説明

透水性コンクリート植生護岸の植生方法

【課題】 透水性コンクリート植生護岸において、長期植生期待型の植生においても、早期に植生が完成できるよう、護岸の空隙に充填可能な植生基盤を提供する。
【解決手段】 水際に舗設された透水性コンクリート植生護岸の骨材1間の空隙に、加水混合された木質粉体を含有してなる植生基盤材スラリー10を流下させて空隙を充填する。護岸表面に、周辺環境に応じた品種の種子を播種し、護岸面に植生5を施す。あるいは植生基盤スラリー10内に種子を混合して、空隙を充填して植生5を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透水性コンクリート植生護岸の植生方法に係り、従来の透水性コンクリート植生護岸において、長期植生期待型の植生においても、早期に植生が完成可能な植生基盤を、透水性コンクリート内に充填するようにした透水性コンクリート植生護岸の植生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、透水性コンクリート護岸工法として、商品名「エコベース工法」を開発し、すでに多くの施工実績を有する。このエコベース工法は、植生護岸用ポーラスコンクリートを用いた現場での機械施工を実現した多自然型河川護岸工法であり、出願人において多くの施工実績がある透水性コンクリート舗装(商品名「パーミアコン舗装」)の技術を応用したもので、コンクリートの本来の特性である強度による「護岸」の役割と、コンクリートの骨材間に形成された連続空隙による透水作用、植生作用を同時に果たすことができる(特許文献1)。
【0003】
ところで、多自然型河川護岸工法では、コンクリート護岸に植生基盤を形成させ、水生植物や小動物との共生を図る工夫がなされているが、一般に植生期待時期に応じて3タイプに分類されている。具体的には、
【0004】
(1)長期植生期待型
長期に植生の発現を期待する場合、透水性コンクリート護岸上に覆土・播種などを施さず、時間をかけ、自然にまかせた状態で植生の発現を期待しるタイプ。低水護岸などでのり勾配が緩い場合など、植生が発現すれば洪水時に土砂堆積が起こりやすくなり、自然に多様な植生が発現する環境になると考えられ、周辺植生と連続性のある護岸となる。
(2)中期植生期待型
中期に植生の発現を期待する場合、透水性コンクリート護岸上に覆土(現地発生表土等)を行い、自然の植生が1年程度で発現し、周辺の自然植生環境と透水性コンクリート護岸が連続性を有する護岸となる。
(3)短期植生期待型
【0005】
短期に植生の発現を期待する場合、透水性コンクリート護岸上に覆土を施した上で、張芝・播種などを行う。この場合、特定の植種を利用することになるが、この植種を維持したい場合は植生の維持管理(除草、補植など)が必要となる。
このような多自然型河川護岸工法として、非特許文献1には、河川流速が8m/s程度まで対応可能な現場打ち植生ポーラスコンクリート工が提案されている。この工法は、粗骨材を、低アルカリ性・高強度のセメントペーストで固めた「ポーラスコンクリート(連続空隙硬化体)」と、その空隙部に充填する保水性・肥料効果及びアルカリ分の中和に有効な有機質材料を主成分とする「充填材」、及びその表面に固着される厚さ3〜5cmの「表層基盤」から構成され、コンクリートの力学的機能と緑化機能を備えている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−184025公報。
【非特許文献1】日本植生株式会社ホームページ、[online]、平成17年8月25日更新、[平成17年9月28日検索]、インターネット<URL:http://www.nihon-shokusei.co.jp/river/ryokakon/ryokakon_top.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、砂防ダムなどは覆土が許されないので、多自然型河川護岸工法において「長期植生期待型」が採用された場合でも、できるだけ早期に植生が発達する植生促進工法の開発が望まれていた。その際、上述したような植生基盤を透水性コンクリート護岸面に敷設することができないので、エコベースの空隙内に植生基盤に相当する有機物を充填し、植生の生育基盤を作ることでその問題の解決を検討した。
【0008】
しかし、従来の植生基盤に用いられる材料は、天然繊維等を含有しているため、透水性コンクリートの連続空隙内に充填することが困難であり、上述したような出願人が実施している透水性コンクリート植生護岸の空隙内に、この種の植生基盤材料を充填等、後施工することはほとんど不可能であった。
【0009】
そのなか、出願人は材料リサイクルの観点に立って、廃材、廃棄物の有効利用により植生基盤材を開発する意図で種々研究を進めてきた。その結果、木質系ボードの破砕時に発生し、集塵されて回収される微小粒径の木粉(木質粉体)が有機物であるとともに、植生基盤材料として十分な吸水性が得られることが確認できた。しかし、この木質粉体のみでは、透水性コンクリート植生護岸の空隙に適量に流下させ、充填する植生基盤材として使用できない。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、この木質粉体を従来の透水性コンクリート植生護岸において、植生基盤材として使用することで護岸植生をより早期に実現できるようにした透水性コンクリート植生護岸の植生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
出願人は、木質粉体と樹脂バインダーと水とを混合してスラリー状とし、空隙率の大きな透水性コンクリート植生護岸の空隙に植生基盤材料を流下、充填させることで、基盤材料に含有されている木質粉体の吸水性を利用して基盤材料に保水性能を持たせることができ、特に植生基盤材が河川水に浸漬している個所から法面等に沿った部位にかけて、毛管作用による水分の吸い上げ性能が得られ、この透水性コンクリート植生護岸に種子散布したところ、発根した植物の根がこの基盤材料に活着し、その後の十分な生長が果たせるとの知見を実験的に得た。
【0011】
ここで、「木質粉体」とは、スギ、ヒノキ等木材を原材料とする木質チップとセメントとを圧縮成型して製造された木質系セメントボード等の家屋外壁ボードの製造過程で発生する不良品やトリミング、カット加工した際の端材をフレーカーで破砕し、さらにハンマーミルで粉砕した際に発生する微粉体のうち、比重を利用してセメントと分離して集塵機で回収した微粉状の木粉で、その粒径は10μm以下のほぼ球形をなす材料である。以下、本明細書では、上述の材料を木質粉体と定義して使用する。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は水際に舗設された透水性コンクリート植生護岸の骨材間の空隙に、加水混合された木質粉体を含有してなる植生基盤材スラリーを流下させて前記空隙を充填し、前記護岸表面に、周辺環境に応じた品種の種子を播種し、前記護岸に植生を施すようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、水際に舗設された透水性コンクリート植生護岸の骨材間の空隙に、加水混合された木質粉体と、周辺環境に応じた品種の種子を含有してなる植生基盤材スラリーを流下させて前記空隙を充填し、前記護岸に植生を施すようにしたことを特徴とする。
【0014】
前記バインダーは、エマルジョンとして用いられたポリマー系混和材を用いることが好ましい。
【0015】
前記木質粉体は、木質セメントボード廃材を粉砕した際に、集塵機で回収された微小粒径のリサイクル木粉を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バインダーと混合された有機物としての木質粉体による吸水、保水機能により、透水性コンクリート植生護岸において、その透水性コンクリート内部において植生基盤材としての機能を奏することができ、護岸面に播種され、あるいは植生基盤材内に混合された種子により、郷土植物等のその護岸の周辺環境にふさわしい植物が早期に発根、活着し、植物の順調な生長、繁殖が可能となる効果を有する。また、護岸の灌水時にも植生基盤材、植物の流失を防止できるという効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の透水性コンクリート植生護岸の植生方法の実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0018】
本実施例では、すでに舗設された透水性コンクリート植生護岸の空隙に、充填する植生基盤材として、木質粉体と水と樹脂系バインダーとを混合した植生基盤材スラリーが使用されている。透水性コンクリート植生護岸の空隙内を流下した植生基盤材スラリーは、バインダーの粘着材としての作用により、透水性コンクリートの骨材間を結合するバインダーですでに覆われた骨材間に十分充填される。その際、植生基盤材スラリー中のバインダーの硬化によって、すでに透水性コンクリートの主構成材である骨材の表面に植生基盤材を確実に接着させることができる。これにより、河川水位が上昇し、護岸が灌水した状態でも、透水性コンクリート護岸内に充填された植生基盤材は流失することがない。
【0019】
この植生基盤材スラリーの性状管理、評価にはPロート試験(JSCE-F521)による流下時間(Pロート値(秒))を採用することとした。複数の材料を、均質に植生基盤材スラリーとして混合できる程度の柔らかさ(流動性)を有し、骨材間に流下された際には、骨材間に充填されて留まり、スラリーが路盤まで流下しまわない程度の粘性を有することを評価するために、Pロート値として8〜10秒程度の値を確保するように木質粉体量、バインダー量、水量の配合調整を行うことが好ましい。
【0020】
木質粉体としては、上述のリサイクル木粉を用いる。バインダーとしては、例えば天然または合成のゴム、例えばSBR(スチレンブタジエンゴム)またはNBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、あるいはアクリル系樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができ、これらのポリマー系混和剤は、通常、エマルジョンの形で添加される。例えば、このポリマー系混和剤として、商品名パーミファルト(SBR系ラテックス)(佐藤道路(株)製)が好適である。
これらの材料は、まず木質粉体をモルタルミキサー等で空練り後、所定量の水、バインダーを添加し、材料全体が均質に混合できるように撹拌混合する。
【0021】
また、樹脂系バインダーに代えて普通ポルトランドセメントをバインダーとして使用することも好ましい。表1、図1は木質粉体と水との混合スラリーの粘性を適正にするために、水量を調整してPロート値を測定した結果を示した実験結果を示したものである。護岸の環境によっては、このように木質粉体と水とを混合した植生基盤材を透水性コンクリート護岸の連続空隙内に充填することができる。
【0022】
[実験結果]
(使用材料)
植生基盤材スラリー:木質粉体+水
透水性コンクリート:6号砕石・普通ポルトランドセメント
設定空隙率:25.5%
【0023】
【表1】

【0024】
(配合決定)
表1、図1に示したように、植生基盤材スラリーの充填性能から検討すると、概ねPフロート値で上限として11〜12sec程度であり、混合性によってPロート値として10sec程度以上とする必要があると確認された。
【0025】
一方、上述したように、護岸が灌水しやすい場合が多い透水性コンクリート護岸では、護岸の空隙内に植生基盤材を保持させることが重要であるため、バインダーを用いることが一般的である。バインダーを用いた場合の植生基盤材スラリーの流動性調整を行うことが好ましく、この場合にも、その評価にはPロート値を用いることが好ましい。なお、実験結果には示していないが、Pロート値が小さいと、バインダーと木質粉体との混合性が低下し、均質なスラリーが得られず、スラリーが骨材間の空隙を流下するのに支障が生じるため、Pロート下限値として10sec程度を設定することが好ましい。
【0026】
(施工手順)
以下、本発明の透水性コンクリート植生護岸の植生方法の施工手順について、図2(a)〜(d)を参照して簡単に説明する。
同図(a)に示したように、透水性コンクリート護岸は、法面等に機械施工により、所定の層厚に施工されている。この透水性コンクリート植生護岸の骨材1は、バインダー2で一体的に結合され、連続空隙が形成された状態で一定の空隙率を確保して層状に施工されている。この植生護岸部分に植生基盤材10を矢印で示したように、護岸表面から連続空隙を流下させて空隙4を埋めるように充填する(同図(b))。空隙4が設計仕様に応じた程度に充填された状態で護岸表面に、郷土植物等の本来護岸周辺に自生していた植物等のように周辺環境に調和し、かつ水辺での生長が良好な品種の植物の種子3を播種する(同図(c))。播種後、散水等を施し、植生基盤材に一定の水分を保水させることで、種子は発根、発芽し、環境に応じた植物5の生長が期待できる(同図(d))。
【0027】
上述の説明では、植生基盤材スラリーを施工後に、種子を播種するようにしたが、植生基盤材スラリー内に、護岸コンクリートの空隙内に充填され、基盤材に被覆された状態でも発根、発芽可能な植物であれば、スラリーに混合して空隙内に充填させることも可能である。
【0028】
(発芽試験、灌水試験)
発芽性能の比較のために、透水性コンクリート護岸の空隙に、木質粉体を用いた植生基盤材と、土砂からなる基盤材とを別々の護岸部位に充填し、同一品種の芝の種子を播種したところ、発根、発芽、その後の生長において、すべて木質粉体を用いた植生基盤材の方が土砂からなる基盤材の芝の状態を上回った。さらに、生長した芝部分の護岸を灌水させて植生基盤材の流失状態を確認した。その際、土砂からなる基盤材は芝が活着し根が張っている部分を残して土砂が流出したが、木質粉体を用いた植生基盤材は、芝、植生基盤材とも流失はなかった。
【0029】
(植生基盤材の吸い上げ性能)
本発明による木質粉体を含有する植生基盤材は、吸水性を有する木質粉体が植生基盤材内に均質に混合されているため、たとえば下端部が河川水に浸漬された状態では、その部位からの毛管作用により植生基盤内を水面から数十cm〜1m程度まで水を吸い上げ、かつ植生基盤材内に保水することができることが確認されている。これにより、例えば法面に沿った透水性コンクリート植生護岸の場合、河川の水位から上方の、通常は水分供給が困難な法面の範囲においても環境に応じた植物に水分を供給でき、それら植物が良好に生長することができる効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】W/PとPロート値との関係を示したグラフ。
【図2】透水性コンクリート植生護岸の植生方法の施工手順を示した説明図。
【符号の説明】
【0031】
1 骨材
3 種子
5 植物
10 植生基盤材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水際に舗設された透水性コンクリート植生護岸の骨材間の空隙に、加水混合された木質粉体を含有してなる植生基盤材スラリーを流下させて前記空隙を充填し、前記護岸表面に、周辺環境に応じた品種の種子を播種し、前記護岸に植生を施すようにしたことを特徴とする透水性コンクリート植生護岸の植生方法。
【請求項2】
水際に舗設された透水性コンクリート植生護岸の骨材間の空隙に、加水混合された木質粉体と、周辺環境に応じた品種の種子を含有してなる植生基盤材スラリーを流下させて前記空隙を充填し、前記護岸に植生を施すようにしたことを特徴とする透水性コンクリート植生護岸の植生方法。
【請求項3】
前記植生基盤材スラリーは、バインダーとしてのポリマー系エマルジョンが混合されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透水性コンクリート植生護岸の植生方法。
【請求項4】
前記木質粉体は、木質セメントボード廃材を粉砕した際に、集塵機で回収された微小粒径のリサイクル木粉であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透水性コンクリート植生護岸の植生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−92474(P2007−92474A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286714(P2005−286714)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(390023342)佐藤道路株式会社 (2)
【Fターム(参考)】