説明

通信装置及び通信方法

【課題】信号品質を劣化させず、光通信システムにおいて、光伝送路の非線形光学効果の影響を低減することができる通信装置を提供する。
【解決手段】通信装置は、複数ビットのビット列の各ビット・パターンについて、時間波形のサンプル値を示す波形テーブルを保持する記憶手段と、入力ビット列のビット・パターンに対応する時間波形のサンプル値を前記波形テーブルから読み出す波形読み出し手段と、前記読み出した時間波形のサンプル値をアナログ信号に変換する変換手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信の信号品質を改善する技術に関し、特に、直交周波数分割多重(OFDM)変調信号により連続光を変調して送信する光OFDM通信システムの信号品質改善に適したものである。
【背景技術】
【0002】
OFDM変調は、送信データを複数のサブキャリアを用いて並列に伝送する方式であり、各サブキャリアのシンボルレートが比較的低くなるためシンボル間干渉に強く、デジタル地上波放送や、無線LAN(Local Area Network)システムで既に使用されており、光通信システムへの適用についても検討されている(例えば、非特許文献1、参照。)。
【0003】
図4は、光OFDM通信装置の送信側の概略的な構成図である。図4によると、光OFDM通信装置は、シリアルパラレル(S/P)変換部11と、マッピング部12と、ファーストフーリエ逆変換(IFFT)部13と、サイクリック・プレフィクス(CP)挿入部14と、デジタル・アナログ(D/A)変換部15と、光変調部16とを備えている。
【0004】
S/P変換部11は、各サブキャリアがOFDM変調の1シンボルで送信するビット数を単位として送信データをパラレル変換する。つまり、例えば、サブキャリア数がNあり、各サブキャリアがQPSK変調を使用しているとすると、送信データを2Nビット単位で区切り、第1の出力から第Nの出力のそれぞれに、連続する2ビットのデータを出力する。
【0005】
マッピング部12は、各サブキャリアの変調方式に基づき、各サブキャリアに対応する入力ポートに入力されたデータに対応する複素平面上の座標、つまり、複素値を求め、IFFT部13は、各サブキャリアに対応する入力ポートに入力された複素値を離散フーリエ逆変換して時間領域のデジタル信号を出力する。なお、IFFT部13は実数に対応する同相成分と、虚数に対応する直交成分の2つのデジタル信号を出力する。その後、CP挿入部14が、2つのデジタル信号にサイクリック・プレフィクスを挿入し、D/A変換部15が、各デジタル信号をアナログ信号に変換し、光変調部16が、連続光をD/A変換部15からの各アナログ信号に基づき変調して光OFDM信号を出力する。
【0006】
OFDM変調により得られる信号は、ピーク対平均パワー比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)、つまり、その平均パワーに対するピーク・パワーの比が大きく、光ファイバ伝送中に、非線形光学効果の影響を強く受け、これにより、その信号品質が劣化するという問題がある。非線形光学効果の影響を避けるためには、PAPRを低減させる必要があり、例えば、波形クリッピングを用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献2、参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Arthur James Lowery、et al.、“Orthogonal−frequency−division multiplexing for dispersion compensation of long−haul optical systems”、2006 Optical Society of America、OPTICS EXPRESS 2079、Vol.14 No.6、2006年3月
【非特許文献2】Xiaodong Li、et al.、“Effects of Clipping and Filtering on the Performance of OFDM”、IEEE COMMUNICATIONS LETTERS、 VOL. 2、 NO. 5、1998年5月、pp.131−133
【非特許文献3】Hidenori Taga、“A theoretical study of OFDM system performance with respect to subcarrier numbers”、2009 Optical Society of America、OPTICS EXPRESS 18638、Vol.17 No.21、2009年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
波形クリッピングを用いる方法は、信号振幅を一定値以下にするフィルタ等によりピーク振幅を抑え、これによりPAPRを低減して非線形光学効果の影響を避けるものであるが、クリッピングそのものが信号品質を劣化させているという問題がある。
【0009】
したがって、本発明は、従来技術より、信号品質を劣化させない通信装置及び通信方法を提供することを目的とする。また、光通信システムにおいて、光伝送路の非線形光学効果の影響を低減することができる通信装置及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における通信装置によれば、
複数ビットのビット列の各ビット・パターンについて、時間波形のサンプル値を示す波形テーブルを保持する記憶手段と、入力ビット列のビット・パターンに対応する時間波形のサンプル値を前記波形テーブルから読み出す波形読み出し手段と、前記読み出した時間波形のサンプル値をアナログ信号に変換する変換手段とを備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明における通信装置の他の実施形態によれば、
前記波形テーブルに含まれるビット・パターンに対応する時間波形は、当該通信装置に対向する通信装置の復調部における受信信号の波形が、前記時間波形に対応するビット・パターンに復調される波形となる様に、当該通信装置と対向する通信装置との間の伝送路の伝送特性に基づき求めたものであることも好ましい。
【0012】
また、本発明における通信装置の他の実施形態によれば、
前記アナログ信号に基づき連続光を変調する光変調手段を、さらに、備えており、当該通信装置と対向する通信装置との間の伝送路は光伝送路であることも好ましい。
【0013】
さらに、本発明における通信装置の他の実施形態によれば、
前記波形テーブルに含まれる各時間波形の周波数成分は複数のサブキャリアを含むことも好ましい。
【0014】
本発明における通信方法によれば、
複数ビットのビット列の各ビット・パターンについて、時間波形のサンプル値を示す波形テーブルを保持する光通信装置における光通信方法であって、入力ビット列のビット・パターンに対応する時間波形のサンプル値を前記波形テーブルから読み出すステップと、前記読み出した時間波形のサンプル値をアナログ信号に変換するステップとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による通信装置は、事前に求めた、各ビット列に対する時間波形のデータベースを有し、入力ビット列に対応する時間波形のサンプル値を読み出して出力するものである。このデータベースの各時間波形は、伝送路の伝送特性を考慮して求めたものであり、読み出した時間波形に基づき当該伝送路に信号を送信することで、受信側の復調部において理想的な時間波形が得られ、よって、信号品質が改善する。特に、OFDM変調を使用する光通信システムにおいては非線形光学効果の影響が大きく、非線形光学効果の影響をも考慮する逆スプリット・ステップ・フーリエ法により求めた時間波形を、光OFDM通信装置に持たせることで、その効果は大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による光OFDM通信装置の簡略化した構成図である。
【図2】波形データベースを示す図である。
【図3】本発明の効果を示す図である。
【図4】従来技術による光OFDM通信装置の簡略化した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明においては、光OFDM通信システムに利用する光OFDM通信装置に基づき説明を行うが、本発明は、無線通信装置や、OFDM以外の他の変調を使用する通信装置にも適用可能である。
【0018】
図1は、本発明による光OFDM通信装置の簡略化した構成図である。図1に示す様に、光OFDM通信装置は、シリアルパラレル(S/P)変換部1と、波形読み出し部2と、波形データベース7を保存している記憶部3と、デジタル・アナログ(D/A)変換部5と、光変調部6とを備えている。
【0019】
シリアルパラレル(S/P)変換部1は、入力データを、OFDM変調の1シンボルで送信するデータを単位としてパラレル変換する。つまり、例えば、サブキャリア数がNであり、各サブキャリアがQPSK変調を使用しているとすると、1シンボルで送信するデータ数は2Nビットであるため、S/P変換部1は、送信データを2Nビット単位で区切り、2Nビットのデータを単位として波形読み出し部2に出力する。
【0020】
2N=Mとすると、波形読み出し部2に入力されるMビット列のビット・パターンは、2個ある組合せのいずれかになるが、波形データベース7は、2個のビット列のそれぞれに対する時間波形を示す情報を有するデータベースであり、波形読み出し部2は、入力されたビット列に対応する時間波形を記憶部3の波形データベース7から読み出す。
【0021】
図2は、波形データベース7を示す図である。図2において、ビット列番号とは、2個あるビット・パターンに付与した識別子であり、例えば、De Brujinパターンにおいて切り出す先頭位置を、その識別子とする。例えば、波形読み出し部2は、入力されたMビットの列が、ビット列番号1のビット・パターンである場合、サンプル値が、時間順に、20、172、72、・・・と続くPAM信号に相当する同相成分のデジタル信号と、サンプル値が、時間順に、58、200、62、・・・と続くPAM信号に相当する直交成分のデジタル信号を出力する。
【0022】
ここで、波形データベース7に保存されている各ビット・パターンに対応する時間波形のサンプル値は、対向する光OFDM装置の受信側の復調部に理想的な信号が入力されることを条件に、当該光OFDM装置の送信側の光処理回路、当該光OFDM装置が使用する光伝送路中の光増幅器及び光ファイバ、さらに、対向する光OFDM通信装置の受信側の光処理回路の光伝送特性に基づき逆スプリット・ステップ・フーリエ法により事前に求めたものである。つまり、光OFDM装置の送受信間における分散や、減衰といった線形特性と、カー効果やラマン効果等の非線形光学効果の両方を考慮し、受信側において理想的な時間波形を得ることができる送信波形を、各ビット・パターンに対してあらかじめ計算し、これを波形データベース7として記憶部3に保存しておく。
【0023】
なお、本実施形態において、波形データベース7が有する時間波形は、サイクリック・プレフィクス部分も含めるものとし、よって、D/A変換部5は、波形読み出し部2の各出力をアナログ信号に変換し、光変調部6は、連続光をD/A変換部15からのアナログ信号に基づき変調して光OFDM信号を出力する。なお、サイクリック・プレフィクス部分については、波形データベース7に含めるのではなく、波形読み出し部2が追加する形態であっても良い。
【0024】
また、波形データベース7に保存するデータ量は、サブキャリア数に依存して多くなる。そのため、サブキャリア数の低減は、波形データベース7を保存する記憶部3のメモリ容量の縮小につながり、本発明の実現が容易になる。さらに、OFDM信号のPAPRは、非特許文献3に記載されている様に、サブキャリアの数と共に減少する傾向があるため非線形光学効果の影響低減の効果も拡大する。
【0025】
以上、本発明による光OFDM通信装置は、事前に求めた、各ビット列に対する時間信号の波形についてのデータベースを有し、入力ビット列に対応する時間波形を読み出して出力するものである。このデータベースの各時間波形は、非線形光学効果の影響をも考慮する逆スプリット・ステップ・フーリエ法により求めたものであり、この時間波形で変調した光OFDM信号を、計算の基礎とした光伝送路経由で伝送した場合、光OFDM装置の受信側の復調部において、理想的な信号波形が得られ、よって、信号品質を改善することができる。
【0026】
図3は、従来の光OFDM通信装置と、本発明を適用した光OFDM通信装置の伝送特性を示す図である。なお、図3において、横軸は、各光中継器及び光OFDM通信装置に実際に設定した光出力パワーであり、縦軸は、ビット・エラー率(BER)を示している。なお、符号50は、従来技術による光OFDM通信装置の伝送特性であり、符号51及び52は、本発明による光OFDM通信装置の伝送特性である。なお、符号51は、各光中継器及び光OFDM通信装置の光出力パワーを−6dBmとして求めた波形データベース7を使用した場合の伝送特性であり、符号52は、光出力パワーを−5dBmとして求めた波形データベース7を使用した場合の伝送特性である。
【0027】
図3から明らかな様に、適切な光出力パワーにより波形データベース7を構築した本発明による光OFDM通信装置を使用することにより、BERが著しく改善、つまり、信号品質が著しく改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0028】
1、11 S/P変換部
2 波形読み出し部
3 記憶部
4 CP挿入部
5、15 D/A変換部
6、16 光変調部
7 波形データベース
12 マッピング部
13 IFFT部
50 従来技術による伝送特性
51、52 本発明による伝送特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数ビットのビット列の各ビット・パターンについて、時間波形のサンプル値を示す波形テーブルを保持する記憶手段と、
入力ビット列のビット・パターンに対応する時間波形のサンプル値を前記波形テーブルから読み出す波形読み出し手段と、
前記読み出した時間波形のサンプル値をアナログ信号に変換する変換手段と、
を備えている通信装置。
【請求項2】
前記波形テーブルに含まれるビット・パターンに対応する時間波形は、当該通信装置に対向する通信装置の復調部における受信信号の波形が、前記時間波形に対応するビット・パターンに復調される波形となる様に、当該通信装置と対向する通信装置との間の伝送路の伝送特性に基づき求めたものである、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記アナログ信号に基づき連続光を変調する光変調手段を、さらに、備えており、
当該通信装置と対向する通信装置との間の伝送路は光伝送路である、
請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記波形テーブルに含まれる各時間波形の周波数成分は複数のサブキャリアを含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
複数ビットのビット列の各ビット・パターンについて、時間波形のサンプル値を示す波形テーブルを保持する光通信装置における光通信方法であって、
入力ビット列のビット・パターンに対応する時間波形のサンプル値を前記波形テーブルから読み出すステップと、
前記読み出した時間波形のサンプル値をアナログ信号に変換するステップと、
を備えている通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−139206(P2011−139206A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296916(P2009−296916)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】