説明

通信システム並びに通信装置

【課題】多値PSK又は多値QAMにより反射波伝送を高速化する。
【解決手段】アンテナと高周波スイッチと間に可変高周波アッテネータが配置されている。振幅方向の半分の値を可変高周波アッテネータで決定し、残り半分は高周波スイッチをオン/オフ操作して位相を180度回転させることによって、多値PSKの反射波を生成する。アンテナで受信した電波は可変高周波アッテネータでデータに従った4レベルの減衰をさせられ、高周波スイッチでPSK変調され、結果8値のPSK信号を生成する。さらに直交変調することにより多値QAM信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自ら電波の発生源を持たない端末(トランスポンダ)がホスト(リーダライタ)との間で非接触によりデータ伝送を行なう通信システム並びに通信装置に係り、特に、無変調波に対し変調処理を施した反射波によりデータを送信する反射器(トランスポンダ)と、反射器からの変調反射波信号からデータを読み取る反射波読取器(リーダライタ)からなる、反射波伝送(バックスキャッタ)方式の通信システム並びに通信装置に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、周波数帯域を広げることなく反射波伝送を高速化する通信システム並びに通信装置に係り、特に、多値化により反射波伝送を高速化する通信システム並びに通信装置に関する。
【背景技術】
【0003】
自ら電波の発生源を持たず無線でデータを送信する通信システムとしてRFID(Radio Frequency IDentification)と呼ばれる非接触通信システムが知られている。RFIDの他の呼び方として、「IDシステム」や「データ・キャリア・システム」などがあるが、世界的に共通なのがRFIDシステム、略してRFIDである。日本語に訳すると「高周波(無線)を使用した認識システム」となる。RFIDシステムは、タグとも呼ばれるトランスポンダと、トランスポンダにアクセスするリーダライタとから構成され、トランスポンダはリーダライタ側から電波をエネルギ源として受動的に動作し、リーダライタはトランスポンダ内に格納された情報の読み取りや情報の書き込みを行なう。
【0004】
RFIDシステムにおける非接触の通信方法には、静電結合方式、電磁誘導方式、電波通信方式などが挙げられる。このうち電波通信方式のRFIDシステムでは、トランスポンダは無変調波に対し変調処理を施した反射波によりデータを送信する反射器を備え、リーダライタは反射器からの変調反射波信号からデータを読み取る反射波読取器を備え、「バックスキャッタ」とも呼ばれる反射波伝送を行なう。反射器は、反射波読取器から無変調波が送られてくると、アンテナ負荷インピーダンスの切り替え操作などに基づいてその反射波に変調を施して送信データを重畳する。すなわち、反射器側ではデータ送信に際してキャリア発生源が不要であることから、低消費でデータ伝送動作を駆動する。そして、反射波読取器側では、このような変調反射波を受信し、復調並びに復号処理して伝送データを取得することができる。
【0005】
反射器は、基本的には、入射する連続波の電波を反射させるアンテナと、送信データの発生回路と、送信データに対応させてアンテナの負荷インピーダンスを変化させるインピーダンス変化回路で構成される。インピーダンス変化回路は、例えばアンテナの終端をオープン/グランドに切り替えるアンテナ・スイッチである。このアンテナ・スイッチを、通信回路モジュールに組み込んでCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)トランジスタで構成することもできるが、回路モジュールとは切り離して、ガリウム砒素(GaAs)のIC(Integrated Circuit)で構成することで、低消費電力で高速な切り替え動作が可能となる。後者の場合、反射波変調によるデータ伝送レートが向上するとともに、その消費電力は数10μW以下に抑制される。したがって、無線LAN(Local Area Network)では通信時に数百mW〜数W程度の電力を消費することを考慮すると、反射波通信は一般的な無線LANの平均消費電力と比較すると圧倒的な性能差を持つと言える(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0006】
また、反射器を搭載したトランスポンダは受信電波を反射する動作を行なうだけであるから、無線局とはみなされず、電波通信に課される法規制の対象外として扱われるという利点もある。また、旧来の非接触通信システムでは数MHz〜数百MHz(例えば13.56MHz)の周波数を用いるのに対し、反射波伝送方式では例えばISM(Industrory Science and Medical Band)と呼ばれる2.4GHz帯(マイクロ波)の高帯域を用いた高速なデータ伝送を実現することができる。
【0007】
反射波伝送を利用した通信システムの適用例として、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラなどのデータ・ソースとなる端末にトランスポンダとしての反射器を搭載し、テレビやプリンタなどのホストが反射波読取器機能を備えて、静止画や動画などのデータを反射波伝送によりアップロードし、表示やプリントアウトの処理を行なうことが挙げられる。
【0008】
図8には、反射波伝送システムにおいてデータの送信元となる反射器の構成を示している。図示の反射器10は、アンテナ11と、アンテナ・スイッチ12と、アンテナ負荷13と、バンド・パス・フィルタ14と、ASK検波部15とで構成される。無線電波の周波数としてISMと呼ばれる2.4GHz帯を用いているものとする。
【0009】
アンテナ・スイッチ12がオンのときは、アンテナ11は50Ωのアンテナ負荷13で終端され、オフのときは、アンテナ11はオープンとなる。このようなスイッチング動作により、反射波読取器から到来する無変調搬送波に対して、オンのときは終端、オフのときは反射の振る舞いを行ない、反射波に対して変調処理を施すことができる。
【0010】
通信制御部16は、上位層アプリケーション(図示しない)によって生成される送信データを受け取ると、データのビット・イメージに従ってアンテナ101に接続されたアンテナ・スイッチ12のオン/オフ動作を行なう。例えば、データが1のときはアンテナ・スイッチ12をオンに、データが0のときオフとする。すなわち、送信データは、アンテナ・スイッチ12のオン/オフ操作に伴うアンテナ負荷インピーダンスの変動によって変調された反射波信号として送信される。
【0011】
なお、バンド・パス・フィルタ(BPF)14並びにASK検波部15は、転送先からASK変調された送達確認信号(若しくはデータ)の受信時に用いるが、この2つのブロックは、伝送の送達確認を行なわない一方向の伝送であれば不要となる。
【0012】
また、図9には、反射波伝送システムにおいてデータの受信先となる反射波読取器機能を備えた情報機器20のハードウェア構成を示している。
【0013】
情報機器20は、2.4GHz帯のアンテナ21と、送受信動作に応じてアンテナ21を択一的に接続するアンテナ・スイッチ若しくはその代替となるサーキュレータ22と、受信部23と、送信部26と、ベースバンド制御部30、復号部31と、復号後の受信データに関するさまざまな演算処理を実行する情報処理部32を備えている。
【0014】
反射器10からの反射波信号を読み取るために、反射波読取器からは、反射波を作り出すための無変調搬送波を送信する必要がある。この場合、受信部23は直交検波部24とAGCアンプ25からなり、また、送信部26はミキサ27とパワー・アンプ28からなり、さらに周波数シンセサイザ29を備えている。
【0015】
送信部26から無変調搬送波を送信するためには、ベースバンド(BB)制御部30からミキサ27に対してある直流電圧を与えることにより実現される。送信する無変調搬送波の周波数は、ベースバンド制御部30から制御される周波数シンセサイザの周波数で決まるが、ここでは2.4GHz帯を用いている。ミキサ27から出力される無変調波は、パワー・アンプ28にて所定のレベルまで増幅され、サーキュレータ22経由でアンテナ21より送出される。
【0016】
反射器10からの反射波信号は、情報機器20内に搭載された反射波読取器自身から送信される無変調搬送波の周波数と同じである。この反射波信号は、アンテナ21で受信され、サーキュレータ22経由で上述した受信部23に入力される。直交検波部24には、送信時と同じローカル周波数が入力されるため、直交検波部24の出力には、反射器10で掛けられたASK変調波が現れることになる。但し、受信した信号はローカル信号と位相が異なるため、I軸信号とQ軸信号には、その位相差に応じた変調信号が現われる。
【0017】
AGCアンプ部25では、最適値にゲインを制御され、その出力信号はベースバンド制御部30に渡される。ベースバンド制御部30では、I軸及びQ軸の各信号よりデジタル・データへの復調を行ない、復号部31により正しいデータに復号化する。その後、復号データは、情報処理部32にてデータ・コンテンツの再生や保存を始めさまざまな処理が施される。
【0018】
反射器10に対するデータの送達確認を行なう場合、ベースバンド制御部30は、受信したパケット・データが正しければ肯定応答のAckを、誤っていれば否定応答のNackのデジタル・データをミキサ27に転送し、ASK変調をかける。データの正誤は、画像データ・パケットに付加されたCRC(CyclicRedundancy Check)符号で判断する。
【0019】
上述した反射波伝送動作では、反射器10から送出される反射波信号はASK(Amplitude Shif Keying)変調波と等価である。また、反射波を生成するその他の変調方式としてPSK(Phase Shift Keying)が挙げられる。
【0020】
図10には、PSKによる反射波を生成する反射器の構成を示している。00はアンテナ、101は高周波スイッチでダイオードやガリウム砒素のFETなどで構成される。λ/4(但し、λは使用波長とする)の位相器としてのストリップ線路102は片側がオープンであるから、高周波スイッチ101をオンしたとき、アンテナ100は高周波的にグランドに設置された形となる。高周波スイッチ101は送信データ(TX_DATA)でオン/オフ操作され、オンのときにショート、オフのときにオープンに制御される。これによって、アンテナ100への到来電波は、送信データに従い反射端がショートとオープンに制御されることによって、その反射波にPSK変調を掛けることができる。
【0021】
ところが、ASKやPSKなどの比較的ビットレートの低い変調方式を採用すると、伝送速度の面で問題がある。
【0022】
例えば、いずれの位相器も通過せずに受信電波を直接反射する第1の反射波を得る第1の信号路と、λ/4の位相差を与える位相器を直列接続し前記第1の反射波と比較してπ/2だけ位相がシフトした第2の反射波を得る第2の信号路と、λ/2の位相差を与える位相器を直列接続し前記第1の反射波と比較してπ だけ位相がシフトした第3の反射波を得る第3の信号路と、3λ/4の位相差を与える位相器を直列接続し前記第1の反射波と比較して3π/2だけ位相がシフトした第4の反射波を得る第4の信号路を備え、送信データを2ビットずつに区切り、2ビットの0と1の組み合わせに応じた信号路を選択して反射波に位相を割り当てて、QPSK変調を行なう通信装置について提案がなされている(例えば、特許文献2を参照のこと)。
【0023】
また、片道でλ/8の位相差を与える第1乃至第3の位相器が前記アンテナに対し直列的に接続され、いずれの位相器も通過せずに受信電波を直接反射する第1の反射波を得る第1の信号路と、前記第1の位相器のみを往復し前記第1の反射波と比較してπ/2だけ位相がシフトした第2の反射波を得る第2の信号路と、前記第1及び第2の位相器を往復し前記第1の反射波と比較してπだけ位相がシフトした第3の反射波を得る第3の信号路と、前記第1乃至第3の位相器を往復し前記第1の反射波と比較して3π/2だけ位相がシフトした第4の反射波を得る第4の信号路を備え、データ2ビットの値に従って相互に90度ずつ位相の異なる4つの位相を有する反射波を作ることにより、QPSK変調された反射波を作る通信装置について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。
【0024】
これらの、反射波伝送にQPSK変調方式を採り入れた通信システムによれば、ASKやPSKに比べてより高いデータ通信の伝送レートを実現することができる。
【0025】
しかしながら、PSK変調では帯域幅を広くしない限り伝送速度を上げることは不可能であり、周波数の枯渇が問題視されている現在では、周波数の有効利用という観点からも問題である。
【0026】
【特許文献1】特開2005−064822号公報
【特許文献2】特開2005−136666号公報
【特許文献3】特開2005−136943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、無変調波に対し変調処理を施した反射波によりデータを送信する反射器(トランスポンダ)と、リーダライタは反射器からの変調反射波信号からデータを読み取る反射波読取器(リーダライタ)からなる、反射波伝送(バックスキャッタ)方式の優れた通信システム並びに通信装置を提供することにある。
【0028】
本発明のさらなる目的は、多値化により反射波伝送を高速化することができる、優れた通信システム並びに通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、無変調波に対し変調処理を施した反射波によりデータを送信する反射器と、リーダライタは反射器からの変調反射波信号からデータを読み取る反射波読取器からなる、バックスキャッタ方式の通信システムであって、
前記反射器は、転送先から到来する電波を受信するアンテナと、前記アンテナによる受信電波に対する反射波の位相を送信データに応じて制御する位相制御手段と、前記位相制御手段により位相振幅が掛けられた反射波に対して送信データに応じた振幅方向の制御を行なう振幅制御手段を備え、多値位相変調した反射波信号によりデータ送信を行ない、
前記反射波読取器は、無変調波を送信するとともに、前記反射器からの多値位相変調された反射波信号を復調処理する、
ことを特徴とする通信システムである。
【0030】
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【0031】
本発明は、電波の反射技術を利用した無線伝送システムに関するものであり、データを重畳させた反射波を反射波伝送する反射器と、反射器からの反射波からデータを読み取る反射波読取器で構成される。反射器側からデータ伝送するときには、反射波読取器が無変調搬送波を送信し、反射器は、例えばアンテナの終端のオン/オフなどの負荷インピーダンス操作を用い、無変調搬送波に対し伝送データに応じた変調処理を施すことで、データを送出する。そして、反射波よみとり器側では、この反射波を受信し復調・復号処理して伝送データを取得することができる。
【0032】
反射波伝送システムによれば、反射器側ではガリウム砒素のICなどで構成されるアンテナ・スイッチの切り替えにより反射波信号を送出することができるので、極めて低い消費電力でデータ伝送を行なうことができ、一般的な無線LANに比べると圧倒的な性能差である。とりわけ、反射器を搭載した機器から反射波読取器を搭載した機器への一方向の送信比率が通信のほとんどを占めるような通信形態において効果的である。
【0033】
しかしながら、バックスキャッタの反射波を生成する変調方式としてASKやPSKを適用すると、伝送速度が不十分であるという問題がある。PSK変調では帯域幅を広くしない限り伝送速度を上げることは不可能であり、周波数の枯渇が問題視されている現在では、周波数の有効利用という観点からも問題である。
【0034】
これに対し、本発明を適用した反射波伝送システムでは、反射器としての通信装置は、受信電波に対する反射波の位相を送信データに応じて制御する位相制御手段と、この位相制御手段によって位相振幅が掛けられた反射波に対して送信データに応じた振幅方向の制御を行なう振幅制御手段を備え、多値位相変調により反射波信号を生成するようにしている。
【0035】
より具体的には、位相制御手段は、前記アンテナとグランドの間に接続されたダイオード又はガリウム砒素のFETからなるアンテナ・スイッチ及びλ/4(但し、λは使用波長とする)を備え、送信データのビット・イメージに応じて前記アンテナ・スイッチをオン/オフ制御して高周波的なオープン、ショートを生成し、前記反射波の位相を180度制御するようになっている。
【0036】
一方、振幅制御手段は、前記アンテナと前記アンテナ・スイッチの間に装荷された可変高周波アッテネータを備え、送信データのビット・イメージに応じて前記可変高周波アッテネータへの制御電圧を複数レベルに切り換えて、前記反射波の減衰量を制御するようになっている。
【0037】
したがって、反射器は、4値を振幅制御するとともに2値を位相制御することで8値PSKの変調反射波の生成を実現することができる。
【0038】
また、本発明に係る反射波伝送システムにおける反射器は、第1の信号線路と、第1の信号線路とは往復で90度の位相差を持つQ軸用の第2の信号線路を備え、これらの信号線路を、分配器を介してアンテナに接続するように構成することができる。
【0039】
ここで、第1の信号線路は、アンテナとグランドの間に接続された第1のアンテナ・スイッチ及びλ/4(但し、λは使用波長とする)の第1の位相器と、アンテナと第1のアンテナ・スイッチ間に第1の可変高周波アッテネータを接続してなり、1軸信号の反射波を生成するために用いる。また、第2の信号線路は、アンテナとグランドの間に接続された第2のアンテナ・スイッチ及びλ/4の第2の位相器と、アンテナと第2のアンテナ・スイッチ間にλ/8の位相器及び第2の可変高周波アッテネータを接続してなり、Q軸信号の反射波を生成するために用いる。
【0040】
そして、位相制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記第1及び第2のアンテナ・スイッチをオン/オフ制御して高周波的なオープン、ショートを生成し、前記第1及び第2の信号線路からの各反射波の位相をそれぞれ180度制御する。また、振幅制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記可変高周波アッテネータへの制御電圧を複数レベルに切り換えて、前記反射波の減衰量を制御する。
【0041】
このようにして、多値のQAM信号を生成することができる。例えば、I軸用となる第1の信号線路を用いた8値PSKと、Q軸用となる第2の信号線路を用いた8値PSKとを独立して行なうこと、すなわち8値PSKに対してさらに直交変調を加えることにより、64QAMの変調反射波を生成することができる。
【0042】
本発明によれば、反射器としてデータ送信する通信装置は、可変高周波アッテネータと高周波スイッチの組み合わせによって容易に多値PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)又は多値QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)のバックスキャッタによる高速な反射波を生成することが可能であり、高速な反射波伝送を実現することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、多値化により反射波伝送を高速化することができる、優れた通信システム並びに通信装置を提供することができる。
【0044】
本発明によれば、多値PSK又は多値QAMにより反射波伝送を高速化することができる、優れた通信システム並びに通信装置を提供することができる。
【0045】
本発明によれば、反射器側では、可変高周波アッテネータと高周波スイッチの組み合わせによって容易に多値PSK又は多値QAMのバックスキャッタによる高速な反射波を生成することが可能であり、高速な反射波伝送を実現することができる。
【0046】
本発明によれば、バックスキャッタによる反射波の生成を超停消費電力で行なうことが可能であることから、デジタルカメラや携帯電話などバッテリで駆動するモバイル機器による高速伝送にも好適に適用することができる。
【0047】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0049】
図1には、多値PSK反射波生成を行なう反射器の構成例を示している。図10に示した反射器と同様に、アンテナ100と、ダイオードやガリウム砒素のFETなどで構成される高周波スイッチ101を備えている。λ/4(但し、λは使用波長とする)の位相器としてのストリップ線路102は片側がオープンであるから、高周波スイッチ101をオンしたとき、アンテナ100は高周波的にグランドに設置された形となる。高周波スイッチ101は送信データ(TX_DATA)でオン/オフ操作され、オンのときにショート、オフのときにオープンに制御される。これによって、アンテナ100への到来電波は、送信データに従い反射端がショートとオープンに制御されることによって、その反射波にPSK変調を掛けることができる。
【0050】
図1に示した反射器が図10と大きく異なる点は、可変高周波アッテネータ200を装備したことである。可変高周波アッテネータ200は、ダイオードで構成され、直流電圧によって減衰量を制御する回路部品であるが(周知)、アンテナ100と高周波スイッチ101と間に配置されている。この可変高周波アッテネータ200によってPSKの振幅方向の制御を行なうことになる。
【0051】
高周波スイッチ101は、上述したように、位相器としてのストリップ線路102を使って高周波的なオープン、ショートを生成し、位相を180度制御する。したがって、振幅方向の半分の値を可変高周波アッテネータ200で決定し、残り半分は高周波スイッチ101をオン/オフ操作して位相を180度回転させることによって、多値PSKの反射波を生成することができる。さらに、アンテナ100で受信した電波は可変高周波アッテネータ200でデータに従った4レベルの減衰をさせられ、高周波スイッチ101でPSK変調され、この結果、合計で8値のPSK信号を生成することが可能となる。
【0052】
図2には、振幅方向の4つのレベルを作るための可変高周波アッテネータ200による反射波の減衰量を示している。図示のように、可変高周波アッテネータ200は、制御電圧51で減衰量はATT1となり、同様に制御電圧52で減衰量はATT2、制御電圧53で減衰量はATT3、制御電圧54で減衰量はATT4となる。
【0053】
変換部201は、送信データ(TX_DATA)と送信クロック(TX_CLK)に従って、可変高周波アッテネータ200に対する制御電圧V1〜V4を生成する。また、変換部201は、送信データ(TX_DATA)と送信クロック(TX_CLK)に従って、高周波スイッチ101のオン/オフ制御Ctも行なう。
【0054】
図3には、図1に示した反射器による変調反射波の8値PSKの信号配置を示している。8値PSKなので、1符号点につき3ビットのデータをマッピングすることが可能である。信号配置の右半分又は左半分の4つのレベルは可変高周波アッテネータ200で制御され、左右4点のどちらにするかは高周波スイッチ101で制御される。図示の例では、変換部201でグレイ符号化を行ない、隣り合う符号との違いが1ビットになるようにマッピングしている。これは復調側で隣接符号に間違って判断された場合でも誤りを最小にするという効果がある。
【0055】
また、下表には、3ビットの送信データと可変高周波アッテネータ200の制御電圧5cと、高周波スイッチ101の制御信号Ctとの関係を示している。
【0056】
【表1】

【0057】
要するに、図1に示した反射器は、4値を振幅制御するとともに2値を位相制御することで8値PSKの変調反射波の生成を実現するものである。
【0058】
図4には、可変高周波アッテネータ200に対し直流の制御電圧Vcの4値の入力と、その際の受信側(反射波読取器)での同期検波出力される8値PSKのアイパターン(Eye pattern)をそれぞれ示している。同図から、図1に示した反射器によって生成される8値PSKの反射波は受信側で復調可能であることが分かる。
【0059】
これまでの説明により、高周波アッテネータと高周波スイッチで簡単に高速な多値PSK変調波を生成することが可能であることを理解できよう。
【0060】
図5には、多値(64)QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)を行なう反射器の構成例を示している。図1に示した構成例と異なる点は、アンテナ100より入力された信号を分配器300で分配した後に、一方をλ/8の位相器としてのストリップ線路302にて往復90度の位相差を作り、2つの直交するキャリアを作り、それぞれを図1に示した反射器と同様の位相制御及び減衰制御の操作を行なうことで反射波を変調することである。
【0061】
参照番号102及び305はλ/4の位相器としてのストリップ線路であり、高周波スイッチ101、304がオンのときに、高周波的にショートにするために設けられる。
【0062】
また、変換器301は、図1に示した8値PSKでの変換部201を64QAM用に変更したものであり、送信データ(TX_DATA)と送信クロック(TX_CLK)に従い、I(Inphase)軸上での可変高周波アッテネータ200の制御電圧5diと、高周波スイッチ101の制御信号Cti、及びQ(Quadrature phase)軸上での可変高周波アッテネータ303の制御電圧5dqと、高周波スイッチ101の制御信号Ctqを生成する。I軸上での可変高周波アッテネータ200と高周波スイッチ101で生成された8値PSKと、Q軸上での可変高周波アッテネータ303と高周波スイッチ304で生成された8値PSKは独立になるので、図5に示した反射器は64QAMの反射波を生成することになる。
【0063】
図6には、図5に示した反射器によって生成される反射波信号の64QAMの信号配置例を示している。同図から、図3に示した8値PSKをIQで独立させて信号点を増やしてさらなる高速化が実現できることを理解できよう。変換部301での各制御信号Vdi、Vdq、Cti、Ctqの生成方法は、基本的に図1に示した反射器の動作例(Vc、Ctの生成方法)に従う。ここでは本質ではないので詳細は省略する。
【0064】
図1に示した反射器は、4値を振幅制御するとともに2値を位相制御することで8値PSKの変調反射波の生成を実現するものである。これに対し、図5に示した反射器は、8値PSKに対してさらに直交変調を加えることにより、64QAMの変調反射波を生成することができる訳である。
【0065】
図7には、図1に示したような反射器から送出される多値PSKの反射波信号や、図5に示した反射器から送出される多値QAMの反射波信号を受信処理する反射波読取器の構成例を示している。
【0066】
図示の反射波読取器400は、2.4GHz帯のアンテナ401と、サーキュレータ402と、受信部403と、送信部406と、周波数シンセサイザ409と、通信制御部410と、ホスト・インターフェース部411で構成される。さらに、受信部403は、直交検波部404とAGCアンプ405で構成され、送信部406は、ミキサ408とパワー・アンプ407で構成される。また、ホスト・インターフェース部411は、PC(パーソナル・コンピュータ)などのホスト機器(図示しない)に接続され、受信したデータを転送する。
【0067】
反射波読取器400から無変調波を送信するためには、通信制御部410からミキサ408に対してある直流電圧を与えることにより実現される。送信する無変調キャリアの周波数は通信制御部410から制御される周波数シンセサイザの周波数で決まる。図示の例では、2.4GHz帯を用いている。ミキサ408出力の無変調キャリアは、パワー・アンプ407にて所定のレベルまで増幅され、サーキュレータ402経由でアンテナ401より送出される。
【0068】
図1又は図5に示した反射器からの反射波は、送信部406から送信される周波数と同じである。この反射波は、アンテナ401で受信され、サーキュレータ402経由で受信部403に入力される。直交検波部404には送信と同じローカル周波数が入力されるので、直交検波部404の出力には、多値PSK、又は多値QAM変調波が現れることになる。但し、受信した信号はローカル信号と位相が異なるため、I軸とQ軸にはそれぞれの位相差に応じた変調信号が現われる。
【0069】
AGCアンプ部405では最適値にゲインを制御され、その出力信号は、通信制御部410に渡される。
【0070】
通信制御部410では、2つのI軸及びQ軸信号より同期検波を行ない、デジタル・データへの復調を行なう。そして、正しく復調されたデータはホスト・インターフェース部411経由でホスト機器に転送される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0072】
本発明によれば、バックスキャッタによる反射波の生成を調停消費電力で行なうことが可能であることから、デジタルカメラや携帯電話などバッテリで駆動するモバイル機器による高速伝送にも好適に適用することができる。
【0073】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、多値PSK反射波生成を行なう反射器の構成例を示した図である。
【図2】図2は、振幅方向の4つのレベルを作るための可変高周波アッテネータによる反射波の減衰量を示した図である。
【図3】図3は、図1に示した反射器による変調反射波の8値PSKの信号配置を示した図である。
【図4】図4は、可変高周波アッテネータ200に対し直流の制御電圧Vcの4値の入力と、その際の受信側での同期検波出力される8値PSKのアイパターンをそれぞれ示した図である。
【図5】図5は、64QAMを行なう反射器の構成例を示した図である。
【図6】図6は、図5に示した反射器によって生成される反射波信号の64QAMの信号配置例を示した図である。
【図7】図7は、図1に示したような反射器から送出される多値PSKの反射波信号や、図5に示した反射器から送出される多値QAMの反射波信号を受信処理する反射波読取器の構成例を示した図である。
【図8】図8は、反射波伝送システムにおいてデータの送信元となる反射器の構成を示した図である。
【図9】図9は、反射波伝送システムにおいてデータの受信先となる反射波読取器機能を備えた情報機器20のハードウェア構成を示した図である。
【図10】図10は、PSKによる反射波を生成する反射器の構成を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
100…アンテナ
101…高周波スイッチ
102…λ/4のストリップ線路
200…可変高周波アッテネータ
201…変換部
300…分配器
301…変換部
302…λ/8のストリップ線路
303…可変高周波アッテネータ
304…高周波スイッチ
305…λ/4のストリップ線路
400…反射波読取器
401…アンテナ
402…サーキュレータ
403…受信部
404…直交検波部
405…AGCアンプ
406…送信部
407…パワー・アンプ
408…ミキサ
409…周波数シンセサイザ
410…通信制御部
411…ホスト・インターフェース部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無変調波に対し変調処理を施した反射波によりデータを送信する反射器と、リーダライタは反射器からの変調反射波信号からデータを読み取る反射波読取器からなる、バックスキャッタ方式の通信システムであって、
前記反射器は、転送先から到来する電波を受信するアンテナと、前記アンテナによる受信電波に対する反射波の位相を送信データに応じて制御する位相制御手段と、前記位相制御手段により位相振幅が掛けられた反射波に対して送信データに応じた振幅方向の制御を行なう振幅制御手段を備え、多値位相変調した反射波信号によりデータ送信を行ない、
前記反射波読取器は、無変調波を送信するとともに、前記反射器からの多値位相変調された反射波信号を復調処理する、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記アンテナとグランドの間に接続されたダイオード又はガリウム砒素のFETからなるアンテナ・スイッチ及びλ/4(但し、λは使用波長とする)の位相器と、前記アンテナと前記アンテナ・スイッチ間に可変高周波アッテネータを接続してなる信号線路を備え、
前記位相制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記アンテナ・スイッチをオン/オフ制御して高周波的なオープン、ショートを生成し、前記反射波の位相を180度制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記振幅制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記可変高周波アッテネータへの制御電圧を複数レベルに切り換えて、前記反射波の減衰量を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記反射器は、
分配器を介して前記アンテナから分岐する、前記アンテナとグランドの間に接続された第1のアンテナ・スイッチ及びλ/4(但し、λは使用波長とする)の第1の位相器と、前記アンテナと前記第1のアンテナ・スイッチ間に第1の可変高周波アッテネータを接続してなるI軸用の第1の信号線路と、
前記アンテナとグランドの間に接続された第2のアンテナ・スイッチ及びλ/4の第2の位相器と、前記アンテナと前記第2のアンテナ・スイッチ間にλ/8の位相器及び第2の可変高周波アッテネータを接続してなり、前記第1の信号線路に対して往復で90度の位相差を持つQ軸用の第2の信号線路を備え、
前記位相制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記第1及び第2のアンテナ・スイッチをオン/オフ制御して高周波的なオープン、ショートを生成し、前記第1及び第2の信号線路からの各反射波の位相をそれぞれ180度制御し、
前記振幅制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記可変高周波アッテネータへの制御電圧を複数レベルに切り換えて、前記反射波の減衰量を制御して、多値のQAM信号を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項5】
受信電波の反射を利用したバックスキャッタ方式によりデータ通信を行なう通信装置であって、データ送信部は、
転送先から到来する電波を受信するアンテナと、
前記アンテナによる受信電波に対する反射波の位相を送信データに応じて制御する位相制御手段と、
前記位相制御手段により位相振幅が掛けられた反射波に対して送信データに応じた振幅方向の制御を行なう振幅制御手段と、
を具備することを特徴とする通信装置。
【請求項6】
前記位相制御手段は、前記アンテナとグランドの間に接続されたダイオード又はガリウム砒素のFETからなるアンテナ・スイッチ及びλ/4(但し、λは使用波長とする)の位相器を備え、送信データのビット・イメージに応じて前記アンテナ・スイッチをオン/オフ制御して高周波的なオープン、ショートを生成し、前記反射波の位相を180度制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記振幅制御手段は、前記アンテナと前記アンテナ・スイッチの間に装荷された可変高周波アッテネータを備え、送信データのビット・イメージに応じて前記可変高周波アッテネータへの制御電圧を複数レベルに切り換えて、前記反射波の減衰量を制御する、
ことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
分配器を介して前記アンテナから分岐する、前記アンテナとグランドの間に接続された第1のアンテナ・スイッチ及びλ/4(但し、λは使用波長とする)の第1の位相器と、前記アンテナと前記第1のアンテナ・スイッチ間に第1の可変高周波アッテネータを接続してなるI軸用の第1の信号線路と、
前記アンテナとグランドの間に接続された第2のアンテナ・スイッチ及びλ/4の第2の位相器と、前記アンテナと前記第2のアンテナ・スイッチ間にλ/8の位相器及び第2の可変高周波アッテネータを接続してなり、前記第1の信号線路に対して往復で90度の位相差を持つQ軸用の第2の信号線路を備え、
前記位相制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記第1及び第2のアンテナ・スイッチをオン/オフ制御して高周波的なオープン、ショートを生成し、前記第1及び第2の信号線路からの各反射波の位相をそれぞれ180度制御し、
前記振幅制御手段は、送信データのビット・イメージに応じて前記可変高周波アッテネータへの制御電圧を複数レベルに切り換えて、前記反射波の減衰量を制御し、
多値のQAM信号を生成することを特徴とする請求項5に記載の通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−232372(P2009−232372A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77872(P2008−77872)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】