説明

透析装置

【課題】返血時、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じても、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができるとともに、補液ライン側弁手段の開放忘れを回避して安全性をより向上させることができる透析装置を提供する。
【解決手段】返血前に、静脈側弁手段16により流路を遮断するとともに血液ポンプ8を所定量回転駆動させ、静脈圧センサ15で測定される液圧の変化を監視することにより、補液ライン側弁手段18の開放状態を監視可能な監視手段17を備えた透析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液回路に接続された血液浄化器にて透析を行わせしめる透析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療に使用される透析装置は、血液回路に接続されたダイアライザに透析液を供給するとともに、透析により老廃物を含んだ透析液をダイアライザから排出すべく透析液導入ライン及び透析液排出ラインがそれぞれ延設されている。これら透析液導入ライン及び透析液排出ラインの先端は、ダイアライザの透析液導入口及び透析液導出口にそれぞれ接続されており、透析液の供給及び排出が行われている。
【0003】
ところで、血液浄化器が血液透析濾過(HDF)に適用されるものであって、補液として透析液を利用したもの(以下、オンラインHDFという)においては、除水分だけ患者の血液に透析液を補液する必要がある。然るに、図6に示すように、ダイアライザ101、血液ポンプ104が配設された動脈側血液回路102及び静脈側血液回路103から成る血液回路と、ポンプ105から供給された透析液をダイアライザ101に導入する透析液導入ラインL1と、ダイアライザ101から透析液を排出する透析液排出ラインL2と、これら透析液導入ラインL1と透析液排出ラインL2とをダイアライザ101を介さずに結ぶバイパスラインL4と、補液の際に使用されるための補液ラインL3とを有した透析装置が例えば特許文献1にて提案されている。
【0004】
かかるオンラインHDF方式の透析装置は、透析治療を行う際に血液から所定量の水分を取り除き(濾過)、その分補液ラインL3から透析液を供給して、血液中の水分と透析液とを置換せしめるもので、補液時の補液ラインL3の流量を制御するための補液ポンプ106を有している。尚、同図中符号109、110は、透析液導入ラインL1を流れる透析液を濾過して浄化するための濾過フィルタを示しており、符号104及びVは、それぞれ血液ポンプ、電磁バルブを示している。また、動脈側血液回路102及び静脈側血液回路103の途中には、それぞれエアトラップチャンバD1、D2が接続されている。
【0005】
そして、補液ラインL3の基端をバイパスラインL4の一方のT字管107に接続するとともに、当該補液ラインL3の先端を動脈側血液回路102のエアトラップチャンバD1から延設したチューブC先端に接続して、濾過される水分量だけ当該エアトラップチャンバD1から透析液を補液(前補液)しつつ透析治療を行っていた。尚、エアトラップチャンバD2からチューブを延設させ、その先端に補液ラインL3の先端を接続させて補液(後補液)する場合もある。
【0006】
かかる透析装置によって、透析治療後の返血を行うには、図7に示すように、静脈側血液回路103先端の穿刺針を患者に穿刺したまま、補液ラインL3の先端を動脈側血液回路102の先端(プライミング時と同様、動脈側穿刺針を取り外した後のコネクタ)に接続し、ポンプ105から透析液を供給する。これにより、血液回路内に残存した血液と透析液とが置換し、当該残存血液を静脈側穿刺針から患者の体内に戻すことができる。尚、かかる返血時においても、補液ポンプ106及び血液ポンプ104を正転させておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−313522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の透析装置においては、以下の如き問題があった。
通常、血液ポンプや透析ポンプ等の如き汎用ポンプの駆動により得られる流速には設定駆動量に対して誤差があることから、返血時、図7の如く血液ポンプ104と補液ポンプ106とが直列に接続されていると、流速の誤差によって、例えば血液ポンプ104の方が補液ポンプ106より流速が低くなってしまうと、血液ポンプ104と補液ポンプ106との間の流路には過大な正圧が生じてしまい、その流路の破損等が生じる虞があった。
【0009】
本出願人は、かかる事情を考慮し、一端が透析液導入ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が動脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端が動脈側血液回路の先端に接続可能とされた補液ラインと、該補液ラインにおける分岐部より透析液導入ラインとの接続部側に配設され、当該透析液導入ラインの透析液を第1の分岐端及び第2の分岐端まで流動させ得る補液ポンプと、補液ラインにおける分岐部と第2の分岐端との間に配設され、透析液の流動を遮断又は開放し得る補液ライン側弁手段とを具備させた透析装置の開発を検討するに至った。然るに、このような構成を採用した場合、返血時に、補液ライン側弁手段の開放忘れが想定され、安全性の観点から不具合が生じてしまう虞がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、返血時、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じても、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができるとともに、補液ライン側弁手段の開放忘れを回避して安全性をより向上させることができる透析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、血液浄化膜を内在するとともに、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成され、前記血液浄化膜を介して血液に透析液を接触させて透析浄化作用を施す血液浄化器と、基端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、基端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路内の液圧を測定し得る液圧測定手段と、前記静脈側血液回路における前記液圧測定手段が配設された部位より先端側の流路を遮断又は開放し得る静脈側弁手段と、前記血液浄化器の透析液導入口に接続され、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ラインと、前記血液浄化器の透析液排出口に接続され、前記血液浄化器から透析液を排出する透析液排出ラインと、調製された透析液を前記透析液導入ラインに供給する供給手段とを具備した透析装置であって、一端が前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、前記第2の分岐端が前記動脈側血液回路の先端に接続可能とされた補液ラインと、該補液ラインにおける分岐部より前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインとの接続部側に配設され、当該透析液導入ライン又は透析液排出ラインの透析液を前記第1の分岐端及び第2の分岐端まで流動させ得る補液ポンプと、前記補液ラインにおける分岐部と第2の分岐端との間に配設され、透析液の流動を遮断又は開放し得る補液ライン側弁手段と、返血前に、前記静脈側弁手段により流路を遮断するとともに前記血液ポンプを所定量回転駆動させ、前記液圧測定手段で測定される液圧の変化を監視することにより、前記補液ライン側弁手段の開放状態を監視可能な監視手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の透析装置において、前記静脈側血液回路の途中に静脈側エアトラップチャンバが接続されるとともに、前記液圧測定手段は、当該静脈側エアトラップチャンバ内の空気層側の圧力を検知して液圧を測定し得る静脈圧センサから成ることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の透析装置において、前記監視手段は、前記血液ポンプを所定量回転駆動させる前後の静脈側血液回路内の液圧の変化を算出し、その変化量が所定の閾値より大きい場合、返血のための動作を禁止するよう制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、返血時、血液ポンプ及び補液ポンプの流速に誤差が生じて、例えば血液ポンプの流速が補液ポンプの流速より低くなっても、補液ラインにおける分岐部から第1の分岐端までの間にて透析液を流通させることができ、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができる。同時に、監視手段にて、静脈側弁手段により流路を遮断するとともに血液ポンプを所定量回転駆動させ、液圧測定手段で測定される液圧の変化を監視することにより、補液ライン側弁手段の開放状態を監視可能とされているため、補液ライン側弁手段の開放忘れを回避して安全性をより向上させることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、静脈側血液回路の途中に静脈側エアトラップチャンバが接続されるとともに、液圧測定手段は、当該静脈側エアトラップチャンバ内の空気層側の圧力を検知して液圧を測定し得る静脈圧センサから成るので、透析装置において従来より汎用的に用いられている静脈圧センサを流用することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、監視手段は、血液ポンプを所定量回転駆動させる前後の静脈側血液回路内の液圧の変化を算出し、その変化量が所定の閾値より大きい場合、返血のための動作を禁止するよう制御されるので、補液ライン側弁手段の開放忘れの状態で返血が行われてしまうのを確実に回避することができ、返血時の安全性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る透析装置を示す模式図
【図2】同透析装置における補液ラインを示す模式図
【図3】同透析装置における補液ラインの返血時の接続状態を示す模式図
【図4】本発明の他の実施形態に係る透析装置における補液ラインの返血時の接続状態を示す模式図
【図5】本発明の実施形態に係る透析装置の監視手段による制御内容を示すフローチャート
【図6】従来の透析装置(血液透析治療時或いは補液時)を示す模式図
【図7】従来の透析装置(返血時)を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る透析装置は、血液透析(HD)に適用されるものであり、図1に示すように、血液浄化器としてのダイアライザ1に動脈側血液回路2及び静脈側血液回路3が接続された血液回路Aと、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2を有した透析装置本体Bと、補液ポンプ7が配設された補液ラインL3とから主に構成されている。
【0019】
ダイアライザ1は、不図示の血液浄化膜(本実施形態においては中空糸膜であるが半透膜及び濾過膜を含む)を内在し、血液を導入する血液導入口1a及び導入した血液を導出する血液導出口1bが形成されるとともに、透析液を導入する透析液導入口1c及び導入した透析液を排出する透析液排出口1dが形成されたもので、中空糸膜を介して血液導入口1aから導入した血液に透析液を接触させて透析浄化作用を施すものである。
【0020】
動脈側血液回路2は、主に可撓性チューブから成り、基端がダイアライザ1の血液導入口1aに接続されて患者の動脈から採取した血液をダイアライザ1の中空糸膜内に導くものである。かかる動脈側血液回路2の先端には、動脈側穿刺針11aを取り付け得るコネクタ6aが形成されているとともに、途中にエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)が接続されている。また、動脈側血液回路2におけるエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)よりも先端側には、しごき型のポンプ(正転させると可撓性チューブの外側から所定方向にしごいて血液を流動させる構成のもの)から成る血液ポンプ8が配設されている。
【0021】
静脈側血液回路3は、動脈側血液回路2と同様に主に可撓性チューブから成り、基端がダイアライザ1の血液導出口1bに接続されて中空糸膜内を通過した透析液を導出させるものである。かかる静脈側血液回路3の先端には、静脈側穿刺針11bを取り付け得るコネクタ6bが形成されているとともに、途中にエアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)が接続されている。
【0022】
エアトラップチャンバD2には、液圧測定手段としての静脈圧センサ15が配設されている。かかる静脈圧センサ15は、静脈側血液回路3に配設され、当該静脈側血液回路3内の液圧(静脈圧)を測定し得るもので、エアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)内の空気層側の圧力を検知して液圧(静脈圧)を測定し得るよう構成されている。更に、静脈側血液回路3における先端側(静脈圧センサ15が配設された部位より先端側)の流路を遮断又は開放し得る静脈側弁手段16が配設されている。この静脈側弁手段16は、電磁弁等で構成されている。
【0023】
ダイアライザ1の透析液導入口1c及び透析液排出口1dには、それぞれ透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2が接続されており、当該透析液導入ラインL1を介してダイアライザ1に導入された透析液が、中空糸膜の外側を通過して透析液排出ラインL2から排出され得るよう構成されている。これら透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2の途中には、電磁弁V1及び電磁弁V2がそれぞれ接続されている。更に、これら透析液導入ラインL1と透析液排出ラインL2とをダイアライザ1を介さずに結ぶバイパスラインL4が形成されており、当該バイパスラインL4には電磁弁Vが配設されている。
【0024】
また、透析装置本体B内には、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2に跨って複式ポンプ5(供給手段)が配設されている。かかる複式ポンプ5は、調製された透析液を当該透析液導入ラインL1に供給するためのものである。また、透析液排出ラインL2には、複式ポンプ5をバイパスするバイパスラインL5及びL6が配設されており、バイパスラインL5に患者の血液中の余剰水分を取り除くための除水ポンプ12が配設されているとともに、バイパスラインL6に電磁弁V3が配設されている。尚、図中符号4a、4bは、透析液を濾過して清浄化するための濾過フィルタを示している。かかる濾過フィルタ4a、4bは、少なくとも1つ配設されるのが好ましいが、本実施形態の如く2つ或いは3つ以上の複数配設するようにしてもよい。
【0025】
而して、血液透析治療時においては、動脈側穿刺針11a及び静脈側穿刺針11bを患者に穿刺し、複式ポンプ5を駆動させてダイアライザ1に透析液を導入させつつ血液ポンプ8を駆動させれば、動脈側血液回路2、ダイアライザ1及び静脈側血液回路3にて血液が体外循環されるとともに、ダイアライザ1にて血液が浄化され、更には除水ポンプ12の駆動にて除水がなされるようになっている。
【0026】
透析液導入ラインL1の途中(濾過フィルタ4bと電磁弁V1との間)には、補液ラインL3の一端aを接続するためのT字管9が接続されている。本実施形態に係る補液ラインL3は、一端aがT字管9を介して透析液導入ラインL1と接続されるとともに、図2で示すように、他端側が分岐して第1の分岐端b及び第2の分岐端cを有した流路(例えば可撓性チューブ等)から成り、当該第1の分岐端bが動脈側血液回路2のエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端cが動脈側血液回路2の先端に接続可能とされたものである。尚、図中符号14は、補液ポンプ7により扱かれる被扱き部を示しており、太径且つ軟質チューブから成る。
【0027】
ここで、便宜上、補液ラインL3における一端aから分岐部Pまでの間の流路を主流路L3a、分岐部Pから第1の分岐端bまでの流路を第1分岐流路L3b、分岐部Pから第2の分岐端cまでの流路を第2分岐流路L3cと定義する。第1分岐流路L3bの先端(第1の分岐端b)は、予めエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)と接続されているとともに、第2分岐流路L3cの先端(第2の分岐端c)には、動脈側血液回路2の先端のコネクタ11aと接続可能なコネクタ10が形成されている。
【0028】
補液ポンプ7は、補液ラインL3における分岐部Pより透析液導入ラインL1との接続部側(主流路L3aにおける一端aと分岐部Pとの間)に配設され、当該透析液導入ラインL1の透析液を第1分岐流路L3bを介して第1の分岐端bまで、及び第2分岐流路L3cを介して第2の分岐端cまで流動させ得るしごき型のポンプから成る。これにより、血液透析治療中、補液ポンプ7を駆動させることにより、透析液導入ラインL1の透析液をエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)を介して動脈側血液回路2に供給し、補液(前補液)を行わせることができる。
【0029】
更に、補液ラインL3における分岐部Pと第2の分岐端cとの間(即ち、第2分岐流路L3cの途中)には、透析液の流動を遮断又は開放し得る補液ライン側弁手段18が配設されている。かかる補液ライン側弁手段18は、手動で流路をクランプ又はアンクランプして透析液の流動を遮断又は開放し得るクランプ手段、或いは流路をクランプ又はアンクランプして透析液の流動を遮断又は開放し得る電磁弁等で構成されている。
【0030】
本実施形態においては、血液透析治療時(補液時含む)、図1に示すように、補液ライン側弁手段18は流路を閉じた状態とされて透析液の流動を遮断するよう構成されている。そして、血液透析治療が終了した後、血液回路等の血液を患者に戻すための返血を行う際、図3に示すように、静脈側穿刺針11bを患者に穿刺したまま動脈側穿刺針11aを取り外し、動脈側血液回路2先端のコネクタ6aに補液ラインL3における第2の分岐端cに形成されたコネクタ10を接続させる。尚、返血時は補液ライン側弁手段18を開状態として透析液の流動を開放させている。
【0031】
また、電磁弁V1及びV2を閉状態としつつ電磁弁Vを開状態(ダイアライザ1をバイパスさせる流路を構成させる)とすることにより、透析装置本体Bの配管部とダイアライザ1内の血液流路との切り離しを行うとともに、バイパスラインL6の電磁弁V3を開状態とする。この状態で、血液ポンプ8及び補液ポンプ7を駆動させることにより、透析液導入ラインL1の透析液が補液ラインL3における主流路L3a及び第2分岐流路L3cを介して動脈側血液回路2に流入し、その透析液と血液とを置換させることにより返血を行わせる。これにより、血液ポンプ8の駆動による流速よりも補液ポンプ7の駆動による流速の方が高くても、透析液の一部は、分岐部Pから第1分岐流路L3bを介して第1の分岐端bに至ることとなり、その透析液を血液ポンプ8を迂回(バイパス)させつつ動脈側血液回路2に流入させることができる。
【0032】
ここで、本実施形態においては、静脈側弁手段16、血液ポンプ8及び静脈圧センサ15と電気的に接続されたマイコン等から成る監視手段17が透析装置本体Bに配設されている。この監視手段17は、返血前(血液透析治療が終了し、返血が開始される前)に、静脈側弁手段16により流路を遮断するとともに血液ポンプ8を所定量回転駆動させ、静脈圧センサ15で測定される液圧の変化を監視することにより、補液ライン側弁手段18の開放状態を監視可能なものである。
【0033】
より具体的には、監視手段17は、返血前において、血液ポンプ8を所定量(例えば1/2回転)回転駆動させる前後の静脈側血液回路3内の液圧(即ち、静脈圧センサ15の測定値)の変化を算出し、その変化量が所定の閾値より大きい場合、返血のための動作を禁止するよう制御されるものである。これにより、補液ライン側弁手段18の開放忘れの状態で返血が行われてしまうのを確実に回避することができ、返血時の安全性を更に向上させることができる。
【0034】
即ち、第2の分岐端c(コネクタ10)の動脈側血液回路2の先端(コネクタ11a)に対する接続を行い、且つ、補液ライン側弁手段18を開放させた状態においては、血液ポンプ8を所定量回転駆動させた場合、動脈側血液回路2内の液体は、エアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)、第1分岐流路L3b、第2分岐流路L3c及び動脈側血液回路2における先端からエアトラップチャンバDまでの流路から成る閉ループ(閉回路)を流れ、静脈側血液回路3側に至らないので、静脈圧センサ15の測定値はほとんど変化しないのに対し、補液ライン側弁手段18の開放忘れの状態であると、血液ポンプ8を所定量回転駆動させた場合、上記閉ループが形成されず、静脈側血液回路3側に圧送されるので、静脈圧センサ15の測定値が上昇するのである。よって、静脈圧センサ15による測定値の変化量(液圧の上昇量)を監視するようにすれば、補液ライン側弁手段18の開放忘れの状態を把握し得るのである。
【0035】
尚、補液ライン側弁手段18の開放忘れの状態であって、且つ、第2の分岐端c(コネクタ10)の動脈側血液回路2の先端(コネクタ11a)に対する接続忘れの状態である場合も、閉ループが形成されず、静脈側血液回路3側に圧送されるので、上記と同様、静脈圧センサ15の測定値が上昇することとなる。然るに、目視等による監視を併せて行うことにより、補液ライン側弁手段18の開放忘れの状態に加え、第2の分岐端c(コネクタ10)の動脈側血液回路2の先端(コネクタ11a)に対する接続忘れの有無の監視を容易に行うことができる。
【0036】
次に、監視手段17による制御内容について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
血液透析治療が終了し、返血が開始される前において、静脈側弁手段16を作動させて、その部位(静脈側血液回路3の先端側)の流路を閉塞して流通を遮断する(S1)。その状態で、静脈圧センサ15により液圧(Va)を測定し(S2)、その後、血液ポンプ8を所定量(例えば1/2回転)回転駆動させる(S3)。
【0037】
そして、血液ポンプ8の回転駆動後、再び静脈圧センサ15により液圧(Vb)を測定し(S4)、血液ポンプ8を所定量回転駆動させる前後の静脈側血液回路3内の液圧(即ち、静脈圧センサ15の測定値)の変化(Va−Vb)を算出するとともに、その変化量(Va−Vb)が所定の閾値(予め設定)より小さいか否か判定する(S5)。変化量が閾値より小さい場合は、返血開始のための指示信号(例えば、後述する制御手段13への指示信号の送付)が行われる(S6)一方、変化量が閾値より大きい場合は、返血のための動作を禁止する(S7)。S7においては、返血のための動作を禁止するとともに、警報を発するようにするのが好ましい。
【0038】
更に、本実施形態においては、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の駆動制御部とそれぞれ電気的に接続されたマイコン等から成る制御手段13が透析装置本体Bに配設されている。かかる制御手段13は、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の駆動を制御するもので、返血時、当該血液ポンプ8の駆動速度よりも補液ポンプ7の駆動速度の方が所定比率(本実施形態においては、略10%)高くなるよう同期制御可能とされたものである。即ち、血液ポンプ8及び補液ポンプ7は、駆動速度を設定しても、実際の流速には誤差が生じているので、その誤差を見込んで、所定比率だけ補液ポンプ7の駆動速度の方が血液ポンプ8の駆動速度より高く設定しているのである。
【0039】
これにより、制御手段13により、血液ポンプ8の駆動速度よりも補液ポンプ7の駆動速度の方が所定比率高くなるよう同期制御されるので、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の流速に誤差が生じても、その誤差分を吸収することができ、実際の血液ポンプ8の流速が補液ポンプ7の流速よりも高くなってしまって補液ラインL3における分岐部Pから第1の分岐端bまでの間(第1分岐流路L3b)を透析液が逆流(分岐端bから分岐部Pに向かう流れ)してしまうのを防止できる。特に、本実施形態においては、所定比率が略10%に設定されているので、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の如き汎用ポンプが通常生じ得る流速の誤差(略10%とされる)を十分吸収させることができる。
【0040】
また更に、本実施形態に係る制御手段13は、返血開始時には上記の如く同期制御にて血液ポンプ8及び補液ポンプ7の両方を駆動させるとともに、所定時間後に血液ポンプ8を停止させて補液ポンプ7のみ駆動させるよう制御するものとされている。ここで、所定時間後とは、動脈側血液回路2の先端からエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)までの間の流路が全て透析液に置換された時間後であり、実際に実験で求めた時間であっても或いは当該流路の体積と透析液の流速とから理論的に求められた時間であってもよい。これにより、返血開始から終了時まで継続して血液ポンプ8及び補液ポンプ7を駆動させる場合に比べ、返血時の透析液の使用量を削減することができるとともに返血時間を短縮させることができる。
【0041】
上記実施形態によれば、補液ラインL3は、一端aが透析液導入ラインL1と接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端b及び第2の分岐端cを有した流路から成り、当該第1の分岐端bが動脈側血液回路2と接続されるとともに、返血時、第2の分岐端cが動脈側血液回路2の先端に接続可能とされたので、返血の際に補液ラインL3における分岐部Pから第2の分岐端cまでの間を透析液が流通し、且つ、当該分岐部Pから第1の分岐端bまでの間を透析液が流通可能とされる。
【0042】
従って、返血時、血液ポンプ8及び補液ポンプ7の流速に誤差が生じて、例えば血液ポンプの流速が補液ポンプ7の流速より低くなっても、補液ラインL3における分岐部Pから第1の分岐端bまでの間にて透析液を流通させることができ、当該血液ポンプと補液ポンプとの間の流路に過大な正圧が生じてしまうのを防止することができる。
【0043】
同時に、監視手段17にて、静脈側弁手段16により流路を遮断するとともに血液ポンプ8を所定量回転駆動させ、静脈圧センサ15で測定される液圧の変化を監視することにより、第2の分岐端cの動脈側血液回路2の先端に対する接続の有無、又は補液ライン側弁手段18の開放状態を監視可能とされているため、補液ライン側弁手段18の開放忘れを回避して安全性をより向上させることができる。
【0044】
また、静脈側血液回路3の途中にエアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)が接続されるとともに、静脈圧センサ15は、当該エアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)内の空気層側の圧力を検知して液圧(静脈圧)を測定し得るので、透析装置において従来より汎用的に用いられている静脈圧センサを流用することができる。勿論、血液透析治療中に静脈圧を測定するセンサとは別個に液圧センサ(他の形態の液圧測定手段)を設けて監視手段17による監視を行わせるようにしてもよい。
【0045】
尚、本実施形態によれば、補液ラインL3における分岐部Pと第2の分岐端cとの間には、透析液の流動を遮断又は開放し得る補液ライン側弁手段18が配設されたので、当該補液ライン側弁手段18により、返血前は透析液の流動を遮断させ、返血時に透析液の流動を開放させることができ、透析治療中の補液時に第2の分岐端から透析液が排出されてしまうのを確実に回避することができる。
【0046】
更に、本実施形態によれば、第1の分岐端bは、動脈側血液回路2の途中に接続されたエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)に接続されたので、補液時、動脈側血液回路2に透析液を流動させる際、除泡を施すことができる。然るに、図4に示すように、第1の分岐端bを動脈側血液回路2におけるエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)以外の部位に接続(例えば、図示の如く、流路に直接接続したもの)してもよい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば補液ラインは、一端aが透析液排出ラインL2と接続されたものとしてもよく、或いは、第1の分岐端が静脈側血液回路3(但し、静脈側血液回路3におけるエアトラップチャンバD2より基端側)と接続されたものとしてもよい。また、監視手段17を具備していれば、本実施形態の如き制御手段13を具備しないものとしてもよい。
【0048】
更に、液圧測定手段は、エアトラップチャンバD2(静脈側エアトラップチャンバ)内の空気層側の圧力を検知して液圧(静脈圧)を測定し得る静脈圧センサ15に限定されず、動脈側血液回路2又は静脈側血液回路3内の液圧を測定し得るものであれば足りる。例えば、動脈側血液回路2に接続されたエアトラップチャンバD1(動脈側エアトラップチャンバ)内の空気層側の圧力を検知して液圧を測定し得るもの(ダイアライザ1の入口圧センサ等)であってもよく、或いは透析液導入ラインL1や透析液排出ラインL2内の液圧(透析液圧)を測定することによりダイアライザ1の血液浄化膜(中空糸膜)を介して動脈側血液回路2又は静脈側血液回路3内の液圧を測定し得るもの等であってもよい。
【0049】
更に、閉ループを構成する補液ラインL3における何れかの部位に液圧測定手段を配設するようにしてもよく、この場合であっても、返血前に、静脈側弁手段16により流路を遮断するとともに血液ポンプ8を所定量回転駆動させ、液圧測定手段で測定される液圧の変化を監視手段17にて監視することにより、補液ライン側弁手段18の開放状態を監視することが可能とされる。尚、血液ポンプ8より上流側の流路であって且つ補液ライン側弁手段18より下流側の流路に液圧測定手段を配設した場合、当該液圧測定手段で測定される液圧の変化は、負圧(液圧の下降変化)となるので、これを監視手段17にて監視することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
返血前に、静脈側弁手段により流路を遮断するとともに血液ポンプを所定量回転駆動させ、静脈圧センサで測定される液圧の変化を監視することにより、補液ライン側弁手段の開放状態を監視可能な監視手段を備えた透析装置であれば、他の機能が付加されたもの等に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…ダイアライザ(血液浄化器)
2…動脈側血液回路
3…静脈側血液回路
4a、4b…濾過フィルタ
5…複式ポンプ(供給手段)
6a、6b…コネクタ
7…補液ポンプ
8…血液ポンプ
9…T字管
10…コネクタ
11a…動脈側穿刺針
11b…静脈側穿刺針
12…除水ポンプ
13…制御手段
14…被扱き部
15…静脈圧センサ(液圧測定手段)
16…静脈側弁手段
17…監視手段
18…補液ライン側弁手段
L1…透析液導入ライン
L2…透析液排出ライン
L3…補液ライン
L4…バイパスライン
L5…バイパスライン
L6…バイパスライン
V1…電磁弁
V2…電磁弁
V3…電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化膜を内在するとともに、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成され、前記血液浄化膜を介して血液に透析液を接触させて透析浄化作用を施す血液浄化器と、
基端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、
基端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路内の液圧を測定し得る液圧測定手段と、
前記静脈側血液回路における前記液圧測定手段が配設された部位より先端側の流路を遮断又は開放し得る静脈側弁手段と、
前記血液浄化器の透析液導入口に接続され、前記血液浄化器に透析液を導入する透析液導入ラインと、
前記血液浄化器の透析液排出口に接続され、前記血液浄化器から透析液を排出する透析液排出ラインと、
調製された透析液を前記透析液導入ラインに供給する供給手段と、
を具備した透析装置であって、
一端が前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインと接続されるとともに、他端側が分岐して第1の分岐端及び第2の分岐端を有した流路から成り、当該第1の分岐端が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続されるとともに、返血時、前記第2の分岐端が前記動脈側血液回路の先端に接続可能とされた補液ラインと、
該補液ラインにおける分岐部より前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインとの接続部側に配設され、当該透析液導入ライン又は透析液排出ラインの透析液を前記第1の分岐端及び第2の分岐端まで流動させ得る補液ポンプと、
前記補液ラインにおける分岐部と第2の分岐端との間に配設され、透析液の流動を遮断又は開放し得る補液ライン側弁手段と、
返血前に、前記静脈側弁手段により流路を遮断するとともに前記血液ポンプを所定量回転駆動させ、前記液圧測定手段で測定される液圧の変化を監視することにより、前記補液ライン側弁手段の開放状態を監視可能な監視手段と、
を備えたことを特徴とする透析装置。
【請求項2】
前記静脈側血液回路の途中に静脈側エアトラップチャンバが接続されるとともに、前記液圧測定手段は、当該静脈側エアトラップチャンバ内の空気層側の圧力を検知して液圧を測定し得る静脈圧センサから成ることを特徴とする請求項1記載の透析装置。
【請求項3】
前記監視手段は、前記血液ポンプを所定量回転駆動させる前後の静脈側血液回路内の液圧の変化を算出し、その変化量が所定の閾値より大きい場合、返血のための動作を禁止するよう制御されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−160964(P2011−160964A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26623(P2010−26623)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】