説明

逆浸透膜の処理方法及び逆浸透膜装置

【課題】複数の逆浸透膜モジュールが並列かつ多段に配列されてなる逆浸透膜装置の逆浸透膜を容易かつ均等に阻止率向上処理することができる逆浸透膜の処理方法と、これに適した逆浸透膜装置とを提供する。
【解決手段】マニホルド10に第1段逆浸透膜モジュール11,12,13が並列に接続され、マニホルド20に第2段逆浸透膜モジュール21,22が並列に接続され、マニホルド30に第3段逆浸透膜モジュール31が接続されている。阻止率向上剤槽40内の阻止率向上剤溶液がマニホルド10,20又は30に供給され、各モジュールに対し均等に供給可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜の阻止率を向上させる方法、及びこれに適した逆浸透膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理に用いられる透過膜、特にナノろ過膜、逆浸透膜などの選択性透過膜の無機電解質や水溶性有機物等の分離対象物に対する阻止率は、水中に存在する酸化性物質や還元性物質などの影響、その他の原因による素材高分子の劣化によって低下し、必要とされる処理水質が得られなくなる。この変化は、長期間使用しているうちに少しずつ起こることもあり、また事故によって突発的に起こることもある。このような阻止率が低下した透過膜の阻止率を向上させ、性能を回復するために、阻止率向上剤が用いられている。
【0003】
一般に高純度の純水を製造するための超純水製造システムには、逆浸透膜装置と、この逆浸透膜装置の透過水を高度処理する電気再生式脱イオン装置または他のイオン交換装置とが組み込まれている。
【0004】
このような超純水製造システムにおいても、逆浸透膜を阻止率向上剤で処理することが提案されている(例えば特許文献1,2)。具体的には、阻止率向上剤含有水を逆浸透膜モジュールに通水して当該モジュールの逆浸透膜を阻止率向上処理する。阻止率向上剤としては、特許文献1ではポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール等が記載されている。特許文献2では、重量平均分子量1000〜10000のポリアルキレングルコール等が阻止率向上剤として示されている。
【0005】
また、特許文献1には、逆浸透膜モジュールを並列かつ多段に配列した逆浸透膜装置において、特定の逆浸透膜モジュールにのみ阻止率向上剤含有水を通水することにより当該モジュールの逆浸透膜のみを阻止率向上処理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−155123
【特許文献2】特開2009−22886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数の逆浸透膜モジュールが並列かつ多段に配列されてなる逆浸透膜装置の逆浸透膜を容易かつ均等に阻止率向上処理することができる逆浸透膜処理方法と、これに適した逆浸透膜装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の逆浸透膜の処理方法は、逆浸透膜モジュールを多段に、かつ少なくとも一部の段では逆浸透膜モジュールを並列に設置してなる逆浸透膜装置の逆浸透膜モジュールを阻止率向上処理する方法において、該逆浸透膜装置を、逆浸透膜モジュールを並列に設置した段において、該段の被処理水の流入側にマニホルドを設け、該マニホルドから各逆浸透膜モジュールへ被処理水を導入するように構成し、該マニホルドに阻止率向上剤を供給し、該マニホルドから阻止率向上剤含有水を逆浸透膜モジュールに導入することにより、該逆浸透膜モジュールの逆浸透膜を阻止率向上処理することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の逆浸透膜の処理方法は、請求項1において、逆浸透膜モジュールを通過した阻止率向上剤含有水を、次段の逆浸透膜モジュールに通水することなく逆浸透膜装置外へ排出することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の逆浸透膜装置は、逆浸透膜モジュールを多段に、かつ少なくとも一部の段では逆浸透膜モジュールを並列に設置してなる逆浸透膜装置において、逆浸透膜モジュールを並列に設置した段において、該段の被処理水の流入側にマニホルドを設け、該マニホルドから各逆浸透膜モジュールへ被処理水を導入するようにし、該マニホルドに阻止率向上剤を目標濃度となるように添加する手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の逆浸透膜処理方法及び逆浸透膜装置では、逆浸透膜モジュールが並列設置されている段の逆浸透膜モジュールの流入側にマニホルドを配置し、各モジュールへは該マニホルドから被処理水を導入するように逆浸透膜装置を構成している。そして、逆浸透膜モジュールの逆浸透膜を阻止率向上処理するに際しては、このマニホルドに阻止率向上剤含有水を供給するようにしたものである。
【0012】
このようにマニホルドに阻止率向上剤含有水を供給することにより、マニホルドから所定濃度の阻止率向上剤含有水を同一段の各モジュールに均等に供給することができ、各モジュールの逆浸透膜を均等に阻止率向上処理することができる。
【0013】
また、複数の段についてそれぞれマニホルドが設けられている場合に、各マニホルドに同一濃度の阻止率向上剤含有水を各モジュールへの通水量が同一となるように供給することにより、各段の逆浸透膜モジュールを均等に阻止率向上処理することができる。
【0014】
逆浸透膜モジュールを通過した阻止率向上剤含有水については、次段の逆浸透膜モジュールに通水することなく逆浸透膜装置外に排出することが好ましい。これは、次段の逆浸透膜モジュールについても、目標どおりの濃度の阻止率向上剤含有水によって阻止率向上処理するためである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態に係る逆浸透膜装置のフロー図である。
【図2】第1段のモジュールの阻止率向上処理方法を示すフロー図である。
【図3】第2段のモジュールの阻止率向上処理方法を示すフロー図である。
【図4】第3段のモジュールの阻止率向上処理方法を示すフロー図である。
【図5】全段のモジュールの阻止率向上処理方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、第1図〜第4図を参照して実施の形態について説明する。なお、この実施の形態では第1段に3個の逆浸透膜モジュールを並列設置し、第2段に2個の逆浸透膜モジュールを並列設置し、第3段に1個の逆浸透膜モジュールを設置しているが、この段数及び各段の逆浸透膜モジュールの並列数はこれに限定されない。
【0017】
<原水の逆浸透膜分離処理時のフロー>
まず、第1図を参照して、原水を逆浸透膜処理する構成について説明する。原水は、原水槽1から原水ポンプ2、原水配管3及び弁3aを介して第1マニホルド10に導入される。この第1マニホルド10内の原水は、配管11a,12a,13aを介して逆浸透膜モジュール11,12,13に導入される。逆浸透膜モジュール11,12,13の透過水は、透過水取出配管11d,12d,13dを介して透過水集合配管4に送られる。各モジュール11,12,13からの濃縮水は濃縮水配管11b,12b,13b及び弁11c,12c,13cを介して第2マニホルド20に導入される。
【0018】
この第2マニホルド20内の水は、配管21a,22aを介して逆浸透膜モジュール21,22に導入される。逆浸透膜モジュール21,22の透過水は、透過水取出配管21d,22dを介して取出集合配管4に送られる。各モジュール21,22からの濃縮水は濃縮水配管21b,22b及び弁21c,22cを介して第3マニホルド30に導入される。
【0019】
この第3マニホルド30内の水は、配管31aを介して逆浸透膜モジュール31に導入される。逆浸透膜モジュール31の透過水は、透過水取出配管31dを介して取出集合配管4に送られる。モジュール31の濃縮水は、配管31b及び弁31cを介して取り出される。各モジュール11〜13,21,22,31は同一のものである。
【0020】
上記の原水の逆浸透膜処理時には、弁3a,11c,12c,13c,21c,22c,31cを開とし、弁11f,12f,13f,21f,22f,42,46,47,51a,52a,53aを閉としておく。この状態でポンプ2を作動させることにより、原水は、第1図の太実線で示すように、直列に3段に接続された第1段逆浸透膜モジュール11〜13、第2段逆浸透膜モジュール21,22及び第3段逆浸透膜モジュール31によって逆浸透膜処理され、透過水が配管4から取り出され、濃縮水が配管31bから取り出される。
【0021】
次に、阻止率向上剤含有水(この実施の形態では水溶液)の通水系統について説明する。
【0022】
阻止率向上剤槽40内の阻止率向上剤水溶液がポンプ41及び弁42を有した配管43を介して原水配管3に供給可能とされている。また、この原水配管3から阻止率向上剤水溶液がマニホルド10に導入可能とされている。また、原水配管3からは配管45及び弁46,47を介して各マニホルド20,30への阻止率向上剤水溶液が供給可能となっている。
【0023】
また、この実施の形態では、第1段モジュール11〜13からの各濃縮水配管11b,12b,13bから配管11e,12e,13eが分岐し、配管51、弁51a、集合配管53及び弁56aを介して第1段モジュール11〜13からの阻止率向上剤排水が系外に排水可能とされている。また、配管11e,12e,13eにはそれぞれ調整弁11f,12f,13fが設けられ、モジュール11〜13それぞれへの阻止率向上剤水溶液の供給量を調整できるようになっている。
【0024】
同様に、第2段モジュール21〜23からの各濃縮水配管21b,22bから配管21e,22eが分岐し、配管52、弁52a、集合配管53及び弁56aを介して第2段モジュール21,22からの阻止率向上剤排水が系外に排水可能とされている。また、配管21e,22eにはそれぞれ調整弁21f,22fが設けられ、モジュール21,22それぞれへの阻止率向上剤水溶液の供給量を調整できるようになっている。
【0025】
各モジュール11〜13,21,22,31からの濃縮水の一部は、配管53,54、弁54aを介して原水槽1に返送可能とされている。
【0026】
各段の逆浸透膜モジュールを阻止率向上処理する場合の通水フローは次の通りである。
【0027】
<第1段逆浸透膜モジュール11〜13の阻止率向上処理時のフロー(第2図)>
弁3a,42,51a,56aを開、弁11c,12c,13c,21c,22c,31c,46,47,53a,54aを閉とする。この状態でポンプ41を作動させると共に調整弁11f,12f,13fの開度を調整して、第2図の太実線の通り、阻止率向上剤水溶液をマニホルド10を介して各逆浸透膜モジュール11,12,13に均等に供給する。逆浸透膜モジュール11,12,13の逆浸透膜を透過しなかった阻止率向上剤水溶液は、配管11b,12b,13b,51,53を通って逆浸透膜装置外へ排出される。モジュール11,12,13に導入された阻止率向上剤水溶液の一部は、逆浸透膜を透過し、配管11d,12d,13d,4を通って逆浸透膜装置外へ取り出される。
【0028】
このようにマニホルド10を介して各モジュール11〜13に均等に同一濃度の阻止率向上剤水溶液を通水することにより、各モジュール11〜13の逆浸透膜が均等に阻止率向上処理される。なお、阻止率向上剤水溶液が逆浸透膜を透過することにより、逆浸透膜の内部まで阻止率向上処理されるようになる。阻止率向上処理時に配管4から取り出される透過水は、透過水として利用してもよく、原水槽に戻してもよく、廃棄してもよい。
【0029】
<第2段逆浸透膜モジュール21,22の阻止率向上処理時のフロー(第3図)>
弁42,46,52a,56aを開、弁3a,11c,12c,13c,21c,22c,31c,47,51a,53a,54aを閉とする。この状態でポンプ41を作動させると共に調整弁21f,22fの開度を調整して、第3図の太実線の通り、阻止率向上剤水溶液をマニホルド20を介して各逆浸透膜モジュール21,22に均等に供給する。逆浸透膜モジュール21,22の逆浸透膜を透過しなかった阻止率向上剤水溶液は、配管21b,22b,52,53を通って逆浸透膜装置外へ排出される。モジュール21,22に導入された阻止率向上剤水溶液の一部は、逆浸透膜を透過し、配管21d,22d,4を通って逆浸透膜装置外へ取り出される。このようにマニホルド20を介して各モジュール21,22に均等に同一濃度の阻止率向上剤水溶液を通水することにより、各モジュール21,22の逆浸透膜が均等に阻止率向上処理される。
【0030】
<第3段逆浸透膜モジュール31の阻止率向上処理時のフロー(第4図)>
弁42,47,53a,56aを開、弁3a,21c,22c,31c,46,51a,52a,54aを閉とする。この状態でポンプ41を作動させると、第4図の太実線の通り、阻止率向上剤水溶液がマニホルド30を介して逆浸透膜モジュール31に供給される。逆浸透膜モジュール31の逆浸透膜を透過しなかった阻止率向上剤水溶液は、配管53を通って逆浸透膜装置外へ排出される。モジュール31に導入された阻止率向上剤水溶液の一部は、逆浸透膜を透過し、配管31d,4を通って逆浸透膜装置外へ取り出される。なお、マニホルド30には1個の第3段逆浸透膜モジュール31が接続されているが、マニホルド30に複数の第3段逆浸透膜モジュールが接続されている場合には、マニホルド30及び調整弁を介して各第3段逆浸透膜モジュールに均等に同一濃度の阻止率向上剤水溶液を通水することにより、各モジュールの逆浸透膜が均等に阻止率向上処理される。
【0031】
<全段の逆浸透膜モジュール11,12,13,21,22,31の阻止率向上処理時のフロー(第5図)>
上述した通り各段のモジュールはそれぞれの段毎に阻止率向上処理することもできるが、以下に記載するとおり、全段のモジュールを一度に阻止率向上処理することもできる。
全段のモジュールを一度に阻止率向上処理するには、まず、弁3a,42,46,47,51a,52a,53a,56aを開、弁11c,12c、13c,21c,22c,31c,54aを閉とする。この状態でポンプ41を作動させるとともに調整弁11f,12f,13f,21f,22f及び弁53aの開度を調整して、第5図の太実線の通り、阻止率向上剤水溶液をマニホルド10,20,30を介して各逆浸透膜モジュール11,12,13,21,22,31に均等に供給する。逆浸透膜モジュール11,12,13,21,22,31の逆浸透膜を透過しなかった阻止率向上剤水溶液は、配管11b,12b,13b、51,21b,22b,52,53を通って逆浸透膜装置外へ排出される。モジュール11,12,13,21,22,31に導入された阻止率向上剤水溶液の一部は、逆浸透膜を透過し、配管11d,12d、13d,21d,22d,31d,4
を通って逆浸透膜装置外へ取り出される。このように、マニホルド10,20,30を介して各モジュール11,12,13,21,22,31に均等に同一濃度の阻止率向上剤水溶液を通水することにより、各モジュール11,12,13,21,22,31の逆浸透膜が均等に阻止率向上処理される。
【0032】
[逆浸透膜、阻止率向上剤の好適例等の説明]
逆浸透膜(RO膜)は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過させる液体分離膜である。
【0033】
逆浸透膜の膜構造としては、複合膜、相分離膜などの高分子膜などを挙げることができる。逆浸透膜の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材などを挙げることができる。これらの中で、芳香族系ポリアミド膜に本発明に係る阻止率向上処理を好適に適用することができる。阻止率向上処理の対象となる逆浸透膜は、未使用の逆浸透膜でもよく、使用により性能が低下した逆浸透膜でもよい。
【0034】
逆浸透膜モジュールの形式については特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを適用することができる。
【0035】
阻止率向上処理は、未使用の逆浸透膜の場合、そのまま阻止率向上処理すればよいが、使用により性能が低下した逆浸透膜の場合は薬品洗浄を行ってから阻止率向上処理するのが好ましい。薬品洗浄して膜表面の汚染物質を除去することにより、阻止率向上剤が膜自体に吸着しやすくなる。洗浄薬品としては酸(塩酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸など)、アルカリ(水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウムなど)、酸化・還元剤(過酸化水素、過炭酸、過酢酸、重亜硫酸ナトリウムなど)などが用いられる。これら薬品の水溶液をモジュールに通液したり、逆浸透膜を薬品に浸漬することにより膜を洗浄することができる。
【0036】
好ましい阻止率向上剤としては、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物、タンニン酸などのポリフェノール類、特にポリアルキレングルコール鎖を有する化合物を挙げることができる。ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物等の阻止率向上剤の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜6,000、さらに好ましくは3,000〜5,000である。阻止率向上剤の重量平均分子量が小さすぎると、逆浸透膜の阻止率が十分に向上せず、処理後の阻止率向上剤の定着性も低くなるおそれがある。阻止率向上剤の重量平均分子量が大きすぎると、処理後の逆浸透膜の透過流束が低下するおそれがある。
【0037】
なお、この重量平均分子量は、阻止率向上剤の化合物の水溶液をゲル浸透クロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムからポリエチレンオキシド標準品の分子量に換算することにより求めることができる。ポリエチレンオキシド標準品が入手し得ない高分子量の領域においては、光散乱法、超遠心法などにより重量平均分子量を求めることができる。
【0038】
ポリアルキレングリコール鎖としては、例えばポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリトリメチレングリコール鎖、ポリテトラメチレングリコール鎖などを挙げることができる。これらのグリコール鎖は、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフランなどの開環重合により形成することができる。
【0039】
ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられるが、このかぎりではない。なお、このアルキルとしてはメチル、エチル、プロピルなどが例示される。これらポリアルキレングリコール鎖を有する化合物は1種類で用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。また、混合して一液として用いてもよいし、それぞれ別々に用意し、用いてもよい。実用上の観点からは一液とする方が好ましい。
【0040】
阻止率向上剤槽40から各マニホルド10,20又は30に供給される阻止率向上剤水溶液の濃度は、0.01〜50mg/L程度であることが好ましい。阻止率向上剤水溶液のより好ましい濃度は、用いる阻止率向上剤の種類によって異なり、例えば、前述の重量平均分子量1000〜10000のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物の場合、0.01〜20mg/Lが好ましい。濃度がこれよりも低いと阻止率向上処理に長時間を要するおそれがある。濃度が50mg/Lを超えると、水溶液の粘度が高くなり、逆浸透膜への通水抵抗が大きくなるおそれがある。また、濃度が50mg/Lを超えると、逆浸透膜面に不必要に厚い吸着層が形成されて濃度分極により、かえって阻止率向上効果が弱くなるおそれがある。
【0041】
阻止率向上剤は、1種類のみ用いてもよく、複数のものを組合わせて用いることができる。後者の場合、混合して通液してもよく、また別々に時間をずらせて通液することもできる。
【0042】
阻止率向上剤水溶液を1つの段の逆浸透膜モジュールに通水する1回当りの時間は、0.1〜50時間特に0.2〜24時間とりわけ30分〜10時間程度が好ましい。
【0043】
なお、阻止率向上剤水溶液に、無機電解質又は水溶性有機化合物からなる阻止率確認トレーサーを含有させてもよい。トレーサーを含有する阻止率向上剤水溶液を逆浸透膜モジュールに通水し、透過水中のトレーサー濃度を検知することにより、逆浸透膜の阻止率を経時的に確認して、阻止率向上処理の継続又は停止を判断することができる。例えば、透過水のトレーサー濃度が所定の値に達したとき、逆浸透膜の阻止率は所定の値にまで向上したものと判断し、阻止率向上処理を終了する。この方法によれば、阻止率向上剤水溶液と逆浸透膜との接触時間(通水時間)を必要最小限の長さにすることができる。また、異なる阻止率向上剤を用いて複数回の阻止率向上処理を行う場合も、切り替えのタイミングを逸することなく、複数回の処理を効率的に行うことができる。
【0044】
トレーサーとして用いる無機電解質としては、例えば、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、ホウ酸などを挙げることができる。トレーサーとして用いる水溶性有機化合物としては、例えば、イソプロピルアルコール、グルコース、尿素などを挙げることができるが、イソプロピルアルコールが、取り扱い易く好適である。トレーサーの濃度は、塩化ナトリウムなどの無機強電解質の場合は、1〜500mg/L特に10〜100mg/L程度が好ましい。ホウ酸などの無機弱電解質や、イソプロピルアルコールなどの水溶性有機物の場合は、1〜5000mg/L特に5〜1000mg/L程度が好ましい。
【0045】
上記実施の形態では、阻止率向上剤槽40内の阻止率向上剤水溶液をマニホルド10,20又は30へ供給するようにしているが、原水槽1からの原水にポンプ2の吸込側や配管3において阻止率向上剤を添加して阻止率向上剤水溶液とし、この阻止率向上剤水溶液を配管3から第2図、第3図又は第4図のフローに従ってマニホルド10,20又は30に供給してもよい。また、逆浸透膜透過水や純水などを貯めた水槽からポンプで水を送り出し、そこに阻止率向上剤を添加することで、阻止率向上剤水溶液を調製してもよい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらに特に制限されるものではない。
【0047】
[実施例1]
1段目のマニホルド10に9個の逆浸透膜モジュールが連なり、2段目のマニホルド20に5個の逆浸透膜モジュールが連なり、3段目のマニホルド30に2個の逆浸透膜モジュールが連なるように構成されたこと以外は第1図と同様に構成された逆浸透膜装置において、本発明方法に従って逆浸透膜の阻止率向上処理を行った。なお、各逆浸透膜モジュールは耐圧ベッセル内に日東電工製8インチ超低圧芳香族ポリアミド系RO膜ES20の新品膜モジュールを1ベッセルあたり4本装填したものである。
【0048】
第5図に示す方法に従い、各段のマニホルド10,20,30への給水圧力が0.6MPa、逆浸透膜モジュール1個あたりの給水量が5m/hとなるように調整弁11f,12f,13f,21f,22f及び弁53aの開度を調整し、阻止率向上剤槽40内の阻止率向上剤水溶液を逆浸透膜モジュールに通水した。阻止率向上剤としては重量平均分子量3000のポリエチレングリコール20mg/L水溶液を用いた。各逆浸透膜モジュールにそれぞれ2時間通水後、純水でブラッシングを行い、処理を終了した。
【0049】
処理後の逆浸透膜を抜き出し、IPA(イソプロピルアルコール)除去率及びフラックスを測定した。結果を表1に示す。なお、IPA除去率は濃縮水と透過水と原水のIPAをTOC計で測定し、
除去率=[1−(透過水TOC)]/[{(原水TOC)+(濃縮水TOC)}/2]
にて算出した。フラックス(透過水量)は0.74MPa、25℃に換算して算出した。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、マニホルド10に、給水圧力が0.6MPa、1段目のモジュール1本あたりの給水量が5m/hで実施例1と同じ阻止率向上剤水溶液を、濃縮水が順次マニホルド20,30に供給されるように通水して阻止率向上処理を2時間行い、純水でフラッシングを行い、処理を終了した。処理後のエレメントの性能を実施例1と同様にして測定し、表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の通り、実施例1の方が1段目から抜き出した逆浸透膜と3段目から抜き出した逆浸透膜の性能差が小さいことが認められた。
【符号の説明】
【0053】
1 原水槽
10,20,30 マニホルド
11,12,13,21,22,31 逆浸透膜モジュール
40 阻止率向上剤槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜モジュールを多段に、かつ少なくとも一部の段では逆浸透膜モジュールを並列に設置してなる逆浸透膜装置の逆浸透膜モジュールを阻止率向上処理する方法において、
該逆浸透膜装置を、逆浸透膜モジュールを並列に設置した段において、該段の被処理水の流入側にマニホルドを設け、該マニホルドから各逆浸透膜モジュールへ被処理水を導入するように構成し、
該マニホルドに阻止率向上剤を供給し、該マニホルドから阻止率向上剤含有水を逆浸透膜モジュールに導入することにより、該逆浸透膜モジュールの逆浸透膜を阻止率向上処理することを特徴とする逆浸透膜の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、逆浸透膜モジュールを通過した阻止率向上剤含有水を、次段の逆浸透膜モジュールに通水することなく逆浸透膜装置外へ排出することを特徴とする逆浸透膜の処理方法。
【請求項3】
逆浸透膜モジュールを多段に、かつ少なくとも一部の段では逆浸透膜モジュールを並列に設置してなる逆浸透膜装置において、
逆浸透膜モジュールを並列に設置した段において、該段の被処理水の流入側にマニホルドを設け、該マニホルドから各逆浸透膜モジュールへ被処理水を導入するようにし、
該マニホルドに阻止率向上剤を目標濃度となるように添加する手段を設けたことを特徴とする逆浸透膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−20032(P2011−20032A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165910(P2009−165910)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】