説明

透湿防水シートおよび透湿防水シートの製造方法

【課題】 表面の傷付き防止性、つまり表面保護効果を維持しつつ、テープ接着性が改良された従来の透湿防水シートを提供すること
【解決手段】 課題の解決手段としては、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなるシートを少なくとも一軸方向に延伸処理した多孔性シートの少なくとも一方の表面に、太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維からなる保護層が積層されてなるシートであって、該合成樹脂製繊維からなる保護層の目付けが2乃至10g/mであることを特徴とする透湿防水シートを提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透湿防水シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物を溶融押出し、次いで延伸処理して得られる多孔性の透湿防水膜の少なくとも片面に、合成樹脂製繊維よりなる不織布又はワリフ(商品名、以下同じ)を積層した透湿防水シートが記載されている。透湿防水膜に合成樹脂製繊維よりなる不織布又はワリフを積層する目的は、透湿防水膜の表面に傷付き防止性を付与すること、及び透湿防水膜を補強することである。ここで透湿防水膜の表面の傷付き防止性、つまり表面保護効果を発揮させるためには、合成樹脂製繊維の太さが30デニール以上もある網目状のワリフでは表面保護効果が不十分であるばかりではなく、合成樹脂製繊維の存在する部分と存在しない部分との段差が大きかった。このような背景から、透湿防水膜の保護のためには従来不織布が使用されていた。
【0003】
上述したように従来の透湿防水シートは、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる透湿防水膜に合成樹脂製繊維からなる不織布が保護層として積層されているが、保護層として使用した不織布は厚み方向の結合力、つまり層間強度が弱く、粘着テープを貼付すると不織布の最も外側に位置する合成樹脂製繊維が剥がれてしまうため、テープ接着性が悪いという問題があった。ここでいうテープ接着性とは、透湿防水シートを建築用途等に利用する場合に重要な特性である。即ちテープ接着性とは、建物等の躯体に粘着テープを用いて透湿防水シートを貼り付けたり、透湿防水シート同士を接合する際における透湿防水シートと粘着テープとの接着強度のことである。なおこの特性は、日本窯業外装材協会規格NYG S−0010に規定されている。この粘着テープの接着性が低下する傾向は、不織布の厚みが厚いほど、すなわち不織布の目付けが大きいほど強かった。一方、透湿防水膜にワリフを積層すると、テープ接着性は良好であるが、透湿防水シートの表面保護効果が不十分であるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−324158
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に鑑みなされたもので、表面の傷付き防止性、つまり表面保護効果を維持しつつ、テープ接着性が改良された透湿防水シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる多孔性の透湿防水膜の少なくとも一方の表面に、特定の合成樹脂製繊維を積層することにより、前記課題が解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
(1)ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなるシートを少なくとも一軸方向に延伸処理した多孔性シートの少なくとも一方の表面に、太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維からなる保護層が積層されてなるシートであって、該合成樹脂製繊維からなる保護層の目付けが2乃至10g/mであることを特徴とする透湿防水シートに関するものである。
(2)ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しし、溶融押出されたシート状物が固化する前に、該シート状物の少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させた後圧着し、次いで少なくとも一軸方向に延伸処理することを特徴とする透湿防水シートの製造方法に関するものである。
(3)ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しし、固化したシート状物の少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させた後、シート状物と合成樹脂製繊維とを熱圧着し、次いで少なくとも一軸方向に延伸処理することを特徴とする透湿防水シートの製造方法に関するものである。
(4)ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しして得られたシートに、少なくとも一軸方向に延伸処理し、次いでその少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させ、次いでシート状物と合成樹脂製繊維とを熱圧着しすることを特徴とする透湿防水シートの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
従来の透湿防水シートの保護層として不織布が使われている。一般的に不織布は数デニール前後の細い合成樹脂製繊維を積層し、部分的にポイントシールを行ってシート状になっている。よって不織布の厚み方向において合成樹脂製繊維同士が直接接合している部分の面積は小さく、厚み方向において層間強度は弱いものである。また不織布を構成する合成樹脂製繊維やポイントシールの凹凸によって、テープとの接着面積が小さくなり、テープ接着性が弱いものとなる。本発明では、従来の透湿防水シートよりも合成樹脂製繊維からなる保護層の目付けを少なくしているので、保護層の層間強度が強くなる。さらに(熱)圧着の工程を含んでいるので透湿防水シートの表面が平滑になる。このようにして構成される本発明の透湿防水シートは、従来の透湿防水シートに匹敵する防水性や透湿性及び表面の傷付き防止性などの性能を有すると共にテープ接着性が優れている。さらに本発明の透湿防水シートの保護層の材質は、従来の透湿防水シートと変わっていないので保護層の目付けが少ない分、従来の透湿防水シートよりも軽量でかつ安価な加工コストで透湿防水シートを提供できる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の透湿防水シートは、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる透湿防水膜の上に、その表面を保護する目的から保護層が積層されたものである。以下本発明を詳細に説明する。
まず本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂があげられるが、中でも低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、エチレンー酢酸ビニル共重合体や、エチレンとアクリル酸又はメタクリル酸等との共重合体などのポリエチレン系樹脂が望ましい。更に、密度が0.850乃至0.915g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂が好適である。これらの樹脂は、低温での溶融押出が可能で、しかも、後述する無機充填剤を多量に配合したシート状物を延伸処理することによって均一で微細な空隙を多数生じさせることができるので好ましい。
【0008】
次にポリオレフィン系樹脂に混入させる無機充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等、酸化カルシウム、酸化亜鉛、アルミニウム粉、ゼオライト、硫酸バリウム、タルク、珪藻土等が挙げられる。これらの中でも特に炭酸カルシウムが好適である。そして、分散性や加工性、更には、形成させる空隙の大きさ等を考慮すると、これらの無機充填剤の平均粒径としては、0.5乃至10μmが好ましい。特に好ましくは、1.0乃至5.0μmである。又、無機充填剤の混入量としては、20乃至70重量%が好適である。無機充填剤の混入量が20重量%未満である場合には、延伸工程により多数の空隙を生じさせることが困難であり、70重量%を越えると機械的強度が劣るようになる。
【0009】
次いで、本発明の透湿防水シートの保護層を形成する合成樹脂製繊維としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂からなり、太さが30デニール以下、平均長さが数ミリ乃至数十ミリであるものが用いられる。合成樹脂製繊維の太さが30デニールを超えると、該合成樹脂製繊維ひとつひとつの太さが太くなり、保護層の表面の均一性が失われ、保護層として透湿防水シートの表面保護の性能が悪くなり、テープ接着性も低下する。

【0010】
本発明の透湿防水シートは、上記したポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなり、透湿防水膜の少なくとも片面に、太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維からなる保護層が積層されてなるシートである。そして該合成樹脂製繊維からなる保護層の目付け量が2乃至10g/mである。合成樹脂製繊維の目付けが10g/mを超えると、従来の不織布のように層間強度が低下して、透湿防水シートのテープ接着性が悪くなる。逆に合成樹脂製繊維の目付けが2g/m未満であると、傷付き防止性が悪くなる。なお、本発明の透湿防水シートを構成する透湿防水膜の厚みは、10乃至80μm、より好ましくは20乃至40μmであることが望ましい。
【0011】
次いで本発明の透湿防水シートの製造方法について以下に述べる。
まず本発明の第一の製造方法について説明する。最初にポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しする。このとき該組成物からなるシート状物は溶融状態である。次いで、溶融状態中にあるシート状物の少なくとも一方の表面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させる。なお、シート状物に合成樹脂製繊維を堆積させる方法は特に限定されるものでなく、エアー中に浮遊させて吹き付ける方法、上方より降りかける方法等が例示できる。そして溶融状態中にあるシート状物をチルロールとゴムロールでピンチすることにより固化させる。次いで該シート状物を少なくとも一軸方向に延伸処理することにより本発明の透湿防水シートを得る。
【0012】
次いで本発明の第二の製造方法について説明する。最初にポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しし、これをチルロールに接触させることにより、固化させてシート状物とする。次いで該シート状物の少なくとも一方の表面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させる。なお、シート状物に合成樹脂製繊維を堆積させる方法は第一の製造方法において述べたとおりである。そして該シート状物と合成樹脂製繊維をより確実に密着させるために熱圧着する。次いでこれを少なくとも一軸方向に延伸処理することにより本発明の透湿防水シートを得る。
【0013】
そして本発明の第三の製造方法について説明する。最初にポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しし、これをチルロールに接触させることにより、固化させてシート状物とする。次いで該シート状物を少なくとも一軸方向に延伸処理して多孔性の透湿防水膜とする。次いで該シート状物の少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させる。なお、シート状物に合成樹脂製繊維を堆積させる方法は第一の製造方法において述べたとおりである。そして該透湿防水膜と合成樹脂製繊維を積層させるために熱圧着することにより本発明の透湿防水シートを得る。
【0014】
以上述べた製造方法のうち、第二、第三の製造方法における具体的な熱圧着法としては、加熱したロール間を通過させる方法等が挙げられる。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤を混合させた組成物をシート状に溶融押出し成形させる具体的な方法としては、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤をドライブレンドさせた組成物、或いは、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤を溶解混練させた組成物を押出機に供給し、Tダイを用いてシート状に溶成形する方法が挙げられる。
【0016】
また本発明における延伸処理は一軸延伸、二軸延伸のいずれもが採用可能である。まず一軸延伸では、ロール延伸、特に、多段ロール延伸が好適である。延伸温度としては、ロール表面温度を30℃乃至100℃に設定して行うのが好ましい。延伸倍率としては、1.05乃至5.00倍に延伸する。一方、二軸延伸ではテンター延伸を用いる。二軸延伸の延伸倍率も一軸のときと同様で、30℃乃至100℃で縦、横ともに1.05乃至5.00倍に延伸する。

【0017】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.91g/cm、MI:1.5)45重量%と平均粒径2.0μmの炭酸カルシウム55重量%からなる樹脂組成物を、Tダイを備えた押出機を用いて厚さ90μmのシート状物を得た。これを70乃至80℃に設定した多段式ロール延伸機により縦一軸方向に3.0倍に延伸して透湿防水膜を得た。こうして得られた透湿防水膜に太さ2.2デニールで、平均長さ38mmの合成樹脂製繊維(ポリプロピレン製)を、目付けが8g/mとなるように均一に吹き付けて堆積させ、次いで115℃の熱ロール間を通過させることにより、熱圧着して積層させて、透湿防水膜と保護層からなる透湿防水シートを得た。
【比較例】
【0019】
実施例と同様にして透湿防水膜を得た。こうして得られた透湿防水膜の片面に保護層として、太さ3デニールであって目付けが35g/mのポリプロピレンとポリエチレンからなる不織布を115℃に加熱したロールで熱圧着して積層させた透湿防水シートを得た。
【0020】
実施例、比較例で得られた透湿防水シートの性能を以下の方法で評価した。その結果を下記に表わす。
「テープ接着性」
日本窯業外装材協会規格NYG S−0010に準拠して粘着力試験にて測定を行う。粘着力の測定は、試験片の幅25mm×100mmを用い、防水シートと被着体を2kgロールで1往復させて圧着し貼合わせた後、JIS Z 0237に準拠し180°剥離試験(300mm/分)によって粘着力を測定する。なおNYG S−0010では、粘着力すなわちテープ接着性は3N/2.5cm以上でなくてはならないと規定されている。

【0021】
実施例で得られた透湿防水シートのテープ接着性は、10N/2.5cmであった。これは、NYG協会規格の品質基準の3N/2.5cmを大きく上回っている。
【0022】
比較例で得られた透湿防水シートのテープ接着性は、2.8N/2.5cmであり、これは、NYG協会規格の品質基準を下回っていた。
【0023】
以上の試験結果から、本発明の透湿防水シートは従来の透湿防水シートよりテープ接着性がよいといえる。

【0024】
「傷付き防止性」
実施例、比較例で得られた透湿防水シートの表面を指で引っかいたところ、傷の程度は同じであった。従って本発明の透湿防水シートの傷付き防止性つまり表面保護効果は極めて低下することなく従来の透湿防水シートと変わらないことが分かった。

【産業上の利用可能性】
【0025】
従来の透湿防水シートとしてスポーツウェア、オムツカバー、レインウェアなどの衣料をはじめ、壁材、天井材などの建築材料、除湿器用基材などの生活関連材料など幅広く使用することができる。中でも従来の透湿防水シートよりもシート表面の平滑性や良好なテープ接着性を活かして壁材や天井材などの建築材料として好適に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなるシートを少なくとも一軸方向に延伸処理した多孔性シートの少なくとも一方の表面に、太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維からなる保護層が積層されてなるシートであって、該合成樹脂製繊維からなる保護層の目付けが2乃至10g/mであることを特徴とする透湿防水シート。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しし、溶融押出されたシート状物が固化する前に、該シート状物の少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させた後圧着し、次いで少なくとも一軸方向に延伸処理することを特徴とする透湿防水シートの製造方法。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しし、固化したシート状物の少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させた後、シート状物と合成樹脂製繊維とを熱圧着し、次いで少なくとも一軸方向に延伸処理することを特徴とする透湿防水シートの製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなる組成物をシート状に溶融押出しして得られたシートに、少なくとも一軸方向に延伸処理し、次いでその少なくとも一方の面に太さ30デニール以下の合成樹脂製繊維を、目付けが2乃至10g/mとなるように堆積させ、次いでシート状物と合成樹脂製繊維とを熱圧着しすることを特徴とする透湿防水シートの製造方法。



【公開番号】特開2006−82305(P2006−82305A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267637(P2004−267637)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000206473)大倉工業株式会社 (124)
【Fターム(参考)】