説明

送受信アンテナとそれを用いた送受信装置

【課題】消費電力を増大させることなく、周波数特性の広帯域化を図ることができるようにする。
【解決手段】磁性体11と、この磁性体に設けられた励振用ループアンテナ12と、この励振用ループアンテナと非接触状態で近接配置された送受信用ループアンテナ13と、この送受信用ループアンテナの両端に接続された共振用コンデンサ14と、を有し、磁性体は、基板21に固着される台座部22と、この台座部から中心軸が基板に略直交するように突出した柱状部23と、を備え、励振用ループアンテナは1回巻きのループ部12aを有し、送受信用ループアンテナは複数回巻きのループ部13aを有し、これらの励振用ループアンテナおよび送受信用ループアンテナが、磁性体の柱状部に同軸的に巻き付けられた態様で設けられたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグや非接触ICカードなどの無線通信媒体に電力を供給するとともにその無線通信媒体との間で信号を送受信する送受信アンテナとそれを用いた送受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物流システム、交通システム、商品管理システム、書籍管理システム、個人認証システム、および電子マネーシステムなどにおいて、ICタグや非接触ICカードなどの無線通信媒体を用いて、物品の識別や個人認証などを行う技術が広く普及している。このような無線通信媒体を利用したシステムでは、無線通信媒体に電力を供給するとともにその無線通信媒体との間で信号を送受信する送受信装置が用いられているが、種類が異なるシステムの無線通信媒体との通信を1台の送受信装置で共用することができると都合がよい。
【0003】
ところが、システムの種類が異なると、無線通信媒体の通信方式も異なる場合があり、この場合、送受信装置との間での通信で用いられる帯域幅も異なることがあるため、送受信装置において周波数特性の広帯域化が望まれる。そこで、このような要望にこたえるべく、送受信アンテナの送受信経路に介在させた複数の抵抗体(抵抗値)を順次切り換えることで周波数特性の広帯域化を図るようにした技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−199871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術では、送受信アンテナの送受信経路に常時抵抗体が介在する結果として、抵抗体による電力損失が生じて、消費電力を大きくしてしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、消費電力を増大させることなく、周波数特性の広帯域化を図ることができるように構成された送受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の送受信アンテナは、磁性体と、この磁性体に設けられた励振用ループアンテナと、この励振用ループアンテナと非接触状態で近接配置された送受信用ループアンテナと、この送受信用ループアンテナの両端に接続された共振用コンデンサと、を有し、前記磁性体は、基板に固着される台座部と、この台座部から中心軸が前記基板に略直交するように突出した柱状部と、を備え、前記励振用ループアンテナは1回巻きのループ部を有し、前記送受信用ループアンテナは複数回巻きのループ部を有し、これらの励振用ループアンテナおよび送受信用ループアンテナが、前記磁性体の柱状部に同軸的に巻き付けられた態様で設けられた構成とする。
【0008】
また、本発明の送受信装置は、前記のように構成された送受信アンテナと、この送受信アンテナに送信信号を出力する送信処理部と、前記送受信アンテナからの受信信号が入力される受信処理部と、前記送信処理部および前記受信処理部を制御する制御部と、を有し、前記励振用ループアンテナが前記送信処理部に接続され、前記送受信用ループアンテナが前記受信処理部と接続された構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、消費電力を増大させることなく、周波数特性の広帯域化を図ることができ、通信方式が異なる別のシステムの無線通信媒体との通信を1台の送受信装置で対応することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態にかかる送受信装置が適用された送受信システムを示す全体構成図
【図2】送受信アンテナ4を示す斜視図
【図3】送受信アンテナ4の分解斜視図
【図4】基板21の要部斜視図
【図5】送信時に励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13に生じる電流の状態を示す斜視図
【図6】送受信アンテナ4をトランス回路を用いて表現した等価回路を示す図
【図7】送受信アンテナ4をコイルを用いて表現した等価回路を示す図
【図8】励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kと、励振用ループアンテナ12に流れる一次側電流I1の周波数特性との関係を示す図
【図9】励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kと、送受信用ループアンテナ13に流れる二次側電流I2の周波数特性との関係を示す図
【図10】励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kに応じた送信出力および受信感度の周波数特性を示す図
【図11】結合係数K=0.7の場合の周波数特性と、抵抗Rを用いて周波数特性の広帯域化を図った従来例による周波数特性とを示す図
【図12】励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kに関する通信総合評価を示す図
【図13】送受信装置2の要部模式図
【図14】送受信アンテナ4を携帯電話装置51に適用した例を示す斜視図
【図15】携帯電話装置51の分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、磁性体と、この磁性体に設けられた励振用ループアンテナと、この励振用ループアンテナと非接触状態で近接配置された送受信用ループアンテナと、この送受信用ループアンテナの両端に接続された共振用コンデンサと、を有し、前記磁性体は、基板に固着される台座部と、この台座部から中心軸が前記基板に略直交するように突出した柱状部と、を備え、前記励振用ループアンテナは1回巻きのループ部を有し、前記送受信用ループアンテナは複数回巻きのループ部を有し、これらの励振用ループアンテナおよび送受信用ループアンテナが、前記磁性体の柱状部に同軸的に巻き付けられた態様で設けられた構成とする。
【0012】
これによると、送信信号が励振用ループアンテナに入力されると、その送信信号が磁気誘導により励振用ループアンテナから送受信用ループアンテナに伝達され、このとき送信信号が増幅されて送受信用ループアンテナから出力される。
【0013】
この構成により、励振用ループアンテナと送受信用ループアンテナとを近接配置して、励振用ループアンテナと送受信用ループアンテナとの結合係数を比較的大きく設定することで、周波数特性の広帯域化を図ることができる。また、周波数特性の広帯域化のために送受信アンテナの送受信経路に抵抗体を介在させる必要がないため、消費電力が増大することを避けることができる。
【0014】
特に、励振用ループアンテナおよび送受信用ループアンテナにそれぞれ流れる電流が互いに逆向きとなるため、励振用ループアンテナに流れる電流で生じる磁束が、送受信用ループアンテナに流れる電流で生じる磁束を弱めるように作用するが、送受信用ループアンテナを複数回のループを有する構成とする一方で、励振用ループアンテナを1回巻きのループを有する構成とすることで、送受信用ループアンテナの磁束が弱められることを抑制することができ、これにより、励振用ループアンテナの送信パワーを高めなくても、送受信用ループアンテナから十分な強度の送信信号が出力されるため、消費電力を低く抑えることができる。
【0015】
また、第2の発明は、前記第1の発明において、前記励振用ループアンテナは、前記台座部に近接した前記柱状部の基部側に配置され、前記送受信用ループアンテナは、前記台座部から離反した前記柱状部の先端側に配置された構成とする。
【0016】
これによると、送受信用ループアンテナによる信号の送信および無線通信媒体からの信号の受信を能率よく行うことができる。
【0017】
また、第3の発明は、前記第1若しくは第2の発明において、前記磁性体の台座部は、前記励振用ループアンテナおよび前記送受信用ループアンテナより大径に形成された構成とする。
【0018】
これによると、基板側、特に基板を挟んで送受信アンテナと相反する側に配置された部品による磁気的な影響を抑えることができる。
【0019】
また、第4の発明は、前記第1乃至第3の発明において、前記励振用ループアンテナのインダクタンス値L1と、前記送受信用ループアンテナのインダクタンス値L2とが、L2≧10×L1の条件を満足するように設定された構成とする。
【0020】
これによると、励振用ループアンテナの磁束により送受信用ループアンテナの磁束が弱められることを十分に抑制して、送受信用ループアンテナから出力される送信信号の強度を高めることができるため、消費電力を低く抑えることができる。
【0021】
また、第5の発明は、前記第1乃至第4の発明において、前記励振用ループアンテナと前記送受信用ループアンテナとの間の相互誘導による電磁結合の結合係数Kが0.5から0.7の範囲に収まるように設定された構成とする。
【0022】
これによると、送信性能と受信性能とを両立させた高い総合通信性能を実現することができる。
【0023】
また、第6の発明は、前記第1乃至第5の発明にかかる送受信アンテナと、この送受信アンテナに送信信号を出力する送信処理部と、前記送受信アンテナからの受信信号が入力される受信処理部と、前記送信処理部および前記受信処理部を制御する制御部と、を有し、前記励振用ループアンテナが前記送信処理部に接続され、前記送受信用ループアンテナが前記受信処理部と接続された構成とする。
【0024】
これによると、前記と同様の理由により、消費電力を増大させることなく、周波数特性の広帯域化を図ることができる。
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態にかかる送受信装置が適用された送受信システムを示す全体構成図である。この送受信システムは、物流システム、交通システム、商品管理システム、書籍管理システム、および個人認証システム等に活用されるものであり、無線通信媒体1と、この無線通信媒体1に電力を供給するとともに、その無線通信媒体1との間で信号を送受信する送受信装置2とを有している。
【0027】
無線通信媒体1は、商品や書籍に貼付されたICタグや、個人認証等に用いられる非接触ICカード等の周知のものであり、その詳しい説明は省略するが、送受信用ループアンテナ3と、それに接続された制御IC(図示せず)により構成されており、例えば13.56MHzの周波数帯を利用して送受信装置2との間で通信を行う。
【0028】
送受信装置2は、送受信アンテナ4と、この送受信アンテナ4に接続されたリーダライタ装置5と、このリーダライタ装置5に接続された制御装置6とにより構成され、制御装置6はネットワーク回線7に接続されている。リーダライタ装置5は、送受信アンテナ4に送信信号を出力する送信処理部8と、送受信アンテナ4からの受信信号が入力される受信処理部9と、送信処理部8および受信処理部9を制御する制御部10とにより構成され、制御部10は制御装置6に接続されている。
【0029】
送受信アンテナ4は、磁性体11と、この磁性体11に互いに非接触状態で近接配置された励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13と、この送受信用ループアンテナ13の両端に接続された共振用コンデンサ14と、を備えた構成となっている。
【0030】
励振用ループアンテナ12には、フィルタ回路17を介してリーダライタ装置5の送信処理部8が接続され、また送受信用ループアンテナ13には、フィルタ回路18を介してリーダライタ装置5の受信処理部9が接続されている。
【0031】
また、この送受信装置2においては、送受信用ループアンテナ13で受信した信号を受信処理部9に導く受信信号路上にカップリングコンデンサ19が設けられている。特にここでは、フィルタ回路18と受信処理部9との間にカップリングコンデンサ19が設けられている。
【0032】
この送受信装置2においては、送信処理部8からの送信信号が、フィルタ回路17を介して励振用ループアンテナ12に入力され、これに応じて励振用ループアンテナ12に生じる電流による磁気誘導で、送信信号が励振用ループアンテナ12から送受信用ループアンテナ13に伝達されて、この送受信用ループアンテナ13から送信信号が無線通信媒体1に送信される。無線通信媒体1では、送受信用ループアンテナ13からの送信信号を送受信用ループアンテナ3で受信し、これにより受信と電力供給が行われる。
【0033】
一方、無線通信媒体1からの送信信号は、送受信用ループアンテナ13で受信され、その受信信号が、フィルタ回路18とカップリングコンデンサ19を介して受信処理部9に入力される。
【0034】
図2は、送受信アンテナ4を示す斜視図である。送受信アンテナ4を構成する磁性体11は、基板21に固着される台座部22と、この台座部22から中心軸が基板21に略直交するように突出した柱状部23と、を備えている。台座部22は円板状に形成されている。柱状部23は円柱状に形成されている。
【0035】
励振用ループアンテナ12は1回巻きの円形状のループ部12aを有し、送受信用ループアンテナ13は複数回(ここでは4回)巻きの円形状のループ部13aを有し、これらの励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13が、磁性体11の柱状部23の外面に同軸的に巻き付けられた態様で設けられている。
【0036】
励振用ループアンテナ12は、台座部22に近接した柱状部23の基部側に配置され、送受信用ループアンテナ13は、台座部22から離反した柱状部23の先端側に配置されている。これにより、送受信用ループアンテナ13による信号の送信および無線通信媒体1からの信号の受信を能率よく行うことができる。
【0037】
磁性体11の台座部22は、励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13より大径に形成されている。これにより、基板21側、特に基板21を挟んで送受信アンテナ4と相反する側に配置された部品による磁気的な影響を抑えることができる。
【0038】
図3は、送受信アンテナ4の分解斜視図である。磁性体11の柱状部23には、励振用ループアンテナ12のループ部12aおよび送受信用ループアンテナ13のループ部13aがそれぞれ巻き付けられる位置に沿って溝31,32が形成されている。これにより、励振用ループアンテナ12のループ部12aおよび送受信用ループアンテナ13のループ部13aを確実に位置決めすることができる。
【0039】
励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13は、磁性体11の台座部22の裏面側を通って各々の末端(接続端子)12b,13bが台座部22の外周側に引き出されるように配設されいる。具体的には、磁性体11の台座部22に、励振用ループアンテナ12の引出部12cおよび送受信用ループアンテナ13の引出部13cがそれぞれ挿通される4つの孔35が並んで形成されており、台座部22の裏面側には、励振用ループアンテナ12の引出部12cおよび送受信用ループアンテナ13の引出部13cがそれぞれ嵌り込む4つの溝36が互いに平行に形成されている。これにより、励振用ループアンテナ12の引出部12cおよび送受信用ループアンテナ13の引出部13cを確実に位置決めすることができる。
【0040】
磁性体11は、励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13が巻き付けられた上で、接着剤や両面テープなどを用いて基板21に固着される(図2参照)。
【0041】
図4は、基板21の要部斜視図である。基板21には、励振用ループアンテナ12の末端12bおよび送受信用ループアンテナ13の末端13bがそれぞれ接続される4つの銅箔パターン41〜44が形成されている。励振用ループアンテナ12の末端12bが接続される2つの銅箔パターン41,42は、磁性体11の台座部22から離反する向きに延出されており、ここに基板21上に実装されたフィルタ回路17(図1参照)が接続される。
【0042】
送受信用ループアンテナ13の末端13bが接続される2つの銅箔パターン43,44には共振用コンデンサ14が接続されており、この2つの銅箔パターン43,44の一方43は、銅箔パターン41との干渉を避けるために一旦磁性体11の台座部22に近接する向きに延出された後、U字形状に湾曲して磁性体11の台座部22から離反する向きに延出されており、ここに基板21上に実装されたフィルタ回路18(図1参照)が接続される。
【0043】
図5は、送信時に励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13に生じる電流の状態を示す斜視図である。送信時に、送信信号が励振用ループアンテナ12の末端(接続端子)12bに入力されると、励振用ループアンテナ12に実線矢印で示すように電流I1が生じ、これに応じて送受信用ループアンテナ13には磁気誘導により破線矢印で示すように励振用ループアンテナ12の電流I1と逆向きの電流I2が生じ、これにより送信信号が増幅されて送受信用ループアンテナ13から出力される。
【0044】
次に、送受信アンテナ4の特性について等価回路を用いて説明する。図6は、送受信アンテナ4をトランス回路を用いて表現した等価回路を示す図である。図7は、送受信アンテナ4をコイルを用いて表現した等価回路を示す図である。
【0045】
励振用ループアンテナ12が有するインダクタンス値L1と、送受信用ループアンテナ13が有するインダクタンス値L2との間には、電磁結合による相互誘導Mが存在する。相互誘導Mとインダクタンス値L1およびインダクタンス値L2との間には次式が成り立つ。
M=K×√(L1×L2) (式1)
ここで、結合係数Kは、0≦K≦1の範囲の値となる。式1より明らかなように、結合係数Kが大きい程、相互誘導Mの値は大きくなる。
【0046】
ここで、励振用ループアンテナ12に一次側電流I1が流れると、この一次側電流I1により生じる磁束により、相互誘導Mを介して、送受信用ループアンテナ13の開放端に誘起電圧V2が生じる。送受信用ループアンテナ13の開放端には共振用コンデンサ14(C1)が接続されているため、インダクタンスL2とコンデンサC1からなる閉回路に二次側電流I2が流れる。
【0047】
図8は、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kと、励振用ループアンテナ12に流れる一次側電流I1の周波数特性との関係を示す図である。図9は、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kと、送受信用ループアンテナ13に流れる二次側電流I2の周波数特性との関係を示す図である。
【0048】
図8から明らかなように、一次側電流I1は共振周波数fo(ここでは、13.56MHz)でピーク値(最小値)をとり、結合係数Kの値が0.1から1.0に向けて大きくなるのに応じて、一次側電流I1のピーク値が小さくなり、これに伴って一次側電流I1の値が全帯域で小さくなっており、特に共振周波数foから離れた周波数でも一次側電流I1の値が小さくなっており、周波数帯域が広がっていることが分かる。
【0049】
また、図9から明らかなように、二次側電流I2は共振周波数foでピーク値(最大値)をとり、この二次側電流I2のピーク値と、その近傍の周波数での二次側電流I2の値は、結合係数Kの値が0.1から0.4の範囲で、結合係数Kの値が大きくなるのに応じて大きくなるが、結合係数Kの値が0.4を超えると逆に小さくなる。一方、共振周波数foから離れた周波数帯での二次側電流I2の値は、結合係数Kの値が0.1から1.0に向けて大きくなるのに応じて一様に大きくなっており、周波数帯域が広がっていることが分かる。
【0050】
次に、励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13から発生する磁束(磁界強度)について説明する。一般的にコイル導体を流れる電流Iにより発生する磁界強度Hとコイル導体のインダクタンスLとは次式の関係を有している。
H∝L×I (式2)
すなわち、磁界強度Hはインダクタンス値Lとコイル導体を流れる電流Iの積に比例する。
【0051】
したがって、共振周波数foおいて、励振用ループアンテナ12に流れる一次側電流I1により発生する磁界強度H1は、励振用ループアンテナ12のインダクタンス値L1と一次側電流I1の積に比例する。同様に、送受信用ループアンテナ13に流れる二次側電流I2により発生する磁界強度H2は、送受信用ループアンテナ13のインダクタンス値L2と二次側電流I2の積に比例する。
【0052】
ここで、図5に示したように、励振用ループアンテナ12に流れる一次側電流I1と、送受信用ループアンテナ13に流れる二次側電流I2とは、電流の向きが逆方向となるため、励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13にそれぞれ発生する磁束の向きも逆方向となり、相殺現象が生じる。この相殺現象を考慮した送受信アンテナ4としての磁界強度Hは、送受信用ループアンテナ13の磁界強度H2から、励振用ループアンテナ12の磁界強度H1を減じた値となる。換言すると、励振用ループアンテナ12に電流が流れる結果として発生する磁束が、送受信用ループアンテナ13に電流が流れる結果として発生する磁束を弱める状態となる。
【0053】
そこで、本第1実施形態においては、送受信用ループアンテナ13を複数回のループ部13aを有する構成とする一方で、励振用ループアンテナ12を1回巻きのループ部12aを有する構成とすることで、送受信用ループアンテナ13の磁束が弱められることを抑制するようにしている。これにより、励振用ループアンテナ12からの送信パワーを高めなくても、送受信用ループアンテナ13からは十分な磁束が発生するため、消費電力を低く抑えることができる。
【0054】
本第1実施形態では、送受信用ループアンテナ13の巻き数を4としたが、この送受信用ループアンテナ13の巻き数はこれに限定されるものではなく、適宜に設定すればよいが、特に励振用ループアンテナ12のインダクタンス値L1と、送受信用ループアンテナ13のインダクタンス値L2とが、L2≧10×L1の条件を満足するように設定するとよい。
【0055】
図10は、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kに応じた送信出力および受信感度の周波数特性を示す図である。ここで、送信出力および受信感度は、図9に示した二次側電流I2の特性に、送受信用ループアンテナ13のインダクタンス値L2を乗じた値と略同一となる。図11は、結合係数K=0.7の場合の周波数特性と、抵抗Rを用いて周波数特性の広帯域化を図った従来例による周波数特性とを示す図である。
【0056】
図11に示すように、本実施形態(A線)と従来例(B線)とを比較すると、本実施形態では送信電力及び受信感度が従来例よりも高く、しかも周波数特性が広帯域であることが分かる。このように本実施形態では、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との結合係数Kを適切に設定することで、周波数特性の広帯域化を図ることができ、従来例のように送受信アンテナの送受信経路に抵抗体を介在させてはいないので、消費電力を低く抑えることができる。
【0057】
次に、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kの最適値について説明する。図12は、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との間の結合係数Kに関する通信総合評価を示す図である。ここでは、結合係数Kをパラメータとして、無線通信媒体1に信号を送信する際の送信性能をA線で、無線通信媒体1からの応答信号を受信する際の受信性能をB線で、送信性能および受信性能の双方を勘案した総合通信性能をC線でそれぞれ示している。
【0058】
送信性能(A線)は、結合係数K=0.3〜0.7の範囲で良好な結果を示しており、受信性能(B線)は、結合係数K=0.5〜0.9の範囲で良好な結果を示している。よって、送信性能および受信性能の双方を勘案した総合通信性能(C線)は、結合係数K=0.5〜0.7の範囲で最適となる。本第1実施形態の構成では、前記のように、結合係数Kが概ね0.7となることから、良好な通信性能を実現することができる。
【0059】
以上のように本第1実施形態によれば、上記の構成により、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との結合係数Kが比較的大きく設定されるため、周波数特性の広帯域化を実現することができる。また、送受信アンテナ4における磁性体11の柱状部23を、高さを低くした扁平な形状とすることで、基板21からの突出寸法を小さくすることができる。このため、例えばノート型パーソナルコンピュータや携帯情報端末、携帯電話等に搭載することも可能になる。
【0060】
次に、図13を参照して、受信信号路上に設けたカップリングコンデンサ19について説明する。図13は、送受信装置2の要部模式図である。
【0061】
送受信アンテナ4では、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13とを近接させて、磁気誘導により励振用ループアンテナ12から送受信用ループアンテナ13に送信信号を伝達して増幅するようにしている。このため、励振用ループアンテナ12から送受信用ループアンテナ13に伝達される送信信号が受信処理部9に回り込む。一方、送受信用ループアンテナ13では無線通信媒体1から送信される信号を受信し、その受信信号が受信処理部9に入力される。よって、送受信用ループアンテナ13自体は無給電であるが、送信信号と受信信号との間で大きな信号強度のレベル差が生じる。
【0062】
特に、前記のように、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13との結合係数Kを0.5から0.7の範囲とすると、受信処理部9に回り込む送信信号の信号強度が受信信号より高くなることがあり、この場合、送信信号が受信処理部9での受信信号の処理の支障となる。
【0063】
そこで、本第1実施形態では、送受信用ループアンテナ13と受信処理部9とをカップリングコンデンサ19を介して接続するようにしている。これにより、受信処理部9に回り込む送信信号の強度が低くなるため、送信信号と受信信号との干渉を抑制し、受信処理部9での受信信号の処理を正常に行うことができる。カップリングコンデンサ19には、送信信号および受信信号の周波数などの特性に基づいて、送信信号に対して高周波的に高いインピーダンスとなるような所要の容量(例えば3pF)のものが用いられる。
【0064】
以上のように構成された送受信アンテナ4は、例えば携帯電話装置に適用することができる。図14は、送受信アンテナ4を携帯電話装置51に適用した例を示す斜視図である。なお、図14では、携帯電話装置51の筐体52を透視して内部に収容された部品を示している。図15は、携帯電話装置51の分解斜視図である。
【0065】
図14および図15に示すように、携帯電話装置51の筐体52内には、送受信アンテナ4が取り付けられた基板21と、電池パック53と、磁性体シート54と、無給電ループアンテナ55と、が収容されており、筐体52の開口部が蓋体56で覆われる。
【0066】
図15に示すように、送受信アンテナ4は、磁性体11の柱状部23がその中心軸が筐体52の厚さ方向となるように配置される。無給電ループアンテナ55は、筐体52に全体に渡って均等な感度が得られるようにするものであり、送受信アンテナ4を中心にして周回する小ループ55aと、筐体52の側縁部に沿って周回する大ループ55bとを備えている。磁性体シート54は、電池パック53の金属面による磁気的な影響が無給電ループアンテナ55に及ぶことを抑えるものであり、電池パック53と無給電ループアンテナ55との間に配置されている。
【0067】
なお、前記の例では、図2に示したように、柱状部23が円柱状、すなわち断面が円形をなし、励振用ループアンテナ12および送受信用ループアンテナ13が円形状のループ部を有するものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば柱状部が角柱状、すなわち断面が方形状をなし、励振用ループアンテナおよび送受信用ループアンテナが方形状のループ部を有するものも可能である。
【0068】
また、前記の例では、柱状部23は円形の一定断面となり、励振用ループアンテナ12と送受信用ループアンテナ13とが同一径となっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、励振用ループアンテナが配設される部分と、送受信用ループアンテナが配設される部分とが異なる径となるようにしてもよい。
【0069】
すなわち、柱状部において、励振用ループアンテナが配設される部分が、送受信用ループアンテナが配設される部分より小断面で、励振用ループアンテナが送受信用ループアンテナより小径となるようにしてもよい。また、これとは逆に、励振用ループアンテナが配設される部分が、送受信用ループアンテナが配設される部分より大断面で、励振用ループアンテナが送受信用ループアンテナより大径となるようにしてもよい。この他に、柱状部は、先端側に向けて次第に拡径する形態など、種々の形態が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明にかかる送受信アンテナとそれを用いた送受信装置は、消費電力を増大させることなく、周波数特性の広帯域化を図ることができる効果を有し、ICタグや非接触ICカードなどの無線通信媒体に電力を供給するとともにその無線通信媒体との間で信号を送受信する送受信アンテナとそれを用いた送受信装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 無線通信媒体
2 送受信装置
4 送受信アンテナ
8 送信処理部
9 受信処理部
10 制御部
12 励振用ループアンテナ、12a ループ部
13 送受信用ループアンテナ、13a ループ部
14 共振用コンデンサ
22 台座部
23 柱状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体と、この磁性体に設けられた励振用ループアンテナと、この励振用ループアンテナと非接触状態で近接配置された送受信用ループアンテナと、この送受信用ループアンテナの両端に接続された共振用コンデンサと、を有し、
前記磁性体は、基板に固着される台座部と、この台座部から中心軸が前記基板に略直交するように突出した柱状部と、を備え、
前記励振用ループアンテナは1回巻きのループ部を有し、前記送受信用ループアンテナは複数回巻きのループ部を有し、これらの励振用ループアンテナおよび送受信用ループアンテナが、前記磁性体の柱状部に同軸的に巻き付けられた態様で設けられたことを特徴とする送受信アンテナ。
【請求項2】
前記励振用ループアンテナは、前記台座部に近接した前記柱状部の基部側に配置され、前記送受信用ループアンテナは、前記台座部から離反した前記柱状部の先端側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の送受信アンテナ。
【請求項3】
前記磁性体の台座部は、前記励振用ループアンテナおよび前記送受信用ループアンテナより大径に形成されたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の送受信アンテナ。
【請求項4】
前記励振用ループアンテナのインダクタンス値L1と、前記送受信用ループアンテナのインダクタンス値L2とが、L2≧10×L1の条件を満足するように設定されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の送受信アンテナ。
【請求項5】
前記励振用ループアンテナと前記送受信用ループアンテナとの間の相互誘導による電磁結合の結合係数Kが0.5から0.7の範囲に収まるように設定されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の送受信アンテナ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の送受信アンテナと、この送受信アンテナに送信信号を出力する送信処理部と、前記送受信アンテナからの受信信号が入力される受信処理部と、前記送信処理部および前記受信処理部を制御する制御部と、を有し、
前記励振用ループアンテナが前記送信処理部に接続され、前記送受信用ループアンテナが前記受信処理部と接続されたことを特徴とする送受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−169724(P2012−169724A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26774(P2011−26774)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【特許番号】特許第4822302号(P4822302)
【特許公報発行日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】