説明

近接場光発生器及び近接場光記録再生装置

【課題】高屈折率材料で構成される導波路やレンズなどの光導波媒体と近接場光を発生させるための散乱体を組み合わせる場合において、近接場光強度の低下を防ぐ。
【解決手段】近接場光発生素子1に近傍に、高屈折率材料で構成される導波路やレンズなどの第一の光導波媒体3に接する第二の光導波媒体2を配置し、第二の光導波媒体の屈折率を、第一の光導波媒体の屈折率よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光発生器及びヘッドに近接場光発生器を搭載した近接場光記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、1Tb/in2以上の記録密度を実現する記録方式として、熱アシスト記録方式が提案されている(H. Saga, H. Nemoto, H. Sukeda, and M. Takahashi, Jpn. J. Appl. Phys. 38, Part 1, 1839 (1999))。従来の磁気記録装置では、記録密度が1Tb/in2以上になると、熱揺らぎによる記録情報の消失が問題となる。これを防ぐためには、磁気記録媒体の保磁力を上げる必要があるが、記録ヘッドから発生させることができる磁界の大きさには限りがあるため、保磁力を上げすぎると媒体に記録ビットを形成することが不可能となる。これを解決するために、熱アシスト記録方式では、記録の瞬間、媒体を光で加熱し保磁力を低下させる。これにより、高保磁力媒体への記録が可能となり、1Tb/in2以上の記録密度実現が可能となる。
【0003】
この熱アシスト記録装置において、照射する光のスポット径は、記録ビットと同程度の大きさ(数10nm)にする必要がある。なぜなら、光スポット径がそれよりも大きいと、隣接トラックの情報を消去してしまうからである。このような微小な領域を加熱するためには、近接場光を用いる。近接場光は、光波長以下の微小物体近傍に存在する局在した電磁場(波数が虚数成分を持つ光)であり、径が光波長以下の微小開口や金属の散乱体を用いて発生させる。例えば、Technical Digest of 6th international conference on near field optics and related techniques, the Netherlands, Aug. 27-31, 2000, p55では、高効率な近接場光発生器として三角形の形状をした金属散乱体を用いた近接場光発生器が提案されている。金属散乱体に光を入射させると、金属散乱体中にプラズモン共鳴が励起され、三角形の頂点に強い近接場光が発生する。この近接場光発生器を用いることにより、光を数10nm以下の領域に高効率に集めることが可能になる。
【0004】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 38, Part 1, 1839 (1999)
【非特許文献2】Technical Digest of 6th international conference on near field optics and related techniques, the Netherlands, Aug. 27-31, 2000, p55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記近接場光を発生させるための散乱体に入射する光のスポット径は、なるべく小さくした方が、高い効率が得られる。なぜなら、散乱体の大きさに対し、入射光のスポット径が大きすぎると、入射光の大部分が散乱体に当たらず透過してしまう。その分はエネルギのロスにつながり、効率の低下を招く。したがって、入射光のスポット径はなるべく小さくした方が良い。
【0006】
散乱体に入射する光は、導波路または集光レンズを通して散乱体に導くのが好ましい。導波路を通して入射光を導く場合、入射光のスポット径を小さくするには、コアとクラッドの屈折率差をなるべく大きくする必要がある。その場合、コアをTa2O5など高い屈折率を持つ材料を用いて形成し、散乱体をコア端面に埋め込まれるように形成する必要がある。また、Solid Immersion Lensなどの集光レンズを利用して入射光を集光し、その集光点に散乱体を形成する場合、入射光のスポット径を小さくするためには、レンズを構成する材料の屈折率を出来るだけ大きくする必要がある。すなわち、散乱体を高屈折率材料中に形成する必要がある。このように、散乱体を高屈折率材料中に形成した場合、高屈折率材料中には大きな分極が発生し、その分極が、金属の散乱体表面に集まる電荷の効果を打ち消すように作用する。その結果、発生する近接場光強度が低下してしまう。
【0007】
本発明は、入射光のスポット径を小さくするために、高屈折率材料で構成される導波路やレンズなどの光導波媒体を用いる場合において、近接場光強度の低下を防止する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、スライダ底面に近接場光を発生させるための平面状の三角形の形状をした散乱体を形成し、その上部に光を導入するための導波路を形成した。そして導波路の下部における散乱体近傍の領域を導波路のコアとは異なる材質で覆い、その材質の屈折率は導波路のコアよりも小さくなるようにした。ここで導波路の下部とは、スライダ底面に近い部分を言う。このように、近接場光が発生する散乱体の近傍の材料の屈折率を小さくすることにより、散乱体近傍の材料中に発生する分極の大きさを小さくすることが出来、その結果、散乱体中に発生する近接場光強度を大きくすることが出来る。
【0009】
上記低屈折率部の厚さ(導波路コアと低屈折率部の界面から導波路コアの反対側に位置する低屈折率部表面までの距離)は、導波路コア部が散乱体に接しないように、散乱体の厚さよりも大きくするのが好ましい。また、逆に低屈折率部の厚さが大きすぎると入射光が広がってしまうので、低屈折率部の厚さは低屈折率部を伝播する光の波長よりも小さくするのが好ましい。
【0010】
また、上記低屈折率の厚さは、導波路中に戻る反射光強度が最小になるように設定すると良い。上記スライダを媒体表面に近づけた際、導波路コアと低屈折率部の界面、スライダ表面、媒体表面で反射される光が互いに干渉する。このとき、導波路へ戻る方向に進む光が互いに打ち消しあうように低屈折率部の厚さを設定すると、導波路中へ戻る反射光を小さくすることができる。このように、反射光強度が最小となるとき、光は低屈折率部の内部を往復することになる(低屈折率部に閉じ込められる)。これは、散乱体に入射する光の量が多くなることに相当し、散乱体近傍に発生する近接場光強度を増加させることが出来る。
【0011】
上記光導波媒体として導波路に替え、Solid immersion lensなどのレンズを用いても良い。散乱体はレンズ表面の光が集光する部分に設置し、散乱体近傍をレンズの屈折率よりも小さな屈折率を有する材質で覆った。このとき、低屈折率材料部における光スポット径の広がりを抑えるために、低屈折率材料部の厚さは、低屈折率材料部中の光波長以下にすると良い。
【0012】
上記散乱体の形状は、平面状の三角形に替えて、平面状の円、楕円、直方体、球などにしても良い。また、散乱体周辺に遮光膜を形成しても良い。また、散乱体の一部を遮光膜と接合し、V字またはC字の開口になるようにしても良い。
【発明の効果】
【0013】
高屈折率材料で構成される導波路やレンズなどの光導波媒体と近接場光を発生させるための散乱体を組み合わせる場合において、近接場光強度の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
まず、近接場光素子へ入射光を伝える手段として導波路を用いた場合について説明する。
図1および図2に、導波路を用いた熱アシスト記録装置用ヘッドの実施例を示す。ヘッドの母体となるスライダ5の中に、近接場光発生素子に光を導くための導波路(コア3およびクラッド4から構成される)を形成し、その下部に、近接場光を発生させるための散乱体1を形成した。導波路のコア3の材質はTa2O5(屈折率=2.18)とし、クラッドの材質はSiO2とした。導波路の断面形状は正方形とし、幅Wx,Wyはいずれも500nmとした。クラッドの断面形状も正方形とし、幅Cx,Cyはいずれも1.0μmとした。
【0015】
図2に示すように、散乱体1の形状は平面状の三角形とし、材質は金、長さSxは100nm、厚さShは50nm、近接場光が発生する頂点11の頂角は60度とした。散乱体1の周辺2は、屈折率がコア3の屈折率よりも小さくなるような材質で覆った。このように、散乱体周辺のみを屈折率の小さな材料で覆うことにより、近接場光発生素子周辺の媒質中に発生する分極の大きさを小さくすることができ、近接場光強度の低下を防ぐことが出来る。本実施例では、散乱体1の周辺部2の材質はSiO(屈折率=1.45)とした。
【0016】
上記低屈折率部2の厚さd1は、散乱体1の厚さShよりも大きくする必要がある。もしd1がShよりも小さい場合、散乱体の一部が屈折率の高い導波路コア部3に接することになり、近接場光強度が低下する。一方、低屈折率部2の厚さd1が大きすぎると、導波路を出た部分(コア3と低屈折率部2が接する部分)から散乱体1に届くまでの間に光が広がってしまい、逆に効率の低下を招く。
【0017】
図3に導波路コア部3と低屈折率部2の界面から散乱体1までの距離Sdとスポット径の関係を示す。ここで、距離Sdは低屈折率部中の波長で規格化し(低屈折率部中を伝播する光の波長をλとしたとき、Sd/λ)、スポット径はSd=0のときのスポット径で規格化した。この図に示すように、距離Sdが低屈折率部中の波長以下であれば、スポット径の広がりはほとんどない。したがって、距離Sdは、低屈折率部中の波長以下にすると良い。
【0018】
上記低屈折率部2と導波路コア3の界面では、光が反射し、導波路コア3を逆方向に伝播する反射光7が発生する。このような反射光が導波路へ戻るとレーザの戻り光ノイズの原因となる。低屈折率部2と導波路のコア3の界面が平面である場合、この反射光7の光量は、低屈折率部2の厚さd1を最適化することにより小さくすることが出来る。すなわち、コア3と低屈折率部2の界面、スライダ表面、媒体表面で反射される光が互いに干渉し反射光7が最小となるように低屈折率部2の厚さd1を設定すると良い。このような条件下では、光は低屈折率部2の中を往復することになる(低屈折率部2の中に閉じ込められる)。これは、散乱体1に入射する光の量が多くなることに相当し、散乱体近傍に発生する近接場光強度を増加させる。
【0019】
ここで、例として、上記実施例の場合の反射光7の量を計算する。導波路コア3、低屈折率部2、エアーギャップ9、媒体保護膜12、記録層13、媒体下地層14、媒体基板15の厚さ、屈折率(複素数)を表1のように表し、ε0、μ0、0をそれぞれ真空中の誘電率、透磁率、波数とした場合、反射光7の強度と入射光6の強度の比(反射率)Rは、下記の式により表される。
【0020】
【表1】

【0021】
【数1】

とした(iは虚数単位)。上記Miは、特性マトリックスと呼ばれる行列であり、各層の特性を表す。
【0022】
上記式より求めた反射率Rと近接場光強度の関係を図4に示す。ここで、近接場光強度はFinite Difference Time Domain(FDTD)法を用いて計算した。この計算において、スライダ5は磁気記録媒体8表面上に置かれている仮定し、スライダと媒体間のエアーギャップ厚は8nm、磁気記録媒体8は、厚さ2nmの保護膜12(材質はSiN)、厚さ6nmの記録層13(材質はCo/Pd)、その下に形成された厚さ30nmの金属層14(材質は金)より構成されるとした。ここで金属層14は、熱拡散による記録マークサイズの増大を防ぐためのヒートシンク層の役割を持つと同時に、近接場光強度を増強させる働きも持つ(散乱体中の電荷の鏡像が金属層14中に励起され、その電荷と散乱体中の電荷が相互作用することにより、近接場光強度が増大する)。媒体基板15はガラスとした。
【0023】
この図に示すように、低屈折率部2(SiO2)の厚さd1が約240nmとなるとき、反射率Rは最小となる。そしてこのとき、近接場光強度は最大となる。そこで、本実施例では厚さd1は240nmとした。なお、上記計算では、媒体は保護膜、記録層、下地層の3層から構成されるとしたが、媒体特性を向上させるためにさらに層を追加しても良い。この場合は、追加した層に対応した特性マトリックスMiを追加すれば良い。
【0024】
図5に、厚さd1が240nmである低屈折率部2を設けた場合と低屈折率部2を設けない場合の近接場光強度分布を示す。低屈折率部を設けない場合は、散乱体1周辺の材質はTa2O5であるとした(散乱体周辺をTa2O5にした場合、プラズモン共鳴条件が変化し、散乱体の長さSxの最適値は変化する。本計算では、近接場光強度が最も強くなるように、長さSxを80nmにした)。図5(a)が低屈折率部を設けない場合、図5(b)が体屈折率部を設けた場合の分布で、強度の値は、入射光強度との比を表す。ピーク強度は、低屈折率部を設けない場合、入射光強度の540倍、設けた場合、3980倍となった。このように、低屈折率部を設けることにより、7.3倍近接場光強度を大きくすることが出来た。
【0025】
上記実施例では、散乱体の形状は平面状の三角形としたが、平面状の円、楕円、直方体、球などにしても良い。また、特開2004-151046号公報に示されるように、散乱体の表面の一部を削っても良い。散乱体の材質は、導電性を有するものであれば良く、銀、銅、アルミ、鉄、ニッケルなどの金属又は合金、又はSiなどの半導体にしても良い。
【0026】
上記実施例では、導波路の断面形状は正方形としたが、長方形や円、楕円などにしても良い。また、散乱体周辺の低屈折率部2の材料は、コア3の材料の屈折率よりも小さな屈折率を有するものであれば良く、コア3の材料がTa2O5であるとき、低屈折率部2の材料は、Al2O3(屈折率= 1.63)、MgF2(屈折率= 1.38)などの誘電体にしても良い。また、コア3の材質をSiにし、低屈折率部2の材料を、SiO2(屈折率= 1.45)、Al2O3(屈折率= 1.63)、MgF2(屈折率= 1.38)などの誘電体にしても良い(このとき、Siにおける光吸収を防ぐために波長は1μm以上にする)。
【0027】
上記実施例では、低屈折率部2は、導波路のクラッド部4の下側にも形成したが、図6に示すように、コア部3の下側のみに形成し、クラッド部4はスライダ底面に接するようにしても良い。このとき、クラッド4の屈折率が低屈折率部2の屈折率よりも小さくなるようにすると良い。導波路コア3と低屈折率部2の界面から散乱体1に伝わるまでに光スポットは広がるが、このようにクラッド4の屈折率が低屈折率部2の屈折率よりも小さくなるようにすると、その広がりを抑えることが出来る。本実施例では、コア部3の材質はTa2O5、クラッド部4の材質はMgF2、低屈折率部2の材質はSiO2とした。
【0028】
上記実施例では、低屈折率部2と導波路のコア3の界面は、スライダ底面に平行であるとしたが、界面における反射光が導波路のコア3に戻らないように、図7のように界面を斜めにしても良い。本実施例では、低屈折率部2の厚さd1を100nmとし、界面とスライダ面のなす角aを5度にした。
【0029】
上記実施例では、低屈折率部2と導波路のコア3の界面は平面であるとしたが、図8(a)および(b)に示すように、曲面にしても良い。このように曲面にすることにより、低屈折率部2と導波路のコア3の界面で生じる反射光がコア3に戻らないようにすることが出来る。なお、図8(b)のように、界面の中心部が下がるようにすると、界面がレンズと同じ働きをし、出射した光の広がりを抑えることが出来る。
【0030】
上記散乱体1の周辺に存在するバックグランド光が媒体に入射しないようにするために、図9に示すように、散乱体1周辺に遮光膜10を形成しても良い。この場合、低屈折率部2の厚さの最適値を求める際には、この遮光膜10の影響を考慮する必要がある。すなわち、遮光膜の屈折率がns、厚さがt1であるとき、その特性マトリックスMs
【0031】
【数2】

とする。この特性マトリックスを上記数式に追加し、
【0032】
【数3】

とする。この行列を用いて上記数式から反射率Rを計算し、低屈折率部2の厚さの最適値を求める。
【0033】
図10に、遮光膜10を形成した場合の、低屈折率部2の厚さd1と反射率および近接場光強度の関係を示す。本実施例では、散乱体の形状、材質、導波路の形状、材質、低屈折率部の材質は前記実施例と同じとし、遮光膜の材質は金、厚さt1は50nmとし、開口部の直径Lは140nmとした。この図に示すように、低屈折率部2の厚さd1が約240nmとなるようにすると、反射率が最小となり、このとき近接場光強度は最も強くなる。
【0034】
なお、上記遮光膜において、散乱体1周辺には開口部が存在する。この開口部の径が、入射光のスポット径に近い場合、低屈折率部2の厚さd1の最適値は上記特性マトリックスを使った方法により求められる最適値とはずれる可能性がある。この場合は、FDTD法など、厳密な計算から最適値を求める必要がある。
【0035】
上記実施例では、金属の散乱体は遮光膜と分離しているとしたが、散乱体の一部を遮光膜につなげV字開口(特開2001-255254号公報)やc字開口(Optics Letters, Vol. 28, No. 15, August 1, 2003, page 1320)にしても良い。
【0036】
[実施例2]
次に、近接場光素子へ入射光を伝える手段としてレンズを用いた場合について説明する。
図11に、レンズを用いた場合の実施例を示す。本実施例では、レンズとして材質がBi4Ge3O12(屈折率=2.23)である半球レンズを用いた。このレンズ16をスライダ5底面に形成し、この半球レンズの底面で光が集光するように入射光6を入射させた。このレンズの底面の焦点位置に散乱体1を形成した。散乱体の形状、材質は前記実施例と同じとした。散乱体1の周辺には、半球状の低屈折率部2を形成した。低屈折率部2の材質はSiO2とした。ここで、低屈折率部2の厚さd1は、レンズの集光特性を劣化させない程度に小さくする必要がある。そのためには、低屈折率部2の厚さd1は、レンズ中の光波長(真空中の波長をλ0、レンズの屈折率をnLとしたとき、λ0/ nL)以下にする必要がある。本実施例ではd1は250nmとした。
【0037】
上記低屈折率部2は、図12に示すようにレンズの底面に膜状に形成しても良い。このとき、低屈折率部2の厚さd1は、導波路の実施例の場合と同様、入射光の広がりを抑えるために低屈折率媒体中の波長以下になるようにすると良い。さらに、低屈折率部とコア部の界面、スライダ底面、媒体表面からの反射光の干渉を考慮し、戻り光7が最小になるようにd1を最適化すると良い。本実施例では、厚さd1は240nmとした。
【0038】
[実施例3]
次に、本発明の近接場光発生器を磁気ディスク装置に用いられる単磁極ヘッドと組み合わせた場合の実施例について説明する。
図13は、単磁極ヘッドと散乱体を組み合わせた記録ヘッドの断面図を示す。スライダ5の表面に近接場光を発生させるための散乱体1を形成し、その周辺に低屈折率部2を形成した。光は波長785nmの半導体レーザを用いて発生させ、半導体レーザから発生する光を導波路22を用いてスライダ5まで導いた。導波路22から出射した光は、コリメートレンズ23を用いて平行光にした。その光はミラー24で折り返し、集光レンズ25を用いて、近接場光発生素子につながる導波路(コア3およびクラッド4から構成される導波路)にカップリングさせた。磁界は、薄膜コイル17を用いて発生させ、発生した磁界を主磁極18によって散乱体1の近くに導いた。薄膜コイル17の反対側には、閉磁路を形成するための補助磁極19を形成した。導波路の横には、記録マークを再生するための、磁気再生素子(Giant Magneto Resistive (GMR)素子又はTunneling Magneto Resistive (TMR)素子)20を形成した。磁気再生素子20の周辺には、周りからの磁界を遮蔽するためのシールド21を形成した。
【0039】
図14に、上記記録ヘッドを熱アシスト記録装置へ応用した実施例を示す。本発明の記録ヘッド26はサスペンション27に固定し、ボイスコイルモータ28で位置を動かした。ヘッド表面には浮上用パッドを形成し、記録ディスク29の上を浮上量10nm以下で浮上させた。記録ディスク29としては、磁気記録媒体を用いた。記録ディスク29は、モータによって回転駆動されるスピンドル30に固定されて回転する。記録の瞬間、記録ヘッド26中に設けたコイルにより磁界を発生すると同時に、半導体レーザを発光させ、記録マークを形成した。半導体レーザは、サスペンション27の根本に置いた薄型パッケージ32内に置き、そこからスライダまでは、導波路33で光を導波させた。再生にはスライダ表面に形成した磁気再生素子20を用いた。再生信号は、信号処理用LSI 31で処理した。
【0040】
上記実施例では、記録媒体として磁気媒体を利用したが、相変化媒体、フォトクロミック媒体などを用いて記録装置を構成しても良い。この場合、再生素子としては磁気再生素子20に替えて、近接場光を発生させる散乱体1から発生する散乱光の強度変化を検出することにより行えば良い。散乱体1から発生する散乱光は、入射に使った導波路またはレンズ中を、光源に対し戻る方向に進む。したがって、入射光の光路の途中にビームスプリッタを挿入することにより、その戻り光を分離し、それをフォトディテクタで検出した。
【0041】
上記近接場光発生器は、情報記録再生装置だけでなく、近接場光顕微鏡に用いても良い。また、上記近接場光発生器はバイオセンサとして用いても良い。例えば、散乱体表面にリガンドと呼ばれる特定の物質と反応する分子を吸着させる。このリガンドに検出物質(アナライト)が吸着すると、散乱体周辺の屈折率が変化するため、散乱体から発生する散乱光強度が変化する。その強度変化をモニタすることにより、アナライトの有無を検出することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の近接場光発生器を示す側断面図。
【図2】本発明の近接場光発生器を示す斜視図。
【図3】導波路コア端面からの距離とスポット径の関係を示す図。
【図4】低屈折率部の厚さと、反射率および近接場光強度の関係を示す図。
【図5】低屈折率部を設けない場合と設けた場合の近接場光強度分布を示す図で、(a)は低屈折率部を設けない場合の図、(b)は設けた場合の図。
【図6】導波路クラッド部がスライダ底面まで伸びた例を示す図。
【図7】導波路コアと低屈折率材料部の界面が斜めになった例を示す図。
【図8】導波路コアと低屈折率材料部の界面が曲面になった例を示す図で、(a)は中心部の膜厚が大きくなった例を示す図、(b)は中心部の膜厚が大きくなった例を示す図。
【図9】散乱体の周辺に遮光膜を形成した例を示す図。
【図10】散乱体の周辺に遮光膜を形成した場合の、低屈折率部の厚さと、近接場光強度の関係を示す図。
【図11】集光レンズを用いた場合で、低屈折率材料部の形状が半球状である例を示す図。
【図12】集光レンズを用いた場合で、低屈折率材料部の形状が薄膜状である例を示す図。
【図13】散乱体と磁気記録装置用単磁極ヘッドとを組み合わせた場合の例を示す図。
【図14】記録再生装置の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0043】
1 散乱体
2 低屈折率部
3 導波路コア部
4 導波路クラッド部
5 スライダ
6 入射光
7 反射光
8 媒体
9 エアーギャップ
10 遮光膜
11 近接場光が発生する頂点
12 保護膜
13 記録層
14 下地層
15 基板
16 レンズ
17 コイル
18 主磁極
19 補助磁極
20 磁気再生素子
21 シールド
22 導波路
23 コリメートレンズ
24 ミラー
25 集光レンズ
26 記録ヘッド
27 サスペンション
28 ボイスコイルモータ
29 記録ディスク
30 スピンドル
31 信号処理用LSI
32 半導体レーザ用パッケージ
33 導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の光導波媒体と、
前記第一の光導波媒体を介して光照射されて近接場光発生を発生する構造体と、
前記構造体の近傍に配置された、前記第一の光導波媒体に接する第二の光導波媒体とを有し、
前記第二の光導波媒体の屈折率が前記第一の光導波媒体の屈折率よりも小さいことを特徴とする近接場光発生器。
【請求項2】
請求項1記載の近接場光発生器において、前記第一の光導波媒体が導波路のコアであることを特徴とする近接場光発生器。
【請求項3】
請求項1記載の近接場光発生器において、前記第一の光導波媒体が集光レンズであることを特徴とする近接場光発生器。
【請求項4】
請求項1記載の近接場光発生器において、前記構造体が導電性の散乱体であることを特徴とする近接場光発生器。
【請求項5】
請求項1記載の近接場光発生器において、前記第一の光導波媒体と前記第二の光導波媒体の界面から、前記第一の光導波媒体の反対側に位置する前記第二の光導波媒体表面までの距離が、前記第二の光導波媒体中を伝わる光の波長よりも小さいことを特徴とする近接場光発生器。
【請求項6】
請求項1記載の近接場光発生器において、前記第一の光導波媒体と前記第二の光導波媒体の界面から、前記構造体の前記第一の光導波媒体と反対側に位置する面までの距離を、前記第一の光導波媒体中に戻る反射光強度が最小になるように設定したことを特徴とする近接場光発生器。
【請求項7】
記録媒体と、前記記録媒体を駆動する媒体駆動部と、前記記録媒体に対して記録・再生動作を行うヘッドと、前記ヘッドを前記記録媒体に対して位置決めするためのヘッド駆動部とを備え、
前記ヘッドが、第一の光導波媒体と、前記第一の光導波媒体を介して光照射されて近接場光発生を発生する構造体と、前記構造体の近傍に配置された、前記第一の光導波媒体に接する第二の光導波媒体とを有し、前記第二の光導波媒体の屈折率が前記第一の光導波媒体の屈折率よりも小さい近接場光発生器を搭載していることを特徴とする近接場光記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−280572(P2007−280572A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109389(P2006−109389)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】