説明

透明導電膜及びその製造方法

【課題】透明性に優れ、導電性が高い透明導電膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の透明性導電膜は、基材21上に塗膜されたCNT(カーボンナノチューブ)22と、CNT22上の一部に存在するPEDOT/PSS23と、を含み、CNT22、100重量部に対し、少なくともPEDOT/PSS23、10重量部を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極などに用いられる透明導電膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの分野では、透明導電膜が用いられている。透明導電膜の材料としては、ITO(インジウム−スズ酸化物)などの導電性無機材料や、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)などの導電性有機材料が用いられている。導電性有機材料を用いた透明導電膜としては、PEDOT/PSSを含有する導電性層に所定の割合でカーボンチューブを配合した透明導電性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる透明導電性フィルムは、ウェットプロセスで成膜される。このウェットプロセスでは、溶媒中にPEDOT/PSS及びカーボンナノチューブを分散した分散液に、塗膜性を改善するためのバインダーを添加した塗布液を用いて成膜する。特許文献1記載の透明導電性フィルムは、カーボンナノチューブを添加することにより、導電性及び機械的強度を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−50391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、透明導電膜をタッチパネルなどに用いる場合には、目視によるパターンの視認を防止するため、透明性が高く着色が少ない透明導電膜を用いることが望ましい。ところが、PEDOT/PSSは、1.5eV付近にバンドギャップが存在し、可視光の赤色領域を吸収する。このため、PEDOT/PSSを用いた透明導電膜は、膜厚を厚くした場合、青色に着色する問題がある。これに対して、透明導電膜の膜厚を薄くして着色しないようにすると、透明導電膜の導電性が低下する問題がある。
【0006】
また、特許文献1記載の透明導電フィルムは、塗膜性の改善のためバインダーを添加した塗布液を用いて成膜される。しかしながら、透明導電膜にバインダーを添加した場合、バインダーによってPEDOT/PSS及びカーボンナノチューブの導通が阻害され、透明導電膜の導電性が低下する問題があった。このように、従来の透明導電膜においては、透明性と導電性を共に向上することは困難であった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、透明性に優れ、導電性が高い透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透明導電膜は、基材上に塗膜されたカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブ上の一部に存在する導電性組成物と、を含み、前記カーボンナノチューブ100重量部に対し、少なくとも前記導電性組成物10重量部を含有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、導電性組成物がカーボンナノチューブ上の一部に存在することにより、カーボンナノチューブの分子鎖間の接点抵抗を低減できるので、導電性に優れる透明導電膜を実現できる。また、導電性組成物の塗布量を削減しても高い導電性が得られるので、導電性組成物に由来する透明導電膜の着色を低減でき、透明性に優れる透明導電膜を実現することができる。
【0010】
本発明の透明導電膜においては、前記導電性組成物は、前記カーボンナノチューブ上の少なくとも2つの領域に離間して存在することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、導電性組成物がカーボンナノチューブ上の少なくとも2つの領域に離間して存在することにより、それぞれの領域のカーボンナノチューブの分子鎖間の接点抵抗を低減できるので、導電性に優れる透明導電膜を実現できる。また、導電性組成物の塗布量を削減しても高い導電性が得られるので、導電性組成物に由来する透明導電膜の着色を低減でき、透明性に優れる透明導電膜を実現することができる。
【0012】
本発明の透明導電膜は、基材と、前記基材上に塗膜されたカーボンナノチューブと、前記基材上に存在する導電性組成物と、を含有し、前記基材上には、前記カーボンナノチューブ上に前記導電性組成物が存在する導電領域により導電パターンが形成され、前記導電領域内において、前記カーボンナノチューブ100重量部に対し、少なくとも前記導電性組成物10重量部を含有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、基材上に導電性組成物の塗布量を削減しても導電性が高い導電領域が形成されるので、導電性組成物に由来する着色を低減でき、導電性が高く透明性に優れる透明導電膜を実現できる。また、基材上の任意の領域にカーボンナノチューブを塗膜することにより、基材上に導電性の異なる領域を任意に形成することができる。さらに、導電領域及び非導電領域に共に導電性組成物を塗布することにより、基材上の導電領域と非導電領域との着色の差を低減でき、さらに透明に優れる透明導電膜を実現できる。
【0014】
本発明の透明導電膜においては、前記導電領域は、シート抵抗値が100Ω/□から10KΩ/□の範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明の透明導電膜においては、前記導電性組成物による前記カーボンナノチューブの被覆率が、5%から50%の範囲であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、導電性組成物によるカーボンナノチューブの被覆率を所定の範囲にすることにより、カーボンナノチューブの分子鎖間の接点抵抗を低減できるので、導電性に優れる透明導電膜を実現できる。また、導電性組成物の塗布量を削減しても高い導電性が得られるので、導電性組成物に由来する透明導電膜の着色を低減でき、透明性に優れる透明導電膜を実現することができる。
【0017】
本発明の透明導電膜においては、前記カーボンナノチューブの膜厚が10nmから500nmの範囲であることが好ましい。この構成により、透明導電膜の透明性をさらに向上させることができる。
【0018】
本発明の透明導電膜においては、前記導電性組成物は、PEDOT/PSSを含有することが好ましい。この構成により、導電性が高いPEDOT/PSSによって透明導電膜の導電性をさらに向上させることができる。
【0019】
本発明の透明導電膜においては、前記PEDOT/PSSの膜厚が40nmから600nmの範囲であることが好ましい。この構成により、カーボンナノチューブの塗膜に対して、十分な膜厚を確保できるので、さらに透明導電膜の導電性を向上できる。
【0020】
本発明の透明導電膜においては、前記カーボンナノチューブは、パターニングされてなることが好ましい。この構成によれば、予めカーボンナノチューブのみパターニングしておけば導電性組成物を全体に形成してもカーボンナノチューブがある部分のみ導電性が向上し、他の部分は導電性を有しないため、導電性の向上した透明電極パターン容易に形成できる。
【0021】
本発明の透明導電膜は、基材上に塗膜されたカーボンナノチューブと、下記式(1)で示される化合物と、を含有することを特徴とする。この構成によれば、カーボンナノチューブの分子鎖の導電性を向上できるので、特に導電性が高い透明導電膜を実現できる。
【化1】

【0022】
本発明の透明導電膜においては、前記カーボンナノチューブ100重量部に対し、下記式(1)で示される化合物を少なくとも10重量部を含有することが好ましい。この構成によれば、さらに透明導電膜の導電性をさらに向上できる。
【化2】

【0023】
本発明の透明導電膜の製造方法は、基材上にカーボンナノチューブを塗膜する工程と、前記カーボンナノチューブ上にPEDOT/PSS分散液を塗布する工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
この方法によれば、カーボンナノチューブの塗膜上にPEDOT/PSSを分散液の状態で塗布することができるので、透明導電膜を容易に製造することができる。
【0025】
本発明の透明導電膜の製造方法は、基材上にカーボンナノチューブを塗膜する工程と、前記カーボンナノチューブ上にエチレンジオキシチオフェン及びスルホン酸を含有する組成物を塗布する工程と、前記カーボンナノチューブ上で、前記組成物を重合する工程と、を含有することを特徴とする。
【0026】
この方法によれば、カーボンナノチューブ間に組成物が浸透してから、組成物を重合するので、カーボンナノチューブ間にも導電性組成物が形成され、導電性が高い透明導電膜を製造することができる。また、低分子化合物のまま基材上に組成物を塗布するので、塗布液の取り扱いが容易になり、透明導電膜を容易に製造することができる。
【0027】
本発明の透明導電膜の製造方法においては、前記基材上にカーボンナノチューブを塗膜する工程において、前記カーボンナノチューブを塗膜してから、下記式(1)で示される化合物を前記カーボンナノチューブ上に塗布することが好ましい。
【化3】

【0028】
この方法によれば、基材上に塗膜したカーボンナノチューブ内に上記式(1)で示される化合物が内包されるので、特に導電性が高い透明導電膜を製造することができる。
【0029】
本発明のタッチパネルは、上記透明導電膜を用いたことを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、有機材料で構成された透明導電膜を用いるので、入力操作に伴い透明導電膜が撓み変形した場合においても破損することのない、実用性の高いタッチパネルを実現することができる。また、透明導電膜の変形による破損を防止できるので、透明導電膜の膜厚を薄く形成でき、タッチパネルを安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、透明性に優れ、導電性が高い透明導電膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は、基材上に塗布されたCNTの分子鎖の分散状態を模式的に示した図であり、(b)は、基材上に塗布されたCNT分子鎖の模式的な拡大図である。
【図2】(a)は、本発明の実施の形態に係る透明導電膜の模式図であり、(b)は、本発明の実施の形態に係る透明導電膜の拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る透明導電膜のPEDOT/PSSの構造式を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る透明導電膜の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る透明導電膜の塗膜例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る透明導電膜のシート抵抗値を示す図である。
【図7】(a)は、本発明の実施の形態に係るPEDOT/PSSの分子鎖を示す模式図であり、(b)は、基材上でのCNTの分子鎖を示す模式図である。
【図8】EDOTの重合反応を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る透明導電膜のカップリング剤による架橋結合を示す模式図である。
【図10】(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係る透明導電膜のカップリング剤の塗膜例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る透明導電膜中でのCNTにドーパントを添加した例を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る透明導電膜のドーパント添加後のシート抵抗値変化の傾向を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る透明導電膜のシート抵抗値の変化を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る透明導電膜の耐熱試験におけるシート抵抗値の変化を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る透明導電膜の吸光スペクトルを示す図である。
【図16】本発明の実施の形態に係る透明導電膜を用いたタッチパネルの断面模式図である。
【図17】本発明の実施例に係る透明導電膜の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
タッチパネルなど、透明導電膜が用いられる分野では、透明導電膜の性能の向上のため、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube:CNT)を添加した透明導電膜が検討されている。CNTは、銅の1000倍以上の電気伝導特性を有すると共に、引っ張り強度が数十GPaと極めて高いことに加え、その分子鎖の直径がナノメートルスケールと極めて細い。このため、CNTは、透明性に優れ、導電性が高い透明導電膜を実現できる材料として期待されている。
【0034】
本発明者らは、CNTを用いる透明導電膜について鋭意研究した。まず、本発明者らは、CNTの物性について詳細に調べた。CNTは、炭素原子による複数の6員環が平面状に展開したグラフェンシートを主な構成単位とし、このグラフェンシートが筒状に巻いて形成される円筒形状の分子鎖を有する。CNTの導電性は、グラフェンシートの炭素原子のSP2結合に由来し、その円筒形状の分子鎖の筒軸方向に向けて高い導電性を有する。
【0035】
次に、本発明者らは、CNTを透明導電膜に用いた場合におけるCNTの物性について調べた。図1(a)、(b)を参照して透明導電膜中でのCNTの物性について説明する。図1(a)は、基材上に塗布されたCNTの分子鎖の分散状態を模式的に示した図である。CNT11は、溶媒への溶解性が低いため、CNT11を透明導電膜に用いる場合、分散液として基材上に塗膜される。基材上に塗膜されたCNT11の分子鎖は、通常、図1(a)に示すように、それぞれの分子鎖が複雑に分散した状態となっている。
【0036】
図1(b)は、基材上に塗布されたCNT分子差を模式的に示した図である。図1(b)に示すように、基材上に塗膜されたCNT11は円筒形の分子鎖を有している。基材上に塗膜されたCNT11分子鎖は、その分子鎖の一部が交差した状態で塗膜され、プレス機等により基材上に圧着される。ここで、基材上に圧着されたCNT11の分子鎖は、基材面に向けて圧迫されて変形する。
【0037】
そこで、本発明者らは、上述したCNT11を透明導電膜に用いた場合におけるCNT11の特性に着眼し、CNT11の導電性を向上できる透明導電膜について鋭意研究した。その結果、基材上に塗膜されたCNT11上を所定量で被覆するように導電性組成物を塗布することにより、導電性組成物の塗布量を削減でき、透明性に優れ、導電性が高い透明導電膜が得られることを見出した。すなわち、所定量、例えば、塗膜されたCNT11が透明導電膜としての導電性を示すために十分な量だけ導電性組成物を存在させることで、CNT11同士が導電性組成物を介して連結して導電性を高めることができる。このため、CNT11の分子鎖が圧迫された状態でも透明導電膜としての導電性を示すことができる。このように、導電性組成物の量を透明導電膜としての導電性を示すために十分な量だけに制限することにより、透明導電膜の着色を防止することができる。
【0038】
さらに、本発明者らは、透明導電膜の製造工程において、モノマー状態での導電性組成物をCNT11上に塗布してから、導電性組成物を重合することにより、透明導電膜の導電性をより向上できること、CNT11にドーパントとして特定構造を有する化合物を添加することにより、透明導電膜の導電性をさらに向上できること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0039】
すなわち、本発明は、基材上にCNT11を塗膜し、このCNT11上に、透明導電膜としての導電性を示すために十分な量だけ導電性組成物を存在させることにより、透明導電膜の透明性の向上と導電性の向上とを共に実現するものである。
【0040】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図2(a)は、本実施の形態に係る透明導電膜の模式図である。図2(a)に示すように、本実施の形態に係る透明導電膜は、基材21に塗膜されたCNT22と、このCNT22の一部を被覆するように基材21上に存在するPEDOT/PSS23とを含有する。CNT22は、それぞれの分子鎖が分散された状態で基材21面上に塗膜されている。PEDOT/PSS23は、透明導電膜としての導電性を示すために十分な量だけ基材21上に存在している。すなわち、基材21上に複数の塗膜領域が離間するように形成されている。このように、本実施の形態においては、PEDOT/PSS23は、CNT22の一部に少なくとも1つの領域に塗膜されることにより、導電性が高い透明導電膜が得られる。
【0041】
図2(b)は、本実施の形態に係る透明導電膜の拡大図である。図2(b)に示すように、CNT22上に被覆するように塗布されたPEDOT/PSS23は、交差するCNT22の分子鎖間に浸透し、CNT22の分子鎖間を導通して接点抵抗を低減する。また、図2(a)、(b)に示すように、PEDOT/PSS23は、その塗膜領域内において、複数のCNT22分子鎖を被覆するように基材21に塗膜される。これにより、複数のCNT22分子鎖間がPEDOT/PSS23を介して導通される。このように、本実施の形態においては、PEDOT/PSS23により、交差するCNT22の分子鎖間及びPEDOT/PSS23の塗膜領域内の複数のCNT22分子鎖間が導通されるので、透明導電膜の導電性が向上する。
【0042】
なお、本実施の形態において透明電極パターンを形成する場合は、CNT22が基材21にパターニングされていることが好ましい。PEDOT/PSS23を塗布した状態でフォトレジストを形成して剥離することは容易ではないが、耐薬品性に優れるCNT22のみが形成されている状態でパターニングすることは比較的容易である。また、PEDOT/PSS23を後から全面に形成してもCNT22が除去された部分ではPEDOT/PSS23のみでは導通しない。
【0043】
また、本実施の形態においては、CNT22としては、一枚のグラフェンシートで構成される単層CNT(SWNT)、二枚のグラフェンシートで構成される二層CNT(DWNT)、又は複数のグラフェンシートが同芯状に巻かれた複数層によって構成される多層CNT(MWNT)のいずれのCNTも用いることができる。これらの中でも、得られる透明導電性塗膜の全光線透過率の観点から、単層CNTを用いることが好ましい。また、単層CNTは、炭素原子の配列が良好で構造欠点が少ないので、電気伝導率が向上するため好ましい。CNT22としては、その構造の一部を有機化合物によって修飾したもの、構造中に金属原子やクラスターを含むもの、あるいは、各種の有機化合物や無機化合物と複合(ハイブリッド)化したものを用いることもできる。
【0044】
また、本実施の形態においては、可視光の散乱を抑制する観点から、CNT22の直径は、0.5nm〜150nmであることが好ましい。より好ましくは、0.5nm〜20nmである。また、CNT22の分子鎖の長さは、CNT22分子鎖の接触点を確保し、導電性を向上する観点から、0.05μm〜5000μmであることが好ましい。より好ましくは、1μm〜5000μmである。
【0045】
なお、本実施の形態においては、CNT22として市販のCNTをそのまま用いることも可能である。このような市販のCNTとしては、例えば、名城ナノカーボン社製、商品名:SO-type等を挙げることができる。
【0046】
次に、図3を参照して、PEDOT/PSS23について説明する。本実施の形態においては、透明導電膜の導電性を向上させる観点から、PEDOT/PSS23を主に含有する導電性組成物を用いる。このPEDOT/PSS23は、図3に示すように、カチオン性のポリチオフェンであるPEDOT24とポリアニオンであるPSS25との高分子錯体である。PEDOT24は、モノマーであるEDOT(2,3−エチレンジオキシチオフェン)からの酸化重合で合成される。一方、PSS25は、ポリスチレンスルホン酸アニオンからの付加重合によって合成される。
【0047】
なお、PEDOT/PSS23としては、市販のPEDOT/PSS分散液(エイチ・シー・スタルク社製、商品名:クレビオスPH510)を用いてもよい。
【0048】
本実施の形態においては、導電性組成物としては、導電性を有する組成物であれば、PEDOT/PSS23に限定されず、各種導電性組成物を用いることができる。例えば、カチオン性のポリチオフェンとしては、図3に示す3,4−ジ置換チオフェンのみを繰り返し単位としていてもよく、3,4−ジ置換チオフェンの繰り返し単位を主に含有し、これと重合可能な他のモノマーを従成分として含むものであってもよい。また、3,4−ジ置換チオフェンに各種置換基を有するものであってもよい。
【0049】
また、導電性組成物を構成するポリアニオンとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等の高分子状カルボン酸類;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等の高分子状スルホン酸類等を用いることができる。また、高分子状カルボン酸およびスルホン酸類等のポリアニオンは、ビニルカルボン酸類、ビニルスルホン酸類等のアニオン性のモノマーのみから重合される単独重合体、複数種のアニオン性モノマーからなる共重合体、及びアニオン性モノマーと共重合可能な他のモノマー類との共重合体であってもよい。
【0050】
本実施の形態においては、CNT22、100重量部に対し、PEDOT/PSS23を10重量部〜1000重量部の範囲で含有することが好ましい。PEDOT/PSS23が1000重量部以下であればPEDOT/PSS23に由来する透明導電膜の着色をより低減でき、透明導電膜の透明性を向上させることができる。また、PEDOT/PSS23が10重量部以上であれば、CNT22の分子鎖間の接点抵抗が低減され、PEDOT/PSS23の導電性を向上させることができる。PEDOT/PSS23は、CNT22、100重量部に対し、10重量部から1000重量部の範囲で用いることが好ましく、より透明導電膜の着色を低減する観点から10重量部から500重量部の範囲で用いることがより好ましい。
【0051】
次に、図4(a)〜図4(c)を参照して本実施の形態に係る透明導電膜の製造方法について説明する。本実施の形態に係る透明導電膜の製造方法は、基材21にCNT22を塗膜する工程と、基材21に塗膜されたCNT22の一部を被覆するように、PEDOT/PSS23を塗布する工程とを含む。
【0052】
図4(a)に示すように、まず、基材21にCNT22分散液を塗布してCNT22を塗膜する。次いで、図4(b)に示すように、基材21に塗膜されたCNT22を被覆するようにPEDOT/PSS23分散液を塗布する。次いで、塗膜を90℃で10分間予備乾燥(プリベーク)し、最後に120℃で20分間本乾燥(ベーク)して透明導電膜を製造する。
【0053】
基材21としては、金属、ガラス、セラミックス、シリコンウェハなどの無機材料、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー耐熱性樹脂などの有機材料を用いることができる。これらの中でも耐熱性の有機材料を用いることが好ましい。また、基材21としては、疎水性、親水性いずれの材料を用いてもよい。疎水性材料を用いた場合、塗膜後の塗布液の乾燥工程において、CNT22とPEDOT/PSS23との親和性が向上するため好ましい。基材21の材質は、CNT22及びPEDOT/PSS23の分散液との親和性及び形成する透明導電膜の膜厚に応じて任意に選択できる。
【0054】
CNT22の分散媒としては、例えば、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有する分散媒など、各種溶媒を用いることができる。なお、CNT22分散液には、必要に応じて、カップリング剤、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調製剤、滑剤等の添加剤を配合してもよい。CNT22分散液は、例えば、CNT22と界面活性剤、溶媒を塗装製造に慣用の混合分散機(例えば、ボールミル、ロールミル、ホモジナイザーなど)を用いて混合して調製する。また、基材21が樹脂である場合においては、基材21の表面を溶解する成分を用いることによりCNT22を基材21に強固に保持させることもできる。
【0055】
CNT22分散液の基材21への塗布は、公知の塗布条件が適用でき、例えば、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、またはロールコーティングなどが挙げられる。また、基材21上に予め接着層を形成しておくことにより、CNT22を基板21により確実に保持させることが出来る。また、CNT22を塗布後にCNT22を基材21に圧着させることによっても、CNT22を基材21により確実に保持させることが出来る。特に基材21が樹脂基板である場合には、樹脂の軟化温度より高い温度で圧着することによりさらに強固に基板に保持できる。CNT22を基材上に圧着することにより、透明導電膜の導電性を向上させることができる。なお、このようにして成膜したCNT22及びPEDOT/PSS23を含む透明導電膜上には、透明絶縁物を形成する。このように、透明絶縁物を形成することにより、透明導電膜を保護することができる。
【0056】
CNT22の膜厚は、導電性の観点から、10nmから500nmの範囲であることが好ましく、20nmから200nmの範囲であることがより好ましい。CNT22の膜厚が20nm以上であることにより、透明導電膜の導電性がより向上する。
【0057】
PEDOT/PSS23分散液の塗布は、CNT22分散液と同様の塗布条件を適用できる。本実施の形態においては、PEDOT/PSS23分散液をエアーブラシ(タミヤ社製、商品名:スプレーワークHG)により、基材21の複数点にそれぞれの塗膜領域が離間するように塗布した。
【0058】
PEDOT/PSS23の膜厚は、導電性及び透明導電膜の透明性の観点から、40nmから600nmの範囲であることが好ましく、60nmから300nmの範囲であることがより好ましい。PEDOT/PSS23の膜厚が40nm以上であれば、透明導電膜の導電性がCNT22だけの導電性から大きく増大する。
【0059】
また、本実施の形態においては、PEDOT/PSS23の塗膜領域の面積は、上述したCNT22に対するPEDOT/PSS23の重量比を満たす範囲であれば、特に限定されず、例えば、点状の微細な面積を有する領域が無数に形成されたものでもよく、広い面積を有する塗膜領域が少数形成されたものであっても良い。
【0060】
尚、上述した例では、CNT22を塗膜してからPEDOT/PSS23を塗膜する例について説明したが、図4(c)に示すように、基材21の複数点にそれぞれの塗膜領域が離間するようにPEDOT/PSS23を塗布してから、基材21にCNT22を塗膜してもよい。
【0061】
次に、図5を参照して、本実施の形態に係る透明導電膜の塗膜例の一例について説明する。図5に示す例は、基材21にCNT22をパターニングした導電領域41、42とCNT22をパターニングしない非導電領域43とを形成し、塗膜領域の密度が均等になるように離間配置されたPEDOT/PSS23を基材21の全面に亘って塗布した例である。このように塗膜することにより、基材21上のCNT22がパターニングされた導電領域41、42では、PEDOT/PSS23により導電性が向上する。これに対して、CNT22がパターニングされない非導電領域43は、離間配置されたPEDOT/PSS23同士が接続されないため導電性を持たないままとすることができる。このように、PEDOT/PSS23のパターニングを行わなくとも、CNT22のパターニングのみを行うことにより、基材21上の所望の領域に導電性が向上した導電領域41、42と非導電領域43とを任意に形成することができる。また、基材21の全面に、塗膜領域の密度が均等になるようにPEDOT/PSS23を塗布することにより、透明導電膜の視認性を低減することができる。
【0062】
なお、図5に示す例においては、基材21にCNT22をパターニングしてから、PEDOT/PSS23を塗布する実施の形態について説明したが、CNT22の基材21へのパターニングとPEDOT/PSS23の塗膜の順番は特に制限されない。例えば、基材21にPEDOT/PSS23を塗膜してからCNT22をパターニングしてもよく、基材21へのCNT22のパターニングとPEDOT/PSS23の塗膜とを交互に実施してもよい。
【0063】
なお、本実施の形態おいては、導電領域41、42とは、シート抵抗値が100Ω/□から10KΩ/□の範囲である領域を指す。導電領域41、42のシート抵抗値は、200Ω/□から5kΩ/□の範囲が好ましい。また、非導電領域43とは、シート抵抗値が500KΩ/□以上の範囲である領域を指す。なお、シート抵抗値は、4探針シート抵抗測定装置で、常温、常湿の条件で測定した値である。
【0064】
また、本実施の形態においては、基材21面上におけるPEDOT/PSS23によるCNT22の被覆率が5%から50%の範囲であることにより、CNT22の分子鎖間の接点抵抗が低減され、透明導電膜の導電性が向上する。被覆率が5%以上の場合には、シート抵抗値が低減されて透明電極として好適に用いることができる。PEDOT/PSS23によるCNT22の被覆率は、好ましくは5%から50%の範囲であり、より好ましくは10%から40%の範囲である。
【0065】
次に、本発明者らは、本実施の形態に係る透明導電膜のシート抵抗値について詳細に調べた。図6を参照して本発明者らが調べた内容について説明する。図6は、基材上にCNT22のみを塗膜した透明導電膜に対して、エアーブラシでPEDOT/PSS23を所定時間塗工した場合におけるシート抵抗値の変化を示している。図6に示すように、CNT22のみをパターニングした透明導電膜のシート抵抗値が100%であるのに対し、エアーブラシでPEDOT/PSS23を1秒塗工することによりシート抵抗値が約40%に低下する。また、エアーブラシによる塗工時間を長くすることによりシート抵抗値がさらに低下することが分かる。
【0066】
このように、本実施の形態によれば、基材21に塗膜されるCNT22上にPEDOT/PSS23を塗膜することにより、透明導電膜の導電性を向上させることができる。また、PEDOT/PSS23の塗布量が少量でも導電性が向上するので、PEDOT/PSS23に由来する着色の影響を低減することができ、透明性が高い透明導電膜を得ることができる。また、エアーブラシなどによる塗工でPEDOT/PSS23を塗膜できるので、PEDOT/PSS23を分散液の状態で塗工でき、透明導電膜を容易に形成することができる。
【0067】
なお、本実施の形態に係る透明導電膜においては、塗膜した透明導電膜上に保護フィルムなどの絶縁性フィルムを設けて用いてもよい。
【0068】
また、本発明者らは、本実施の形態に係る透明導電膜において、PEDOT24前駆体であるEDOTを基材21上に塗膜してから、基材21でEDOTを酸化重合してPEDOT24を合成することにより、透明導電膜の導電性をさらに向上できることを見出した。以下、その詳細について説明する。
【0069】
まず、図7(a)、図7(b)を参照して塗布液中でのPEDOT/PSS23の微細形状及びCNT22の微細形状について説明する。図7(a)は、塗布液中でのPEDOT/PSS23の分子鎖を模式的に示した図である。図7(b)は、基材21面上でのCNT22の分子鎖を模式的に示した図である。
【0070】
図7(a)に示すように、PEDOT/PSS23は、EDOTが酸化重合したPEDOT24と、スチレンスルホン酸アニオンが重合したPSS25と、を含有する。PEDOT24は、その重合度が10〜40程度のオリゴマーであり、3nm(図7(a)のL1)程度の分子鎖を有している。一方、PSS25は重合度が大きく、分子量40万程度のポリマーであり、長い分子鎖を有している。
【0071】
PEDOT/PSS23は、長い分子鎖を有するアニオン性のPSS25の分子鎖と短い分子鎖を有するカチオン性のPEDOT24との間の分子鎖間の相互作用により、糸状の高分子錯体となる。この高分子錯体は、水中では直径約30nm〜60nm程度(図7(a)のL2)の球状に凝集してコロイド粒子を形成している。
【0072】
一方、図7(b)に示すように、基材21に塗膜されたCNT22は、直径1nmから3.5nm程度(図7(b)のL3)の分子鎖を有する。このように、CNT22の分子鎖は、PEDOT/PSS23のコロイド粒子の直径に対して細いので、CNT22の分子鎖間に形成される間隔は、PEDOT/PSS23のコロイド粒子の直径に対して小さくなる。このため、基材21のCNT22を被覆するようにPEDOT/PSS23の分散液を塗布した場合、CNT22の分子鎖間にPEDOT/PSS23が侵入しにくくなり、PEDOT/PSS23によるCNT22の接点間の抵抗の低減が発現しにくくなることが考えられる。
【0073】
そこで、本発明者らは、PEDOT24の原料モノマーであるEDOTの状態で基材21上に塗布し、基材上でEDOTを酸化重合してPEDOT24に変換することにより、透明導電膜の導電性を向上できることを見出した。
【0074】
図8は、PEDOT24の合成反応を示す図である。図8に示すように、PEDOT24は、モノマー状態のEDOT26と酸化剤としてのp−トルエンスルホン酸第二鉄(Fe−pTS)27との酸化重合により合成される。EDOT26は、単分子状態で水や有機溶媒に対して分散、溶解するので、CNT22分子鎖間への侵入が容易となる。また、EDOT26を溶解した塗布液は、低粘度かつ低表面エネルギーとなるので、CNT22分子鎖間に浸透しやすくなる。
【0075】
このように、本実施の形態においては、PEDOT24の前駆体であるEDOT26をモノマーの状態でCNT22上に塗布し、CNT22の分子鎖間にEDOT26が浸透した状態で酸化重合することにより、PEDOT24がCNT22の分子鎖間でも形成される。このため、CNT22分子鎖間がPEDOT24によって導通されて接点抵抗が低減し、透明導電膜の導電性が向上する。
【0076】
次に、上述した基材21でEDOT26を基材上で重合してPEDOT24を合成する透明導電膜の製造方法について説明する。この場合、基材上にCNT22を塗膜する工程と、CNT22上にEDOT26及び酸化剤を含有する組成物を塗布する工程と、CNT22上に塗布した組成物を酸化重合する工程とを、主に含む。
【0077】
まず上述したPEDOT24を用いる場合と同様に、基材21にCNT22を塗膜する。次いで、EDOT26、酸化剤及びドーパントなどを水/アルコール混合溶媒中で混合した組成物を含有する塗布液を調製する。次に、調製した塗布液を基材21に塗膜し、乾燥することにより、透明導電膜を成膜する。基材21に塗膜されたEDOT26は、乾燥工程で酸化重合してPEDOT24に変換される。
【0078】
酸化剤としては、図8に示すp−トルエンスルホン酸第二鉄(Fe−pTS)27など、各種の酸化剤を用いることができる。ドーパントとしては、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調製剤、滑剤等の添加剤を用いることができる。
【0079】
なお、本実施の形態に係る透明導電膜においては、カップリング剤の添加により、透明導電膜の機械的強度及び耐湿性を向上させることができる。図9を参照して本実施の形態に係る透明導電膜におけるカップリング剤の作用について説明する。
【0080】
カップリング剤としては、例えば、エポキシ基を含有するアルコキシシランなどが用いられる。エポキシ基を含有するアルコキシシランをカップリング剤として用いた場合、図9に示すように、基材21に塗膜されたPEDOT/PSS23とカップリング剤とが反応して分子鎖間に架橋結合28(3次元クロスリンク)が形成される。この架橋結合28により、PEDOT/PSS23分子鎖間の結合が強化されて透明導電膜の機械的強度及び耐湿性が向上する。
【0081】
次に、図10(a)、図10(b)を参照して、PEDOT/PSS23を用いた透明導電膜にカップリング剤を用いた場合における透明導電膜の塗膜例について説明する。図10(a)は、PEDOT/PSS23とカップリング剤29とを混合して塗膜した例である。この場合、カップリング剤29が基材21に一様に塗布される。一方、図10(b)は、PEDOT/PSS23を基材21に塗布してからカップリング剤29を塗布した例である。このように、カップリング剤29は、PEDOT/PSS23と混合して塗布してもよく、PEDOT/PSS23を塗膜した透明導電膜上に塗布しても良い。
【0082】
また、本発明者らは、CNT22を含有する透明導電膜に特定構造を有するドーパントを添加することにより、透明導電膜の導電性をさらに改善できることを見出した。以下、その詳細について説明する。
【0083】
図11は、本実施の形態に係るドーパント30を添加したCNT22を示す模式図である。図11に示すように、CNT22にドーパント30を添加した場合、ドーパント30が理想的な場合にはCNT22の内部に内包される。ここで、ドーパント30として電子吸引性化合物又は電子供与性化合物を添加することにより、CNT22の電子的特性が変化して透明導電膜の導電性が向上する。本実施の形態においては、CNT22に添加するドーパント30として、下記式(1)に示されるTCNQ−F4を用いることにより、透明導電膜の性能を低下することなく導電性を向上できる。
【0084】
【化4】

【0085】
本実施の形態においては、上記式(1)に示されるTCNQ−F4の添加量は、CNT22、100重量部に対し、10重量部から200重量部の範囲であることが好ましい。TCQN−F4の添加量が10重量部以上の場合、透明導電膜の導電性が向上する。また、TCQN−F4の添加量が200以下の場合、透明導電膜の性能の低下を抑制できる。TCNQ−F4の添加量は、10重量部から200重量部であることが好ましく、20重量部から150重量部であることがより好ましい。
【0086】
次に、上記式(1)に示されるTCNQ−F4を用いた透明導電膜の製造方法について説明する。まず、基材21にCNT22分散液を塗布してCNT22を塗膜する。次いで、0.01重量%の濃度となるようにエタノールに溶解したTCNQ−F4溶液を調製し、調製したTCNQ−F4溶液を基材21に塗膜されたCNT22に塗布する。次いで、エタノールを蒸発させることにより、CNT22中にTCNQ−F4が作用した透明導電膜が形成される。
【0087】
次に、本発明者らは、ドーパント30を添加した透明導電膜について詳細に調べた。その結果、本実施の形態に係る透明導電膜にドーパント30を添加することにより、シート抵抗値が半分以下に低減されることが分かった。また、ドーパント30を添加した透明導電膜は、IPA(イソプロピルアルコール)で洗浄してもシート抵抗値がほとんど変化しないこと、加熱してもシート抵抗値の増大がわずかであること、得られた透明導電膜着色が少ないこと、が分かった。以下、図12〜図15を参照しながら、本発明者らが調べた内容について説明する。
【0088】
まず、本発明者らは、ドーパント30添加前後の透明導電膜のシート抵抗値の変化を調べた。図12は、ドーパント30添加後の透明導電膜のシート抵抗値の変化を示す図である。図12に示すように、ドーパント30未添加の透明導電膜のシート抵抗値R1を100%とした場合、ドーパント30添加後の透明導電膜のシート抵抗値R2は、約35%に低下した。さらにドーパント30添加後の透明導電膜にPEDOT/PSS23を塗膜した透明導電膜のシート抵抗値R3は、約17%に低下した。これらの結果から、ドーパント30の添加により透明導電膜の導電性が向上し、PEDOT/PSS23を塗膜することにより、さらに導電性が向上することが分かる。
【0089】
次に、本発明者らは、ドーパント30を添加した透明導電膜の耐久性について調べた。図13は、ドーパント30を添加した透明導電膜のIPA洗浄に対するシート抵抗値の変化の傾向を示す図である。なお、図13では、シート抵抗値の変化の傾向を模式的に示している。図13に示すように、ドーパント30未添加の透明導電膜のシート抵抗値R4は、高い値を示すのに対し、ドーパント30添加後の透明導電膜のシート抵抗値R5は大幅に低減することが分かる。また、この透明導電膜をIPA(イソプロピルアルコール)で洗浄した場合のシート抵抗値R6は洗浄前のシート抵抗値R5と同等であり、IPAでの洗浄の前後でほとんど変化しないことが分かる。また、IPA洗浄後の透明導電膜に対して、ドーパント30を再添加した透明導電膜のシート抵抗値R7は、ドーパント30の再添加の前のシート抵抗値R6とほぼ同等であった。また、この透明導電膜を再度IPAで洗浄した場合のシート抵抗値R8は、洗浄前のシート抵抗値R7と比較してわずかに増大した。この結果から、ドーパント30を添加した透明導電膜は、IPAで洗浄してもドーパント30がほとんど流出せず、低いシート抵抗値を示すことが分かる。
【0090】
次に、本発明者らは、ドーパント30を添加した透明導電膜の80℃における安定性について調べた。図14は、ドーパント30を添加した透明導電膜の80℃におけるシート抵抗値変化割合を示す図である。図14に示すように、ドーパント30を添加した透明導電膜を80℃に加熱した場合、試験開始時にはシート抵抗値変化割合が約20%であったのに対し、60時間経過してもシート抵抗値変化割合が約25%とわずかに増大した程度であった。この結果から、ドーパント30を添加した透明導電膜は、加熱試験した場合においても抵抗値変化割合が小さいことが分かる。
【0091】
次に、本発明者らは、本実施の形態に係る透明導電膜の着色について調べた。図15は、CNT22のみを用いた透明導電膜M1、CNT22及びPEDOT/PSS23を用いた透明導電膜M2及びCNT22、PEDOT/PSS23及びドーパント30を添加した透明導電膜M3の吸光スペクトルを示す図である。図15に示すように、透明導電膜M1〜透明導電膜M3のいずれの透明導電膜についても可視光領域の吸収スペクトルが平坦となり、透明導電膜の着色が少ないことが分かる。この結果から、本実施の形態に係る透明導電膜は、着色が少なく、また、透明導電膜にドーパントを添加しても着色などの影響がないことが分かる。
【0092】
このように、本実施の形態においては、ドーパント30の添加により、透明導電膜の物性に影響することなく導電性を向上できるので、特に導電性が高い透明導電膜を実現することができる。
【0093】
次に、図16を参照して、本実施の形態に係る透明導電膜の応用例について説明する。本実施の形態に係る透明導電膜は、例えば、タッチパネルなどの用途に応用することができる。
【0094】
図16は、本実施の形態に係る透明導電膜が用いられる抵抗膜式のタッチパネルの断面図である。図16に示すように、このタッチパネルは、下部パネル板101と、下部パネル板101と対向して設けられる上部パネル板102とを備える。下部パネル板101の上面には第1透明導電膜103が設けられ、この第1透明導電膜103と対向するように、上部パネル板102の下面に第2透明導電膜104が設けられている。下部パネル板101と上部パネル板102との間は、スペーサー105を介して接続されている。
【0095】
下部パネル板101、上部パネル版102としては、ポリエチレン、ポリエステルなど、各種高分子材料を用いることができる。第1透明導電膜103及び第2透明導電膜104としては、上述した本実施の形態に係る透明導電膜を用いる。また、第1透明導電膜103及び第2透明導電膜は、それぞれ導電率が異なるように、材料の組成比を変えて構成することが好ましい。
【0096】
次に、本実施の形態に係るタッチパネルの動作について説明する。まず、下部パネル板101、上部パネル板102から指やタッチペンなどにより座標入力操作が行われる。この入力操作により、タッチパネルのパネル板101、102が撓み変形し、第1透明導電膜103と第2透明導電膜104とが接触する。この第1透明導電膜103と第2透明導電膜104との接触により、第1透明導電膜103及び第2透明導電膜104との間が通電される。この第1透明導電膜103及び第2透明導電膜104との間の通電を検出することにより、入力座標を特定する。
【0097】
本実施の形態に係るタッチパネルにおいては、第1透明導電膜103及び第2透明導電膜104に上述したCNT22にPEDOT/PSS23を塗布した透明導電膜を用いる。この透明導電膜は、下部パネル板101、上部パネル板102上に直接塗膜により成膜できるので、容易にタッチパネルを製造することができる。また、本実施の形態に係る透明導電膜は、有機材料で構成されているので、可撓性基板と共に撓み変形することができる。このため、例えば、第1透明導電膜103、第2透明導電膜104をITOなどの無機材料で構成した場合と比較し、第1透明導電膜103、第2透明導電膜104の撓み変形による破損を防止できるので、耐久性が高いタッチパネルを実現することができる。また、無機材料で構成される透明導電膜と比較して薄く塗膜しても透明導電膜が破損しないので、タッチパネルを薄くすることもできる。さらに、透明導電膜の変形による破損を防止できるので、透明導電膜の膜厚を薄く形成でき、タッチパネルを安価に製造することができる。
【0098】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0099】
本実施例においては、本実施の形態に係る透明導電膜及び比較例に係る透明導電膜を作製し、下記の条件により各種物性を評価した。以下に、各種物性測定条件を示す。
【0100】
<透明電膜の評価>
透明導電膜の評価は、下記の条件に従って実施した。
【0101】
<全光線透過率(透明導電膜のみ)>
透明導電膜の全光線透過率は、UV可視スペクトルメータを用いて測定した。
【0102】
<面積抵抗試験>
透明導電膜の面積抵抗試験は、透明導電膜の表面抵抗を4探針式面積抵抗計(三菱化学社製、LORESTA EP MCP−1360)を用いて実施し、面積抵抗(シート抵抗値)を測定した。
【0103】
以下の実施例及び比較例においては、基材上にCNTを塗工した後、導電性組成物を塗布して形成した透明導電膜(実施例1)、導電性組成物の作製条件を変更して形成した透明導電膜(実施例2)を作成した。さらに、ドーパントを添加した透明導電膜を作成し、その性能を評価した(実施例3)。また、実施例3に対し、ドーパントを添加せずに作製した透明導電膜を作成し、その性能を評価した。
【0104】
(実施例1)
<基材の調製>
基材は、以下の様に調製した。先ず、クリーンルーム内で基材(材料:PET)を40mm四方にカットした(長さ40mm×幅40mm×厚さ0.2mm)。次いで、このPETフィルムをガラスウェハー(φ100mm×厚さ1.1mm)に貼り付けて導電薄膜の基材を調製した。
<CNT塗布液調製>
CNT0.01g(名城ナノカーボン社製、商品名:SO−Type)をエタノール100gに分散させてCNT塗布液を調製した。
【0105】
<PEDOT/PSS塗布液調製工程>
PEDOT/PSS水性分散液(エイチ・シー・スタルク社製、商品名:クレビオスPH510)を塗布液とした。次にエンハンサーとして、塗布液に対して5重量%のDMSOを添加した。混合溶解した後、塗布液をクリーンルーム内で孔0.45μmのフィルターでろ過してPEDOT/PSS分散液を調製した。
【0106】
<CNT塗布工程>
スピンコーター(ミカサ社製)を用いて回転数1400rpm、回転時間20秒の条件下、基材上にCNTを塗布した。
【0107】
<PEDOT/PSS塗工工程>
エアーブラシ(タミヤ社製、スプレーワークHG)を用いて、塗工時間2秒の条件で基材上にPEDOTを塗布した。基材上に塗工したPEDOTの写真を図17に示す。図17に示すように、PEDOT/PSSは、基材上に点在するように塗布されていた。
【0108】
<乾燥工程>
得られた薄膜を90℃で10分予備乾燥し、次いで、120℃で20分間本乾燥して透明導電膜を作製した。得られた透明導電膜の膜厚は、200nmであった。また、全光線透過率は85%、シート抵抗値は2.7KΩ/□であった。
【0109】
次に、基材上にEDOTを塗布した後、基材上で酸化重合した透明導電膜を作製した実施例について説明する。
【0110】
(実施例2)
<基材の調製>
実施例1と同様に基材を調製した。
<EDOT塗布工程>
0.2gEDOT、50重量%p−トルエンスルホン酸エタノール溶液2.5g、及び酸化剤である硫酸第2鉄と過硫酸ソーダ(1:1)とを混合した30%水溶液を徐々に混合し、80℃で約30分反応させた。この溶液を5mlピペットで分取し、実施例1と同様に調製したCNTコート済み基材上にエアーブラシを用いて塗布した。
【0111】
<乾燥工程>
得られた薄膜を90℃で10分間予備乾燥を行い、120℃で20分本乾燥を実施した。得られた透明電極膜の膜厚は、155nmであった。また、全光線透過率は85%、シート抵抗値は700Ω/□であった。
【0112】
以上の結果から、モノマーのEDOTを用いたin−situ方式(基材上でPEDOTを酸化重合して調製した)のPEDOT:PSSはより良好な透明電極膜になることが分かった。
【0113】
次に、実施例3としてCNTにドーパントを添加した透明導電膜を作製した。また、比較例として、ドーパントを添加しない透明導電膜を作製した。
【0114】
(実施例3)
<基材の調製>
実施例1と同様に基材を調製した。
【0115】
<CNT塗布液の調製>
実施例1と同様にCNT塗布液を調製した。
【0116】
<ドーパント溶液の調製>
4フッ化テトラシアノキノジメタン(TCNQ−F4)1重量部をエタノール100000重量部に溶かしてドーパント溶液を調製した。
【0117】
<PEDOT/PSS塗布液調製工程>
実施例1と同様にPEDOT/PSS分散液を調製した。
【0118】
<CNT塗布工程>
実施例1と同様に基材にCNT溶液を塗布してCNT膜を形成した。
【0119】
<ドーピング工程>
CNT膜の面積が20cmに対してドーパント溶液1mlをCNT膜に滴下した後、エタノールを室温にて蒸発させた。
【0120】
<PEDOT/PSS塗工工程>
実施例1と同様に基材上にPEDOTを塗布した。
【0121】
<乾燥工程>
実施例1と同様に乾燥させた。
【0122】
(比較例1)
ドーピング工程が無いだけで他の調製方法は実施例3と同様に調製した。
【0123】
実施例3及び比較例1で作製した透明導電膜を評価した結果、ドーパントを添加した透明導電膜は、シート抵抗値が大幅に低減することが分かった。
【0124】
以上説明したように、本実施の形態に係る透明導電膜によれば、基材21上にCNT22を塗膜してからCNT22上にPEDOT/PSS23を塗布することにより、透明性が高く、導電性が高い透明導電膜を実現できる。また、モノマー状態のEDOTを塗布し、基材上で酸化重合することにより、更に透明導電膜の導電性を向上できる。さらに、CNTにドーパントを添加することにより、透明導電膜の導電性を向上できる。
【0125】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパー等に用いられる透明電極及び電磁波シールドなど、各種透明導電膜を用いたデバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0127】
11 CNT
21 基材
22 CNT
23 PEDOT/PSS
24 PEDOT
25 PSS
26 EDOT
28 架橋結合
29 カップリング剤
30 ドーパント
101 下部パネル板
102 上部パネル板
103 第1透明導電膜
104 第2透明導電膜
105 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に塗膜されたカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブ上の一部に存在する導電性組成物と、を含み、前記カーボンナノチューブ100重量部に対し、少なくとも前記導電性組成物10重量部を含有することを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
前記導電性組成物は、前記カーボンナノチューブ上の少なくとも2つの領域に離間して存在することを特徴とする請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
基材と、前記基材上に塗膜されたカーボンナノチューブと、前記基材上に存在する導電性組成物と、を含有し、前記基材上には、前記カーボンナノチューブ上に前記導電性組成物が存在する導電領域により導電パターンが形成され、前記導電領域内において、前記カーボンナノチューブ100重量部に対し、少なくとも前記導電性組成物10重量部を含有することを特徴とする透明導電膜。
【請求項4】
前記導電領域は、シート抵抗値が100Ω/□から10KΩ/□の範囲であることを特徴とする請求項3記載の透明導電膜。
【請求項5】
前記導電性組成物による前記カーボンナノチューブの被覆率が、5%から50%の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブの膜厚が10nmから500nmの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項7】
前記導電性組成物は、PEDOT/PSSを含有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項8】
前記PEDOT/PSSの膜厚が40nmから600nmの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブは、パターニングされてなることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項10】
基材上に塗膜されたカーボンナノチューブと、下記式(1)で示される化合物と、を含有することを特徴とする透明導電膜。
【化1】

【請求項11】
前記カーボンナノチューブ100重量部に対し、下記式(1)で示される化合物を少なくとも10重量部含有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の透明導電膜。
【化2】

【請求項12】
基材上にカーボンナノチューブを塗膜する工程と、前記カーボンナノチューブ上にPEDOT/PSS分散液を塗布する工程と、を含むことを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項13】
基材上にカーボンナノチューブを塗膜する工程と、前記カーボンナノチューブ上にエチレンジオキシチオフェン及びスルホン酸を含有する組成物を塗布する工程と、前記カーボンナノチューブ上で、前記組成物を重合する工程と、を含むことを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項14】
前記基材上にカーボンナノチューブを塗膜する工程において、前記カーボンナノチューブを塗膜してから、下記式(1)で示される化合物を前記カーボンナノチューブ上に塗布したことを特徴とする請求項12または請求項13に記載の透明導電膜の製造方法。
【化3】

【請求項15】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の透明導電膜を用いたことを特徴とするタッチパネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−124029(P2011−124029A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279069(P2009−279069)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】