説明

通信システム、端末

【課題】通信の範囲外の通信信号の受信を抑制しながらも、環境の変化に適応して端末の受信感度を動的に調節することを可能にする。
【解決手段】ネットワーク20は、通信信号を伝送する複数台の端末10(親局11および子局12)を備える。端末10は、通信の範囲外である通信信号を検出する判断部103と、判断部103が通信の範囲外であるネットワークの通信信号を検出したときに通信の範囲外であるネットワークの通信信号を受信しないように受信感度を低減させる感度調節部104とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信の範囲外の端末との通信を抑制する通信システム、およびこの通信システムに用いる端末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、通信用のネットワークは通信信号を伝送する複数台の端末を含み、各端末は通信が可能な範囲が定められている。したがって、各端末は、他のネットワークに含まれる端末など通信の範囲外である端末との間で通信信号が伝送されるなどの干渉が生じないように、干渉を防止する構成を備える必要がある。
【0003】
干渉を防止する構成としては、通信信号に用いるキャリアの周波数を異ならせる技術、端末が通信に用いる識別情報により通信の範囲を制限する技術、通信信号が到達する範囲を狭めるように通信信号の出力レベルを低減させる技術などが知られている。
【0004】
しかしながら、これらの技術を採用しても干渉を十分に抑制することができない。すなわち、ネットワークにおいて使用可能なキャリアの周波数帯域は制限されていることが多いから、選択可能な周波数の種類が少なく、キャリアの周波数を異ならせる技術では、干渉の発生を十分に抑制することはできない。また、端末が多数台になると、端末ごとに異なる識別情報を設定するための作業量が多くなる上に、異なる端末に誤って同じ識別情報を設定する可能性が高くなる。
【0005】
端末から出力する通信信号の出力レベルを低減する技術は、受信側の端末の近傍においてノイズのレベルが高い場合には、通信信号の信号レベルとノイズのレベルとの差が小さくなるから、SN比の確保が困難になる場合がある。
【0006】
干渉を防止する技術には、通信信号の受信範囲を狭めるように受信感度を低減させる技術も知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1には、端末として制御局と複数の従属局とを備えたネットワークが記載され、制御局が従属局に対して受信感度の変更を指示する構成が採用されている。
【0007】
すなわち、制御局は、従属局に対して従属局が受信した通信信号に関する情報を通知させ、従属局から受け取った情報に基づいて他のネットワークの通信装置が送信した信号を受信しているか否かを判断する機能を有する。また、制御局は、従属局が他のネットワークの通信装置が送信した信号を受信している場合に、従属局に対して受信感度の変更を指示する機能も備える。さらに、特許文献1には、従属局が他のネットワークの通信装置が送信した信号を受信していることが制御局に通知されると、制御局が従属局に対して受信感度を1段階引き下げる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−49522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された技術を採用すると、従属局が受信した信号に基づいて制御局が従属局の受信感度を調節するから、従属局が通信信号を受信する範囲が制限され、他のネットワークの通信信号が送信した信号による干渉が低減される。すなわち、ネットワークが設けられた環境条件に応じて従属局の受信感度が自動的に調節され、しかも、受信感度を調節するだけであるから、通信信号の信号レベルに影響がなく、受信側の端末の近傍において通信信号の信号レベルとノイズのレベルとの差を維持することが可能である。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、ネットワークが起動された時点において受信感度の調節を一度だけ行う構成であるから、ネットワークの周囲環境が動的に変化する場合には、従属局の受信感度を適正に設定することができない。たとえば、従属局が受信感度の調節を行う際に他のネットワークからの信号を受信しておらず、受信感度の設定後に環境が変化した場合には、変化後の環境に対応するように受信感度を調節することができないという問題を有している。
【0011】
本発明は、通信の範囲外の通信信号の受信を抑制しながらも、環境の変化に適応して端末の受信感度を動的に調節することを可能にした通信システムを提供することを目的とし、さらにこの通信システムに用いる端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る通信システムは、上記目的を達成するために、通信信号を伝送する複数台の端末によりネットワークが構築され、ネットワークに含まれる少なくとも1台の端末は、通信の範囲外である通信信号を検出する判断部を備え、ネットワークに含まれる端末は、判断部が通信の範囲外であるネットワークの通信信号を検出したときに通信の範囲外であるネットワークの通信信号を受信しないように受信感度を低減させる感度調節部を備えることを特徴とする。
【0013】
この通信システムにおいて、ネットワークが複数設けられ、端末はネットワークの範囲内を通信の範囲とすることが好ましい。
【0014】
この通信システムにおいて、判断部および感度調節部は、端末ごとに設けられていることが好ましい。
【0015】
この通信システムにおいて、判断部は、送信元である端末の識別情報が同一かつ信号レベルが異なる複数の通信信号を受信したときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することが好ましい。
【0016】
この通信システムにおいて、判断部は、複数個の通信信号の信号レベルの分布を求め、信号レベルの分布に複数のピークが生じているときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することが好ましい。
【0017】
この通信システムにおいて、判断部は、一定の計測期間におけるトラフィック量を計測し、トラフィック量が規定の境界値を超えるときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することが好ましい。
【0018】
この通信システムにおいて、ネットワークは識別情報の重複が許容され、判断部は、ネットワークの識別情報および端末の識別情報が重複する通信信号を受信したときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することが好ましい。
【0019】
この通信システムにおいて、感度調節部は、通信の範囲内である端末が送信元であるときに当該端末からの通信信号を直接受信するように受信感度を調節することが好ましい。
【0020】
この通信システムにおいて、ネットワークは、通信の範囲内においてマルチホップ通信が可能であって、感度調節部は、マルチホップ通信において隣接する端末からの通信信号が受信可能であり、かつ隣接していない端末からの通信信号が受信不能になるように受信感度を調節することが好ましい。
【0021】
この通信システムにおいて、判断部は、通信の範囲外である通信信号の信号レベルを用いて感度調節部に指示する受信感度を決定することが好ましい。
【0022】
この通信システムにおいて、ネットワークに含まれる1台の端末は判断部を備える親局であり、ネットワークに含まれる残りの端末は判断部を備えていない子局であって、判断部は、通信の範囲外である通信信号を検出すると、決定した受信感度を親局から子局に通知し、子局に感度調節部の感度を調節させることが好ましい。
【0023】
この通信システムにおいて、感度調節部は、受信感度を複数段階から選択する機能と、受信感度を低減させた時点から規定の一定時間が経過した後に受信感度を1段階だけ上昇させる機能とを備えたことが好ましい。
【0024】
この通信システムにおいて、感度調節部は、受信感度を初期値に対して低減させる機能と、定められた時間間隔ごとに規定した一定時間だけ受信感度を初期値に戻す機能と、受信感度が初期値に戻されている期間に判断部に通信の範囲外である通信信号の有無を検出させる機能とを備えることが好ましい。
【0025】
本発明に係る端末は、通信信号を伝送しネットワークを構築する端末であって、通信の範囲外である通信信号を検出する判断部と、判断部が通信の範囲外であるネットワークの通信信号を検出したときに通信の範囲外であるネットワークの通信信号を受信しないように受信感度を低減させる感度調節部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の構成によれば、判断部が通信の範囲外である通信信号を検出すると、通信の範囲外であるネットワークの通信信号を受信しないように受信感度を低減させるので、通信の範囲内である端末からの通信信号のみを受信することになり、通信信号の干渉を回避することができるという利点がある。しかも、通信の範囲外の通信信号の受信を抑制しながらも、環境の変化に適応して端末の受信感度を動的に調節することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は実施形態を示す概略構成図、(b)は同上に用いる端末を示すブロック図である。
【図2】実施形態1を示す動作説明図である。
【図3】同上の動作説明図である。
【図4】実施形態4の原理説明図である。
【図5】実施形態5の原理説明図である。
【図6】実施形態6の原理説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、図1(a)に示すように、親局11と複数台の子局12とが有線の通信路を通して通信を行うネットワーク20が構築されている場合について説明する。ここに、以下に説明するネットワーク20では、親局11が各子局12と通信し、子局12の間では通信は行わない。ただし、子局12が他の子局12から親局11への通信信号を中継するマルチホップ通信は可能であってもよい。このように、親局11と子局12とはネットワーク20における端末10を構成する。また、親局11は必須ではなく、以下に説明する実施形態において、とくに断りがなければ、ネットワーク20が子局12のみによって構成された分散型であってもよい。
【0029】
通信路は高圧配電線21に接続された変圧器22の二次側に接続されている低圧配電線23が用いられ、親局11と子局12との間は、電力線搬送通信の技術を用いて通信が行われる。ただし、通信路は無線であってもよい。
【0030】
一般に、高圧配電線21には複数個の変圧器22が接続され、変圧器22の二次側に接続される低圧配電線23も複数の系統が設けられる。ここに、ネットワーク20は、原則として変圧器22ごとに独立して設けられ、異なるネットワーク20の間では、電力線搬送通信による通信を禁止している。
【0031】
各端末10は、ネットワーク20の範囲内で識別される識別情報(親局IDと子局ID)を有している。1つのネットワーク20に接続可能な端末10の台数は制限されている。また、ネットワーク20にも識別情報が付与される。ただし、以下に説明する実施形態では、ネットワーク20の間で通信することはなく、ネットワーク20は原則として独立して動作している。したがって、ネットワーク20の識別情報は、複数のネットワーク20の端末10を一括して扱うために設けられているだけであり、ネットワーク20は実質的には個別に区別されない。そのため、同じ識別情報を有する複数のネットワーク20が高圧配電線21を共用している場合がある。
【0032】
したがって、1系統の高圧配電線21から分岐された複数系統の低圧配電線23を通信路に用いてネットワーク20が構築されている場合には、ネットワーク20の中で通信に用いている通信信号が、高圧配電線21を通して他のネットワーク20に漏洩する可能性がある。すなわち、異なるネットワーク20の間でクロストークを生じる可能性がある。
【0033】
異なるネットワーク20の間でクロストークが生じ、いずれかのネットワーク20において親局11と子局12との間で伝送されていた情報が他のネットワーク20で用いられると、漏洩した情報によって誤動作や障害を生じる場合がある。
【0034】
クロストークによる誤動作や障害を防止するには、親局11と子局12との間で伝送される通信信号のエネルギーを低減することが考えられる。すなわち、親局11あるいは子局12が出力する通信信号の信号レベルを引き下げることにより、他のネットワーク20に漏洩する通信信号の信号レベルを低減させるのである。通信信号の信号レベルを低減させれば、他のネットワーク20における端末10(親局11あるいは子局12)によって通信信号が受信される可能性が低減され、クロストークによる誤動作を障害を抑制することが可能になる。
【0035】
しかしながら、通信信号の信号レベルを低減させると、ネットワーク20の通信路に存在するノイズのレベル(エネルギー)と、通信信号の信号レベルのレベル(エネルギー)との差も低減されるから、SN比が低下することになる。すなわち、SN比の低下によって、端末10(親局11と子局12)の環境によっては、通信信号がノイズと識別できなくなる可能性が生じる。以下に説明する実施形態では、ノイズのレベルに対して信号レベルが十分に大きい通信信号を送信しながらも、他のネットワーク20の通信信号を受信することによる誤動作や障害の発生が抑制される技術について説明する。
【0036】
(実施形態1)
以下に説明する実施形態は、基本的には、通信信号の信号レベルを低減させるのではなく、端末10における受信感度を低減させることにより、異なるネットワーク20の間のクロストークによる誤動作や障害の発生を抑制する技術を採用している。
【0037】
いま、端末10(親局11と子局12)が出力する通信信号の信号レベルLsと、端末10が受信する通信信号の信号レベルLrと、クロストークによる漏洩信号の信号レベルLcと、端末10の受信限界Lmとが、図2(a)に示す関係である場合を想定する。受信限界Lmは受信可能な最小の信号レベルを意味し、受信限界Lmが低いほど受信感度が高いことになる。
【0038】
ここで、図2(b)のように、端末10の受信感度を引き下げると受信限界Lmが上昇し、結果的にクロストークによる漏洩信号の信号レベルLcよりも受信限界Lmを高くすることができる。受信限界Lmと信号レベルLcとの大小が図2(b)に示す関係であると、端末10は、クロストークによる漏洩信号を受信することがなく、結果的にクロストークによる誤動作や障害を防止することになる。しかも、通信信号の信号レベルLsと漏洩信号の信号レベルLcとには変化がないからSN比の低下が生じない。つまり、クロストークによる誤動作や障害の発生が防止され、かつ通信信号とノイズとの分離性が維持される。
【0039】
ところで、基本的には、同じ識別情報が設定された端末10の間で通信信号が伝送されなければよいから、原則として、受信限界Lmは、同じ識別情報が設定された端末10の間で互いに通信信号が受信できなくなるように設定されていればよい。
【0040】
いま、端末10が通信可能な他の端末10を探索し、かつ通信可能な他の端末10の識別情報を記憶する機能を有しているものとする。通信可能な他の端末10を探索するには、送信元の端末10の識別情報を含む通信信号(たとえば、ハローパケット)をネットワーク20に適宜の時間間隔で送信する機能を各端末10に設け、この通信信号の受信の可否を判断すればよい。また、他の端末10が伝送している通信信号を傍受することによって、ハローパケットのような通信信号を用いることなく通信信号の受信の可否を判断してもよい。各端末10は、他の端末10が送信した通信信号を受信できたときには、その通信信号に含まれる識別情報を記憶することによって、通信可能な端末10の識別情報を記憶する。
【0041】
端末10が上述した機能を備えている場合、異なるネットワーク20の間でクロストークが生じていると、いずれかの端末10では、ネットワーク20の識別情報と端末10の識別情報との組み合わせが等しい情報を受信する可能性がある。各端末10は、通常、記憶している他の端末10の識別情報の内容に変化がなければ記憶内容を維持するから、クロストークが生じていたとしても記憶内容に変化は生じないと考えられる。ただし、ネットワーク20の中の通信信号と他のネットワーク20からの通信信号とでは、一般に、受信レベルが大幅に異なるから、受信レベルを監視することによりクロストークが生じているか否かを識別することが可能である。
【0042】
たとえば、ネットワーク20を構築する親局11が複数台の子局12(子局(1)(2)(3))に個別に要求を行い、その要求に対して各子局12が順に応答するとすれば、図3(a)のように、ネットワーク20において各子局12(子局(1)(2)(3))からの応答が1回ずつ得られる。このとき、親局11が各子局12からの応答を受信する通信信号の信号レベルは、ネットワーク20の中の通信であるから、大幅な相違は生じない。
【0043】
これに対して、異なるネットワーク20の間でクロストークが生じているとすると、親局11の要求に対して異なるネットワーク20に設けられた子局12からの応答が生じることがある。この場合、たとえば、図3(b)に示すように、同じ識別情報を有する子局11から複数回の応答(2回目の応答を網掛けで示している)が得られることになる。ただし、異なるネットワーク20からの応答であるから、時間差が生じるとともに、受信される通信信号の信号レベルに比較的大きい相違が生じる。この点に着目し、受信した通信信号が同じ識別情報を有し、かつ信号レベルに規定値以上の差が生じている場合に、クロストークが生じていると判断する機能を端末10に設けることが好ましい。
【0044】
上述の技術によってクロストークを検出する場合、異なるネットワーク20に属する端末10が同じ識別情報を有していてもクロストークの発生を検出することができる。つまり、端末10の識別情報は、ネットワーク20の範囲内で識別可能であればよく、すべてのネットワーク20を包含する範囲において識別可能にする必要がない。
【0045】
クロストークを検出する機能を端末10に設ける場合は、クロストークが生じていると判断したときに、最終的に1台の端末10のみが受信できるようになるまで、受信限界Lmを引き下げるように受信感度を調節する機能を備えていることが好ましい。たとえば、2台の端末10の間でクロストークが生じている場合には、互いに他方の端末10が出力した通信信号を受信することができなくなるまで受信信号を引き下げるのである。端末10がこの機能を備えていれば、他のネットワーク20の端末10からの通信信号を受信しなくなり、結果的に、他のネットワーク20から漏洩した通信信号によって端末10が誤動作したり障害を生じたりすることが防止される。
【0046】
ところで、図1(b)に示すように、端末10(親局11および子局12)は、マイコンからなる端末処理部101と、通信信号を受信する受信回路102とを備える。また、端末10は、受信回路102が受信した通信信号からクロストークの発生を判断する判断部103と、クロストークが生じていると判断部103が判断したときに受信感度を調節する感度調節部104とを備える。判断部103および感度調節部104は、端末処理部101の機能としてマイコンでプログラムを実行することにより実現されるか、あるいは、端末処理部101とは独立した回路としてハードウェアにより実現される。
【0047】
判断部103がクロストークの有無を判断する技術は、子局12からの応答回数のほか、以下の実施形態において説明する種々の技術を採用することが可能である。また、感度調節部104は、複数回の処理で受信感度を徐々に段階的に調節する構成と、1回の処理で所望の受信感度に調節する構成とのいずれかを採用する。後者の構成を採用する場合、判断部103は、クロストークの発生の有無を判断するだけではなく、受信した通信信号から得られる情報に基づいて、受信感度を引き下げる割合を決定する機能も備える。
【0048】
上述したように、端末10が送出する通信信号の信号レベルを変更せずに、端末10の受信感度の調節により端末10が通信する範囲を制限しているので、通信信号の信号レベルとノイズのレベルとは変化せずSN比が維持される。すなわち、SN比を維持しながらも通信信号の混信が抑制される。
【0049】
ネットワーク20の間のクロストークは定常的に発生している場合があるが、通信信号の信号レベルは環境条件によって変化するから、多くの場合、クロストークが発生するか否かは時間の経過とともに変化する。したがって、上述したように他のネットワーク20からの通信信号が検出されることによって端末10の受信感度を低下させた場合であっても、その後には、受信感度を上昇させても他のネットワーク20からの通信信号は受信されなくなることがある。
【0050】
一方、端末10の受信感度を引き下げると、受信時のダイナミックレンジが低下するから、通信信号を受信できる確率が低減することになる。すなわち、受信感度を引き下げると、通信の失敗が生じやすくなる可能性がある。
【0051】
このことから、端末10は、クロストークの発生が検出されたときに受信感度を引き下げる機能を有しているだけではなく、クロストークの発生が検出されなくなれば、受信感度を引き上げる機能を有していることが望ましい。受信感度を上昇させる際には、受信感度を段階的に変化させる制御と、受信感度を元の状態に戻す制御とがある。
【0052】
受信感度を段階的に上昇させる場合には、端末10は、受信感度を複数段階から選択する機能と、受信感度を低減させた時点から規定の一定時間が経過した後に受信感度を1段階だけ上昇させる機能とを備えていればよい。ここで、端末10は受信感度を上昇させるたびに、クロストークが発生しているか否かを判断し、クロストークが生じていれば受信感度を引き下げればよい。このような動作によって、通信信号の信号レベルが時間の経過に伴って変動してもクロストークによる誤動作や障害の発生が抑制され、かつ通信が失敗する可能性が低減される。
【0053】
一方、受信感度を元の状態に戻す場合には、端末10は、受信感度を適宜の時間間隔で規定した一定時間だけ受信感度を元の状態に戻す機能と、受信感度が元の状態に戻されている期間にクロストークの発生の有無を検出する機能とを備えていればよい。端末10が受信感度を元の状態に戻す時間間隔は、一定の時間間隔のほか、不規則な時間間隔でもよい。すなわち、受信感度を元の状態に戻している期間に、クロストークの発生の有無を判断し、必要に応じて受信感度を低減させている。この動作を採用すれば、環境条件に応じて受信感度を更新することになり、クロストークによる誤動作や障害の発生を抑制し、かつ通信の失敗を低減させることになる。
【0054】
(実施形態2)
実施形態1の構成では、異なるネットワーク20の間で生じるクロストークにのみ着目し、異なるネットワーク20において同じ識別情報が設定された端末10の間で、互いに通信信号が受信できなくなるように受信感度を調節している。一方、本実施形態は、各ネットワーク20が変圧器22を介して高圧配電線21に接続され、ネットワーク20の内部で伝送される通信信号の信号レベルと、異なるネットワーク20の間で伝送される通信信号の信号レベルとの差が十分に大きい点に着目する。すなわち、感度調節部104(図1(b)参照)において端末10の受信感度を、ネットワーク20の範囲内において着目する端末10から最遠方に存在する端末10との間で通信信号の伝送が可能になる最低限に設定するのである。
【0055】
実施形態1では、異なるネットワーク20に設けられた端末10の間でクロストークが生じない範囲の上限付近に各端末10の受信感度を設定しているが、本実施形態のように設定すれば、受信感度をさらに引き下げられる可能性がある。したがって、異なるネットワーク20の間でクロストークが生じる可能性を実施形態1の構成よりもさらに低減させることになる。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【0056】
(実施形態3)
実施形態2は、ネットワーク20を構成する端末10間において通信が直接行われる場合を想定しているが、本実施形態は、端末10が他の端末10の通信信号を中継する機能を備えていることを前提にしている。たとえば、親局11が子局12との間で通信を行う場合に、他の子局12が通信信号の中継を行うのである。このように端末10間においてマルチホップ通信が許容されている場合は、隣接する端末10の間で通信を行うことができれば、ネットワーク20における任意の端末10との間で通信が可能になる。
【0057】
したがって、ネットワーク20において直近の1台の端末10から送出された通信信号のみが受信可能である感度を最小の受信感度とすることが可能である。この場合、通信の信頼性を高めるとともに、トラフィックの増加を抑制するために、各端末10の受信感度は、2台以上の端末10から送出された通信信号が受信可能となる感度であってもよい。ただし、各端末10の受信感度は、ネットワーク20においてすべての端末10から送出された通信信号が受信可能になる感度よりは小さく設定される。
【0058】
上述した構成では、近隣の端末10が送出した通信信号のみを受信できればよいから、端末10の受信感度を非常に小さくすることが可能であって、そのため、不要な通信信号を受信する可能性が大幅に低減される。すなわち、異なるネットワーク20の間でクロストークが生じる可能性を実施形態2の構成よりもさらに低減させることになる。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【0059】
(実施形態4)
実施形態1では、ほぼ連続して受信される通信信号の信号レベルによって異なるネットワーク20の間のクロストークが検出されているから、通信路の環境によっては遅延して入力された通信信号をクロストークと誤認する可能性がある。これに対して、本実施形態は、通信信号を複数回受信したときの信号レベルの分布を用いて、クロストークが生じているか否かを判断している。一般に、通信路の環境は時間とともに変化するから、同じ端末10からの通信信号を受信したとしても時間経過に伴って信号レベルは変化する。また、通信路において通信信号に反射が生じたり、通信路に形成されたループ回路を通して通信信号が伝送される可能性がある。したがって、クロストークが生じていない場合でも、信号レベルの異なる通信信号を2回以上受信してしまう場合がある。
【0060】
本実施形態では、受信した通信信号の信号レベルと頻度とを蓄積することにより、図4に示すように、通信信号の信号レベルに関する分布を求めている。クロストークが生じているときには、通信信号の信号レベルの分布に複数個(図示例は2個)のピークが生じるから、ピークの個数によってクロストークの有無を判断することができる。すなわち、受信レベルを統計的に処理することにより、通信路の環境が時間経過に伴って変化することによる信号レベルの変化と、クロストークによる信号レベルの変化とを切り分けることが可能になる。
【0061】
本実施形態においてもクロストークが検出されると、クロストークが検出されなくなるまで受信感度を低減させる。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【0062】
(実施形態5)
本実施形態は、ネットワーク20における端末10が一定周期で通信信号を送信している場合であって、通信信号を受信するタイミングが既知である場合に適用される。
【0063】
たとえば、親局11が一定周期で子局12のポーリングを行う場合、図5(a)のように、同じ子局12からの応答による通信信号(白抜きで表している)を受信する周期T1も一定周期になることが予想される。これに対して、図5(b)のように、予想される周期T1とは異なるタイミングで通信信号(網掛けで表している)を受信した場合、クロストークが生じているとみなして親局11の受信感度を低減させるのである。ここでは、親局11を端末10の例に挙げているが、端末10が子局12である場合でも一定周期で受信信号を受け取ることが予想されている場合に、異なるタイミングで通信信号を受信した場合に感度を低減させることになる。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【0064】
(実施形態6)
実施形態5の構成は、一定周期で通信信号が伝送されるネットワーク20を前提にしているが、通信信号が不規則な時間間隔で伝送されるネットワーク20もある。本実施形態では、比較的長い一定の計測期間を設定し、計測期間に生じた通信信号のトラフィック量によりクロストークの発生の有無が判断される。すなわち、通信信号が一定周期で伝送されていなくとも、通信信号が不規則な時間間隔で伝送される場合には、適宜の計測期間を規定しておくと、計測期間において特定の端末10に伝送される通信信号のトラフィック量は、ほぼ一定量になることがわかっている。
【0065】
一定の計測期間において受信される通信信号のトラフィック量は、クロストークが生じていない場合に比較して、クロストークが生じている場合には有意の差で増加する。たとえば、図6のように比較的長い計測期間T2を設定しておけば、クロストークが生じていない場合のトラフィック量が図6(a)のように「10」であるとき、クロストークが生じている場合のトラフィック量は図6(b)のように、「19」などになる。このことを利用すれば、計測期間T2におけるトラフィック量が規定の境界値を超えたときにクロストークが発生していると判断することができる。
【0066】
クロストークの発生を判断するトラフィック量の境界値は、計測期間T2の長さにもよるが、クロストークが発生していない期間のトラフィック量をNとするときに、2Nなどに設定しておけばよい。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【0067】
(実施形態7)
本実施形態は、ネットワーク20ごとに親局12を設けている場合に適用する技術であって、ネットワーク20の中で変圧器22にもっとも近い端末10は親局11になる。すなわち、ネットワーク20の間で静電結合や誘導結合がなければ、異なるネットワーク20の間で距離がもっとも近い端末10は親局11になる。このことから、異なるネットワーク20の間でクロストークが発生しているか否かは、親局11によって判断することが可能である。
【0068】
そこで、親局11に通信信号を受信した端末10に関するアクセステーブルを設けておき、アクセステーブルに記憶された情報に基づいて受信感度を決定してもよい。すなわち、アクセステーブルに、他のネットワーク20の端末10が記憶されている場合、あるいは同じ識別情報を備える端末10が重複して記憶されている場合に、親局11はクロストークが生じていると判断して受信感度を調節するのである。さらに、受信感度を調節した親局11は、ネットワーク20の中の子局12に対して、親局11の設定に従って受信感度を低減するように指示を与える。
【0069】
親局11に上述の機能を持たせると、判断部103(図1(b)参照)は親局11にのみ設けていればよく、子局12には不要になる。すなわち、子局12には感度調節部104(図1(b)参照)があればよく、判断部103を設ける場合よりも子局12の構成が簡単になる。とくに、マイコンでプログラムを実行することにより判断部103および感度調節部104を実現する場合には、子局12におけるマイコンの処理負荷が軽減されるという効果が得られる。他の構成および動作は実施形態1と同様であるから説明を省略する。
【符号の説明】
【0070】
10 端末
11 親局
12 子局
23 低圧配電線(通信路)
20 ネットワーク
103 判断部
104 感度調節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信信号を伝送する複数台の端末によりネットワークが構築され、前記ネットワークに含まれる少なくとも1台の前記端末は、通信の範囲外である通信信号を検出する判断部を備え、前記ネットワークに含まれる前記端末は、前記判断部が通信の範囲外である前記ネットワークの通信信号を検出したときに通信の範囲外である前記ネットワークの通信信号を受信しないように受信感度を低減させる感度調節部を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記ネットワークが複数設けられ、前記端末は前記ネットワークの範囲内を通信の範囲とすることを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記判断部および前記感度調節部は、前記端末ごとに設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の通信システム。
【請求項4】
前記判断部は、送信元である前記端末の識別情報が同一かつ信号レベルが異なる複数の通信信号を受信したときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項5】
前記判断部は、複数個の通信信号の信号レベルの分布を求め、信号レベルの分布に複数のピークが生じているときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項6】
前記判断部は、一定の計測期間におけるトラフィック量を計測し、トラフィック量が規定の境界値を超えるときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項7】
前記ネットワークは識別情報の重複が許容され、前記判断部は、前記ネットワークの識別情報および前記端末の識別情報が重複する通信信号を受信したときに、通信の範囲外である通信信号を検出したと判断することを特徴とする請求項2記載の通信システム。
【請求項8】
前記感度調節部は、通信の範囲内である前記端末が送信元であるときに当該端末からの通信信号を直接受信するように受信感度を調節することを特徴とする請求項1〜7記載の通信システム。
【請求項9】
前記ネットワークは、通信の範囲内においてマルチホップ通信が可能であって、前記感度調節部は、マルチホップ通信において隣接する前記端末からの通信信号が受信可能であり、かつ隣接していない前記端末からの通信信号が受信不能になるように受信感度を調節することを特徴とする請求項1〜7記載の通信システム。
【請求項10】
前記判断部は、通信の範囲外である通信信号の信号レベルを用いて前記感度調節部に指示する受信感度を決定することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項11】
前記ネットワークに含まれる1台の前記端末は前記判断部を備える親局であり、前記ネットワークに含まれる残りの前記端末は前記判断部を備えていない子局であって、前記判断部は、通信の範囲外である通信信号を検出すると、決定した受信感度を前記親局から前記子局に通知し、前記子局に前記感度調節部の感度を調節させることを特徴とする請求項10記載の通信システム。
【請求項12】
前記感度調節部は、受信感度を複数段階から選択する機能と、受信感度を低減させた時点から規定の一定時間が経過した後に受信感度を1段階だけ上昇させる機能とを備えたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項13】
前記感度調節部は、受信感度を初期値に対して低減させる機能と、定められた時間間隔ごとに規定した一定時間だけ受信感度を初期値に戻す機能と、受信感度が初期値に戻されている期間に前記判断部に通信の範囲外である通信信号の有無を検出させる機能とを備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項14】
通信信号を伝送しネットワークを構築する端末であって、通信の範囲外である通信信号を検出する判断部と、前記判断部が通信の範囲外である前記ネットワークの通信信号を検出したときに通信の範囲外である前記ネットワークの通信信号を受信しないように受信感度を低減させる感度調節部とを備えることを特徴とする端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−244540(P2012−244540A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114869(P2011−114869)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】