜であり、抵抗部251aに対して略垂直に延設されている。なお、この場合、プラズモン増強金属膜225は、記録素子21の上端面まで延設させる必要はなく、コア23の下端部の部分にのみ形成されていればよい。
【0085】
上記した記録再生ヘッド202の製造方法としては、プラズモン増強金属膜25を溶解して溶出部25aを形成する金属膜溶解工程の際に、上記した一対の接続部251b,251bの上端部を電気配線201を介して制御部208に電気的に接続する。これにより、一対の接続部251b,251bの上端部同士が制御部208を介して電気的に接続され、閉じた電気回路200が形成される。そして、この電気回路200の電気抵抗値を制御部208で検出し、その検出値に基づいて溶出部25aが抵抗部251aまで延伸したことを検知する。すなわち、溶出部25aが抵抗部251aに接触していない状態では電気回路200の電気抵抗値は略一定であるが、溶出部25aが抵抗部251aに接触すると、電気回路200の電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化に基づいて溶出部25aが抵抗部251aに接触したことを検知することができる。
【0086】
[変形例2]
図9に示す変形例1に係る記録再生ヘッド302では、複数の通電用金属膜51A〜51Bが、絶縁層53A,51Bを介して磁気シールド50と主磁極33との間に積層されている。そして、プラズモン増強金属膜25の下端部には、主磁極33側に向かって段階的に縮幅された溶出部325aが形成されている。溶出部325aは、コア23側から順に、磁気シールド50の対向面50aに形成された第一溶出部325aと、コア23側の絶縁層53Aの対向面53aに形成された第二溶出部325aと、主磁極33側の絶縁層53Bの対向面53bに形成された第三溶出部325aと、からなる。
【0087】
上記した記録再生ヘッド302の製造方法としては、プラズモン増強金属膜25の下端部を溶解して溶出部325aを形成する金属膜溶解工程の際に、複数の通電用金属膜51に対する溶出部325aの接触をそれぞれ検知し、その検知情報に基づいてコア23に入射させるレーザ光の出力を段階的に低下させる。すなわち、コア23側の第一通電用金属膜51Aまで溶出部325aが伸延したことを検知したら、レーザ光の出力を一段階下げる。その後、真中の第二通電用金属膜51Bまで溶出部325aが伸延したことを検知したらレーザ光の出力を更に一段階下げる。その後、主磁極33側の第三通電用金属膜51Cまで溶出部325aが伸延したことを検知したらレーザ光の照射を停止する。
【0088】
これにより、プラズモン増強金属膜25の下端部に、段階的に縮幅された第一〜第三溶出部325a〜325aが形成されるので、溶出部325aの形状が主磁極33側に向かって漸次縮径された先尖形状に確実に形成される。これにより、溶出部325aの突出端において近接場光を確実に発生させることができる。また、レーザ光の出力を段階的に低下させるので、プラズモン増強金属膜25の溶出部325aが第三通電用金属膜51Cを越えて主磁極33に接触するのを防止することができる。
【0089】
以上、本発明に係る近接場光ヘッドの製造方法、近接場光ヘッド、及び情報記録再生装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、コア23が断面視三角形状に形成されているが、断面視矩形状や他の断面形状のコアを用いることも可能である。
【0090】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1…情報記録再生装置 2,201,301…記録再生ヘッド(近接場光ヘッド) 3…ビーム 5…アクチュエータ 6…スピンドルモータ(回転駆動部) 8…制御部 20…スライダ 21…記録素子 23…コア 24…クラッド 25,225…プラズモン増強金属膜(金属膜) 25a,325a…溶出部(金属膜の端部) 26…近接場光発生素子 31…補助磁極 33…主磁極 42…光導波路(光束導入手段) 43…レーザ光源(光源) 50…磁気シールド(中間層) 51,251…通電用金属膜51(通電膜) 100,200…電気回路 251a…抵抗部 251b…接続部 D…ディスク(磁気記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定方向に回転する磁気記録媒体の表面に沿って移動可能なスライダと、
該スライダに保持されていると共に、主磁極及び補助磁極を有し、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から記録磁界を発生させる記録素子と、
前記主磁極に対する前記補助磁極側の反対側に配置され、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から近接場光を発生させる近接場光発生素子と、
を備えており、
前記近接場光発生素子の対向面から発生する近接場光によって前記磁気記録媒体を加熱すると共に、前記記録素子の対向面から発生する記録磁界によって前記磁気記録媒体に磁化反転を生じさせることで、該磁気記録媒体に情報を記録する近接場光ヘッドの製造方法であって、
前記近接場光発生素子に、
先端を前記磁気記録媒体の表面に向けて配設され、基端側から入射された光束を先端側に向けて集光しながら伝播させるコアと、
前記コアのうちの少なくとも先端部分の主磁極側の側面に密着して配置され、前記コアの先端側で集光された光束から近接場光を発生させる金属膜と、
が備えられており、
前記金属膜と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に向けて露出されて該磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有する中間層を介在された状態で、前記近接場光発生素子を形成する近接場光発生素子形成工程と、
前記コアの基端側から光束を入射させて近接場光を発生させ、該近接場光によって前記金属膜を溶解して前記中間層の対向面上に前記金属膜を溶け出させ、該中間層の対向面に前記金属膜の端部を形成する金属膜溶解工程と、を備えることを特徴とする近接場光ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の近接場光ヘッドの製造方法において、
前記中間層と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に露出された通電膜が介在されており、
前記金属膜溶解工程の際に、前記通電膜に対する前記金属膜の端部の接触を検知し、該検知情報に基づいて前記コアに入射させる光束を制御することを特徴とする近接場光ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の近接場光ヘッドの製造方法において、
前記金属膜の磁気記録媒体側の反対側の端部、及び前記通電膜の磁気記録媒体側の反対側の端部が、前記記録素子の対向面の反対側の端面と面一な位置までそれぞれ延設されており、
前記金属膜溶解工程の際に、前記金属膜の磁気記録媒体側の反対側の端部と前記通電膜の磁気記録媒体側の反対側の端部とを電気的に接続する電気回路を形成することを特徴とする近接場光ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の近接場光ヘッドの製造方法において、
前記通電膜が、前記磁気記録媒体の表面側に露出された抵抗部と、該抵抗部の両端から前記記録素子の対向面の反対側の端面と面一な位置までそれぞれ延設された一対の接続部と、を備えており、
前記金属膜溶解工程の際に、該一対の接続部の磁気記録媒体側の反対側の端部同士を電気的に接続する電気回路を形成し、該電気回路の電気抵抗値を検出することを特徴とする近接場光ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の近接場光ヘッドの製造方法において、
前記中間層の対向面が、前記コアの先端面よりもぬれ性が高くなっていることを特徴とする近接場光ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の近接場光ヘッドの製造方法において、
複数の前記通電膜が、絶縁層を介して前記中間層と前記主磁極との間に積層されており、
前記金属膜溶解工程の際に、複数の前記通電膜に対する前記金属膜の端部の接触をそれぞれ検知し、該検知情報に基づいて前記コアに入射させる光束の出力を段階的に低下させることを特徴とする近接場光ヘッドの製造方法。
【請求項7】
一定方向に回転する磁気記録媒体の表面に沿って移動可能なスライダと、
該スライダに保持されていると共に、主磁極及び補助磁極を有し、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から記録磁界を発生させる記録素子と、
前記主磁極に対する前記補助磁極側の反対側に配置され、前記磁気記録媒体の表面に対向する対向面から近接場光を発生させる近接場光発生素子と、
を備えており、
前記近接場光発生素子の対向面から発生する近接場光によって前記磁気記録媒体を加熱すると共に、前記記録素子の対向面から発生する記録磁界によって前記磁気記録媒体に磁化反転を生じさせることで、該磁気記録媒体に情報を記録する近接場光ヘッドであって、
前記近接場光発生素子には、
先端を前記磁気記録媒体の表面に向けて配設され、基端側から入射された光束を先端側に向けて集光しながら伝播させるコアと、
前記コアのうちの少なくとも先端部分の主磁極側の側面に密着して配置され、前記コアの先端側で集光された光束から近接場光を発生させる金属膜と、
が備えられ、
該金属膜と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に向けて露出されて該磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有する中間層が介在されており、
前記金属膜が前記近接場光によって溶解されて前記中間層の対向面上に溶け出ることで、前記金属膜の端部が前記中間層の対向面に形成されていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の近接場光ヘッドにおいて、
前記中間層と前記主磁極との間に、前記磁気記録媒体の表面側に露出された通電膜が介在されていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の近接場光ヘッドにおいて、
前記金属膜の磁気記録媒体側の反対側の端部、及び前記通電膜の磁気記録媒体側の反対側の端部が、前記記録素子の対向面の反対側の端面と面一な位置までそれぞれ延設されていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項10】
請求項8に記載の近接場光ヘッドの製造方法において、
前記通電膜が、前記磁気記録媒体の表面側に露出された抵抗部と、該抵抗部の両端から前記記録素子の対向面の反対側の端面と面一な位置までそれぞれ延設された一対の接続部と、を備えていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項11】
請求項7から10の何れか一項に記載の近接場光ヘッドにおいて、
前記中間層の対向面が、前記コアの先端面よりもぬれ性が高くなっていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項12】
請求項7から11の何れか一項に記載の近接場光ヘッドにおいて、
複数の前記通電膜が、絶縁層を介して前記中間層と前記主磁極との間に積層されていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項13】
請求項7から12の何れか一項に記載の近接場光ヘッドと、
前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、前記磁気記録媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で前記近接場光ヘッドを先端側で支持するビームと、
前記コアの基端部に対して光束を入射させる光源と、
前記ビームの基端側を支持するとともに、前記ビームを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、
前記磁気記録媒体を前記一定方向に回転させる回転駆動部と、
前記記録素子及び前記光源の作動を制御する制御部と、
を備えていることを特徴とする情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−64263(P2012−64263A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205977(P2010−205977)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】