説明

近接場光利用ヘッド及び情報記録装置

【課題】ヘッドを容易に製造することができる近接場光利用ヘッド及び近接場光利用ヘッドを有する情報記録装置を提供する。
【解決手段】近接場光を発生させて媒体の所定領域を加熱するとともに所定領域に磁界を与えて情報を記録する近接場光利用ヘッドにおいて、光束を伝播させる経路を有する光導波路と、所定領域に向かい合う位置に形成された光学的微小開口118を有し、光導波路から出射された光束を集光させながら光学的微小開口118に向けて伝播させて近接場光を発生するティップ117とを備える。光学的微小開口118は、所定領域に磁界を与える磁極によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微細な領域に光を局在化させることで回折限界を超える分解能を持つ近接場光を利用した近接場光利用ヘッド、特に近接場光と磁場の両者を利用することで超高記録密度を実現した近接場光利用ヘッド及びそれを用いた情報記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年情報化社会における画像・動画情報の急激な増加に対応するため、情報記録再生装置は大容量化・小型化が進められている。光を用いた情報記録再生装置においては、記録密度が光波長に依存するため、短い波長の光を用いることで高密度化が図られてきた。波長に依存しない密度の実現の方法としては、近接場光を用いた記録再生原理が注目されている。磁気を用いた情報記録再生装置においては、記録媒体表面の微小領域を分離して磁化するために、微小領域のみに近接場光を照射することで加熱して保磁力を低下させてから磁化させる近接場光アシスト磁気記録方式が、次世代の記録再生原理の有力候補と見られている。
【0003】
近接場光アシスト磁気記録方式のヘッドは、従来の磁気ヘッドの記録磁極に隣接して近接場光発生素子を持つ構造となっている。近接場光発生素子は、例えば光導波路の内部に金属から成る板状の腕を複数持ち、その先端部が開口となっている構造が用いられる(特表2005−515578号公報(第6−7頁、第2図);特許文献1)。また、固体イマージョンレンズを浮上ヘッドに搭載することで、磁極に隣接した位置に近接場光を発生させる構造も提案されている(特開平10−162444号公報(第18−19頁、第13図);特許文献2)。光源から光導波路への光導入は、レーザーからの光を直接光導波路(特許文献1)あるいは固体イマージョンレンズ(特許文献2)に照射する方式が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−515578号公報
【特許文献2】特開平10−162444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の導波路内部に金属製腕を持つ構造による近接場光利用ヘッドでは、近接場光発生素子が導波路の内部に複雑な構造を持っており、高精度に形状を作製することが困難であった。特に、基板上の薄膜として作製された導波路の内部に、複数の金属製腕をそれぞれ異なる傾斜角を持って作製することは極めて困難である。
【0006】
また、磁気記録素子と導波路を薄膜作製技術を用いて作製した後でそれを切り出し、導波路と磁気記録素子の端面をナノメートルレベルで位置合わせする加工技術が要求されるため、製造コストが高くなるなどの課題が有った。また、固体イマージョンレンズを利用する構造の場合には、レンズと磁気記録素子を別々に作製してから組み立てるため、高精度な位置合わせが要求され、大量生産は困難であった。
【0007】
さらに、記録磁極及び近接場光発生素子のそれぞれが別体であるため、記録磁極及び近視場光発生素子のそれぞれも精度良く配置しなければ、記録磁極からの磁界と近接場光発生素子からの近接場光とを記録媒体の所望位置に当てることができず、ヘッドを容易に製造することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、ヘッドを構成する各部品を細かに位置合せしなくても、ヘッドを容易に製造することができる近接場光利用ヘッド及び近接場光利用ヘッドを有する情報記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の特徴は、近接場光を発生させて媒体の所定領域を加熱するとともに前記所定領域に磁界を与えて情報を記録する近接場光利用ヘッドにおいて、光束を伝播させる経路を有する光導波路と、前記所定領域に向かい合う位置に形成された開口からなる磁極ギャップを有し、前記光導波路から出射された前記光束を集光させながら前記磁極ギャップに向けて伝播させて前記近接場光を発生する近接場光発生素子とを備え、前記磁極ギャップは、前記所定領域に磁界を与える磁極によって形成されることを要旨とする。
【0010】
本発明に係る第2の特徴は、前記近接場光発生素子が、光透過性の材質から成る錐状ティップを備え、前記磁極ギャップが、前記錐状ティップの先端に形成されていることを要旨とする。
【0011】
本発明に係る第3の特徴は、前記磁極の一部が、前記錐状ティップの側面の一部に形成されていることを要旨とする。
【0012】
本発明に係る第4の特徴は、前記磁極及び前記磁極に磁界を生じさせるコイルを有する磁気記録素子を備え、前記近接場光発生素子と前記磁気記録素子とは、略平板から成る基板上に形成され、前記基板は、前記媒体と向かい合う位置に空気浮上面を備え、前記空気浮上面は、前記近接場光発生素子と前記磁気記録素子とが、前記媒体の回転によって発生する空気浮上力を用いて前記媒体表面から所定距離を保って浮上するように形成されたことを要旨とする。
【0013】
本発明に係る第5の特徴は、前記磁極が、遮光性の材質から成ることを要旨とする。
【0014】
本発明に係る第6の特徴は、前記錐状ティップの側面の一部に金属膜を有することを要旨とする。
【0015】
本発明に係る第7の特徴は、前記錐状ティップが四角錐であり、その4側面のうち対向する2側面に前記磁極の一部が形成されていることを要旨とする。
【0016】
本発明に係る第8の特徴は、前記錐状ティップが四角錐であり、その4側面のうち対向する2側面に金属膜が形成されていることを要旨とする。
【0017】
本発明に係る第9の特徴は、前記媒体に記録された情報を再生する磁気抵抗素子を備え、前記磁気抵抗素子は、前記磁気記録素子と同一基板上に形成されていることを要旨とする。
【0018】
本発明に係る第10の特徴は、光源と、磁化の反転によって情報を記録する媒体と、前記光源からの光を受けて光学的微小開口から近接場光を発生させる近接場光発生素子を有する近接場光利用ヘッドと、前記媒体を回転させるモーターと、前記近接場光利用ヘッドを前記媒体に近接させるサスペンションアームと、前記サスペンションアームを前記媒体の所定の位置に移動させるアクチュエータと、を持つ情報記録装置において、前記近接場光利用ヘッドは、第一磁極と、前記第一磁極との間に磁極ギャップを挟んで対向するように形成された第二磁極とを持ち、前記近接場光利用ヘッドは、前記光学的微小開口から前記近接場光を発生させることにより前記媒体表面を加熱するとともに、前記第一磁極と前記第二磁極との間の前記磁極ギャップ内で生じた磁界により前記媒体に対して前記磁化の反転を生じさせて前記媒体に情報を記録することを要旨とする。
【0019】
本発明に係る第11の特徴は、前記近接場光発生素子が、光透過性の材質から成る錐状ティップを備え、前記磁極ギャップが、前記錐状ティップの先端に形成されていることを要旨とする。
【0020】
本発明に係る第12の特徴は、前記第一磁極及び前記第二磁極の一部は、前記錐状ティップの側面の一部に形成されていることを要旨とする。
【0021】
本発明に係る第13の特徴は、前記光源からの光強度を制御する光制御部と、前記磁極ギャップから発生する磁場を制御する磁場制御部を持ち、前記光制御部と前記磁場制御部とに同時に変調をかける装置制御部を持つことを要旨とする。
【0022】
本発明に係る第14の特徴は、前記磁化の方向が、前記媒体の表面に対して略平行であることを要旨とする。
【0023】
本発明に係る第15の特徴は、前記磁化の方向が、前記媒体の表面に対して略垂直であることを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施の形態1に係る近接場光利用ヘッドを用いた情報記録装置の概 略図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る近接場光利用ヘッドと、サスペンションアーム との断面図である。
【図3】図3は、実施の形態1に係る近接場光利用ヘッドの底面の概観図である。
【図4】図4は、ティップの拡大図である。
【図5】図5は、実施の形態1に係る近接場光利用ヘッドの製造方法を示す概略フロ ー図である。
【図6】図6は、実施の形態2に係る近接場光利用ヘッドのティップの拡大図である。
【図7】図7は、実施の形態3に係る近接場光利用ヘッドの底面の概観図である。
【図8】図8は、1枚基板から成る近視野利用ヘッドの構造図である。
【図9】図9は、実施の形態3に係る近接場光利用ヘッドのティップの拡大図である。
【発明の実施するための形態】
【0025】
(実施の形態1)
図1に本発明の実施の形態1に係る近接場光利用ヘッド101を用いた情報記録装置の概略を示す。本実施の形態の情報記録装置1は、図1に示すように、近接場光利用ヘッド101と、ディスク(磁気記録媒体)Dの表面に平行な方向に移動可能とされ、ディスクDの面に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸とする)回りに回動自在な状態で近接場光利用ヘッド101を先端側で支持すると共に、近接場光利用ヘッド101をディスクDに近接させるサスペンションアーム102と、光導波路103の基端側から該光導波路103に対して光束を入射させる図示を略したレーザーが格納された光制御部104と、サスペンションアーム102の基端側を支持すると共に、サスペンションアーム102をディスクDの面に平行なXY方向に向けてスキャン移動させるアクチュエーター105と、ディスクDを一定方向に回転させるモーター(回転駆動部)106と、情報に応じて変調した電流を近接場光利用ヘッド101に対して供給すると共に、光制御部104の作動を制御する装置制御部107と、これら各構成品を内部に収容するハウジング108とを備えている。必要に応じて光導波路103への光束は、光制御部104により強度変調などをかけることもできる。
【0026】
ディスクDは、磁化の方向(反転)によって情報を記録する磁気記録層を持つ媒体である。近接場光利用ヘッド101がディスクDの表面に数〜数十ナノメートルまで近接した状態でディスクDが高速に回転させられると、近接場光利用ヘッド101がディスクDに対して常に一定の姿勢で浮上する。ここで、光を伝播させる経路を有する光導波路103として光ファイバーを用いたが、所定の屈折率を持つ酸化シリコンをパターニングして作製した光導波路、あるいは樹脂から成る光導波路であってもよい。
【0027】
ハウジング108は、アルミニウム等の金属材料により、上面視において四角形状に形成されている。ハウジング108には、内側に各構成品を収容する凹部108aが形成されている。また、ハウジング108には、凹部108aの開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定される。
【0028】
凹部108aの略中心には、上記モーター106が取り付けられている。該モーター106の軸にディスクDの中心孔が嵌め込まれており、ディスクDが着脱自在に固定される。凹部108aの隅角部には、上記アクチュエーター105が取り付けられている。アクチュエーター105には、軸受109を介してキャリッジ110が取り付けられている。該キャリッジ110の先端にサスペンションアーム102が取り付けられている。そして、キャリッジ110及びサスペンションアーム102は、アクチュエーター105の駆動によって共に上記XY方向に移動可能とされている。
【0029】
なお、キャリッジ110及びサスペンションアーム102は、ディスクDの回転停止時にはアクチュエーター105の駆動によって、ディスクD上から退避する。また、光制御部104は、アクチュエーター105に隣接するように凹部108a内に取り付けられている。図示を略した磁気回路によって近接場光利用ヘッド101から発生する磁場を制御する磁場制御部111は光制御部104に隣接して配置されている。
【0030】
近接場光利用ヘッド101は、図示を略した微小開口を持ち、導入された光束から微小開口において近接場光を発生させる。近接場光はレーザーからの出射光波長よりもはるかに微細な空間に局在しており、ディスクDの表面の微小領域(所定領域)を加熱し、その領域のみ一時的に保磁力を低下させる。近接場光利用ヘッド101は、近接場光によってディスクDの微小領域を加熱すると共に磁界を与えて磁化反転を生じさせ、情報を記録する。
【0031】
図2は本発明の実施の形態1に係る近接場光利用ヘッド101と、サスペンションアーム102との断面図を示す。近接場光利用ヘッド101は、ミラー基板120と近接場光素子基板112とが接着された2枚基板構造を持つ。ミラー基板120はSi基板の結晶異方性エッチングによって形成されたV溝113を持つ。
【0032】
V溝113は一方の端がミラー基板120の側面に達し、他方の端はミラー面114となる。ミラー面114は光の反射面として機能するようAl膜が蒸着されている。光導波路103は偏光保存型の光ファイバーであり、V溝113内の所定の位置に接着固定される。近接場光素子基板112は説明をわかりやすくするために基板の法線を軸に基板面内で90°回転させて表示している。近接場光素子基板112は石英ガラスから成り、上面にマイクロレンズ115を持つ。
【0033】
マイクロレンズ115はグレースケールマスクを用いたエッチングによって形成された非球面レンズである。近接場光素子基板112の下面には空気浮上面116がエッチングによって形成されている。
【0034】
空気浮上面116は、ティップ(近接場光発生素子)117と再生用ティップ(磁気記録素子)122とが、ディスクDの回転によって発生する空気浮上力を用いてディスクDから所定距離を保って浮上するように形成された面である。
【0035】
本実施形態では、例えば、空気浮上面116は、近接場光素子基板112を構成する面のうち近接場光素子基板112がディスクDと向かい合う面に形成され、ティップ117及び/又は再生用ティップ122を挟む位置にレール状に形成されている。
【0036】
近接場光素子基板112の下面には四角錐状のティップ117が備えられる。ティップ117の先端には光学的微小開口118が備えられている。ティップ117は四角錐以外の形状、たとえば円錐や三角錐形状にすることも可能である。近接場光素子基板112の下面にはさらに、磁極119が形成されている。磁極119はその一部がティップ117の側面(斜面)を覆っている。近接場光素子基板112には配線121が接続され、配線121は磁極119に巻かれているコイルを形成することで全体として電磁石を構成する。
【0037】
光導波路103から出射した光131はミラー面114で反射した後、マイクロレンズ115を透過して集光されつつティップ117内部を透過して、光学的微小開口(磁気ギャップ)118に達する。光学的微小開口118はレーザーからの光波長よりもはるかに微小なサイズであり、通常の伝搬光はほとんど透過することができないが、近接場光が光学的微小開口118からわずかな距離のみ分布する。近接場光は光学的微小開口118の開口サイズ程度の広がりを持ち、元の波長よりもはるかに微小な領域に局在する。
【0038】
図3は本発明の実施の形態1に係る近接場光利用ヘッド101の底面の概観図である。底面には略直方体形状の空気浮上面116、ティップ117、磁極119、配線121、再生用ティップ122を持つ。
【0039】
再生用ティップ122は底面が長方形の四角錐形状であり、長辺側の2側面を磁気抵抗効果膜123の一部が覆っている。磁気抵抗効果膜123は再生用ティップ122の2側面から基板表面にパターニングされている。構造をわかりやすくするため実寸法とは比率を変えて示した。
【0040】
図4はティップ117の拡大図である。ティップ117は四角錐形状である。ティップ117の底面は一辺約20ミクロン、高さは約10ミクロンである。ティップ117の4側面のうち、対向する2側面は磁極119の一部によって覆われている。磁極119は光を透過しないため、ティップ117の頂面は光学的微小開口118となる。
【0041】
図5は本発明の実施の形態1に係る近接場光利用ヘッド作製方法の概略図である。図中、左の列は図3のA−A’での断面図、右の列はB−B’での断面図を示す。S1からS4の各行は作製ステップを示す。まずステップS1で、石英ガラス基板112を等方性エッチングによってティップ117、空気浮上面116、再生用ティップ122を作製する。次にステップS2において、磁極119を蒸着などの薄膜製膜技術を用いて作製する。磁極119はティップ117の頂面の微小領域のみギャップとなっているが、これは頂面を覆うように製膜した後に、機械的圧力をかけることによって頂面のみ磁極膜が除去された構造を作製する。次にステップS3において、磁気抵抗効果膜123を製膜する。最後にステップS4において、配線121をパターニング作製する。
【0042】
本発明に係る製法によれば、石英ガラス基板112をエッチングするだけで、ティップ117、空気浮上面116及び再生用ティップ122の立体構造を製造することができ、安定的に低コストで近接場光利用ヘッド101を量産することができる。
【0043】
このようにして作製された近接場光利用ヘッド101は以下のように機能する。ディスクD状のディスクDが高速に回転させられ、その表面に近接場光利用ヘッド101が近接させられる。そうすると、ディスクDの表面の上を流れる空気によって空気浮上面116が浮上力を受け、近接場光利用ヘッド101は、ディスクDの表面から数〜数十nmの微小距離を持って浮上する。光学的微小開口118から発生した近接場光によってディスクDの表面の微小領域が加熱され、その領域のみ保磁力が一時的に低下する。配線121には、記録すべき情報に対応して変調をかけられた電流が流され、電流磁界によって磁極119に磁束が発生する。磁極119はティップ117の2側面を覆っており、光学的微小開口118の部分において磁極ギャップを形成しているため、光学的微小開口118から漏れ磁界が発生する。
【0044】
光学的微小開口118からの近接場光がディスクDの微小領域を加熱し、その領域における保持力が低下した後に、漏れ磁界が作用することで磁化の方向が反転する。これにより、当該微小領域において情報の記録が行われる。近接場光によって加熱された微小領域のみに対して効率的に漏れ磁界が作用するために、配線121への電流にかけられた変調と同期した変調をレーザーにかけるように制御することも可能である。
【0045】
ディスクDからの情報の読み出し(再生)は、従来の磁気ヘッドと同様の方法であり、再生用ティップ122上に製膜された磁気抵抗効果膜123の抵抗の変化を計測することにより行うことができる。
【0046】
ディスクDの表面を局所的に加熱するための近接場光を発生させる光学的微小開口118と、ディスクDの表面を局所的に磁化反転させるための漏れ磁界を発生させる磁極ギャップとが同一構造を共有していることにより、最小限の入射光エネルギーと電流によってナノレベルの微小領域に情報を記録することができる。
【0047】
具体的には、ティップ頂面118から発生する漏れ磁界と同一位置に近接場光を発生させることにより、近接場光による加熱と磁界とによる記録が厳密に同一位置に行われる。このため、ディスクDに対向するティップ頂面118のサイズで規定されるティップ頂面118からの漏れ磁界のみでディスクDの表面の微小領域を磁化することができ、高密度な記録性能を持つ記録装置が実現する。
また、ティップ117が、近接場光を発生させる構造と漏れ磁界を発生させる構造の両方に利用されるため、近接場光アシスト磁気記録という複合的な原理に基づくヘッドでありながら極めて単純な構造となっており、低コストでの量産にも適している。
【0048】
すなわち、本発明によれば、ティップ117と磁極119とが一体に形成されていることにより、ティップ117及び磁極119を細かに位置合せしなくても、近接場光利用ヘッド101を容易に製造することができる。また、ティップ117の光学的微小開口118が磁極119によって形成されていることにより、光学的微小開口118からの近視場光と磁極119からの磁界とのディスクDへの照射領域のずれが抑制されて、当該近視場光及び当該磁界がディスクDの略同一領域に照射されるため、従来よりも情報を高密度に記録することができる。
【0049】
特に本実施形態に係るティップ117は、ディスクDと向かい合う一端側から他端側に向かう方向に直交する断面積が漸次増加するように形成されている。これにより、当該一端側であるディップ頂面118から他端側に向うに従って、ティップ117を構成する磁極119とディスクDとの距離が長くなり、ディスクDに対する漏れ磁界による影響が少なくなる。
【0050】
従って、磁極119のうちティップ頂面118と同一平面上の部分からの漏れ磁界のみで記録が行われ、ティップ117の側面はディスクDから離れているためディスクDの表面に到達する漏れ磁界は極めて小さく記録動作への影響は無視できる。このように漏れ磁界の広がりを抑制することにより高密度記録に対応した近接場光利用ヘッドが実現される。
【0051】
また、本発明によれば、ディスクDの回転によってディスクDから浮上する空気によって、空気浮上面116がディスクDから離れる方向に押し上げられる。これにより、空気浮上面116が設けられるだけで、ティップ117をナノレベルの距離でディスクDに近づけることができ、近接場光とディスクDの表面との相互作用、及び磁界とディスクDの表面との相互作用の両方を高効率で実現できると共に、高S/Nを持って高記録密度の記録ができる。
【0052】
さらに、本発明によれば、記録と再生を同一ヘッドで行うことができ、薄型小型の記録装置に適した近接場光利用ヘッドを実現することができる。
【0053】
また、本発明によれば、近接場光の発生と磁場の発生とを同期させることで、またそれぞれに変調をかけることもでき、高密度な記録性能を持つ情報記録装置を実現することができる。
(実施の形態2)
図6は本発明の実施の形態2に係る近接場光利用ヘッドのティップ141の拡大図である。本実施の形態においては、情報記録装置全体の構成と、近接場光利用ヘッドの概観は実施の形態1と同一であるので説明を省略する。実施の形態1との相違点は、近接場光を発生させると同時に漏れ磁界を発生させるティップの側面に、Au膜124を持つ点である。Au膜124は約20nmの厚みであり、蒸着によって製膜した。
【0054】
かかる特徴によれば、磁極119とAu膜124とはともに光を透過しないため、近接場光は光学的微小開口118からのみ発生し、実施の形態1に比べ光を局在化させることができる。
また、Au膜124は入射光によって表面にプラズモンが励起するため、極めて強い近接場光を発生させることができ、ディスクDの微小領域を短時間で急加熱することができる。このような構造のティップ141を持つ近接場光利用ヘッドを用いることによって、超高密度の記録再生が高S/Nで実現される。
(実施の形態3)
図7は本発明の実施の形態3に係る近接場光利用ヘッドの底面の拡大図である。実施の形態1と同一部分については説明を省略する。実施の形態1との相違点は、近接場光を発生させるとともに漏れ磁界を発生させるティップがウェッジ型ティップ151である点である。ウェッジ型ティップ151は、長方形底面の辺のうち、ヘッドの長手(図中左右)方向の辺に比べてそれと直交する辺が数〜数十倍長い形になっている。このような形状のティップに対して、図中152で表される偏光方向を持つ光を実施の形態1と同様にヘッド上面(図中裏面)側から入射させると、光の減衰が少ない状態で光を開口に到達させることができる。発生した近接場光はウェッジ型ティップの長辺方向には長く広がっているが、短辺方向には極めて局在した形で分布する。ディスクDの表面上の記録ビットに対してウェッジ型ティップの短辺方向に走査することで、高密度な記録を実現することができる。
【0055】
ここまでの実施の形態では近接場光利用ヘッドはミラーを持つ基板と近接場光素子を持つ基板の2枚基板から成っているが、本発明はそのような構造のヘッドに限定されるものではない。例えば図8に、1枚基板から成る近接場光利用ヘッド161の構造を示す。これまでの実施の形態と同一部分については同一符号を与え、説明を省略する。この例では光ファイバー162の先端部114が斜め45°に加工されてミラー面を成している。光はこのミラー面で反射した後、近接場光利用ヘッド161のマイクロレンズ115に入射し、その後は実施の形態1と同様である。このように、近接場光利用ヘッドの光導入部は種々の構造が可能であり、本発明の構造と組み合わせることで超高密度な情報記録装置が実現できる。
(実施の形態4)
図9は本発明の実施の形態3に係る近接場光利用ヘッドのティップ170の拡大図である。本実施の形態においては、情報記録装置全体の構成と、近接場光利用ヘッドの概観は実施の形態2と同一であるので説明を省略する。本実施の形態においては、第一磁極171のうちティップ頂面118と同一平面上にある部分176から発生する磁界が図示を略したディスクDの表面に垂直方向に向き、ディスクDの表面からの戻り磁界が第二磁極172のうちティップ頂面118と同一平面上にある部分178に戻る。これにより、ディスクDの表面に対して垂直方向に磁化することによる記録、すなわち垂直記録が実現する。第一磁極171のうちティップ側面上にある部分175と、第二磁極172のうちティップ側面上にある部分177はディスクDの表面から離れているため、記録動作への影響は無視できる。垂直記録の場合、高密度記録のためには第一磁極171のうち記録に寄与する部分のサイズを微細にすることが必要であるが、本発明では第一磁極171は錐状ティップの側面に形成されているため、ティップ頂面118と同一平面上にある部分176のサイズによって記録密度が規定される。これにより超高密度な情報記録装置が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、近接場光利用ヘッドを構成する各部品を細かに位置合せしなくても、近接場光利用ヘッドを容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接場光を発生させて媒体の所定領域を加熱するとともに前記所定領域に磁界を与えて情報を記録する近接場光利用ヘッドにおいて、
光束を伝播させる経路を有する光導波路と、
前記所定領域に向かい合う位置に形成される磁極ギャップを有し、前記光導波路から出射された前記光束を集光させながら前記磁極ギャップに向けて伝播させて前記近接場光を発生するティップを有する近接場光発生素子とを備え、
前記磁極ギャップは、前記所定領域に磁界を与える磁極によって形成され、
前記磁極は、前記媒体と向かい合う前記ティップの一端側である頂面から他端側に向かうに従って前記媒体との距離が長くなるように前記ティップの側面に形成されるとともに、前記頂面と同一の平面を有するよう形成されることを特徴とする近接場光利用ヘッド。
【請求項2】
前記近接場光発生素子は、光透過性の材質から成る錐状ティップを備え、前記磁極ギャップは、前記錐状ティップの先端に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項3】
前記磁極の一部は、前記錐状ティップの側面の一部に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項4】
前記磁極及び前記磁極に磁界を生じさせるコイルを有する磁気記録素子を備え、前記近接場光発生素子と前記磁気記録素子とは、略平板から成る基板上に形成され、前記基板は、前記媒体と向かい合う位置に空気浮上面を備え、前記空気浮上面は、前記近接場光発生素子と前記磁気記録素子とが、前記媒体の回転によって発生する空気浮上力を用いて前記媒体表面から所定距離を保って浮上するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項5】
前記磁極は、遮光性の材質から成ることを特徴とする請求項1に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項6】
前記錐状ティップの側面の一部に金属膜を有することを特徴とする請求項2に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項7】
前記錐状ティップが四角錐であり、その4側面のうち対向する2側面に前記磁極の一部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項8】
前記錐状ティップが四角錐であり、その4側面のうち対向する2側面に金属膜が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項9】
前記媒体に記録された情報を再生する磁気抵抗素子を備え、
前記磁気抵抗素子は、前記磁気記録素子と同一基板上に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の近接場光利用ヘッド。
【請求項10】
光源と、磁化の反転によって情報を記録する媒体と、前記光源からの光を受けて光学的微小開口から近接場光を発生させるティップを有する近接場光発生素子を有する近接場光利用ヘッドと、前記媒体を回転させるモーターと、前記近接場光利用ヘッドを前記媒体に近接させるサスペンションアームと、前記サスペンションアームを前記媒体の所定の位置に移動させるアクチュエータと、を持つ情報記録装置において、
前記近接場光利用ヘッドは、第一磁極と、前記第一磁極との間に磁極ギャップを挟んで対向するように形成された第二磁極とを持ち、
前記第一磁極および第二磁極は、前記媒体と向かい合う前記ティップの一端側である頂面から他端側に向かうに従って前記媒体との距離が長くなるように前記ティップの側面に形成されるとともに、前記頂面と同一の平面を有するよう形成され、
前記近接場光利用ヘッドは、前記光学的微小開口から前記近接場光を発生させることにより前記媒体表面を加熱するとともに、前記第一磁極と前記第二磁極との間の前記磁極ギャップ内で前記平面から生じた磁界により前記媒体に対して前記磁化の反転を生じさせて前記媒体に情報を記録することを特徴とする情報記録装置。
【請求項11】
前記近接場光発生素子は、光透過性の材質から成る錐状ティップを備え、前記磁極ギャップは、前記錐状ティップの先端に形成されていることを特徴とする請求項10に記載の情報記録装置。
【請求項12】
前記第一磁極及び前記第二磁極の一部は、前記錐状ティップの側面の一部に形成されていることを特徴とする請求項11に記載の情報記録装置。
【請求項13】
前記光源からの光強度を制御する光制御部と、前記磁極ギャップから発生する磁場を制御する磁場制御部を持ち、前記光制御部と前記磁場制御部とに同時に変調をかける装置制御部を持つことを特徴とする請求項10に記載の情報記録装置。
【請求項14】
前記磁化の方向は、前記媒体の表面に対して略平行であることを特徴とする請求項10に記載の情報記録装置。
【請求項15】
前記磁化の方向は、前記媒体の表面に対して略垂直であることを特徴とする請求項10に記載の情報記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−190536(P2012−190536A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112738(P2012−112738)
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【分割の表示】特願2007−551896(P2007−551896)の分割
【原出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】