透過電子顕微鏡用試料作製方法及び透過電子顕微鏡用試料片
【課題】透過電子顕微鏡用試料作製方法の生産性を向上させる。
【解決手段】透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面Wb1と、微小ピンセット50によって仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部Wb2とを有する透過電子顕微鏡用試料片Wbを作製する方法であって、試料本体Waから、試料本体と連結部で連結された該試料片を、荷電粒子ビームで切り出す第1の工程と、第1の工程で切り出した該試料片の仕上げ面を微小ピンセットで覆い隠しながら、該試料片の把持部を微小ピンセットで把持する第2の工程と、第2の工程において微小ピンセットで把持した該試料片を、該試料片の把持状態を維持しながら荷電粒子ビームで連結部を切断することによって試料本体から切り離す第3の工程と、第3の工程で切り離した該試料片を、微小ピンセットで試料ホルダに搬送して固定する第4の工程とを備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法を提供すること。
【解決手段】透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面Wb1と、微小ピンセット50によって仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部Wb2とを有する透過電子顕微鏡用試料片Wbを作製する方法であって、試料本体Waから、試料本体と連結部で連結された該試料片を、荷電粒子ビームで切り出す第1の工程と、第1の工程で切り出した該試料片の仕上げ面を微小ピンセットで覆い隠しながら、該試料片の把持部を微小ピンセットで把持する第2の工程と、第2の工程において微小ピンセットで把持した該試料片を、該試料片の把持状態を維持しながら荷電粒子ビームで連結部を切断することによって試料本体から切り離す第3の工程と、第3の工程で切り離した該試料片を、微小ピンセットで試料ホルダに搬送して固定する第4の工程とを備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法を提供すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法及びこの作製方法の結果として得られる透過電子顕微鏡用試料片に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による試料の観察のために、荷電粒子ビームの一種である集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置を用いて透過電子顕微鏡用試料片(以下、単に試料片と呼ぶ)が作製されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来の集束イオンビーム装置を用いた試料作製方法において、試料片は、まず、集束イオンビームで元となる試料本体から切り出され、集束イオンビーム装置に具備されている把持手段により把持された上で、試料本体と切り離される。そして、把持手段に把持されたまま試料ホルダまで搬送された後そこへ固定され、試料ホルダ上で透過電子顕微鏡にて観察可能な仕上げ面を得るように、仕上げ加工される。
【0004】
また、前述した試料作製方法において、集束イオンビームは試料を加工するためだけでなく、加工途中の試料を観察するためにも用いられる。すなわち、集束イオンビーム装置内に具備されている検出器により、集束イオンビームを試料に照射した際に発生する二次荷電粒子を検出する。そして、この検出した二次荷電粒子を輝度信号等に変換することで、集束イオンビーム装置に具備されている表示部に試料像を表示させる。
【特許文献1】特開2006−120391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のある透過電子顕微鏡用試料作製方法では、試料本体に試料片が連結された状態で仕上げ面を加工することができない点で問題があった。すなわち、試料本体に試料片が連結された状態で仕上げ面の加工を行うと、試料片と試料本体を切り離す際の荷電粒子ビームの影響により、試料片の表面にコンタミネーションが発生してしまう。多量のコンタミネーションが発生した試料片は、そのまま透過電子顕微鏡で観察すると観察像質に悪影響を与えてしまうため、試料本体に試料片が連結された状態で透過電子顕微鏡によって観察可能な仕上げ面を加工することは困難であった。
【0006】
このため、従来方法においては、試料本体に試料片が連結された状態で仕上げ面を加工する前段階の荒加工のみがなされ、仕上げ面の加工は試料片を試料ホルダに固定した後に行われていた。即ち、試料ホルダに固定してから再度荷電粒子ビームで仕上げ面の加工を行うため、生産性が悪かった。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、生産性を向上させた透過電子顕微鏡用試料作製方法及び透過電子顕微鏡用試料片を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、前記試料本体との連結部を残したまま、前記透過電子顕微鏡用試料片を前記試料本体から前記荷電粒子ビームで切り出す第1の工程と、該第1の工程で切り出した前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記透過電子顕微鏡用試料片を、該透過電子顕微鏡用試料片の把持状態を維持しながら前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離す第3の工程と、該第3の工程で切り離した前記透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程とを備えることを特徴としている。
なお、微小ピンセットとは、荷電粒子ビーム装置に内設されている制御部によって制御され、前記荷電粒子ビーム装置内で透過電子顕微鏡用試料片を把持すること、覆い隠すこと、及び搬送することなどが可能な手段を指す。
【0009】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、第2の工程で透過電子顕微鏡用試料片の仕上げ面を覆い隠すので、第3の工程で連結部を切断する際に荷電粒子ビームによる仕上げ面へのコンタミネーションを防止できる。これにより、透過電子顕微鏡用試料片が試料本体に連結された状態で仕上げ面を加工ができるようになるため、透過電子顕微鏡用試料片作製における生産性を向上させることが可能となる。
【0010】
また、前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部の厚さを前記仕上げ面の厚さよりも厚く加工することが好ましい。
【0011】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、把持部は仕上げ面より厚みを持っているので、第2の工程で把持部を把持した際に微小ピンセットが仕上げ面に接触することがない。これにより、微小ピンセットによって仕上げ面を覆い隠しながら透過電子顕微鏡用試料片を把持しても、仕上げ面を損傷させることがない。
【0012】
また、前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を切り出した後に前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を加工することが好ましい。
【0013】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、第1の工程で把持部を加工した後に仕上げ面を加工するので、仕上げ面が荷電粒子ビームに放射される時間を短くすることができる。これにより、仕上げ面のコンタミネーションを抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明は、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する試料作製方法であって、前記荷電粒子ビームを用いて試料本体をエッチングすることにより、前記把持部と仕上げ面とを有する薄片部を、前記試料本体との連結部を残したまま形成する第1の工程と、該第1の工程で形成した前記薄片部の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記薄片部を、該薄片部の把持状態を維持しながら、前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離し透過電子顕微鏡用試料片とする第3の工程と、該第3の工程で切り離した透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程とを備えることを特徴としている。
【0015】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、第2の工程で薄片部の仕上げ面を覆い隠すので、第3の工程で連結部を切断する際に荷電粒子ビームによる仕上げ面へのコンタミネーションを防止できる。これにより、透過電子顕微鏡用試料片が試料本体に連結された状態で仕上げ面を加工ができるようになるため、透過電子顕微鏡用試料片作製における生産性を向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、試料本体から切り離されて透過電子顕微鏡による観察対象物として供される透過電子顕微鏡用試料片であって、前記試料本体から切り離される時点で加工されている、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、該仕上げ面の厚さよりも厚く設定された把持部とを備えることを特徴としている。
【0017】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料片によれば、前記請求項2と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の荷電粒子ビームを用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法及びこの作製方法の結果として得られる試料片によれば、荷電粒子ビームを照射して試料片を試料本体から切り離す際に、試料片の仕上げ面を荷電粒子ビームから覆い隠すことで、試料本体に連結された状態で仕上げ面を加工できる。従って、試料片を試料ホルダに固定した後、仕上げ面を再加工する必要が無いため、生産性を向上させた透過電子顕微鏡用試料作製方法及び透過電子顕微鏡用試料片を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法を説明する前に、当該方法の実施に直接使用する荷電粒子ビーム装置について説明する。図1は、荷電粒子ビーム装置100の概略斜視図である。図2は、荷電粒子ビーム装置100の概略断面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、荷電粒子ビーム装置100は、真空室10と、イオンビーム照射系20と、電子ビーム照射系30と、アルゴンイオンビーム照射系40と、ナノピンセット50(微小ピンセット)と、試料ステージ60と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80とを備えている。真空室10は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、上記の各構成品はそれらの一部又は全部が真空室10内に配置されている。
【0021】
イオンビーム照射系20は、イオンを発生させるイオン源21と、イオン源21から流出したイオンを集束イオンビームに成形するとともに走査させるイオン光学系22とを備えている。イオンビーム鏡筒23を備えたイオンビーム照射系20から、真空室10内に配置された試料ステージ60上の試料本体Waに対して荷電粒子ビームであるイオンビーム20Aが照射される。このとき、試料本体Waからは二次イオンや二次電子等の二次荷電粒子が発生する。この二次荷電粒子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料本体Waの像が取得される。また、イオンビーム照射系20は、イオンビーム20Aの強度を増すことで、照射範囲の試料本体Waをエッチング加工することも可能である。
【0022】
イオン光学系22は、例えば、イオンビーム20Aを集束するコンデンサーレンズと、イオンビーム20Aを絞り込む絞りと、イオンビーム20Aの光軸を調整するアライナと、イオンビーム20Aを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビーム20Aを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0023】
電子ビーム照射系30は、電子を放出する電子源31と、電子源31から放出された電子をビーム状に成形するとともに走査する電子光学系32とを備えている。電子ビーム照射系30から射出される電子ビーム30Aを試料本体Waに照射することによって、試料本体Waからは二次電子が発生するが、この発生した二次電子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料本体Waの像を取得する。ここで、電子ビーム鏡筒33から射出される電子ビーム30Aは、イオンビーム20Aと同一位置の試料本体Wa上に照射する。なお、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法では、電子ビーム照射系30を備えていない荷電粒子ビーム装置を用いてもかまわない。
【0024】
アルゴンイオンビーム照射系40は、イオンビーム照射系20と同様に、アルゴンイオン源41と、アルゴンイオン光学系42と、アルゴンイオンビーム鏡筒43とを備えている上に、アルゴンイオンビームの照射位置を制御するビーム位置制御手段44を備えている。アルゴンイオンビーム照射系40からは、後述する試料片(透過電子顕微鏡用試料片)Wbの仕上げ面Wb1をクリーニングするためのアルゴンイオンビームが、ビーム位置制御手段44によって位置を制御されて照射される。なお、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法では、アルゴンイオンビーム照射系40を備えていない荷電粒子ビーム装置を用いてもかまわない。
【0025】
試料ステージ60は、試料台61を移動可能に支持している。試料台61上には試料本体Wa(例えば半導体ウエハ等)と、試料本体Waより作製される試料片Wbを固定するための試料ホルダ62とが固定されている。そして、試料ステージ60は、試料台61を5軸で変位させることができる。すなわち、試料台61を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構60bと、試料台61をZ軸回りに回転させるローテーション機構60cと、試料台61をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構60aとを備えて構成されている。試料ステージ60は、試料台61を5軸に変位させることで、試料本体Waの特定位置をイオンビーム20Aによって照射される位置に移動するようになっている。
【0026】
真空室10は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、真空室10内には試料台61と、ナノピンセット50と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80とが設けられている。
【0027】
ナノピンセット50は、ピンセットホルダ52に支持されている。ピンセットホルダ52は、ピンセットステージ51によりナノピンセット50を5軸で変位させることができる。すなわち、ピンセットホルダ52を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構51bと、ピンセットホルダ52をZ軸回りに回転させるローテーション機構51cと、ピンセットホルダ52をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構51aとを備えて構成されている。また、ナノピンセット50は、ナノピンセット50の挟持を実施させるための挟持機構53により、先端部を開閉可能に稼動させることができる。
【0028】
二次荷電粒子検出器70は、イオンビーム照射系20又は電子ビーム照射系30から試料本体Waへイオンビーム20A又は電子ビーム30Aが照射された際に、試料本体Waから発せられる二次電子や二次イオンを検出する。
【0029】
ガス銃80は、試料本体Waへエッチングガス等の所定のガスを放出する。そして、ガス銃80からエッチングガスを供給しながら試料本体Waにイオンビーム20Aを照射することで、イオンビーム20Aによる試料のエッチング速度を高めることができる。
【0030】
また、荷電粒子ビーム装置100は、当該装置を構成する各部を制御する制御部90を備えている。制御部90は、イオンビーム照射系20、電子ビーム照射系30、アルゴンイオンビーム照射系40、ナノピンセット50、二次荷電粒子検出器70、及び試料ステージ60と接続されている。また、二次荷電粒子検出器70から検出される信号に基づき取得される試料映像を表示する表示装置91を備えている。
【0031】
制御部90は、荷電粒子ビーム装置100を総合的に制御するとともに、二次荷電粒子検出器70で検出された二次荷電粒子を輝度信号に変換して画像データを生成し、この画像データを基に画像を形成して表示装置91に出力している。これにより表示装置91は、上述したように試料の観察画像や参考画像を表示できるようになっている。
【0032】
また制御部90は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動し、試料本体Waの位置や姿勢を調整する。これにより、試料表面におけるイオンビーム20Aの照射位置や照射角度を調整できるようになっている。例えば、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系30との切替操作に連動して試料ステージ60を駆動し、試料本体Waを移動させたり、傾けたりすることができるようになっている。
【0033】
また制御部90は、試料ステージ60と同様に、ピンセットステージ51及び挟持機構53を駆動し、ナノピンセット50の位置や姿勢を調整する。これにより、ナノピンセット50の把持位置や把持角度や把持タイミングを調整できるようになっている。
【0034】
次に、上記荷電粒子ビーム装置100を用いた本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法について説明する。図3は、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法の実施形態における作業順序を示すフローチャートである。図4は、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法の実施形態で作製する試料片Wbの斜視図である。図3に示す作業順序で試料本体Waを加工すると、図4に示す試料片Wbを作製することができる。本発明で作製する試料片Wbは、例えば、長手方向の長さが3〜5μm、厚さが0.08μmの矩形の仕上げ面Wb1と、当該仕上げ面Wb1の一辺を除く三辺に接し、厚さが0.2〜0.5μmの把持部Wb2とで構成されている。把持部Wb2は、仕上げ面Wb1と略平行な面である一対の第1の側面Wb3、Wb4と、該側面と隣接する側面である一対の第2の側面Wb5、Wb6とを備えており、例えば、第1の側面Wb3の長手方向の長さが10〜12μmとする。また、仕上げ面Wb1は、把持部Wb2に対して段部を形成するように、一対の第1の側面Wb3及びWb4に挟まれた位置に、当該側面に略平行に設けられている。なお、試料片の寸法は、図4に示した試料片Wbの寸法に限らない。また、以降に示す図面における試料片Wbは、説明をより平易にするため、図4に示した試料片Wbにおける仕上げ面Wb1と把持部Wb2との厚みの差をより極端に示す。
【0035】
図5は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の試料作製前の概略斜視図である。図6は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第1の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第1の工程として、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を5軸に駆動させながら、イオンビーム照射系20によって試料本体Waの試料片Wbとする部分の両側にある略矩形の加工部Wcをエッチング穴掘り加工し、薄片部Wb0を形成する。以下に詳細を説明する。
【0036】
図7〜図10は、荷電粒子ビーム装置100を用いて加工した試料本体Waの矩形の加工部Wc1を加工して薄片部Wb0を形成する第1の工程の過程の斜視図である。第1の工程についてより具体的に説明すると、まず、図7に示すように、薄片部Wb0の一対の第1の側面Wb3、Wb4を切り出すために、当該側面と平行な方向にイオンビーム20Aを照射して加工部Wc1の一端から当該側面まで徐々に深くなるように、エッチング穴掘り加工する。
【0037】
続いて、図8に示すように、制御部90は、薄片部Wb0の第2の側面の一方である側面Wb5、Wb0底部、及び薄片部Wb0の第2の側面の他方であるWb6を、試料片Wbと試料本体Waと連結する連結部Wc4を残して切り出すために、試料本体Waと薄片部Wb0側部との連結部、試料本体Waと薄片部Wb0底部との連結部、及び試料本体Waと薄片部Wb0側部との他方の連結部の一部に加工部Wc2を設定する。この加工部Wc2に、イオンビーム20Aを照射してエッチング加工することにより、連結部を切断する。このWc2の加工は、試料台61をチルトし試料を傾斜してイオンビームを照射して行なう。
【0038】
最後に、試料台を水平にもどし、図9に示すように、制御部90は、薄片部Wb0の中央部両側をエッチングしてさらに薄くして仕上げ面Wb1を切り出すために、薄片部Wb0の一対の第1の側面Wb3、Wb4から仕上げ面Wb1まで矩形の加工部Wc3を薄片部上面両側に2箇所設定する。この加工部Wc3に上方よりイオンビームを走査して除去加工し、仕上げ面Wb1を薄片部両側に形成する。
【0039】
第1の工程を実施すると、図10に示すように、制御部90は、試料本体Waの加工部Wcにおいて、加工部Wc1からWc3をエッチング加工することにより、溝堀薄片化、切断および仕上げの薄片化加工をすることにより、仕上げ面Wb1及び仕上げ面Wb1より厚みのある把持部Wb2を有する試料片Wbと、試料片Wbを試料本体Waと連結する連結部Wc4とを切り出す。連結部Wc4は、試料片Wbの第2の側面の一方である側面Wb6と試料本体Waとを連結する。なお、第1の工程の加工部Wc2とWc3の加工順序は特に制限は無い。しかし、仕上げ面Wb1を切り出す加工部Wc3の除去加工は、他の加工部の加工中に仕上げ面Wb1へのイオンビーム20Aによる影響を極力小さくするために、第1の工程において最後であることが好ましい。
【0040】
図11は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第2の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第2の工程として、把持部材であるナノピンセット50を移動させて挟持させることで、第1の工程で切り出した試料片Wbの仕上げ面Wb1をナノピンセット50で覆い隠しながら、試料片Wbの肉厚部である把持部Wb2をナノピンセット50で挟持する。
【0041】
図12は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Waの加工部Wc周辺の第2の工程終了時の斜視図である。第2の工程についてより具体的に説明すると、まず、制御部90は、ピンセットステージ51のXYZ移動機構51b、ローテーション機構51c及びチルト機構51aを駆動させることによって、第1の工程において加工部Wc2を切断加工した方向からナノピンセット50を試料片Wbへ進入させて、試料片Wbの仕上げ面Wb1を覆い隠す。続いて、制御部90は、ナノピンセット50の挟持機構53を駆動させることによって、試料片Wbの把持部Wb2を挟持する。把持部Wb2は、仕上げ面Wb1が形成された薄片部に比べて両側に肉厚にできているので、ナノピンセット50は、仕上げ面Wb1に接触することはない。よって、仕上げ面Wb1を損傷することはない。
【0042】
図13は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第3の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第3の工程として、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動させて試料を所定位置に配置した後、イオンビーム照射系20によってイオンビームを走査させることにより連結部Wc4を切断させ、第2の工程においてナノピンセット50で挟持した試料片Wbを試料本体Waから切り離す。
【0043】
図14は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Waの加工部Wc周辺の第3の工程終了時の斜視図である。第3の工程についてより具体的に説明すると、図12において、制御部90は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動させて試料を所定位置に配置した後、イオンビーム照射系20によってイオンビームを走査することにより、試料片Wbと試料本体Waとを連結する連結部Wc4に切り込み加工を施し切断し切り離す。この際、連結部Wc4はイオンビームを照射し切り込み加工を入れ切断するが、この時試料片Wb1はナノピンセット50により挟持され、仕上げ面Wb1はナノピンセット50により覆い隠されているためイオンビームによるダメージを受けにくく、またイオンビームエッチングによる再付着を低減することができる。
【0044】
図15は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第4の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第4の工程として、ナノピンセット50を移動させることで、ナノピンセット50が挟持した試料片Wbを所定の試料ホルダ62に搬送して固定する。
【0045】
図16は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Waの加工部Wc周辺の第4の工程終了時の斜視図である。第4の工程についてより具体的に説明すると、制御部90は、ピンセットステージ51のXYZ移動機構51b、ローテーション機構51c及びチルト機構51aを駆動させることによって試料片Wbを挟持したナノピンセット50を試料ホルダ62上の所定の位置に移動させ、挟持機構53を駆動させることで試料ホルダ62上に試料片Wbを固定する。
【0046】
図17は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の試料固定後の概略斜視図である。制御部90は、ナノピンセット50を原点に戻すことで試料作製の一連の工程を終了する。なお、ナノピンセット50は必ずしも原点に戻さなくてもかまわない。また、必要に応じてアルゴンイオンビーム照射系40によるアルゴンイオンビームによって試料片Wbの表面をクリーニングしてもかまわない。
【0047】
以上によれば、第2の工程において、試料片Wbの仕上げ面Wb1がナノピンセット50により覆い隠すので、第3の工程において試料片Wbと試料本体Waとを連結する連結部Wc4を、イオンビーム20Aの照射によりエッチングして切断加工する時に、イオンビーム20Aによって仕上げ面Wb1にコンタミネーションが発生することはない。またエッチングした時に発生する粒子が付着することもない。
【0048】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0049】
例えば、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製する試料片は、図4に示した形状に限らない。図18は、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製可能な試料片の斜視図である。図4に示した試料片Wbと異なる点は、図18に示した試料片の仕上げ面Wb11が試料片の側面を上下方向に縦断している点である。図18に示した試料片において、ナノピンセット50により仕上げ面Wb11の上部を覆い隠しながら仕上げ面Wb11より厚みのある把持部Wb12を把持することで、当該仕上げ面Wb11の上部にはコンタミネーションが発生しない。また、仕上げ面Wb11にナノピンセットが接触することがないので、仕上げ面Wb11を損傷することもない。したがって、図18に示した形状の試料片においても、試料本体Waに試料片が連結された状態で仕上げ面Wb11の加工が可能である。このように、仕上げ面よりも厚い把持部を具備していれば、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製する試料片の形状には制限がない。
【0050】
また、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製する試料片は、仕上げ面のより厚い把持部を有していなくても、ナノピンセット50が仕上げ面の観察する部分に直接触れなければかまわない。例えば、ナノピンセット50に凹部を設けて、ナノピンセット50が試料片を挟持した際、仕上げ面の観察する部分をナノピンセット50の凹部に収める方法や、仕上げ面を覆い隠す機構を別途有するナノピンセット50を用いて、仕上げ面を覆い隠すことと把持部を把持することを別機構で並行して行う方法などがある。しかし、いずれの方法も仕上げ面の観察部を正確に覆い隠すために時間がかかるため、仕上げ面の周りに厚みのある把持部を設けることが好ましい。
【0051】
また、第1の工程で説明した加工部Wc1からWc3の形状はこれらに限らず、試料片Wbとなる部分が把持できればかまわない。例えば、加工部Wc1の切断加工の深さは、ナノピンセット50によって試料片Wbの仕上げ面Wb1が覆い隠されて、試料片Wbの把持部Wb2が把持可能な深さであれば特に制限はない。
【0052】
また、第2の工程でナノピンセット50は加工部Wc2を切断加工した方向から進入させなくてもかまわない(例えば、試料片Wbとなる部分の真上からや、試料片Wbにおいて加工部Wc2の反対方向から進入させるなど)。しかし、第3の工程でナノピンセット50が進入することよって連結部Wc4がイオンビーム20Aから覆い隠された場合は、試料ステージ60による試料本体Waの位置調整を繰り返しながら連結部Wc4を切断加工するために生産性が悪化する。したがって、加工部Wc2を切断加工した方向から進入させることが好ましい。
【0053】
また、連結部は必ずしも本実施形態に示したWc4のような形状でなくても、試料片Wbが試料本体Waに連結された状態で、ナノピンセット50の位置決めが行うことができれば制限は無い。例えば、連結部が試料片Wbと試料本体Waを一面でしか連結していなくてもかまわないし、面全体を試料本体Waと連結するのではなく、一部分を連結しているだけでもかまわない。連結部の形状の変更は、第1の工程において加工部Wc2の形状を変更することで対応可能である。
【0054】
また、ナノピンセット50による把持方法は挟持機構53による挟持に限らず、例えば、ナノピンセット50の材質、形状などを試料本体Waの部材に対応させて、物理吸着による把持をしてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態の作業順序を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態で作製する試料片の斜視図である。
【図5】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の試料作製前の概略斜視図である。
【図6】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第1の工程終了時の概略斜視図である。
【図7】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図9】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図10】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図11】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第2の工程終了時の概略斜視図である。
【図12】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料の加工部周辺の第2の工程終了時の斜視図である。
【図13】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第3の工程終了時の概略斜視図である。
【図14】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料の加工部周辺の第3の工程終了時の斜視図である。
【図15】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第4の工程終了時の概略斜視図である。
【図16】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料の加工部周辺の第4の工程終了時の斜視図である。
【図17】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の試料固定後の概略斜視図である。
【図18】本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製可能な試料片の斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
20A イオンビーム(荷電粒子ビーム)
50 ナノピンセット(微小ピンセット)
62 試料ホルダ
Wa 試料本体
Wb 試料片(透過電子顕微鏡用試料片)
Wb0 薄片部
Wb1、Wb11 仕上げ面
Wb2、Wb12 把持部
Wc4 連結部
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法及びこの作製方法の結果として得られる透過電子顕微鏡用試料片に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による試料の観察のために、荷電粒子ビームの一種である集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置を用いて透過電子顕微鏡用試料片(以下、単に試料片と呼ぶ)が作製されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来の集束イオンビーム装置を用いた試料作製方法において、試料片は、まず、集束イオンビームで元となる試料本体から切り出され、集束イオンビーム装置に具備されている把持手段により把持された上で、試料本体と切り離される。そして、把持手段に把持されたまま試料ホルダまで搬送された後そこへ固定され、試料ホルダ上で透過電子顕微鏡にて観察可能な仕上げ面を得るように、仕上げ加工される。
【0004】
また、前述した試料作製方法において、集束イオンビームは試料を加工するためだけでなく、加工途中の試料を観察するためにも用いられる。すなわち、集束イオンビーム装置内に具備されている検出器により、集束イオンビームを試料に照射した際に発生する二次荷電粒子を検出する。そして、この検出した二次荷電粒子を輝度信号等に変換することで、集束イオンビーム装置に具備されている表示部に試料像を表示させる。
【特許文献1】特開2006−120391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のある透過電子顕微鏡用試料作製方法では、試料本体に試料片が連結された状態で仕上げ面を加工することができない点で問題があった。すなわち、試料本体に試料片が連結された状態で仕上げ面の加工を行うと、試料片と試料本体を切り離す際の荷電粒子ビームの影響により、試料片の表面にコンタミネーションが発生してしまう。多量のコンタミネーションが発生した試料片は、そのまま透過電子顕微鏡で観察すると観察像質に悪影響を与えてしまうため、試料本体に試料片が連結された状態で透過電子顕微鏡によって観察可能な仕上げ面を加工することは困難であった。
【0006】
このため、従来方法においては、試料本体に試料片が連結された状態で仕上げ面を加工する前段階の荒加工のみがなされ、仕上げ面の加工は試料片を試料ホルダに固定した後に行われていた。即ち、試料ホルダに固定してから再度荷電粒子ビームで仕上げ面の加工を行うため、生産性が悪かった。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、生産性を向上させた透過電子顕微鏡用試料作製方法及び透過電子顕微鏡用試料片を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、前記試料本体との連結部を残したまま、前記透過電子顕微鏡用試料片を前記試料本体から前記荷電粒子ビームで切り出す第1の工程と、該第1の工程で切り出した前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記透過電子顕微鏡用試料片を、該透過電子顕微鏡用試料片の把持状態を維持しながら前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離す第3の工程と、該第3の工程で切り離した前記透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程とを備えることを特徴としている。
なお、微小ピンセットとは、荷電粒子ビーム装置に内設されている制御部によって制御され、前記荷電粒子ビーム装置内で透過電子顕微鏡用試料片を把持すること、覆い隠すこと、及び搬送することなどが可能な手段を指す。
【0009】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、第2の工程で透過電子顕微鏡用試料片の仕上げ面を覆い隠すので、第3の工程で連結部を切断する際に荷電粒子ビームによる仕上げ面へのコンタミネーションを防止できる。これにより、透過電子顕微鏡用試料片が試料本体に連結された状態で仕上げ面を加工ができるようになるため、透過電子顕微鏡用試料片作製における生産性を向上させることが可能となる。
【0010】
また、前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部の厚さを前記仕上げ面の厚さよりも厚く加工することが好ましい。
【0011】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、把持部は仕上げ面より厚みを持っているので、第2の工程で把持部を把持した際に微小ピンセットが仕上げ面に接触することがない。これにより、微小ピンセットによって仕上げ面を覆い隠しながら透過電子顕微鏡用試料片を把持しても、仕上げ面を損傷させることがない。
【0012】
また、前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を切り出した後に前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を加工することが好ましい。
【0013】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、第1の工程で把持部を加工した後に仕上げ面を加工するので、仕上げ面が荷電粒子ビームに放射される時間を短くすることができる。これにより、仕上げ面のコンタミネーションを抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明は、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する試料作製方法であって、前記荷電粒子ビームを用いて試料本体をエッチングすることにより、前記把持部と仕上げ面とを有する薄片部を、前記試料本体との連結部を残したまま形成する第1の工程と、該第1の工程で形成した前記薄片部の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記薄片部を、該薄片部の把持状態を維持しながら、前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離し透過電子顕微鏡用試料片とする第3の工程と、該第3の工程で切り離した透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程とを備えることを特徴としている。
【0015】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料作製方法によれば、第2の工程で薄片部の仕上げ面を覆い隠すので、第3の工程で連結部を切断する際に荷電粒子ビームによる仕上げ面へのコンタミネーションを防止できる。これにより、透過電子顕微鏡用試料片が試料本体に連結された状態で仕上げ面を加工ができるようになるため、透過電子顕微鏡用試料片作製における生産性を向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明は、試料本体から切り離されて透過電子顕微鏡による観察対象物として供される透過電子顕微鏡用試料片であって、前記試料本体から切り離される時点で加工されている、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、該仕上げ面の厚さよりも厚く設定された把持部とを備えることを特徴としている。
【0017】
この発明に係る透過電子顕微鏡用試料片によれば、前記請求項2と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の荷電粒子ビームを用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法及びこの作製方法の結果として得られる試料片によれば、荷電粒子ビームを照射して試料片を試料本体から切り離す際に、試料片の仕上げ面を荷電粒子ビームから覆い隠すことで、試料本体に連結された状態で仕上げ面を加工できる。従って、試料片を試料ホルダに固定した後、仕上げ面を再加工する必要が無いため、生産性を向上させた透過電子顕微鏡用試料作製方法及び透過電子顕微鏡用試料片を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法を説明する前に、当該方法の実施に直接使用する荷電粒子ビーム装置について説明する。図1は、荷電粒子ビーム装置100の概略斜視図である。図2は、荷電粒子ビーム装置100の概略断面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、荷電粒子ビーム装置100は、真空室10と、イオンビーム照射系20と、電子ビーム照射系30と、アルゴンイオンビーム照射系40と、ナノピンセット50(微小ピンセット)と、試料ステージ60と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80とを備えている。真空室10は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、上記の各構成品はそれらの一部又は全部が真空室10内に配置されている。
【0021】
イオンビーム照射系20は、イオンを発生させるイオン源21と、イオン源21から流出したイオンを集束イオンビームに成形するとともに走査させるイオン光学系22とを備えている。イオンビーム鏡筒23を備えたイオンビーム照射系20から、真空室10内に配置された試料ステージ60上の試料本体Waに対して荷電粒子ビームであるイオンビーム20Aが照射される。このとき、試料本体Waからは二次イオンや二次電子等の二次荷電粒子が発生する。この二次荷電粒子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料本体Waの像が取得される。また、イオンビーム照射系20は、イオンビーム20Aの強度を増すことで、照射範囲の試料本体Waをエッチング加工することも可能である。
【0022】
イオン光学系22は、例えば、イオンビーム20Aを集束するコンデンサーレンズと、イオンビーム20Aを絞り込む絞りと、イオンビーム20Aの光軸を調整するアライナと、イオンビーム20Aを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビーム20Aを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0023】
電子ビーム照射系30は、電子を放出する電子源31と、電子源31から放出された電子をビーム状に成形するとともに走査する電子光学系32とを備えている。電子ビーム照射系30から射出される電子ビーム30Aを試料本体Waに照射することによって、試料本体Waからは二次電子が発生するが、この発生した二次電子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料本体Waの像を取得する。ここで、電子ビーム鏡筒33から射出される電子ビーム30Aは、イオンビーム20Aと同一位置の試料本体Wa上に照射する。なお、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法では、電子ビーム照射系30を備えていない荷電粒子ビーム装置を用いてもかまわない。
【0024】
アルゴンイオンビーム照射系40は、イオンビーム照射系20と同様に、アルゴンイオン源41と、アルゴンイオン光学系42と、アルゴンイオンビーム鏡筒43とを備えている上に、アルゴンイオンビームの照射位置を制御するビーム位置制御手段44を備えている。アルゴンイオンビーム照射系40からは、後述する試料片(透過電子顕微鏡用試料片)Wbの仕上げ面Wb1をクリーニングするためのアルゴンイオンビームが、ビーム位置制御手段44によって位置を制御されて照射される。なお、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法では、アルゴンイオンビーム照射系40を備えていない荷電粒子ビーム装置を用いてもかまわない。
【0025】
試料ステージ60は、試料台61を移動可能に支持している。試料台61上には試料本体Wa(例えば半導体ウエハ等)と、試料本体Waより作製される試料片Wbを固定するための試料ホルダ62とが固定されている。そして、試料ステージ60は、試料台61を5軸で変位させることができる。すなわち、試料台61を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構60bと、試料台61をZ軸回りに回転させるローテーション機構60cと、試料台61をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構60aとを備えて構成されている。試料ステージ60は、試料台61を5軸に変位させることで、試料本体Waの特定位置をイオンビーム20Aによって照射される位置に移動するようになっている。
【0026】
真空室10は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、真空室10内には試料台61と、ナノピンセット50と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80とが設けられている。
【0027】
ナノピンセット50は、ピンセットホルダ52に支持されている。ピンセットホルダ52は、ピンセットステージ51によりナノピンセット50を5軸で変位させることができる。すなわち、ピンセットホルダ52を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構51bと、ピンセットホルダ52をZ軸回りに回転させるローテーション機構51cと、ピンセットホルダ52をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構51aとを備えて構成されている。また、ナノピンセット50は、ナノピンセット50の挟持を実施させるための挟持機構53により、先端部を開閉可能に稼動させることができる。
【0028】
二次荷電粒子検出器70は、イオンビーム照射系20又は電子ビーム照射系30から試料本体Waへイオンビーム20A又は電子ビーム30Aが照射された際に、試料本体Waから発せられる二次電子や二次イオンを検出する。
【0029】
ガス銃80は、試料本体Waへエッチングガス等の所定のガスを放出する。そして、ガス銃80からエッチングガスを供給しながら試料本体Waにイオンビーム20Aを照射することで、イオンビーム20Aによる試料のエッチング速度を高めることができる。
【0030】
また、荷電粒子ビーム装置100は、当該装置を構成する各部を制御する制御部90を備えている。制御部90は、イオンビーム照射系20、電子ビーム照射系30、アルゴンイオンビーム照射系40、ナノピンセット50、二次荷電粒子検出器70、及び試料ステージ60と接続されている。また、二次荷電粒子検出器70から検出される信号に基づき取得される試料映像を表示する表示装置91を備えている。
【0031】
制御部90は、荷電粒子ビーム装置100を総合的に制御するとともに、二次荷電粒子検出器70で検出された二次荷電粒子を輝度信号に変換して画像データを生成し、この画像データを基に画像を形成して表示装置91に出力している。これにより表示装置91は、上述したように試料の観察画像や参考画像を表示できるようになっている。
【0032】
また制御部90は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動し、試料本体Waの位置や姿勢を調整する。これにより、試料表面におけるイオンビーム20Aの照射位置や照射角度を調整できるようになっている。例えば、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系30との切替操作に連動して試料ステージ60を駆動し、試料本体Waを移動させたり、傾けたりすることができるようになっている。
【0033】
また制御部90は、試料ステージ60と同様に、ピンセットステージ51及び挟持機構53を駆動し、ナノピンセット50の位置や姿勢を調整する。これにより、ナノピンセット50の把持位置や把持角度や把持タイミングを調整できるようになっている。
【0034】
次に、上記荷電粒子ビーム装置100を用いた本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法について説明する。図3は、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法の実施形態における作業順序を示すフローチャートである。図4は、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法の実施形態で作製する試料片Wbの斜視図である。図3に示す作業順序で試料本体Waを加工すると、図4に示す試料片Wbを作製することができる。本発明で作製する試料片Wbは、例えば、長手方向の長さが3〜5μm、厚さが0.08μmの矩形の仕上げ面Wb1と、当該仕上げ面Wb1の一辺を除く三辺に接し、厚さが0.2〜0.5μmの把持部Wb2とで構成されている。把持部Wb2は、仕上げ面Wb1と略平行な面である一対の第1の側面Wb3、Wb4と、該側面と隣接する側面である一対の第2の側面Wb5、Wb6とを備えており、例えば、第1の側面Wb3の長手方向の長さが10〜12μmとする。また、仕上げ面Wb1は、把持部Wb2に対して段部を形成するように、一対の第1の側面Wb3及びWb4に挟まれた位置に、当該側面に略平行に設けられている。なお、試料片の寸法は、図4に示した試料片Wbの寸法に限らない。また、以降に示す図面における試料片Wbは、説明をより平易にするため、図4に示した試料片Wbにおける仕上げ面Wb1と把持部Wb2との厚みの差をより極端に示す。
【0035】
図5は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の試料作製前の概略斜視図である。図6は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第1の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第1の工程として、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を5軸に駆動させながら、イオンビーム照射系20によって試料本体Waの試料片Wbとする部分の両側にある略矩形の加工部Wcをエッチング穴掘り加工し、薄片部Wb0を形成する。以下に詳細を説明する。
【0036】
図7〜図10は、荷電粒子ビーム装置100を用いて加工した試料本体Waの矩形の加工部Wc1を加工して薄片部Wb0を形成する第1の工程の過程の斜視図である。第1の工程についてより具体的に説明すると、まず、図7に示すように、薄片部Wb0の一対の第1の側面Wb3、Wb4を切り出すために、当該側面と平行な方向にイオンビーム20Aを照射して加工部Wc1の一端から当該側面まで徐々に深くなるように、エッチング穴掘り加工する。
【0037】
続いて、図8に示すように、制御部90は、薄片部Wb0の第2の側面の一方である側面Wb5、Wb0底部、及び薄片部Wb0の第2の側面の他方であるWb6を、試料片Wbと試料本体Waと連結する連結部Wc4を残して切り出すために、試料本体Waと薄片部Wb0側部との連結部、試料本体Waと薄片部Wb0底部との連結部、及び試料本体Waと薄片部Wb0側部との他方の連結部の一部に加工部Wc2を設定する。この加工部Wc2に、イオンビーム20Aを照射してエッチング加工することにより、連結部を切断する。このWc2の加工は、試料台61をチルトし試料を傾斜してイオンビームを照射して行なう。
【0038】
最後に、試料台を水平にもどし、図9に示すように、制御部90は、薄片部Wb0の中央部両側をエッチングしてさらに薄くして仕上げ面Wb1を切り出すために、薄片部Wb0の一対の第1の側面Wb3、Wb4から仕上げ面Wb1まで矩形の加工部Wc3を薄片部上面両側に2箇所設定する。この加工部Wc3に上方よりイオンビームを走査して除去加工し、仕上げ面Wb1を薄片部両側に形成する。
【0039】
第1の工程を実施すると、図10に示すように、制御部90は、試料本体Waの加工部Wcにおいて、加工部Wc1からWc3をエッチング加工することにより、溝堀薄片化、切断および仕上げの薄片化加工をすることにより、仕上げ面Wb1及び仕上げ面Wb1より厚みのある把持部Wb2を有する試料片Wbと、試料片Wbを試料本体Waと連結する連結部Wc4とを切り出す。連結部Wc4は、試料片Wbの第2の側面の一方である側面Wb6と試料本体Waとを連結する。なお、第1の工程の加工部Wc2とWc3の加工順序は特に制限は無い。しかし、仕上げ面Wb1を切り出す加工部Wc3の除去加工は、他の加工部の加工中に仕上げ面Wb1へのイオンビーム20Aによる影響を極力小さくするために、第1の工程において最後であることが好ましい。
【0040】
図11は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第2の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第2の工程として、把持部材であるナノピンセット50を移動させて挟持させることで、第1の工程で切り出した試料片Wbの仕上げ面Wb1をナノピンセット50で覆い隠しながら、試料片Wbの肉厚部である把持部Wb2をナノピンセット50で挟持する。
【0041】
図12は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Waの加工部Wc周辺の第2の工程終了時の斜視図である。第2の工程についてより具体的に説明すると、まず、制御部90は、ピンセットステージ51のXYZ移動機構51b、ローテーション機構51c及びチルト機構51aを駆動させることによって、第1の工程において加工部Wc2を切断加工した方向からナノピンセット50を試料片Wbへ進入させて、試料片Wbの仕上げ面Wb1を覆い隠す。続いて、制御部90は、ナノピンセット50の挟持機構53を駆動させることによって、試料片Wbの把持部Wb2を挟持する。把持部Wb2は、仕上げ面Wb1が形成された薄片部に比べて両側に肉厚にできているので、ナノピンセット50は、仕上げ面Wb1に接触することはない。よって、仕上げ面Wb1を損傷することはない。
【0042】
図13は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第3の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第3の工程として、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動させて試料を所定位置に配置した後、イオンビーム照射系20によってイオンビームを走査させることにより連結部Wc4を切断させ、第2の工程においてナノピンセット50で挟持した試料片Wbを試料本体Waから切り離す。
【0043】
図14は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Waの加工部Wc周辺の第3の工程終了時の斜視図である。第3の工程についてより具体的に説明すると、図12において、制御部90は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動させて試料を所定位置に配置した後、イオンビーム照射系20によってイオンビームを走査することにより、試料片Wbと試料本体Waとを連結する連結部Wc4に切り込み加工を施し切断し切り離す。この際、連結部Wc4はイオンビームを照射し切り込み加工を入れ切断するが、この時試料片Wb1はナノピンセット50により挟持され、仕上げ面Wb1はナノピンセット50により覆い隠されているためイオンビームによるダメージを受けにくく、またイオンビームエッチングによる再付着を低減することができる。
【0044】
図15は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の第4の工程終了時の概略斜視図である。制御部90は、第4の工程として、ナノピンセット50を移動させることで、ナノピンセット50が挟持した試料片Wbを所定の試料ホルダ62に搬送して固定する。
【0045】
図16は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Waの加工部Wc周辺の第4の工程終了時の斜視図である。第4の工程についてより具体的に説明すると、制御部90は、ピンセットステージ51のXYZ移動機構51b、ローテーション機構51c及びチルト機構51aを駆動させることによって試料片Wbを挟持したナノピンセット50を試料ホルダ62上の所定の位置に移動させ、挟持機構53を駆動させることで試料ホルダ62上に試料片Wbを固定する。
【0046】
図17は、荷電粒子ビーム装置100における試料本体Wa周辺の試料固定後の概略斜視図である。制御部90は、ナノピンセット50を原点に戻すことで試料作製の一連の工程を終了する。なお、ナノピンセット50は必ずしも原点に戻さなくてもかまわない。また、必要に応じてアルゴンイオンビーム照射系40によるアルゴンイオンビームによって試料片Wbの表面をクリーニングしてもかまわない。
【0047】
以上によれば、第2の工程において、試料片Wbの仕上げ面Wb1がナノピンセット50により覆い隠すので、第3の工程において試料片Wbと試料本体Waとを連結する連結部Wc4を、イオンビーム20Aの照射によりエッチングして切断加工する時に、イオンビーム20Aによって仕上げ面Wb1にコンタミネーションが発生することはない。またエッチングした時に発生する粒子が付着することもない。
【0048】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0049】
例えば、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製する試料片は、図4に示した形状に限らない。図18は、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製可能な試料片の斜視図である。図4に示した試料片Wbと異なる点は、図18に示した試料片の仕上げ面Wb11が試料片の側面を上下方向に縦断している点である。図18に示した試料片において、ナノピンセット50により仕上げ面Wb11の上部を覆い隠しながら仕上げ面Wb11より厚みのある把持部Wb12を把持することで、当該仕上げ面Wb11の上部にはコンタミネーションが発生しない。また、仕上げ面Wb11にナノピンセットが接触することがないので、仕上げ面Wb11を損傷することもない。したがって、図18に示した形状の試料片においても、試料本体Waに試料片が連結された状態で仕上げ面Wb11の加工が可能である。このように、仕上げ面よりも厚い把持部を具備していれば、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製する試料片の形状には制限がない。
【0050】
また、本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製する試料片は、仕上げ面のより厚い把持部を有していなくても、ナノピンセット50が仕上げ面の観察する部分に直接触れなければかまわない。例えば、ナノピンセット50に凹部を設けて、ナノピンセット50が試料片を挟持した際、仕上げ面の観察する部分をナノピンセット50の凹部に収める方法や、仕上げ面を覆い隠す機構を別途有するナノピンセット50を用いて、仕上げ面を覆い隠すことと把持部を把持することを別機構で並行して行う方法などがある。しかし、いずれの方法も仕上げ面の観察部を正確に覆い隠すために時間がかかるため、仕上げ面の周りに厚みのある把持部を設けることが好ましい。
【0051】
また、第1の工程で説明した加工部Wc1からWc3の形状はこれらに限らず、試料片Wbとなる部分が把持できればかまわない。例えば、加工部Wc1の切断加工の深さは、ナノピンセット50によって試料片Wbの仕上げ面Wb1が覆い隠されて、試料片Wbの把持部Wb2が把持可能な深さであれば特に制限はない。
【0052】
また、第2の工程でナノピンセット50は加工部Wc2を切断加工した方向から進入させなくてもかまわない(例えば、試料片Wbとなる部分の真上からや、試料片Wbにおいて加工部Wc2の反対方向から進入させるなど)。しかし、第3の工程でナノピンセット50が進入することよって連結部Wc4がイオンビーム20Aから覆い隠された場合は、試料ステージ60による試料本体Waの位置調整を繰り返しながら連結部Wc4を切断加工するために生産性が悪化する。したがって、加工部Wc2を切断加工した方向から進入させることが好ましい。
【0053】
また、連結部は必ずしも本実施形態に示したWc4のような形状でなくても、試料片Wbが試料本体Waに連結された状態で、ナノピンセット50の位置決めが行うことができれば制限は無い。例えば、連結部が試料片Wbと試料本体Waを一面でしか連結していなくてもかまわないし、面全体を試料本体Waと連結するのではなく、一部分を連結しているだけでもかまわない。連結部の形状の変更は、第1の工程において加工部Wc2の形状を変更することで対応可能である。
【0054】
また、ナノピンセット50による把持方法は挟持機構53による挟持に限らず、例えば、ナノピンセット50の材質、形状などを試料本体Waの部材に対応させて、物理吸着による把持をしてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態の作業順序を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態で作製する試料片の斜視図である。
【図5】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の試料作製前の概略斜視図である。
【図6】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第1の工程終了時の概略斜視図である。
【図7】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図9】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図10】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体の加工部周辺の第1の工程の過程の斜視図である。
【図11】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第2の工程終了時の概略斜視図である。
【図12】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料の加工部周辺の第2の工程終了時の斜視図である。
【図13】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第3の工程終了時の概略斜視図である。
【図14】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料の加工部周辺の第3の工程終了時の斜視図である。
【図15】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の第4の工程終了時の概略斜視図である。
【図16】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料の加工部周辺の第4の工程終了時の斜視図である。
【図17】本発明の実施形態で用いる荷電粒子ビーム装置における試料本体周辺の試料固定後の概略斜視図である。
【図18】本発明の透過電子顕微鏡用試料作製方法で作製可能な試料片の斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
20A イオンビーム(荷電粒子ビーム)
50 ナノピンセット(微小ピンセット)
62 試料ホルダ
Wa 試料本体
Wb 試料片(透過電子顕微鏡用試料片)
Wb0 薄片部
Wb1、Wb11 仕上げ面
Wb2、Wb12 把持部
Wc4 連結部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、
前記試料本体との連結部を残したまま、前記透過電子顕微鏡用試料片を前記試料本体から前記荷電粒子ビームで切り出す第1の工程と、
該第1の工程で切り出した前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、
該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記透過電子顕微鏡用試料片を、該透過電子顕微鏡用試料片の把持状態を維持しながら前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離す第3の工程と、
該第3の工程で切り離した前記透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、
前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部の厚さを前記仕上げ面の厚さよりも厚く加工することを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、
前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を切り出した後に前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を加工すること、
を特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項4】
透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する試料作製方法であって、
前記荷電粒子ビームを用いて試料本体をエッチングすることにより、前記把持部と仕上げ面とを有する薄片部を、前記試料本体との連結部を残したまま形成する第1の工程と、
該第1の工程で形成した前記薄片部の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、
該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記薄片部を、該薄片部の把持状態を維持しながら、前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離し透過電子顕微鏡用試料片とする第3の工程と、
該第3の工程で切り離した透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項5】
試料面上方から集束イオンビームを照射して薄片部を形成する第1の工程と、
試料台をチルトして、前記薄片部の両端及び底部を前記両端のうちいずれか一端に連結部を残して前記集束イオンビーム照射により切断する第2の工程と、
試料台を水平にもどし、該薄片部の一部を側面両側へのビームの照射により更に薄片化して仕上げ面を形成する第3の工程と、
把持部材によって前記仕上げ面を覆い隠すようにして前記薄片部の肉厚部を把持する第4の工程と、
第4の工程における前記肉厚部を把持した状態で、前記集束イオンビームの照射により前記連結部を切断し、前記薄片部を試料本体から切り離し薄片とする第5の工程と、
第5の工程で切り離した薄片を前記把持部材で前記肉厚部を把持した状態で試料ホルダまで搬送して固定する第6の工程と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用薄片試料作製方法。
【請求項6】
試料本体から切り離されて透過電子顕微鏡による観察対象物として供される透過電子顕微鏡用試料片であって、
前記試料本体から切り離される時点で加工されている、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、該仕上げ面の厚さよりも厚く設定された把持部と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料片。
【請求項1】
透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、
前記試料本体との連結部を残したまま、前記透過電子顕微鏡用試料片を前記試料本体から前記荷電粒子ビームで切り出す第1の工程と、
該第1の工程で切り出した前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、
該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記透過電子顕微鏡用試料片を、該透過電子顕微鏡用試料片の把持状態を維持しながら前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離す第3の工程と、
該第3の工程で切り離した前記透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、
前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部の厚さを前記仕上げ面の厚さよりも厚く加工することを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透過電子顕微鏡用試料作製方法であって、
前記第1の工程では、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を切り出した後に前記透過電子顕微鏡用試料片の前記仕上げ面を加工すること、
を特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項4】
透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、微小ピンセットによって前記仕上げ面に触れることなく把持可能な把持部とを有する透過電子顕微鏡用試料片を、荷電粒子ビームによって試料本体から切り離し、前記微小ピンセットによって搬送して試料ホルダに固定する試料作製方法であって、
前記荷電粒子ビームを用いて試料本体をエッチングすることにより、前記把持部と仕上げ面とを有する薄片部を、前記試料本体との連結部を残したまま形成する第1の工程と、
該第1の工程で形成した前記薄片部の前記仕上げ面を前記微小ピンセットで覆い隠しながら、前記透過電子顕微鏡用試料片の前記把持部を前記微小ピンセットで把持する第2の工程と、
該第2の工程において前記微小ピンセットで把持した前記薄片部を、該薄片部の把持状態を維持しながら、前記荷電粒子ビームで前記連結部を切断することによって前記試料本体から切り離し透過電子顕微鏡用試料片とする第3の工程と、
該第3の工程で切り離した透過電子顕微鏡用試料片を、前記微小ピンセットで把持し前記試料ホルダまで搬送して固定する第4の工程と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項5】
試料面上方から集束イオンビームを照射して薄片部を形成する第1の工程と、
試料台をチルトして、前記薄片部の両端及び底部を前記両端のうちいずれか一端に連結部を残して前記集束イオンビーム照射により切断する第2の工程と、
試料台を水平にもどし、該薄片部の一部を側面両側へのビームの照射により更に薄片化して仕上げ面を形成する第3の工程と、
把持部材によって前記仕上げ面を覆い隠すようにして前記薄片部の肉厚部を把持する第4の工程と、
第4の工程における前記肉厚部を把持した状態で、前記集束イオンビームの照射により前記連結部を切断し、前記薄片部を試料本体から切り離し薄片とする第5の工程と、
第5の工程で切り離した薄片を前記把持部材で前記肉厚部を把持した状態で試料ホルダまで搬送して固定する第6の工程と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用薄片試料作製方法。
【請求項6】
試料本体から切り離されて透過電子顕微鏡による観察対象物として供される透過電子顕微鏡用試料片であって、
前記試料本体から切り離される時点で加工されている、透過電子顕微鏡で観察可能な略平面状の仕上げ面と、該仕上げ面の厚さよりも厚く設定された把持部と、
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡用試料片。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−133833(P2009−133833A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270964(P2008−270964)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
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