説明

通信システム及び路側無線通信装置

【課題】道路方向に沿った指向性を持つ指向性アンテナを使用しなくても干渉を回避できるようにする。
【解決手段】路側無線通信装置2が、車載無線通信装置3に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムである。路側無線通信装置2は、第1道路Rと第2の道路R2とが交差する交差点J又はその近傍に設置された第1の水平面無指向性アンテナと、前記交差点J又はその近傍に設置された第2の水平面無指向性アンテナと、を備えている。第1道路R1に存在する車載無線通信装置3向けの第1情報が、第1の水平面無指向性アンテナ20Aから送信される。第2道路R2に存在する車載無線通信装置3向けの第2情報が、第2の水平面無指向性アンテナ20Bから送信される。さらに、第1情報と第2情報とは、異なる時間帯において送信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止などを目的として路上等に設置されたインフラ装置(路側無線通信装置)から車載機などの移動無線通信装置へ情報を送信するシステムが検討されている。車載機などの移動無線通信装置は、路側無線通信装置から送信された情報を活用することで、車両の安全性を向上させたり、利便性を向上させたりすることができる。そのようなシステムとして、特許文献1には、交差点に設置された路側無線通信装置から信号器の情報を車両に送信し、車両がその情報を活用して、ブレーキ制御を行うものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【特許文献2】特開2010−34947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の交差点それぞれに路側無線通信装置を設置した場合、隣接する路側無線通信装置が同じ時間帯に情報を送信すると、電波干渉が生じ、移動無線通信装置による受信が困難になる。
このため、複数の路側無線通信装置それぞれに異なるタイムスロット(時間帯)を割り当てておき、各路側無線通信装置は、割り当てられた時間帯で信号送信を行うことで、干渉を回避することが考えられる。ただし、無線通信は、路側無線通信装置だけでなく、車載無線通信装置も行うため、所定の時間内において設定可能なタイムスロットの数には、限りがあるため、限られた数のタイムスロットを、個々の路側無線通信装置に適切に割り当てることが必要となる。
【0005】
特に、路側無線通信装置の設置密度が高くなると、同一のタイムスロットが割り当てられた複数の路側無線通信装置からの送信信号が干渉しやすくなるため、多数の路側無線通信装置それぞれに対して、どのタイムスロットを割り当てるべきかという設定が非常に困難になる。
【0006】
ここで、2本の道路が交差する十字状の交差点に設置される路側無線通信装置の場合、交差点に接続する4方路それぞれに存在する車両に向けて情報を送信する必要がある。したがって、交差点に設置される路側無線通信装置のアンテナは、交差点から4方路すべてに向けて電波を放射する必要がある。
そして、4方路すべてに向けて電波を放射するには、図22(a)に示すように、路側無線通信装置のアンテナ100を、交差点の中央付近など、交差点に接続する4方路R1,R2,R3,R4すべてを見渡せる位置に設置すべきである。
【0007】
しかし、実際には、アンテナを設置するための構造物の有無など、個々の交差点における制約から、アンテナを交差点中央付近に設置できない場合もある。このため、図22(b)に示すように、交通信号灯器のアームなど、交差点中央からセットバックした位置に、アンテナを設置せざるを得ない場合も多くなる。
この場合、交差点の周囲に建物が設置されている場合、一つのアンテナだけでは、4方路R1,R2,R3,R4いずれかへ方向の見通しが悪くなり、4方路R1,R2,R3,R4すべてに均等に電波を放射するのが困難である。したがって、図22(b)に示すように、交差点中央からセットバックした位置に、2方路R1,R3用の第1アンテナ101と、他の2方路R2,R4用の第2アンテナ102を、それぞれ設置するしかない。
【0008】
一つの交差点に、複数のアンテナを設置することに関しては、特許文献2にて提案されている。特許文献2記載の発明では、複数のアンテナそれぞれが、道路方向に沿った指向性を持った指向性アンテナであり、不要な方向への指向性を持たない。さらに、特許文献2では、隣接する路側無線通信装置同士において、同一のタイムスロットで電波を放射する方向を異ならせることで、干渉を防止することが開示されている。
【0009】
しかし、特許文献2記載の発明では、アンテナは、道路方向に沿った指向性を持つ指向性アンテナである必要があり、水平面の全方向に電波を放射してしまう低コストのアンテナ(ダイポールアンテナなど)を使用することができない。
仮に、特許文献2記載の発明において、アンテナとして水平面無指向性のアンテナを使用した場合を想定すると、不要な方向へも電波放射が行われるため、隣接する路側無線通信装置同士において、同一のタイムスロットで電波を放射する方向を異ならせることができなくなる。この結果、特許文献2記載の発明において期待される干渉防止の効果を生じさせることができない。
【0010】
ところが、本発明者は、道路方向に沿った指向性を持つ指向性アンテナを使用しなくても干渉を回避することが可能であるという、特許文献2記載の発明からみると意外な着想を得て、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)すなわち、第1の観点からみた本発明は、路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムであって、前記路側無線通信装置は、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1の水平面無指向性アンテナと、前記交差点又はその近傍に設置された第2の水平面無指向性アンテナと、を備えている。
【0012】
上記本発明では、第1及び第2の水平面指向性アンテナという少なくとも2つのアンテナを備えているため、図22(b)に示すように、交差点中央よりもセットバックした位置に各アンテナを設置しても、第1及び第2の道路の両方に電波放射が可能であり、アンテナ設置の自由度が高くなる。
また、アンテナとしては、コスト高となる指向性アンテナを使用する必要がなくなるため、低コスト化を図ることができる。
【0013】
さらに、上記本発明では、前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報が、前記第1の水平面無指向性アンテナから送信され、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報が、前記第2の水平面無指向性アンテナから送信される。
上記のように両アンテナは、いずれも水平面無指向性アンテナであるため、水平面の全方向に電波放射が生じる。したがって、両アンテナが、各道路の見通しの良い交差点中央付近に設置されている場合、又は、交差点中央からセットバックして設置されていてもセットバック量が少ない場合には、交差する互いに交差する第1道路及び第2道路の双方に電波が届き得る。
【0014】
ところが、上記本発明では、上記のような各水平面無指向性アンテナからの電波の届き方にもかかわらず、第2の道路にも電波が届き得る第1の水平面無指向性アンテナからは、第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報が送信され、第1の道路にも電波が届き得る第2の水平面無指向性アンテナからは、第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報が送信される。さらに、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信される。
つまり、上記本発明では、各アンテナから電波が届く範囲よりも、各アンテナから送信される情報の提供が意図される範囲(通信サービス範囲)が、わざと限定されて狭くなっている。
そして、情報の提供が意図されていない範囲においては、電波干渉が生じたとしても、路側無線通信装置からの情報提供には支障がない。したがって、アンテナとして、水平面指向性アンテナを用いても、道路毎に異なる時間帯で情報を送信するという運用が可能となる。
【0015】
(2)前記通信システムは、複数の前記路側無線通信装置を備え、複数の前記路側無線通信装置には、一の交差点又はその近傍に設置された第1の路側無線通信装置と、前記一の交差点に交差する前記第1の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第2の路側無線通信装置と、前記一の交差点に交差する前記第2の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第3の路側無線通信装置と、を含んでいるものとすることができる。
そして、前記第1の路側無線通信装置と前記第2の路側無線通信装置との離隔距離よりも、前記第1の路側無線通信装置と前記第3の路側無線通信装置との離隔距離の方を短くすることができる。
【0016】
第1の情報が提供される第1の道路の方向については、第1の情報が送信される時間帯において、電波干渉の発生自体を回避する必要がある。そこで、第1の道路方向に沿って並んで設けられる第1の路側無線通信装置と第2の路側無線通信装置との離隔距離は、電波干渉防止のため、比較的大きく設定すべきである。
これに対し、第2の情報が提供される第2の道路の方向については、第1の情報が送信される時間帯において電波干渉が生じても、何ら問題はない。つまり、第1の情報が送信される時間帯においては、第2の道路において情報が提供されることは、元々、意図されていない。したがって、第1の情報が送信される時間帯においては、電波干渉が生じても、情報が送信されていないのと変わるところがなく、電波干渉による実質的な弊害が生じにくい。したがって、第2の道路方向に沿って並んで設けられる第1の路側無線通信装置と第3の路側無線通信装置との離隔距離については、比較的小さくすることができる。
これにより、第3の路側無線通信装置については、第1の路側無線通信装置との離隔距離を大きくとる必要がなくなり、設置上の制約が少なくなって有利である。
【0017】
(3)前記第1の路側無線通信装置による通信サービス範囲と、前記第3の路側無線通信装置による通信サービス範囲とは、同一の時間帯において非重複となるように設定され、前記第1の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲と、前記第3の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲とは、一部重複していてもよい。この場合、第1の路側無線通信装置と第3の路側無線通信装置との離隔距離が、電波到達範囲が一部重複するほど小さくできる。
【0018】
(4)前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、が設定されており、
前記第1の情報を送信する前記第1の水平面指向性アンテナは、前記第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、前記第1通信サービス範囲外における前記第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、前記第2の情報を送信する前記第2の水平面指向性アンテナは、前記第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、前記第2通信サービス範囲外における前記第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであるのが好ましい。
【0019】
(5)前記第1情報と前記第2情報とは異なる内容を含んでいるのが好ましい。路側無線通信装置から送信される情報としては、例えば、第1の道路に存在する移動無線通信装置及び第2の道路に存在する移動無線通信装置の双方にとって有用な情報と、第1の道路に存在する移動無線通信装置だけに有用な情報と、第2の道路に存在する移動無線通信装置だけに有用な情報とが考えられる。したがって、例えば、第1情報には、第1の道路に存在する移動無線通信装置に有用な情報を含めるが、第2の道路に存在する移動無線通信装置だけに有用な情報は含めないものとすることができる。また、第2情報には、第2の道路に存在する移動無線通信装置に有用な情報を含めるが、第1の道路に存在する移動無線通信装置だけに有用な情報は含めないものとすることができる。
【0020】
(6)第2の観点からみた本発明は、路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムであって、前記路側無線通信装置は、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1のアンテナと、前記交差点又はその近傍に設置された第2のアンテナと、を備え、前記路側無線通信装置の通信サービス範囲として、前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、が設定されており、前記第1のアンテナは、前記第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、前記第1通信サービス範囲外における前記第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、前記第2のアンテナは、前記第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、前記第2通信サービス範囲外における前記第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、前記第1通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第1情報が、前記第1のアンテナから送信されるとともに、前記第2通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第2情報が、前記第2のアンテナから送信され、さらに、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信されることを特徴とする通信システムである。
【0021】
第2の観点からみた発明では、第1及び第2アンテナが、水平面無指向性アンテナでなくてもよい点で、第1の観点からみた発明と相違している。ただし、第2の観点からみた発明においても、第1のアンテナは、第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、第1通信サービス範囲外における第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、第2のアンテナは、第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、第2通信サービス範囲外における第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナである。つまり、アンテナとしては、特許文献2記載の発明のように、道路方向に沿った指向性を持つ指向性アンテナに限られず、比較的緩やかな指向性のあるアンテナでもよく、アンテナ選択の自由度が高まる。
なお、第2の観点からみた発明においても、第1の観点からみた発明と同様の運用が可能である。
【0022】
(7)第3の観点からみた本発明は、路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムであって、前記路側無線通信装置は、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置されたアンテナを備えているとともに、前記第1の道路の方向への電波放射及び前記第2の方向への電波放射が共通の前記アンテナから行われるように構成され、前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報と、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報とは、互いに異なる時間帯において、前記アンテナから送信されることを特徴とする通信システム。
【0023】
第3の観点からみた発明では、第1の道路と第2の道路に対して複数のアンテナから電波放射を行うのではなく、第1の道路及び第2の道路に対して共通のアンテナから電波放射が行われる点で、第1及び第2の観点からみた発明と相違する。交差点中央などの見通しのよい位置に、アンテナを設置できる場合には、第3の観点からみた発明における路側無線通信装置を設置する方が、アンテナ数を削減でき、コスト低減の観点から有利である。
そして、第3の観点からみた発明でも、第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報と、第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報とは、互いに異なる時間帯において、アンテナから送信される。このため、第3の観点からみた本発明でも、第1及び第2の観点からみた発明と同様の運用が可能である。
【0024】
(8)複数の前記路側無線通信装置を備え、複数の前記路側無線通信装置には、一の交差点又はその近傍に設置された第1の路側無線通信装置と、前記一の交差点に交差する前記第1の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第2の路側無線通信装置と、前記一の交差点に交差する前記第2の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第3の路側無線通信装置と、を含み、前記第1の路側無線通信装置と前記第2の路側無線通信装置との離隔距離よりも、前記第1の路側無線通信装置と前記第3の路側無線通信装置との離隔距離の方が短いのが好ましい。
【0025】
(9)前記第1の路側無線通信装置による通信サービス範囲と、前記第3の路側無線通信装置による通信サービス範囲とは、同一の時間帯において非重複となるように設定され、前記第1の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲と、前記第3の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲とは、一部重複しているのが好ましい。
【0026】
(10)前記路側無線通信装置の通信サービス範囲として、前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、が設定されているのが好ましい。
【0027】
(11)前記アンテナは、水平面無指向性アンテナであるのが好ましい。
【0028】
(12)前記第1情報と前記第2情報とは異なる内容を含んでいるのが好ましい。
【0029】
(13)第4の観点からみた本発明は、前記(1)又は(6)記載の通信システムにおける前記路側無線通信装置と、前記(7)記載の通信システムにおける前記路側無線通信装置と、を混在させて設置したことを特徴とする通信システムである。
【0030】
(14)第5の観点からみた本発明は、移動無線通信装置に対する情報送信を、路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う路側無線通信装置であって、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1の水平面無指向性アンテナと、前記交差点又はその近傍に設置された第2の水平面無指向性アンテナと、前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報を、前記第1の水平面無指向性アンテナから送信させるとともに、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報を、前記第2の水平面無指向性アンテナから送信させ、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信されるように制御する制御部と、を備えていることを特徴とする路側無線通信装置である。
【0031】
(15)第6の観点からみた本発明は、移動無線通信装置に対する情報送信を、路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う路側無線通信装置であって、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1のアンテナと、前記交差点又はその近傍に設置された第2のアンテナと、制御部と、を備え、前記路側無線通信装置の通信サービス範囲として、前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、が設定されており、前記第1のアンテナは、前記第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、第1通信サービス範囲外における第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、前記第2のアンテナは、前記第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、第2通信サービス範囲外における第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、前記制御部は、第1通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第1情報を、前記第1のアンテナから送信させるとともに、前記第2通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第2情報を、前記第2のアンテナから送信させ、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信されるように制御する、ことを特徴とする路側無線通信装置である。
【0032】
(16)第7の観点からみた本発明は、移動無線通信装置に対する情報送信を、路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う路側無線通信装置であって、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置されたアンテナを備えているとともに、前記第1の道路の方向への電波放射及び前記第2の方向への電波放射が共通の前記アンテナから行われるように構成され、前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報と、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報とは、互いに異なる時間帯において、前記アンテナから送信されることを特徴とする路側無線通信装置である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】通信システムのブロック図である。
【図2】タイムスロットの説明図である。
【図3】1周期内のタイムスロットの説明図である。
【図4】タイプAの路側通信機のアンテナ配置と通信サービス範囲を示す図である。
【図5】タイプAの路側通信機の通信サービス範囲と情報送信タイミングを示す図である。
【図6】タイムスロット割り当て例を示す図である。
【図7】第1道路方向における第1通信サービス範囲の配置図である。
【図8】第2道路方向における電波の干渉を示す図である。
【図9】第2道路方向における電波到達可能範囲と受信可能範囲を示す図である。
【図10】電波干渉等を考慮した典型的な受信可能範囲を示す図である。
【図11】タイムスロット割り当て例(比較例)を示す図である。
【図12】タイムスロット割り当て例(比較例)を示す図である。
【図13】タイムスロット割り当て例(比較例)を示す図である。
【図14】タイムスロット割り当て例(比較例)を示す図である。
【図15】タイムスロット割り当て例を示す図である。
【図16】タイムスロット割り当て例を示す図である。
【図17】通信サービス範囲の説明図である。
【図18】路側通信機の離隔間隔の説明図である。
【図19】路側通信機の離隔間隔の説明図である。
【図20】タイプBの路側通信機のアンテナ配置と情報送信タイミングを示す図である。
【図21】タイプA及びタイプBの路側通信機が混在した場合のタイムスロット割り当て例を示す図である。
【図22】アンテナ配置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔システムの全体構成〕
以下、本発明の実施形態に係る通信システムは、高度道路交通システム(ITS)における通信システムとして用いられる。高度道路交通システムは、通信システムを構成する複数の路側無線通信装置(以下、「路側通信機」という)2のほか、交通信号機、車載無線通信装置(以下、「車載通信機」という)3、中央装置4、及び、車両感知器や監視カメラ等よりなる路側センサ等を含む。図1は、路側通信機2を含む通信システムの構成を示している。
【0035】
路側通信機2は、複数の交差点それぞれに設置される。ここで、交差点とは、二以上の道路が交差する部分をいう。交差点は、例えば、十字状であってもよいし、T字状であってもよい。また、交差点は、三以上の道路が交差していてもよい。複数の路側通信機2は、通信回線を介して、交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
【0036】
〔中央装置〕
中央装置4は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなる制御部を有しており、この制御部は、路側通信機2や路側センサからの各種の交通情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。
具体的には、中央装置4の制御部は、自身の管轄下にある交差点の交通信号機に対して、同一道路上の交通信号機群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を行うことができる。
【0037】
また、中央装置4は、通信部を有しており、この通信部は、信号灯器の灯色切り替えタイミングに関する信号制御指令や、渋滞情報等を含む交通情報S2を、所定時間ごとに交通信号機及び路側通信機2に送信する。
信号灯器への信号制御指令は、前記系統制御や広域制御を行う場合の信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、路側通信機2への交通情報S2は、例えば5分ごとに送信される。
【0038】
また、中央装置4の通信部は、各交差点に対応する路側通信機2から、その通信機2が車載通信機3から受信した車両の現在位置等を含む車両情報S3と、車両通過時に生じるパルス信号よりなる車両感知器(図示せず)の感知情報と、監視カメラが撮影した道路のデジタル情報よりなる画像データとを受信している。
中央装置4の制御部は、通信部が取得したそれらの各種情報に基づいて、前記系統制御や広域制御を実行することができる。
【0039】
〔無線通信の方式等〕
複数の交差点それぞれに設置された複数の路側通信機2は、その周囲を走行する車両の車載通信機3との無線通信(路車(車路)間通信)が可能である。また、各路側通信機2は、他の路側通信機2とも無線通信(路路間通信)が可能である。
【0040】
本実施形態の高度道路交通システムでは、路側通信機2同士(路路間通信)については無線通信が用いられ、また、路側通信機2と車載通信機3との間(「路」から「車」への路車間通信と「車」から「路」への車路間通信との双方を含む。)と車載通信機3同士(車車間通信)についても、無線通信が用いられている。
なお、前記した通り、交通管制センターに設けられた中央装置4は、各路側通信機2と有線での双方向通信が可能となっているが、これらの間も無線通信であってもよい。
【0041】
路側通信機2には、自身が無線送信するための専用のタイムスロット(図4の第1スロットSL1)がTDMA方式で割り当てられており、このタイムスロット以外の時間帯(図2の第2スロットSL2)には無線送信を行わない。路側専用のタイムスロットSL1以外の時間帯SL2は、車載通信機3のためのCSMA方式による送信時間として開放されている。路側通信機2及び車載通信機3とは、同一周波数帯を通信に用いるが、上記のように路側通信機2と車載通信機3の送信時間帯が区別されていることで、路側通信機2による送信と車載通信機3による送信信号の衝突を回避できる。
【0042】
また、路側通信機2は、自身の送信タイミングを制御するために、他の路側通信機2との時刻同期機能を有している。この路側通信機2の時刻同期は、例えば、自身の時計をGPS時刻に合わせるGPS同期や、自身の時計を他の路側通信機2からの送信信号に合わせるエア同期等によって行われる。
【0043】
〔路側通信機〕
図1に示すように、路側通信機2は、無線通信のためのアンテナ20A,20Bが接続された無線通信部(送受信部)21と、中央装置4と双方向通信する有線通信部22と、それらの通信制御を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)等よりなる制御部23と、制御部23に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部24とを備えている。
【0044】
図1において、路側通信機2は、第1アンテナ20A及び第2アンテナ20Bの2本のアンテナ2を有している。ただし、路側通信機2のアンテナとしては、単一のアンテナ20Cであってもよい。本実施形態の通信システムにおいては、2本のアンテナを用いるタイプ(以下、「タイプA」という)の路側通信機2と、1本のアンテナを用いるタイプ(以下、「タイプB」という)の路側通信機2とを、混在させることが可能である。以下では、まず、タイプAの路側通信機2について説明し、その後、タイプBの路側通信機2について説明する。
【0045】
タイプAの路側通信機2のアンテナ20A,20Bとしては、水平面無指向性アンテナが採用されている。水平面無指向性アンテナとしては、例えば、ダイポールアンテナを採用できる。
【0046】
路側通信機2の記憶部24は、制御部23が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信機2,3の通信機ID及び後述するスロット情報S6等を記憶している。
制御部23は、有線通信部22が受信した中央装置4からの交通情報S2等を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、この交通情報S2等をペイロードに格納した送信データを、無線通信部21を介してブロードキャスト送信させる機能を有している。
また、制御部23は、無線通信部21が受信した車両情報S3を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、有線通信部22を介して中央装置4に転送する機能も有している。
【0047】
更に、データ転送部23Aは、自装置及び他装置が使用するタイムスロットの割当情報であるスロット情報S6を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、このスロット情報S6をヘッダ或いはペイロードに格納した送信データを、無線通信部21を介してブロードキャスト送信する。
【0048】
自装置2周辺を走行する車両の車載通信機3は、路側通信機2から上記スロット情報S6を受信すると、スロット情報S6に記された路側専用のタイムスロット(図2の第1スロットSL1)以外の時間帯(図2の第2スロットSL2)を利用して、キャリアセンス方式による無線送信を行う。
【0049】
[タイムスロット]
図2及び図3に示すように、交互に現れる2種類のタイムスロットSL1,SL2は、一定の周期C(例えば、100ミリ秒)内において、それぞれ所定数i(図3では、i=8)ほど生成される。
前述のように、第1スロットSL1は、路側通信機2に割り当てられるタイムスロットであり、この時間帯においては、路側通信機2による無線送信が許容される。第1スロットSL1にはスロット番号iが付されており、このスロット番号iは周期C内でインクリメント又はデクリメントされる。
また、第2スロットSL2は、車載通信機3用のタイムスロットである。この時間帯は車載通信機3による無線送信用として開放するため、路側通信機2は第2スロットSL2では無線送信を行わない。
【0050】
図2に示すタイムスロットにおいて、各スロット番号i=1〜3の第1スロットSL1に記したドット●は、当該第1スロットSL1に送信時間が割り当てられた路側通信機2の数を示している。
すなわち、図2においては、スロット番号1の第1スロットSL1には、2つの路側通信機2の送信時間が割り当てられ、スロット番号2の第1スロットSL1には、3つの路側通信機2の送信時間が割り当てられ、スロット番号3の第1スロットSL1には、1つの路側通信機2の送信時間が割り当てられている。
【0051】
同じ時間帯に複数の路側通信機2を、重複して割り当てるためには、同じタイムスロットSL1の当該路側通信機2同士の離隔距離がある適切に確保されている必要がある。同じタイムスロットSL1が割り当てられた路側通信機2同士の離隔距離については、後述する。
【0052】
〔車載通信機〕
図1に戻り、車載通信機3は、無線通信のためのアンテナ30に接続された通信部(送受信部)31と、この通信部31に対する通信制御を行うプロセッサ等よりなる制御部32と、この制御部32に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部33とを備えている。
記憶部33は、制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信装置2,3の通信機ID等を記憶している。
【0053】
車載通信機3の制御部32は、車車間通信のためのキャリアセンス方式による無線通信を通信部31に行わせるものであり、路側通信機2との間の時分割多重方式での通信制御機能は有していない。
従って、車載通信機3の通信部31は、所定の搬送波周波数の受信レベルを常時感知しており、その値がある閾値以上である場合は無線送信を行わず、当該閾値未満になった場合にのみ無線送信を行うようになっている。
【0054】
なお、車載通信機3の制御部32は、車両(車載通信機3)の現時の位置、方向及び速度等を含む車両情報S3を、通信部31を介して外部にブロードキャストで無線送信させている。
また、車載通信機3の制御部32は、他の車両から直接受信した車両情報S3や、路側通信機2から受信した他の車両5の車両情報S3に含まれる、位置、速度及び方向に基づいて、右直衝突や出合い頭衝突等を回避するための安全運転支援制御を行うことができる。
【0055】
[路側通信機のアンテナ配置と通信サービス範囲]
図4(a)は、第1の道路R1と第2の道路R2とが交差する交差点Jに設置されるタイプAの路側通信機2の2つのアンテナ20A,20Bを示している。図4(a)において、アンテナ20A,20Bは、交差点J内部(2本の道路R1,R2が交わっている部分)ではなく、交差点Jの近傍であるものの、交差点Jの外側に後退して配置されている。工事コストや景観などの制約により、既存の交通信号灯器又は車両感知器を支持するアームに、路側通信機アンテナを設置せざるを得ない場合などに、アンテナ20A,20Bを交差点Jの外側に後退させて設置する必要が生じる。
【0056】
図4(a)では、第1のアンテナ20Aは、交差点Jから第1の道路R1の方向D1に後退して設置され、第2のアンテナ20Bは、交差点Jから第2の道路R2の方向D2に後退して設置されている。
図4において点線で示す円E−A,E−Bは、アンテナの周囲に建物などの障害物が全く無い場合において、アンテナ20A,20Bから電波が到達可能な範囲を示している。
【0057】
交差点の4つの角部に建物が全く存在していない場合やアンテナ20A,20Bが交差点J内部側に位置している場合を想定すると、第1のアンテナ20Aの電波は、図4(a)の円Eで示すように、第1の道路R1の方向D1にも到達可能であるし、第2の道路R2の方向D2にも到達可能である。同様に、第2のアンテナ20Bの電波は、第2の道路R2の方向D2にも到達可能であるし、第1の道路R1の方向D1にも到達可能である。
【0058】
一方、交差点の4つの角部にそれぞれ建物が存在している場合を想定すると、第1のアンテナ20Aの設置位置からみると、第1の道路R1の方向D1への見通しは良い(電波が届き易い)が、第2の道路R2の方向D1への見通しは悪くなる(電波が届き難い)。一方、第2のアンテナ20Bの設置位置からみると、第2の道路R2の方向D2への見通しは良いが、第1の道路R1の方向D2への見通しは悪くなる。
だだし、第1のアンテナ20Aの電波は、第2の道路R2に全く届かないわけではない。同様に、第2のアンテナ20Bの電波も、第1の道路R1に全く届かないわけではない。
このように、各アンテナ20A,20Bから放射された電波が、到達しやすい範囲は、交差点周囲の環境やアンテナ20A,20Bの設置位置によって変化する。
【0059】
そこで、タイプAの路側通信機2では、第1のアンテナ20Aから交差点の周囲の環境等にかかわらず電波が届き易い方向である第1の道路R1の方向D1に延びる範囲が、第1のアンテナ20Aから送信される情報(第1情報)の通信サービス範囲(第1通信サービス範囲)S1として設定されている(図4(b)参照)。また、タイプAの路側通信機では、第2のアンテナ20Bから交差点の周囲の環境にかかわらず電波が届き易い方向である第2の道路R2の方向D2に延びる範囲が、第2のアンテナ20Bから送信される情報(第2情報)の通信サービス範囲(第2通信サービス範囲)S2として設定されている(図4(c)参照)。
【0060】
第1通信サービス範囲S1は、第1の道路R1の範囲を含むとともに、第1の道路R1の方向D1に沿って長尺状に設定された範囲である。また、第2通信サービス範囲S2は、第2の道路R2の範囲を含むとともに、第2の道路R2の方向D2に沿って長尺状に設定された範囲である。
【0061】
上記の通信サービス範囲は、通信システムにおいて、路側通信機2から送信された情報が正常に受信されることが期待される範囲として設定された範囲である。つまり、第1通信サービス範囲S1には、第1のアンテナ20Aから、第1通信サービス範囲S1に含まれる第1の道路R1に存在する車載通信機3向けに、情報(第1情報)が送信される。また、第2通信サービス範囲S2には、第2のアンテナ20Bから、第2通信サービス範囲S2に含まれる第2の道路R2に存在する車載通信機3向けに、情報(第2情報)が送信される。
なお、第1情報と第2情報とは、提供される道路が異なることに応じて、それぞれ異なる情報であるのが好ましい。ただし、第1情報と第2情報は、同一の交差点に関する情報であるため、内容が一部重複していてもよいし、道路毎に内容を変える必要がない場合には、完全に同じ内容であってもよい。
【0062】
本実施形態の通信システムでは、実際に電波が届き得る全範囲E−A,E−Bを通信サービス範囲として設定するのではなく、一つの通信サービス範囲を、電波が届き得る範囲E−A,E−Bのうち、単一の道路方向(D1又はD2)に限定している。通信サービス範囲として設定された範囲外においては、車載通信機3が情報を受信可能であってもよいが、通信システムとしては、車載通信機3による受信成功は期待しない。
つまり、第1のアンテナ20Aから送信された第1情報は、第1通信サービス範囲S1外の第2の道路R2上の車載通信機3において受信されることは期待されていない。同様に、第2のアンテナ20Bから送信された第2情報は、第2通信サービス範囲S2外の第1の道路R1上の車載通信機3において受信されることは期待されていない。
【0063】
図5(a)は、各アンテナ20A,20Bによって形成される2つの通信サービス範囲S1,S2を重ねた様子を示している。2つの通信サービス範囲S1,S2が重ねられた十字状の範囲が、この交差点Jに設置された路側通信機2による通信サービス範囲の全体である。ただし、図5(a)に示す十字状の範囲全体に同時に情報が送信されるのではなく、第1通信サービス範囲S1への情報送信と、第2通信サービス範囲S2への情報送信とは、別々の時間帯(タイムスロット)で行われる。
【0064】
つまり、図5(b)に示すように、第1情報は、一つの周期C内における、あるタイムスロット(例えば,図3のi=1のタイムスロット)において、第1アンテナ20Aから送信される。第1情報は、図4(b)に示すように、第1の道路R1に沿った第1通信サービス範囲S1向けの情報である。したがって、図5(a)に示すように第1の道路R1に存在する車両の車載通信機3が、第1情報を受信できる可能性は高い。なぜなら、第1アンテナ20Aと第1の道路R1に存在する車両の車載通信機3との見通しがよく、電波が車載通信機3に届き易いからである。
一方、第2情報は、一つの周期C内における他のタイムスロット(例えば、図3のi=6のタイムスロット)において、第2アンテナ20Bから送信される。第2情報は、図4(c)に示すように、第2の道路R2に沿った第2通信サービス範囲S2向けの情報である。したがって、第1の道路R1に存在する車両の車載通信機3は、第2情報を受信できるとは限らない。なぜなら、第2アンテナ20Bと第1の道路R1に存在する車両の車載通信機3とは見通しが悪く、電波が届き難いからである。ただし、第1の道路R1に存在する車両の車載通信機3は、第2情報を受信できれば、その第2情報を活用した処理を行っても良い。
【0065】
なお、第2情報は、第2の道路R2に存在する車両の車載通信機3によって受信される可能性は高いが、第1の道路R1に存在する車両の車載通信機3によって受信される可能性は低い。また、第2の道路R2に存在する車両の車載通信機3は、第1情報を受信できれば、その第1情報を活用した処理を行っても良い。
【0066】
図6は、複数のタイプAの路側通信機2へのタイムスロット割り当ての一例を示している。図6では、複数の路側通信機2が、複数の東西方向の道路と複数の南北方向の道路とが交差した碁盤目状の道路網における各交差点に配置されている。
以下、図6における東西方向の道路(図6の横方向に延びる道路)を、図4,5における第1の道路R1に対応させ、図6における南北方向の道路(図6の縦方向に延びる道路)を、図4,5における第2の道路R2に対応させて説明する。
【0067】
図6において、各交差点J1,J2,J3に設置された路側通信機2それぞれには、2つのタイムスロット(図3のi=1〜8のうちのいずれか2つのタイムスロット)が割り当てられる。図6においては、各交差点J1,J2,J3において、各路側通信機2から、第1通信サービス範囲(東西方向の通信サービス範囲)S1向け第1情報が送信されるタイムスロットを丸で囲った数字で示し、第2通信サービス範囲(南北方向の通信サービス範囲)S2向け第2情報が送信されるタイムスロットを四角で囲った数字で示した。
例えば、交差点J1であれば、第1通信サービス範囲向け第1情報は、i=1のタイムスロットで送信され、第2通信サービス範囲向け第2情報は、i=6のタイムスロットで送信される。
【0068】
同様に、交差点J2も、第1通信サービス範囲向け第1情報は、i=1のタイムスロットで送信され、第2通信サービス範囲向け第2情報は、i=6のタイムスロットで送信される。交差点J3については、第1通信サービス範囲向け第1情報は、i=1のタイムスロットで送信され、第2通信サービス範囲向け第2情報は、i=8のタイムスロットで送信される。なお、その他の交差点についても、図6に示したとおりのタイムスロットで送信される。
【0069】
ここで、図6の交差点J1(又はその近傍)に設置された路側通信機2を、「第1の路側通信機」とし、交差点J1に交差する第1の道路R1における他の交差点J2(又はその近傍)に設置されている路側通信機2を、「第2の路側通信機」とし、交差点J1に交差する第2の道路R2における他の交差点J3(又はその近傍)に設置されている路側通信機2を、「第3の路側通信機」とする。
【0070】
図6では、第1の路側通信機と第2の路側通信機との離隔距離は、4ブロック分である。これに対し、第2の路側通信機と第3の路側通信機との離隔距離は、2ブロック分である。なお、1ブロックは、各交差点間の領域をいい、ここでは、説明の便宜上、各ブロックは、図示のとおり、正方形であるものとする。また、1ブロックの1辺の長さ(一の交差点中央から隣接する他の交差点中央までの距離)を300mとする。
【0071】
同一タイムスロット(i=1)で情報送信を行う交差点J1の第1路側通信機2および交差点J2の第2路側通信機2は、通信サービス範囲S1の長手方向(第1道路R1の長手方向D1)に並設されている。したがって、図7に示すように、交差点J1,J2の両路側通信機2から同時に送信された電波が干渉しないように、交差点J1の第1路側通信機2および交差点J2の第2路側通信機2は、互いに、十分に離れている(通信サービス範囲S1,S1が非重複)。そのため、図6では、交差点J1の第1路側通信機2と、交差点J2の第2路側通信機2と、の間に、4ブロックという比較的大きな間隔(=約1200m)が確保されている。なお、図6において、4ブロックの離隔間隔が妥当である理由については後述する。
【0072】
一方、交差点J1の第1路側通信機2および交差点J3の第3路側通信機2も、同一タイムスロット(i=1)で情報送信を行うが、図6では、交差点J1の第1路側通信機2および交差点J3の第3路側通信機2の間隔は、2ブロック分であり、比較的小さくなっている。したがって、交差点J1,J3の両路側通信機2から同時に送信された電波は、交差点J1と交差点J3の間の位置において干渉を生じる可能性がある。
【0073】
ここで、交差点J1と交差点J3の間の位置(交差点J1からみると第2の道路R2の方向)については、第1情報が提供されるべき第1通信サービス範囲外である。つまり、交差点J1の第1通信サービス範囲S1と、交差点J3の第1通信サービス範囲S1とは、それぞれ第1道路R1の方向に延びており、互いに非重複である。
したがって、第1情報が送信されるタイムスロット(i=1)において電波干渉が生じて、車載通信機3が情報を受信できなくても、第1通信サービス範囲外では、何ら問題はない。したがって、第2の道路方向(南北方向)には、同一時間帯(i=1)において情報送信を行う第1及び第3の路側通信機を、電波干渉が生じる程度にまで互いに近づけて配置できる。
【0074】
図8は、交差点J1の第1路側通信機2の第1アンテナ20Aおよび交差点J3の第3路側通信機2の第1アンテナ20Aからの電波が干渉している様子を示している。交差点J1の第1アンテナ20Aは、交差点J3へ向かう方向(北方向)について、図8に示すような電波到達範囲(障害物がない場合)E−Aを持っている。しかし、同一時間帯(i=1)において、交差点J3の第1アンテナ20Aからも電波放射があり、両アンテナ20A,20Aの電波到達可能範囲に一部重複があるため、重複範囲において電波干渉が生じる。したがって、図8に示すような電波到達範囲(障害物がない場合)E−Aのうちの一部範囲では、交差点J1の第1アンテナ20Aからの第1情報が受信不能となる。交差点J1の第1アンテナ20Aからの第1情報が受信可能な範囲は、交差点J3の第1アンテナ20Aからの電波のレベルよりも所定のレベル差(例えば、20dBのレベル差)以上のレベル差が生じる範囲に制限される。
【0075】
図9は、図8に示す電波干渉によって、交差点J1及びJ3の第1アンテナ20Aから送信された第1情報が受信可能な範囲E1が、電波到達範囲Eよりも狭くなっていることを示している。第1情報が受信可能な範囲E1が、第2道路R2の方向において、電波到達可能範囲よりも狭くなっても、交差点J1の第1通信サービス範囲及び交差点J3の第1通信サービス範囲は、並設された第1道路R1,R1の方向に長く形成されているため、問題は生じない。
【0076】
また、仮に、交差点J3の第1アンテナ20Aから放射された電波(非希望波)が、交差点J1の第1通信サービス範囲に到達したとしても、交差点J1の第1通信サービス範囲内では、希望波が十分に大きくなるため、正常に受信することが可能となる。
【0077】
図10は、図8に示すような電波干渉に加えて、更に、建物等の交差点周辺環境を考慮した場合の、典型的な受信可能範囲E2−1,E2−2を示している。図10(a)は、第1アンテナ20Aからの第1情報の受信可能範囲E2−1であり、第1通信サービス範囲S1と同様に、第1道路R1の方向に長い範囲となっているが、交差点付近で第2道路R2の方向に膨出した形状となっている。なお、第1通信サービス範囲S1は、この受信可能範囲E2−1内に設定される。図10(b)は、第2アンテナ20Bからの第2情報の受信可能範囲E2−2であり、第2通信サービス範囲S2と同様に、第2道路R2の方向に長い範囲となっているが、交差点付近で第1道路R1の方向に膨出した形状となっている。なお、第2通信サービス範囲S2は、この受信可能範囲E2−2内に設定される。
【0078】
図6のタイムスロット割り当てでは、同一タイムスロットにおいて、通信サービス範囲が重複しないように設定されているほか、上記の受信可能範囲E2−1,E2−2も重複しないように設定されている。
【0079】
また、図6のタイムスロット割り当てでは、交差点J1,J2、J3以外の任意の交差点についても、前述したとおりの交差点J1,J2,J3の関係と同様の関係が保たれている。また、前述の説明では、第1アンテナ20Aから第1情報が送信されるタイムスロット(i=1)に着目して説明したが、第2アンテナ20Aから第2情報が送信されるタイムスロットに着目しても同様である。例えば、図6の交差点J4の路側通信機2を、「第1路側通信機」とし、交差点J5の路側通信機2を、「第2路側通信機」とし、交差点J6の路側通信機2を、「第3路側通信機」とした場合にも、タイムスロットi=6において、交差点J1,J2,J3の路側通信機と同様な配置関係が得られている。
【0080】
[タイムスロット数についての検討]
図6のタイムスロット割り当てでは、1周期内に8個の路側通信機2用タイムスロットを設けるだけで、全ての交差点の路側通信機の各アンテナ20A,20Bにタイムスロットを割り当てることができている。これは、一台の路側通信機2に2つのタイムスロットを割り当てたことからすると、予想外に少ないタイムスロット数であるといえる。
【0081】
つまり、図6と同様な道路網において、一つの交差点に設置された一台の路側通信機2に1つのタイムスロットを割り当てる場合において、電波干渉を回避しようとすれば、図11に示すように、少なくとも7個のタイムスロットが必要である。なお、図11において、交差点内の数字は、タイムスロット番号(i)を示しており、1〜7までの数字が割り当てられている。なお、図11において、7個のタイムスロットが必要である理由については後述する。
【0082】
一台の路側通信機2に1つのタイムスロットを割り当てる場合に、7個のタイムスロットが必要であれば、一台の路側通信機2に2つのタイムスロットを割り当てる場合には、7個の2倍程度(=14個)のタイムスロットが必要であると予想される。しかし、図6では、7個よりも1個多いにすぎない8個のタイムスロットで、割り当てが可能である。したがって、本実施形態の路側通信機2は、一台の路側通信機2に2つのタイムスロットを割り当てても、トータルのタイムスロット数があまり増加せず、タイムスロット割り当ての設計を行うのが容易となる。
【0083】
[図11及び図6におけるタイムスロット数について]
以下、図11において1周期内のタイムスロット数が7個必要である理由、及び図6では同タイムスロット数が8個で足りる理由について説明する。
【0084】
図11のように、一台の路側通信機2に1つのタイムスロットを割り当てる場合、交差点から4つの方路に向けて、同時に電波が放射される。そして、各交差点に配置された路側通信機2から放射される電波が互いに干渉しないように、同一のタイムスロットで電波を放射する路側通信機2の間隔を十分に大きくする必要がある。
したがって、タイムスロット配置の条件は、例えば、次のように設定される。
(条件1):東西方向で、同一タイムスロットが割り当てられた路側通信機が1000m以内に存在しないこと(1000mの根拠は後述)。
(条件2):南北方向で、同一タイムスロットが割り当てられた路側通信機が1000m以内に存在しないこと(1000mの根拠は後述)。
(条件3):同一タイムスロットが割り当てられた路側通信機同士が、同一道路上にない場合でも、近い位置にある場合には、交差点を回折・反射した電波の干渉による影響を評価し、通信サービス範囲端部において通信が成立することを確認すること。
【0085】
図11は、上記条件1〜3に従って設置された例となっているが、条件1〜3に従うと、7個のタイムスロットが必要な理由は、次の通りである。
まず、条件1だけを考慮して、図12に示すように、東西方向に1次元的にタイムスロットを配置すると、4個のタイムスロットがあればよい。前述のように1ブロック=300mであるから、同一タイムスロットが割り当てられた路側通信機2の離隔間隔が4ブロック分(4×300m=1200m)であれば、条件1を満たすことができる。
【0086】
しかし、4個のタイムスロットだけでは、どのように配置しても、上記条件2又は3を満たすことができない。例えば、図13(a)に示すようにタイムスロットを割り当てた場合、図13(a)の交差点J1及び交差点J2は、ともに同じタイムスロットi=1が割り当てられている。この場合、図13(b)に示すように、交差点J2の路側通信機2による通信サービス範囲Sのうち、北側のサービス範囲端S−Nにおいて、交差点J1の路側通信機2からの電波とのレベル差が小さすぎ、通信が成立しなくなる(電波干渉の発生)。
【0087】
また、4個のタイムスロットの他の配置例として、図14(a)に示すように配置した場合も、条件2又は3を満たすことができない。図14(a)の交差点J1及び交差点J2は、ともに同じタイムスロットi=1が割り当てられている。この場合も、図14(b)に示すように、交差点J2の路側通信機2による通信サービス範囲Sのうち、北側のサービス範囲端S−Nにおいて、交差点J1の路側通信機2からの回折電波とのレベル差が小さすぎ、通信が成立しなくなる(電波干渉の発生)。
【0088】
このように、4個のタイムスロット数では、条件1〜3全てを満たすことができない。そして、タイムスロット数を、5個、6個に増加させても、条件2又は3を満たすことができなかった。結果として、図11の道路網において、タイムスロット数は、7個必要である。
【0089】
一方、図6に示すように、1台の路側通信機2に2個のタイムスロットを割り当て、通信サービス範囲S1,S2それぞれを単方向の範囲に限定した場合について検討する。この場合、例えば、図13(b)と同様に同一タイムスロット(i=1)を交差点J1及びJ2に割り当てると、図15に示すように、交差点J1からの電波が、S−Nの位置に到達することがある。しかし、図15におけるS−Nの位置は、図13(b)におけるS−Nの位置とは異なり、交差点J2の路側通信機2の第1通信サービス範囲S1外であるため、このS−Nの位置にて、車載通信機3が受信できなくても何ら問題はない。
【0090】
なお、1台の路側通信機2に2個のタイムスロットを割り当てて、通信サービス範囲S1,S2それぞれを単方向の範囲に限定した場合であっても、図16に示すように、図16の交差点J1から、図16の交差点J2の第1通信サービス範囲S1に到達する電波による干渉に注意する必要がある。ただし、交差点J2の第1通信サービス範囲S1内においては、交差点J2からの電波と交差点J1からの電波とのレベル差が十分に大きくなるため、同一スロットが割り当てられた交差点J1,J2が近づいてもさほど支障がない。
【0091】
したがって、1台の路側通信機2に2個のタイムスロットを割り当てて、通信サービス範囲S1,S2それぞれを単方向の範囲に限定することで、上記の条件2は、次の条件2’に緩和できる。
(条件2’):南北方向で、同一タイムスロットが割り当てられた路側通信機が300m以内に存在しないこと(300mの根拠は後述)。
【0092】
条件2’より、2本の道路が交差する交差点では、一方の道路の方向(条件2’では、南北方向)については、同一タイムスロットが割り当てられた路側通信機2同士の干渉をあまり意識する必要がなく、タイムスロット割り当ての困難さが大きく軽減される。
【0093】
そして、条件1,2’,3によれば、図6に示すように、8個のタイムスロットだけでタイムスロット割り当てが可能となる。
【0094】
また、本実施形態では、第1の道路R1(東西方向の道路)に提供される第1情報を、第1の道路R1(東西方向の道路)専用情報に限定し、第2の道路R2(南北方向の道路)に提供される第2情報を、第2の道路R2(南北方向の道路)専用情報に限定すれば、路側通信機2の送信用時間である第1スロットSL1の占有時間を削減して、その分を、車載通信機3の送信用に解放することで、第2スロットSL2の時間を多く確保することができる。
【0095】
例えば、1台の路側通信機2に1個のタイムスロットを割り当てて、交差点に接続する全方路に対し、全方路用の情報を提供する場合の1タイムスロット当たりの情報量を「100」とする。この場合、1周期Cの間において、第1タイムスロットSL1は7個必要であったから、1周期Cの間において、路側通信機2からの送信時間として占有される時間は、100×7=700となる。
【0096】
一方、1台の路側通信機2に2個のタイムスロットを割り当てて、通信サービス範囲S1,S2それぞれを単方向の範囲に限定した場合、第1情報には、第1の道路R1に存在する車載通信機3が必要とする情報が含まれていれば足り、第2の道路R2に存在する車載通信機3のみが必要とする情報が含まれている必要はない。同様に、第2情報には、第2の道路R2に存在する車載通信機3が必要とする情報が含まれていれば足り、第1の道路R1に存在する車載通信機3のみが必要とする情報が含まれている必要はない。
したがって、第1情報及び第2情報の情報量は、全方路用の情報の情報量である「100」より少なくでき、例えば、「70」程度となる。
1台の路側通信機2に2個のタイムスロットを割り当てて、通信サービス範囲S1,S2それぞれを単方向の範囲に限定した場合、1周期Cの間において、第1タイムスロットSL1は8個必要であったから、1周期Cの間において、路側通信機2からの送信時間として占有される時間は、70×8=560となり、占有時間が短くなる。
したがって、本実施形態によれば、車載通信機3の送信機会が増加し、有利である。
【0097】
[通信サービス範囲の大きさ]
ここでは、路側通信機2が車載通信機3に向けて行う情報送信の通信サービス範囲S1,S2は、情報を受信した車両が減速するための時間などを考慮して、図17に示すように、路側通信機2のアンテナ20A,20Bから、道路R1の一方の方向に向けて、最大240mの範囲とする。
【0098】
[複数の路側通信機の離隔距離]
上記の大きさの通信サービス範囲S1,S2を想定した場合、図18に示すように、ある路側通信機2Aの通信サービス範囲端である240mの位置において、同一のタイムスロットを用いる他の路側通信機2Bから干渉を受けても、路側通信機2Aと車載通信機3との通信が成立することが必要である。
【0099】
そして、IEEE802.1pに準拠し、16QAMで変調したOFDM信号の場合、希望波と非希望波との差が14dB程度以上であれば、希望波を復調可能であることが、シミュレーション及び実験により確認された。
ただし、実際の屋外環境では、このレベル差は一定ではなく、周囲関係によって変動する。したがって、このフェージング分のマージンを見込む必要がある。都市部で行われた実験結果によれば、このフェージング量は、約6dBであった。
【0100】
以上より、同一タイムスロットを用いる他の路側通信機2A,2B同士の間隔は、「サービス範囲端である240m地点において、希望波と非希望波(干渉波)との間に20dB以上のレベル差が生じる」程度に確保されている必要がある。
【0101】
そして、路側通信機2Aのアンテナからの距離と、その地点での受信レベルの関係式として、ITU−R P.1411−4に規定する伝搬損失の上限及び下限の相乗平均の式を用いる。この相乗平均の式によれば、路側通信機2Aのアンテナから240mの地点Aでの伝搬損失は、90.0dBである。これに、上述の20dBを加えると、110dBとなる。つまり、路側通信機2Aのアンテナから240mの地点Aにおける、他の路側通信機2Bのアンテナからの非希望波の伝搬損失が、110dB以上になる位置に、他の路側通信機2Bのアンテナが設置されていればよい。そして、上記の相乗平均式によれば、非希望波を送信する路側通信機2Bのアンテナは、図18の地点Aから760m離れている必要がある。よって、同一タイムスロットを用いる路側通信機2A,2B間の離隔距離は、240m+760m=1000mが必要である。
【0102】
したがって、図6等に示すように、1辺が300mのブロックであれば、4ブロック分の離隔距離を確保すればよい。
【0103】
また、通信サービス範囲が単方向に限定されている場合を検討する。通信サービス範囲の長手方向と交差する方向については、図19に示す交差点Jのアンテナ20Aから78m離れた地点Bでの伝搬損失は、上記相乗平均式によれば、71.3dBである。これに、上記の20dBを加えると、91,3dBとなる。つまり、非希望波の伝播損失が91.3dB以上となる位置に、他の路側通信機のアンテナが設置されていればよい。そして、上記の相乗平均式によれば、非希望波を送信する路側通信機のアンテナは、図19の地点Bの通信サービス範囲端から260m以上はなれている必要がある。よって、交差点の大きさやアンテナの位置関係において最悪の条件を想定すれば、通信サービス範囲が単方向に限定されている場合において、通信サービス範囲の長手方向と交差する方向については、同一タイムスロットを用いる路側通信機間の離隔距離は、300m程度あればよい。したがって、図6等に示すように、1辺が300mのブロックであれば、1ブロック分の離隔距離を確保すればよく、2ブロック分の離隔距離を確保すれば一層確実である。
【0104】
なお、上記のような複数の路側通信機の離隔距離の検討は、非希望波を送信する最寄の路側通信機が、希望波を送信する交差点からの見通し内に設置されている場合のものである。非希望波を送信する最寄の路側通信機が、希望波を送信する交差点からの見通し外に設置される場合についても、交差点の大きさ、並びに、希望波及び非希望波の伝搬損失を考慮して、適切なスロット配置を決定すればよい。
【0105】
[タイプBの路側通信機]
さて、これまで、第1及び第2アンテナ20A,20Bを備えるタイプAの路側通信機2を前提に説明したが、図6に示すタイムスロット割り当ては、図6の各交差点に設置された路側通信機として、タイプAの路側通信機2だけでなく、単一のアンテナ20Cを備えるタイプBの路側通信機2が混在して設置されていても良いし、単一のアンテナ20を備えるタイプBの路側通信機2だけが設置されていてもよい。交差点Jの中央位置などの交差点に接続する4方路すべてに対して見通しが良い位置にアンテナを設置可能である場合には、タイプBのように単一のアンテナ20を備えた路側通信機2が有利である。
【0106】
タイプBの路側通信機2は、単一のアンテナ20Cしか備えていないが、制御部23による送信制御を含めて、その他の点については、タイプAの路側通信機2と同様である。つまり、タイプBの路側通信機2のアンテナ20Cとしては、水平面無指向性のアンテナ(ダイポールアンテナなど)が採用されている。そして、1台のタイプBの路側通信機2には、タイプAの路側通信機2と同様に、2つのタイムスロットが割り当てられる。一方のタイムスロットは、タイプBの路側通信機2が設置される交差点に交差する第1道路R1上の車載通信機3向けの第1情報の送信に用いられる。他方のタイムスロットは、当該交差点に交差する第2道路R2上の車載通信機3向けの第2情報の送信に用いられる。
【0107】
つまり、図20(a)に示すように、タイプBの路側通信機2が設置される交差点についても、タイプAの路側通信機2が設置される交差点と同様に、第1道路R1の方向に沿って第1通信サービス範囲が設定されており、第2道路R2の方向に沿って第2通信サービス範囲が設定されている。
そして、図20(b)に示すように、第1情報は、タイプAと同様に、第1情報送信用のタイムスロットで送信され、第2情報も、タイプBと同様に、第2情報送信用のタイムスロットで送信される。
【0108】
このため、通信システムが管轄するエリア内の交差点に、タイプAの路側通信機2とタイプBの路側通信機2とが混在していても、各交差点へのタイムスロット割り当てを決定する際には、タイプAとタイプBの混在を考慮することなく、タイプAの路側通信機2について説明したのと同様に、緩和された条件下で、タイムスロット割り当てを行うことができる。
【0109】
したがって、図6に示す複数の交差点のうち、任意の交差点について、タイプBの路側通信機を設置することができる。また、図6の交差点J1,J2,J3,J4,J5,J6に設置された路側通信機に関する説明(離隔間隔、電波到達範囲、受信可能範囲、通信サービス範囲などの説明)については、それらの路側通信機がタイプBであった場合にも妥当する。また、図6の交差点J1,J2,J3(又はJ4,J5,J6)のうちの一部の路側通信機がタイプBであった場合にも妥当する。
【0110】
図21は、タイプA及びタイプBの路側通信機2を混在して設置させて通信システムにおけるスロット割り当ての例を示している。図21において、丸印は、タイプAの路側通信機の第1アンテナ20Aを示し、四角印は、タイプAの路側通信機の第2アンテナ20Bを示し、二重丸印は、タイプBの路側通信機の共通アンテナ20Cを示している。また、丸印、四角印、二重丸印それぞれの内部の数字は、それらのアンテナ20A,20B,20Cから送信される情報のタイムスロットの番号(i)を示している。なお、図21において、タイムスロットi=1〜4は、東西方向の道路用のスロット(第1通信サービス範囲用のタイムスロット)であり、タイムスロットi=5〜8は、南北方向の道路用のスロット(第2通信サービス範囲用のタイムスロット)である。図21に示すように、タイプA及びタイムBとが混在しても、図6と同様に8個のタイムスロットで割り当てが可能である。
【0111】
なお、今回開示した実施形態は例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
例えば、第1アンテナ20C、第2アンテナ20B、及びアンテナ20Cは、それぞれ、複数のアンテナ素子から構成されたアンテナシステムとして構成されていてもよい。複数のアンテナ素子から構成されたアンテナシステムとして構成されている場合、例えば、路側通信機2と車載通信機3との間の通信に空間多重を利用することもできる。
第1アンテナ20C、第2アンテナ20B、及びアンテナ20Cは、完全な無指向性アンテナである必要はなく、アンテナが設置された交差点に交差する複数の道路方向それぞれに電波が届き得るものであれば足りる。
【0112】
また、図1では、路側通信機2の無線通信部21と制御部24として、複数のアンテナ20A,20Bに共用されるものを示したが、第1のアンテナ20Aが接続される無線通信部21及び制御部24と、第2のアンテナ20Bが接続される無線通信部21及び制御部24を、別々に設けても良い。
【0113】
なお、路側通信機2におけるアンテナ以外の部分は、アンテナとは別の位置に設置してもよい。
また、路側通信機2からの情報を受信する移動無線通信装置は、車載通信機3に限られず、歩行者等が携帯する移動無線通信装置であってもよい。
【0114】
さらに、本発明の通信システムは、図6に示すように複数の道路が直交して交わっている道路網に限って適用可能なわけではなく、複数の道路が任意の角度で交差する交差点を持つ道路網についても適用可能である。また、交差点は、2本の道路が交差するものに限られず、3以上の道路が交差するものであってもよい。
【符号の説明】
【0115】
2 路側無線通信装置(路側通信機)
3 移動無線通信装置(車載通信機)
20A 第1アンテナ
20B 第2アンテナ
20C 共通アンテナ
S1 第1通信サービス範囲
S2 第2通信サービス範囲
R1 第1道路
R2 第2道路
J 交差点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムであって、
前記路側無線通信装置は、
第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1の水平面無指向性アンテナと、
前記交差点又はその近傍に設置された第2の水平面無指向性アンテナと、
を備え、
前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報が、前記第1の水平面無指向性アンテナから送信されるとともに、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報が、前記第2の水平面無指向性アンテナから送信され、さらに、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信される
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
複数の前記路側無線通信装置を備え、
複数の前記路側無線通信装置には、
一の交差点又はその近傍に設置された第1の路側無線通信装置と、
前記一の交差点に交差する前記第1の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第2の路側無線通信装置と、
前記一の交差点に交差する前記第2の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第3の路側無線通信装置と、
を含み、
前記第1の路側無線通信装置と前記第2の路側無線通信装置との離隔距離よりも、前記第1の路側無線通信装置と前記第3の路側無線通信装置との離隔距離の方が短い
請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記第1の路側無線通信装置による通信サービス範囲と、前記第3の路側無線通信装置による通信サービス範囲とは、同一の時間帯において非重複となるように設定され、
前記第1の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲と、前記第3の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲とは、一部重複している
請求項2記載の通信システム。
【請求項4】
前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、
前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、
が設定されており、
前記第1の情報を送信する前記第1の水平面指向性アンテナは、前記第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、前記第1通信サービス範囲外における前記第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、
前記第2の情報を送信する前記第2の水平面指向性アンテナは、前記第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、前記第2通信サービス範囲外における前記第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナである
請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項5】
前記第1情報と前記第2情報とは異なる内容を含んでいる
請求項1〜4のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項6】
路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムであって、
前記路側無線通信装置は、
第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1のアンテナと、
前記交差点又はその近傍に設置された第2のアンテナと、
を備え、
前記路側無線通信装置の通信サービス範囲として、
前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、
前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、
が設定されており、
前記第1のアンテナは、前記第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、前記第1通信サービス範囲外における前記第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、
前記第2のアンテナは、前記第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、前記第2通信サービス範囲外における前記第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、
前記第1通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第1情報が、前記第1のアンテナから送信されるとともに、前記第2通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第2情報が、前記第2のアンテナから送信され、さらに、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信される
ことを特徴とする通信システム。
【請求項7】
路側無線通信装置が、移動無線通信装置に対する情報送信を、当該路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う通信システムであって、
前記路側無線通信装置は、第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置されたアンテナを備えているとともに、前記第1の道路の方向への電波放射及び前記第2の方向への電波放射が共通の前記アンテナから行われるように構成され、
前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報と、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報とは、互いに異なる時間帯において、前記アンテナから送信される
ことを特徴とする通信システム。
【請求項8】
複数の前記路側無線通信装置を備え、
複数の前記路側無線通信装置には、
一の交差点又はその近傍に設置された第1の路側無線通信装置と、
前記一の交差点に交差する前記第1の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第2の路側無線通信装置と、
前記一の交差点に交差する前記第2の道路における他の交差点又はその近傍に設置されているとともに、前記第1の路側無線通信装置が前記第1情報を送信する時間帯と同じ時間帯で情報送信を行う第3の路側無線通信装置と、
を含み、
前記第1の路側無線通信装置と前記第2の路側無線通信装置との離隔距離よりも、前記第1の路側無線通信装置と前記第3の路側無線通信装置との離隔距離の方が短い
請求項7記載の通信システム。
【請求項9】
前記第1の路側無線通信装置による通信サービス範囲と、前記第3の路側無線通信装置による通信サービス範囲とは、同一の時間帯において非重複となるように設定され、
前記第1の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲と、前記第3の路側無線通信装置から放射される電波到達範囲とは、一部重複している
請求項8記載の通信システム。
【請求項10】
前記路側無線通信装置の通信サービス範囲として、
前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、
前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、
が設定されている
請求項7〜9のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項11】
前記アンテナは、水平面無指向性アンテナである
請求項7〜10のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項12】
前記第1情報と前記第2情報とは異なる内容を含んでいる
請求項7〜10のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項13】
請求項1又は6記載の通信システムにおける前記路側無線通信装置と、請求項7記載の通信システムにおける前記路側無線通信装置と、を混在させて設置した
ことを特徴とする通信システム。
【請求項14】
移動無線通信装置に対する情報送信を、路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う路側無線通信装置であって、
第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1の水平面無指向性アンテナと、
前記交差点又はその近傍に設置された第2の水平面無指向性アンテナと、
前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報を、前記第1の水平面無指向性アンテナから送信させるとともに、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報を、前記第2の水平面無指向性アンテナから送信させ、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信されるように制御する制御部と、
を備えていることを特徴とする路側無線通信装置。
【請求項15】
移動無線通信装置に対する情報送信を、路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う路側無線通信装置であって、
第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置された第1のアンテナと、
前記交差点又はその近傍に設置された第2のアンテナと、
制御部と、
を備え、
前記路側無線通信装置の通信サービス範囲として、
前記第1の道路を含むとともに、前記第1の道路の方向に沿って長尺状に設定された第1通信サービス範囲と、
前記第2の道路を含むとともに、前記第2の道路の方向に沿って長尺状に設定された第2通信サービス範囲と、
が設定されており、
前記第1のアンテナは、前記第1通信サービス範囲に電波が可能であるとともに、第1通信サービス範囲外における第2通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、
前記第2のアンテナは、前記第2通信サービス範囲に電波が到達可能であるとともに、第2通信サービス範囲外における第1通信サービス範囲の少なくとも一部に電波が到達可能なアンテナであり、
前記制御部は、第1通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第1情報を、前記第1のアンテナから送信させるとともに、前記第2通信サービス範囲に存在する移動無線通信装置向けの第2情報を、前記第2のアンテナから送信させ、前記第1情報と前記第2情報とが異なる時間帯において送信されるように制御する、
ことを特徴とする路側無線通信装置。
【請求項16】
移動無線通信装置に対する情報送信を、路側無線通信装置に割り当てられた時間帯にて行う路側無線通信装置であって、
第1の道路と第2の道路とが交差する交差点又はその近傍に設置されたアンテナを備えているとともに、前記第1の道路の方向への電波放射及び前記第2の方向への電波放射が共通の前記アンテナから行われるように構成され、
前記第1の道路に存在する移動無線通信装置向けの第1情報と、前記第2の道路に存在する移動無線通信装置向けの第2情報とは、互いに異なる時間帯において、前記アンテナから送信される
ことを特徴とする路側無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−83859(P2012−83859A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227853(P2010−227853)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】