説明

逆色素増感型光電池

本発明は、支持材層の箔23b及び第1の導電層23aを含む可とう性のある導電性複合箔23と、酸化物層28と、結晶性金属酸化物半導体層14と、光増感材料15と、電解液(又は他の正孔伝導媒体)16と、触媒層19と、透明な第2の導電層18と、透明で可とう性のある基板26とを含む層状構造又は積み重ね25である太陽電池又は光起電素子1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも第1の導電層、該第1の導電層上に堆積させた結晶性金属酸化物半導体材料の層、透明基板上に堆積させた透明な第2の導電層、及び該半導体材料の層と該第2の導電層との間に含まれる正孔伝導媒体の層状構造を含む光起電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような素子は、米国特許第4,927,721号から知られている。この特許は、実質的に単分子の発色団層(chromophore layer)を表面領域に有する多結晶の金属酸化物半導体層を含む光電気化学電池を開示している。この金属酸化物半導体層は、Ti基板上に堆積させた好ましくは200を超える粗度係数(roughness factor)を有するTiO層である。このTiO層は、チタンエトキシドのメタノール溶液をチタン基板上に塗布し、その後得られたチタンアルコキシドを加水分解して加熱するプロセスを数回繰り返すことによって得られる。
【0003】
米国特許第5,350,644号から知られているのは、多数の好ましくは多孔質の二酸化チタンの層が塗布されており、少なくとも最後の二酸化チタン層が二価又は三価の金属イオンによりドープされているガラス板又は透明なポリマー箔上に堆積されている光透過性導電層を含む光電池である。二酸化チタンと導電層とのこの組合せは、太陽電池の光電極を形成し、その太陽電池は、光透過性基板上に堆積され、対電極を形成する光透過性の第2の導電層を更に含む。光電極と対電極の間に入るのは酸化還元系(redox system)として作用する電解液である。
【0004】
例えば、米国特許第4,927,721号に記載されているような既知の太陽電池の働きは、次の通りである。光電極又は対電極を経由する可視光入射からの光子が、二酸化チタンと電極の界面において電子−正孔の組合せから電子を放出し、その電子は二酸化チタンの伝導帯中に消え、この光電極の導電層を経由して放電される。結果として生じる正孔は、電解液からの電子により補償(supplement)され、一方その電解液は対電極からの電子を受け入れる。電解液による電子の受け入れは、対電極の表面に塗布した触媒によって高めることができ、一方該太陽電池の効率は、二酸化チタン層の表面の増感剤色素によって増加させることができ、その色素は、光を吸収し、ここでは高エネルギー状態を獲得し、二酸化チタンの伝導帯中に殆ど100%の効率で電子を注入することができる。
【0005】
国際公開公報WO99/66520は、少なくとも第1の導電層、この第1の導電層上に堆積させた結晶性金属酸化物半導体材料の層、透明基板上に堆積させた透明な第2の導電層、及び該半導体材料の層と該第2の導電層との間に含有された電解液を含み、該半導体材料の層が金属箔上に堆積されており、その金属箔が第1の導電層を形成している層状構造を含む光起電素子について記載している。
【0006】
Yongseok Junらは、「太陽エネルギー材料及び太陽電池」(Solar Energy Materials & Solar Cells)91巻(2007年)779〜784ページにおいて鋼系色素増感型太陽電池について記載している。
【0007】
伊藤省吾(Seigo Ito)らは、「化学通信」(Chem.Commun.)(2006年)4004〜4006ページにおいて、ナノ結晶のTiO光アノードのためのTi金属基板を有する高効率の可とう性のある色素増感型太陽電池について記載している。
【0008】
W.A.Gazottiらは、「合成金属」(Synthetic metals)108巻(2000年)151〜157ページにおいて、導電性ポリマーに基づく可とう性のある光電気化学デバイスについて記載している。
【0009】
米国特許出願公開第2006/0062902号は、被覆した半導体ナノ粒子及び/又は量子ドットを用いて加工されたCIGS(Cu、In、Ga、Se/S)吸収層について記載している。族番号IB及び/又はIIIA及び/又はVIAからの1つ又は複数の元素を含有するコアナノ粒子及び/又は量子ドットは、族番号IB、IIIA又はVIAの元素を含有する1つ又は複数の層によって被覆することができる。規定量の表面積を有するナノ粒子を用いて、層厚さを調整し、適切な化学量論比、及び/又は結晶相、及び/又は大きさ、及び/又は形状を与えることができる。被覆したナノ粒子は次に、インク、ペースト、又はペイントとして使用するために分散剤(dispersant)中に入れることができる。該コアナノ粒子の適切な被覆によって、結果として得られた被覆されたナノ粒子は、ナノ粒子の大きさの規模の範囲内で混合された所望の元素を有することができ、一方、相は化学量論比を調整することによって制御することができ、被覆したナノ粒子の化学量論比は、塗膜(1つ又は複数)の厚さを制御することによって調整することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の既知の太陽電池は、この電池の大規模利用の障害となる多数の不利な性質を有する。透明な基板材料としてのガラスの使用に固有なのは、例えば時計のような家庭用電化製品分野における特定の製品における使用に対してこの電池を不適当にする太陽電池の頑固な厚さ及び剛性である。ガラスの透明で可とう性のあるプラスチックとの置換は、太陽電池の効率の損失をもたらし得ることが知られている。
【0011】
特に本発明の目的は、透明なポリマー箔が使用されたとき高効率を有しており、簡単なやり方で大量に組み立てることができる非常に小さい厚さの太陽電池を提供することである。
【0012】
更なる目的は、好ましくは上述の不都合に悩まされることがなく、及び/又は好ましくは上記の望ましい特性を提供する新しい太陽電池(本明細書では「光電池」若しくは「PV」電池、又は「光起電素子」としても示す)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、本発明による、半導体材料の層が可とう性のある導電性複合箔の上に堆積され、その可とう性のある導電性複合箔が第1の導電層を提供する、例えば序文において述べたタイプの光起電素子により達成することができ、その他の利点も得ることができる。
【0014】
本発明による太陽電池においては、光は透明な対電極及びその対電極と半導体材料の間の電解液(又はその他の正孔伝導媒体)を経由して半導体材料に作用する。
【0015】
既知の電池における即ち光電極を経由する光の入射の最も自明の様式は、不透明な可とう性のある導電性複合箔の使用によって排除される。本発明による光起電素子は「逆(reversed)太陽電池」である。
【0016】
驚いたことに、本発明による逆太陽電池の効率は、既知の上記の太陽電池(プラスチック材料を含んでなる両方の電極を有し、その光電極は、入射する太陽光の光子によって直接作用し、電解液(又はその他の正孔伝導媒体)を経由しない)におけるよりも高い可能性があることが今や見出された。記録された効率の増加の原因は、基板材料としての可とう性のある導電性複合箔の使用が、ポリマー材料の基板を持つ既知の太陽電池におけるより高温において半導体材料の層の焼結を可能にする事実に求められる。
【0017】
更にまた、可とう性のある導電性複合箔は、製造するのが比較的容易であり、及び/又は加工するのが簡単であり、及び/又はその他の箔、例えば、純粋なチタン(Ti)、スズ(Sn)又は亜鉛(Zn)箔等と比較して相対的に高い機械的強度を有することができる。更なる利点は、該導電層が支持材層の箔によって環境から十分に保護されることであり得る。更に別の利点は、支持材層の箔の材料としてふんだんに入手できる材料(例えば、市販されている箔の形で)を利用することができることである。
【0018】
それ故に、本発明は、特に、層状構造を含む光起電素子(又は太陽電池)であって、前記層状構造が、
a.支持材層の箔、及び第1の導電層(好ましくは、チタン層、スズ層及び亜鉛層からなる群から選択される層)であって酸化物層と接触している該第一の導電層を含む可とう性のある導電性複合箔と、
b.該酸化物層であって、結晶性金属酸化物半導体層と接触している該酸化物層、
c.該結晶性金属酸化物半導体層であって、光増感材料と接触している該結晶性金属酸化物半導体層、
d.該光増感材料であって、正孔伝導媒体と接触している該光増感材料、
e.該正孔伝導媒体であって、触媒層と接触している該正孔伝導媒体、
f.該触媒層であって、透明な第2の導電層と接触している該触媒層、
g.該透明な第2の導電層であって、透明基板と接触している該透明な第2の導電層、並びに
h.該透明基板(特に可とう性のある透明基板)
を含む上記光起電素子を提供する。
【0019】
そのような太陽電池としての層状構造又は積み重ねは、可とう性があり、効率的且つ安定である。
【0020】
好ましい実施形態において、この可とう性のある導電性複合箔は、支持材層の箔及び第1の導電層を含む積層体を含むことができる。本明細書において箔の形態の支持材層は、「支持材層の箔」として示されている。
【0021】
一般に、支持材層の箔は、鉄箔、鉄合金箔、鋼箔(例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、HSLA(高強度低合金)鋼、又は工具鋼の箔を含む)、アルミニウム箔、銅合金箔、真鍮(CuZn)箔、抵抗箔(CuNi)、ニッケル箔、銀箔、ニッケル銀箔、及び鉄ニッケル箔(例えばインバーなど)からなる群から選択することができ、第1の導電層は、チタン層、スズ層及び亜鉛層からなる群から選択される層を含むことができる。
【0022】
ある実施形態において、該支持材層の箔は、鉄箔又は鉄合金箔を含み、該第1の導電層は、チタン層を含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、鉄箔又は鉄合金箔を含み、該第1の導電層は、スズ層を含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、鉄箔又は鉄合金箔を含み、該第1の導電層は、亜鉛層を含む。特に該箔は、鉄合金の箔、例えば鋼箔などを含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、アルミニウム箔を含み、該第1の導電層は、チタン層を含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、アルミニウム箔を含み、該第1の導電層は、亜鉛層を含む。更に別の実施形態において、該支持材層の箔は、アルミニウム箔を含み、該第1の導電層は、スズ層を含む。
【0023】
支持材層の箔及び第1の導電層を含むそのような積層体は、例えば、支持材層の箔を準備し、その上に第1の導電層を堆積させることによって得ることができる。堆積は、ある実施形態においては電気化学的析出であり得、噴霧熱分解又は化学蒸着(場合によって酸化物膜を提供するための焼成が後に続く)であり得る。別の実施形態において、堆積はスパッタリングを含むことができる。当該技術分野において知られている他の技術を適用することもできる。支持材層の箔と第1の導電層とを含む積層体の利点は、その第1の導電層が非常に薄く、例えば約1原子層(約0.1nm)から最大で約100nmまでの範囲であり得ることである。しかしながら、第1の導電層の層厚さは、最大で約1μmまででもあり得る。特に、第1の導電層及び酸化物層は一緒になって、約20〜100nmの範囲の層厚さを有する。しかしながら、第1の導電層及び酸化物層の層厚さは一緒になって、最大で約2μmまででもあり得る。
【0024】
具体的な実施形態において、支持材層の箔及び第1の導電層を含む積層体は、第1の金属をドープした第2の金属層の箔を提供することによって得ることができるが、その場合、その第1の金属は、チタン、亜鉛及びスズからなる群から選択される1つ又は複数の金属を含み、第2の金属層の箔は、特に、鉄箔、鉄合金箔、鋼箔(例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、HSLA(高強度低合金)鋼、又は工具鋼の箔を含む)、アルミニウム箔、銅合金箔、真鍮(CuZn)箔、抵抗箔(CuNi)、ニッケル箔、銀箔、ニッケル銀箔、及び鉄ニッケル箔(例えばインバーなど)からなる群から選択される金属層の箔を含み、第1の金属をドープした第2の金属層の箔に熱処理を施す。熱処理のために第1の金属は第2の金属層の箔の表面に移動することができ、且つ、第2の金属層の箔の上に第1の導電層を形成することができ、それによってある実施形態においては支持材層の箔及び第1の導電層を含む積層体を提供する。
【0025】
更に別の実施形態において、支持材層の箔及び第1の導電層を含む該積層体は、導電性ポリマーと第1の導電層との積層体を含む。
【0026】
更なる実施形態において、該可とう性のある導電性複合箔は、支持材層の箔と導電層の箔(第1の導電層として)との積層体を含む。例えば、この積層体は、鉄箔又は鉄合金箔とチタン箔との積層体を含むことができる。そのような箔は、それらの箔を互いに積層する(圧延のような)ことによって得ることができる。この場合もやはり、支持材層の箔は、鉄箔、鉄合金箔、鋼箔(例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、HSLA(高強度低合金)鋼、又は工具鋼の箔を含む)、アルミニウム箔、銅合金箔、真鍮(CuZn)箔、抵抗箔(CuNi)、ニッケル箔、銀箔、ニッケル銀箔、及び鉄ニッケル箔(例えばインバーなど)からなる群から選択することができ、導電層の箔(第1の導電層としての)は、チタン箔、スズ箔及び亜鉛箔からなる群から選択される箔を含むことができる。
【0027】
この実施形態において、第1の導電層の箔の層厚さは、例えば、約5〜200μm、特に10〜100μmの範囲内であり得る。それ故に、第1の導電層の箔及び酸化物層を合わせた層厚さは、同様にまた、約5〜200μm、特に10〜100μmの範囲内であり得る。
【0028】
支持材層の箔に関しては、多数の実施形態において上で記したように、特に好ましい支持材層の箔は、鉄又は鉄合金、例えば、鋼箔(例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、HSLA(高強度低合金)鋼、又は工具鋼の箔を含む)、及び鉄ニッケル箔(例えばインバーなど)などを含むものである。該支持材層の箔は、第1の導電層と接触している。
【0029】
亜鉛、スズ又はチタンの使用により、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタンの表皮が、その上に堆積されている半導体層が焼結されると、それぞれに生じることができ、その「表皮(skin)」は、一方において下にある亜鉛、スズ、チタンに対する保護をそれぞれに与えることができ、他方ではその光電気特性のお陰で良好な導電体を提供することができる。第1の導電層の金属の酸化物表皮は、本明細書では「自然(native)酸化物」又は「自然酸化物表皮」としても指し示す。
【0030】
別法では(又は場合によっては、また追加として)、非自然酸化物(「表皮」)を提供することができる。例えば、酸化亜鉛層を、チタンを含む第1の導電層に提供することができ、又は酸化チタン層を、亜鉛を含む第1の導電層に提供することができる等である。そのような非自然酸化物層は、例えば、チタン層(支持材層の箔に接続されている)及び亜鉛層(酸化物前駆体層)又は別法では亜鉛層(支持材層の箔に接続されている)及びチタン層(酸化物前駆体層)を含む多層構造のものを提供することによって提供することができ、ここで、(少なくとも一部の)後の層(即ち、それぞれ酸化亜鉛及び酸化チタンの前駆体層)は、この酸化物前駆体層に半導体層を焼結する間に酸化されて酸化物を形成する。そのような非自然酸化物は、例えば、複数の実施形態において電気化学的析出であり得、噴霧熱分解又は化学蒸着(場合によって酸化物膜を提供するための焼成が後に続く)であり得る堆積によって提供され得る。
【0031】
それ故、該酸化物層は、自然酸化物層又は非自然酸化物層からなる群から選択することができ、酸化チタン、酸化スズ及び酸化亜鉛からなる群から選択される1つ又は複数の酸化物を含むことができる。
【0032】
ここでは亜鉛又はチタンの代わりにチタン亜鉛合金も利用することができ、即ち、第1の導電層及び/又は酸化物層は、それぞれ合金又は混合酸化物を含むことができる。それ故、自然酸化物又は非自然酸化物層は、混合酸化物(即ち、混合酸化チタン酸化亜鉛)でもあり得る。
【0033】
したがって、該第1の導電層は、チタン、亜鉛及びスズからなる群から選択される1つ又は複数の金属を含むことができる。それ故、ある実施形態における語句の「チタン層、スズ層及び亜鉛層からなる群から選択される層」とは、チタン、亜鉛及びスズからなる群から選択される1つ又は複数の金属を含む層をも指す。チタン又はチタン合金、とりわけチタンは、第1の導電層として好ましい。
【0034】
同様に、該酸化物層は、チタン、亜鉛及びスズからなる群から選択される1つ又は複数の酸化物を含むことができる。この酸化物層は、第1の導電層の最上層の酸化の結果としての1つ又は複数の自然金属酸化物(即ち、自然酸化物又は自然酸化物層)を含むことができる。
【0035】
更なる態様において、本発明は、酸化物層が第1の導電層である光起電素子を提供する。したがって、本発明は、特に、層状構造を含む光起電素子(又は太陽電池)であって、前記層状構造が、
a.i.支持材層の箔、及び
ii.第1の導電層であって、導電性酸化物層であり、結晶性金属酸化物半導体層と接触している該第1の導電層、
を含む可とう性のある導電性複合箔と、
b.該結晶性金属酸化物半導体層であって、光増感材料と接触している該結晶性金属酸化物半導体層、
c.該光増感材料であって、正孔伝導媒体と接触している該光増感材料、
d.該正孔伝導媒体であって、触媒層と接触している該正孔伝導媒体、
e.該触媒層であって、透明な第2の導電層と接触している該触媒層、
f.該透明な第2の導電層であって、透明基板と接触している該透明な第2の導電層、並びに
g.該透明基板(特に可とう性のある透明基板)
を含む上記光起電素子(又は太陽電池)を提供する。
【0036】
好ましくは、第1の導電層は、金属層を準備し、前記金属層を酸化して導電性酸化物層を提供することによって得られる層である。この層は、完全に又は部分的に酸化させることができる。特定の実施形態において、この金属層は、チタン層、スズ層及び亜鉛層からなる群から選択される。このようにして、導電性酸化物層は、チタン酸化物、スズ酸化物及び亜鉛酸化物からなる群からそれぞれに選択される。
【0037】
この実施形態の利点は、上記のPVを製造することができる相対的な容易さであり得る。例えば、既知の支持材の箔(下記参照)の上に金属酸化物層を当該技術分野において知られている技法(同様に下記参照)により配置することができる。
【0038】
ここで、可とう性のある導電性複合箔は、支持材層の箔及び第1の導電層を含む積層体を含むことができる。本明細書において、箔の形の支持材層は、「支持材層の箔」として指し示す。
【0039】
一般に、支持材層の箔は、鉄箔、鉄合金箔、鋼箔(例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、HSLA(高強度低合金)鋼、又は工具鋼の箔を含む)、アルミニウム箔、銅合金箔、真鍮(CuZn)箔、抵抗箔(CuNi)、ニッケル箔、銀箔、ニッケル銀箔、及び鉄ニッケル箔(例えばインバーなど)からなる群から選択することができ、第1の導電層は、酸化チタン層、酸化スズ層及び酸化亜鉛層からなる群、又はこれらの酸化物の2つ以上の混合酸化物からなる群から選択される層を含むことができる。
【0040】
ある実施形態において、支持材層の箔は、鉄箔又は鉄合金箔を含み、第1の導電層は、酸化チタン層を含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、鉄箔又は鉄合金箔を含み、該第1の導電層は、酸化スズ層を含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、鉄箔又は鉄合金箔を含み、該第1の導電層は、酸化亜鉛層を含む。特に、この箔は、鉄合金箔、例えば鋼箔などを含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、アルミニウム箔を含み、該第1の導電層は、酸化チタン層を含む。別の実施形態において、該支持材層の箔は、アルミニウム箔を含み、該第1の導電層は、酸化亜鉛層を含む。更に別の実施形態において、該支持材層の箔は、アルミニウム箔を含み、該第1の導電層は、酸化スズ層を含む。
【0041】
支持材層の箔及び第1の導電層を含むそのような積層体は、例えば、支持材層の箔を準備し、その上に第1の導電層を堆積させて提供することにより得ることができる。堆積は、ある実施形態においては電気化学的析出であり得、噴霧熱分解又は化学蒸着(場合によって酸化物膜を提供するための焼成が後に続く)であり得る。別の実施形態において、堆積はスパッタリングを含むことができる。当該技術分野において知られている他の技術を応用することもできる。支持材層の箔と第1の導電層(この第1の導電層は導電性酸化物層である)とを含む積層体の利点は、その第1の導電層が非常に薄く、例えば約1原子層(約0.1nm)から最大で約100nmまでの範囲であり得、且つそのような実施形態が比較的容易に作製できることである。しかしながら、第1の導電(酸化物)層の層厚さは、最大で約1μmまででもあり得る。特に、第1の導電(酸化物)層は約20〜100nmの範囲の層厚さを有し得る。しかしながら、第1の導電(酸化物)層の層厚さは最大で約2μmまででもあり得る。
【0042】
本発明による光起電素子における半導体材料は、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ又は、好ましくは、酸化チタンである。ある実施形態において、これらの酸化物の2つ以上の組合せを半導体材料として利用することもできる。
【0043】
半導体材料の層は、好ましくは、その上に堆積させた光増感物質(photosensitization material)、特にそれ自体当分野においては知られている適切な色素から選択される光増感色素を含む。
【0044】
該半導体材料は多孔質材であり、その微細孔中に、該半導体材料上に堆積された光増感物質が堆積されている。その上には電解質としても示される電解液(又はその他の正孔伝導媒体)が設けられる。
【0045】
本明細書では用語「電解質」を使用する。この用語は、当業者には既知である。好ましい電解質は、ヨウ素に基づく(即ちヨウ化物/ヨウ素)。電解質の代わりに、その他の正孔伝導媒体、例えば、P3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン))等の正孔伝導性ポリマー、又はスピロ−O−Me TAD等の有機正孔伝導材料も利用することができる。したがって、ある実施形態において、用語「電解液」は、「正孔伝導媒体」としてより広く解釈することができ、かくして該光増感材料は、正孔伝導媒体、例えば、ヨウ化物/ヨウ素系電解質などの電解液と接触しており、この正孔伝導媒体は、触媒層と接触している。
【0046】
この触媒層は、炭素、白金及びパラジウム、特に白金及び/又はパラジウムからなる群から選択される1つ又は複数の触媒を含むことができ、しかし別の実施形態においては触媒的に活性な導電性ポリマー、例えば、特にポリ(ジオクチル−ビチオフェン)(当技術分野では「PEDOT」としても知られている)なども含むことができる。
【0047】
本発明による光起電素子における透明基板は、可とう性のあるプラスチック材料の箔(透明ポリマー箔としても示される)、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)、特にその相対的に有利な熱特性によりPENの箔を特に含む。
【0048】
本発明の実施形態を、次に、ほんの一例として、参照記号が対応する部分を示している添付の概略図を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1a】本発明による太陽電池の非限定の実施形態の概略を示す断面図であり、この図は実際の寸法に基づいてはいない。
【図1b】本発明による太陽電池の非限定の実施形態の概略を示す断面図であり、この図は実際の寸法に基づいてはいない。
【図1c】本発明による太陽電池の非限定の実施形態の概略を示す断面図であり、この図は実際の寸法に基づいてはいない。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1a及び1bは、可とう性のある導電性複合箔23、ナノ結晶の二酸化チタンの多孔質層14(又はその他の半導体)、適当な色素増感剤の層15、(リチウム)ヨウ化物/ヨウ素溶液16(又はその他の正孔伝導媒体、例えばヨウ化物/ヨウ素系電解質など)、及び透明基板26、特に可とう性のある箔26、例えば、上に透明な導電性酸化物(TCO)(例えばインジウムスズ酸化物など)の層18が堆積されているPENで実質的に組み立てられている太陽電池1の積み重ね又は層状構造25を概略的に示している。層15は非常に簡略化した様式で示されている。実際には、色素増感剤は、溶液状態で半導体層14に塗布され、該色素が半導体表面全体を覆うようにその微細孔中に浸透する。可とう性のある導電性複合箔23は、支持材層の箔23b及びある実施形態においては箔でもあり得る第1の導電層23aを含む(図1a)。
【0051】
二酸化チタンの層14は、それ自体は既知の方法に従って二酸化チタンのコロイド粒子の分散液を可とう性のある導電性複合箔23上に焼結することによって形成させることができ、その焼結した二酸化チタン14と複合箔23の間には二酸化チタン等の酸化物の層28が存在し、それが下にある第1の伝導層23aを正孔伝導媒体(例えばヨウ化リチウム/ヨウ素など)16の腐食作用に対して保護する。
【0052】
この図は、例えば、ヨウ化リチウム溶液中の中性のIを対電極18からの電子を受け取ることによってヨウ素に変換するための触媒、例えば、炭素の層19(実際の寸法通りには示されていない)を更に示している。この太陽電池1において、光(hνと示されている矢印によって示されており、hがプランクの定数、νが入射光の周波数を表す)は、対電極又は第2の導電層18及び正孔伝導媒体としてのヨウ化リチウム/ヨウ素溶液16を経由して色素層15に入射する。別の触媒は、例えば、白金又は場合によってパラジウムであり得る。好ましい実施形態においてはPtが触媒として利用される。
【0053】
図1aは、特に、第1の導電層が基本的に第1の導電層23aからなる実施形態を概略的に示しており、それに対して図1bは、第1の導電層が基本的に第1の導電層の箔123aからなる実施形態を概略的に示している。
【0054】
それ故、本発明は、支持材層の箔23b及び第1の導電層23aを含む可とう性のある導電性複合箔23と、酸化物層28と、結晶性金属酸化物半導体層14と、光増感材料15と、電解液(又は他の正孔伝導媒体)16と、触媒層19と、透明な第2の導電層18と、透明で可とう性のある基板26とを含む層状構造又は積み重ね25である太陽電池又は光起電素子1を提供する。
【0055】
本発明は、更に、少なくとも第1の導電層23a、その第1の導電層23a上に堆積させた結晶性金属酸化物半導体材料の層14、その半導体材料14上に堆積させた光増感材料の層15、透明基板26上に堆積させた透明な第2の導電層18、及び半導体材料の層14と第2の導電層18との間に含まれている正孔伝導媒体(例えば電解液など)16の層状構造25を含む光起電素子1を提供し、この光起電素子は可とう性があり、該半導体材料の層14は、可とう性のある導電性複合箔23上に堆積されており、その可とう性のある導電性複合箔23は第1の導電層23a及び支持材層の箔23bを含んでおり、透明基板26は、可とう性のあるプラスチック材料の箔である。
【0056】
特定の実施形態において、第1の導電層23aは、導電性酸化物層を含む(上記も参照)。そのような実施形態は、図1cに概略的に描かれており、上記の実施形態とは対照的に金属のスズ、チタン又は亜鉛は実質的に(層として)存在しないが、実質的には、1つ又は複数のこれらの金属の酸化物のみが存在する。それ故、導電性酸化物層23a及び(自然)酸化物層28は、この実施形態においては1つで同じ層であり、参照符号123bによっても示されており、これは第1の導電層23aを指し、この層は、特に酸化スズ、酸化チタン及び酸化亜鉛の群の1つ又は複数の酸化物から選択される酸化物層である。例えば、支持材層の箔23bは、鉄又は鉄合金の箔であり得、金属としてTi、Sn又はZnを伴う有機金属化合物を用いることによりそれぞれの酸化物が噴霧熱分解によって堆積され、それによって可とう性のある導電性複合箔23が提供される。
【0057】
ここに示されている例は、本発明を説明するために役立つが、その範囲を限定はしないことに注意すべきである。本発明による「逆」色素増感型太陽電池は、例えば、上記のヨウ化リチウムの代わりに、別のそれ自体既知の適切な電解質、例えば、臭化カリウム/臭素又はヨウ化カリウム/ヨウ素など、或いは当技術分野では既知のその他の正孔伝導媒体を含有することもできる。
【0058】
図1a〜1cを参照すると、結晶性金属酸化物半導体層は、特に、二酸化チタンのコロイド粒子の分散液を可とう性のある導電性複合箔23上に焼結させることによって得ることができる。このようにして、ナノ多孔性二酸化チタンのようなナノ多孔性金属酸化物は、当技術分野で知られているように得ることができる。
【0059】
本明細書における、「実質的に全ての放出(emission)」又は「実質的に成る」におけるような用語の「実質的に(substantially)」は、当業者には理解されていよう。この用語の「実質的に」は、「全く(entirely)」、「完全に(completely)」、「全て(all)」等により規定される形態も包含することができる。それ故、その形態において、実質的にという形容詞は、除去することもできる。用語「実質的に」を適用できる場合、90%以上、例えば、95%以上、特に99%以上、更により特定的には100%を含めた99.5%以上に関わることもできる。用語「含む(comprise)」は、用語「含む(comprises)」が「から成る(consists of)」を意味する形態も含む。
【0060】
更に、詳細な説明中及び特許請求の範囲中の用語「第1の」、「第2の」、「第3の」等は、類似の要素の間を区別するために使用されており、必ずしも連続する順序又は時系列順を表現するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で置き換え可能であること、及び本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書に記載されているか示されているものとは別の順序で操作することが可能であることを理解すべきである。
【0061】
本明細書において装置は、とりわけ、操作中のものが記載されている。当業者には明らかなように、本発明は、操作の方法又は操作中の装置に限定されない。
【0062】
上記の実施形態は、本発明を限定するよりもむしろ説明していること、及び当業者であれば添付の特許請求の範囲から逸脱しない多くの別の実施形態を設計することができるであろうことに注意すべきである。特許請求の範囲において、括弧の間に置かれているいずれの引用符号もその特許請求の範囲を限定するものと解釈すべきでない。動詞「含む(to comprise)」及びその活用型は、請求項中に述べられているもの以外の要素又はステップの存在を排除しない。要素の前の冠詞の「ある(a又はan)」は、複数のそのような要素の存在を排除しない。
【0063】
単に、特定の手段が、それぞれ互いに異なる従属クレームにおいて引用されているというは、これらの手段の組合せを有利に用いることができないということを示すものではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造(25)を含む光起電素子(1)であって、該層状構造(25)が、
a.i.支持材層の箔(23b)、及び
ii.チタン層、スズ層及び亜鉛層からなる群から選択される層を含む第1の導電層(23a)であって、酸化物層(28)と接触している該第1の導電層(23a)
を含む可とう性のある導電性複合箔(23)、
b.該酸化物層(28)であって、結晶性金属酸化物半導体層(14)と接触している該酸化物層(28)、
c.該結晶性金属酸化物半導体層(14)であって、光増感材料(15)と接触している該結晶性金属酸化物半導体層(14)、
d.該光増感材料(15)であって、正孔伝導媒体(16)と接触している該光増感材料(15)、
e.該正孔伝導媒体(16)であって、触媒層(19)と接触している該正孔伝導媒体(16)、
f.該触媒層(19)であって透明な第2の導電層(18)と接触している該触媒層(19)、
g.該透明な第2の導電層(18)であって、可とう性のある透明基板(26)と接触している該透明な第2の導電層(18)、並びに、
h.該可とう性のある透明基板(26)
を含む、上記光起電素子(1)。
【請求項2】
前記可とう性のある導電性複合箔(23)が、前記支持材層の箔(23b)及び前記第1の導電層(23a)を含む積層体を含む、請求項1に記載の光起電素子(1)。
【請求項3】
前記第1の導電層(23a)が、チタン層を含む、請求項1又は2に記載の光起電素子(1)。
【請求項4】
前記第1の導電層(23a)及び前記酸化物層(28)が一緒になって、20〜100nmの範囲の層厚さを有する、請求項2又は3に記載の光起電素子(1)。
【請求項5】
前記可とう性のある導電性複合箔(23)が、支持材層の箔(23b)と第1の導電層(23a)としての導電層の箔(123a)との積層体を含む、請求項1に記載の光起電素子(1)。
【請求項6】
前記導電層の箔(123a)が、チタン箔、スズ箔及び亜鉛箔からなる群から選択される箔である、請求項6に記載の光起電素子(1)。
【請求項7】
前記導電層の箔(123a)が、チタン箔である、請求項6又は7に記載の光起電素子(1)。
【請求項8】
前記支持材層の箔(23b)が、鉄箔、鉄合金箔、鋼箔、アルミニウム箔、銅合金箔、真鍮(CuZn)箔、抵抗箔(CuNi)、ニッケル箔、銀箔、ニッケル銀箔、及び鉄ニッケル箔からなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の光起電素子(1)。
【請求項9】
前記支持材層の箔(23b)が、鉄箔及び鉄合金箔からなる群から選択される、請求項1から8までのいずれか一項に記載の光起電素子(1)。
【請求項10】
前記透明基板(26)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)である、請求項1から9までのいずれか一項に記載の光起電素子(1)。
【請求項11】
前記透明基板(26)が、ポリエチレンナフタレート(PEN)である、請求項1から10までのいずれか一項に記載の光起電素子(1)。
【請求項12】
前記酸化物層(28)が、前記第1の導電層(23a)である、請求項1から11までのいずれか一項に記載の光起電素子(1)。
【請求項13】
層状構造(25)を含む光起電素子(1)であって、該層状構造(25)が、
a.i.支持材層の箔(23b)、及び
ii.導電性酸化物層であって、金属層(該金属層は、チタン層、スズ層及び亜鉛層からなる群から選択される)を準備し、前記金属層を酸化して該導電性酸化物層を提供することによって得られる層である第1の導電層(23a)であって、結晶性金属酸化物半導体層(14)と接触している該第1の導電層(23a)
を含む可とう性のある導電性複合箔(23)、
b.該結晶性金属酸化物半導体層(14)であって、光増感材料(15)と接触している該結晶性金属酸化物半導体層(14)、
c.該光増感材料(15)であって、正孔伝導媒体(16)と接触している該光増感材料(15)、
d.該正孔伝導媒体(16)であって、触媒層(19)と接触している該正孔伝導媒体(16)、
e.該触媒層(19)であって、透明な第2の導電層(18)と接触している該触媒層(19)、
f.該透明な第2の導電層(18)であって、可とう性のある透明基板(26)と接触している該透明な第2の導電層(18)、並びに
g.該可とう性のある透明基板(26)
を含む、上記光起電素子(1)。


【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【公表番号】特表2011−528486(P2011−528486A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518676(P2011−518676)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050446
【国際公開番号】WO2010/008294
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(505007434)ステフティング エネルギーオンデルゾエク セントラム ネーデルランド (5)
【Fターム(参考)】