説明

送液方法、及び送液システム

【課題】 微小な圧力変動による脈動を吸収できる送液方法、送液システムを提供する。
【解決手段】
塗布液14を送液配管42に送液し、送液配管42の一部に設けられた振動伝播を抑制するオリフィス54を通過させ、ダイアフラムで隔離された1次室と2次室を備える脈動吸収装置56を通過させ、塗布液をスロットダイ12から走行する支持体W上に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送液方法、及び送液システムに関し、特に、送液過程で発生する脈動を防止又は低減できる送液方法、及び送液システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送液工程で脈動が生じた場合、例えば、塗布ムラが生じたり、振動音が生じたりする問題があった。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1には、送液途中に薄い膜で隔離された気体圧力調整により、吸収する機構を用いた方法が記載されている。また、特許文献2には、弁ボディと摺動部とのクリアランスを小さくして摺動抵抗を大きくすることで圧力変動を抑える方法が記載されている。
【特許文献1】特開2006−156655号公報
【特許文献2】特開平11−270429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、脈動を精密に制御できるが、変動に応じた吸収容量を準備する必要があり、流量が大きくなると装置が大きくなり装置内の滞留により二次故障が生じることがあり、途中で洗浄をする必要があった。
【0005】
また、特許文献2の方法では、数μmという非常に狭いクリアランスを維持する必要があり、詰まり防止の為、送液工程に圧力損失が大きい専用フィルタを設置する必要があった。
【0006】
また、送液工程での脈動伝播(圧力変動)を抑制するためにオリフィスの様な絞り機構を送液経路中に設けると効果があることも知られている。
【0007】
しかしながら、絞り機構で減衰しきれない場合や、絞り機構通過時に新たに発生する場合があり、微小圧力変動を抑制し、均一な送液を行うことが求められていた。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、微小な圧力変動による脈動を吸収することができる送液方法、及び送液システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の送液方法は、塗布液を送液配管に送液する工程と、前記塗布液を、前記送液配管の一部に設けられた振動伝播を抑制するオリフィスを通過させる工程と、前記塗布液を、前記オリフィスの下流側で、前記送液配管の一部に設けられた脈動吸収装置を通過させる工程と、を備え、前記脈動吸収装置は、液体が流出入できる1次室と、気体を導入される2次室と、前記1次室と前記2次室を隔離するダイアフラムを備えていることを特徴とする。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の送液システムは、塗布液を送液するため送液配管と、前記送液配管の一部に設けられた振動伝播を抑制するオリフィスと、前記オリフィスの下流側で、前記送液配管の一部に設けられた脈動吸収装置と、を備え、前記脈動吸収装置は、液体が流出入できる1次室と、気体を導入される2次室と、前記1次室と前記2次室を隔離するダイアフラムを備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、送液工程途中のポンプや減圧脱泡により生じた比較的大きな脈動がオリフィスによって吸収又は低減され、さらにオリフィスによりニ次的に発生する微小脈動がダイアフラムを備える脈動吸収装置により吸収又は低減される。例えば、本発明を塗布方法に適用した場合、塗布液を均一な膜厚で支持体上に塗布することができる。
【0012】
本発明の送液方法は、前記発明において、前記塗布液が前記オリフィスの孔部を流れる際の、レイノルズ数Reが2500以上であることが好ましい。
【0013】
塗布液がオリフィスの孔部を流れる際のレイノルズ数Reが2500以上の乱流状態において、有効に微小な脈動を防止することができる。
【0014】
オリフィス形状により、またレイノルズ数Re数が高い場合、キャビテーションと呼ばれる発泡現象が起こることがある。この発泡状態が酷くなると配管自体の振動が起きる。この振動による液脈動を防止するためには、オリフィス形状やレイノルズ数Reを適宜選択する必要がある。
【0015】
逆にレイノルズ数Reが2500以下の場合、オリフィス孔通過後の流れが安定になり、微小脈動が発生せず、脈動吸収装置が不要になる場合が多い。
【0016】
また、レイノルズ数Reが2500以上であっても、前記脈動吸収装置の後にオリフィスを取り付ける装置構成では、オリフィスから出る脈動を排除することができない為、本課題を解決することができない。
【0017】
本発明の送液方法は、前記発明において、前記オリフィスの孔断面積と前記オリフィス上流側の流路断面積の比が0.05以下であることが好ましい。
【0018】
オリフィスの孔断面積とオリフィス上流側の流路断面積の比を0.05以下にすることで、オリフィスの一次側圧力を高めることができる。これにより、オリフィスによる脈動吸収又は低減をより効果的に行なうことができる。
【0019】
本発明の送液方法は、前記発明において、前記送液配管の一部に複数の前記オリフィスが設けられることが好ましい。
【0020】
オリフィスを複数設けることで、より効果的にオリフィスの一次側圧力を高めることができる。また、オリフィスが一つの場合、孔径が小さくなりごみ等が詰まりやすくなるが、オリフィスを複数配置することで、オリフィスの孔径を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、微小な圧力変動による脈動を吸収することにより塗布ムラのない塗布方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0023】
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する
図1は、発明に係る送液方法が適用された光学フィルムの製造ラインの塗布工程10を示す構成図である。この光学フィルムの製造ラインは、ロール状の支持体フィルム(以下、「ウェブ」と称する)Wを連続的に送り出す工程と、ウェブWを巻き取る工程との間に、塗布工程と乾燥工程(他に、塗布膜を硬化する工程)等を適宜必要な数だけ設置したものである。
【0024】
図1に示される塗布工程10は、塗布位置においてウェブWを巻き掛けるコーティングローラ11に相対するように、スロットダイ12が設けられている。スロットダイ12は塗布液14を貯留する塗布液タンク40と送液配管42で連結されている。塗布液14がスロットダイ12に供給される。
【0025】
送液配管42には、上流側より順に、送液ポンプ46、圧力計48、濾過フィルタ付減圧脱気装置50、流量計52、オリフィス54、脈動吸収装置56が接続されている。
【0026】
送液配管42としては、内径を15mm以下とし、ストレート形状のフッ素樹脂又は内周部が研磨された金属部材とすることが好ましい。このように、小径の送液配管42にストレート形状のフッ素樹脂(たとえば、「テフロン(登録商標)」)又は内周部が研磨された金属部材を使用すれば、配管内の塗布液14の流れが良好となり、気泡の排除に有効である。
【0027】
また、送液ラインより送液脈動を排除するために、オリフィス54の手前の送液配管42は振動の伝播を少なくすることが望ましいので、1)配管自身を剛性の低いフッ素樹脂(たとえば、「テフロン(登録商標)」)のものにする、2)肉厚の小さいベローズ状の配管にする、3)防振材を配する、等の構成が好ましい。
【0028】
送液ポンプ46としては、公知の各種タイプのポンプ(ギアポンプ等)が使用できるが、ダイアフラムポンプが好ましく使用できる。すなわち、本発明のように、スロットダイ12内部、及び送液配管42内に加圧状態を発生させる場合、塗布液14を送る送液ポンプ46はダイアフラムポンプであることが好ましい。
【0029】
ギアポンプでは、種類によっては「すり抜け」と称される現象により、塗布液14を良好に送れなくなる場合もある。また、塗布液14中の分子が大きい場合(たとえば、1μm以上)、ギアのかみ合わせによって分子のせん断、又はギアの破損を引き起こす可能性がある。
【0030】
圧力計48としては、公知の各種タイプの圧力計及び流量計を使用することができる。
【0031】
濾過フィルタ付減圧脱気装置50は、塗布液の組成等に応じて適宜の仕様のものが採用できる。
【0032】
流量計52としては、公知の各種タイプの流量計が使用できるが、コリオリ式流量計が好ましく使用できる。
【0033】
図2は、オリフィスを説明するための説明図である。図2(A)はオリフィス54の斜視図であり、図2(B)はオリフィス54の断面図である。このオリフィス54は、厚さLのスリット板Fに1の孔が設けられたタイプのものである。
【0034】
図2(B)において、Sは送液配管42の断面積であり、Sdはスリット板Fの孔断面積であり、Aはオリフィス54(スリット板F)への進入波の振幅であり、Bは進入後の波の振幅である。このオリフィス54による透過損失TLは、以下の式1で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、mは送液配管42の断面積Sとスリット板Fの孔断面積Sdとの比であり、kは送液配管42の内部の物質に依存する項であり、fは音波の周波数であり、cは媒質中の音速であり、媒質の粘度や密度に依存する値である。
【0037】
また、このオリフィス54による透過損失TLは、図2(B)の値A及びBにより、以下の式2でも表される。
【0038】
【数2】

【0039】
上記の式1及び式2からも解るように、オリフィス54を通過後の波の伝播は、周波数fやスリット板Fの孔断面積Sdを小さくすることに伴って減衰することが解る。したがって、オリフィス54を導入することにより、塗布液の送液脈動を有効に抑制できる。
【0040】
また、上記の式1において、オリフィス54の孔断面積Sdと、オリフィス54の上流側の送液配管42の断面積Sとの面積比(1/m)を0.1以下とすることが好ましい。
【0041】
既述したように、「オリフィス」(orifice)とは、一般的には、管路の途中に挿入して流路を絞り、変化した圧力を検出して流量を測定するための孔のあいた円板を指すが、本明細書においては、流量の測定ではなく、流量の制御に適用するものである。
【0042】
オリフィス54を通過する塗布液のレイノルズ数は以下の式で求めることができる。
Re=UL/v U:特性速度(m/s) L:特性長さ(m) v:動粘性係数(m/s)(但し、U:対象となる流体の速度。つまりオリフィス孔部の流速、L:対象となる部分の長さ。つまり孔の直径、v:動粘度 粘度を密度で割ったもの)。
【0043】
オリフィスの孔断面積Sdとオリフィス上流側の流路断面積Sの比が0.05以下であることが好ましい。オリフィスの孔断面積とオリフィス上流側の流路断面積の比を0.05以下にすることで、オリフィスの一次側圧力を高めることができる。これにより、オリフィスによる脈動吸収又は低減をより効果的に行なうことができる。
【0044】
具体的には、オリフィス54の一次側圧力は50kPa以上であることが好ましい。より好ましくは80kPa以上であり、さらに好ましくは100kPa以上である。
【0045】
本実施形態において、オリフィス54としてスリット板Fに1の孔が設けられたタイプのものが採用されているが、これ以外の各種の態様が採り得る。この例を図4に示す。図3(A)は、オリフィス54に複数の孔が設けられているタイプのものである。図3(B)は、オリフィス54に1のテーパ孔が設けられているタイプのものである。このように、オリフィス54が多孔状のものであっても、テーパ形状のものであっても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
図3(C)(D)は、複数のオリフィス54が送液配管42に設けられている状態を示している。各オリフィス54の孔の中心軸の位置が、図(C)(D)に示すように一致していても良いし、孔の中心軸が一致しなくても良い。
【0047】
図4は、脈動吸収装置の概略を示す構成図である。図4(A)は側面断面図であり、図4(B)は正面断面図である。
【0048】
脈動吸収装置56は、本体A101と、本体B102と、本体A101と本体B102の間に配置されたダイアフラムを構成する弾性膜115を備えている。
【0049】
本体A101に凹部が形成され、凹部と弾性膜115とにより1次室103が構成される。流入路108が、1次室103に液体を供給するため、流入口106を介して1次室103に接続される。また、流入路108が、液体を排出するため、1次室103に流出口107を介して1次室103に接続される。送液対象となる液体が1次室103、流入路108、及び流入路108を満たす。
【0050】
本体B102に凹部が形成され、凹部と弾性膜115とにより2次室104が構成される。圧力調整バッファ120が、本体B102に形成された通気孔110を介して接続される。
【0051】
本体A101と本体B102の間に配置された弾性膜115によって、1次室103と2次室104が分離される。
【0052】
本発明において、弾性膜115は、25℃・大気圧・湿度50%RH下において、JIS硬さ60以上、かつ伸び175%以下の特性を有する素材で構成される。弾性膜115として上述の特性の素材を選択したので、送液過程で発生する微小な脈動、例えば、20Pa程度の脈動を効果的に吸収することができる。
【0053】
上述の範囲の素材によれば、ある程度の硬さと伸びの制約があるので、送液圧力により容易に伸びきって、膜の弾性余力がなくなってしまうことはない。また、用方法として膜の接液と反対側がほぼ大気圧であるため、極微小な脈動による膜の変動でも膜の微小変動により脈動が吸収できる。
【0054】
また、弾性膜115は、耐溶剤性に優れた素材、例えば、フッ素系素材であることが好ましい。
【0055】
上述の特性を有する弾性膜115の素材の具体例として、フッ素ゴム(バイトン)、フッ素ゴム(アフラス)、フッ素ゴム(ダイニオン)、等を使用することができる。特に、耐溶剤性の観点から、フッ素ゴム(ダイエルパーフロ)を使用することが好ましい。
【0056】
弾性膜115は、その周囲を本体A101と本体B102に挟み込むことで固定されている。弾性膜115は、上述のしたようにその特性から可撓性を有している。したがって、1次室103に脈動を伴う液体が流入したとき、弾性膜115は脈動を受けて変位する。
【0057】
一方、2次室104は、その内圧が略大気圧となる状態となるよう設定されている。本実施の形態では、例えば大気圧±0.01MPaとなるよう調整される。弾性膜115が脈動を受けて変位した場合、2次室104はその容積が変化する。しかし、容積変化分は、通気孔110を介して接続された圧力調整バッファ120で吸収される。
【0058】
2次室104の内圧の調整は、圧力調整バッファ120の一部を開放すること、圧力調整バッファ120にレギュレータを接続すること、圧力調整バッファ120を閉じた系とし比較的大きな容積とすること等で行われる。いずれにしても、圧力調整バッファ120によって、脈動による弾性膜115の変位を吸収できれば良い。
【0059】
脈動により弾性膜115が変位する限り、弾性膜115は本体A101と本体B102の中央に位置しなくて良い。つまり、弾性膜115は、1次室103側、又は2次室104側に変位している場合でも良い。
【0060】
また、弾性膜115の代わりに、弾性膜と同じ素材を利用して一定容積の気体を密閉する弾性袋方式にしてもよい。弾性袋と液体を接するよう脈動吸収装置を構成しても良い。この場合、使用する液に密閉系内の気体が溶けるときには、気体補充のシステムを付加していると長時間効果を維持することができるので好ましい。
【0061】
脈動吸収装置56において、流入口106が1次室103の底側に、流出口107が1次室103の上側に設けられている。流入口106を底側にすることで、液体の流入時に発生した気泡等が1次室103の底部に留まらずに上部側に移動する。上部側に移動した気泡等は液体に同伴して流出口107から排出される。これにより、気泡等が1次室103に留まって、塗布中に泡が押し出され、塗布液に混入して泡故障になることを防止することができる。
【0062】
次に、本発明に係る送液方法、及び送液システムが適用された塗布工程10による塗布方法について説明する。
【0063】
反射防止フィルム等の光学フィルムに用いるウェブW(基材)としては、透明なプラスチックフィルムを用いることが好ましい。プラスチックフィルムの材料の例には、セルロースエステル(例、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4' −ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート及びポリエーテルケトンが含まれる。
【0064】
特に、トリアセチルセルロースが好ましく用いられる。トリアセチルセルロースフィルムとしては、TAC−TD80U(富士フイルム(株)製)等の公知のもの、公開技報番号2001−1745にて公開されたものが好ましく用いられる。
【0065】
ウェブWの光透過率は、80%以上であることが好ましく、86%以上であることが更に好ましい。ウェブWのヘイズは、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることが更に好ましい。ウェブWの屈折率は、1.4〜1.7であることが好ましい。
【0066】
ウェブWの厚さは特に限定されないが、30〜150μmが好ましく、40〜130μmがより好ましく、70〜120μmが更に好ましい。
【0067】
塗布液用分散媒としては、特に限定されない。単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
好ましい分散媒体は、トルエン、キシレン、スチレン等の芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、オルトージクロルベンゼン等の塩化芳香族炭化水素類、モノクロルメタン等のメタン誘導体、モノクロルエタン等のエタン誘導体等を含む塩化脂肪族炭化水素類、メタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、エチルエーテル、1,4 −ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素類、脂肪族又は芳香族炭化水素の混合物等が該当する。
【0069】
これら溶媒の中でも、ケトン類の単独又は2種以上の混合により作成される塗布用分散媒が特に好ましい。
【0070】
本発明の送液方法、及び送液システムでは、液物性により塗布可能な上限の速度が大きく影響を受けるため、塗布する瞬間の液物性、特に粘度及び表面張力を制御する必要がある。
【0071】
塗布液によっては、せん断速度により粘度が変化するものもあるため、上記の値は塗布される瞬間のせん断速度における粘度を示している。塗布液にチキソトロピー剤を添加して、高せん断のかかる塗布時は粘度が低く、塗布液にせん断が殆どかからない乾燥時は粘度が高くなると、乾燥時のムラが発生しにくくなり、好ましい。
【0072】
また、液物性ではないが、ウェブに塗布される塗布液の量も、塗布可能な上限の速度に影響を与える。ウェブに塗布される塗布液の量は2.0〜10.0ml/mであることが好ましい。ウェブに塗布される塗布液の量を増やすと、塗布可能な上限の速度が上がるため好ましいが、ウェブに塗布される塗布液の量を増やしすぎると、乾燥にかかる負荷が大きくなるため、液処方・工程条件によって最適なウェブに塗布される塗布液の量を決めることが好ましい。また、塗布量はレイノルズ数Reや脈動率(ムラ)に影響を与える。同じ脈動率でも塗布量の少ない方が、相対的にムラが大きくなる。そのため、段ムラ等の面状への影響が大きく、脈動変動に対する許容幅が小さくなる。
【0073】
表面張力については、15〜36mN/mの範囲にあることが好ましい。レベリング剤を添加するなどして表面張力を低下させることは、乾燥時のムラが抑止されるため好ましい。一方、表面張力が下がりすぎると、塗布可能な上限の速度が低下してしまうため、17〜32mN/mの範囲がより好まく、19〜26mN/mの範囲が更に好ましい。
【0074】
以下、塗布液を塗布する工程について説明する。
【0075】
塗布液タンク40より送液ポンプ46により圧送された塗布液14は、第2の圧力指示計48、濾過フィルタ付減圧脱気装置50、流量計52、オリフィス54、脈動吸収装置56を経て送液配管42を介してスロットダイ12に供給される。このスロットダイ12の上流側に、脈動吸収装置56及びオリフィス54が設けられているので、塗布液の送液脈動を有効に抑制できる。
【0076】
そして、コーティングローラ11に支持されて連続走行するウェブWに対して、スロットダイ12から塗布液14をビードにして塗布することにより、ウェブW上に塗膜が形成される。この際、スロットダイ12において塗布液の送液脈動が抑制されているので、送液脈動による面状欠陥がなく、膜厚均一性が高い塗布が実施できる。
【0077】
すなわち、図1に示される塗布工程10により、塗布液14を塗布したところ、スジ欠陥が少なく、膜厚均一性が向上した。したがって、本実施の形態によれば、送液脈動による面状欠陥がなく、膜厚均一性が高い反射防止フィルム等の光学フィルムを製造することができる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、製造条件等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0079】
<塗布液>
下記の組成物を、107質量部のメチルエチルケトンに溶解して塗布液を調製した。塗布液の粘度はメチルエチルケトンの添加量を加減して、液粘度を1〜10mPa・s、表面張力を23mN/mに調整した。
・ディスコティック液晶性化合物TE(1)…41.01質量部
・エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)…4.06質量部
・セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)…0.9質量部
・セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製) …0.21質量部
・フルオロ脂肪族基含有ポリマー(メガファックF780 大日本インキ(株)製)…0.14質量部
・光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)…1.35質量部
・増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)…0.45質量部
【0080】
【化1】

【0081】
<塗布条件>
実施例は、図1に示す光学補償フィルムの塗布工程10により、光学補償フィルム用の塗布液を塗布する例で行った。塗布速度を40m/分とし、送液流量を385〜500cc/minに設定して塗布を行った。
【0082】
オリフィス54の下流側に、脈動吸収装置56を配置した。図4に示す脈動吸収装置56の形成された1次室103に塗布液を下側から上側に抜けるように流した。弾性膜115は1次室103で接液し、反対面には気体(空気)が接するように設置した。今回の脈動吸収装置56の2次室104側には、微小圧力を制御させるため圧力調整バッファ120に圧力を掛けずに開放系とした。
【0083】
脈動吸収装置56とスロットダイ12との間に設置した微差圧計Aで圧力変動を測定した。微差圧計は、GEセンシング社製の高精度圧力トランスミッタ(型番:PTX620)を使用し、キーエンス社製のデータレコーダー(型番:NR−2000)に接続して送液脈動を測定した。
【0084】
脈動は、圧力波の強度ピークを平均圧力で割ったものを脈動率として用い、脈動吸収装置後で測定した。
【0085】
図5に示す表1は、実施例1〜9と比較例1〜9につい塗布条件、及び評価結果をまとめて一覧表にしたものである。
【0086】
評価手段として、脈動は先に記載した様な計算方法で計算しその値を記載し、塗布膜の評価として、脈動起因で起こる段状ムラを見本と照らし合わせ官能評価で評価を行った。また、判定は、脈動レベルと面状評価を総合することで行なった。○は製品として良好なレベルであり、△は製品として使用可能なレベルであり、×は製品として使用できないレベルを表している。
【0087】
オリフィスと脈動吸収装置を備えている実施例1〜9は、段ムラ及び判定に関して○以上の結果が得られた。
【0088】
一方で、レイノルズ数が2500以上で、オリフィスのみを備え、脈動吸収装置を備えていない比較例1〜5、7〜9に関して、判定は全て×の評価であった。オリフィスと脈動吸収装置を備えることで、微小振動が効果的に吸収又は低減できることが理解できる。
【0089】
比較例6は、液粘度が5mPa・Sの塗布液を使用した例である。液粘度が比較的高い場合、レイノルズ数は小さくなる。オリフィスを通過する塗布液は層流に近い状況となっているため、微小振動が生じくい。したがって、比較例6では脈動吸収装置を備えていないにもかかわらず、段ムラ及び判定に関して○以上の結果が得られたと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る送液方法を適用した塗布工程を示す構成図
【図2】オリフィスの一例を示す概略構成図
【図3】オリフィスの別の例を示す概略構成図
【図4】脈動吸収装置を示す概略構成図
【図5】実施例の条件及び結果を示す表
【符号の説明】
【0091】
10…塗布工程、11…コーティングローラ、12…スロットダイ、42…送液配管、46…送液ポンプ、48…圧力計、50…濾過フィルタ付減圧脱気装置、52…流量計、54…オリフィス、56…脈動吸収装置、101…本体A、102…本体B、103…1次室、104…2次室、106…流入口、107…流出口、108…流入路、109…流出路、110…通気孔、115…弾性膜、120…圧力調整バッファ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を送液配管に送液する工程と、
前記塗布液を、前記送液配管の一部に設けられた振動伝播を抑制するオリフィスを通過させる工程と、
前記塗布液を、前記オリフィスの下流側で、前記送液配管の一部に設けられた脈動吸収装置を通過させる工程と、を備え
前記脈動吸収装置は、液体が流出入できる1次室と、気体を導入される2次室と、前記1次室と前記2次室を隔離するダイアフラムを備えていることを特徴とする送液方法。
【請求項2】
前記塗布液が前記オリフィスの孔部を流れる際の、レイノルズ数Reが2500以上である請求項1記載の送液方法。
【請求項3】
前記オリフィスの孔断面積と前記オリフィス上流側の流路断面積の比が0.05以下である請求項1又は2記載の送液方法。
【請求項4】
前記送液配管の一部に複数の前記オリフィスが設けられる請求項1〜3のいずれか1記載の送液方法。
【請求項5】
塗布液を送液するため送液配管と、
前記送液配管の一部に設けられた振動伝播を抑制するオリフィスと、
前記オリフィスの下流側で、前記送液配管の一部に設けられた脈動吸収装置と、を備え、
前記脈動吸収装置は、液体が流出入できる1次室と、気体を導入される2次室と、前記1次室と前記2次室を隔離するダイアフラムを備えていることを特徴とする送液システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−75792(P2010−75792A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244457(P2008−244457)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】