説明

透湿体及びこれを備えた加湿器

【課題】透湿体内でのスケール析出を防止することにより耐久性、メンテナンス性を向上させた透湿体及びこれを備えた加湿器を提供すること。
【解決手段】少なくとも一側面側に、水により構成された液体が接触する透湿性ポリウレタンチューブ(透湿膜)2と、透湿性ポリウレタンチューブ2の前記液体側に設けられ、荷電を帯びたイオンを透過させないイオンバリアー膜3と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内等の任意の空間に水分を供給することで湿度を上昇させる加湿器に利用可能な透湿体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加湿器に使用されている透湿性の樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)に無数の微細孔をあけた「ゴアテックス(登録商標)」や、ポリウレタン樹脂が知られている。四フッ化エチレン樹脂は、特に布帛として用いられた場合に、液体状の水は透過させず、気体状の水蒸気は透過するといった、防水、透湿の相反する機能を備えたものとなることにより、各種の衣料に広く用いられている。
【0003】
ところで、近年ではこのような防水、透湿の機能を兼ね備えた材料の用途が広がりつつある。例えば清浄な湿気(水蒸気)のみを設定量だけ放出するといったことに上記の材料を応用する加湿器が開発され、特許文献1,2等で開示されている。この技術では、透湿性ポリウレタンチューブを水分の透過膜として使用し、透過した水分により室内の加湿を行なっている。
【特許文献1】特開2003−246832号公報
【特許文献2】特開2004−101161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような加湿器においては、ポリウレタンチューブが水を含む際に膨潤し、このとき水に含まれるシリカ及び炭酸カルシウムがポリウレタンチューブ内で濃縮して析出し「スケール」を生ずると、チューブが脆弱し、亀裂を生じた場合、水漏れを起こす可能性がある。また、スケールが析出することにより、膜の透湿有効面積が減少し、加湿性能も低下する。
【0005】
そのため、析出を抑制すべくイオン交換樹脂を設けているが、イオン交換樹脂はイオンの交換容量が決まっており、該容量を超過すると目的とするイオンが透過してしまう。また、イオン交換樹脂には寿命があるため、このような加湿器ではイオン交換樹脂を定期的に交換する必要がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、透湿体内でのスケール析出を防止することにより耐久性、メンテナンス性を向上させた透湿体及びこれを備えた加湿器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究した結果、透湿性を有する膜体の水側表面に対して、イオンバリアー膜を形成することにより、水中のイオンの透過を抑制できることを知見した。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、少なくとも一側面側に、水により構成された液体が接触する透湿膜と、前記膜体の前記液体側に設けられ、イオンの透過を阻止する荷電を帯びたイオンバリアー膜と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
イオンバリアー膜を備えることにより、同一電荷のイオンは電気的な反発力を受け、イオンバリアー膜の透過が抑制される。また、逆電荷の荷電イオンも電気的中性を保つために、イオンバリアー膜の透過が抑制される。これにより、荷電を帯びたイオンの膜体内部への侵入を防止する。その結果、シリカや炭酸カルシウム等の析出を阻止し、膜体の脆化を防止して寿命を延ばすことができる。
なお、膜体の他側面側は液体でも気体でもよい。また、膜体の形状は、いかなるものでもよい。後述のようにチューブ状とすることもできる。また、イオンバリアー膜は少なくとも一層以上であり、後述のように積層状態としてもよい。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の透湿体において、前記イオンバリアー膜は、正電荷ポリマと負電荷ポリマとが交互に積層してなることを特徴とする。
【0011】
正電荷ポリマと負電荷ポリマとが積層されることにより、荷電イオンの侵入がより効果的に抑制される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の透湿体において、マトリックスとしたポリビニルアルコールに正電荷ポリマとして分子式
【化3】

で表されるポリアリルアミンをブレンドしたことを特徴とする。
【0013】
本構成によれば、上記分子式で表されるPAAm(ポリアリルアミン)が備えるNH基の電気的な反発力により、液体に含まれるCa2+等の陽イオンの透過が抑制される。また、電気的中性を保つために、液体に含まれるCl等の陰イオンの透過も抑制される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の透湿体において、前記イオンバリアー膜は、分子式
【化4】

で表される繰返し構造単位を有した負電荷ポリマを備えたことを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、上記分子式で表されるA−PVA(2mol%のAMPS(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)を含む変性PVA(ポリビニルアルコール))が備えるSO基の電気的な反発力により、Cl等の陰イオンの透過が抑制される。また、電気的中性を保つために、液体に含まれるCa2+等の陽イオンの透過も抑制される。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の透湿体において、前記イオンバリアー膜のマトリックスが親水性のポリマであることを特徴とする。
【0017】
これにより、イオンバリアー膜に対する水の透過性が良好となる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の透湿体において、前記透湿膜は、イソシアネート成分と、鎖延長剤としてのポリオールと、ポリオール成分としてのポリエチレングリコールとが少なくとも原料として用いられ、これら原料が反応させられて得られることを特徴とする透湿性ポリウレタンである。
【0019】
すなわち、上記透湿膜として、特許文献1,2に開示されている透湿性ポリウレタンを使用し、この透湿性ポリウレタンに対してイオンバリアー膜を設けることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の透湿体において、前記膜体はチューブ状であり、該チューブ外側に前記液体が接触することを特徴とする。
【0021】
チューブ内側は気体または液体とすることができる。
【0022】
請求項8に記載の加湿器は、請求項1から7に記載された透湿体を透過した水分を任意の空間に供給して加湿することを特徴とする。
【0023】
これにより、膜体中でのスケール析出が抑制され、膜体の亀裂発生から生じる水漏れの可能性を有する脆弱化を抑制できる。また、膜体の透湿有効面積の減少を抑制し、加湿性能を維持することができる。したがって、膜体が長寿命化し、加湿器のメンテナンス回数を減少させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の透湿体及び加湿器によれば、スケール析出を原因とする膜体の脆弱化を抑制し、膜体の亀裂発生から生じる水漏れの可能性を低減し製品の信頼性を向上させることができる。また、膜体の透湿有効面積の減少を抑制し、透湿性能を維持することができる。したがって、本発明に係る透湿体を備えた加湿器によれば、膜体が長寿命化することで加湿器のメンテナンス回数を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に本発明の一実施形態として透湿性ポリウレタンチューブ(透湿膜)2の表面にイオンバリアー膜3としてPAAm(ポリアリルアミン)をコーティングした透湿体1の例を示した。
【0026】
透湿性ポリウレタンチューブ2は、前述の特許文献1、特許文献2などで使用されている、イソシアネート成分と、鎖延長剤としてのポリオールと、ポリオール成分としてのポリエチレングリコールとが少なくとも原料として用いられ、これら原料が反応させられて得られる、既知の材料である。
【0027】
透湿性ポリウレタンチューブ2の紙面左側の側面は主として水により構成された液体Wが接触し、右側側面には液体または気体(符号Aで示す。)が接触する。
【0028】
液体Wは、水分子(不図示)、Clイオン4、Ca2+イオン5等により構成されている。
【0029】
イオンバリアー膜3は、分子式
【化5】


で表される繰返し構造単位を有した正電荷ポリマとしてのPAAm(ポリアリルアミン)を備え、マトリックスとして親水性ポリマ(例えばPVA:ポリビニルアルコール)を備える。図1にPAAmが持つNH基を模式的に示した(符号6で示した)。
【0030】
この構成によれば、イオンバリアー膜3のNH基と同一電荷のイオン(Ca2+等)が電気的に反発し、その多くはイオンバリアー膜3の透過を阻止される。また、逆電荷の荷電イオン(Cl等)の多くも、電気的中性を保つために結果的にイオンバリアー膜3の透過を阻止される。これにより、透湿性ポリウレタンチューブ2内部でイオンが濃縮し析出することにより起こるスケール発生を抑制する。
イオンバリアー膜3のマトリックスが親水性のポリマであるため、水分子の透過性は良好であり、イオンバリアー膜3、透湿性ポリウレタンチューブ2を通じて他側に移動する。
【0031】
また、上記透湿体1を透過した水分を任意の空間に供給して加湿する加湿器としてもよい。この場合、透湿性ポリウレタンチューブ2をチューブ状とし、透湿性ポリウレタンチューブ2の外側に液体Wが接触するように構成し、チューブ内側に気体(水蒸気)を接触させるように構成することができる。本構成によれば、透湿性ポリウレタンチューブ2が脆弱し、亀裂を生じて水漏れを起こす可能性を抑制する。また、透湿性ポリウレタンチューブ2の透湿有効面積の減少を抑制し、加湿性能を維持することができる。したがって、透湿性ポリウレタンチューブ2が長寿命化することで加湿器のメンテナンス回数を減少させることができる。
【0032】
なお、PAAmのかわりに、イオンバリアー膜3として、分子式
【化6】

で表される繰返し構造単位を有した負電荷ポリマとしてのA−PVA、すなわち2mol%のAMPS(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)を含む変性PVA(ポリビニルアルコール)を使用してもよい。
【0033】
この場合、イオンバリアー膜3が持つSO基と同一電荷のイオン(Cl等)の多くが電気的に反発し、イオンバリアー膜3の透過が阻止される。また、逆電荷の荷電イオン(Ca2+等)の多くも、電気的中性を保つために結果的にイオンバリアー膜3の透過が阻止される。これにより、透湿性ポリウレタンチューブ2内部でイオンが析出することによりスケール発生を抑制する。
【0034】
次に、上記透湿体1についての実施例を説明する。
(1)液−液評価
上記透湿体1をシート状に形成し、透湿体1の一側に0.003mol/lのCaCl溶液を接触させ、他側にCaClを含まない水を接触させ、イオンの透過実験を行なった。図2に示したように、透湿体1により形成された薄膜10を間に挟み、一方にはイオン交換水を貯留した容器11を設置し、他側には電解質または尿素溶液を貯留した容器12を設置する。それぞれ攪拌機11a、12aにより撹拌させる。
【0035】
イオンバリアー膜3は、PVA(ポリビニルアルコール)に対して2,4,8重量%のPAAm、及び、5,10,20重量%A−PVAを含有させたものを使用した。また、比較としてイオンバリアー膜3を形成していない透湿性ポリウレタンシートについての透過も検証した。さらに、イオンバリアー膜3を形成する際の熱処理によって、透湿性ポリウレタンシートの透過係数に与える影響についても検証した。具体的には、イオンバリアー膜3を形成していない透湿性ポリウレタンシートについて、熱処理をしなかった場合と、イオンバリアー膜3を形成する際の温度(120℃)にて熱処理をした場合と、160℃にて熱処理をした場合との透過係数を検証した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、4%のPAAm濃度にてコーティングをした場合と、熱処理(120℃)をした透湿性ポリウレタンシートのみの場合を比較すると、コーティングにより約8倍のバリア性を有することが分かる。また、透湿性ポリウレタンシートを熱処理した場合、高温で処理するに従いバリア性が低下することが分かる。
また、必ずしもPAAm濃度が高い方が良好とは限らず、4以上8wt%以下で良好な結果を得られることが分かる。
また、正電荷ポリマのPAAmを用いた方が、負電荷ポリマのA−PVAを用いるよりも透過を抑制することができる。
【0038】
(2)加湿器に適用した場合の評価
次に、透湿性ポリウレタンチューブを用いた既存の加湿器に、チューブ状の透湿体1を適用した。イオンバリアー膜3を形成していない従来の透湿性ポリウレタンチューブ(常態チューブ)と、イオンバリアー膜3の膜厚が異なるチューブとについて検証した。結果を表2に示す。なお、表2中の大きさおよび重さとは、サンプルとして採取したチューブの壁面を切り出した大きさおよび重さである。また、スケール量は、TGA(Thermo gravimetric analysis)により求めており、スケールがすべてウレタン膜中(膜厚210μm)に析出したと仮定した場合のスケール量の算出式は、以下の(1)式の通りである。
スケール量=(全体のスケール量)×(イオンバリアー膜の膜厚+210μm)/210μm・・・(1)
【0039】
【表2】

【0040】
イオンバリアー膜3の膜厚が約30μmの場合と約50μmの場合の結果からわかるように、膜厚が大きいと析出スケール量が少なくなることが分かる。すなわち、イオンバリアー膜3の膜厚は50μm以上であることが好ましいことが分かる。
また、加湿器にチューブ状の透湿体1を適用する場合、チューブ内側は気体となる液-気構造のため、図2の液-液構造よりも濃縮が著しい。上記結果からわかるように、この場合にもイオンバリアー膜3によるイオン浸透抑制効果が有効であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る透湿体とイオンバリアー膜の作用について示した模式図である。
【図2】透湿体の性能評価に用いた実験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1…透湿体、2…透湿性ポリウレタンチューブ(透湿膜)、3…イオンバリアー膜、4…Clイオン、5…Ca2+イオン、6…NH基、10…薄膜、11…容器、12…容器、11a,12a…攪拌機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一側面側に、水により構成された液体が接触する透湿性の膜と、
前記膜の前記液体側に設けられ、イオンの透過を阻止する荷電を帯びたイオンバリアー膜と、を備えた透湿体。
【請求項2】
前記イオンバリアー膜は、正電荷ポリマと負電荷ポリマとが交互に積層してなる、請求項1に記載の透湿体。
【請求項3】
前記イオンバリアー膜は、マトリックスとしたポリビニルアルコールに正電荷ポリマとして分子式
【化1】


で表されるポリアリルアミンをブレンドした、請求項1または2に記載の透湿体。
【請求項4】
前記イオンバリアー膜は、分子式
【化2】


で表される繰返し構造単位を有した負電荷ポリマを備えた、請求項1から3のいずれかに記載の透湿体。
【請求項5】
前記イオンバリアー膜のマトリックスが親水性のポリマである、請求項1から4のいずれかに記載の透湿体。
【請求項6】
前記透湿膜は、イソシアネート成分と、鎖延長剤としてのポリオールと、ポリオール成分としてのポリエチレングリコールとが少なくとも原料として用いられ、これら原料が反応させられて得られることを特徴とする透湿性ポリウレタンである、請求項1から5のいずれかに記載の透湿体。
【請求項7】
前記膜体はチューブ状であり、該チューブ外側に前記液体が接触する、請求項1から6のいずれかに記載の透湿体。
【請求項8】
請求項1から7に記載された透湿体を透過した水分を任意の空間に供給して加湿することを特徴とする加湿器。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−974(P2009−974A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166507(P2007−166507)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】