説明

透湿防水性布帛の製造方法

【課題】ダル感を有し、薄地であるにも関わらず、引裂き強力に優れた透湿防水性布帛の製造方法を提供する。
【解決手段】厚みが0.15mm以下で、経糸引裂き方向及び緯糸引裂き方向の引裂き強力が10N以上の透湿防水性布帛を製造する方法であって、
透湿防水性布帛を製造する工程が、(i)酸化チタンを1wt%以上含有し、相対粘度が2.7以下の固体のポリアミドレジンチップを減圧加熱して相対粘度2.8以上にし、ワンステップ紡糸法により総繊度30〜45デシテックス、かつ単糸繊度0.5〜1.5デシテックスのマルチフィラメント糸を製造する工程、(ii)リップストップ組織からなる織物基布を製織する工程、(iii)該織物に少なくとも一層の樹脂層を設ける工程、を含むことを特徴とする透湿防水性布帛の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダル感を有する薄地の基布からなる引裂き強力に優れた透湿防水性布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に衣料、生活資材用途を中心に快適性や、健康への関心が高まってくるにつれ透湿、防水、撥水機能を有し、かつ、軽く風合が柔軟な布帛が求められるようになってきている。従来、このような要求を実現する方法として、例えば、ナイロン66マルチフィラメントから得られた嵩高糸よりなる布帛に重合体皮膜を積層する方法などが一般的に用いられており、得られる透湿・防水・撥水機能を有する布帛は、ウインドブレーカー等のスポーツ衣料やその高度の除塵性や発塵性の低さを利用して除塵性衣料等に多く用いられている。このようなナイロンやポリエステル織物の裏面に防水、透湿性を有するウレタン樹脂膜を有した防水布帛は、透湿性、防水性は優れているものの、布帛の引裂強力が低い欠点があった。これは布帛の繊維組織内部に樹脂が侵入し、かつこれが繊維を拘束し繊維の自由度を著しく低めるため、得られる布帛の風合が硬化し、またその引裂強力が低下するためと考えられている。この風合の硬化、引裂強力低下という問題は、例えウレタン等のソフトな樹脂を用いても避けることが極めて困難である。その引裂強力を高めるための方策として一般的には70デシテックス以上のマルチフィラメントを用いて対応している。
【0003】
またアラミド繊維などの高弾性糸を交織する対策もとられているが、高弾性糸とナイロン糸やポリエステル糸との収縮率の差が大きすぎるため、特に染色や熱処理の後で織物が凹凸状になり、この状態で透湿性、防水性を有するウレタン膜をラミネートしても、織物とウレタン膜との接着性が悪く、ウレタン膜が剥がれやすかった。
さらに、高弾性糸をナイロン糸やポリエステル糸と交織したもののうち、高弾性糸をタテ、ヨコ方向に格子状に交織したものは、染色や熱処理の後で特に高弾性糸のタテ、ヨコ糸の交点の厚さが厚くなり、ウレタン膜をラミネートした後でも、交点部分が最も突出した状態となる。このため、布帛を洗濯したさいに突出部分が摩耗されやすく、洗濯後の耐水性試験では摩耗部分が簡単に破れるため、耐水性の低い布帛しか得ることができなかった。従ってこの加工方法で耐水性も向上させるにはウレタン膜を非常に厚くするなどの手段を用いたため、布帛が厚くなり、重くなる欠点があった。
【0004】
その対策として低収縮性有機糸Aと、高弾性糸Bを含む糸から成り、高弾性糸Bが織物の重量の10%以下に成るようにタテおよび/まはたヨコ方向に間欠的に織り込んだ、平坦で且つ高弾性糸Bに弛みがない防水布帛が提案されているが、高弾性糸特に繊度の大きい高弾性糸を用いているため生地が分厚くなり風合いが硬くなったり、染色性が異なることによって意匠性が劣り衣料として好ましいものではなかった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6−220779号公報(特許請求の範囲など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ダル感を有し、薄地であるにも関わらず、引裂き強力に優れた透湿防水性布帛の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、基布を構成するマルチフィラメントのポリマーの相対粘度と無機微粒子の含有量、単糸繊度、マルチフィラメントの繊度、織物の組織を改良することで、薄地の基布に樹脂を塗布しても引裂き強力を満足する透湿防水性布帛の製造方法に係る発明に至った。即ち本発明は、
1.厚みが0.15mm以下で、経糸引裂き方向及び緯糸引裂き方向の引裂き強力が10N以上の透湿防水性布帛を製造する方法であって、
透湿防水性布帛を製造する工程が、(i)酸化チタンを1wt%以上含有し、相対粘度が2.7以下の固体のポリアミドレジンチップを減圧加熱して相対粘度2.8以上にし、ワンステップ紡糸法により総繊度30〜45デシテックス、かつ単糸繊度0.5〜1.5デシテックスのマルチフィラメント糸を製造する工程、(ii)リップストップ組織からなる織物基布を製織する工程、(iii)該織物に少なくとも一層の樹脂層を設ける工程、を含むことを特徴とする透湿防水性布帛の製造方法である。
2.リップストップ組織が、経方向及び緯方向の複数糸挿入部の糸挿入本数がそれぞれ20〜80本/2.54cm以上であることを特徴とする第1の発明に記載の透湿防水性布帛の製造方法である。
3.織物基布の経糸と緯糸のカバーファクターの合計が1500〜2200であり、かつそれらの比(経糸/緯糸)が45:55〜60:40であることを特徴とする第1または2の発明に記載の透湿防水性布帛の製造方法である。
4.樹脂層が多孔質膜であり、透湿度がA−1法で6000g/m・24hrs以上、及び耐水圧が60kPa以上の布帛であることを特徴とする第1〜3の発明のいずれかに記載の透湿防水性布帛の製造方法である。
5.樹脂層が無孔質膜であり、透湿度がB−1法で18000g/m・24hrs以上、及び耐水圧が100kPa以上の布帛であることを特徴とする第1〜3の発明のいずれかに記載の透湿防水性布帛の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、織物基布を構成する繊維の相対粘度と無機微粒子の含有量、単糸繊度、マルチフィラメントの繊度、織物の組織を適切に調節することによって、ダル感を有し、薄地であるにも関わらず引裂き強力に優れた透湿防水性布帛の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の透湿防水性布帛は合成フィラメント糸から形成された織物基布に少なくとも1層のポリウレタン系重合体などから選ばれた樹脂層が設けられてなる透湿防水性布帛である。
【0009】
本発明で言う合成フィラメント糸とはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどのポリエステルからなるフィラメント糸、あるいは、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドなどのポリアミド、例えばナイロン6、ナイロン66からなるフィラメント糸、あるいは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなるフィラメント糸、アクリルやアクリレート系のフィラメント糸等の合成樹脂からなるフィラメント糸を意味する。布帛の風合いや引裂き強度からはナイロンフィラメント特にナイロン6が好ましく採用される。ポリエステルの場合では本発明の目的を損なわない程度の範囲内で他の第3成分を共重合してもよい。具体的にはアジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、イソフタル酸、5―ソジュームスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類、ビスフェノールAまたはそのエチレンオキサイド付加物、ヒドキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などを単独あるいは2種以上を組み合わて用いることができる。また本発明の目的を損なわない範囲で、さらにつや消し剤、抗酸化剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、制電剤、難燃剤などの添加物を配合しても良い。
【0010】
合成フィラメント糸が含有する無機微粒子としては特に限定はなく、いかなる無機微粒子をも使用することができる。添加する無機微粒子の種類は目的とする繊維によって異なるが、例えば紫外線遮蔽性繊維を得ることが目的である場合には、紫外線を反射または吸収する微粒子、すなわち紫外線を実質的に透過しない微粒子が用いられる。その代表例としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化ケイ素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、タルク、カオリン等の無機化合物および無機化合物の各種処理微粒子が挙げられ、これらの中から一種または二種以上を混合して使用することができる。より好ましくは、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナである。特に好ましくは二酸化チタンである。その添加量は表面のダル感を出すためには1wt%以上含有させることが望ましく、さらには2wt%以上が好ましいが、5wt%を超えると紡糸操業性が著しく悪化することや、繊維の強度が低下することなどから、好ましくは4wt%以下が良い。またこれ以外に、例えば鮮やかに着色された繊維を得ることを目的とする場合には、無機顔料が無機微粒子として用いられる。さらに導電性の繊維を得ることが目的の場合には、導電性金属酸化物や金属粉末などが無機微粒子として用いられ、磁性繊維を得ることを目的とする場合には、鉄、コバルト、ニッケル等の金属およびこれらの酸化物あるいはフェライトなどの磁性粉末が無機微粒子として用いられる。なお無機添加物の含有量はJIS L 1013(8.25灰分)に準じて測定して求めるが、無機添加物が酸化チタンの場合はJIS L 1013(8.26酸化チタン)に準じて測定することもできる。無機微粒子の平均粒子径は5μ以下、特に1μ以下が好ましい。粒子径が大きすぎると、紡糸時のフィルターでの詰まりや糸切れなどの問題を生じ、さらに延伸時にも糸切れが発生する。ここで言う平均粒子径とは、堀場製作所製粒度分布測定装置(CAPA−500)を用いて測定される値である。無機微粒子の形状は、多角形、針状、球状、立方体状、紡錘状、板状など限定することなく使用可能であるが、分散性および耐磨耗性の点から球状または紡錘状をしたもののほうが好ましい。
【0011】
織物基布を構成するフィラメント糸の繊度は50デシテックス以下である事が望ましい。50デシテックスを超えると布帛が厚くなり従来のものとの差が無くなってしまうため本発明の範囲外とする。布帛の風合いや軽さから好ましくは45デシテックス以下であり、さらには40デシテックス以下が一層好ましい。これにより透湿防水性布帛の厚みが0.15mm以下にすることができる。厚みの好ましい範囲としては0.13mm以下が軽さと柔らかさの点で良い。単糸繊度も風合いに大きく影響を与えるため好ましくは1.5デシテックス以下、さらには1.0デシテックス以下が一層好ましい。断面形状は丸、三角、四角などの多角形、偏平、中空、星、歯車型などどんな形状でも構わず、本発明において特に限定はない。
【0012】
透湿防水性布帛を構成する少なくとも一層の樹脂層に利用される樹脂は、ポリウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、シリコーン系、フッ素系ポリマーなどを主成分とする樹脂単独、あるいはこれらの混合物により構成され、無機微粒子、有機微粒子、特に高吸放湿吸湿発熱性を有する微粒子を一種以上配合して使用することも可能である。
【0013】
透湿防水性布帛の引裂き強力は経糸引裂き方向および緯糸引裂き方向ともに5N以上であることが望ましい。引裂き強力が5N未満では着用時に特にひじ部などの伸縮性が必要とされる部位での引裂かれが発生しやすいため、好ましくは7N以上、さらには10N以上が一層好ましい。布帛の厚みを増せば、つまり構成する繊維の繊度を増せば引裂き強力を向上させることはできるが、厚ぼったくなるため、使用する繊維の繊度は50デシテックス以下であることが好ましい。引裂き強力は高いほど良いが、30N程度を超えると、紡糸操業性の劣ったものとなりやすく、安定的には生産しづらくなるため、あまり好ましくない。
【0014】
ポリアミドフィラメントの相対粘度は2.8以上であることが好ましい。本発明では樹脂層を付与しても引裂き強力が著しく低下しない布帛とするためには、織物基布の組織よりもフィラメントの分子量、換言すれば相対粘度を大きくすることが重要であることを解明した。より好ましい範囲は3.0以上であるが、紡糸性から判断して5.0未満、さらには4.0未満であることが一層好ましい。
【0015】
本発明の透湿防水性布帛を構成する織物基布はシングルリップやダブルリップなどのリップストップ組織の織物であることが好ましい。太糸や引き揃え糸を数mm間隔で経緯に配置したリップストップ組織は引裂きに強く、特にパラグライダー等の軽くて引裂きが必要とされる分野で多用されているが、本発明で好ましく採用するリップストップ組織は経緯方向共に地糸が同口にて2〜3本引き揃えられてなる多糸挿入部を少なくとも6つ/2.54cm以上有するものが好ましく、特に2.54cm(=1インチ)間の多糸挿入部の数と単一の多糸挿入部に引き揃えられた糸本数とを乗じた糸挿入本数が20以上であることが好ましい。同口にて引き揃えられる糸本数が4本以上となると,引き揃えられた糸条同士が重なり合いやすくなって地組織部との間に段差(凹凸)が生じ,樹脂被覆処理後における多糸挿入部の樹脂被膜が薄くなり、耐久性に劣ったり剥離しやすくなってしまうためあまり好ましくない。2.54cm間の多糸挿入部の数と引き揃え糸本数とを乗じた糸挿入本数が20未満であると引裂き強力が5Nを満足しにくくなるため好ましくない。また、80を超えると生地風合いが硬くなってしまうため好ましくない。より好ましくは25以上70以下、一層好ましくは30以上60以下である。
【0016】
本発明において、繊維強度が同じ場合、基布の密度が増し、カバーファクターが高まるにつれて、引裂き強力が高まることを見出した。経糸引裂き方向と緯糸引裂き方向の引裂き強力のバランスを取るためには透湿防水性布帛を構成する織物基布の経糸と緯糸のカバーファクターの比が45:55〜60:40であることが好ましい。経糸のカバーファクター比が45%より低いと製織時の操業性が悪化することや、経糸引裂き方向の強力が5N未満となりやすく、60%を超えると緯糸引裂き方向の強力が5N未満となりやすい。より好ましくは47:53〜55:45であり、さらには50:50〜53:47が一層好ましい。なおカバーファクター(CF)とは単位面積間の糸断面の占める割合の程度を表す係数であって、式:{糸の繊度(デシテックス)}1/2×{織物密度(本/2.54cm)}で表され、カバーファクター値が高いと隙間が小さく、つまり緻密性が高いことを示す。
【0017】
経糸と緯糸のカバーファクターの合計は1500〜2200が好ましく、さらには1550〜2150、そして1600〜2100の間が一層好ましい。
本発明の透湿防水性布帛を構成する樹脂層が多孔質膜タイプの場合、透湿防水性布帛の透湿度は、JIS L−1099(A−1法)の測定法で6000g/m・24hr以上であることが好ましく、かつ耐水圧がJIS L−1092の測定法60kPa以上であることが好ましい。(A−1法)透湿度が6000g/m・24hr未満では、夏場の着用時に蒸れ感を感ずることになり、また、耐水圧が60kPa以下になると、十分な防水性能が得られず、雨中での着衣時に漏水することがあり、あまり好ましくない。より好ましくは(A−1法)透湿度は7000g/m・24hr以上、さらには8000g/m・24hr以上が一層好ましいが、あまり高すぎると耐水圧が低下しやすくなるため、15000g/m・24hr以下、さらに好ましくは14000g/m・24hr以下が好ましい。また、耐水圧についても高すぎると透湿性が低下しやすくなることから、好ましい範囲としては70kPaから160kPa、一層好ましくは80kPaから140kPaの範囲である。
【0018】
本発明の透湿防水性布帛を構成する樹脂層が無孔質膜タイプの場合、透湿度は、JIS L−1099(B−1法)の測定法で18,000g/m・24hr以上であり、かつ耐水圧がJIS L−1092の測定法60kPa以上の性能が必要である。(B−1法)透湿度が18,000g/m・24hr未満では、冬場の着用時に蒸れ感を感ずることになり、また、耐水圧が100kPa以下になると、十分な防水性能が得られず、雨中での着衣時に漏水することがある。好ましくは(B−1法)透湿度は20000g/m・24hr以上、さらには22000g/m・24hr以上が一層好ましいが、あまり高すぎると耐水圧が低下しやすくなるため、上限が60000g/m・24hr以下、さらに好ましくは40000g/m・24hr以下である。また耐水圧が高すぎると透湿性が低下しやすくなることから好ましい範囲としては120kPaから250kPa、一層好ましくは150kPaから210kPaの範囲である。
【0019】
本発明の透湿防水性布帛を製造する方法に特に限定はないが、好ましい態様として、酸化チタンを1wt%以上含有する相対粘度が2.7以下の固体のポリアミドレジンチップを減圧加熱して相対粘度2.8以上にし、ワンステップ紡糸法により総繊度30から50デシテックス、かつ単糸繊度が0.5から1.5デシテックスのマルチフィラメントを得て、高密度織物としたのち樹脂層を付与することを挙げることができる。樹脂層を付与する前の段階で一回又は複数回、片面又は両面にカレンダー加工して、耐水圧を高める工夫をしておくことも好ましい。酸化チタンを1wt%以上含有するポリアミドレジンを溶融状態で減圧加熱して重合度を高めることも可能であるが、溶融粘度が高くなりすぎ配管での詰まりが発生しやすくなるばかりでなく、特に相対粘度が2.7を超えるような高粘度においては酸化チタンの偏析が起こりやすいため品質が安定しないため好ましくない。固相重合法によりポリマー重合度を高めることがそれらの問題を最小限に抑える手段となる。紡糸方法においても紡糸工程と延伸工程をの2工程からなる2ステップ法と紡糸連続延伸法や超高速紡糸法などの1ステップ法の両方で製造することは可能であるが、酸化チタンを多く含有する繊維はガイド等との摩擦によりそれらを磨耗させてしまうため、できる限り紡糸工程はシンプルにするほうが良い。さらには延伸速度が遅い2ステップ紡糸法では、延伸ひずみが部分的に発生しやすく、例えば酸化チタンの存在割合が多い部分に集中してひずみが発生し糸切れが発生しやすくなるといった問題もあるため、1ステップ紡糸法が好ましく採用される。
【実施例】
【0020】
以下、具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例における各特性値は下記方法により測定した。
【0021】
無機微粒子の含有量:JIS L 1013に準じて測定した。
【0022】
繊度:JIS L 1013に準じ測定した。
【0023】
引裂き強力:JIS L−1096に記載されるペンジュラム法に準じて測定した。
【0024】
相対粘度:96.3±0.1wt%試薬特級濃硫酸中に重合体濃度が10mg/mlになるように試料を溶解させてサンプル溶液を調整し、20℃±0.05℃の温度で水落下秒数6から7秒のオストワルド粘度計を用い、溶液相対粘度を測定する。測定に際し、同一の粘度計を用い、サンプル溶液を調整したときと同じ硫酸20mlの落下時間T0(秒)と、サンプル溶液20mlの落下時間T1(秒)の比より相対粘度RVを下記の式を用いて算出する。
RV=T1/T0
【0025】
透湿度:
(A−1):JIS L−1099(A−1法)に準じて測定した。
(B−1):JIS L−1099(B−1法)に準じて測定した。
【0026】
耐水圧:JIS L−1092に準じて測定した。
【0027】
布帛厚み:透湿防水性布帛の厚みをJIS L−1096の厚さに準じて測定した。
【0028】
光沢感:目視により判定した。
【0029】
(実施例1)
酸化チタンを2wt%含有する相対粘度2.5のナイロン6樹脂を減圧加熱による固相重合法にて相対粘度を3.1にし、常法の紡糸連続延伸法にて強度4.7dN/dtex、伸度46%、沸水収縮率11.5%の44デシテックス、34フィラメントのナイロン6繊維を得た。該繊維を経糸及び緯糸に用い、ミニリップ組織(図1)にて製織し、常法により染色し、カレンダー加工した後、仕上げ加工を施した。得られた布帛のカバーファクター比は51:49であり、挿入本数は経43本、緯41本であった。この布帛にアサヒガードAG710(旭硝子株式会社製撥水剤)の6%溶液を織物に含浸させ、マングルで絞り、乾燥した後、160℃で30秒間熱処理した。この布帛に下記樹脂をナイフコーターにて樹脂を塗布し、これを水中に導き、2分間凝固させた後、55℃の湯で8分間洗浄し、乾燥させた。多孔質膜用に次ぎの樹脂組成を配合した。
酸化ケイ素含有エステル系ポリウレタン樹脂 75部
エーテル系ポリウレタン樹脂 35部
N,N‘−ジメチルホルムアミド 80部
HU−720P(吸放湿性微粒子:日本エクスラン工業(株)製) 10部
コロネートHL 3部
得られた布帛の生地面はダル感を有し、薄地にもかかわらず引裂き強力に優れた透湿防水性布帛であった。各物性を表1に示す。
【0030】
(実施例2)
繊維を構成する樹脂成分をナイロン66に変更し、ダブルリップ組織(図2)で織製後、乾式法にて下記樹脂の製膜を施し付与したことを除いて、実施例1とほぼ同様に作成した。
製膜条件:基布を公知の染色仕上げ加工を施した後、アサヒガードAG710(旭硝子株式会社製撥水剤)の6%溶液を織物に含浸させ、マングルで絞り、乾燥した後、160℃で30秒間熱処理した。一方離型紙上に下記樹脂をナイフコーターにて塗布し、エアオーブンを用いて100℃で乾燥し、無孔質膜を得た。接着性樹脂を用い前記布帛にラミネート法にて樹脂膜を付与した。
水膨潤性エステル系ポリウレタン樹脂 75部
水膨潤性エーテル系ポリウレタン樹脂 35部
N,N‘−ジメチルホルムアミド 80部
HU−720P(吸放湿性微粒子:日本エクスラン工業(株)製) 10部
コロネートHL 3部
得られた布帛はダル感を有し、薄地にもかかわらず引裂き強力に優れた透湿防水性布帛であった。各物性を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
相対粘度2.5のナイロン6レジンを紡糸連続延伸法にて78T34フィラメントを作成し、カバーファクター比を56:44にした以外は実施例1に従った。得られた布帛はダル感を有し、引裂き強力に優れた透湿防水性布帛であったが、経方向と緯方向の引裂き強力バランスが悪く、厚みは0.22mmと厚ぼったいものであった。各物性を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
相対粘度2.5のナイロン6レジンを公知のワンステップ紡糸法にてフィラメントを作成した以外は実施例1に従った。得られた布帛は薄く、またダル感を有してはいたが、引裂き強力に劣った透湿防水性布帛であった。各物性を表1に示す。
【0033】
(比較例3)
酸化チタンを0.3wt%含有するナイロン6レジンを公知のワンステップ紡糸法にて56T34フィラメントを作成し、平組織(図3)の織物を製織したことを除いて、実施例2に従って作成した。得られた布帛はダル感を有さず、引裂き強力に劣ったやや厚ぼったい透湿防水性布帛であった。各物性を表1に示す。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、織物基布の繊維を構成するポリアミドの相対粘度と無機微粒子の含有量、単糸繊度、マルチフィラメントの繊度、織物の組織を適切に調節することによって、ダル感を有し、薄地であるにも関わらず引裂き強力に優れた透湿防水性布帛の製造方法の提供が可能となった。本発明で得られる透湿防水性布帛は、ウインドブレーカー等のスポーツ衣料用途等として好適に使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】リップストップ組織の一態様であるミニリップ組織を表す組織図である。
【図2】リップストップ組織の他の一態様であるダブルリップ組織を表す組織図である。
【図3】平組織を表す組織図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが0.15mm以下で、経糸引裂き方向及び緯糸引裂き方向の引裂き強力が10N以上の透湿防水性布帛を製造する方法であって、
透湿防水性布帛を製造する工程が、(i)酸化チタンを1wt%以上含有し、相対粘度が2.7以下の固体のポリアミドレジンチップを減圧加熱して相対粘度2.8以上にし、ワンステップ紡糸法により総繊度30〜45デシテックス、かつ単糸繊度0.5〜1.5デシテックスのマルチフィラメント糸を製造する工程、(ii)リップストップ組織からなる織物基布を製織する工程、(iii)該織物に少なくとも一層の樹脂層を設ける工程、を含むことを特徴とする透湿防水性布帛の製造方法。
【請求項2】
リップストップ組織が、経方向及び緯方向の複数糸挿入部の糸挿入本数がそれぞれ20〜80本/2.54cm以上であることを特徴とする請求項1記載の透湿防水性布帛の製造方法。
【請求項3】
織物基布の経糸と緯糸のカバーファクターの合計が1500〜2200であり、かつそれらの比(経糸/緯糸)が45:55〜60:40であることを特徴とする請求項1または2に記載の透湿防水性布帛の製造方法。
【請求項4】
樹脂層が多孔質膜であり、透湿度がA−1法で6000g/m・24hrs以上、及び耐水圧が60kPa以上の布帛であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透湿防水性布帛の製造方法。
【請求項5】
樹脂層が無孔質膜であり、透湿度がB−1法で18000g/m・24hrs以上、及び耐水圧が100kPa以上の布帛であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透湿防水性布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−2056(P2008−2056A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246702(P2007−246702)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【分割の表示】特願2003−402518(P2003−402518)の分割
【原出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】