説明

送信電力制御装置及び送信電力制御方法

【課題】送信電力の安定化までの時間を短縮し、製品の小型化、低価格化を実現する。
【解決手段】I信号及びQ信号に擬似信号を挿入してアップサンプリング処理を行い、I信号及びQ信号を直交変調して出力信号を生成する際、RF電力アンプ回路15によって生成された出力信号をカプラ17で検出して帰還信号を生成し、その帰還信号を直交復調して帰還信号と位相が同一のI’信号及び位相が直交するQ’信号を生成し、アップサンプリングしたI信号及びQ信号の中からシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、I’信号及びQ’信号の中からシンボル近傍のI’信号及びQ’信号を抽出し、シンボル近傍のI信号及びQ信号の信号強度と、シンボル近傍のI’信号及びQ’信号の信号強度との強度差に応じて出力信号の電力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信電力制御装置及び送信電力制御方法に関する。より詳しくは、互いに直交する2つの信号を変調して送信する無線送信機における送信電力制御に関する。
【背景技術】
【0002】
PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)やASK(Amplitude Shift Keying:振幅偏移変調)等のデジタル変調を行う無線送信機においては、安定した送信電力を得るために送信電力を制御することが行われている。特に、増幅回路などを構成する半導体は温度によってその特性が変動しやすいので、変動が生じた場合でも送信電力を安定に制御する必要がある。このような無線送信機の送信電力の制御については、従来からいくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、ベースバンド信号の同相成分(I)及び直交成分(Q)を変調器で合成して変調し、可変利得増幅器で増幅した後、電力増幅器で増幅した送信電力信号を出力する際に、送信電力信号の一部をカプラによって抽出して送信電力信号の包絡線成分を検出し、その包絡線成分と基準電圧生成回路によって生成された基準電圧とを比較して、その誤差信号を可変利得増幅器にフィードバックする構成になっている(特許文献1の図2ないし図4参照)。
【0004】
また、特許文献2においては、ベースバンド信号をシリアル/パラレル変換器で同相成分(I)と直交成分(Q)とに分離し、これらを直交変調器で変調し、可変利得増幅器で増幅した後、電力増幅器で増幅した送信電力信号を出力する。この場合において、包絡線検波回路で送信電力信号の包絡線を検出し、シリアル/パラレル変換器から得られる同相成分(I)及び直交成分(Q)の包絡線信号と、補正回路で包絡線検波回路の非直線性を補正した送信電力信号の包絡線信号との誤差信号を可変利得増幅器にフィードバックする構成になっている(特許文献2の図1及び図8参照)。
【0005】
また、特許文献3においては、変調波を入力信号とする電力増幅器と、この電力増幅器に直流バイアスを供給する直流電圧変換回路と、この直流電圧変換回路の出力電圧を変調波の包絡線信号レベルより制御する方向性結合器及び包絡線検波回路と、電力増幅器の入力信号をその包絡線信号レベルと電力増幅器の出力信号の包絡線信号レベルとの差によって制御する差信号生成回路とを備えた構成になっている(特許文献3の第1図等参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−124821号公報
【特許文献2】特開平09−23125号公報
【特許文献3】特許第2689011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1ないし3においては、送信電力信号の包絡線を検出して、その包絡線信号を可変利得増幅回路などにフィードバックして電力制御を行っているので、変復調の単位であるシンボル周波数が低い場合には、送信電力がシンボル周波数に追従してしまうという問題、すなわち電力制御が送信データに依存するという問題があった。このため、フィルタ処理を強化して送信電力の変動を吸収する必要があり、フィルタ回路の規模が大きくなるとともに、フィルタ演算処理が増加することにより、送信電力の安定化までに時間がかかる上、製品の小型化や低価格化の障害になっていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、送信データに依存しない電力制御を可能にし、フィルタ演算処理が簡単な小規模のフィルタ回路を使用して、送信電力の安定化までの時間短縮を図るとともに、製品の小型化や低価格化を実現する送信電力制御装置及び送信電力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る送信電力制御装置は、信号強度及び位相のベクトルによって送信すべき情報のシンボルを表す互いに直交するI信号及びQ信号に擬似信号を挿入してアップサンプリング処理を行うサンプリング手段と、当該サンプリング手段によってアップサンプリングされたI信号及びQ信号に基づいて変調信号を生成する変調手段と、当該変調手段によって生成された変調信号の電力を増幅して出力信号を生成する電力増幅手段と、を有する送信電力制御装置であって、
前記電力増幅手段によって生成された出力信号を検出して帰還信号を生成する検出手段と、前記検出手段によって生成された帰還信号を復調して当該帰還信号と位相が同一の帰還I信号及び当該帰還信号と位相が直交する帰還Q信号を生成する復調手段と、前記サンプリング手段によってアップサンプリングされたI信号及びQ信号の中からシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出する第1の抽出手段と、前記復調手段の復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号の中からシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出する第2の抽出手段と、前記第1の抽出手段によって抽出されたI信号及びQ信号の信号強度と前記第2の抽出手段によって抽出された帰還I信号及び帰還Q信号の信号強度との強度差に応じて前記電力増幅手段によって生成される出力信号の電力を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
例えば、前記制御手段は、前記第1の抽出手段によって抽出されたI信号及びQ信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該I信号及びQ信号のスカラの信号強度を算出する第1の演算手段と、前記第2の抽出手段によって抽出された帰還I信号及び帰還Q信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該帰還I信号及び帰還Q信号のスカラの信号強度を算出する第2の演算手段と、を有してもよい。
【0011】
例えば、前記送信電力制御装置は、前記第1の抽出手段によって抽出されたI信号及びQ信号の時間軸を遅延させて前記第2の抽出手段によって抽出された帰還I信号及び帰還Q信号の時間軸に一致させる遅延手段を備えてもよい。
【0012】
例えば、前記送信電力制御装置は、前記サンプリング手段によってアップサンプリングされたI信号及びQ信号を帯域制限するフィルタ手段を備え、前記第1の抽出手段は当該フィルタ手段によって帯域制限されたI信号及びQ信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、前記第2の抽出手段は前記復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出してもよい。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る送信電力制御方法は、信号強度及び位相のベクトルによって送信すべき情報のシンボルを表す互いに直交するI信号及びQ信号に擬似信号を挿入してアップサンプリング処理を行い、アップサンプリング処理したI信号及びQ信号に基づいて変調信号を生成し、生成した変調信号の電力を増幅して出力信号を生成する送信電力制御方法であって、
前記生成した出力信号を検出して帰還信号を生成し、生成した帰還信号を復調して当該帰還信号と位相が同一の帰還I信号及び当該帰還信号と位相が直交する帰還Q信号を生成し、前記アップサンプリング処理したI信号及びQ信号の中からシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、前記復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号の中からシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出し、前記シンボル近傍のI信号及びQ信号の信号強度と前記シンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号の信号強度との強度差に応じて出力信号の電力を制御する、ことを特徴とする。
【0014】
例えば、前記シンボル近傍のI信号及びQ信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該I信号及びQ信号のスカラの信号強度を算出し、前記シンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該帰還I信号及び帰還Q信号のスカラの信号強度を算出してもよい。
【0015】
例えば、前記シンボル近傍のI信号及びQ信号の時間軸を遅延させて前記シンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号の時間軸に一致させてもよい。
【0016】
例えば、前記アップサンプリング処理したI信号及びQ信号をフィルタ処理によって帯域制限し、当該帯域制限したI信号及びQ信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、前記復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、送信電力信号の包絡線に基づかないで電力制御を行うことによって、送信データに依存しない電力制御を可能にし、フィルタ演算処理が簡単な小規模のフィルタ回路を使用して、送信電力の安定化までの時間短縮を図るとともに、製品の小型化や低価格化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態におけるπ/4シフトQPSK送信機のブロック図である。
【図2】強度及び位相を持ったベクトル信号を表すコンスタレーションを示す一般的な図である。
【図3】図1のアップサンプリング回路によってアップサンプリング後の信号を示す図である。
【図4】図1のアップサンプリング回路によってアップサンプリング後のコンスタレーションを示す図である。
【図5】図1のRRCフィルタ回路によって帯域制限された信号を示す図である。
【図6】図1のRRCフィルタ回路によって帯域制限された信号のコンスタレーションを示す図である。
【図7】図1のダウンサンプリング回路によってダウンサンプリングされた信号のコンスタレーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る送信電力制御装置及び送信電力制御方法の実施の形態について、π/4シフトQPSK送信機を例にとって図を参照して説明する。
【0020】
図1は、実施の形態における260MHz帯のπ/4シフトQPSKの送信機のブロック図である。この送信機は、送信すべき情報であるシンボルデータを互いに直交し、それぞれ「強度」と「位相」を有するベクトル信号に分解して、π/4シフトQPSK変調して送信する。すなわち、信号強度はベクトルのスカラで表され、位相はベクトルの角度で表される。
【0021】
図2は、I軸及びQ軸の極座標によって強度及び位相を持ったベクトル信号を表す一般的な図で、「コンスタレーション」と呼ばれる。例えば、任意の2つのベクトル信号は、図2の黒の矢印及び白の矢印によって表される。このように強度(スカラ)が大きく異なるベクトル信号に基づいて送信電力を制御すると、安定した送信電力を得ることができない。本実施の形態においては、従来のような大規模なフィルタ回路を使用することなく、強度が大きく異なるベクトル信号の影響を受けないように、図1の構成によって送信電力を制御する。
【0022】
図1において、シンボル・マッピング回路1は、入力されるシンボルデータに対して、ある位相を持った直交する単位ベクトルであるI軸成分のi信号及びQ軸成分のq信号にマッピングして出力する。この実施の形態においては、シンボル・マッピング回路1に入力されるシンボルデータのシンボル周波数は4.8kHzである。
【0023】
アップサンプリング回路2及び3は、シンボル・マッピング回路1から出力されるi信号及びq信号をそれぞれn倍にアップサンプリングする。この場合は、4.8kHzのシンボルデータを20倍(n=20)にアップサンプリングして、96kHzのサンプリングi信号及びサンプリングq信号を生成する。
【0024】
図3はアップサンプリング回路2及び3によるアップサンプリング後の信号を示す図である。図3(A)はアップサンプリング後のi信号であり、図3(B)はアップサンプリング後のq信号である。図4は、アップサンプリング後のコンスタレーションを示す図である。図3に示すように、アップサンプリングにおいては、実際の各シンボルデータの間に特定の擬似信号、すなわちi信号及びq信号のスカラが「0」のデータを「n−1」(この場合は「19」)個挿入してn倍のアップサンプリングを行う。図4において、I軸及びQ軸でスカラがともに「0」である座標(0.0)の白丸マークがこの場合の擬似信号を表している。
【0025】
RRC(ルート・レイズド・コサイン)フィルタ回路4及び5は、図3及び図4におけるi信号及びq信号、すなわちアップサンプリング回路2及び3から出力されるi信号及びq信号の周波数帯域を制限してベースバンド信号であるI信号及びQ信号を出力する。
【0026】
図5は、RRCフィルタ回路4及び5によって帯域制限されたI信号及びQ信号を示す図である。図5(A)において、IS1はアップサンプリング回路2からRRCフィルタ回路4に入力される帯域制限前のi信号であり、IS2はRRCフィルタ回路4で帯域制限されたベースバンドのI信号である。図5(B)において、QS1はアップサンプリング回路3からRRCフィルタ回路5に入力される帯域制限前のq信号であり、QS2はRRCフィルタ回路5で帯域制限されたベースバンドのQ信号である。また、図6は、RRCフィルタ回路4及び5によって帯域制限されたI信号及びQ信号のコンスタレーションを示す図である。
【0027】
ベースバンド・アンプ回路6及び7は、それぞれRRCフィルタ回路4及び5によって帯域制限されたI信号及びQ信号をトランジスタなどの半導体素子のスイッチング動作により増幅して出力する。この場合において、ベースバンド・アンプ回路6及び7は、アナログアンプ回路のようなバイアス電圧を必要とすることなく増幅を行う。
【0028】
D/Aコンバータ回路8は、ベースバンド・アンプ回路6及び7によって増幅されたI信号及びQ信号をデジタルからアナログに変換して出力する。
【0029】
直交変調器9は、2つのミキサ回路10、11、及び合成回路12などで構成されている。RF(高周波)周波数発振器13は、変調用のキャリア(搬送波)信号を発生して直交変調器9のミキサ回路10及び位相器14に入力する。位相器14は、入力されるキャリア信号の位相をπ/2すなわち90°シフトして直交変調器9のミキサ回路11に入力する。ミキサ回路10は、D/Aコンバータ回路8から出力されたI信号とRF周波数発振器13から出力されたキャリア信号とをミキシングして合成回路12に入力する。ミキサ回路11は、D/Aコンバータ回路8から出力されたQ信号と位相器14から出力された90°シフトのキャリア信号とをミキシングして合成回路12に入力する。合成回路12は、I信号で変調されたキャリア信号とQ信号で変調された90°シフトのキャリア信号とを合成する。この結果、直交変調器9は、シンボルデータ及び各シンボルデータ間に挿入された19個の擬似信号で直交変調された変調信号を出力する。
【0030】
RF(高周波)電力アンプ回路15は、直交変調器9から出力された変調信号の電力を予め設定されている増幅率に基づいて増幅して、送信信号としてアンテナ16から送信させる。
【0031】
方向性結合器であるカプラ17は、RF電力アンプ回路15とアンテナ16との間の伝送路において、送信信号の一部をリアクタンス結合によって取得することで送信信号の電力を検出する。以下、カプラ17によって検出された信号を「帰還信号」という。
【0032】
直交復調器18は、2つのミキサ回路19及び20などで構成されている。RF周波数発振器13は、復調用のローカル(局発)信号を発生して直交復調器18のミキサ回路19及び位相器21に入力する。位相器21は、入力されるローカル信号の位相をπ/2すなわち90°シフトして直交復調器18のミキサ回路20に入力する。ミキサ回路19は、カプラ17から得られる帰還信号とRF周波数発振器13から出力されたローカル信号とをミキシングして、送信信号と位相が同一の帰還I信号(以下、「I’信号」という)を生成(復調)する。ミキサ回路20は、カプラ17から得られる帰還信号と位相器21から出力された90°シフトのローカル信号とをミキシングして、送信信号と位相が90°シフトした帰還Q信号(以下、「Q’信号」という)を生成(復調)する。この結果、直交復調器18は、カプラ17から得られる送信信号の一部である帰還信号をI成分とQ成分とに分離して復調し、それぞれの復調信号としてI’信号及びQ’信号を出力する。
【0033】
A/Dコンバータ回路22は、直交復調器18から出力されたI’信号及びQ’信号をアナログからデジタルに変換して出力する。
【0034】
ダウンサンプリング回路23及び24は、A/Dコンバータ回路22から出力されたデジタルのI’信号及びQ’信号をダウンサンプリングする。上記したように、送信信号によって送信されるデータは、本来の送信すべきシンボルデータのほかに「0」の値の擬似信号が含まれてアップサンプリングされている。このため、I’信号及びQ’信号をダウンサンプリングすることによって、擬似信号を間引きして、シンボル近傍のI’信号及びQ’信号のみを抽出する。
【0035】
出力制御アンプ25及び26は、RRCフィルタ回路4及び5によって帯域制限されたベースバンドのI信号及びQ信号を増幅して出力する。この場合にも、ベースバンド・アンプ回路6及び7と同様に、トランジスタなどの半導体素子のスイッチング動作によりバイアス電圧を必要とすることなく増幅する。
【0036】
遅延回路27は、出力制御アンプ25及び26から出力されたI信号及びQ信号を所定時間遅延させて出力する。この遅延させる所定時間は、RRCフィルタ回路4及び5、D/Aコンバータ回路8、A/Dコンバータ回路22、及びその他のハードウェアや配線を含む伝送路の影響による遅延時間に相当するものである。すなわち、この遅延回路27によって、RRCフィルタ回路4及び5から出力されたI信号及びQ信号の時間軸を遅延させて、I’信号及びQ’信号の時間軸に一致させる。
【0037】
ダウンサンプリング回路28及び29は、遅延回路27から出力されたI信号及びQ信号をダウンサンプリングする。この場合も、遅延回路27から出力されたI信号及びQ信号には、本来の送信すべきシンボルデータのほかに「0」の値の擬似信号が含まれてアップサンプリングされているので、I信号及びQ信号をダウンサンプリングすることによって、擬似信号を間引きして、シンボル近傍のI信号及びQ信号のみを抽出する。
【0038】
図7は、ダウンサンプリングされた信号のコンスタレーションを示す図である。図7において、白丸マークがシンボル点を表している。ダウンサンプリングする前のコンスタレーションである図6の場合には、ベクトルの大きさ(スカラ)が大きく変動しているが、図7の場合にはシンボル点の近傍にベクトルのスカラが集中しているのが分かる。例えば、図7において、任意の2つのベクトルを黒の矢印と白の矢印で表すとこれらのスカラはほぼ同じ大きさになる。また、図6のコンスタレーションにおいてI軸及びQ軸の座標(0,0)のスカラが0の白丸マークである疑似信号は、ダウンサンプリングによって間引きされて、図7のコンスタレーションから消去されている。
【0039】
スカラ演算回路30は、ダウンサンプリング回路23及び24によってダウンサンプリングされたI’信号及びQ’信号のベクトルの大きさを演算する。一方、スカラ演算回路31は、ダウンサンプリング回路28及び29によってダウンサンプリングされたI信号及びQ信号のベクトルの大きさを演算する。
【0040】
スカラ演算回路30においては、I’信号及びQ’信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して、下記の演算式によって相加平均の平方根としてスカラを算出する。同様に、スカラ演算回路31においては、I信号及びQ信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して、下記の演算式によって相加平均の平方根としてスカラを算出する。
【数1】

【0041】
差動アンプ回路32は、スカラ演算回路30によって算出されたスカラ(信号強度)とスカラ演算回路31によって算出されたスカラ(信号強度)との差分を増幅して、その差信号(強度差)をローパス・フィルタ回路33に出力する。
【0042】
ローパス・フィルタ回路33は、差信号に含まれている帯域外ノイズ成分を除去して、ベースバンド利得のフィードバック信号としてベースバンド・アンプ回路6及び7に入力する。帯域外ノイズ成分は、隣接漏洩電力の増加を招くのでローパス・フィルタ回路33によって除去しなければならないが、ノイズ成分が帯域外であるのでフィルタ特性を急峻にする必要はない。したがって、ローパス・フィルタ回路33の遅延が軽減され、送信電力制御の高速化を図ることができる。
【0043】
上記したように、I’信号及びQ’信号のベクトルは伝送路の影響を受けて遅延するので、I’信号及びQ’信号の位相とI信号及びQ信号の位相とは異なっている。しかし、I’信号及びQ’信号のスカラとI信号及びQ信号のスカラのみを比較して送信電力を制御するので、I’信号及びQ’信号の位相とI信号及びQ信号の位相とを合わせる必要はない。
【0044】
このように、上記実施の形態においては、信号強度及び位相のベクトルによって送信すべき情報のシンボルを表す互いに直交するI信号及びQ信号に擬似信号を挿入してアップサンプリング処理を行い、アップサンプリング処理したI信号及びQ信号を直交変調して出力信号を生成する場合において、RF電力アンプ回路15によって生成された出力信号をカプラ17によって検出して帰還信号を生成し、その帰還信号を直交復調して帰還信号と位相が同一のI’信号及び帰還信号と位相が直交するQ’信号を生成し、アップサンプリングしたI信号及びQ信号の中からシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、I’信号及びQ’信号の中からシンボル近傍のI’信号及びQ’信号を抽出し、シンボル近傍のI信号及びQ信号の信号強度と、シンボル近傍のI’信号及びQ’信号の信号強度との強度差に応じて出力信号の電力を制御する。
【0045】
したがって、送信電力信号の包絡線に基づかないで電力制御を行うことによって、送信データに依存しない電力制御を可能にし、フィルタ演算処理が簡単な小規模のフィルタ回路を使用して、送信電力の安定化までの時間短縮を図るとともに、製品の小型化や低価格化を実現できる。
【0046】
さらに、上記実施の形態において、シンボル近傍のI信号及びQ信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して、I信号及びQ信号のスカラの信号強度を算出し、シンボル近傍のI’信号及びQ’信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して、I’信号及びQ’信号のスカラの信号強度を算出するので、I’信号及びQ’信号の位相とI信号及びQ信号の位相とを合わせる必要がなく、位相を合わせるための複雑な回路を使用することがない。したがって、装置をよりいっそう小型化及び低価格化できる。
【0047】
また、上記実施の形態において、シンボル近傍のI信号及びQ信号の時間軸を遅延させて、シンボル近傍のI’信号及びQ’信号の時間軸に一致させるので、フィードバック・ループの遅延をなくすことで、フィードバック・ループの遅延誤差をなくして送信電力の制御を高い精度で行うことができる。
【0048】
なお、上記実施の形態は本発明を説明するためのものであり、本発明は上記実施の形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、当業者によって考えられる他の実施の形態や変形例についても本発明に属するものである。
【0049】
例えば、図1において、アップサンプリング回路2及び3はサンプリング手段に対応し、フィルタ手段はRRCフィルタ回路4、5に対応し、変調手段は直交変調器9に対応し、検出手段はカプラ17に対応し、復調手段は直交復調器18に対応し、第1の抽出手段はダウンサンプリング回路28及び29に対応し、第2の抽出手段はダウンサンプリング回路23及び24に対応し、遅延手段は遅延回路27に対応し、制御手段はスカラ演算回路30、31、差動アンプ回路32、及びローパス・フィルタ回路33に対応する。しかし、本発明はこのような対応関係に限定されるものではない。D/Aコンバータ回路8や位相器14を変調手段の中に含める構成にしてもよいし、A/Dコンバータ回路22や位相器21を復調手段の中に含める構成にしてもよい。また、カプラ17以外にも種々の公知の検出手段を適用することができる。
【0050】
また、上記実施の形態においては、シンボル近傍の信号を抽出するために、ダウンサンプリング処理を行う構成にしたが、図6から明らかなように、信号のベクトルのスカラはシンボル近傍に集まっているので、スカラの分布を検出して、検出した分布の最大値におけるスカラを抽出する構成にしてもよい。
【0051】
また、上記実施の形態においては、互いに直交する2つの信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を算出し、上記の演算数によって相加平均の平方根を演算してベースバンド・アンプ回路6及び7へのフィードバック信号としたが、相加平均の平方根を演算せずにベースバンド・アンプ回路6及び7へのフィードバック信号としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 シンボル・マッピング回路
2,3 アップサンプリング回路
4,5 RRCフィルタ回路
6,7 ベースバンド・アンプ回路
9 直交変調器
15 RF電力アンプ回路
18 直交復調器
23,24,28,29 ダウンサンプリング回路
27 遅延回路
30,31 スカラ演算回路
32 差動アンプ回路
33 ローパス・フィルタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号強度及び位相のベクトルによって送信すべき情報のシンボルを表す互いに直交するI信号及びQ信号に擬似信号を挿入してアップサンプリング処理を行うサンプリング手段と、当該サンプリング手段によってアップサンプリングされたI信号及びQ信号に基づいて変調信号を生成する変調手段と、当該変調手段によって生成された変調信号の電力を増幅して出力信号を生成する電力増幅手段と、を有する送信電力制御装置であって、
前記電力増幅手段によって生成された出力信号を検出して帰還信号を生成する検出手段と、
前記検出手段によって生成された帰還信号を復調して当該帰還信号と位相が同一の帰還I信号及び当該帰還信号と位相が直交する帰還Q信号を生成する復調手段と、
前記サンプリング手段によってアップサンプリングされたI信号及びQ信号の中からシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出する第1の抽出手段と、
前記復調手段の復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号の中からシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出する第2の抽出手段と、
前記第1の抽出手段によって抽出されたI信号及びQ信号の信号強度と前記第2の抽出手段によって抽出された帰還I信号及び帰還Q信号の信号強度との強度差に応じて前記電力増幅手段によって生成される出力信号の電力を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする送信電力制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第1の抽出手段によって抽出されたI信号及びQ信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該I信号及びQ信号のスカラの信号強度を算出する第1の演算手段と、
前記第2の抽出手段によって抽出された帰還I信号及び帰還Q信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該帰還I信号及び帰還Q信号のスカラの信号強度を算出する第2の演算手段と、
を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の送信電力制御装置。
【請求項3】
前記第1の抽出手段によって抽出されたI信号及びQ信号の時間軸を遅延させて前記第2の抽出手段によって抽出された帰還I信号及び帰還Q信号の時間軸に一致させる遅延手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の送信電力制御装置。
【請求項4】
前記サンプリング手段によってアップサンプリングされたI信号及びQ信号を帯域制限するフィルタ手段を備え、
前記第1の抽出手段は当該フィルタ手段によって帯域制限されたI信号及びQ信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、
前記第2の抽出手段は前記復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送信電力制御装置。
【請求項5】
信号強度及び位相のベクトルによって送信すべき情報のシンボルを表す互いに直交するI信号及びQ信号に擬似信号を挿入してアップサンプリング処理を行い、アップサンプリング処理したI信号及びQ信号に基づいて変調信号を生成し、生成した変調信号の電力を増幅して出力信号を生成する送信電力制御方法であって、
生成した出力信号を検出して帰還信号を生成し、
前記生成した帰還信号を復調して当該帰還信号と位相が同一の帰還I信号及び当該帰還信号と位相が直交する帰還Q信号を生成し、
前記アップサンプリング処理したI信号及びQ信号の中からシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、
前記復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号の中からシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出し、
前記シンボル近傍のI信号及びQ信号の信号強度と前記シンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号の信号強度との強度差に応じて出力信号の電力を制御する、ことを特徴とする送信電力制御方法。
【請求項6】
前記シンボル近傍のI信号及びQ信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該I信号及びQ信号のスカラの信号強度を算出し、前記シンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号のそれぞれの振幅の二乗値の相加平均を演算して当該帰還I信号及び帰還Q信号のスカラの信号強度を算出することを特徴とする請求項5に記載の送信電力制御方法。
【請求項7】
前記シンボル近傍のI信号及びQ信号の時間軸を遅延させて前記シンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号の時間軸に一致させることを特徴とする請求項5又は6に記載の送信電力制御方法。
【請求項8】
前記アップサンプリング処理したI信号及びQ信号をフィルタ処理によって帯域制限し、当該帯域制限したI信号及びQ信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍のI信号及びQ信号を抽出し、前記復調に基づいて得られる帰還I信号及び帰還Q信号に対してダウンサンプリング処理を行ってシンボル近傍の帰還I信号及び帰還Q信号を抽出する、ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の送信電力制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate