説明

送受信モジュール及びフェーズドアレイレーダ装置

【課題】フェーズドアレイレーダ装置において送受信モジュールの状態が不定になったとき、所定方向に意図しないレーダ信号が送信されることを抑制する。
【解決手段】フェーズドアレイレーダ装置を構成し、レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子に各々接続される送受信モジュールであって、送信信号の移相量を設定する移相手段と、この送受信モジュールが安定しているときは、前記制御回路の出力する所定の移相量データを前記移相手段に出力し、この送受信モジュールが不定なときは、ランダムデータ又は所定の移相量データにランダムデータを加算したデータを前記移相手段に出力する移相制御手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェーズドアレイレーダ装置に係り、特にその送受信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイレーダは、複数のアンテナ素子を備え、これらのアンテナ素子毎に信号の送受信を行う送受信モジュールと、送信信号を各送受信モジュールに分配する分配器とを設けている。これらの送受信モジュールにおいて分配された信号を移相器があらかじめ定められた移相量ずつ遅延させて送信することにより、各送受信モジュールから送信される送信信号が一定方向に進行する合成波を形成する。
【0003】
一般的なフェーズドアレイレーダの送受信部では、複数の送受信モジュールにそれぞれアンテナ素子が接続され、各送受信モジュールに送信信号を分配し、受信した信号を合成する分配合成器を備える。
【0004】
図5(A)を用いて説明すると、各アンテナ素子303からあらかじめ定められた移相量dずつ遅延させて送信信号502を送信することにより、各アンテナ素子からの電波502の合成波503が矢印504の方向に向かって送信される。
【0005】
フェーズドアレイレーダはこの送信信号の反射波を受信し、合成することにより、レーダの前方にある物体の位置、大きさを検知する。
【0006】
フェーズドアレイレーダの従来の送受信モジュールを図4を用いて説明する。送受信モジュール401は、あらかじめ定められた移相量dずつ送信信号の位相を遅延させる移相器405と、移相器の動作を制御する制御回路406と、送信信号を増幅する送信増幅器408と、受信信号を増幅する受信増幅器409と、切替スイッチ413と、前記制御回路406および前記送信増幅器408および前記受信増幅器409に電源を供給する電源回路407を備える。
【0007】
移相器405には入力端子402から送信信号が入力される。この送信信号は移相器によって所定の移相量が設定され、送信増幅器408によって増幅され、送信端子410を通ってアンテナ素子(図示せず)から送信される。制御回路406には制御信号403が入力される。
【0008】
この従来例においては、電源404が投入されると電源回路407から制御回路406および送信増幅器408および受信増幅器409に電源が供給されるが、制御回路406より先に送信増幅器408に電源が投入されることがあり、この際、各送受信モジュールは均質な構成をとっているため、制御回路によって制御される前に位相が揃った予期せぬ送信信号が送信されるという場合があった。
【0009】
従来の技術レベルを示す文献としては、特許文献1および特許文献2が存在するが、上記のような問題点を解決するための方法ないし送受信モジュールを提供とする公知技術は見つからない。
【特許文献1】特開平1−143404号公報
【特許文献2】特開平11−340722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、送受信モジュールが不安定な状態にあるとき、予期しない送信レーダ信号が所定の方向に送信されることを抑制できる送受信モジュール及びこれを用いたフェーズドアレイレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、フェーズドアレイレーダ装置を構成し、レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子に各々接続される送受信モジュールであって、送受信信号に遅延を生じさせる移相手段と、この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されるとき前記制御回路の出力する所定の移相量データを前記移相手段に出力し、この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されないとき、ランダムデータ又は所定の移相量データにランダムデータを加算したデータを前記移相手段に出力する移相制御手段と、を有することを特徴とする送受信モジュールを提供する。
【0012】
請求項4に係る発明は、レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子と、これらのアンテナ素子に接続されレーダ信号の基となる基準信号に所定の遅延量を与えて前記アンテナ素子にレーダパルス信号を供給する送受信モジュールとを有するフェーズドアレイレーダ装置であって、前記送受信モジュールは、送受信信号に遅延を生じさせる移相手段と、この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されるとき前記制御回路の出力する所定の移相量データを前記移相手段に出力し、この送受信モジュール外部から制御信号が入力されないとき、ランダムデータ又は所定の移相量データにランダムデータを加算したデータを前記移相手段に出力する移相制御手段と、を有することを特徴とするフェーズドアレイレーダ装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、送受信モジュールに外部から制御信号が入力されない場合に、各送受信モジュールの移相器にランダムデータを与えるため、意図しない不要なレーダ信号が所定の方向に送信されることを抑制できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0015】
<実施形態1>
本願発明の実施形態1について、図1を用いて説明する。実施形態1の構成は次のごとくである。送受信モジュール101は、あらかじめ定められた移相量dずつ送信位相を遅延させる移相器105と、移相器の動作を制御する制御回路107と、送受信モジュール毎に異なるランダムデータを格納するランダムデータ記憶回路106と、このランダムデータ記憶回路106出力のランダムデータと移相器105出力の移相量を切り替える切替回路108と、送信信号を増幅する送信増幅器110と、受信信号を増幅する受信増幅器111と、送信増幅器110と受信増幅器111と移相器105との接続を切り替える切替スイッチ114と、制御回路107、切替回路108、送信増幅器110および受信増幅器111に電源を供給する電源回路109を備える。
【0016】
このように構成された送受信モジュール101を図3に示すように分配合成器301に接続し、これらの複数の送受信モジュール101を駆動制御する。これらの送受信モジュールには各々アンテナ素子303が接続されている。
【0017】
このフェーズドアレイレーダは、通常、次のように動作する。図3に示すように、分配合成器301から送信信号と駆動タイミングのための制御信号が各送受信モジュール101に送られる。送受信モジュール101では、送信信号が端子102から入力され移相器105に送られる。一方駆動タイミングのための制御信号103が制御回路107に送られ所定の遅延移相を与えるための移相信号が切替回路108を介して移相器105に送られ、送信信号は所定の移相量が設定される。移相器105で移相量が設定された送信信号は切替スイッチ114を介して送信増幅器110で増幅され高出力送信信号となり、送信端子112を通ってアンテナ素子303に送られ所定の位相で送信される。
【0018】
例えば隣接するアンテナ素子303からも同じ移相量dで送信信号502が送信されるとすると、図5(A)に示すように、503に示すように位相が揃い、全体として矢印504の方向に電波が放射される。
【0019】
反射波は逆に各アンテナ素子303において受信され、受信端子113から入力され受信増幅器111において増幅される。受信増幅器111で増幅された信号は、切替スイッチ114を介して移相器105に入り所定の遅延を与えられて端子102を介して送受信モジュール101から出力され、図示していないが例えば信号処理回路で処理され表示される。
【0020】
一方、上述のように、例えば電源投入時など送受信モジュールに外部から制御信号が入力されないような不定状態となった場合には上記実施形態のフェーズドアレイレーダ装置は、次のように動作する。
【0021】
電源104が投入されると、電源回路109は制御回路107、切替回路108、送信増幅器110および受信増幅器111に電力を供給する。送受信モジュール101が不定状態では、切替回路108はランダムデータ記憶回路106の出力を移相器105に出力するように制御されている。
【0022】
送受信モジュール101が不定のとき、ランダムデータ記憶回路106から読み出された、送受信モジュール毎に異なるランダムデータは移相器105に入力され、送信信号はランダムな移相量を与えられる。すなわち、切替回路108はランダムデータ記憶回路106出力のランダムデータを移相器105の新たな移相量として設定する。したがって、各送受信モジュールの移相器105には、各々まったく異なるランダムな移相量が設定されることになる。
【0023】
このように動作させることにより、電源投入時にアンテナ素子303から移相量が一定値にならない、送受信モジュール毎、すなわちアンテナ素子303毎に異なるランダムな移相量により送信がなされる。このため、図5(B)に示すごとく、各アンテナ素子から送信された信号は一定方向に進行する合成波を形成することはなく、所定方向に予期せぬ異常送信信号が送信されることを回避することができる。
【0024】
送受信モジュールが安定な状態になると、制御回路107に電源投入され、制御回路107が起動すると、制御回路107はランダムデータ記憶回路106からの出力を停止させ、制御回路107は送受信モジュール101の各構成要素に対応した移相量に応じたデータを切替回路108から移相器105に送り、図5(A)に示すように位相の揃った送信信号を送出することになる。
【0025】
本発明のこの実施形態によれば、送受信モジュールが不定のとき、その送受信モジュールに対応する移相データに代えてランダムデータを移相器に送ることにより、回路構成を簡単にして上述の意図しない所定方向へのレーダ信号の送出を抑制することができる効果がある。
【0026】
<実施形態2>
上記実施形態では、送受信モジュール不定時に移相器に送るランダムデータを切替回路108において切り替えて送っていた。しかし、各送受信モジュールに与えられる所定の移相量データにランダムデータを加算して移相器に送るようにすることも可能である。このような本願発明の実施形態2につき、図2を用いて説明する。
【0027】
実施形態2の構成の送受信モジュール201は、あらかじめ定められた移相量dずつ位相を可変させる移相器206と、移相器の動作を制御する制御回路207と、この制御回路207出力に所定の移相量を加算する加算回路208と、送信信号を増幅する送信増幅器210と、受信信号を増幅する受信増幅器211と、前記送信増幅器210と前記受信増幅器211とを切り替える切替スイッチ215と、前記制御回路207および前記加算回路208および前記送信増幅器210および前記受信増幅器211に電源を供給する電源回路209を備える。
【0028】
加算回路208は、通常動作時には加算される移相量はゼロであるが、送受信モジュール201が不定なときには送受信モジュール201のアドレス情報203から得られる数値を制御回路207から入力された遅延量データに加算する。
【0029】
この送受信モジュール201が通常動作をしているときには、端子202から入力された送信信号が移相器206を通るとき、所定の移相量データが加算回路208から供給され、所定の移相量が与えられる。その送信信号は切替スイッチ215を介して送信増幅器210で増幅されて高出力送信信号として送信端子213からアンテナ素子に供給される。アンテナ素子から送信されたレーダ信号の反射波はアンテナ素子で受信され受信端子113を介して受信増幅器111で増幅されて移相器105で所定の移相量を与えられて図示していないが、例えば表示のための信号処理がなされ、表示装置に表示される。
【0030】
実施形態2における送受信モジュールが不定になったときの動作は次のごとくである。送受信モジュールが不定状態、たとえば電源が投入されたときに送受信モジュールが不定状態になったとする。電源回路209は、制御回路207および加算回路208および送信増幅器210および受信増幅器211に電源205から電力を供給する。
【0031】
加算回路208は分配合成器301(図3)と各送受信モジュール201とを接続するコネクタピン(図示せず)が格納する各送受信モジュール201のアドレス情報を読み込み、このアドレス情報と移相器の移相量とを加算し、この加算結果を移相器206の新たな移相量データとして設定する。
【0032】
したがって、各送受信モジュール201の移相器206における移相量は所定の遅延量でなくランダムとなり、送信パルス信号の遅延量はランダムとなる。
【0033】
このように動作することにより、電源投入時に図5(B)に示すごとくアンテナ素子303から移相量が一定量ごとに増加しない、送受信モジュール毎、すなわちアンテナ素子303毎にランダムな移相量により送信がなされる。このため、各アンテナ素子から送信された信号は一定方向に進行する合成波を形成することはなく、予期せぬ異常送信信号が送信されることを回避できる。
【0034】
次に、制御回路207に電源投入され、制御回路207を起動すると、制御回路207は加算回路208に加算動作を停止させる指示を出し、送受信モジュール201が安定になると、制御回路207が送受信モジュール201の各構成要素を制御する。
【0035】
<実施形態3>
実施形態1の送受信モジュールは、フェーズドアレイレーダの送受信モジュールとして使用することができるだけでなく、各種電力増幅器にも用いることができる。
【0036】
この場合の電力増幅器を構成する電力増幅モジュールは実施形態1の送受信モジュールと同様の構成をとる。出力のみを行う電力増幅器の場合は切り替えスイッチ114および受信増幅器111および受信端子113を設けなくてもよい。
【0037】
実施形態3の電力増幅器は前記電力増幅モジュールを2以上用いる。実施形態3の電力増幅器の動作は実施形態1の送受信モジュールの動作と同様である。
【0038】
このように構成することにより、送信された信号が一定方向に進行する合成波を形成することがなく、不意な大出力電力が送信されることを回避できる。
【0039】
上記実施形態では、レーダ信号を送信しその反射波を受信する送受信モジュールについて説明した。しかし、本発明は送信時に不用意に所定方向に送信されるレーダ信号を抑制するものであり、受信は必ずしも同じ回路で行う必要はない。したがって、本発明は受信機能を有しない送受信モジュールに適用することができる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々変形して実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態1における送受信モジュールの構成を模式的に表した図である。
【図2】本発明の実施形態2における送受信モジュールの構成を模式的に表した図である。
【図3】一般的なフェーズドアレイレーダにおける送受信モジュールの使用形態を模式的に表した図である。
【図4】従来の送受信モジュールの構成を模式的に表した図である。
【図5】一般的なフェーズドアレイレーダにおける送信信号の送信例と本発明における異常送信を回避した送信例を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0042】
101、201、401:送受信モジュール、
105、206、405:移相器、
106:ランダムデータ記憶回路、
107、207、406:制御回路、
108:切替回路、
109、209、407:電源回路、
208:加算回路、
301:分配・合成器、
303:アンテナ素子、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェーズドアレイレーダ装置を構成し、レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子に各々接続される送受信モジュールであって、
送信信号の移相量を可変する移相手段と、
この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されるときには前記制御回路の出力する所定の移相量データを前記移相手段に出力し、この送受信モジュールに制御信号が入力されないときに、ランダムデータ又は所定の移相量データにランダムデータを加算したデータを前記移相手段に出力する移相制御手段と、
を有することを特徴とする送受信モジュール。
【請求項2】
フェーズドアレイレーダ装置を構成し、レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子に各々接続される送受信モジュールであって、
送受信信号の移相量を可変する移相器と、
この移相器に与える移相量データを出力する制御回路と、
ランダムデータを出力するランダムデータ記憶回路と、
この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されるときには前記制御回路の出力する移相量データを前記移相器に出力し、この送受信モジュールに制御信号が入力されないときに、前記ランダムデータ記憶回路が出力するランダムデータを前記移相器に出力する切替回路と、
を有することを特徴とする送受信モジュール。
【請求項3】
フェーズドアレイレーダ装置を構成し、レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子に各々接続される送受信モジュールであって、
送信信号の移相量を可変する移相器と、
この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されるときには前記移相器に所定の移相量を与える移相量データを前記移相器に出力し、この送受信モジュールに制御信号が入力されないときに、ランダムデータを発生させ所定の移相量と加算したデータを前記移相器に出力する加算回路と、
を有することを特徴とする送受信モジュール。
【請求項4】
レーダ信号を送信する複数のアンテナ素子と、これらのアンテナ素子に接続されレーダ信号の基となる基準信号に所定の移相量を与えて前記アンテナ素子にレーダパルス信号を供給する送受信モジュールとを有するフェーズドアレイレーダ装置であって、
前記送受信モジュールは、
送受信信号に移相を生じさせる移相手段と、
この送受信モジュールに外部から制御信号が入力されるときには前記制御回路の出力する所定の移相量データを前記移相手段に出力し、この送受信モジュールに制御信号が入力されないときに、ランダムデータ又は所定の移相量データにランダムデータを加算したデータを前記移相手段に出力する移相制御手段と、
を有することを特徴とするフェーズドアレイレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−53837(P2008−53837A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225674(P2006−225674)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】