説明

送風機能を備える椅子

【課題】 利用者が個々に温熱環境を調整することを可能とするための低消費電力型の送風機能付き椅子を提供する。
【解決手段】 着座する利用者に送風を行う機能を備える椅子であって、上面に空気の吸入を行う第1の空気吸入部を有する座部、又は、前面に空気の吸入を行う第2の空気吸入部を有する背凭れ部と、前記利用者に向けて空気を噴出する空気噴出口と、前記第1の空気吸入部から吸入した空気を前記空気噴出口に向けて送る送風手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風機能を有する椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル内のオフィスや劇場など、比較的広い空間を有するスペースにおける冷房は、室内の適所において測定される室温が設定温度に近付くように、天井などの吹出口から噴出させる冷風の温度や強度を調整することにより行われており、この設定温度は、大多数の人が快適と感じる温度を目安に設定される場合が多い。
【0003】
しかし、上記のような温度調整を行っても、例えば、冷風の通路に当たる場所では温度が低くなり、その陰になる場所や外光に曝される場所では温度が高くなるなど、室内の温度ムラを完全に解消することは困難である。
【0004】
また、室内の温度をある程度均一に保つことができたとしても、快適と感じる温度は人それぞれ相違しており、室内全体を冷房することで、全ての在室者が快適に過ごせる環境を作ることは困難である。
【特許文献1】実公平5−6381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、椅子の利用者が個々に自分に合った温熱環境を調整することを可能とするための椅子を提供することをその目的とする。
【0006】
また、本発明は、椅子に取り付け可能な程度の充電式のバッテリーにより長時間に渡って利用者に涼感を与えることができる低消費電力型の送風機能を備える椅子を提供することをその目的とする。
【0007】
また本発明は、冷房の設定温度を比較的高温にして節電運転を行った場合でも、在室者が十分な涼感を得ることを可能とするための椅子を提供し、もって、より低消費電力の温熱環境の調整システムを実現することをもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、着座する利用者に送風を行う機能を備える椅子であって、上面に空気の吸入を行う第1の空気吸入部を有する座部と、前記利用者に向けて空気を噴出する空気噴出口と、前記第1の空気吸入部から吸入した空気を前記空気噴出口に向けて送る送風手段とを備えることを特徴とする椅子、或いは、着座する利用者に送風を行う機能を備える椅子であって、前面に空気の吸入を行う第2の空気吸入部を有する背凭れ部と、前記利用者に向けて空気を噴出する空気噴出口と、前記第2の空気吸入部から吸入した空気を前記空気噴出口に向けて送る送風手段とを備えることを特徴とする椅子である。
【0009】
即ち、本発明は、空気噴出口から椅子に着座する利用者に向けて送風を行うようにすることで、利用者が自身の体感温度に応じて、周辺の気流速度を調整できるようにすると同時に、空気噴出口へ供給する空気を座部上面、及び/又は、背凭れ部前面から吸入することにより、利用者の体と座部、又は、背凭れ部の間に籠もる熱を除去し、より効果的に利用者が涼感を感じうるようにしたものである。
【0010】
また、本発明は、等温気流(室内の空気を冷却等することなく、そのまま、利用者に送風することによる気流)を利用するものであるとともに、座部、及び/又は、背凭れ部から吸引した空気を利用者に送風する構成であるために、極めて少ない消費電力で利用者に涼感を与えることが可能であり、従って、送風手段を椅子に取り付け可能なサイズの充電式バッテリーにより動作させるようにした場合であっても、4〜6時間程度の長時間運転を行うことが可能であり、この場合には、椅子を電源ケーブルに接続することが不要となり、椅子の移動性を確保するとともに、足元のケーブルで利用者が躓くなどの懸念を解消することができる。
【0011】
また、本発明の椅子を使用すれば、冷房の設定温度を比較的高温にしても、椅子が備える送風機能、及び、座部、及び/又は、背凭れ部における空気吸引機能により、利用者に十分な涼感を与えることができるため、冷房、及び、本発明の椅子に使用されるトータルの電力を大幅に低減させることが可能となる。
【0012】
また、送風による涼感をより効果的なものとするためには、送風は利用者の胸元や顔、或いは、足元に向けて行うことが好ましく、空気噴出口を肘掛け部の例えば先端部分に設け、この空気噴出口から利用者の胸元や顔、或いは、足元に向けて送風が行われるようにすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の椅子に利用者の離席を検知するセンサーを設け、利用者の離席を検知した場合には送風手段の動作を停止させるようにすることが可能であり、これにより、消費電力を一段と低減させることができ、特に、充電式のバッテリーにより送風手段を動作させるようにした場合には、バッテリーによる送風手段の動作時間を延長することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る送風機能を有する椅子についての説明を行う。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る椅子10の斜視説明図であり、図2は、その内部構造を破線により示す側面説明図であり、図3(a)、(b)は、それぞれ、上記椅子10が備える肘掛け部13の上面図、及び、底面図である。
【0016】
上記椅子10は、主として、座部11、背凭れ部12、肘掛け部13、及び、脚部14より構成されている。
【0017】
座部11、及び、背凭れ部12には、それぞれの上面、及び、前面側に開口し、送風機ユニット15の吸入口15aに送風管16を介して接続される空洞部11a、12aが形成されており、当該空洞部11a、12aには、連続気泡構造の発泡樹脂よりなるクッション11b、12bが充填され、また、座部11の上面、及び、背凭れ部12の前面は、不図示の布カバーにより覆われている。
【0018】
肘掛け部13は、脚部14に固定される支柱13aと、当該支柱13aの上端において、図1中矢印Aにより示される方向に回転可能に取り付けられた肘乗せ板13bから構成されており、当該肘乗せ板13bの上面、及び、下面には空気噴出口13c、13dが形成されている。
【0019】
これらの空気噴出口13c、13dは、肘乗せ板13b、及び、支柱13aの内部に挿通される送風管17を介して送風機ユニット15の吹出口15bに接続されている。また、空気噴出口13c、13dには、それぞれの噴出口の中心を通る図3の紙面に垂直な軸の周りに回転可能とされ、かつ、傾斜を調整可能とされた複数の羽板13eが取り付けられており、送風機ユニット15から送られる空気の噴出方向の調整を行いうるようにされている。
【0020】
更に、肘乗せ板13bの一方の上面には、送風機ユニット15の電源のON/OFF、及び、風量設定を可能とするための操作盤13fが取り付けられている。
【0021】
また、座部11の下方の適宜の位置には、送風機ユニット15の駆動電力を供給するための充電式バッテリー18が取り付けられており、更に、脚部14には、椅子10に利用者が着座することによる荷重を検知するためのセンサー19が組み込まれている。
【0022】
次に、本実施形態に係る椅子10の動作について説明する。
【0023】
利用者が椅子10に着座し、操作盤13fの電源をONにして好みの風量を設定すると、バッテリー18からの電力により送風機ユニット15が設定された風量に応じた出力で動作し、座部11上面、及び、背凭れ部12前面から空気を吸引することで、座部11、背凭れ部12と利用者の体の間に籠もる熱が除去され、さらに、吸引された空気が空気噴出口13c、13dから利用者に向けて送風される。
【0024】
利用者は、肘乗せ板13bの角度、羽板13eの角度、傾斜を調整することで、空気噴出口13c、13dからの送風方向を変更することができ、利用者は、それぞれの好みに応じて、例えば、空気噴出口13cからの送風を胸元や顔の方向に、空気噴出口13dからの送風を膝や臑の方向に向けるなどして使用することができる。
【0025】
また、操作盤13fの電源をONにした状態のまま利用者が離席した場合には、センサー19がこれを検知して、送風機ユニット15の動作を自動的に停止させ、その後、利用者が再度着席すると、センサー19がこれを検知して、送風機ユニット15の動作を再開させるようになっており、これにより、バッテリーの電力が無駄に消費されることが防止される。
【0026】
バッテリー18の充電方法は任意であり、例えば、肘乗せ板13b先端にバッテリー18の電極に接続される充電用端子を設けるとともに、椅子10と組み合わせて使用する不図示の机の所定の部位に電源端子を設け、利用者が離席時に椅子10を机に当接させて収容したときに、充電用端子が机の電源端子に当接し、バッテリー18の充電が行われるものとすることが可能であり、或いは、バッテリー18に接続される引き出し式の充電用コードを椅子10の適所に収納し、充電時には当該充電用コードを引き出して電源コンセントに接続するようにすることも可能である。
【0027】
次に、本実施形態に係る椅子10による効果を確認するために行った実験について説明する。
【0028】
実験は、健康な大学生年齢の男性8名、女性8名の計16名を被験者とし、26℃、28℃、30℃の3段階の室内温度における椅子10の送風機能使用時、及び、不使用時の被験者の温冷感をアンケート形式で申告させることにより行った。
【0029】
なお、室内の相対湿度は50%RHとし、被験者の着衣量は夏期のオフィスを想定して男性0.71clo、女性0.55cloとし、また、被験者には、オフィス空間での歩行を想定した2.0metの踏み台昇降運動を一定時間間隔で課し、その他の時間は、執務中のパソコン作業を想定した、加算テスト、テキストタイピングを課した。
【0030】
また、アンケートは、それぞれの被験者が感じる温冷感を、「寒い」、「涼しい」、「やや涼しい」、「どちらでもない」、「やや暖かい」、「暖かい」、「暑い」の7段階から選択して申告するものとし、申告は、入室30分後、及び、踏み台昇降運動直後を0分とし、5分毎に7回行うものとした。
【0031】
また、実験で使用した本実施形態の椅子10の風量設定と、座部11での吸い込み風量値、背凭れ部12での吸い込み風量値、及び、空気噴出口13c、13dでの吹き出し風量値の合計値との関係は、図4に示す通りであり、送風機能の使用時には、被験者は、それぞれの好みに応じて風量の設定を行うものとした。
【0032】
上記実験におけるアンケート結果を基に、上記7段階の申告項目を、それぞれ、「寒い」:−3、「涼しい」:−2、「やや涼しい」:−1、「どちらでもない」:0、「やや暖かい」:1、「暖かい」:2、「暑い」:3のように数値化することにより求めた男女それぞれ8名の被験者の平均的な温冷感の経時変化を図5に示す。
【0033】
図5に示されるように、室温が30℃に設定されている場合には、椅子10の送風機能を使用した場合でも被験者の温冷感を大幅に改善することはできないが、室温が26℃、及び、28℃の条件においては、送風機能を使用することにより、男女とも温冷感が大幅に改善し、送風機能使用開始から5〜10分程度で、被験者の平均的な温冷感が「どちらでもない」(暑くも寒くもない状態)に接近していくことが確認された。
【0034】
このように、本発明の椅子10を使用すれば、オフィスなどにおける冷房温度を26〜28℃程度の比較的高温に設定した場合でも、その送風機能を使用することにより在室者の温冷感を快適な状態に保つことが可能であり、従って、本発明の椅子を使用することにより、オフィスなどにおける温熱環境の適正化のために必要とされる電力量を大幅に低減させることが可能である。
【0035】
以上、本発明の一実施形態に係る送風機能を備える椅子についての説明を行ったが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲において種々の改変が可能である。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、空気吸入口を座部、及び、背凭れ部の双方に設ける場合について説明したが、空気吸入口は、座部、及び、背凭れ部のいずれか一方にのみ設けることも可能であり、また、座部、背凭れ部からの空気の吸入を行うとともに、座部、背凭れ部以外の部分からも空気の吸入を行うようにすることも可能である。
【0037】
また、上記実施形態においては、座部、及び、背凭れ部の空洞部、及び、これに充填される連続気泡構造の発泡樹脂により空気吸入部を構成する場合について説明したが、例えば、図6に示すように、座部11、及び/又は、背凭れ部12の空洞部11a、12bにスペーサー11c、12cを介して複数の通気孔11d、12dを形成したクッション11b、12b(連続気泡構造、或いは、独立気泡構造の発泡樹脂など、任意の素材よりなるクッションを使用できる)を充填し、この通気孔11d、12dから空気の吸入を行うようにすることも可能である。
【0038】
また、上記実施形態においては、空気噴出口を左右の肘掛け部の上面、及び、下面に設ける場合について説明したが、空気噴出口を設ける位置や個数は任意であり、利用者に涼風を送風し得る適宜の箇所に適宜の個数設けることが可能である。
【0039】
また、上記実施形態においては、空気噴出口に羽板を設けることで、指向性の送風が行われる場合について説明したが、空気噴出口に微細孔を多数設けた拡散板を取り付けるなどにより、全部、或いは、一部の空気噴出口からは拡散性の送風が行われるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る椅子の斜視説明図。
【図2】本発明の一実施形態に係る椅子の側面説明図。
【図3】(a)は、肘乗せ部の上面図。(b)は、肘乗せ部の底面図。
【図4】本発明の一実施形態に係る椅子における風量設定と、座部、背凭れ部での吸い込み風量値、及び、空気噴出口での吹き出し風量値の合計値との関係を示す説明図。
【図5】本発明の一実施形態に係る椅子の送風機能使用時、及び、不使用時の男女それぞれ8名の被験者の平均的な温冷感の経時変化を示す説明図。
【図6】本発明の他の実施形態に係る椅子の側面説明図。
【符号の説明】
【0041】
10 椅子
11 座部
12 背凭れ部
11a、12a 空洞部
11b、12b クッション
11c、12c スペーサー
11d、12d 通気孔
13 肘掛け部
13b 肘乗せ板
13a 支柱
13c、13d 空気噴出口
13e 羽板
13f 操作盤
14 脚部
15 送風機ユニット
15a 吸入口
15b 吹出口
16、17 送風管
18 バッテリー
19 センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座する利用者に送風を行う機能を備える椅子であって、
上面に空気の吸入を行う第1の空気吸入部を有する座部と、前記利用者に向けて空気を噴出する空気噴出口と、前記第1の空気吸入部から吸入した空気を前記空気噴出口に向けて送る送風手段とを備えることを特徴とする椅子。
【請求項2】
着座する利用者に送風を行う機能を備える椅子であって、
前面に空気の吸入を行う第2の空気吸入部を有する背凭れ部と、前記利用者に向けて空気を噴出する空気噴出口と、前記第2の空気吸入部から吸入した空気を前記空気噴出口に向けて送る送風手段とを備えることを特徴とする椅子。
【請求項3】
前記空気噴出口が、肘掛け部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の椅子。
【請求項4】
前記送風手段が、充電式のバッテリーにより動作することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項5】
利用者の離席を検知するセンサーを更に有し、利用者の離席を検知した場合には、前記送風手段の動作を停止させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項6】
前記送風手段の風量を調整するための操作手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−15023(P2006−15023A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197381(P2004−197381)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】