説明

透光体の製造方法

【課題】従来の透光体の製造方法は、遮光部を形成するために、透光性基材にスリットを設ける工程や、加熱によって、染料を透光性基材内に浸透させる工程が必要であり、生産性を上げることが難しかった。特に、加熱によって、染料を透光性基材内に浸透させる工程は、透光性基材がウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂である場合、130℃以上の温度で加熱すると、樹脂内に気泡が発生するため、120℃程度の温度までしか加熱できず、染料を透光性基材内に浸透させるのに、数時間必要であり、加熱時間が長いという課題があった。
【解決手段】電磁波の照射によって発熱する発熱粒子と、染料とを含むインクを透光性基材表面の所定の印刷部に印刷する印刷工程と、電磁波の照射によって前記発熱粒子を発熱させることにより、前記印刷部を加熱して、前記染料を前記透光性基材に浸透させる浸透工程とを有することを特徴とする透光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光体の製造方法に関するものであり、導光体の面方向に導光された光を遮光する透光体の製造方法に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
透光体は、図4に示されるように、透光体106すなわち導光体の側端面から入射されたLED102A,102B,102Cの光を操作キー103A,103B,103Cの底面のそれぞれに照射するスイッチ用照光部材である。また、透光体106は、複数の分割部分106A,106B,106Cから成り、これらの分割部分106A,106B,106Cのそれぞれに対応させてLED102A,102B,102Cを配置するとともに、隣り合う分割部分106Aと106B、及び分割部分106Aと106Cの境界に、LED102A,102B,102Cの光を吸収する遮光部から成る光吸収手段を設けていた。従来の透光体の製造方法は、特許文献1に示されるように、遮光部から成る光吸収手段を設けるため、境界部を分離するスリット120,121を設ける工程と、及びこれらのスリット120,121の内壁に塗布した光不透過性塗料を設ける塗布工程を有していた。
【0003】
また昨今、製造工程の簡略化や遮光部の少面積化のため、境界部を分離するスリット120,121を設ける工程を省きたい場合もあり、スリットを設けないで、遮光部を形成する方法が考案されている。スリットを設けないで、遮光部を形成する方法としては、染料とを含むインクを透光性基材表面に印刷し、加熱によって、染料を透光性基材内に浸透させることで、遮光部を形成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−140871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の透光体の製造方法は、遮光部を形成するために、透光性基材にスリットを設ける工程や、加熱によって、染料を透光性基材内に浸透させる工程が必要であり、生産性を上げることが難しかった。特に、加熱によって、染料を透光性基材内に浸透させる工程は、透光性基材がウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂である場合、130℃以上の温度で加熱すると、樹脂内に気泡が発生するため、120℃程度の温度までしか加熱できず、染料を透光性基材内に浸透させるのに、数時間必要であり、加熱時間が長いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透光体の製造方法は、電磁波の照射によって発熱する発熱粒子と、染料とを含むインクを透光性基材表面の所定の印刷部に印刷する印刷工程と、電磁波の照射によって前記発熱粒子を発熱させることにより、前記印刷部を加熱して、前記染料を前記透光性基材に浸透させる浸透工程とを有することを特徴とする。このことにより、印刷部および透光性基材の染料を浸透させる部分の熱容量が小さく、透光性基材の染料を浸透させる部分が選択的に高温になるため、短時間で、染料を透光性基材に浸透させることができる。
【0007】
また、本発明の透光体の製造方法は、前記電磁波がマイクロ波であることを特徴とする。このことにより、より短時間で、染料を透光性基材に浸透させることができる。
【0008】
また、本発明の透光体の製造方法は、前記発熱粒子がカーボン粒子であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の透光体の製造方法は、前記透光体が導光体であり、前記導光体の面方向に導光された光が、前記染料の浸透した部分によって遮光されることを特徴とする。このことにより、遮光するためのスリットを設ける工程を省略できる。
【0010】
また、本発明の透光体の製造方法は、前記透光体が導光体であり、前記染料の浸透した部分を導光した光の色を変換することを特徴とする。このことにより、導光した白色光を色変換することができるなどの機能を付加できる。
【0011】
また、本発明の透光体の製造方法は、前記印刷部が、前記透光性基材の両面の対向する位置に設けられていることを特徴とする。このことにより、透光性基材の両面から加熱されるため、さらに短時間で、染料を透光性基材に浸透させることができる。また染料が、透光性基材の膜厚方向に優先的に浸透するので、染料が浸透した部分が広がらない。さらに染料が透光性基材の両側から浸透するため、印刷部の面積を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透光体の製造方法は、印刷部および透光性基材の染料を浸透させる部分の熱容量が小さく、透光性基材の染料を浸透させる部分が選択的に高温になるため、短時間で、染料を透光性基材に浸透させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態の透光体の製造方法を説明する図である。
【図2】第1の実施形態の変形例を説明する図である。
【図3】第1の実施形態の別の変形例を説明する図である。
【図4】従来の透光体の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態の例について図を参照しながら詳細に説明をする。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の透光体の製造方法を説明する図である。図2は、第1の実施形態の透光体の製造方法の変形例を説明する図であり、さらに図3は、第1の実施形態の透光体の製造方法の別の変形例を説明する図である。
【0016】
図1は、第1の実施形態の透光体の製造方法を説明する図である。図1(a)は、印刷工程を示す。図1(a)に示されるように、インクを透光性基材6表面の所定の印刷部1に、スクリーン印刷により印刷を行う。インクは、電磁波の照射によって発熱する発熱粒子と染料、樹脂を含んでいる。インクに含まれる電磁波の照射によって発熱する発熱粒子は、カーボンボラックであり、粒子径10〜100nm程度のカーボン粒子である電気化学工業社製のデンカブラックを用い、インクに含まれるカーボンボラックの含有量を1〜10wt%程度にする。またインクに含まれる染料は、透光性基材6に浸透すると光を吸収する黒色の金属アゾ染料を含む染料であり、オリエント化学工業社製のヴァリファストブラック3804を用いる。さらに、インクに含まれる樹脂は、アクリル系樹脂またはエポキシ系樹脂等の紫外線硬化性樹脂である。
【0017】
一方、透光性基材6は、熱可塑性のポリウレタン樹脂からなる0.2mm厚のシートで、一辺が数cmないし十数cm程度の大きさの導光体である。透光性基材6表面の印刷部1の厚さは20μm程度で、印刷部1の線幅は0.8mm程度である。尚、本実施形態においては、印刷部1を形成するため、スクリーン印刷により印刷を行う場合を例示したが、これにかぎられるものではなく、インクジェットなどによる印刷を行ってもかまわない。
【0018】
次に図1(b)は、樹脂の硬化工程を示す。図1(a)に示される印刷工程の後、透光性基材6表面の所定の印刷部1に紫外線を照射する。紫外線は、高圧水銀灯などの光源を用いる。紫外線照射により、インクに含まれる紫外線硬化性樹脂を硬化させる。尚、本実施形態においては、インクに含まれる樹脂が、紫外線硬化性樹脂である場合を例示したが、熱硬化性樹脂であってもかまわない。但し、熱硬化性樹脂の場合は、紫外線照射の代わりに、印刷部1を加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させるか、または、図1(b)に示される樹脂の硬化工程を省き、次に示す浸透工程において、電磁波の照射によって、印刷部1を加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させてもよい。
【0019】
次に図1(c)は、浸透工程を示す。図1(b)に示される樹脂の硬化工程の後、電磁波の照射によって、印刷部1内の発熱粒子であるカーボン粒子を発熱させることにより、印刷部1を加熱する。印刷部1が加熱されることにより、透光性基材6の印刷部1と接する部分から、透光性基材6が加熱される。このことにより、印刷部1内の染料が透光性基材6に浸透する。さらに染料は、印刷部1が形成されていない透光性基材6の対向面4にまで達し、透光性基材6には、染料が浸透した遮光部2が形成される。照射する電磁波は、2.45GHzの周波数のマイクロ波であり、数十Wないし数百Wの電力で照射を行う。これにより、印刷部1および印刷部1に接触した透光性基材6の染料を浸透させる部分を選択的に加熱することができるため、全体を加熱する場合に比べて熱容量が小さく、透光性基材6の染料を浸透させる部分を短時間で加熱することができ、染料を透光性基材6に浸透させることができる。また、透光性基材6の遮光に用いる部分のみを選択的に加熱するため、通常より高い温度に加熱して浸透速度を高めることができる。これは、遮光に用いる部分を従来よりも強度に影響が出ない範囲で高い温度まで加熱して変色や若干の気泡が生じたとしても遮光性能には影響は生じず、導光に必要な部分はそれほど加熱されず導光性能に影響することがないためである。尚、本実施形態では、照射する電磁波が、2.45GHzの周波数のマイクロ波である場合を例示したが、これにかぎられるものではなく、2.45GHz以外のマイクロ波や高周波などであってもかまわない。照射する電磁波が高周波の場合、数十kHz以上の周波数で、印刷部1内の発熱粒子であるカーボン粒子を選択的に誘導加熱できる。
【0020】
上述した図1(a)から図1(c)の工程を経ることで、透光性基材6である導光体に、導光体の面方向に導光された光を遮光する遮光部2が容易に形成できる。このことにより、従来技術で用いられた遮光するためのスリットを設ける工程を省略できる。尚、本実施形態では、発熱粒子がカーボン粒子である場合を例示したが、これにかぎられるものではなく、導電性のあるカーボンナノチューブや金属酸化物粒子などであってもかまわない。
【0021】
本実施形態では、透光性基材6である導光体に、遮光部2を形成する場合を例示したが、次にその変形例を示す。上述した図1(a)から図1(c)の工程は同じであるが、印刷するインクに含まれる染料の種類を変えることで、染料の浸透した部分を導光した光の色を変換することができる。図2は、第1の実施形態の透光体の製造方法の変形例を説明する図であり、インクに含まれる染料の種類を変えて、上述した図1(a)から図1(c)の工程を経て、染料を透光性基材6に浸透させた状態を示している。図2に示すように、透光性基材6である導光体内を導光している光Aは、染料の浸透した部分すなわち色変換部3を導光し、色変換部3を導光した光Bは、光の色を変換させられる。染料の種類は、白色光である光Aを青色の光Bとして、変換する場合は、青の染料であるオリエント化学工業社製ヴァリファストブルー1603を用いる。白色光である光Aを緑色の光Bとして、変換する場合は、緑の染料であるオリエント化学工業社製ヴァリファストグリーン1501を用い、白色光である光Aを赤色の光Bとして、変換する場合は、赤の染料であるオリエント化学工業社製ヴァリファストレッド1308を用いる。
【0022】
上述した変形例のように、インクに含まれる染料の種類を変えることや混合させることにより、導光した白色光を色変換することができるなどの機能を容易に付加できる。尚、本実施形態では、染料が、印刷部1が形成されていない透光性基材6の対向面4にまで達し、色変換部3が形成されている場合を例示したが、製品の機能によっては、染料が、対向面4にまで達しない状態の色変換部3を形成しても良い。この場合、インクに含まれる発熱粒子であるカーボン粒子の濃度を減らすことや、照射する電磁波の電力や照射時間を調整することにより、染料が、対向面4にまで達しない温度に調整する。
【0023】
次に、本実施形態に係る透光体の製造方法の別の変形例について説明する。上述した図1(a)から図1(c)の工程は同じであるが、上述した製造方法では、透光性基材6の片面に印刷部1がある場合を例示したが、印刷部1が、透光性基材6の両面の対向する位置に設けられていても良い。図3は、第1の実施形態の透光体の製造方法の変形例を説明する図であり、図1(a)の印刷工程において、透光性基材6の両面の対向する位置に印刷部1を印刷し、引き続き、図1(b)、図1(c)の工程を経て、染料を透光性基材6に浸透させた状態を示している。
【0024】
図3に示されるように、印刷部1に含まれる発熱粒子であるカーボン粒子が、透光性基材6の両面にあることにより、透光性基材6の両面から加熱されるため、さらに短時間で、染料を透光性基材6に浸透させることができる。また、加熱される透光性基材6のエリアが、透光性基材6の膜厚方向に延び、染料が、透光性基材6の膜厚方向に優先的に浸透するので、染料が浸透した部分が広がらない。このことにより、遮光部2を細く作成することができる。さらに染料が透光性基材6の両側から浸透するため、印刷部1の面積を小さくすることができる。0.2mm厚の透光性基材6に対し、片面より染料を浸透した場合、印刷部1の線幅が0.8mm必要であったものが、両面より染料を浸透した場合、印刷部1の線幅を0.4mm以下にすることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 印刷部
2 遮光部
3 色変換部
4 対向面
6 透光性基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波の照射によって発熱する発熱粒子と、染料とを含むインクを透光性基材表面の所定の印刷部に印刷する印刷工程と、電磁波の照射によって前記発熱粒子を発熱させることにより、前記印刷部を加熱して、前記染料を前記透光性基材に浸透させる浸透工程とを有することを特徴とする透光体の製造方法。
【請求項2】
請求項2に記載の透光体の製造方法において、前記電磁波がマイクロ波であることを特徴とする透光体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透光体の製造方法において、前記発熱粒子がカーボン粒子であることを特徴とする透光体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透光体の製造方法において、前記透光体が導光体であり、前記導光体の面方向に導光された光が、前記染料の浸透した部分によって遮光されることを特徴とする透光体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の透光体の製造方法において、前記透光体が導光体であり、前記染料の浸透した部分を導光した光の色を変換することを特徴とする透光体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の透光体の製造方法において、前記印刷部が、前記透光性基材の両面の対向する位置に設けられていることを特徴とする透光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−230145(P2012−230145A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96664(P2011−96664)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】