説明

透明酸化チタンゾルおよびその製造法

【課題】製造が容易で、光学エレメントの塗膜を形成した時経時的耐光性が高い透明酸化チタンゾルを提供する。
【解決手段】酸化チタンゾル粒子を核とし、そのまわりにケイ素,スズおよびアンチモンの各水和酸化物よりなる複数の被覆層を有し、アンチモンの水和酸化物が最外側被覆層である透明酸化チタンゾル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンの透明なゾル、その製造法に関する。このゾルは例えばプラスチック基材の表面に硬く、高屈折率を持つ透明なコーティング層を形成するために有用である。
【背景技術】
【0002】
アナタース形酸化チタンおよびルチル形酸化チタンは古くから白色顔料として生産され、使用されている。白色顔料として用いられる酸化チタンは平均粒径0.1〜0.3μmを有し、他の白色顔料に比較して高い隠蔽力を持っている。粒径0.1μm以下の酸化チタンは可視光に対して透過性であるが、紫外線の透過を選択的にブロックする性質を有することから、例えば日焼け止め化粧料などに配合される。近年酸化チタンの高い光活性に着目して光触媒としての利用が広まっている。この目的に使用される酸化チタンは主に光活性の強いアナタース形である。アナタース形酸化チタンゾルは光触媒機能を有するコーティング膜をつくるために使用され、その製造法およびさまざまな用途について多数の特許文献が見られる。
【0003】
酸化チタンゾルには、光触媒とは別の用途がある。例えば光学部品(光学エレメント)のハードコート、反射防止膜などに用いられ、高透明性、基材との密着性、高屈折率および耐傷性が求められる。これまでこの分野でも主としてアナタース形酸化チタンゾルが用いられて来た。その理由はアナタース形の方がルチル形より酸化チタンゾルの透明性が高いからである。しかしながら高い光触媒活性はそれと接触するプラスチックのような有機材料を分解し、変色させる欠点を有する。光触媒活性は金属の水和酸化物の被覆によって改善されるが、表面処理前の透明性を維持した状態で被覆でき、光触媒活性が抑制できるのならばその利用分野を一層拡大できることが期待される。
【0004】
酸化チタンの光触媒活性を抑制するがゾルの透明性に悪影響しない(水和)金属酸化物として、(水和)酸化アンチモン単独またはそれと(水和)酸化ケイ素との組合せを酸化チタンゾルに被覆することが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−122621号公報
【特許文献2】特開2002−363442号公報
【特許文献3】特開2006−306980号公報
【0006】
しかしながらこれらの被覆は長期間に亘って変色を防止する経時的耐光性において満足なものではなかった。そこで本発明の課題は、製造が比較的容易で光学エレメントの塗膜を形成したとき経時的耐光性が高い透明酸化チタンゾルを提供することである。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、酸化チタンゾル粒子を核とし、そのまわりにケイ素,スズおよびアンチモンの各水和酸化物よりなる複数の被覆層を有し、アンチモンの水和酸化物が最外側被覆層である透明酸化チタンゾルを提供する。
【0008】
本発明はまた、上記透明酸化チタンゾルの製造方法を提供する。この方法は、
(a)含水酸化チタンを解膠して得られる酸化チタンヒドロゾルへ安定化剤としてRnSiX4−n(式中RはC−Cアルキル基、グリシドキシ置換C−Cアルキル基、またはC−Cアルケニル基、Xはアルコキシ基、nは1または2である)の有機ケイ素化合物、または酸化チタンに対して錯化作用を有する化合物を添加するステップ;
(b)安定化剤を含んでいる酸化チタンヒドロゾルを添加した後の液がpH9以上となるようにあらかじめアルカリを添加した水溶性ケイ酸塩またはシリゾル溶液へ(i)安定化剤を含んでいる酸化チタンヒドロゾルを添加し、次いで(ii)水溶性スズ塩または酸化スズゾルを添加するステップ;
(c)(b)の反応塩を脱塩するステップ;
(d)(c)の脱塩した溶液に水溶性アンチモン塩または五酸化アンチモンゾルを添加し、熱熟成、冷却するステップ;を含んでいる。
【0009】
本発明の透明酸化チタンゾルの分散媒は水か、または有機溶媒である。有機溶媒系の酸化チタンゾルは、被覆した酸化チタンヒドロゾルの溶媒置換によって得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
水和金属酸化物で被覆された酸化チタンゾルの透明性は、被覆物の透明性が高いことのほかに、被覆処理の間ナノサイズのゾル粒子が巨大二次粒子に凝集しないことが重要である。このことは酸化チタンゾルから形成したハードコートなどの経時的耐光性にとっても重要である。
【0011】
一般に固体酸化チタン粒子の水和金属酸化物の被覆は、酸化チタン粒子の懸濁液へ水溶性金属化合物を溶解し、酸またはアルカリによる加水分解を伴う。例えば、含水シリカの場合はケイ酸ナトリウムを酸で加水分解し、含水アルミナの場合はアルミン酸ナトリウムの酸加水分解または塩化アルミニウムのアルカリ加水分解である。二酸化チタンゾルを直接この方法によって被覆しようとすると、加水分解に必要な酸およびアルカリ添加によるpH変化、および電解質による塩析などにより巨大二次粒子に凝集し、透明性が失われる。
【0012】
本発明の特徴的構成の一つは、酸化チタンゾルを有機ケイ素化合物または酸化チタンに対して錯化作用を有する化合物を処理し、安定化させた酸化チタンゾルの粒子に水和金属酸化物を被覆することである。
【0013】
他の特徴的構成はゾル粒子を被覆する水和金属酸化物が、ケイ素、スズとアンチモンの水和酸化物であり、そのうちアンチモンの水和酸化物が最外層であることである。
【0014】
この二つの構成を組合せることにより、先行技術に開示された透明酸化チタンゾルよりもすぐれた性質を有する透明酸化チタンゾルをより簡単な操作によって提供することができる。
【0015】
酸化チタンはルチル形、アナタース形、無定形のいずれも使用することが、できるが、屈折率、光触媒活性の点ではルチル形が有利である。
【0016】
ルチル形酸化チタンヒドロゾルの一般的な製造方法は、転移剤であるスズの含水酸化物を含んでいる含水酸化チタン(オルソチタン酸)を典型的には強酸である塩酸で解膠することよりなる。含水酸化チタンは、公知のように四塩化チタン、オキシ塩化チタン、硫酸チタンのような水溶液チタン塩をアルカリで中和するか、またはチタンアルコキシドを加水分解して製造することができる。
【0017】
含水酸化チタンはZrOとしてTiOに対して10%まで、好ましくは5%まで、例えば3%の水和金属酸化物または金属酸化物を含んでも良い。これは酸化チタンヒドロゾルの経時貯蔵安定性を改良する効果(経時における粘度上昇の抑制)がある。
【0018】
本発明の好ましい実施態様によれば、ルチル形酸化チタンヒドロゾルは、塩化第二スズのような水溶性第二スズ塩を一旦加水分解し、その反応液へ前記のZrO/TiO比でオキシ塩化チタンとオキシ塩化ジルコニウムを含んでいる水溶液を徐々に滴下し、滴下終了後沸騰温度で数時間反応させて製造される。
【0019】
酸化チタンヒドロゾルは、この反応液を冷却し、アンモニア水で中和し、濾過、水洗し、濾過ケーキへ水と濃塩酸を加えるか、または冷却した反応液の電解質成分を除去する、例えば、冷却した反応液をデカンテーション、希釈ゾル化、濃縮、イオン交換水による希釈という工程を繰り返すことによって製造することができる。
【0020】
スズを転移剤として使用することで、高い透明性を有するルチル形の酸化チタンヒドロゾルが得られるが、オキシ塩化チタンの加水分解条件を変更することでスズを使用しないルチル形の酸化チタンヒドロゾルを得ることもできる。転移剤として添加するスズ塩はSnOとしてTiOに対して5〜20%、好ましくは5〜15%、特に10%が適当である。
【0021】
酸化チタンヒドロゾルを作成する際、チタン源としてはオキシ硫酸チタン、硝酸チタン等の水溶性チタン、スズ源としては硫酸第二スズ、硝酸第二スズ等の水溶性第二スズ塩、ジルコニウム源としてはオキシ硫酸ジルコニウム等の水溶性ジルコニウム塩、また、中和剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ、硝酸またはシュウ酸等の酸を使用してもかまわない。
【0022】
先に述べたように、本発明ではこの酸化チタンヒドロゾルを直接被覆するのではなく、有機ケイ素化合物または酸化チタンに対して錯化作用を有する化合物と反応させ、安定化させてから使用する。有機ケイ素化合物は一般式としてRSiX4−n(式中のRはC−Cアルキル基、グリシドキシ基置換C−Cアルキル基またはC−Cアルケニル基、Xはアルコキシ基、nは1または2である)である。本発明の目的に対して3−グリシドオキシプロピルトリメトキシシランに代表されるグリシドオキシアルキルトリアルコキシラン、ビニルトリメトキシシランに代表されるビニルトリアルコキシシラン、またはメチルトリメトキシシランに代表されるアルキルトリアルコキシシランがゾルの透明性に悪影響することなく安定化に有効なことがわかった。酸化チタンに対して錯化作用を有する化合物としては過酸化水素、脂肪族または芳香族ヒドロキシカルボン酸例えばクエン酸、シュウ酸、酒石酸、サリチル酸、多価アルコール例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが使用でき、特に過酸化水素、クエン酸、シュウ酸が適当である。安定化剤はヒドロゾルの希釈液へ添加し、混合される。安定化に必要なその量は、TiOに換算したヒドロゾルの重量を基準にして1〜100%,好ましくは5〜20%である。
【0023】
安定化処理された酸化チタンヒドロゾルは水溶性ケイ酸塩例えばケイ酸ナトリウムまたはシリカゾル溶液へ攪拌下に徐々に添加される。添加される酸化チタンヒドロゾルは強酸性であるため、反応中および反応終了後反応液のpHが9以上、好ましくはpH10に維持されるように水溶性ケイ酸塩またはシリカゾル溶液へ、酸化チタンヒドロゾルの添加終了後のpHが例えば10になるように計算されたアルカリを溶解させておくのが好ましい。酸化チタンヒドロゾルの添加終了後、水溶性スズ塩または酸化スズゾルを攪拌下徐々に添加する。水溶性スズ塩または酸化スズゾルの添加時に反応液のpHが9から11、例えばpH10に維持されるようにアルカリまたは酸を滴下しながらスズ塩溶液に加えておくのが好ましい。ここで使用する酸、アルカリは特に限定はなく、酸では例えば塩酸、硝酸、硫酸、カルボン酸等がある。アルカリは水酸化ナトリウム、アンモニア水、アミン等がある。さらに必要に応じてケイ素、スズの水和酸化物以外の金属水和酸化物例えばジルコニウム、セリウム、アルミニウム、鉄、コバルトの水和酸化物を透明性、屈折率が低下しない量を被覆してもかまわない。
【0024】
次いで反応液を例えば80℃へ加熱し、pHを弱アルカリ性例えばpH8に調整して反応を完結させる。加熱の前に水溶性ケイ酸塩水溶液を追加して添加してもよい。
【0025】
酸化チタンヒドロゾル中のTiOに換算した固形分に対する水溶性ケイ酸塩またはシリカゾルの比は、SiOに換算して5〜100重量%、水溶液スズ塩または酸化スズゾルの比は、SnOに換算して1〜100重量%の範囲を変動し得るが、水溶性ケイ酸塩またはシリカゾルはSiOとして好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは10〜40重量%であり、水溶性スズ塩または酸化スズゾルはSnOとして好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。使用される水溶性ケイ酸塩またはシリカゾルがTiO換算した固形分に対して少ない場合は酸化チタンヒドロゾルの安定性向上効果が十分でなく、多い場合は酸化チタンヒドロゾル固形分中のTiO含有量が低減するため酸化チタンゾルを使用した膜の屈折率が低下する。水溶液スズ塩または酸化スズゾルがTiO換算した固形分に対して少ない場合は特に経時での耐光性が向上しない。また、多い場合は酸化チタンゾルの安定性が悪化することと酸化チタンゾル固形分中のTiO含有量が低減するため、酸化チタンゾルおよびそれを用いた膜の透明性の低下と膜の屈折率が低下する。
【0026】
ケイ素、スズの水和酸化物が処理された酸化チタンヒドロゾルの反応液は冷却後最終的に酸性側、例えばpH3に調節され、反応液中の夾雑電解質を除去するための処理(脱塩処理)にかけられる。脱塩処理は、公知の方法例えば限外濾過、透析、イオン交換樹脂によって除去できる。
【0027】
本発明によれば、酸化チタンゾル粒子に対して最後にアンチモンの水和酸化物の被覆を行う。この被覆は上の脱塩反応液へ水溶性アンチモン酸塩または五酸化アンチモンゾルを加えて90℃温度以上へ加熱することによって行われる。加熱が90℃より低い温度で熟成した場合、アンチモンの水和酸化物が酸化チタンゾルに被覆されず、特に経時での耐光性が向上しない。五酸化アンチモンヒドロゾルは、常法に従って三酸化アンチモンのスラリーへ過酸化水素水を加え、沸騰温度で加熱し、冷後pH調節することによって製造することができる。TiOに換算した酸化チタンゾルに対する、Sbに換算した五酸化アンチモンヒドロゾルの重量比は、一般に0.5〜15%、好ましくは0.5%〜10%である。更に好ましくは、1〜10%である。
【0028】
五酸化アンチモンゾルを添加し、加熱したゾル液を冷却し、最終的なpH調整を行う。pH4〜9の範囲が好ましい。
【0029】
以上の操作で被覆した透明酸化チタンゾルの分散媒は水(ヒドロゾル)である。ヒドロゾルは常法による溶媒置換でオルガノゾルとすることができる。置換される有機溶媒は水混和性の溶媒が好ましく、メタノールが典型的である。水混和性の溶媒に置換した後非水系溶媒であるトルエン等に溶媒置換可能である。必要に応じて、有機ケイ素化合物、分散剤等を透明性、耐光性に悪影響を及ぼさないものであれば配合してもかまわない。
【0030】
本発明のケイ素、スズ、アンチモンの水和酸化物を被覆処理した透明酸化チタンゾルは、無機または有機バインダーを配合して光学部品の表面に高屈折率ハードコート、反射防止膜、透明耐スクラッチ膜などを形成するために用いることができる。その場合、ゾル粒子の最外側がアンチモンの水和酸化物で被覆されているため、これを含まない被覆ゾル粒子に比較して膜の耐光性が改善され、特に経時的な変色が低減される。
【0031】
次に透明酸化チタンゾルを含有したコーティング組成物について説明する。本発明のコーティング組成物は硬化性バインダーと透明酸化チタンゾルとからなる。硬化性バインダーは透明酸化チタンゾルと混合して透明性が低下しなければ特に限定しない。硬化性バインダーとしてはアクリル系樹脂、メラミン系樹脂、紫外線硬化樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂のような光硬化性および/または熱硬化性の有機モノマーまたはオリゴマー、有機ポリマー、または、RSi(OR4−(a−b)(Rは炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基またはエポキシ基を有する有機基、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはアシル基、a,bは0または1)を示される有機金属化合物および/またはその部分加水分解物がよく用いられる。上記式で表される有機金属化合物としてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0032】
また、本発明のコーティング組成物の透明酸化チタンゾルと硬化性バインダーの比率は透明酸化チタンゾルの固形分/硬化性バインダーのバインダー成分で0.1〜10好ましくは0.2〜5である。透明酸化チタンゾルの固形分/硬化性バインダーのバインダー成分が0.1以下の場合、高屈折率の塗膜が得られない。10以上の場合、基材と塗膜との密着性が低下する。
なお、透明酸化チタンゾルを含有したコーティング組成物に必要に応じて硬化剤、酸、アミン、または、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、鉄、タングステン等の金属酸化物ゾル、その他様々な添加物が配合される場合がある。
透明酸化チタンゾルを含有したコーティング組成物はガラス板、プラスチックからなる各種基材に塗布され、高屈折率を有する光学基材となる。具体的には眼鏡レンズ、カメラ、FPDに使用されるハードコート、反射防止膜等の光学基材に使用される。
【実施例】
【0033】
以下の実施例は限定を意図しない。実施例中の部および%は特記しない限り重量基準による。
【0034】
実施例1
第1部 ルチル形酸化チタンヒドロゾル(A液)
1Lのガラスビーカーに、TiO濃度25%のオキシ塩化チタン水溶液240g(TiOとして60g)と、ZrO濃度35%のオキシ塩化ジルコニウム粉末5g(ZnOとして1.8g)を入れ、水で全量を1Lとし、溶解を確認した。
【0035】
攪拌手段および還流冷却器を備えた2Lフラスコに、水1kgと、SnO濃度30%の塩化第二スズ水溶液20g(SnOとして6g)と、36%塩酸16gを仕込み、攪拌しながら60℃へ加熱した。この温度を維持しながら上のオキシ塩化チタン・オキシ塩化ジルコニウム水溶液1Lを15分間要して滴下し、滴下終了後沸騰温度まで加熱し、3時間沸騰状態で加熱還流した。加熱停止後40℃まで冷却し、アンモニア水でpH5.0に調節し、濾過して得たケーキを水洗した。ケーキを水と35%塩酸でTiO濃度20%まで希釈し、pH1.3の酸化チタンゾル(A液)300gを得た。
【0036】
A液を100℃で乾燥した粉末のX線回折は結晶形がルチル形であることを示した。
【0037】
第2部 シランカップリング剤処理ヒドロゾル(B液)
2LガラスビーカーにTiO濃度20%のルチル形酸化チタンゾル(A液)200g(TiOとして40g)を取り、イオン交換水でTiO濃度4%に希釈し、攪拌しながら3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−403)5.2gを10分間要して滴下し、シランカップリング処理酸化チタンヒドロゾル(B液)を得た。
【0038】
第3部 五酸化アンチモンゾル(C液)
2Lガラスビーカーに、三酸化アンチモン(日本精鉱(株)PATAX−CF)200gと、30%過酸化水素水146.67g(Hとして44g)を仕込み、水を加えて2000gとした。この懸濁液を還流冷却器つきフラスコに入れ、1時間沸騰温度で還流下反応させた。40℃以下に冷却後、反応液をジイソプロピルアミンでpH7.5に調節し、固形分12%の五酸化アンチモンゾル(C液)を得た。
【0039】
第4部 酸化チタンヒドロゾルの被覆処理
5Lガラスビーカーに、SiO濃度10%のケイ酸ナトリウム水溶液120g(SiOとして12g)と、48%水酸化ナトリウム水溶液2gを入れ、イオン交換水を加えて全量を1200gとした。この液に攪拌しながらB液全量(TiOとして40g)を15分間要して添加した。添加終了時のpHは10であった。
【0040】
次にこの反応液に、SnO濃度20%の塩化第二スズ水溶液40g(SnOとして8g)と、48%水酸化ナトリウム水溶液とをpH10を維持しながら90分を要して添加し、引続き80℃へ加熱し、1%塩酸を120分間要して添加し、pH8に調節した。この液を20℃に冷却し、10%クエン酸水溶液でpH3に調節した。この液を限外濾過モジュール(旭化成ケミカルズ(株)製マイクローザSLP−1053)に、濾液量と同量のイオン交換水を補水しながら通液し、TiO濃度6%で、電気伝導度が600μS/cm以下になるまで電解質成分を低減させた。
【0041】
脱塩処理したTiO濃度6%のヒドロゾルへ、五酸化アンチモンゾル(C液)13.3g(Sbとして1.6g)を添加し、この液を還流下沸騰状態で3時間維持した後40℃へ冷却した。ジイソプロピルアミンで液のpHを5に調節し、限外濾過モジュールを用いて固形分濃度20%へ濃縮し、TiO分に対し、水和物の形でSiOを30%、SnOを20%、Sbを4%被覆した酸化チタンヒドロゾルを得た。
【0042】
実施例2
実施例1の酸化チタンヒドロゾルをメタノールでTiO濃度5%に希釈し、限外濾過モジュール(旭化成ケミカルズ(株)製マイクローザSLP−1053)に、濾液量と同量のメタノールを補給しながら通液し、メタノールに溶媒置換した。最後にメタノールの補給を止めて濃縮し、水分が1%以下で、固形分濃度20%のメタノール分散酸化チタンオルガノゾルを得た。
【0043】
実施例3〜8
実施例1の第4部において、TiOに換算したB液の酸化チタンヒドロゾルに対するケイ酸ナトリウム、塩化第二スズ、五酸化アンチモンゾルの量を変更し、それぞれSiO,SnOおよびSbに換算した表1に示す被覆量で水和金属酸化物を被覆した酸化チタンゾルを製造し、実施例2の方法でメタノール分散酸化チタンオルガノゾルを得た。
【0044】
実施例9
実施例1の第4部において、五酸化アンチモンゾル(C液)を添加した液をオートクレーブ中で水熱処理(温度200℃,10時間)したことを除き、実施例2を繰り返した。
【0045】
実施例10
実施例1の第2部において、シランカップリング剤KBM−403の代りに30%過酸化水素水120g(Hとして36g)を用いて安定化させた酸化チタンヒドロゾルを第3部以後で用いたことを除き、実施例2を繰り返した。
【0046】
比較例1,2
実施例1において五酸化アンチモンゾルによる被覆を行わなかったものを比較例1とし、第3部において塩化第2スズ水溶液の添加を省略したものを比較例2とした。
【0047】
ゾルの評価試験
実施例および比較例のゾルについて、透明性(ヘーズ)、経時安定性および耐光性を次の方法によって評価した。
透明性:ゾルを固形分濃度0.5%に希釈し、光路長10cmの石英製セルに入れ、ヘーズメーター(日本電色工業(株)ヘーズメーターNHD−2000)でヘーズ値を測定する。値が小さいほど透明性が高い。
経時安定性:ゾルを1ヶ月間5℃の恒温槽に保管したときの状態の変化を目視で評価した。
○:変化なし
△:増粘
×:ゲル化および相分離
【0048】
耐光性:ゾルを固形分10%に希釈し、透明ガラス容器に入れ密閉する。この容器に入れたゾルをブラックライトで8時間および100時間照射し、変色の程度を目視で観察し、5段階で評価する。
+2:大きく黄変
+1:若干黄変
0:変色なし
−1:若干青変
−2:大きく青変
結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

実施例、比較例共に透明性は高いが、実施例は長時間の光照射でも変色が少ない。比較例は短時間の光照射で変色が少ないものの長時間照射すると大きく変色し、経時での耐光性がよくない。

【0050】
実施例11〜19および比較例3,4
コーティング剤
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)KBM−403)12.5部に、0.01N塩酸4.4部を加えて24時間攪拌し、これに実施例および比較例で製造した酸化チタンゾル(固形分20%)62.5部、プロピレングリコールモノメチルエーテル15部、メタノール56部、硬化剤(アルミニウムアセチルアセトナート)少量を加え、攪拌してハードコート用のコーティング剤を製造した。

コーティング剤の評価
経時安定性:ゾルを1ヶ月間5℃の恒温槽に保管したときの状態の変化を目視で評価した。
○:変化なし
△:増粘
×:ゲル化および相分離

【0051】
コーティング剤塗膜の形成
上記で得たコーティング剤を、松浪硝子工業(株)製ミクロスライドガラスプレート(70×55×1.3mm)に、500rpmで3秒スピンコートし、25℃で30分、80℃で15分、150℃で60分乾燥して膜厚2μmの塗膜を形成した。
【0052】
膜の評価試験
透明性:塗膜をヘーズメーター(日本電色工業(株)ヘーズメーターNDH−2000)でヘーズ値を測定する。値が小さいほど透明性が高い。
耐光性:塗膜をサンシャインウエザメーターで10時間および300時間暴露し、暴露後の膜のヘーズ、YIを測定し、最露前のヘーズとの差△ヘーズ、暴露前のYIとの差ΔYIを求めた。
屈折率:塗膜の屈折率をエリプソメーター((株)溝尻光学工業所DVA−FL3G)で測定した。
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンゾル粒子を核とし、そのまわりにケイ素,スズおよびアンチモンの各水和酸化物よりなる複数の被覆層を有し、アンチモンの水和酸化物が最外側被覆層である透明酸化チタンゾル。
【請求項2】
酸化チタンゾル粒子の結晶形はルチル形である請求項1の透明酸化チタンゾル。
【請求項3】
酸化チタンゾル粒子は、酸化チタンのみ、またはスズおよび/またはジルコニウムの酸化物をZrO/TiO重量比0.1以下およびSnO/TiO重量比0.2以下で含んでいる請求項1または2の酸化チタンゾル。
【請求項4】
TiOに換算した酸化チタンゾル粒子に対する各水和酸化物の被覆量は、SiOとして5〜100重量%,SnOとして1〜100%,Sbとして0.5〜15重量%である請求項1ないし3のいずれかの透明酸化チタンゾル。
【請求項5】
ゾルの分散媒が水または有機溶媒である請求項1ないし4のいずれかの透明酸化チタンゾル。
【請求項6】
(a)含水酸化チタンを解膠して得られる酸化チタンヒドロゾルへ安定化剤としてRSiX4−n(式中RはC−Cアルキル基、グリシドキシ置換C−Cアルキル基、またはC−Cアルケニル基、Xはアルコキシ基、nは1または2である)の有機ケイ素化合物、または酸化チタンに対して錯化作用を有する化合物を添加するステップ;
(b)安定化剤を含んでいる酸化チタンヒドロゾルを添加した後の液がpH9以上となるようにあらかじめアルカリを添加した水溶性ケイ酸塩またはシリカゾル溶液へ(i)安定化剤を含んでいる酸化チタンヒドロゾルを添加し、次いで(ii)水溶性スズ塩または酸化スズゾルを添加するステップ;
(c)(b)の反応液を脱塩するステップ;
(d)(c)の脱塩した液に水溶性アンチモン酸塩または五酸化アンチモンゾルを添加し、加熱熟成、冷却するステップ;
を含んでいるケイ素、スズ、アンチモンの水和酸化物で被覆された透明酸化チタンゾルの製造法。
【請求項7】
ステップ(d)の後分散媒を水から有機溶媒に溶媒置換するステップ(e)をさらに含んでいる請求項6の透明酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項8】
ステップ(a)の安定化剤は、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、脂肪族もしくは芳香族ヒドロキシカルボン酸、または過酸化水素である請求項6または7の透明酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項9】
ステップ(a)の酸化チタンヒドロゾルは、酸化チタンのみ、またはスズおよび/またはジルコニウムの酸化物をZrO/TiO重量比0.1以下およびSnO/TiO重量比0.2以下を含む酸化チタンヒドロゾルである請求項6ないし8のいずれかの透明酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項10】
SiOに換算した水溶性ケイ酸塩またはシリカゾル、SnOに換算した水溶性スズ塩または酸化スズゾル、およびSbに換算した水溶性アンチモン酸塩または五酸化アンチモンゾルの添加量は、TiOに換算した酸化チタンゾルに対して、それぞれ5〜100重量%、1〜100重量%、および0.5〜15重量%である請求項6ないし9のいずれかの透明酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項11】
硬化性バインダーと請求項1ないし5いずれかの透明酸化チタンゾルを含有してなるコーティング組成物。
【請求項12】
硬化性バインダーが光硬化性および/または熱硬化性の有機モノマーまたはオリゴマー、有機ポリマー、並びに有機金属化合物および/またはその部分加水分解物の少なくともいずれかである請求項11のコーティング組成物。
【請求項13】
請求項11または12記載のコーティング組成物を光学基材に塗布、硬化してなる光学薄膜。
【請求項14】
請求項11あるいは12記載のコーティング組成物または請求項13記載の薄膜を用いた反射防止膜。
【請求項15】
請求項11あるいは12記載のコーティング組成物または請求項13記載の薄膜を用いたハードコート膜。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか記載の薄膜が施されている光学基材。

【公開番号】特開2008−266043(P2008−266043A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107683(P2007−107683)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】