説明

近赤外線及び中赤外線分光法による複合材料中の水分量の測定

複合材料の水分含有量を決定する方法は、既知の水分含有量を有する複合材料の標準器を供給すること、複合材料標準器の赤外スペクトルを収集すること、水分含有量に対して赤外スペクトルを校正すること、複合材料を供給すること、及び赤外スペクトルと複合材料標準器とに基づいて複合材料の水分含有量を予測することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の水分含有量を決定する方法に関するものである。具体的には、本発明は、近赤外線及び中赤外線分光法を用いて複合材料中の水分含有量を正確に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂繊維複合材料は、例えば航空宇宙産業を含む様々な用途に利用される。複合材料は、時間をかけて大気中の湿気を吸収することができる。複合材料を結合した修理部分の完全性は、湿気を吸収する結果低下することがある。複合材料中に存在する水分量を決定することにより、複合材料を結合する前に必要なステップの決定が容易に行える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、現場に持ち運び可能でユーザフレンドリーな近赤外線及び中赤外線分光法を用いて複合材料中の水分含有量を正確に評価する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、概して、複合材料の水分含有量を決定する方法を目的とする。本方法の説明のための実施形態は、複合材料の試料から反射された赤外線エネルギーのIRスペクトルを用いて一連の複合材料試料中の水分含有量の校正値を取得すること、段階的に水分含有量を増加させた適切な複合材料からなる一連の水分標準器を供給すること、必要に応じてIRスペクトルを適切に前処理することにより水分含有量に対するIRスペクトルの多変量校正を実行した後、そのような校正を使用して、水分含有量が未知である同種の複合材料中の水分含有量を予測することを含む。
【0005】
本発明は、更に、概ね、複合材料の物理的特性(例えば、水分含有量の重量割合及び/又は二重カンチレバービーム方式による結合強度試験による結合強度のG1c値)を決定する方法を目的とする。本方法の説明を目的とする実施形態は、複合材料試料中の水分含有量の関数として複合材料試料の物理的特性の値を取得すること、複合材料試料の水分含有量と、複合材料試料から反射された赤外線エネルギーのスペクトルとの間の校正値を取得すること、複合材料試料から反射された赤外線エネルギーのスペクトルと、複合材料試料の物理的特性の値との間の校正値を取得すること、及び校正値を使用して、問題の複合材料のIRスペクトルに基づいて当該複合材料の物理的特性を予測することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、近赤外線及び中赤外線エネルギーのスペクトルと、種々の期間に亘って異なる量の水分に曝された複合材料試料の水分含有量又は機械的特性との間での校正を実行する説明的方法のフロー図である。
【図2】図2は、水分含有量を次第に増加させた一連のパネルを作成し、水分含有量を次第に増加させた結合強度特性を得るための説明的な方法のフロー図である。
【図3】図3は、複合材料における水分測定の校正モデルを検証する一方式を説明するフロー図である。
【図4】図4は、5つの平滑化点を有する第1の微分データを用いた湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの100回に亘るスキャンの近赤外スペクトルを示すグラフである。
【図5】図5は、7つの平滑化点を有する第1の微分データを用いた湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの128回に亘るスキャンの平均の中赤外スペクトルを示すグラフである。
【図6】図6は、湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの128回に亘るスキャンの平均の、ベースラインからのオフセットを補正した中赤外スペクトルを示すグラフである。
【図7】図7は、湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの128回に亘るスキャンの平均の中赤外スペクトルの生データを示すグラフである。
【図8】図8は、航空機の製造及び整備方法を示すフロー図である。
【図9】図9は、航空機のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の詳細な説明は、単に説明的な性質のものであって、記載される実施形態又は記載される実施形態の適用及び使用を制限することを意図していない。本明細書において使用される用語「例示的」又は「説明的」とは、「一つの例、実例、又は説明として働くこと」を意味する。「例示的」又は「説明的」として本明細書に記載される実装形態は、他の実装形態より必ずしも好ましい又は有利であるというわけではない。後述される実装形態のすべては、当業者による本発明の作製又は使用を可能にするために提供された例示的実装形態であり、特許請求の範囲において規定される本発明の範囲を限定することを意図していない。更に、明示、暗示の区別を問わず、上述の「技術分野」、「背景技術」、「発明の概要」、又は後述する詳細な説明において提示される理論のいずれにも拘束されることはない。
【実施例】
【0008】
まず図1を参照する。フロー図100は、赤外線エネルギーと、種々の期間に亘って異なる量の水分に曝された複合材料試料の水分含有量との間での校正値を得る説明的方法を示している。ブロック102では、結合強度結果が良好なものから不良なものまでの範囲に亘って水分含有量情報を制御した複合材料試料を供給する。複合材料試料は、これに限定しないが、例えば2インチ四方の複合材料とすることができる。ブロック104では、問題の材料を後で測定するために使用される手持ち式分光計により、一連の複合材料試料を測定する。これは、様々な材料及び状況に対応する近赤外線又は中赤外線装置とすることができる。
【0009】
ブロック106では、適切なアルゴリズムを用いて赤外線データの前処理を行うことにより、水分含有量に対するスペクトルデータの校正のための最良のデータを供給する。ブロック108では、多変量校正を実施する。これは、多くの場合、水分含有量データの赤外スペクトルへのPLS回帰である。ブロック110では、校正モデルを適切なフォーマットに保存し、問題の材料の測定を行うために使用される手持ち式デバイスにロードする。ブロック112では、分光計の校正モデルを使用して、問題の材料の新規のスペクトルを使用して当該材料の水分含有量を予測する。
【0010】
次に、図2には、図1の多変量校正及び予測方法のための水分含有量標準器を作製する説明的方法のフロー図200を示す。ブロック202では、一組の乾燥した複合材料のパネルを準備し、注意深くその重さを量る。ブロック204では、手持ち式赤外線分光計を用いて乾燥標準器を測定することにより、すべての乾燥標準器について乾燥材料スペクトルを取得する。他の適用例では、複合材料の表面に、近赤外スペクトル又は中赤外スペクトルの赤外線エネルギーを照射してもよい。幾つかの適用例では、赤外スペクトルは、限定しないが、例えばPolychromix社、又はA2 Technologies社が市販するもののような手持ち式分光計システムを使用して取得することができる。
【0011】
ブロック206では、水分含有量を増やすために、乾燥標準器を熱及び湿気チャンバーに入れる。ブロック208では、約0.2%の増加が達成されるまで、周期的に標準器の重さを量る。重量が0.2%増加する度に、手持ち式分光計により一対の標準器を測定した後それらを互いに結合し、水分含有量レベルの増加に伴う結合強度を試験する。ブロック210では、結合強度試験のために、結合されたパネルを適切な大きさに切断して結合強度試験を実施する。ブロック212では、それ以上重量が変化しなくまるまで、又は結合強度試験の結果が一貫して不良となるまで、ステップ208及び210を繰返す。
【0012】
図3は、水分含有量を測定するために作製された多変量モデルを検証する説明的方法のフロー図である。ブロック302では、図1に示す方法と図2で作製したモデルとを使用して、赤外スペクトルの変化に伴う水分含有量の適切なモデルを作製する。ブロック304では、図2に示したものと同じ方法を使用して標準器の新規の組を作成し、この新規の組のパネルの水分含有量を図1の方法により予測する。ブロック306では、ステップ304における予測結果と重量割合による実際の水分含有量の増加とに基づいて、予測の二乗平均誤差を計算することにより多変量モデルを検証する。ブロック308では、様々なデータ前処理と、検証ステップにおいて最低可能予測誤差を得るための校正モデルとを使用してモデルを最適化する。
【0013】
図4〜7は、様々な度合いの水分含有量を有する複合材料から得られた赤外スペクトルを示すグラフである。図4のグラフは、5つの平滑化点を有する第1の微分データを使用した湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの100回に亘るスキャンの近赤外スペクトルを示している。図5のグラフは、7つの平滑化点を有する第1の微分データを用いた湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの128回に亘るスキャンの平均の中赤外スペクトルを示している。図6のグラフは、湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの128回に亘るスキャンの平均の、ベースラインからのオフセットを補正した中赤外スペクトルのデータを示している。図7のグラフは、湿った複合材料テープ及び乾燥した複合材料テープの128回に亘るスキャンの平均の、中赤外スペクトルの生データを示している。
【0014】
次に、図8及び9に示すように、本発明の実施形態は、図8に示す航空機の製造及び整備方法78と、図9に示す航空機94に関して使用することができる。製造前に、例示的方法78は、航空機94の仕様及び設計80と、材料調達82とを含みうる。製造段階では、航空機94のコンポーネント及びサブアセンブリの製造84とシステムインテグレーション86とが行われる。その後、航空機94は認証及び納品88を経て就航90される。顧客によって就航される間に、航空機94は、定期的な保守及び整備92(改良、再構成、及び改修なども含まれる)を受けることができる。
【0015】
方法78の各工程は、システムインテグレーター、第三者、及び/又はオペレーター(例えば顧客)によって実施又は実行されてよい。本明細書の目的のために、システムインテグレーターは、限定しないが、任意の数の航空機製造者、及び主要なシステム下請業者を含むことができ、第三者は、限定しないが、任意の数のベンダー、下請業者、及び供給業者を含むことができ、オペレーターは、航空会社、リース会社、軍事団体、サービス機関などでありうる。
【0016】
図9に示すように、例示的方法78によって製造される航空機94は、複数のシステム96及び内装100と共に機体98を含むことができる。高レベルシステム96の例には、推進システム102、電気システム104、油圧システム106、及び環境システム108のうちの一又は複数が含まれる。任意の数の他のシステムが含まれてもよい。航空宇宙産業における例を示したが、本発明の原理は自動車産業などの他の産業にも適用することができる。
【0017】
本明細書に具現化された装置は、製造及び整備方法78の一又は複数のいずれの段階にも利用することができる。例えば、製造工程84に対応するコンポーネント又はサブアセンブリは、航空機94が就航中に製造されるコンポーネント又はサブアセンブリと同様の方法で作製又は製造することができる。また、例えば、航空機94のアセンブリを実質的に効率化するか、又はコスト削減することにより、一又は複数の装置の実施形態を製造段階84及び86の間に利用することができる。同様に、限定するわけではないが、例えば保守及び整備92において、航空機94が就航されている間に、一又は複数の装置の実施形態を利用することができる。
【0018】
特定の例示的実施形態に関して本明細書の実施形態を説明したが、当業者であれば他の変形例を想起するように、それら特定の実施形態は説明を目的しているのであって、限定を目的としているのではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含有量に基づいて複合材料の物理的特性を決定する方法であって、
複合材料標準器中の水分含有量の、前記複合材料標準器から反射された赤外線エネルギーのスペクトルとの校正値を取得すること、
前記複合材料標準器の物理的特性を、前記複合材料標準器の前記赤外線エネルギーのスペクトルと、前記水分含有量とに相関させること、
前記複合材料標準器から反射された前記赤外線エネルギーのスペクトルの変化に対する前記複合材料標準器の水分含有量の変化のモデルを作成すること、
一表面を有する複合材料を供給すること、
前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得すること、並びに
前記モデルを用いて、前記複合材料の前記水分含有量に基づく前記複合材料の前記物理的特性を予測すること
を含む方法。
【請求項2】
前記複合材料標準器中の水分含有量の、前記複合材料標準器から反射された赤外線エネルギーのスペクトルとの校正値を取得することが、各複合材料標準器から反射された赤外線エネルギーの少なくとも4つのスペクトルを収集することと、前記スペクトルに前処理を実行することと、前記スペクトルに多変量校正を実行することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水分含有量に基づいて複合材料の物理的特性を決定する方法であって、
複合材料標準器中の水分含有量の、前記複合材料標準器から反射された赤外線エネルギーのスペクトルとの校正値を、
水分含有量を制御した複数の複合材料標準器を供給し、
前記複合材料標準器の赤外スペクトルを収集し、
前記複合材料標準器の水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正すること
により取得すること、
前記複合材料標準器中の前記水分量を、
第1組の複合材料標準器を供給し、
前記第1組の複合材料標準器の赤外スペクトルを取得し、
前記第1組の複合材料標準器の物理的特性を、前記第1組の複合材料標準器の前記赤外スペクトルと次第に増加させた水分含有量とに相関させること
により、前記複合材料標準器の機械的特性に相関させること、
前記第1組の複合材料標準器の前記赤外スペクトルの変化に対する前記第1組の複合材料標準器の水分含有量の変化のモデルを作成すること、
水分含有量が異なる第2組の複合材料標準器を供給すること、並びに
前記モデルを使用して、前記第2組の複合材料標準器の水分含有量及び前記機械的特性を予測すること
を含む方法。
【請求項4】
前記複合材料標準器の水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することが、PLSルーチンを使用して多変量校正を実行することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することが、広域スペクトルの赤外線エネルギーを用いて前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することを含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することが、近赤外スペクトルの赤外線エネルギーを用いて前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することを含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することが、中赤外スペクトルの赤外線エネルギー用いて前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することを含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項8】
前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することが、手持ち式分光計を使用して前記複合材料の前記表面から反射された赤外線エネルギーのスペクトルを取得することを含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項9】
複合材料の水分含有量を決定する方法であって、
水分含有量を有する複合材料標準器を供給すること、
前記複合材料標準器上の赤外スペクトルを収集すること、
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正すること、
複合材料を供給すること、並びに
前記赤外スペクトルと前記複合材料標準器とに基づいて前記複合材料の水分含有量を予測すること
を含む方法。
【請求項10】
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することが、広域スペクトルの赤外線エネルギーを用いて前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することが、近赤外スペクトルの赤外線エネルギーを用いて前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することが、中赤外スペクトルの赤外線エネルギーを用いて前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することが、手持ち式分光計を使用して前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記赤外スペクトルに前処理を実行することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することが、PLSルーチンを使用して前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記水分含有量に対して前記赤外スペクトルを校正することにより得られる校正データを、手持ち式分光計に使用される方法ファイルに変換することを更に含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−509461(P2012−509461A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536444(P2011−536444)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/064054
【国際公開番号】WO2010/059480
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】