説明

透明導電膜形成用組成物、透明導電膜及びディスプレイ

【課題】非常に優れた耐擦傷性を有し、優れた帯電防止特性を有し、可視光透過率が非常に高く、しかも膜の屈折率制御の可能な透明導電膜を形成し得る組成物、そのような透明導電膜並びにそのような透明導電膜を表示面に有するディスプレイを提供すること。
【解決手段】バインダー成分並びに該バインダー成分中に分散した導電性粉体及び高屈折率粉体からなり、該導電性粉体は0.1〜30質量%の水酸化錫粉体と70〜99.9質量%のその他の導電性粉体とからなる透明導電膜形成用組成物、そのような組成物から形成される透明導電膜、並びにそのような透明導電膜を表示面に有するディスプレイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電膜形成用組成物、透明導電膜及び表示面に透明導電膜を有するディスプレイに関し、より詳しくは、多様な透明基材の表面、特にLCDやプラズマディスプレイ等の表示面に塗布又は印刷し、硬化させることにより、非常に優れた耐擦傷性を有し、優れた帯電防止特性を有し、且つ可視光透過率が非常に高い透明導電膜を形成し得る組成物、そのような透明導電膜並びにそのような透明導電膜を表示面に有するディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、陰極管表示装置などの画像表示装置及び光学製品には反射防止膜が使用されている。この反射防止膜には、高い透明性及び低い反射率の特性に加え、耐擦傷性及び埃やゴミなどの異物の付着防止機能が要求されている。そのため、反射防止膜の高屈折率層には、高い透明性及び高い屈折率特性に加え、優れた耐擦傷性及び帯電防止特性が求められている。
【0003】
反射防止膜の高屈折率層に帯電防止特性を付与する手段として界面活性剤、導電性ポリマー、又は導電性金属酸化物の添加という方法が挙げられ、永久帯電防止効果及び高い屈折率を有する膜を作製するという目的を考慮した場合に導電性金属酸化物微粒子を使用する方法が一般的になっており、反射防止膜の高屈折率層の作製には、1種類又は2種類以上の高屈折率の金属酸化物微粒子及びバインダーを含有させたコーティング材が多く用いられている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−181335号公報
【特許文献2】特開2006−124406号公報
【特許文献3】特開2006−188588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、反射防止膜の高屈折率層の屈折率を高くするために高屈折率層の金属酸化物微粒子含有量を多くした場合には反比例的に樹脂含有量が少なくなり、その結果として高屈折率層の耐擦傷性、従って反射防止膜の耐擦傷性が低下する。逆に、高屈折率層の金属酸化物微粒子含有量を少なくした場合には、反射防止膜の高屈折率層の導電性が悪化し、屈折率も低くなる。このため、耐擦傷性、高透明性、高屈折率、帯電防止効果のすべての特性を十分に満足する透明導電膜を作製することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記の諸問題を解決するためになされたものであり、非常に優れた耐擦傷性を有し、優れた帯電防止特性を有し、可視光透過率が非常に高く、しかも膜の屈折率制御の可能な透明導電膜を形成し得る組成物、そのような透明導電膜並びにそのような透明導電膜を表示面に有するディスプレイを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、バインダー成分及び該バインダー成分中に分散した導電性粉体及び高屈折率粉体からなる透明導電膜形成用組成物において、導電性粉体として特定量の水酸化錫粉体とその他の導電性粉体とを併用することにより、非常に優れた耐擦傷性を有し、優れた帯電防止特性を有し、可視光透過率が非常に高く、しかも膜の屈折率制御の可能な透明導電膜を形成し得る組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の透明導電膜形成用組成物は、バインダー成分並びに該バインダー成分中に分散した導電性粉体及び高屈折率粉体からなり、該導電性粉体は0.1〜30質量%の水酸化錫粉体と70〜99.9質量%のその他の導電性粉体とからなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の透明導電膜は、上記の透明導電膜形成用組成物を塗布又は印刷し、硬化させることによって形成されるものであることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明のディスプレイは、表示面に上記の透明導電膜形成用組成物を用いて形成された上記の透明導電膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電膜形成用組成物は、塗料又はインクとして基板に塗布又は印刷し、その後硬化させることによって基板上に、非常に優れた耐擦傷性を有し、優れた帯電防止特性を有し、可視光透過率が非常に高く、しかも膜の屈折率を制御することが可能な透明導電膜を形成することができる。従って、比較的耐熱性の低い樹脂基板や多様な形状の基板にも適用でき、透明導電膜を連続的に大量に生産でき、また大面積化も容易である。また、高屈折率粉体の相対的な配合量を調整することにより形成される透明膜の屈折率の制御が可能である。形成される透明導電膜については、成膜条件を調整することにより、例えば、表面抵抗値が好ましくは106〜1011Ω/□ 、より好ましくは107〜1010Ω/□であり、光透過率が好ましくは85%以上であり、ヘイズが好ましくは1.5%以下であり、屈折率が1.55〜1.90である、透明性及び導電性のいずれにも優れ、耐擦傷性に優れ、屈折率の制御が可能な透明導電膜となる。従って、本発明の透明導電膜形成用組成物は、液晶などの透明電極や、太陽電池の窓材料、赤外線反射膜、帯電防止膜、タッチパネル、面発熱体、電子写真記録など広範囲な分野に利用可能であり、各分野において優れた性能を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、バインダー成分中に0.1〜30質量%の水酸化錫粉体と70〜99.9質量%のその他の導電性粉体とからなる導電性粉体及び高屈折率粉体が分散しており、該水酸化錫粉体として水酸化錫自体の粉体又はドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体を用いることができる。これらの水酸化錫粉体は一種のみを用いても、二種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明で用い得る水酸化錫粉体は市販品であっても、或いは公知の方法(例えば、錫の塩化物が溶解した酸性溶液をアルカリで中和して水酸化物を共沈させ、この共沈物を乾燥させる)で製造したものであっても良い。
【0014】
本発明で用い得る、ドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体は市販品として入手することができ、また、公知の方法(例えば、リンと錫の各塩化物が溶解した酸性溶液をアルカリで中和してリン/錫の水酸化物を共沈させ、この共沈物を乾燥させる)で製造することもできる。ドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体において、(ドーパント+Sn)に対するドーパントの量が0.1〜20at%の範囲内であることが好ましく、1〜15at%の範囲内であることがより好ましい。ドーパント含有量が0.1at%未満の場合にはドーパント含有の効果が不十分であり、ドーパント含有量が20at%を超える場合にはドーパント含有水酸化錫粒子自体の抵抗が高くなるため、形成された膜の導電性が低下する傾向がある。
【0015】
本発明においては、水酸化錫粉体は、その他の導電性粉体及び高屈折率粉体との相互作用により、形成される膜の導電性を低下させることなしで膜強度を高め、耐擦傷性を向上させる。本発明においては、導電性粉体に占める水酸化錫粉体の割合は0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、1〜20質量%の範囲であることがより好ましい。導電性粉体に占める水酸化錫粉体の割合が0.1質量%未満である場合には形成される膜について優れた耐擦傷性が得られず、また水酸化錫粉体の割合が30質量%を超える場合には形成される膜の透過率は向上するが水酸化錫の量が多くなりすぎるため耐擦傷性が低下する。
【0016】
また、本発明においては、その他の(水酸化錫粉体以外の)導電性粉体としては、酸化亜鉛、酸化錫、ATO、ITO、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、五酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛等の導電性粉体を用いることができる。その他の導電性粉体は一種のみを用いても、二種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明で用いる高屈折率粉体は、形成される透明導電膜の屈折率を制御するために添加するものであり、屈折率が1.8〜3.0の高屈折率粉体を用いることが好ましい。なお、粉体の屈折率は粉体に固有の値であり、種々の文献に記載されている。屈折率が1.8未満の粉体を用いた場合には高屈折率の膜が得られず、逆に屈折率が3.0を超える粉体を用いた場合には膜の透明性が低下する傾向がある。本発明で用いる高屈折率粉体の種類は目的を達成できるものであれば特には限定されず、市販品等の公知のものを用いることができる。例えば、酸化ジルコニウム(屈折率n=2.4)、酸化チタン(n=2.76)、酸化セリウム(n=2.2)などの金属酸化物を挙げることができる。
【0018】
本発明で用い得る水酸化錫粉体、ドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも1種を含む水酸化錫粉体、その他の導電性粉体及び高屈折率粉体の平均一次粒子径が0.2μm以下である場合には透明膜が形成されるが、平均一次粒子径が0.2μmを超えると形成される膜の透明性が低下する傾向があるので、それらの粉体は平均一次粒子径が0.2μm以下の超微粒子であることが好ましい。しかし、形成される透明膜の透明性が重要でない用途に対しては、0.2μmより大粒径のそれらの粉体も使用できる。また導電性粉体の圧粉体抵抗は1×109Ω・cm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、用いる導電性粉体と高屈折率粉体との質量比(導電性粉体/高屈折率粉体)は、好ましくは30/70〜90/10の範囲内、より好ましくは35/65〜85/15の範囲内である。導電性粉体の量が上記質量比で30/70よりも少ないと、形成される膜の屈折率は高くなるが、導電性が悪くなる傾向がある。逆に、導電性粉体が上記質量比で90/10よりも多いと、形成される膜の導電性はよくなるが、屈折率が低くなる傾向がある。
【0020】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、(導電性粉体+高屈折率粉体)とバインダー成分との質量比〔(導電性粉体+高屈折率粉体)/バインダー成分〕は、好ましくは5/95〜95/5の範囲内、より好ましくは20/80〜90/10の範囲内、最も好ましくは30/70〜85/15の範囲内である。導電性粉体と高屈折率粉体との合計量が上記質量比で5/95より少ないと、形成される膜の透明性は十分であっても、導電性が悪くなる傾向がある。逆に、導電性粉体と高屈折率粉体との合計量が上記質量比で95/5より多いと、粉体の分散性が悪くなり、得られた導電膜の透明性、基板への密着性が低くなり、膜性能が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、使用する溶媒に溶解でき、導電性粉体及び高屈折率粉体を分散させることができ、導電性粉体及び高屈折率粉体を結合して透明導電膜を形成し得るバインダー成分であれば、一般的に塗料で用いられている任意のバインダー成分を特に制限なく用いることができる。本発明においては、活性エネルギー線硬化性バインダー成分であることが好ましい。
【0022】
バインダー成分として、例えば、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フタル酸樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリルシリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、もしくはこれらを変性したバインダー樹脂等を1種単独でもしくは2種類以上併用することができる。
【0023】
さらに上記バインダー成分中には必要に応じて架橋剤を含有させても良く、例えば、アミノ基等の塩基性官能基、OH基等の中性官能基、カルボキシル基等の酸性官能基、イソシアネート基等の反応性官能基を1分子中に2つ以上有する任意の架橋剤を用いることができる。
【0024】
また、上記バインダー成分はラジカル重合性モノマーであってもよく、ラジカル重合性の不飽和基(α,β−エチレン性不飽和基)を有しているモノマーであれば、アミノ基等の塩基性官能基を有するもの、OH基等の中性官能基を有するもの、カルボキシル基等の酸性官能基を有するもの、或いはこのような官能基を有していないもの、のいずれでもよい。
【0025】
本発明の透明導電膜形成用組成物で用い得る活性エネルギー線硬化性バインダー成分として、例えば、アクリレート又はメタクリレート化合物を挙げることができる。以下の記載においては、このアクリレート化合物とメタクリレート化合物とを総称して(メタ)アクリレート化合物と記載する。
【0026】
本発明の透明導電膜形成用組成物で用いる活性エネルギー線硬化性バインダー成分として、上記の(メタ)アクリレート化合物の他に、ラジカル重合性モノマー及び/又はオリゴマーを挙げることができる。ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性の不飽和基(α,β−エチレン性不飽和基)を有しているモノマーであれば、アミノ基等の塩基性官能基を有するもの、OH基などの中性官能基を有するもの、カルボキシル基等の酸性官能基を有するもの、或いはこのような官能基を有していないもの、の何れでもよい。
【0027】
ラジカル重合性モノマーの具体例として、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、アリルアルコール等の(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アリルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の三官能以上の(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0028】
ラジカル重合性オリゴマーの具体例として、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、オリゴ(メタ)アクリレート、アルキド(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するプレポリマーを挙げることができる。特に好ましいラジカル重合性オリゴマーは、ポリエステル、エポキシ、ポリウレタンの各(メタ)アクリレートである。
【0029】
本発明の透明導電膜形成用組成物を有用な活性エネルギー線硬化型とするために、組成物中に重合開始剤(光増感剤)を添加することが望ましい。その添加により、少量の活性エネルギー線の照射で組成物を硬化させることができる。但し、本発明の透明導電膜形成用組成物は熱硬化させることもできるので、熱硬化型として使用する場合には、光増感剤に変えて適当なラジカル重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル)を配合してもよい。
【0030】
活性エネルギー線硬化型とするために用いる重合開始剤として、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p−クロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルサルファイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1を挙げることができる。重合開始剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の配合量はバインダー成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部の範囲内である。
【0031】
さらに、本発明の透明導電膜形成用組成物には、その目的を損なわない範囲内で、上記以外の慣用の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤として、重合禁止剤、硬化触媒、酸化防止剤、レベリング剤等を挙げることができる。
【0032】
本発明の透明導電膜形成用組成物においては、上記バインダー成分を溶解又は分散させることができ且つ導電性粉体及び高屈折率粉体を分散させることができるが基材を侵さない溶剤であれば、一般的に塗料で用いられている任意の溶剤を特に制限なく用いることができる。例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、m−キシレン等の炭化水素、テトラクロロメタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサン等のケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル等のエステル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、n−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル/アルコールやエーテル/エステル、及びこれら混合系を用いることができる。そのような溶剤の使用量については、導電性粉体及び高屈折率粉体を分散させて最終的に得られる組成物の粘性が塗布又は印刷に適したものとなるように調整する。本発明の透明導電膜形成用組成物においては粘度が2〜10000cps(E型粘度計:20℃)の範囲内にあることが好ましい。
【0033】
本発明の透明導電膜形成用組成物は、例えば、上記バインダー成分に必要に応じて有機溶媒を加えて希釈したバインダー成分溶液中に導電性粉体及び高屈折率粉体を分散させることにより製造することができる。また、導電性粉体及び高屈折率粉体を有機溶媒に分散させ、その後、上記バインダー成分を加えて分散させることによっても製造することができる。無論、バインダー成分、導電性粉体、高屈折率粉体、及び有機溶媒の4成分を同時に混合し、分散させることによっても製造することができる。このような分散操作は、常法により、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等によって行うことができる。無論、通常の攪拌操作によって分散させることもできる。
【0034】
本発明の透明導電膜形成用組成物を塗布して本発明の透明導電膜を形成するのに用い得る基板としては、電気・電子機器をはじめとして様々な分野において広く用いられている各種の合成樹脂、ガラス、セラミックス等を挙げることができ、これらはシート状、フィルム状、板状等の任意の形状であり得る。合成樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びフェノール樹脂等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
【0035】
本発明の透明導電膜形成用組成物の基板への塗布又は印刷は常法により、例えば、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法で行うことができる。その後、バインダー成分が活性エネルギー線硬化性バインダー成分でない場合には、必要により加熱して溶媒を蒸発させ、塗膜を乾燥させて硬化させる。また、バインダー成分が活性エネルギー線硬化性バインダー成分である場合には、必要により加熱して溶媒を蒸発させ、塗膜を乾燥させ、次いで、活性エネルギー線(紫外線又は電子線)を照射する。活性エネルギー線源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザーなどの紫外線源、ならびに電子線加速装置を使用することができる。活性エネルギー線の照射量は、紫外線の場合には50〜3000mJ/cm2、 電子線の場合には0.2〜1000μC/cm2の範囲内が適当である。この活性エネル ギー線の照射により、上記バインダー成分が重合し、導電性粉体、及び高屈折率粉体が樹脂で結合された透明導電膜が形成される。この透明導電膜の膜厚は一般的に0.1〜10 μmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
基板上に本発明の透明導電膜形成用組成物から形成された本発明の透明導電膜は、例えば、表面抵抗値が好ましくは106〜1011Ω/□、より好ましくは107〜1010Ω/□、光透過率が好ましくは85%以上、ヘイズが好ましくは1.5%以下という、透明性、導電性のいずれにも優れた、しかも膜の耐擦傷性に優れ、屈折率の制御が可能な透明導電膜となる。このような透明導電膜は電子写真記録の埃防止膜として、或いは帯電防止膜等として利用可能であり、例えば、ディスプレイの表示面に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。実施例及び比較例において「部」は全て「質量部」である。以下の実施例及び比較例で用いた物質は以下の通りである。
【0038】
<水酸化錫粉体>
平均一次粒子径が0.05μmであり、粉体抵抗が1×107Ω・cmである水酸化錫粉体、及びドーパントとしてリンを含み、Sn+Pに対するPの量が5.0at%であり、平均一次粒子径が0.05μmであり、粉体抵抗が5×107Ω・cmであるPドープSn(OH)4粉体。
【0039】
<水酸化錫以外のその他の導電性粉体>
平均一次粒子径が0.06μmであり、粉体抵抗が10Ω・cmであるATO、及び平均一次粒子径が0.06μmであり、粉体抵抗が300Ω・cmであるSnO2
【0040】
<高屈折率粉体>
粉体の屈折率が2.4であるZrO2及び粉体の屈折率が2.76であるTiO2
【0041】
<バインダー成分>
日本化薬株式会社製、KAYARAD TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)、及び日本化薬株式会社製、KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)。
【0042】
<開始剤>
チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、IRGACURE907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン)。
【0043】
実施例1
TMPTA20部及びDPHA10部からなるバインダー成分を、ATO粉体37.8部、水酸化錫粉体4.2部、酸化ジルコニウム粉体28部、イソブタノール150部及びガラスビーズ250部と共に容器に入れ、ペイントシェーカーで、粒ゲージにより分散状態を確認しながら、5時間練合した。練合後、IRGACURE907を3部加えて完全に溶解させた後、ガラスビーズを取り除いて粘稠な液状物を得た。その後、ロールコーターを用いてその粘稠な液状物を膜厚100μmのPETフィルム(東洋紡A4100)上に塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、高圧水銀灯にて500mJ/cm2の紫外線を照射して厚み5μmの透明硬化被膜を作製した。
【0044】
実施例2
TMPTA30部からなるバインダー成分を、ドーパントとしてリンを含む水酸化錫粉体70部、溶剤としてのイソブタノール150部及びガラスビーズ250部と共に容器に入れ、ペイントシェーカーで、粒ゲージにより分散状態を確認しながら、5時間練合した。練合後、光開始剤としてIRGACURE907を3部加えて完全に溶解させた後、ガラスビーズを取り除いて粘稠な液状物を得た(組成物A)。また、水酸化錫粉体70部の代わりにATO粉体70部を用いた以外は組成物Aの調製と同様に処理して粘稠な液状物を得た(組成物B)。水酸化錫粉体70部の代わりに酸化ジルコニウム粉体70部を用いた以外は組成物Aの調製と同様に処理して粘稠な液状物を得た(組成物C)。得られた組成物A54部、組成物B6部及び組成物C40部を十分に混合して塗工液を調製した。その後、実施例1と同様に処理して厚み5μmの透明硬化被膜を作製した。
【0045】
実施例3
TMPTA30部の代わりにTMPTA20部及びDPHA10部を用い、ドーパントとしてリンを含む水酸化錫粉体70部の代わりにドーパントを含まない水酸化錫70部を用いた以外は実施例2と同様に処理して組成物Aを得、ATO粉体70部の代わりにSnO2粉体70部を用いた以外は実施例2と同様に処理して組成物Bを得、酸化ジルコニウム粉体70部の代わりに酸化チタン70部を用いた以外は実施例2と同様に処理して組成物Cを得た。得られた組成物A67.5部、組成物B7.5部及び組成物C25部を十分に混合して塗工液を調製した。その後、実施例1と同様に処理して厚み5μmの透明硬化被膜を作製した。
【0046】
比較例1
DPHA20部及びTMPTA10部からなるバインダー成分を、水酸化錫粉体35部、酸化ジルコニウム粉体35部、溶剤としてのイソブタノール150部及びガラスビーズ250部と共に容器に入れ、ペイントシェーカーで、粒ゲージにより分散状態を確認しながら、5時間練合した。練合後、光開始剤としてIRGACURE907を3部加えて完全に溶解させた後、ガラスビーズを取り除いて粘稠な液状物を得た。その後、ロールコーターを用いてその粘稠な液状物を膜厚100μmのPETフィルム(東洋紡A4100)上に塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、高圧水銀灯にて500mJ/cm2の紫外線を 照射して厚み5μmの透明硬化被膜を作製した。
【0047】
比較例2
水酸化錫35部の代わりにATO35部を用いる以外は比較例1と同様に処理し、厚み5μmの透明硬化被膜を作製した。
【0048】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得た透明硬化被膜について、その全線光透過率(%)及びヘイズ(%)を東京電色技術センター製TC−HIII DPKで測定した。測定値は基材を含んだ値である。また、表面抵抗値(Ω/□)を三菱化学株式会社製のハイレスタIP MCP−HT260表面抵抗器で測定した。そして、耐擦傷性を下記の基準で目視にて評価した。さらに、実施例及び比較例で得た硬化被膜について、株式会社アタゴ製アッべ屈折計DR−M4(20℃)で屈折率を測定した。それらの測定結果、評価結果は第1表に示す通りであった。
【0049】
<耐擦傷性評価基準>
透明硬化被膜面をスチールウール(#0000)、200g荷重にて20往復擦傷した後の表面状態を下記の基準で目視で評価した。同様に、1000g荷重にて20往復擦傷した後の表面状態を下記の基準で目視で評価した。
【0050】
○:キズなし
△:キズ多少有り
×:キズあり
【0051】
【表1】

【0052】
第1表に示すデータから明らかなように、水酸化錫粉体、その他の導電性粉体及び高屈折率粉体を含んでいる本発明の透明導電膜形成用組成物を塗布した場合(実施例1〜3)には、耐擦傷性に非常に優れており、また表面抵抗値が106〜1011Ω/□の範囲内、 光透過率が85%以上、ヘイズ1.5%以下となり、透明性、導電性にも優れた透明導電膜が得られ、透明膜の屈折率の制御が可能である。一方、導電性粉体が水酸化錫粉体のみの場合(比較例1)及びATO粉体のみの場合(比較例2)には十分な耐擦傷性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分並びに該バインダー成分中に分散した導電性粉体及び高屈折率粉体からなり、該導電性粉体は0.1〜30質量%の水酸化錫粉体と70〜99.9質量%のその他の導電性粉体とからなることを特徴とする透明導電膜形成用組成物。
【請求項2】
水酸化錫粉体がドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体であることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項3】
P、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種のドーパントの量が、(ドーパント+Sn)に対して0.1〜20at%であることを特徴とする請求項2記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項4】
その他の導電性粉体が、酸化亜鉛、酸化錫、ATO、ITO、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、五酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項5】
高屈折率粉体が酸化ジルコニウム、酸化チタン及び酸化セリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項6】
導電性粉体/高屈折率粉体の質量比が30/70〜90/10の範囲内であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項7】
(導電性粉体+高屈折率粉体)/バインダー成分の質量比が5/95〜95/5の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の透明導電膜形成用組成物を塗布又は印刷し、硬化させることによって形成されるものであることを特徴とする透明導電膜。
【請求項9】
表面抵抗値が106〜1011Ω/□であり、光透過率が85%以上であり、ヘイズが1 .5%以下であり且つ屈折率が1.55〜1.90である請求項9記載の透明導電膜。
【請求項10】
表示面に請求項8又は9記載の透明導電膜を有することを特徴とするディスプレイ。

【公開番号】特開2008−165984(P2008−165984A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350554(P2006−350554)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】