説明

送りねじ装置

【課題】従来とは異なる構成によりねじ溝を加振することによって、ねじ溝に発生する摩擦力を低減することが可能な送りねじ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】送りねじ装置1は、ハウジング31に固定されたステータ32と、軸部材10およびナット部材20のうち一方部材と連結され当該一方部材と一体的に回転するロータ33と、ステータ32とロータ33との間に作用する磁力によってロータ33に軸方向一方側への移動力が発生した場合に、当該移動力に抗してロータ33を軸方向他方側へ付勢する弾性部材35と、を備える。そして、移動力によるロータ33の軸方向一方側への移動と、弾性部材の付勢力によるロータ33の軸方向他方側への移動と、が周期的に繰り返されることにより一方部材のねじ溝を振動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動により移動体を直線運動させる送りねじ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送りねじ装置は、工作機械や自動車などの様々な分野において、移動体を直線方向に位置決めを行う機械要素として使用されている。この送りねじ装置は、軸部材とナット部材にそれぞれ形成されたねじ溝を直接的に噛み合わせ、または複数のボールを介して間接的に噛み合わせ、回転運動を直線運動に変換して移動体を移動させている。また、送りねじ装置には、軸部材を回転させてナット部材を直線運動させるものと、ナット部材を回転させて軸部材を直線運動させるものがある。何れの構成においても、送りねじ装置は、回転運動させる部材の回転量に応じて移動体を位置決めしている。
【0003】
このような送りねじ装置の軸部材およびナット部材において、噛み合っている各ねじ溝には摩擦力が発生している。ねじ溝に発生する摩擦力は、必要となる回転駆動力や位置決め精度、装置の耐久性などに影響するおそれがあるため、なるべく低減させることが好適である。そこで、例えば、特許文献1,2には、高周波振動を発生する加振装置を用いた摩擦力の低減方法が開示されている。この方法によると、加振装置により、軸部材またはナット部材を加振することで、ねじ溝に発生する摩擦力を低減できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−238540号公報
【特許文献2】特開2005−256954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような摩擦力の低減方法では、加振装置を設置する必要があるためコスト増大が懸念される。また、送りねじ装置の軸部材またはナット部材には、振動を発生する振動子を設ける必要があり、送りねじ装置が全体として大型化するおそれがある。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、従来とは異なる構成によりねじ溝を加振することによって、ねじ溝に発生する摩擦力を低減することが可能な送りねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明によると、外周面にねじ溝が形成された軸部材と、内周面に前記軸部材の前記ねじ溝と噛み合うねじ溝が形成されたナット部材と、ハウジングに固定されたステータと、前記ステータとの間の磁力の相互作用により前記ステータに対して回転可能に且つ軸方向移動可能に設けられるとともに、前記軸部材および前記ナット部材のうち一方部材と連結され当該一方部材と一体的に回転するロータと、前記ステータと前記ロータとの間に作用する磁力によって前記ロータに軸方向一方側への移動力が発生した場合に、当該移動力に抗して前記ロータを軸方向他方側へ付勢する弾性部材と、を備え、前記移動力による前記ロータの軸方向一方側への移動と、前記弾性部材の付勢力による前記ロータの軸方向他方側への移動と、が周期的に繰り返されることにより前記一方部材の前記ねじ溝を振動させる。
【0007】
請求項2に係る発明によると、請求項1において、前記ロータは、前記ステータの径方向に対向して配置され、前記ステータにおけるステータコアの軸方向中央部から軸方向他方側に所定距離だけ離間した位置を基準位置として、前記弾性部材は、前記ロータに軸方向一方側への前記移動力が発生した場合に、前記ロータにおける界磁部位の軸方向中央部を前記基準位置まで戻すように前記ロータを付勢する。
【0008】
請求項3に係る発明によると、請求項2において、前記ロータを回転させた際に前記ステータに対する前記ロータの位相に応じて変動する磁力により周期的な前記移動力を発生させる。
【0009】
請求項4に係る発明によると、請求項1〜3の何れか一項において、前記ステータに対して前記ロータを所定位相に維持させるために必要な最小の電流値を上回る範囲で前記ステータまたは前記ロータに供給する電流値を変動させることにより前記移動力を発生させる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によると、送りねじ装置は、ロータに作用する磁力と弾性部材の付勢力によって、ロータを軸方向に移動させることによりロータに連結された一方部材のねじ溝を振動させる構成としている。ここで、一方部材とは、軸部材およびナット部材のうちロータにより回転駆動力を伝達される部材であり、他方部材には軸方向に移動する移動体が設置される。これにより、ロータを回転させるための磁力、またはロータを所定位相に維持させるための磁力に利用して、ロータを軸方向一方側に移動させることができる。また、磁力による軸方向一方側への移動力に抗する付勢力によって、ロータを軸方向他方側に移動させることができる。よって、ロータの回転などによって磁力が変動すると、ロータおよび一方部材は周期的に軸方向に往復運動することになる。従って、一方部材に形成されたねじ溝を振動させることができる。このような構成により、ねじ溝を加振することによって、ねじ溝に発生する摩擦力を低減することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によると、ロータはステータの径方向に対向して配置されている。即ち、ロータは、ステータの径方向内方に対向して配置されたインナーロータ、またはステータの径方向外方に対向して配置されたアウターロータであって、ステータとともにラジアルモータを構成している。そして、ロータは、ステータコアの軸方向中央部から軸方向他方側に所定距離だけ離間した位置を基準位置として、当該基準位置に界磁部位の軸方向中央部が位置するように配置される。また、ロータにおける界磁部位とは、ロータの構成部材に関わらず、ラジアルモータとして磁界を発生させる部位を指している。そして、ロータは、弾性部材により常に基準位置に位置するように付勢されることになり、磁力による移動力の発生に伴って、移動力の大きさや所定距離に応じた振幅で振動することになる。これにより、送りねじ装置は、より確実にねじ溝を加振することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によると、送りねじ装置は、ロータを回転させた際にステータに対するロータの位相に応じて変動する磁力により周期的な移動力を発生させる構成としている。モータには、ステータおよびロータの形状や磁束分布の影響により、ロータの位相に依存して磁気的吸引力が脈動する、いわゆるコギングトルクが発生する。このコギングトルクは、例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)モータにおけるステータの極数や永久磁石を配置するスロット数によって変動するものである。そして、ステータコアの軸方向中央部とロータにおける界磁部位の軸方向中央部を軸方向にずらして配置しているラジアルモータにおいては、コギングトルクによる磁力の変動はロータを軸方向に吸引する成分についても変動させることになる。これにより、送りねじ装置は、コギングトルクを利用して周期的な移動力を発生できるので、ロータの回転に伴ってロータを振動させて、一方部材のねじ溝を加振することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によると、ステータまたはロータに供給する電流値を変動させることにより軸方向の移動力を発生させる構成としている。送りねじ装置は、移動体を設置されたナット部材または軸部材の軸方向位置を保持するために、構成によっては、ステータまたはロータに電流を供給してロータを所定位相に維持している。この時、軸部材とナット部材のねじ溝には静止摩擦力が発生しているため、供給する電流値はある程度の変動幅を許容される。そこで、ロータを所定位相に維持させるために必要な最小の電流値を上回る範囲でステータまたはロータに供給する電流値を変動させる。そうすると、ロータは、軸方向への移動力の変動に伴い、回転しない状態で軸方向に振動することになる。これにより、送りねじ装置は、一方部材のねじ溝を加振し、静止摩擦力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態:送りねじ装置の全体を示す断面図である。
【図2】図1における駆動装置を示す拡大断面図である。
【図3】図1における軸部材とナット部材の噛み合いを示す拡大断面図である。
【図4】斜面に載置された物体に作用する摩擦力と振動を示した図である。
【図5】加速度比と摩擦係数の関係を示すグラフである。
【図6】周波数と振幅の関係を示すグラフである。
【図7】U,V,W相の時間に対する電流値を示す図である。
【図8】ステータに対するロータの位置に応じた移動力を示す模式図である。
【図9】第二実施形態:駆動装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の送りねじ装置を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
<実施形態>
(送りねじ装置1の構成)
本実施形態の送りねじ装置1について、図1および図2を参照して説明する。送りねじ装置1は、図1に示すように、軸部材10と、ナット部材20と、駆動装置30を備えている。また、本実施形態において、送りねじ装置1は、軸部材10を駆動装置30により回転させて、ナット部材20を直線運動させる構成としている。これにより、ナット部材20に設けられた移動体2は、ナット部材20の直線運動に伴って軸方向に移動し、駆動装置30の制御により所定の軸方向位置に位置決めされる。
【0017】
軸部材10は、図1に示すように、軸方向に延びる円柱状部材であり、その外周面に一方側の端部から他方側の端部に亘ってねじ溝である雄ねじ11が形成されている。また、軸部材10は、複数の軸受により回転可能に支持され、後述する駆動装置30により回転駆動する。ナット部材20は、全体形状としては環状からなり、内周面にねじ溝である雌ねじ21が設けられている。また、ナット部材20の雌ねじ21は、軸部材10の雄ねじ11と噛み合っている。
【0018】
駆動装置30は、軸部材10の一端と連結され、軸部材10を回転駆動させる装置である。この駆動装置30は、図2に示すように、ハウジング31と、ステータ32と、ロータ33と、軸受34と、皿ばね35を有する。ハウジング31は、ステータ32などを収容する部材であり、送りねじ装置1が設置される部材に固定される。
【0019】
ステータ32は、ハウジング31の内部に固定され、円筒状のステータコア32aと、コイル32bを有する。ステータコア32aは、電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、周方向に所定間隔で複数のティース(図示しない)が形成されている。コイル32bは、各ティースに導線を巻回して形成されている。このような構成からなるステータ32は、コイル32bに電流を流すことにより内周側に磁界を発生させるものであり、ティースの数がステータ32の極数に相当する。
【0020】
ロータ33は、ステータ32の径方向内方においてステータ32の内周面と対向するように、且つ軸方向に所定距離だけシフトした位置に配置されたインナーロータである。このロータ33は、ロータコア33aと、永久磁石33bと、シャフト33cを有する。ロータコア33aは、電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、軸方向に貫通する複数のスロットが周方向に所定間隔で形成されている。永久磁石33bは、ロータコア33aに形成された複数のスロットに挿入されて、接着剤によってステータコア32aに固定される。ロータ33は、ロータコア33aおよび永久磁石33bが界磁部位を構成している。
【0021】
ロータ33のシャフト33cは、ロータコア33aの軸中心部に圧入された出力軸である。シャフト33cは、軸部材10の一端とカップリングなどを介して連結され、当該軸部材10と一体的に回転する。また、ロータ33は、シャフト33cが軸受34を介してハウジング31に支持されることにより、ステータ32に対して回転可能に設けられている。また、軸受34は、シャフト33cを回転可能に支持する他に、ロータ33がステータ32に対してある程度の軸方向移動できるように支持している。
【0022】
このようなステータ32およびロータ33は、駆動装置30において磁石埋込型(IPM(Interior Permanent Magnet))のラジアルモータを構成している。また、駆動装置30は、図示しない制御装置に接続され、当該制御装置からモータアンプなどを介してステータ32のコイル32bに対して三相の交流電流が供給される。そして、ステータ32のコイル32bに電流が供給されると磁界が発生し、ロータ33の界磁部位による磁力の相互作用によって、ステータ32に対してロータ33が回転駆動する。
【0023】
ここで、ロータ33は、上述したようにステータ32に対してシフトした位置に配置されているため、回転駆動する際に作用する磁気的吸引力のうち軸方向成分によって、軸方向一方側(図2の左側)への移動力が発生することになる。この軸方向の移動力は、ロータ33を振動させることを目的として発生させるものである。そのため、ステータコア32aの軸方向中央部Psから軸方向他方側(図2の右側)に所定距離だけ離間した位置を基準位置として、ロータ33は、界磁部位の軸方向中央部Prが基準位置と一致する位置を初期位置として配置する構成としている。ロータ33の振動の詳細については後述する。
【0024】
皿ばね35は、軸方向の付勢力を有する弾性部材であって、ロータ33と軸受34との間に介在するように配置されている。皿ばね35は、ロータコア33aの一端に連結され、ステータ32とロータ33との間に作用する磁力によってロータ33に軸方向一方側への移動力が発生した場合に、当該移動力に抗してロータ33を軸方向他方側へ付勢する。より詳細には、皿ばね35は、ロータ33における界磁部位の軸方向中央部Prを基準位置まで戻すようにロータ33を付勢している。
【0025】
(送り動作中における摩擦力の低減)
続いて、送りねじ装置1が軸部材10を回転させてナット部材20を軸方向に移動させる送り動作を行っている場合に、ねじ溝に発生する摩擦力の低減について説明する。送りねじ装置1の駆動装置30は、制御装置から供給される電流に応じて所定の回転量だけロータ33を回転させる。この回転に伴ってロータ33に連結された軸部材10が回転し、軸部材10と噛み合うナット部材20が軸方向に移動する。この時、軸部材10およびナット部材20において、噛み合っている雄ねじ11および雌ねじ21には摩擦力が発生している。
【0026】
ここで、ロータ33は、ステータ32に対して軸方向にシフトした位置を初期位置として配置されている。そのため、ロータ33が回転駆動する際に作用する磁気的吸引力のうち軸方向成分によって、ロータ33には軸方向一方側(図2の左側)への移動力が発生している。また、ステータ32およびロータ33は磁石埋込型のラジアルモータを構成し、ロータ33が回転駆動する際には上述したステータ32の極数やロータ33のスロット数によって回転方向のトルクが変動するコギングトルクが発生する。つまり、ステータ32に対するロータ33の位相によって磁気的吸引力が脈動する現象が生じる。そうすると、磁気的吸引力の軸方向成分も同様に脈動するため、ロータ33に発生する軸方向一方側への移動力もロータ33の位相によって変動することになる。
【0027】
また、ロータ33は、弾性部材である皿ばね35により初期位置に戻るように、軸方向他方側へ付勢されている。皿ばね35の付勢力は、ロータ33に発生する移動力の最大値よりも小さく設定されている。このような構成により、ロータ33は、回転駆動に伴って、移動力による軸方向一方側への移動と、付勢力による軸方向他方側への移動と、が周期的に繰り返されて軸方向に往復運動することになる。これにより、ロータ33に連結された軸部材10が振動し、これに伴い軸部材10に形成されたねじ溝が振動する。このように、駆動装置30は、ロータ33を回転させる際の磁力を利用してロータ33を振動させることにより、軸部材10のねじ溝を加振し、ねじ溝に発生する摩擦力を低減している。
【0028】
(周波数および摩擦係数について)
続いて、軸部材10のねじ溝である雄ねじ11を振動させた場合に、周波数と摩擦係数の関係について、図3〜図6を参照して説明する。軸部材10の雄ねじ11は、図3に示すように、ナット部材20の雌ねじ21と噛み合っている。そして、軸部材10が回転駆動すると、雄ねじ11と雌ねじ21は、相対的に滑り運動することになる。このように、2つの物体が相対的に滑り運動する場合には、接触面に摩擦力が発生する。ここでは、この接触面を加振して摩擦力を低減する状態を想定している。そこで、図4に示すように、質量mの物体が角度θだけ傾斜した振動面に載置されているものとする。ここで、振幅A、角周波数ωで振動面を振動させると、物体の運動の各成分は、[数1]のように表される。但し、γは変位振幅を表すベクトルOAとZ軸のなす角であり、φはベクトルOAの斜面(XY平面)上への射影ベクトルOBとX軸のなす角である。
【0029】
【数1】

【0030】
この時、物体には、重力および摩擦力の他に、振動の加速度による慣性力が作用している。そのため、振動加速度が小さい間は摩擦力と外力とが釣り合って物体は静止しているが、振動加速度が大きくなると物体は斜面と相対的に滑り始める。ここで、本実施形態では、軸部材10を軸方向に振動させていることから、ねじ溝の歯面に垂直な振動が加えられているものと仮定すると、振動の方向がZ軸方向と一致するとみなせる。そうすると、物体と斜面の静摩擦係数μsとし、加振によって変動した静摩擦係数を等価静摩擦係数μiとすると、[数2]のように表される。Λは、物体と斜面の加速度比である。
【0031】
【数2】

【0032】
これにより、加速度比Λと等価静摩擦係数μiは、図5に示すような関係となる。また、[数2]から明らかなように、理論上は、加速度比Λが1の場合に等価静摩擦係数μiが0となる。そして、図5および[数2]に基づいて、静摩擦係数μsに対する目標の等価静摩擦係数μiを設定した際の加速度比Λを設定することができる。ここで、本実施形態における軸部材10とナット部材20の噛み合いに戻り、軸部材10が回転駆動している際にナット部材20から負荷Fを受けるものとする。この負荷Fは、送りねじ装置1の構成や仕様によって異なるものである。そして、ナット部材20を質量mとすると、加速度aは、a=F/mで表される。よって、本実施形態における軸部材10とナット部材20の加速度比Λは、Λ=(Aω)/aとなる。
【0033】
そして、静摩擦係数μsに対して等価静摩擦係数μiが1/10程度になるように目標を設定したものと仮定する。そして、上記の負荷Fが100,1000,10000[N]とすると、図6に示すように、周波数f(f=ω/2π)と振幅Aの関係がそれぞれ算出される。ここで、駆動装置30が軸部材10を回転駆動させて、軸部材10を振動させた場合に、この振動の周波数fは以下のような値となる。即ち、周波数fは、ステータ32の極数と、ロータ33のスロット数の最小公倍数と回転数に比例した値となる。これは、駆動装置30がコギングトルクを利用して、ロータ33に軸方向の移動力を発生させていることに起因するものである。このように振動の周波数fは、軸部材10の回転数によって変動するものであるが、例えば、所定の周波数fにおける摩擦力の低減を図るとすると、図6のグラフに基づいて振幅Aを求めることができる。
【0034】
上述したように、送りねじ装置1における負荷F、駆動装置30の構成(極数およびスロット数)、目標とする等価静摩擦係数μiの設定によって、振幅Aをどの程度にすれば好適であるかが求められる。そして、駆動装置30がロータ33を振動させた場合の振幅Aは、ロータ33を回転駆動させるために発生する磁力によっても異なるが、ロータ33の基準位置および皿ばね35の弾性係数を設定することにより調整される。
【0035】
(静止中における摩擦力の低減)
次に、送りねじ装置1が軸部材10を回転させずにナット部材20を所定の軸方向位置に保持する静止中の場合に、ねじ溝に発生する摩擦力の低減について、図7および図8を参照して説明する。送りねじ装置1の駆動装置30は、図7に示すように、時刻T1〜T2において、制御装置により三相の交流電流をロータ33に供給してロータ33を所定位相に維持している。これにより、ロータ33に連結された軸部材10の静止状態が維持される。
【0036】
この時、軸部材10およびナット部材20において、噛み合っている雄ねじ11および雌ねじ21には静止摩擦力が発生している。そのため、駆動装置30に供給する電流値はある程度の変動幅を許容される。そこで、駆動装置30は、時刻T2以降において、ロータ33を所定位相に維持させるために必要な最小の電流値を上回る範囲でステータ32に供給する電流値を各相ともに変動させる。ここで、ステータ32に供給する電流値を増加させると、ロータ33に作用する磁力も増加する。そうすると、ロータ33に作用する磁気的吸引力のうち軸方向成分も増加し、ロータ33には移動力が発生して皿ばね35の付勢力に抗して軸方向一方側へ移動する。
【0037】
その後に、ステータ32に供給する電流値を元の最小の電流値に戻すと、ロータ33に発生する移動力が低減し、皿ばね35の付勢力によりロータ33が軸方向他方側に移動する。そして、駆動装置30は、このようにロータ33の軸方向移動が周期的に繰り返されるように、供給する電流値を変動させることによりロータ33の静止を維持した状態で振動させることができる。また、電流値の増加量や周期を調整することで、ロータ33の振幅および周波数を設定することが可能である。どのような振幅および周波数にするかについては、上述した方法を用いてもよい。
【0038】
また、ここでは供給する電流値を変動させることにより、ロータ33に発生する移動力を増減させるものとした。これに対して、所定の電流値まで増加させることでもロータ33が振動することがある。これは、ロータ33における界磁部位の軸方向中央部Prが、ステータコア32aの軸方向中央部Psと軸方向に一致した場合には、磁気的吸引力のうち軸方向成分がなるためである。
【0039】
より詳細には、先ず、供給する電流値を増加させると、図8(a)に示すように、ロータ33には移動力が発生して図8(a)の左方へ移動する。そうすると、ロータ33の軸方向移動にともなって、軸方向一方側への移動力が低減する。そして、この移動力が皿ばね35の付勢力よりも小さくなると、図8(b)に示すように、ロータ33が図8(b)の右方へ移動する。このような構成では、磁力による軸方向の移動力と皿ばね35の付勢力とが釣り合う軸方向位置で収束することも想定されるが、その場合には供給する電流値を適宜変動させることで、再びロータ33の振動を促すことが可能である。
【0040】
(送りねじ装置1による効果)
上述した送りねじ装置1によると、ロータ33に作用する磁力と皿ばね35の付勢力によって、ロータ33を軸方向に移動させることによりロータ33に連結された軸部材10の雄ねじ11を振動させる構成としている。このように、ねじ溝である雄ねじ11を加振することによって、雄ねじ11に発生する摩擦力を低減することができる。
【0041】
また、送りねじ装置1は、ステータ32およびロータ33によりラジアルモータを構成するものとした。そして、ロータ33は、ステータコア32aの軸方向中央部Psから軸方向他方側に所定距離だけ離間した位置を基準位置として、当該基準位置に界磁部位の軸方向中央部Prが位置するように配置した。これにより、ロータ33は、皿ばね35により常に基準位置に位置するように付勢されることになり、磁力による移動力の発生に伴って、移動力の大きさや所定距離に応じた振幅で振動することになる。
【0042】
さらに、送りねじ装置1は、送り動作中における摩擦力を低減するために、ロータ33を回転駆動させた時に発生するコギングトルクを利用して、ロータ33に周期的な移動力を発生させる構成とした。これにより、送りねじ装置1は、ロータ33の回転に伴ってロータ33を振動させて、軸部材10の雄ねじ11を加振することができる。
【0043】
また、送りねじ装置1は、静止中における摩擦力を低減するために、ステータ32に供給する電流値を変動させることにより軸方向の移動力を発生させる構成とした。送りねじ装置1は、移動体2を設置されたナット部材20の軸方向位置を保持するために、ステータ32に電流を供給してロータ33を所定位相に維持している。そして、ロータ33を所定位相に維持させるために必要な最小の電流値を上回る範囲でステータ32に供給する電流値を変動させると、ロータ33は、軸方向への移動力の変動に伴い、回転しない状態で軸方向に振動することになる。これにより、送りねじ装置1は、軸部材10の雄ねじ11を加振し、静止摩擦力を低減することができる。
【0044】
<実施形態の変形態様>
続いて、実施形態の変形態様について説明する。本実施形態において、駆動装置30は、ステータ32およびロータ33によりラジアルモータを構成するものとした。これに対して、例えば、図9に示すように、アキシャルモータを構成するようにしてもよい。より具体的には、送りねじ装置101の駆動装置130は、ステータ132と、ロータ133と、軸受34と、皿ばね135を有する。ロータ133は、ステータ132の軸方向に対向して配置され、ステータ132との間の磁力の相互作用によりステータ132に対して回転駆動する。また、ロータ133は、ステータ132との軸方向距離が変動できるように、軸受34を介してハウジング31に支持されている。
【0045】
そして、ロータ133は、回転駆動に伴い発生する移動力によって軸方向一方側へ移動する。また、ロータ133の一端には、本実施形態と同様に皿ばね135が配置され、所定の軸方向位置にロータ133が戻るように付勢される。このような構成により、本実施形態と同様に、ロータ133が軸方向への移動を周期的に繰り返すように振動し、連結された軸部材10のねじ溝を加振することができる。これにより、ねじ溝に発生する摩擦力を低減することができる。
【0046】
また、本実施形態において、ナット部材20に移動体2を設置し、軸部材10の回転運動を直線運動に変換してナット部材20および移動体2を軸方向に移動させる構成とした。これに対して、軸部材10に移動体2を設置してもよい。このような場合には、ナット部材20の回転運動を直線運動に変換して軸部材10および移動体2を軸方向に移動させる構成となる。そして、駆動装置30は、ナット部材20の端部に配置され、ロータ33のシャフト33cがナット部材20の一端と連結される。このような態様においても、ナット部材20のねじ溝である雌ねじ21を加振することで、ねじ溝に発生する摩擦力を低減することができる。
【0047】
さらに、本実施形態において、弾性部材として皿ばね35を例示して説明した。その他に、弾性部材は、ステータ32とロータ33との間に作用する磁力によってロータ33に作用する移動力の軸方向とは反対の方向に付勢力を発揮するものであれば、皿ばねに限らず種々のばね部材などを適用することが可能である。このような態様においては、振動の振幅や周波数に影響するものであるが、本実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0048】
1,101:送りねじ装置、 2:移動体
10:軸部材、 11:雄ねじ(ねじ溝)
20:ナット部材、 21:雌ねじ(ねじ溝)
30,130:駆動装置、 31:ハウジング、
32,132:ステータ、 32a:ステータコア、 32b:コイル
33,133:ロータ、 33a:ロータコア、 33b:永久磁石
33c:シャフト、 34:軸受、 35,135:皿ばね(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝が形成された軸部材と、
内周面に前記軸部材の前記ねじ溝と噛み合うねじ溝が形成されたナット部材と、
ハウジングに固定されたステータと、
前記ステータとの間の磁力の相互作用により前記ステータに対して回転可能に且つ軸方向移動可能に設けられるとともに、前記軸部材および前記ナット部材のうち一方部材と連結され当該一方部材と一体的に回転するロータと、
前記ステータと前記ロータとの間に作用する磁力によって前記ロータに軸方向一方側への移動力が発生した場合に、当該移動力に抗して前記ロータを軸方向他方側へ付勢する弾性部材と、を備え、
前記移動力による前記ロータの軸方向一方側への移動と、前記弾性部材の付勢力による前記ロータの軸方向他方側への移動と、が周期的に繰り返されることにより前記一方部材の前記ねじ溝を振動させる送りねじ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロータは、前記ステータの径方向に対向して配置され、
前記ステータにおけるステータコアの軸方向中央部から軸方向他方側に所定距離だけ離間した位置を基準位置として、
前記弾性部材は、前記ロータに軸方向一方側への前記移動力が発生した場合に、前記ロータにおける界磁部位の軸方向中央部を前記基準位置まで戻すように前記ロータを付勢する送りねじ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ロータを回転させた際に前記ステータに対する前記ロータの位相に応じて変動する磁力により周期的な前記移動力を発生させる送りねじ装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記ステータに対して前記ロータを所定位相に維持させるために必要な最小の電流値を上回る範囲で前記ステータまたは前記ロータに供給する電流値を変動させることにより前記移動力を発生させる送りねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−96477(P2013−96477A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238709(P2011−238709)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】