説明

送液ポンプ

【課題】高圧送液下においてもシール寿命の低下を防止するとともにプランジャを正常に駆動できるようにする。
【解決手段】ポンプ室8aのプランジャ3挿入部分にプランジャシール10とバックアップリング11が設けられている。バックアップリング11の背面は洗浄チャンバ12の壁面により支持されている。バックアップリング11は可変形樹脂層11aと不変形樹脂層11bの2種類の樹脂層で構成された合成バックアップリングである。バックアップリング11のプランジャシール10に接する面は可変形樹脂層11aの面からなり、内周面は不変形樹脂層11bの面からなる。可変形樹脂層11aは、プランジャシール10よりも大きい弾性率でプランジャシール10の変形を吸収できる弾性率をもつ樹脂層である。不変形樹脂層11bは、可変形樹脂層11aの樹脂よりもさらに大きい弾性率をもつ樹脂層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプヘッド内でプランジャを摺動させて吸入口からの液の吸入と吐出口からの液の吐出を繰り返すことにより送液を行なう送液ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なプランジャ方式の送液ポンプのポンプ室近傍の概略的な断面図を図3(A)に示す。
送液ポンプは、ポンプヘッド8内のポンプ室8a内でプランジャ3の先端部が摺動することにより吸入口8bからの液の吸入と吐出口8cからの液の吐出を繰り返すことにより送液を行なうものである。ポンプ室8aのプランジャ3挿入部分には、ポンプ室8aの内壁とプランジャ3の外周との間の隙間からの液漏れを防止するためにプランジャ3の外周に密着する樹脂製のプランジャシール13が設けられている。プランジャシール13はポンプヘッド8とポンプヘッド8を保持するポンプボディ18との間で挟持されている。
【0003】
ポンプボディ18はポンプヘッド8側の壁面でプランジャシール13の背面を支持している。この壁面にはプランジャ3を貫通させるための孔20が設けられており、この孔20とプランジャ3との間の隙間が大きいと、送液圧力が高圧(例えば40MPa程度)になったときにコールドフローが起こり、図3(B)に示されているように、プランジャシール13の内周部が孔20とプランジャ3との間の隙間に入り込むことがある。このような状態になるとプランジャ3とプランジャシール13との間の摩擦が増大し、プランジャ3の駆動に影響を与えたり、プランジャシール13のシール寿命が低下したりするなどの不具合が発生する。
【0004】
そのため、孔20の内径の寸法公差を管理してプランジャ3の外形との隙間を小さくする必要がある。しかし、ポンプボディ18はステンレスなどの金属で構成されており、孔20の内周面にプランジャ3が接触すると焼き付きを起こすため、孔20の内径を小さくするには限界があった。
【0005】
そこで、送液圧力が70MPaを超えるような高圧の場合には、図4(A)に示されているように、プランジャシール13の背面にバックアップリング22を配置することが行なわれる(例えば、特許文献1参照。)。バックアップリング22の材質は、プランジャシール13の材質よりも硬くかつプランジャ3の外周と接触してもプランジャ3に影響を起こさないPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などの樹脂材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−254686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、送液圧力が100MPaを超えるような高圧の条件下でPEEK樹脂製のバックアップリング22を使用すると、図4(B)に示されているように、プランジャシール13が高圧で変形することによってバックアップリング22が圧迫されて内径方向へ変形し、内径が小さくなってプランジャ3との接触抵抗が増加し、プランジャ3の駆動に影響を与えることがわかった。
【0008】
また、バックアップリング22の変形を防止するために、バックアップリング22の材質をプランジャシール13の変形に耐えることのできる樹脂としてPEEK樹脂よりも高い弾性率をもつ材質にすると、逆にバックアップリング22が全く変形しないためにプランジャシール13が内径方向に変形してプランジャ3への締付け力が増大し、プランジャ3の駆動に影響を与えたり、プランジャシール13のシール寿命が低下したりするなどの不具合が発生することがわかった。
【0009】
そこで本発明は、送液圧力が高圧、例えば100MPaを超えるような条件での送液においてもシール寿命の低下を防止するとともにプランジャを正常に駆動できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の送液ポンプは、液体を吸入するための液入口、液入口から吸入された液を貯留するためのポンプ室及びポンプ室内の液を吐出するための液出口を備えたポンプヘッドと、ポンプヘッドに先端側が挿入されポンプヘッド内で摺動するプランジャと、ポンプヘッドのプランジャ挿入部分に取り付けられポンプヘッドとプランジャとの間の隙間を封止するリング状のプランジャシールと、プランジャシールの背面側に取り付けられたバックアップリングであって、プランジャシールの背面に接する面がプランジャシールよりも大きい弾性率でプランジャシールの変形を吸収できる弾性率をもつ可変形樹脂で構成され、内周面が可変形樹脂よりもさらに大きい弾性率をもつ不変形樹脂で構成されている合成バックアップリングと、を備えたものである。
【0011】
上記送液ポンプにおいて、合成バックアップリングのプランジャシールの背面に接する面が可変形樹脂で構成されているとは、合成バックアップリングのプランジャシールの背面に接する面の全てが可変形樹脂からなる面であることに限定されず、プランジャシールの背面に接する面の一部に不変形樹脂が含まれていてもプランジャシールの背面に接する面がプランジャシールの変形を吸収できるような割合で可変形樹脂の面が存在していることを意味する。すなわち、合成バックアップリングのプランジャシールの背面に接する面の一部に不変形樹脂が含まれていても本発明に含まれることがある。
同様に、合成バックアップリングの内周面が不変形樹脂で構成されているとは、合成バックアップリングの内周面の全てが不変形樹脂からなる面であることに限定されず、高圧送液下での合成バックアップリングの内周面の変形量がプランジャの駆動を妨げない程度の変形に止まるような割合で不変形樹脂の面が存在していることを意味する。すなわち、合成バックアップリングの内周面の一部に可変形樹脂が含まれていても本発明に含まれることがある。
【0012】
合成バックアップリングを構成する可変形樹脂と不変形樹脂の組み合わせの一例は、可変形樹脂がポリエーテルエーテルケトン樹脂で不変形樹脂が非熱可塑性ポリイミド樹脂である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、プランジャシールの背面側に設けられた合成バックアップリングは、合成バックアップリングのプランジャシールの背面に接する面が可変形樹脂で構成され、内周面が不変形樹脂で構成されているので、ポンプ室内の圧力によるプランジャシールの変形が合成バックアップリングの可変形樹脂で吸収される一方で、内周面が不変形樹脂で構成されているので内周面がプランジャシールの変形による圧迫によって変形しにくく、合成バックアップリングの内径が小さくなりにくい。したがって、プランジャシールとプランジャとの間の摩擦力の増大を抑制しながらバックアップリングとプランジャとの間の摩擦力の増大も抑制できる。これにより、プランジャシールの寿命の低下を防止するとともに、プランジャシールとプランジャとの間の摩擦力の増大、及びバックアップリングとプランジャとの間の摩擦力の増大によるプランジャの駆動への影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】送液ポンプの一実施例を示す図であり、(A)はポンプボディの先端側部分の断面図、(B)は(A)のポンプ室近傍を拡大して示す断面図である。
【図2】(A)、(B)ともに同実施例の送液ポンプのバックアップリングの変形例を示すポンプ室近傍の断面図である。
【図3】従来の送液ポンプの一例を示すポンプ室近傍の断面図であり、(A)は通常時、(B)は異常発生時をそれぞれ示す図である。
【図4】従来のバックアップリングを備えた送液ポンプの一例を示すポンプ室近傍の断面図であり、(A)は通常時、(B)はプランジャシールに高圧がかかった状態をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
送液ポンプの一実施例を図1を用いて説明する。
同図(A)に示されているように、この実施例の送液ポンプは、ポンプボディ2の先端に洗浄チャンバ12を挟んでポンプヘッド8が装着されている。ポンプボディ2内にはクロスヘッド4が移動可能に収容されている。クロスヘッド4はバネなどの弾性体6によって常にポンプヘッド8から遠ざかる方向(図において右方向)へ押されており、クロスヘッド4の基端部側に設けられたカム(図示は省略)の周面に追従する。クロスヘッド4は回転するカムの周面を追従することによりポンプボディ2内でポンプヘッド8へ近付く方向と遠ざかる方向(図において左右方向)へ往復動する。
【0016】
クロスヘッド4の先端にはプランジャ3の基端部が保持されている。プランジャ3の先端部は洗浄チャンバ12を貫通してポンプヘッド8の内部に設けられたポンプ室8aに挿入されている。プランジャ3の先端部はクロスヘッド4の往復動によりポンプ室8aの壁面に沿って摺動する。ポンプヘッド8はポンプ室8aに液を吸入するための液入口流路8bとポンプ室8aから液を押し出すための液出口流路8cを備えている。液入口流路8b上及び液出口流路8c上にはそれぞれ逆流を防止するためのチェック弁9a,9bが設けられている。
【0017】
ポンプ室8aのプランジャ3挿入部分には、ポンプ室8aの内壁とプランジャ3の周面との間の隙間からの液漏れを防止するためにプランジャ3の外周面を摺動可能に保持するプランジャシール10とプランジャシール10の背面を支持するバックアップリング11が設けられている。バックアップリング11の背面は洗浄チャンバ12の壁面により支持されている。
【0018】
洗浄チャンバ12は洗浄液を流通させる流路と貫通するプランジャ3の外周面をその洗浄液によって洗浄する空間を内部に備えている。洗浄チャンバ12の内部空間のプランジャ3挿入部には、洗浄液の漏れを防止するためにプランジャ3の外周面を摺動可能に保持する洗浄シール16が設けられている。洗浄シール16の背面はポンプボディ2の壁面により支持されている。
【0019】
この送液ポンプでは、プランジャ3がポンプ室8aから遠ざかる方向(図において右方向)へ駆動されることにより、ポンプ室8a内が減圧されてチェック弁9bが閉じてチェック弁9aが開き、液入口流路8bからポンプ室8a内に液が吸入される。逆に、プランジャ3がポンプ室8a内へ挿入される方向(図において左方向)へ駆動されることにより、ポンプ室8a内が加圧されてチェック弁9aが閉じてチェック弁9bが開き、ポンプ室8aから液出口流路8cへ液が押し出される。この動作を繰り返すことにより送液が行なわれる。
【0020】
図1(B)を用いてプランジャシール10及びバックアップリング11について説明する。
プランジャシール10は例えばポリエチレン樹脂などの弾性材料からなる。プランジャシール10のプランジャ3の周囲に、ポンプ室8aの内壁とプランジャ3の外周との間から漏れてきた液を貯留するためにポンプ室8a側が開口した矩形の空間10aが設けられている。空間10aはプランジャ3あと動軸のリング形状であり、プランジャ3の軸方向の断面形状が矩形である。
【0021】
プランジャシール10の背面を支持するバックアップリング11の内径は、プランジャシール10の内径よりも大きくバックアップリング11を支持する洗浄チャンバ12の壁面のプランジャ3を貫通させる孔14よりも小さくなっている。バックアップリング11は可変形樹脂層11aと不変形樹脂層11bの2種類の樹脂層で構成された合成バックアップリングである。可変形樹脂層11aは、例えばPEEK樹脂などプランジャシール10よりも大きい弾性率でプランジャシール10が圧力で変形したときにその変形を吸収できる弾性率をもつ樹脂からなる層である。一方、不変形樹脂層11bは、例えば非熱可塑性ポリイミド樹脂など可変形樹脂層11aの樹脂よりもさらに大きい弾性率をもち、例えば100MPa以上の高圧力がかかっても変形しない樹脂からなる層である。非熱可塑性ポリイミド樹脂の一例は、ベスペル(商標登録、デュポン社の製品))である。
【0022】
バックアップリング11は、プランジャシール10の背面に接する面が可変形樹脂層11aの面、プランジャ3に対向する内周面が不変形樹脂層11bの面となるように合成されている。バックアップリング11は中央にプランジャ3が通る孔をもつ円盤形であり、プランジャシール10側が可変形樹脂層11a、洗浄チャンバ12側が不変形樹脂層11bとなっている。可変形樹脂層11aと不変形樹脂層11bはプランジャ3の軸方向の断面形状がともに三角形であり、両樹脂層11a,11bの境界は内径のプランジャシール10側の縁から外形の洗浄チャンバ12側の縁まで伸びている。プランジャシール10の背面に接する面が可変形樹脂層11aの面であることにより、ポンプ室8a内の圧力が高圧となったときにその圧力よるプランジャシール10の変形が可変形樹脂層11aの弾性によって吸収される。これにより、プランジャシール10が内径方向に変形しにくくなり、プランジャ3とプランジャシール10との間の摩擦力の増大が抑制される。さらに、バックアップリング11はプランジャシール10の変形により圧迫されるが、内周面が不変形樹脂層11bの面となっているため内径方向への変形が抑制され、プランジャ3とバックアップリング11との間の摩擦力の増大も抑制される。
【0023】
なお、図1(B)の例では、バックアップリング11のプランジャ3の軸方向断面の対角線を境界線としてプランジャシール10の背面側に可変形樹脂層11a、洗浄チャンバ12側に不変形樹脂層11bがくるように各樹脂層11a,11bが合成されているが、図2(A)に示されているように、可変形樹脂層11aの外形側の一部が洗浄チャンバ12の壁面と接するように可変形樹脂層11aの断面が台形となるような合成方法であっても同様の効果を得ることができる。
【0024】
また、同図(B)に示されているように、バックアップリング11の内周面の一部に可変形樹脂層11aが面している場合には、プランジャシール10の変形による圧迫によって内周面に面した可変形樹脂層11aの内径が小さくなってバックアップリング11とプランジャ3との摩擦力がある程度増大するが、可変形樹脂層11aがプランジャ3と接する面積が小さい場合には、内周面全てが可変形樹脂である場合よりもバックアップリング11とプランジャ3との摩擦力の増大を抑制することができる。また、プランジャシール10の背面に接する面の一部に不変形樹脂層11bが面していてもよく、プランジャシール10の変形を可変形樹脂層11aで吸収できればよい。
【符号の説明】
【0025】
2 ポンプボディ
3 プランジャ
4 クロスヘッド
6 弾性体
8 ポンプヘッド
8a ポンプ室
8b 液入口流路
8c 液出口流路
9a,9b チェック弁
10 プランジャシール
11 バックアップリング
11a 可変形樹脂層
11b 不変形樹脂層
12 洗浄チャンバ
14 孔
16 洗浄シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吸入するための液入口、前記液入口から吸入された液を貯留するためのポンプ室及び前記ポンプ室内の液を吐出するための液出口を備えたポンプヘッドと、
前記ポンプヘッドに先端側が挿入され前記ポンプヘッド内で摺動するプランジャと、
前記ポンプヘッドの前記プランジャ挿入部分に取り付けられ前記ポンプヘッドとプランジャとの間の隙間を封止するリング状のプランジャシールと、
前記プランジャシールの背面側に取り付けられたバックアップリングであって、前記プランジャシールの背面に接する面が前記プランジャシールよりも大きい弾性率で前記プランジャシールの変形を吸収できる弾性率をもつ可変形樹脂で構成され、内周面が前記可変形樹脂よりもさらに大きい弾性率をもつ不変形樹脂で構成されている合成バックアップリングと、を備えた送液ポンプ。
【請求項2】
前記可変形樹脂はポリエーテルエーテルケトン樹脂であり、前記不変形樹脂は非熱可塑性ポリイミド樹脂である請求項1に記載の送液ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−31828(P2012−31828A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174112(P2010−174112)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】