説明

透明導電膜及びその製造方法

【課題】導電性無機粒子の体積含有率及び平均粒子径並びに透明導電膜の膜厚を、特定の要件を満たすようにして、帯電防止機能が高くかつ透明性に優れる透明導電膜を得る。
【解決手段】本発明の透明導電膜は、導電性無機粒子と樹脂成分とを含む透明導電膜であって、上記導電性無機粒子の体積含有率Aが、25〜60%であり、上記導電性無機粒子の平均粒子径Bが、30〜200nmであり、上記透明導電膜の膜厚Cが、0.3〜3.0μmであり、上記導電性無機粒子の体積含有率A、上記導電性無機粒子の平均粒子径B及び上記透明導電膜の膜厚Cの関係が、下記数式(1)の要件を満たすことを特徴とする。
数式(1) 0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜、特に導電性無機粒子を含む透明導電膜は、一般にPETフィルムなどのフレキシブルシートに塗布されて形成され、ディスプレイの帯電防止フィルム又はタッチパネル電極などとして使用されている。
【0003】
帯電防止フィルムは、ディスプレイの最表面に露出したフィルムであるため、表面への埃付着防止機能とともに、傷つき防止機能、透光性及び反射防止機能なども重要視される。このため、帯電防止フィルムを目的とする透明導電膜は、高い光透過率、反射防止性及び硬度を有するとともに、表面抵抗は108〜1012Ω/スクエア程度であることが多い(特許文献1)。
【0004】
一方、タッチパネルなどの電極として用いられる場合には、透明導電膜は表面抵抗が低いことが特に重要視される。そのため、透明導電膜中の導電性無機粒子の含有率を高くして表面抵抗を下げる方法だけでなく、透明導電膜を塗布したフィルムを加圧することによって、表面抵抗をより低くする方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、フィルムではなく、液晶モジュールなどのガラス上に直接帯電防止機能を付与する場合にも、より高い帯電防止機能が求められることがある。この場合、導電性無機粒子の量を増やせば表面抵抗は低くなるが、同時に光透過率が低下したり、ヘイズが上昇したりという問題が生じる。さらに、液晶モジュールなどのガラス上に直接透明導電膜を形成する場合には、フィルム上に透明導電膜を形成する場合とは異なり加圧することができないため、表面抵抗を下げることがさらに難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3560532号公報
【特許文献2】特許第2994764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように塗布により基板上に透明導電膜を形成する場合、従来では、簡潔な工程で、帯電防止機能が高くかつ透明性に優れる透明導電膜を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するため、導電性無機粒子の体積含有率及び平均粒子径並びに透明導電膜の膜厚を、特定の要件を満たすようにして、帯電防止機能が高くかつ透明性に優れる透明導電膜及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透明導電膜は、導電性無機粒子と樹脂成分とを含む透明導電膜であって、上記導電性無機粒子の体積含有率Aが、25〜60%であり、上記導電性無機粒子の平均粒子径Bが、30〜200nmであり、上記透明導電膜の膜厚Cが、0.3〜3.0μmであり、上記導電性無機粒子の体積含有率A、上記導電性無機粒子の平均粒子径B及び上記透明導電膜の膜厚Cの関係が、下記数式(1)の要件を満たすことを特徴とする。
数式(1) 0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0
【0010】
また、本発明の透明導電膜の製造方法は、導電性無機粒子を含む透明導電膜の製造方法であって、導電性無機粒子と樹脂成分とを含むコーティング組成物を作製する工程と、透明基材の上に、上記コーティング組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、上記塗膜を乾燥して透明導電膜を形成する工程とを含み、上記コーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率A1が、25〜60%であり、上記コーティング組成物における導電性無機粒子の平均粒子径B1が、30〜200nmであり、上記透明導電膜の膜厚Cが、0.3〜3.0μmであり、上記導電性無機粒子の体積含有率A1、上記導電性無機粒子の平均粒子径B1及び上記透明導電膜の膜厚Cの関係が、下記数式(2)の要件を満たすことを特徴とする。
数式(2) 0.8≦(A1/100)2×√B1×C≦4.0
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明導電膜中の導電性無機粒子の体積含有率Aを25〜60%の範囲にし、導電性無機粒子の平均粒子径Bを30〜200nmの範囲にするとともに、透明導電膜の膜厚Cを0.3〜3.0μmの範囲にし、かつ、上記A、B及びCの関係を、0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0という要件を満たすようにすることにより、帯電防止機能が高くかつ透明性に優れる透明導電膜を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、簡潔な工程で、帯電防止機能が高くかつ透明性に優れる透明導電膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の透明導電膜の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、透明導電膜の膜厚、透明導電膜中の導電性無機粒子の体積含有率及び平均粒子径の相関を鋭意検討した結果、導電性無機粒子の体積含有率A及び平均粒子径B、並びに透明導電膜の膜厚Cの関係が、0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0という要件を満たすことにより、導電性と透明性とのバランスがとれた透明導電膜を得ることができることの知見を得て、本発明に至った。
【0014】
上記透明導電膜中の導電性無機粒子の体積含有率を体積含有率Aとすると、体積含有率Aは、25〜60%であり、30〜50%であることが好ましく、35〜45%であることが特に好ましい。ここで、体積含有率Aは、不揮発固形成分からなる透明導電膜中の導電性無機粒子の体積の比率を意味する。上記体積含有率Aが60%を超えると、透明導電膜中の粒子による散乱が増加するだけでなく、導電性無機粒子間に樹脂が充填されずに粒子と空気の界面が増加したり、透明導電膜表面に粒子が露出して表面が粗くなったりするため、塗膜のヘイズが上昇してしまうという問題が生じる。また、上記体積含有率Aが25%を下回ると、粒子間の接点が少なくなりすぎるため、透明導電膜の表面抵抗が上昇する。
【0015】
上記透明導電膜中の導電性無機粒子の平均粒子径を平均粒子径Bとすると、平均粒子径Bは、30〜200nmであり、50〜180nmであることが好ましく、80〜150nmであることが特に好ましい。ここで、平均粒子径Bは、透明導電膜に含まれる導電性無機粒子の平均分散粒子径をいい、単位はナノメートル(nm)で表記するものとする。なお、上記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、透明導電膜の表面又は断面における個々の粒子の粒子径を観察・測定した後、少なくとも100個の粒子の粒子径を平均することにより得られる。上記平均粒子径Bが200nmを超えると、粒子の散乱によって塗膜のヘイズ値が上昇しすぎるという問題が生じる。また、導電性無機粒子の平均粒子径Bを小さくするためには1次粒子径の小さい導電性無機粒子を用いることが必要となるが、一般に、粒子の1次粒子径が小さいほど比表面積が増大して分散が難しくなるため、平均粒子径Bを30nm未満にすることは実質的に困難である。
【0016】
上記平均粒子径Bを30〜200nmとするためには、導電性無機粒子の1次粒子径は5〜180nmであることが好ましい。ここで、粒子の1次粒子径とは、導電性無機粒子そのものをサンプルとし、透過型電子顕微鏡(TEM)により、粒界で区切られた個々の粒子の粒子径を観察・測定した後、少なくとも100個の粒子の粒子径を平均した平均粒子径をいう。導電性無機粒子の1次粒子径が5nm未満であると、結晶性のよい粒子を得ることが難しい傾向がある。一方、1次粒子径が180nmよりも大きいと、平均粒子径Bを200nm以下にすることが困難である。
【0017】
本発明の透明導電膜の膜厚を膜厚Cとすると、膜厚Cは、0.3〜3μmであり、0.5〜2.5μmであることが好ましく、0.8〜1.5μmであることがさらに好ましい。上記膜厚Cが0.3μm未満であると、塗膜の光透過率は向上するものの、塗膜が薄すぎるために硬度が弱くなるという問題点がある。また、膜厚を厚くすると表面抵抗値は低下する傾向にあるが、3μmを超えると表面抵抗値はほぼ一定となる。一方、塗膜が厚くなると光透過率が低下し、さらに材料量が増加してコスト高となる。
【0018】
本発明の透明導電膜において、上記体積含有率A(%)、平均粒子径B(nm)及び膜厚C(μm)は、下記数式(1)の関係を満たす。
数式(1) 0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0
【0019】
透明導電膜において、膜厚Cが厚くなると、シートの単位面積あたりの導電性無機粒子の量が増加するため、表面抵抗は小さくなる傾向にあるが、一方で粒子の光吸収や散乱によって光透過率が低下してヘイズが上昇するという問題が生じる。
【0020】
また、膜厚Cを一定とした場合、導電性無機粒子の平均粒子径Bを小さくすれば、粒子の散乱が少なくなってヘイズが減少する。しかし、導電性無機粒子間の粒子間接点が増えて接触抵抗が上昇するため、透明導電膜の表面抵抗を下げるためには、平均粒子径Bが大きい場合に比べて体積含有率Aを増加する必要がある。
【0021】
また、体積含有率Aが一定の場合、平均粒子径Bを大きくすると表面抵抗が低下して、導電性が向上し得る。しかし、粒子の散乱によるヘイズが上昇するため、透明導電膜の白濁を防ぐためには体積含有率Aを下げることが必要である。
【0022】
上記数式(1)は、透明導電膜における透明性と導電性のバランスを良好にするための指標である。本発明において、透明性は、光透過率及びヘイズにより示され、光透過率及びヘイズの値が低いほど、透明性に優れる。また、本発明において、導電性は表面抵抗により示され、表面抵抗の値が低いほど、導電性に優れる。
【0023】
具体的には、上記数式(1)の値が0.8を下回ると、透明導電膜の表面抵抗値が高くなり帯電防止機能すなわち導電性が低減する。一方、上記数式(1)の値が4.0を上回ると、透明導電膜のヘイズ値が高くなり膜が白濁してしまう。
【0024】
上記透明導電膜の表面抵抗は、1×108Ω/スクエア以下であることが好ましく、1×106Ω/スクエア以下であることがさらに好ましく、1×105Ω/スクエア以下であることが特に好ましい。上記表面抵抗値は低ければ低いほどよいが、焼成工程や加圧工程を行わず、塗布工程のみによって作製する場合は、表面抵抗を1000Ω/スクエア以下とすることは実質的に難しい傾向がある。
【0025】
上記透明導電膜のヘイズ値は、3.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。また、導電性無機粒子を含有するため、ヘイズ値を0.2%以下にすることは困難である傾向がある。また、上記透明導電膜の可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
以下、本発明の透明導電膜の製造方法を説明する。
【0027】
本発明の透明導電膜の製造方法は、導電性無機粒子と樹脂成分とを含むコーティング組成物を作製する工程と、透明基材の上に、上記コーティング組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、上記塗膜を乾燥して透明導電膜を形成する工程とを含む。図1は、本発明の製造方法により得られる透明導電膜の一例を示す概略断面図である。図1において、透明導電膜12は、透明基材11の一方の主面に設けられている。
【0028】
透明導電膜の形成に用いるコーティング組成物は、導電性無機粒子と樹脂成分とを含む。
【0029】
上記コーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率を体積含有率A1とすると、体積含有率A1は、25〜60%であり、30〜50%であることが好ましく、35〜45%であることが特に好ましい。ここで、体積含有率A1は、溶剤を除く不揮発固形成分全体に対する導電性無機粒子の体積の比率を意味する。上記コーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率A1を25〜65%にすることにより、コーティング組成物を塗布して形成した本発明の透明導電膜における導電性無機粒子の体積含有率Aも25〜65%にすることができる。
【0030】
上記コーティング組成物における導電性無機粒子の平均粒子径を平均粒子径B1とすると、平均粒子径B1は、30〜200nmであり、50〜180nmであることが好ましく、80〜150nmであることが特に好ましい。ここで、平均粒子径B1は、コーティング組成物中に分散している導電性無機粒子の平均粒子径をいい、単位はナノメートル(nm)で表記するものとする。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折散乱法や動的光散乱法によって測定される粒度分布の平均値と定義する。上記コーティング組成物における導電性無機粒子の平均粒子径B1を30〜200nmにすることにより、コーティング組成物を塗布して形成した本発明の透明導電膜における導電性無機粒子の平均粒子径Bも30〜200nmにすることができる。
【0031】
上記体積含有率A1(%)、平均粒子径B1(nm)及び透明導電膜の膜厚C(μm)は、下記数式(2)の関係を満たす。
数式(2) 0.8≦(A1/100)2×√B1×C≦4.0
【0032】
上記コーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率A1を25〜65%にし、平均粒子径B1を30〜200nmにすることにより、コーティング組成物を塗布して形成した透明導電膜における導電性無機粒子の体積含有率Aを25〜65%にし、平均粒子径Bを30〜200nmにすることができる。また、上記体積含有率A1(%)、平均粒子径B1(nm)及び透明導電膜の膜厚C(μm)が数式(2)の要件を満たすことにより、透明導電膜において、導電性無機粒子の体積含有率A及び平均粒子径B並びに透明導電膜の膜厚Cも、上記数式(1)の要件、すなわち、0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0の関係を満たすことになる。
【0033】
上記導電性無機粒子としては、透明性と導電性を兼ね備えた粒子であればよく、特に限定されず、例えば、導電性金属酸化物粒子や導電性窒化物粒子などを用いることができる。上記導電性金属酸化物粒子としては、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ(ATO)粒子、スズ含有酸化インジウム(ITO)粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)粒子、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)粒子などの金属酸化物粒子が挙げられる。上記導電性金属酸化物粒子は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。また、上記導電性無機粒子は、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子及びスズ含有酸化インジウム粒子からなる群から選ばれる少なくとも一種を主成分とすることが好ましい。これらの化合物は透明性、導電性や化学特性に優れており、塗膜にした場合にも高い光透過率と導電性を実現することができるからである。ここで、主成分とは、導電性無機粒子全体に対して、70重量%以上含まれる導電性無機粒子をいう。
【0034】
上記樹脂としては、上記導電性無機粒子を分散して塗膜を形成できるものであればよく、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、及び光硬化性モノマーと重合開始剤とを含む光硬化性樹脂などが挙げられる。
【0035】
上記コーティング組成物は、さらに溶剤を含むことが好ましい。コーティング組成物は固形成分である導電性無機粒子を多く含むため、仮に樹脂成分が光硬化性モノマーのような液状成分であったとしても、溶剤を含まない場合にはコーティング組成物を塗布に適した粘度とすることが困難になる傾向がある。
【0036】
上記溶剤としては、樹脂成分を溶解し、かつ塗布後の乾燥工程によって除去できるものであればよく、特に限定されない。例えば、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールアルキルエーテルやグリコールアルキルエステル類などが挙げられる。
【0037】
上記コーティング組成物には、さらに、導電性無機粒子の分散性を向上させるための分散剤や、基材に対する濡れ性及び/又はレベリング性を向上させるための表面調整剤が添加されていてもよい。
【0038】
上記コーティング組成物の作製は、導電性無機粒子を樹脂及び/又は溶剤中に分散できればよく、特に限定されない。例えば、導電性無機粒子を分散させるために、ボールミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナーなどのメディアを介在させた機械的処理、又は超音波分散機、ホモジナイザー、ディスパー及びジェットミルなどを使用して分散処理を施してもよい。
【0039】
次に、上記コーティング組成物を塗布して透明導電膜を形成する。塗布方法としては、平滑な塗膜を形成しうる塗布方法であればよく、特に限定されない。例えば、スピンコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、リバースコート、グラビアコート、マイクログラビアコートなどの塗工法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法、スプレー塗布やディップ塗布などの塗布法を用いることができる。コーティング組成物を塗布した後、乾燥によって溶剤を除去する。また、必要に応じて、塗膜にUV光やEB光を照射して塗膜を硬化させたりして、透明導電膜を形成してもよい。また、透明導電膜を形成する基材としては、透明で平滑な基材であればよく、ガラスであることが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基いて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
先ず、以下のようにしてITO分散体組成物a〜dを調製した。
【0042】
<ITO分散体組成物a>
100mlのプラスチック製ビンに、下記の成分を計り取り、ペイントシェーカー(東洋精機社製)で20分間分散した後、ジルコニアビーズを取り除いて、ITO分散体組成物aを得た。なお、スズ含有インジウム酸化物(ITO)粒子における酸化スズの含有率は10重量%である。
(1)スズ含有インジウム酸化物(ITO)粒子 12.0g
(2)分散剤“BYK163”(ビックケミー社製) 0.60g
(3)メチルエチルケトン(和光純薬社製) 13.7g
(4)トルエン(和光純薬社製) 13.7g
(5)ジルコニアビーズ(液の攪拌分散用、直径0.3mm) 60.0g
【0043】
<ITO分散体組成物b〜d>
分散時間を、それぞれ15分、25分、35分にしたこと以外は、ITO分散体組成物aの場合と同様にして、ITO分散体組成物b〜dを得た。
【0044】
ITO分散体組成物a〜dにおける、ITO粒子の平均粒子径を動的光散乱方式の粒度分布計(コールター社製“N4PLUS”)で測定を行ったところ、それぞれ、180nm、250nm、110nm、75nmであった。なお、上記のとおり、透過型電子顕微鏡(TEM)で観測して、原料のITO粒子の1次粒子径を測定したところ、32nmであった。上記ITO粒子の1次粒子径は、100個の粒子の粒子径を測定して平均した結果である。
【0045】
次に、以下のようにしてコーティング組成物1〜19を調製した。
【0046】
<コーティング組成物1>
紫外線を遮蔽したプラスチック製ビンに、ITO分散体組成物a及び下記の成分を計り取り・攪拌して、30gのコーティング組成物1を調製した。
(1)ITO分散体組成物a 18.0g
(2)アクリル樹脂“BR106”(三菱レイヨン社製) 1.83g
(3)メチルエチルケトン(和光純薬社製) 2.27g
(4)トルエン(和光純薬社製) 2.27g
(5)シクロヘキサノン(和光純薬社製) 5.63g
【0047】
重量含有率をMをとし、ITOの比重を7.1、アクリル樹脂の比重を1.1として計算すると、体積含有率は、下記数式(3)により計算することができる。
数式(3) 体積含有率=M/7.1/[M/7.1+(1−M)]/1.1
コーティング組成物1の不揮発固形成分中のITO粒子の重量含有率は72.0%であり、ITO粒子の体積含有率は28.5%であった。
【0048】
<コーティング組成物2〜19>
下記表1に示すITO分散体組成物及びその他の成分を、表1に示す配合量で配合し、コーティング組成物1と同様にして、それぞれ、コーティング組成物2〜19を調製した。また、表1には、コーティング組成物1〜19の不揮発固形成分中のITO粒子の重量含有率を示した。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例1)
コーティング組成物1を、厚さ2mmの光学ガラス基板上にスピンコーター(ミカサ社製“1−HDX2”)を用いて回転数500rpmにて塗布した後、100℃の乾燥機で2分間乾燥させて、実施例1の透明導電膜を得た。実施例1の透明導電膜中のITO粒子の平均粒子径を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観測して測定した結果、185nmであり、コーティング組成物におけるITO粒子の平均粒子径とほぼ同一であることが分かった。なお、上記のITO粒子の平均粒子径は、100個の粒子の粒子径を測定して平均した結果である。
【0051】
(実施例2〜7及び10〜15)
それぞれ、コーティング組成物2〜7及び8〜13を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜7及び10〜15の透明導電膜を得た。
【0052】
(実施例8及び9)
スピンコーターの回転数を、それぞれ、1000rpm及び300rpmに変更したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8及び9の透明導電膜を得た。
【0053】
(比較例1〜5)
それぞれ、コーティング組成物14〜18を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜5の透明導電膜を得た。
【0054】
(比較例6)
コーティング組成物19を用いたこと及びスピンコーターの回転数を、200rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の透明導電膜を得た。
【0055】
実施例1〜15及び比較例1〜6の透明導電膜の膜厚、表面抵抗、光透過率及びヘイズを、下記のとおり測定してその結果を表2に示した。
【0056】
(膜厚)
透明導電膜をガラス基板ごと切断し、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所社製“S−4500”)にて断面観察して、膜厚を測定した。
【0057】
(表面抵抗)
抵抗計(“ロウレスタAP−MCP−T400”)及び抵抗計(“ハイレスタHT−210”)を用いて、透明導電膜の表面抵抗を測定した。なお、いずれの抵抗計もダイアインスツルメンツ社製である。
【0058】
(光透過率)
まず、紫外可視近赤外分光光度計“V−570”(日本分光社製)を用い、450〜650nmの波長領域における光透過率スペクトルを測定した。次に、基板の光透過率を換算した塗膜のみの光透過率スペクトルについて、波長領域450〜650nmの範囲の光透過率を平均した値を光透過率とした。
【0059】
(ヘイズ)
紫外可視近赤外分光光度計“V−570”(日本分光社製)を用いて、ヘイズ値を測定した。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜15及び比較例1〜6の透明導電膜の作製に用いたコーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率A1及び平均粒子径B1、透明導電膜の膜厚C、並びに(A1/100)2×√B1×Cの値を、下記表3に示した。また、実施例1〜15及び比較例1〜6の透明導電膜の透明性及び導電性を、下記のとおり評価してその結果も表3に示した。
【0062】
(透明性)
A:光透過率95%以上かつヘイズ1.5%未満
B:光透過率90%以上95%未満かつヘイズ3.0%未満
C:ヘイズ3.0%以上
【0063】
(導電性)
A:表面抵抗が1.0×105Ω/スクエア未満
B:表面抵抗が1.0×108Ω/スクエア以下
C:表面抵抗が1.0×108Ω/スクエアを超える
【0064】
【表3】

【0065】
表3に示すように、実施例1〜15においては、優れた導電性及び透明性を有する透明導電膜が得られた。なお、実施例1の透明導電膜中の導電性無機粒子の体積含有率A、平均粒子径B及び膜厚Cから得られた数式(1)の値は、1.21であり、コーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率A1、平均粒子径B1及び膜厚Cから得られる数式(2)の値とほぼ一致していた。
【0066】
一方、平均粒子径B1が200nmを超える比較例1においては、導電性と透明性が両立した透明導電膜を得ることができなかった。また、体積含有率A1が25%未満である比較例2及び体積含有率A1が60%を超える比較例5においても、導電性と透明性が両立した透明導電膜を得ることができなかった。また、数式(2)の値が4を超える比較例3及び数式(2)の値が0.8未満である比較例4においても、導電性と透明性が両立した透明導電膜を得ることができなかった。また、膜厚Cが3μmを超える比較例6においても、導電性と透明性が両立した透明導電膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
塗布により基板上に透明導電膜を形成する場合、導電性無機粒子の体積含有率及び平均粒子径並びに透明導電膜の膜厚を、特定の要件を満たすようにして、帯電防止機能が高くかつ透明性に優れる透明導電膜が提供でき、帯電防止フィルム、タッチパネル用電極などへの応用が期待できる。
【符号の説明】
【0068】
11 透明基材
12 透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性無機粒子と樹脂成分とを含む透明導電膜であって、
前記導電性無機粒子の体積含有率Aが、25〜60%であり、
前記導電性無機粒子の平均粒子径Bが、30〜200nmであり、
前記透明導電膜の膜厚Cが、0.3〜3.0μmであり、
前記導電性無機粒子の体積含有率A、前記導電性無機粒子の平均粒子径B及び前記透明導電膜の膜厚Cの関係が、下記数式(1)の要件を満たすことを特徴とする透明導電膜。
数式(1) 0.8≦(A/100)2×√B×C≦4.0
【請求項2】
表面抵抗が1×108Ω/スクエア以下であり、かつヘイズ値が3.0%以下である
請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記導電性無機粒子が、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子及びスズ含有酸化インジウム粒子からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は請求項2に記載の透明導電膜。
【請求項4】
導電性無機粒子を含む透明導電膜の製造方法であって、
導電性無機粒子と樹脂成分とを含むコーティング組成物を作製する工程と、
透明基材の上に、前記コーティング組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥して透明導電膜を形成する工程とを含み、
前記コーティング組成物における導電性無機粒子の体積含有率A1が、25〜60%であり、
前記コーティング組成物における導電性無機粒子の平均粒子径B1が、30〜200nmであり、
前記透明導電膜の膜厚Cが、0.3〜3.0μmであり、
前記導電性無機粒子の体積含有率A1、前記導電性無機粒子の平均粒子径B1及び前記透明導電膜の膜厚Cの関係が、下記数式(2)の要件を満たすことを特徴とする透明導電膜の製造方法。
数式(2) 0.8≦(A1/100)2×√B1×C≦4.0

【図1】
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【公開番号】特開2010−165641(P2010−165641A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9198(P2009−9198)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】