説明

透明ガスバリア性包装材料、およびその製造方法

【課題】 酸素ガスあるいは水蒸気等に対する高いバリア性を有し、かつ、プラスチック基材と、無機酸化物との間の密着性が高く、例えば、飲食品、医薬品、化粧品、化学品、電子部品、その他の種々の物品を充填包装する場合に、それぞれの用途に見合う、所望の強度や質感を有する表基材を使用することができる透明ガスバリア性包装材料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 表基材(1)、中間基材(2)、ヒートシール性樹脂層(3)を順に積層した包装材料において、
中間基材(2)が、ポリエチレンテレフタレートフィルム(a)、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂およびエポキシ化合物からなるプラズマ保護層(b)、ならびに無機酸化物(c)を順に積層した透明ガスバリア性フィルムであることを特徴とする上記包装材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリア性包装材料、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、酸素ガスあるいは水蒸気等に対する高いバリア性を有すると共に、耐水強度に優れた透明ガスバリア性フィルムを中間基材として使用した包装材料、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品、医薬品、化粧品、その他の種々の物品を充填包装するために、種々の包装用素材が開発され、提案されている。それらの中で、近年、酸素ガスあるいは水蒸気等に対するバリア性素材として、プラスチックフィルムの表面に、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の無機酸化物を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を利用して、その無機酸化物の蒸着膜を形成してなる透明ガスバリア性フィルムを、表基材として使用した包装材料が注目されている。
【0003】
このような透明ガスバリア性フィルムを使用した包装材料は、ガスバリア性には優れているものの、使用するプラスチックフィルムによっては、プラスチックフィルムと無機酸化物との間の密着性に著しく劣り、耐水強度が極めて低いことから、レトルトおよびボイル処理により無機酸化物がプラスチックフィルムから剥離してしまい実用に供することができない。したがって、プラスチックフィルムと無機酸化物との間の密着性を改善するためには、プラスチックフィルムの種類を選択する必要がある。
【0004】
しかしながら、包装材料の表基材として使用する材料は、通常、包装材料を構成する基本素材となるものであることから、強靱でかつ耐熱性を有することが求められると共に、最外層に位置するものであることから、包装材料の質感を決定付けるものである。したがって、充填包装する内容物によっては、無機酸化物との密着性が低いものであっても、表基材として使用したいという要請がある。
【0005】
一方、プラスチックフィルムと無機酸化物との密着性を向上するために、通常、無機酸化物を蒸着する前に、プラスチックフィルム表面にプラズマ処理を施し、その表面を改質することが行われている。このプラズマ処理のプラズマ出力と処理時間との積(以下、「プラズマ処理強度」という)に比例して、プラスチックフィルム表面の改質が進み、プラスチックフィルムと無機酸化物との密着性は向上する。しかしながら、このプラズマ処理は、同時にプラスチックフィルム表面を劣化させる作用があることから、プラズマ処理強度が、ある上限を超えると、例えばイオンボンバードメント処理を行う場合には、プラスチックフィルム単位面積あたりのプラズマ処理強度が0.01(W/cm2)・秒以上であると、いわゆる、弱境界層(Weak Boundary Layer:WBL)が形成され、逆に密着性が低下する。
【0006】
すなわち、プラスチックフィルム表面をプラズマ処理しただけでは、十分なプラスチックフィルムと無機酸化物との密着性は得られず、そのため、プラズマ処理強度を増強する以外の方法によるプラスチックフィルムと無機酸化物との間の密着性を向上するための様々な手段が提案されている。
【0007】
例えば特許文献1には、「透明プラスチック材料からなる基材の少なくとも片面に透明プライマー層、厚さ5〜300nmの無機酸化物からなる薄膜層、ガスバリア皮膜層を順次積層した強密着ハイバリア透明積層体」が開示されている。特許文献1に記載の透明積層体においては、プラスチック材料と、ガスバリア性皮膜層との密着性を向上するために、ポリエステル樹脂単体または該樹脂とイソシアネート系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂のうちから選ばれる1種類以上の混入樹脂との混合物をプラスチック材料上に塗布するものである。
【0008】
また特許文献2には、「透明プラスチック材料からなる基材の少なくとも片面に、アクリルポリオールとポリエステルポリオールおよびイソシアネート化合物、シランカップリング剤との複合物からなる透明プライマー層、無機酸化物からなる蒸着薄膜層を順次積層したことを特徴とする強密着ガスバリア透明積層体」が開示されている。特許文献2に記載の透明積層体においては、プラスチック材料と、ガスバリア性皮膜層との密着性を向上するために、アクリルポリオールとポリエステルポリオール及びイソシアネート化合物、シランカップリング剤等との複合物をプラスチック材料上に塗布するものである。
【0009】
しかしながら特許文献1および2に記載の発明においては、透明プライマー層を高いプラズマ処理強度で処理する点については、何ら示されておらず、その結果、プラスチック材料と、無機酸化物との間の十分な密着性を得ることができない。また特許文献1および2には、透明プライマー層中に含まれるウレタン樹脂とエポキシ化合物との配合量について何ら示されていない。さらに特許文献1および2に記載の包装材料は、ガスバリア性フィルムを表基材として使用するものであり、中間基材として使用するものでもないことから、所望の強度と質感とを兼ね備える包装材料を得ることはできない。
【特許文献1】特開平9−327882号公報
【特許文献2】特開2000−127300公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、透明ガスバリア性包装材料における、プラスチックフィルムと無機酸化物との間の密着性を向上させるための様々な手段が提案されているが、十分な密着性を有するものは得られていない。さらにこれらの包装材料は、所望の強度や質感を有する表基材を自由に選択できるものでもない。
【0011】
これに対し本発明は、酸素ガスあるいは水蒸気等に対する高いバリア性を有し、かつ、プラスチック基材と無機酸化物との間の密着性が高く、例えば、飲食品、医薬品、化粧品、化学品、電子部品、その他の種々の物品を充填包装する場合に、それぞれの用途に見合う、所望の強度や質感を有する表基材を使用することができる透明ガスバリア性包装材料、およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、無機酸化物を支持するフィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを選択し、さらに、この表面上に、高いプラズマ処理強度で処理しても表面劣化を生じない、すなわちプラズマ耐性を有する特定のプラズマ保護層を設けることで、高いプラズマ処理強度で表面処理を行うことが可能となり、従来のものと比較して、ポリエチレンテレフタレートフィルムと無機酸化物との間の密着性が著しく向上することと、これを中間基材として使用することにより、所望の強度や質感を有する表基材を自由に選択できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の(a)〜(f)に示す発明を包含する。
(a)表基材、中間基材、ヒートシール性樹脂層を順に積層した包装材料において、
中間基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルム、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂およびエポキシ化合物からなるプラズマ保護層、ならびに無機酸化物を順に積層した透明ガスバリア性フィルムであることを特徴とする上記包装材料。
(b)プラズマ保護層中の炭素、窒素、酸素の元素割合における、ウレタン結合由来の窒素元素の割合が3%〜15%(Atomic%)であることを特徴とする(a)に記載の包装材料。
(c)プラズマ保護層中に含まれる水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂とエポキシ化合物との重量の和に対する、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂の重量の割合が、70重量%〜99.5重量%であり、エポキシ化合物の重量の割合が、0.5重量%〜30重量%であることを特徴とする(a)または(b)に記載の包装材料。
(d)ポリエチレンテレフタレートフィルムが、1軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、または2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであり、
プラズマ保護層が、未延伸または1軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、およびエポキシ化合物からなる樹脂層を塗布し、延伸することにより形成したものであることを特徴とする(a)〜(c)のいずれか一項に記載の包装材料。
(e)ポリエチレンテレフタレートフィルムに水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、およびエポキシ化合物からなるプラズマ保護層を塗布し、
プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムのプラズマ保護層面を、高周波方式でイオンボンバードメント処理し、
前記イオンボンバードメント処理したプラズマ保護層面に、物理気相成長法により、無機酸化物を蒸着する工程
を含むことを特徴とする(a)〜(d)のいずれかに記載の包装材料の製造方法。
(f)(e)に記載の製造方法により製造したことを特徴とする包装材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、プラズマ耐性を有する特定のプラズマ保護層を、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に設けることから、高いプラズマ処理強度で表面処理を行うことが可能となり、ポリエチレンテレフタレートフィルムと無機酸化物との間の密着性が著しく向上する。すなわち本発明の包装材料においては、中間基材として上記の透明ガスバリア性フィルムを使用することから、レトルト・ボイル処理後においても、ガスバリア性が良好で、ポリエチレンテレフタレートフィルムと無機酸化物間の剥離による外観不良が生じない透明ガスバリア性包装材料を得ることができる。
【0015】
さらに本発明においては、中間基材として、上記の透明ガスバリア性フィルムを使用することから、所望の強度や質感を有する表基材を自由に選択することができ、例えば、飲食品、医薬品、化粧品、化学品、電子部品、その他の種々の物品を充填包装する場合に、それぞれの用途に適する透明ガスバリア性包装材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面等を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
1.本発明の透明ガスバリア性包装材料の層構成
まず、本発明の透明ガスバリア性包装材料の層構成について説明する。図1は、本発明に係る透明ガスバリア性フィルムの層構成の一例を示す概略的断面図である。
本発明に係る透明ガスバリア性包装材料Aは、図1に示すように、表基材1、中間基材2、ヒートシール性樹脂層3を順に積層した構成を基本構造とするものである。ここで中間基材2は、ポリエチレンテレフタレートフィルムa、プラズマ保護層b、無機酸化物蒸着膜cを順に積層したものであり、そして無機酸化物蒸着膜cが表基材1と、ポリエチレンテレフタレートフィルムaがヒートシール性樹脂層3と対向するように形成される。
【0017】
上記の例示は、本発明に係る包装材料の代表的な一例を示したものであり、本発明はこれによって限定されるものではないことはいうまでもない。例えば、図示しないが、図1において、表基材1と、無機酸化物蒸着膜cとの間にプライマー層を積層した包装材料を例示することもできる。また、本発明においては、その使用目的、用途、充填包装する内容物、その流通形態、販売形態等によって包装材料としての層構成を設計し、表基材、中間基材、ヒートシール性樹脂層、その他の素材を使用して任意に積層して、本発明に係る包装材料を製造することができる。
以下、本発明の包装材料に使用することができる、表基材、中間基材、およびヒートシール性樹脂等について説明する。
【0018】
2.本発明の透明ガスバリア性包装材料を構成する材料、およびその製造方法
(1)表基材
本発明の透明ガスバリア性包装材料において使用する表基材としては、充填包装される内容物の包装材料に要求される機械的、物理的、化学的強度や耐熱性、および質感を満足する樹脂のフィルムないしシートを任意に選択することができる。
具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、およびこれらの混合物等の各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
【0019】
本発明において、上記の各種の樹脂のフィルムないしシートとしては、例えば、上記の各種の樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の製膜化法を用いて、上記の各種の樹脂を単独で製膜化する方法、あるいは、2種以上の各種の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化する方法、さらには、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等により、各種の樹脂のフィルムないしシートを製造し、さらに、要すれば、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸してなる各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
【0020】
本発明において、各種の樹脂のフィルムないしシートの膜厚としては6μm〜100μm、より好ましくは9μm〜50μmが望ましい。
なお、上記の各種の樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、その製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料等の着色剤等を使用することができ、さらには、改質用樹脂等も使用することができる。
【0021】
(2)中間基材
(あ)ポリエチレンテレフタレートフィルム
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいて、無機酸化物の蒸着膜を支持する層に使用する材料として、例えば、テレフタル酸もしくはその誘導体とエチレングリコールとの縮合反応によって得られるポリエチレンテレフタレートのフィルムを使用することが必要である。これ以外の材料、例えばポリアミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂等を使用すると所望の密着性を得ることができない。
【0022】
上記のポリエチレンテレフタレートのフィルムないしシートとしては、未延伸、縦方向または横方向のいずれかの一軸方向、または二軸方向に延伸した延伸フィルムを使用することができる。その延伸方法としては、例えば、フラット法、インフレーション法等の公知の方法で行うことができ、その延伸倍率としては、2倍〜10倍のものを使用することができる。そして、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さとしては、製造時の安定性等から適宜に設定することが可能であるが、約6μmないし100μmが好ましくは、さらには、12μmないし50μmが望ましい。なお、ポリエチレンテレフタレートフィルムには、用途に応じて、例えば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤等の所望の添加剤を、その透明性に影響しない範囲内で任意に添加することができる。
【0023】
(い)プラズマ保護層
本発明の透明ガスバリア性フィルムを構成するプラズマ保護層について説明すると、プラズマ保護層として、プラズマ処理により表面劣化を生じない、すなわちプラズマ耐性を有することと、ガスバリア性の低下をもたらさないような性質を兼ね備えるものを使用する必要がある。このような性質を有するプラズマ保護層としては、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂の1種ないし2種を主成分とし、これに、エポキシ化合物を添加し、さらに必要に応じて、その他の所望の添加剤を任意に添加し、溶剤・希釈剤等で充分に混練してなる硬化性樹脂組成物による塗布ないし印刷膜を使用することができる。以下、硬化性樹脂組成物における水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、エポキシ化合物、添加剤、および溶剤・希釈剤について説明する。
【0024】
(a)水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂
上記の硬化性樹脂組成物における水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂としては、低分子の親水性分散剤等を含有しないものを好適に使用することができる。本発明にいう水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂とは、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを、慣用の手段により反応させて製造する水溶性樹脂または水分散性樹脂を意味する。水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂は、水媒体との親和性を高めるため、カルボキシル基またはその塩(以下、単に「カルボキシル基」という)を含有するものが好ましい。
【0025】
上記のポリヒドロキシ化合物としては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、グリセリン等を使用することができる。
【0026】
また上記のポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物等を使用することができる。
ポリウレタン側鎖へのカルボキシル基の導入は、例えば、ポリウレタン合成の際、原料ポリヒドロキシ化合物の1つとしてカルボキシル基含有ポリヒドロキシ化合物を使用するか、または、未反応イソシアネート基を有するポリウレタンのイソシアネート基に水酸基含有カルボン酸やアミノ基含有カルボン酸を反応させ、次いで、反応生成物を高速攪拌下でアルカリ水溶液中に添加して中和する等の方法によって容易に行うことができる。
【0027】
上記のカルボキシル基含有ポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酢酸、ジメチロール吉草酸、トリメリット酸ビス(エチレングリコール)エステル等が挙げられる。また、水酸基含有カルボン酸としては、例えば、3−ヒドロキシプロピオン酸、γ−ヒドロキシ酪酸、p−(2−ヒドロキシエチル)安息香酸、リンゴ酸等、アミノ基含有カルボン酸としては、例えば、β−アミノプロピオン酸、γ−アミノ酪酸、p−アミノ安息香酸等を使用することができる。
【0028】
(b)エポキシ化合物
上記の硬化性樹脂組成物におけるエポキシ化合物としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物、下記の一般式(2)で表される化合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、下記の一般式(3)で表される水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、下記の一般式(4)で表されるビスフェノールAP02mol付加物ジグリシジルエーテル、および下記の一般式(5)で表される2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルを挙げることができる。
【化1】

【0029】
ここで、上記の一般式(1)で表される化合物として、具体的にはエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール♯200ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール♯400ジグリシジルエーテルを挙げることができ、上記の一般式(2)で表される化合物として、具体的にはプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコール#400ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0030】
上記のエポキシ化合物の中でも好ましい物質としてグリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、下記の一般式(3)で表される水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、下記の一般式(4)で表されるビスフェノールAP02mol付加物ジグリシジルエーテル、下記の一般式(5)で表される2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【化2】

【0031】
(c)添加剤、および溶剤・希釈剤
上記の硬化性樹脂組成物において、添加剤としては、例えば、硬化促進剤、触媒、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤等の添加剤を使用することができる。また、上記の硬化性樹脂組成物において、溶剤・希釈剤としては、例えば、水、またはエタノール、プロピルアルコール、ブタノール等の低級アルコール系溶剤等を使用することができる。さらに、上記の硬化性樹脂組成物においては、例えば、無機酸化物の蒸着膜と親和性の強い無機物、具体的には、シランカップリング化合物等も添加して使用することができる。
【0032】
(d)プラズマ保護層を形成する方法
本発明においては、上記のような各材料を使用し、例えば、上記の水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂の1種または2種以上を主成分とし、これに、上記のエポキシ化合物の1種または2種以上を添加し、さらに、その他、上記の所望の添加剤を任意に添加し、さらに、上記の溶剤・希釈剤等を加えて、ミキシングロール等を使用し、充分に混練して、1液硬化型あるいは2液硬化型等の形態からなる硬化性樹脂組成物を製造し、次いで、該硬化性樹脂組成物を塗布ないし印刷して、プラズマ保護膜を形成することができる。
ここで、所望のプラズマ耐性、およびガスバリア性を得るためには、上記の水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂と、エポキシ化合物との配合割合が重要であり、プラズマ保護層中に含まれる水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂とエポキシ化合物との重量の和に対する、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂の重量の割合が70重量%〜99.5重量%、好ましくは80重量%〜99重量%であり、エポキシ化合物の重量の割合が0.5重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜20重量%であることが望ましい。水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂の配合割合が上記範囲を下回ると、プラズマ耐性が低下し、所望のポリエチレンテレフタレートフィルムと無機酸化物蒸着膜の間の密着性が得られない。またエポキシ化合物の配合割合が上記範囲を下回ると、ガスバリア性が低下するという問題を生ずる。
【0033】
上記の硬化性樹脂組成物の塗布ないし印刷法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ディップコート法、キスロールコート法、リバースロールコート法、スクイーズロールコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の各種を使用することができる。さらに本発明においては、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、または一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、上記硬化性樹脂組成物を、上記の方法で塗布ないし印刷し、その後、さらに延伸することにより、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を形成することもできる。
【0034】
また上記のプラズマ保護層が、所望のプラズマ耐性を有すると共に、ガスバリア性を損なわないためには、プラズマ保護層中のウレタン結合由来の窒素元素の割合が重要であり、具体的には、プラズマ保護層中の炭素、窒素、酸素の元素割合における、ウレタン結合由来の窒素元素の割合が、3%〜15%(Atomic%)であることが必要であり、好ましくは3%〜10%であることが望ましい。
なお、本発明にいうプラズマ保護層中のウレタン結合由来の窒素元素の割合とは、英国VGサイエンティフィック社製のX線光電子分析測定機(XPS)を使用し、プラズマ保護層表面を、X線出力が100W、照射領域が400μmφの条件で測定した場合に得られる、394〜400eVのピーク面積を各元素のピーク面積の総和で除した場合に得られる値を意味する。
さらにプラズマ保護層の膜厚としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面の凹凸を完全に覆い、また、耐プラズマ性および耐熱性等の点から、乾燥状態で0.01μm〜5.0μm、好ましくは0.05μm〜4μmであることが望ましい。
【0035】
(う)無機酸化物の蒸着膜、およびその蒸着方法
(a)無機酸化物の蒸着膜
本発明の製造方法でいう無機酸化物の蒸着膜としては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の酸化物を挙げることができる。
好ましいものとしては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の金属の酸化物の蒸着膜を挙げることができる。
【0036】
また、上記の金属の酸化物の蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物ともいうことができ、その表記は、例えば、SiOX、AlOX、MgOX等のようにMOX(ただし、式中、Mは、金属元素を表し、Xの値は、金属元素によってそれぞれ範囲が異なる。)で表される。
【0037】
また、上記のXの値の範囲として、ケイ素(Si)は0〜2、アルミニウム(Al)は0〜1.5、マグネシウム(Mg)は0〜1、カルシウム(Ca)は0〜1、カリウム(K)は0〜0.5、スズ(Sn)は0〜2、ナトリウム(Na)は0〜0.5、ホウ素(B)は0〜1.5、チタン(Ti)は0〜2、鉛(Pb)は0〜1、ジルコニウム(Zr)は0〜2、イットリウム(Y)は0〜1.5の範囲の値をとることができる。
【0038】
上記において、X=0の場合は、完全な金属であり、透明ではないので使用することができない。また、Xの範囲の上限は、完全に酸化したときの値である。
望ましくは、ケイ素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲の値のものを使用することができる。
【0039】
無機酸化物の蒸着膜の膜厚は、使用する金属、または金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば50〜2000Å、好ましくは100〜1000Åの範囲内で任意に選択することができる。
【0040】
また、無機酸化物の蒸着膜として、使用する金属、または金属の酸化物は、1種または2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した無機酸化物の蒸着膜を構成することもできる。
【0041】
本発明においては、表基材と無機酸化物との密着性を向上するために、無機酸化物蒸着膜上に、さらにプライマー層を設けることが好ましい。具体的には、プライマー層として、ポリエチレンイミン、ポリウレタン、ポリエステル、もしくはアクリル等の樹脂を含むごく薄い、0.1〜5μm程度の厚みの層として形成するとよく、通常は、溶剤溶液として塗付し、乾燥することにより形成できる。
【0042】
(b)無機酸化物の蒸着方法
本発明において、所望のガスバリア性を得るためには、上記無機酸化物の蒸着膜は、真空蒸着法、スバッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法により形成することが必要である。化学気相成長法を使用すると所望のガスバリア性を得ることができない。
【0043】
本発明における無機酸化物の蒸着方法について、その一例を挙げてさらに具体的に説明する。図2は、本発明における無機酸化物の蒸着方法の一例を示す巻き取り式真空蒸着装置の概略的構成図である。
【0044】
本発明における無機酸化物の蒸着方法は、具体的には、図2に示すように、まず、巻き取り式真空蒸着装置4の真空チャンバー5の中で、巻き出し部7からプラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム9を繰り出し、さらに、該プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム9をガイドロール8を介して、冷却ドラム11に案内する。本発明においては、上記のガイドロール8と冷却ドラム11との間に、プラズマ処理装置10、例えば高周波式イオンボンバードメント処理装置を配置し、プラズマ保護層の表面に、上記のプラズマ処理装置10を用いて、プラズマ処理を行い、上記のプラズマ保護層の表面にプラズマ処理面を形成する。次いで、プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム9を冷却ドラム11の上に案内した後、プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム9のプラズマ処理面に、蒸着源15として金属あるいは無機酸化物を使用し、これらをるつぼ16の中に入れ、該るつぼ16中で熱せられた金属あるいは無機酸化物を蒸発させ、その際に、酸素パイプ14より酸素ガス等を噴出させながら、マスク13を介して無機酸化物の蒸着膜を成膜化する。次いで、該金属あるいは無機酸化物の蒸着膜を形成したポリエチレンテレフタレートフィルム9を、ガイドロール8’を介して、巻き取り部12に巻き取って、本発明の包装材料に使用する透明ガスバリア性フィルムを製造する。
【0045】
本発明において、所望のポリエチレンテレフタレートフィルムと無機酸化物と間の密着性を得るためには、上記プラズマ処理における、プラズマ処理強度が重要である。例えば、プラズマ処理として、イオンボンバードメント処理を行う場合には、プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムを、前記フィルムの単位面積あたり、0.01(W/cm2)・秒〜0.075(W/cm2)・秒のプラズマ処理強度で処理することが必要であり、好ましくは0.01(W/cm2)・秒〜0.05(W/cm2)・秒、特に0.02(W/cm2)・秒〜0.05(W/cm2)・秒のプラズマ処理強度で処理することが望ましい。上記イオンボンバードメント処理におけるプラズマ処理強度が上記範囲を下回ると、プラズマ保護層表面を十分に改質することができず、ポリエチレンテレフタレートフィルムと無機酸化物と間の密着性が低下する。また上記イオンボンバードメント処理におけるプラズマ処理強度が上記範囲を上回ると、プラズマ保護層表面に弱境界層が形成され、逆に密着性が低下する。
【0046】
なお、本発明にいう「単位面積当たりのプラズマ処理強度」とは、以下の数式で算出されるものをいい、「プラズマ出力」とは、プラズマを発生させるときに印加する放電電圧(A)と放電電流(V)の積を意味する。
【0047】
【数1】

[ここで、α、β、γ、δ、εは、それぞれ、
αは、単位面積当たりのプラズマ処理強度(W/cm2)・秒、
βは、プラズマ出力(W)、
γは、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの面積(cm2)、
δは、ポリエチレンテレフタレートフィルムの搬送速度(cm/秒)、
εは、イオンボンバードメント処理装置における、プラズマ出口のフィルムの流れ方向の長さ(cm)
を意味する。]
また、上記のプラズマ発生装置に導入されるガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスが好適に使用され、その導入流量としては500sccm〜5000sccm、好ましくは1000Sccm〜4000sccmであることが望ましい。
さらに、上記の蒸着機において、真空チャンバーの真空度としては100〜10-5mbar、好ましくは10-1〜10-4mbarが望ましい。また、コーティングチャンバーの真空度としては、酸素の導入前においては10-2〜10-8mbar、好ましくは10-3〜10-7mbarが望ましく、酸素の導入後においては10-1〜10-6mbar、好ましくは10-2〜10-5mbarが望ましい。上記の例示は、その製造法の一例であり、本発明は、これにより限定されるものではない。
【0048】
(3)ヒートシール性樹脂層
本発明において、ヒートシール性樹脂層を構成するヒートシール性樹脂としては、熱によって溶融して相互に融着し得る樹脂を使用することができ、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS系樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS系樹脂)等を使用することができる。本発明においては、上記のような樹脂のフィルムないしシート、あるいは上記のような樹脂を主成分とする樹脂組成物によるコーティング膜等によって、ヒートシール性樹脂層を構成することができる。その厚さとしては1〜200μm、好ましくは5〜100μmが望ましい。
【0049】
(4)本発明の包装材料を製造する方法
次に本発明の包装材料の製造方法について説明する。この製造方法における積層工程は、通常の包装材料をラミネートする方法、例えば、ウェットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤型ドライラミネーション法、押出ラミネーション法、Tダイ押出成形法、共押出ラミネーション法、インフレーション法、共押出インフレーション法等によって行うことができる。その場合、必要に応じて、例えば、コロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等の前処理を貼り合わせるフィルムに施すことができる。また例えば、ポリエステル系、イソシアネート系(ウレタン系)、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、有機チタン系等のアンカーコーティング剤、或いはポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他のラミネート用接着剤等の公知のアンカーコート剤、接着剤を使用することができる。
【0050】
3.本発明の包装材料の用途
本発明に係る透明ガスバリア性フィルム、または包装材料を用いて製造した包装用容器は、透明性、酸素ガス、水蒸気等に対するガスバリア性、耐衝撃性等に優れ、さらに、ラミネート加工、印刷加工、製袋ないし製函加工等の後加工適性を有し、また、バリア性膜としての蒸着薄膜の剥離を防止し、かつ、その熱的クラックの発生を阻止し、その劣化を防止して、バリア性膜として優れた耐性を発揮し、例えば、飲食品、医薬品、洗剤、シャンプー、オイル、歯磨き、接着剤、粘着剤等の化学品ないし化粧品等の種々の物品の充填包装適性、保存適性等に優れているものである。
【実施例】
【0051】
次に本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
(1)プラズマ保護層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムの製造
ポリエチレンテレフタレートを押出機より押出し、冷却ドラム上にキャストした後、縦延伸した。次に、このポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、以下の(表1)に示す成分からなる水を溶媒とする塗布液を塗布し、さらに横方向に延伸し、プラズマ保護層を有する、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。
(表1)塗布液の成分
水分散性型ポリウレタン 95重量部
エポキシ化合物 5重量部
【0052】
(2)プラズマ保護層面のプラズマ処理、無機酸化物の蒸着
上記(1)で製造したプラズマ保護層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを図2の巻き取り式の真空蒸着装置(物理気相成長法装置)の巻き出し部に装着した。次いで、これを400m/minのライン速度で搬送し、前記プラズマ保護層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムのプラズマ保護層面を、13.56MHzの高周波電源を用いたイオンボンバードメント処理装置を用い、以下の(表2)に示す条件で、プラズマ処理としてイオンボンバードメント処理を行った。
(表2)イオンボンバードメント処理条件
導入ガス: アルゴンガス
導入ガス流量: 2000sccm
プラズマ出力: 5kW
(単位面積あたりのプラズマ処理強度 0.0375(W/cm2)・秒)
真空チャンバーの真空度: 2×10-2mbar
【0053】
次に、インラインで、以下(表3)に示す蒸着条件で、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、酸素パイプから酸素ガスを導入ながら、酸化アルミニウムを積層して巻き取り、透明ガスバリア性フィルムを製造した。このときの酸化アルミニウムの膜厚は30nmであった。
(表3)酸化アルミニウムの蒸着条件
蒸着源: アルミニウム
コーティングチャンバー真空度: 5.0×10-4mbar
【0054】
(3)透明ガスバリア性フィルムを中間基材として使用する包装材料の製造
中間基材として(2)で製造した透明ガスバリア性フィルムを使用し、この酸化アルミニウム蒸着膜面に、ウレタン系プライマー剤を、乾燥状態で0.2μmの膜厚となるように塗工した。次に前記のように形成したプライマー層上に乾燥状態で3.0g/m2の膜厚となるように、接着剤を塗工し、表基材と貼り合わせた。次に前記中間基材の反対面に、乾燥状態で3.0g/m2の膜厚となるように、接着剤を塗工し、ヒートシール性樹脂と貼り合わせ、本発明の包装材料を製造した。
なお、表基材、ヒートシール性樹脂、接着剤として、以下に示す材料を使用した。
表基材:厚さ15μmの2軸延伸ナイロンフィルム(ユニチカ製「エンブレムON」)
ヒートシール性樹脂:厚さ60μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(東セロ製「TUX−HC」)
接着剤:2液硬化型ウレタン系接着剤
【0055】
[実施例2]
縦延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に塗布する塗布液中に含まれる水分散性型ポリウレタンの重量部を90部とし、エポキシ化合物の重量部を10部とした以外は、実施例1と同様の方法により、本発明の透明ガスバリア性包装材料を製造した。
【0056】
[比較例1]
水分散性型ポリウレタンとエポキシ化合物を含む塗布液を縦延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、透明ガスバリア性包装材料を製造した。
【0057】
[比較例2]
プラズマ保護層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムを600m/minのライン速度で搬送したこと、イオンボンバードメント処理において、プラズマ出力を1.5kW(単位面積当たりのプラズマ処理強度を0.0075(W/cm2)・秒)としたこと以外は、実施例1と同様の方法により、透明ガスバリア性包装材料を製造した。
【0058】
[実験例]
1.酸素透過度、水蒸気透過度の評価
実施例1、2、および比較例1、2の包装材料を用い、これらの包装材料の酸素透過度をMOCON社製OX−TRAN2/20で、23℃/90RH%の測定条件(JIS規格 K7126)にて、水蒸気透過度をMOCON社製PERMATRAN3/31で、40℃/100RH%の測定条件(JIS規格 K7129)にて測定した。
結果を以下の(表4)に示す。
【表1】

【0059】
「評価結果」
実施例1、2の包装材料は、包装材料は、酸素透過度、水蒸気透過度がいずれも低く、ガスバリア性に優れたものであることが確認された。
【0060】
2.プラズマ保護層中に含まれるウレタン結合由来の窒素元素の含有量の測定
英国、VGサイエンティフィック社製のX線光電子分光分析測定機(機種名、XPS)を使用し、実施例1、2、および比較例2の酸化アルミニウム蒸着前のプラズマ保護層を設けた2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのプラズマ保護層面、比較例1の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム表面を、X線出力が100W、照射領域が400μmφの条件で分析した。
次に394〜400eVのピーク面積を各元素のピーク面積の総和で除し、プラズマ保護層中に含まれるウレタン結合由来の窒素元素の含有量を算出した。同様に、炭素元素、酸素元素を表わすピークのピーク面積を各元素のピーク面積の総和で除し、プラズマ保護層中に含まれる炭素元素、酸素元素の含有量を算出した。
結果を以下の(表5)に示す。
【表2】

【0061】
「評価結果」
上記(表5)のとおり、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設けた実施例1、2のフィルムにおいては、ウレタン結合由来の窒素元素の含有が確認されたのに対し、プラズマ保護層を設けなかった比較例1においては、窒素原子の含有は確認されなかった。
【0062】
3.プラズマエッチングレートの評価
実施例1、2、および比較例2の酸化アルミニウム蒸着前のプラズマ保護層を設けた2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、比較例1の酸化アルミニウム蒸着前の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、アネルバ製平板式プラズマCVD装置に設置し、以下の(表6)に示す条件で、アルゴンプラズマを、前記フィルムのプラズマ保護層面、または2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに照射し、所定時間照射前後の各フィルムの厚みを厚み計で測定した。
(表6)プラズマ処理条件
プラズマ出力: 300W
導入ガス: アルゴン
ガス流量: 100sccm
真空度: 1×10-2mbar
プラズマ処理時間: 5分
【0063】
次に、プラズマ処理前後の各フィルムの厚さと次式から、プラズマエッチングレート(R)を算出した。
R=(プラズマ処理前のフィルム厚さ(μm)−プラズマ処理後のフィルム厚さ(μm))/プラズマ処理時間(分)
結果を以下の(表7)に示す。
【表3】

【0064】
上記(表7)のとおり、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設けた実施例1、2のフィルムにおいては、プラズマエッチングレートが、それぞれ0.08μm/分、0.05μm/分と小さく、フィルム表面の劣化はほとんど認められなかった。これに対し、プラズマ保護層を設けなかった比較例1のポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては、プラズマエッチングレートが、それぞれ0.45μm/分と大きく、フィルム表面が著しく劣化していることが確認された。
すなわち、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設けることにより、プラズマ処理によるフィルム表面の劣化を防止することができ、高いプラズマ処理強度で表面処理が可能となることが確認された。
【0065】
4.水付け剥離強度の評価
実施例1、2、および比較例1、2の包装材料を15mm幅の短冊状に切り、剥離強度評価用のサンプルを作成した。各サンプルの界面が露出した状態で、界面に水滴を滴下し、引張試験機(テンシロン)を用い、室温、剥離速度50mm/分の条件で、180°剥離法により測定した。
結果を以下の(表8)に示す。
【表4】

【0066】
上記のとおり、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設け、プラズマ保護層表面を高いプラズマ処理強度で処理することにより、水付け剥離強度、すなわちレトルト・ボイル処理後のポリエチレンテレフタレートフィルムと酸化アルミニウムとの間の密着性が著しく向上することが確認された。
例えば実施例1の包装材料は、中間基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設け、プラズマ保護層表面を、0.0375(W/cm2)・秒という高い処理強度でイオンボンバードメント処理して製造した透明ガスバリア性フィルムを使用したものであるが、その水付け剥離強度は、3.2と顕著に高いものであった。
これに対し、比較例2の包装材料は、中間基材として、プラズマ保護層表面を、0.0075(W/cm2)・秒という低い処理強度で、イオンボンバードメント処理して製造した透明ガスバリア性フィルムを使用したものであるが、その水付け剥離強度は、1.0と低く、実施例1の包装材料の水付け剥離強度は、比較例2に比し、3.2倍も優れるものであった。
また、比較例1の包装材料は、中間基材として、プラズマ保護層を有さない透明ガスバリア性フィルムを使用したものであるが、その水付け剥離強度は、0.6であり、実施例1の包装材料の水付け剥離強度は、比較例1に比し、約5.4倍も優れるものであった。
【0067】
5.落下試験
実施例1、2、および比較例1、2の包装材料を用い、製袋機にて、水300mlを充填した4方シールパウチをそれぞれ10個作成した。これらの4方シールパウチを1.2mの高さより、50回落下させ、破袋数を確認した。
結果を以下の(表9)に示す。
【表5】

【0068】
上記のとおり、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設け、プラズマ保護層表面を高いプラズマ出力で処理することにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムと酸化アルミニウムとの間の密着性が著しく向上し、その結果、包装容器の落下強度が増強されることが確認された。
例えば実施例1の包装材料は、中間基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にプラズマ保護層を設け、プラズマ保護層表面を、0.0375(W/cm2)・秒という高い処理強度でイオンボンバードメント処理して製造した透明ガスバリア性フィルムを使用したものであるが、1.2mの高さから、50回落下させても破袋したものはなかった。
【0069】
これに対し、比較例2の包装材料は、中間基材として、プラズマ保護層表面を、0.0075(W/cm2)・秒という低い処理強度で、イオンボンバードメント処理して製造した透明ガスバリア性フィルムを使用したものであるが、落下試験において、2個が破袋し、実施例1の包装材料の落下強度は、比較例2に比し、著しく優れるものであった。
また、比較例1の包装材料は、中間基材として、プラズマ保護層を有さない透明ガスバリア性フィルムを使用したものであるが、落下試験において4個が破袋し、実施例1の包装材料の落下強度は、比較例1に比し、著しく優れるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る包装材料の層構成を示す概略的断面図である。
【図2】本発明の透明ガスバリア性フィルムの製造方法に使用する物理気相成長法による無機酸化物の薄膜膜を形成する巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1 表基材
2 中間基材
3 ヒートシール性樹脂層
4 巻き取り式真空蒸着装置
5 真空チャンバー
6 コーティングチャンバー
7 巻き出し部
8、8’ガイドロール
9 プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルム
10 プラズマ処理装置
11 冷却ドラム
12 巻き取り部
13 マスク
14 酸素パイプ
15 蒸着源
16 るつぼ
17 電子銃
18 電子線
A 透明ガスバリア性包装材料
a ポリエチレンテレフタレートフィルム
b プラズマ保護層
c 無機酸化物蒸着膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表基材、中間基材、ヒートシール性樹脂層を順に積層した包装材料において、
中間基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルム、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂およびエポキシ化合物からなるプラズマ保護層、ならびに無機酸化物を順に積層した透明ガスバリア性フィルムであることを特徴とする上記包装材料。
【請求項2】
プラズマ保護層の膜厚が、0.01μm〜5.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の包装材料。
【請求項3】
プラズマ保護層中の炭素、窒素、酸素の元素割合における、ウレタン結合由来の窒素元素の割合が3%〜15%(Atomic%)であることを特徴とする請求項1または2に記載の包装材料。
【請求項4】
プラズマ保護層中に含まれる水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂とエポキシ化合物との重量の和に対する、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂の重量の割合が70重量%〜99.5重量%であり、エポキシ化合物の重量の割合が0.5重量%〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項5】
ポリエチレンテレフタレートフィルムが、1軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、または2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであり、
プラズマ保護層が、未延伸または1軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、およびエポキシ化合物からなる樹脂層を塗布し、延伸することにより形成したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項6】
無機酸化物上に、さらにプライマー層を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項7】
ポリエチレンテレフタレートフィルムに水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、およびエポキシ化合物からなるプラズマ保護層を塗布し、
プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムのプラズマ保護層面を、高周波方式でイオンボンバードメント処理し、
前記イオンボンバードメント処理したプラズマ保護層面に、物理気相成長法により、無機酸化物を蒸着する工程
を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の包装材料の製造方法。
【請求項8】
イオンボンバードメント処理における、プラズマ保護層を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムの単位面積(cm2)あたりのプラズマ処理強度が、0.01(W/cm2)・秒〜0.075(W/cm2)・秒であることを特徴とする請求項7に記載の包装材料の製造方法。
【請求項9】
無機酸化物の蒸着工程後に、前記無機酸化物蒸着膜上に、さらにプライマー層を設ける工程を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の包装材料の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法により製造したことを特徴とする包装材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−23849(P2008−23849A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199086(P2006−199086)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】