説明

通信診断装置および通信診断方法

【課題】 複数の機器が接続されるネットワークシステムにおいて、ネットワーク負荷を増大させること無く伝送路を流れる通信パケットを診断し通信異常の箇所と原因を推定する通信診断装置を得る。
【解決手段】 この発明に係る通信診断装置は、ネットワークシステムの伝送路を流れる通信パケットの電文及び伝送波形を伝送路の異なる箇所からほぼ同時に取得する通信パケット取得手段と、通信パケット取得手段で取得した電文と伝送波形をそれぞれ第1電文と第1波形および第2電文と第2波形として記憶する通信パケット記憶手段と、通信パケット記憶手段に記憶された第1電文と第2電文と第1波形と第2波形が同一の通信パケットからのものと判定する通信パケット同期手段と、通信パケット同期手段で同一の通信パケットと判定された第1電文と第2電文の違い及び第1波形と第2波形の違いから通信異常の原因を推定する通信異常原因推定手段とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有線あるいは無線ネットワークシステムにおける通信異常の解析および対応作業を支援する通信診断装置および通信診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信異常には、ネットワークシステムの伝送路を流れる伝送波形の形状が何らかの要因で乱されることにより、発信元端末が生成した信号の内容が発信先端末に到達するまで維持できなくなるという物理層レベルの異常がある。よって通信異常の原因を特定し異常を回復させるためには、物理層レベルの解析(伝送波形の取得・解析)ができることが望ましい。
従来の技術では、伝送路の各終端抵抗付近に障害監視支援装置を接続し、伝送路を流れるパケットと、および発信元端末の位置を特定するために障害監視支援装置が発信する位置検出パルスとを用い、ネットワーク稼動中に通信異常を物理層レベルでリアルタイムに検出および解析できるネットワーク監視支援装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、通信パケットと伝送波形とを対応付けることで、通信異常の発生箇所と原因とを自動推定する波形解析装置が提案されているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−101583号公報
【特許文献1】特開2008−160356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に示された従来技術においては、ネットワークシステムが稼働時に送受信する信号に加えて伝送路上に位置検出パルスを送信しなければならずネットワークの負荷を増大させる、また伝送路上の各終端抵抗付近に装置を各1台接続しなければならず装置の設置場所に制約がある、という課題があった。特許文献2に示された従来技術においては、通信異常を発生させた発信元端末を通信パケットから推定することはできても、発信元端末自体に異常があるのか、発信元端末から発信先端末の間の伝送路に異常があるのか、といった異常発生箇所の切り分けが困難であった。
この発明は上述の課題を解決するためになされたもので、通常稼動時に送受信される通信パケットのみに基づき診断すること、および伝送路の複数箇所より通信パケットをバイト列(以降、電文)および生の波形データ(以降、伝送波形)として取得し同期させることにより、ネットワーク負荷を増大させることなく、通信異常の発生箇所と原因とを自動推定する通信診断装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る通信診断装置は、複数の機器が有線又は無線により接続されるネットワークシステムの伝送路を流れる通信パケットの電文及び伝送波形を前記伝送路の異なる箇所よりほぼ同時に取得し解析する通信パケット取得手段と、前記通信パケット取得手段にてそれぞれの箇所で取得した前記電文と前記伝送波形をそれぞれ第1電文と第1波形および第2電文と第2波形として記憶する通信パケット記憶手段と、前記通信パケット記憶手段に記憶された前記第1電文と前記第2電文と前記第1波形と前記第2波形が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定する通信パケット同期手段と、前記通信パケット同期手段にて同一の通信パケットから取得されたものと判定された前記第1電文と前記第2電文の違いおよび前記第1波形と前記第2波形の違いから通信異常の原因を推定する通信異常原因推定手段と、を備えるものである。
【0006】
また、この発明に係る通信診断方法は、複数の機器が有線又は無線により接続されるネットワークシステムの伝送路を流れる通信パケットの電文及び伝送波形を前記伝送路の異なる箇所よりほぼ同時に取得し解析する通信パケット取得ステップと、前記通信パケット取得ステップにてそれぞれの箇所で取得した前記電文と前記伝送波形をそれぞれ第1電文と第1波形および第2電文と第2波形として記憶する通信パケット記憶ステップと、前記通信パケット記憶ステップにより記憶された前記第1電文と第2電文と第1波形と第2波形が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定する通信パケット同期ステップと、前記通信パケット同期ステップにて同一の通信パケットから取得されたものと判定された前記第1電文と第2電文の違いまたは前記第1波形と第2波形の違いまたは前記第1電文と前記第2電文の違いと前記第1波形と前記第2波形の違いの組合せから通信異常の原因を推定する通信異常原因推定ステップと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の通信診断装置および通信診断方法は、ネットワークシステムが稼動時に実際に送受信する通信パケットを電文および伝送波形として伝送路の複数箇所より取得し同期させることで、通信異常の発生箇所と原因とを共に推定することが出来る。そのため通信プロトコルや伝送波形に関する専門的な知識や経験が乏しい作業者であっても、通信異常の発生箇所と原因の推定を容易に行い、対処することができる。これにより、作業者の人手不足を解消し、経験を積んだ作業者の負荷を軽減し、システムトラブルを早期に解決できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1の空調システムにおける伝送路4による機器の接続を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1の通信診断装置の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1の通信診断装置の空調システムへの接続例を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1の通信診断装置の空調システムへの接続例を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1の通信診断装置の空調システムへの接続例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1の通信診断情報の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態1の電文解析ステップS1の詳細を示すフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態1の電文同期ステップS2の詳細を示すフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態1の第1波形取得手段および第2波形取得手段が備えるプリトリガー機能について示す図である。
【図10】この発明の実施の形態1の伝送波形解析ステップS3の詳細を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態1の波形取得条件の更新処理を示す模式図である。
【図12】この発明の実施の形態1の波形異常度合いの数値化について示す図である。
【図13】この発明の実施の形態1の通信異常原因推定ステップS4の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
最初に、本発明の実施の形態1に係るネットワークシステムの基本構成について説明する。
図1は、ネットワークシステムの基本構成として、空調システムのネットワークシステムを示している。空調システムのネットワークシステムは、伝送路4により室外機1と室内機2とコントローラ3が接続されている。こういった空調システムでは、室外機1や室内機2やコントローラ3などの各機器にはそれぞれ固有のアドレスが付与され、該アドレスによりそれぞれの機器を識別でき、伝送路4を通じて機器間の通信を可能としている。
【0010】
次に本発明の実施の形態1における通信診断装置10の構成を説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係る通信診断装置10の構成を示すブロック図である。
通信診断装置10の構成は、第1電文取得手段11a、第2電文取得手段11b、電文記憶手段12、電文同期手段13、波形取得条件判定手段14、第1波形取得手段15a、第2波形取得手段15b、第1波形記憶手段16a、第2波形記憶手段16b、第1波形同期手段17a、第2波形同期手段17b、記憶手段18、通信異常原因推定手段19、表示手段20、からなる。
なお、第1電文取得手段11aと第1波形取得手段15aとが伝送路4のある箇所に、第2電文取得手段11bと第2波形取得手段15bとが伝送路4の別の箇所に接続される。
【0011】
図3および図4および図5は、本発明の通信診断装置10を空調システムに接続した例を示す模式図である。
図3は通信診断装置10を室外機1の両側に接続した例であり、図4はリピータ5の両側に接続した例、図5は伝送路4の両端に接続した例である。
本発明が想定する空調システムでは、室外機1ないしリピータ5ないし伝送路4により通信の伝送波形の形状が変化する。形状の変化には、減衰・ノイズ・パルス幅の変化などがある。そのため、室外機1ないしリピータ5ないし伝送路4の両側に通信診断装置10を接続することで、その機器の両側の電文および伝送波形の内容が異なっている事を抽出し、その機器の異常を推定することができる。
【0012】
第1電文取得手段11aおよび第2電文取得手段11bは、電文解析ルール111を保持している。電文同期手段13は、電文同期フラグ131を保持している。波形取得条件判定手段14は、波形取得条件141を1つ以上保持している。第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bは、波形解析ルール151を保持している。第1波形同期手段17aおよび第2波形同期手段17bは、波形同期条件171を1つ以上保持している。記憶手段18は、通信診断情報50を0個以上記憶する。通信異常原因推定手段19は、通信異常原因推定ルール191を保持している。
【0013】
図6に、通信診断情報50の構成を示す。
通信診断情報50は、通信診断情報ID51をエントリに持ち、第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと第1波形55aと第1波形取得時刻56aと第1波形特徴量57aと第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bと第2波形55bと第2波形取得時刻56bと第2波形特徴量57bと通信異常原因推定結果58とを、0個または1個、関係付けて格納する。
なお、通信診断情報50が格納する上述した情報は、そのフォーマットを限定するものではない。数値であってもよいし、文字列であってもよい。
【0014】
第1電文取得手段11a、第2電文取得手段11b、電文同期手段13、波形取得条件判定手段14、第1波形取得手段15a、第2波形取得手段15b、第1波形同期手段17a、第2波形同期手段17b、及び通信異常原因推定手段19は、回路デバイスのようなハードウェアで実現することもできるし、マイコンやCPUのような演算装置が実行するソフトウェアとして実現することもできる。
また、電文解析ルール111、電文同期条件131、波形取得条件141、波形解析ルール151、波形同期条件171、通信異常原因推定ルール191は、ソフトウェア上に構成したロジックで実現してもよいし、これと等価な回路デバイス等により実現してもよい。
また、電文記憶手段12、第1波形記憶手段16a、第2波形記憶手段16b、記憶手段18は、RAM(Random Access Memory)やHDD(Hard Disk Drive)のような、書込み可能な記憶装置で構成することができる。この記憶手段は、同一の記憶装置上に論理区画を分けて構成してもよいし、同一の記憶装置上にファイルを分けて各情報を格納するように構成してもよい。
また、表示手段20は、通信診断装置10の本体筐体外面などに設けられたディスプレイで構成してもよいし、コンピュータやネットワークシステムに接続されるコントローラへのデータ出力手段と、コンピュータの画面やコントローラの画面とで構成してもよい。
【0015】
以後は、前記通信診断装置の動作について説明する。
通信診断装置10の処理は、以下のステップS1〜S4に大別される。
(S1)電文解析ステップ
伝送路の複数箇所より取得した電文を取得・解析する。
(S2)電文同期ステップ
該電文が同一の通信パケットから取得されたものであるかどうかを判定する。
(S3)伝送波形解析ステップ
該電文の解析結果に基づいてリアルタイムに波形取得フラグを生成し、伝送波形を取得・解析する。
(S4)通信異常原因推定ステップ
該電文と該伝送波形とから通信異常の発生箇所と原因とを推定する。
【0016】
次に、ステップS1〜S4の詳細を、各部の詳細機能・動作とともに説明する。
図7は、電文解析ステップS1の詳細を示すフローチャートである。以下、各処理について説明する。
【0017】
(S101)
第1電文取得手段11aおよび第2電文取得手段11bは、有線あるいは無線の伝送路4に接続され、伝送路4上に接続されている機器が送受信する通信パケットを電文として逐次取得する。
(S102)
第1電文取得手段11aは、取得した電文を第1電文52aとして、取得した時刻を第1電文取得時刻53aとして記録する。第2電文取得手段11bは、取得した電文を第2電文として、取得した時刻を第2電文取得時刻53bとして記録する。
なお、第1電文取得時刻53aおよび第2電文取得時刻53bは絶対時刻であってもよいし、電文取得開始からの相対時刻であってもよい。時刻の取得単位は、例えば1ミリ秒程度とする。
(S103)
第1電文取得手段11aは、電文解析ルール111により第1電文52aを解析し、エラーがあったとき第1電文エラー情報54aとして記録する。前記第2電文取得手段11bは、電文解析ルール111により第2電文52bを解析し、通信プロトコルで定義されているエラーがあったとき第2電文エラー情報54bとして記録する。
なお、電文解析ルール111とは、電文長の範囲や何の情報が電文のどの位置に存在しているのかを通信プロトコルにのっとり定義しているテーブルであって、第1電文エラー情報54aおよび第2電文エラー情報54bとは、通信プロトコルで定義されているエラーの種類を示す所定の値や文字列である。
通信プロトコルで定義されているエラーとしては、レングスエラーやチェックサムエラーを想定する。
ここでレングスエラーとは、第1電文52aおよび第2電文52bには、発信時の電文のバイト列の長さを示すレングス値を有しており、レングス値と第1電文52aおよび第2電文52bの取得時のバイト列の長さとが一致しない時に発生するエラーを指す。このエラーを判定するため、電文解析ルール111は該レングス値が存在する電文中の位置を記憶し、該レングス値を抽出する。
また、チェックサムエラーとは、第1電文52aおよび第2電文52bは、発信時の電文のバイト値の総和を示すチェックサムコードを有しており、チェックサムコードと第1電文52aおよび第2電文52bの取得時のバイト値の総和とが一致しなかった時に発生するエラーを指す。このエラーを判定するため、電文解析ルール111は該チェックサムコードが存在する電文中の位置を記憶し、該チェックサムコードを抽出する。
(S104)
第1電文取得手段11aは、第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aとを電文記憶手段12に格納する。第2電文取得手段11bは、第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bとを電文記憶手段12に格納する。
【0018】
図8は、電文同期ステップS2の詳細を示すフローチャートである。以下、各処理について説明する。
(S201)
電文同期手段13は、電文同期フラグ131がOFFかONかにより、以降の処理を変更する。
(S202)
電文同期手段13は、電文同期フラグ131がOFFであるとき、電文記憶手段12に格納されている第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと、第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bとを、自動あるいは手動によりあらかじめ設定しておいた読み出し位置から、自動あるいは手動によりあらかじめ設定しておいた個数だけ読み出す。
(S203)
電文同期手段13は、読み出した第1電文52aと第2電文52bとが全て同一内容を示しているかどうかを判定する。
(S204)
全て同一内容を示しているとき、対応する第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分と、あらかじめ設定しておいた値との大小を判定する。
(S205)
対応する第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分が、あらかじめ設定しておいた値より小さかったとき、電文同期フラグ131をONに切り替える。
(S206)
電文同期手段13は、読み出した第1電文52aと第2電文52bとが同一内容を示していない、または対応する第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分があらかじめ設定しておいた値より大きかったとき、第1電文52aと第1電文取得時刻53aの読み出し位置を1つ後方にずらし、次回の読み出しを実施する。同じ結果となったときは、次は第2電文52bと第2電文取得時刻53bの読み出し位置を1つ後方にずらし、次回の読み出しを実施する。
(S207)
電文同期手段13は、電文同期フラグ131がONであるとき、電文記憶手段12に格納されている第1電文と第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと、第2電文と第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bとを、それぞれその時点での読み出し位置から1個ずつ読み出す。
(S208)
電文同期手段13はさらに、読み出した第1電文52aと第2電文52bとが同一内容を示しているかどうかを判定する。
(S209)
電文同期手段13はさらに、対応する第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分と、あらかじめ設定しておいた値との大小を判定する。
(S210)
読み出した第1電文52aと第2電文52bとが同一内容を示していない、または対応する第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分があらかじめ設定しておいた値より大きかったとき、電文同期フラグ131をOFFに切り替える。
(S211)
電文同期手段13は、読み出した第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54a、および第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bを1つの通信診断情報50に格納し、波形取得条件判定手段14と記憶手段18とに通知し、電文記憶手段12から削除する。
(S212)
記憶手段18は、通知された通信診断情報50を蓄積する。
(S213)
電文同期手段13は、一定時間を超えて電文記憶手段12に蓄積され続けている第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54a、あるいは第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bが存在するかどうかを判定する。
(S214)
存在したとき、これを読み出し、通信診断情報50を新規生成して格納し、波形取得条件判定手段14と記憶手段18とに通知する。また、電文記憶手段12から削除する。
(S215)
記憶手段18は、通知された通信診断情報50を蓄積する。
【0019】
なお、ステップS201〜S211は以下に示すS201a〜S204aにて代替させてもよい。
(S201a)
電文同期手段13は、電文記憶手段12に格納されている第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと、第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bとを、それぞれ先頭から1個ずつ読み出す。
(S202a)
電文同期手段13は、読み出した第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分と、あらかじめ設定しておいた値との大小を判定する。
(S203a)
読み出した第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分が、あらかじめ設定しておいた値より小さかったとき、読み出した第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54a、および第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bを対応付けて波形取得条件判定手段14と記憶手段18とに通知し、電文記憶手段12から削除する。
(S204a)
電文同期手段13は、読み出した第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの差分があらかじめ設定しておいた値より大きかったとき、第1電文52aと第1電文取得時刻53aの読み出し位置を1つ後方にずらし、次回の読み出しを実施する。同じ結果となったときは、次は第2電文52bと第2電文取得時刻53bの読み出し位置を1つ後方にずらし、次回の読み出しを実施する。
【0020】
この代替ステップによれば、簡易に同期判定を行うことができるため、演算負荷が抑えることができる。
【0021】
次に伝送波形解析ステップS3の説明を行うが、説明に際し、第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bが備える「プリトリガー機能」の理解が必要であるため、伝送波形解析ステップS3に先立ってその内容を説明する。
【0022】
図9は、第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bが備えるプリトリガー機能について説明するものである。
プリトリガー機能とは、波形取得開始の合図であるトリガを受信する前に、あらかじめ所定容量のバッファ内に過去の伝送波形を蓄積しておき、トリガを受信すると、バッファ内に蓄積したデータを遡って取得する機能のことである。
第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bは、トリガ受信後に、伝送波形のサンプリング取得を開始する機能を有する。ところが、伝送波形のサンプリング取得を開始した時点で波形異常が治まっていた場合には、そこから伝送波形を取得しても異常な部分は得られず、障害要因解析などを行うことができない。
【0023】
かかる不具合を回避するため、第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bは、上述のようなプリトリガー機能を備え、バッファの容量の範囲内で常時伝送波形をサンプリング取得し、波形取得条件判定手段14からトリガを受信すると、バッファ内の伝送波形をあらかじめ設定されている取得時間幅分だけ取得する。該取得時間幅がトリガ受信以降の時間帯を含んでいる場合は、その時間分待機し、バッファに格納された時点ですぐに取得すればよい。
この「プリトリガー機能」により、トリガを発する前に取得した伝送波形を遡って取得することができるので、電文の取得と伝送波形の取得を非同期に行っていても、後から両者が同一の通信パケットより取得されたものかどうかの判定を行うことができるのである。
【0024】
以後は、通信診断装置10の動作説明に戻る。
図10は、伝送波形解析ステップS3の詳細を示すフローチャートである。以下、各処理について説明する。
【0025】
(S301)
波形取得条件判定手段14は、電文同期手段13より通知された第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bが、波形取得条件141を満たすか否かを判定する。
なお、波形取得条件141は「チェックサムエラーが有る」でもよいし、「送信元アドレスが指定された値である」でもよいし、上述した2つの条件の論理積(AND条件)でも倫理和(OR条件)でもよい。また、「これらの条件を満たすか否かの結果が第1側と第2側とで異なる」であってもよいし、「第1電文と第2電文との内容が異なる」であってもよいし、「第1電文と第2電文とのいずれかが欠落している」であってもよい。
例えば、「チェックサムエラーが有る」という条件は、第1電文エラー情報54aまたは第2電文エラー情報54bにチェックサムエラーが格納されているときに満たされる。
例えば、「送信元アドレスが指定された値である」という条件は、第1電文52aおよび第2電文52bが送信元アドレスを含んでいて、該送信元アドレスがある値であったときに満たされる。
例えば、「第1電文と第2電文との内容が異なる」という条件は、第1電文52aと第2電文52bとの内容を比較し、差異があるときに満たされる。
例えば、「第1電文と第2電文とのいずれかが欠落している」である場合、電文同期手段13より通知された内容について、第1電文52aと第2電文52bとが対応付けられていないときに満たされる。
(S302)
波形取得条件判定手段14は、電文同期手段13より通知された第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bの内容に応じ、波形取得条件141を更新する。
図11は、波形取得条件141の更新処理を示す模式図である。
波形取得条件判定手段14は、第1電文52aのパケット内容と第2電文52bのパケット内容とが異なっているとき、または第1電文エラー情報54aと第2電文エラー情報54bとが異なっているとき、第1電文52aと第2電文52bの送信元を示すアドレスと送信先を示すアドレスを第1電文52aおよび第2電文52bより抽出し、波形取得条件141に「送信元アドレスおよび送信先アドレスが該追加されたアドレスである」という条件を追加する。
すなわち、1度でも電文ないしエラー情報に食い違いがあった機器の組合せについては、以降、電文が通知される度に毎回波形信号の取得を実施する。このように、異常の疑いのある機器に対し集中して解析するように波形取得条件141を自動更新することで、異常の発生箇所と異常要因と推定できる可能性を高めることができる。
(S303)
波形取得条件判定手段14は、電文同期手段13より通知された第1電文52aと第1電文取得時刻53aと第1電文エラー情報54aと第2電文52bと第2電文取得時刻53bと第2電文エラー情報54bが、波形取得条件141を満たしているかどうかを判定する。満たしていなかったときは伝送波形解析ステップS3の処理を終了する。
(S304)
波形取得条件141を満たしているときはトリガを生成し、第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bに出力する。
(S305)
第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bは、有線あるいは無線の伝送路4に接続するためのインターフェースを備える。上述のプリトリガー機能により、伝送路4上に接続されている機器が送受信する伝送波形を、例えば1MHzのサンプリング周波数で逐次取得し、プリトリガー用のバッファに格納している。
第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bは、波形取得条件判定手段14よりトリガを受信すると、プリトリガー用のバッファに蓄積された伝送波形を読み出す。なお、バッファに格納した全ての伝送波形を読み出した後、伝送路4から更に直接伝送波形を取得してもよい。
(S306)
第1波形取得手段15aは、取得した伝送波形を第1波形55aとして、取得した時刻を第1波形取得時刻56aとして記録する。第2波形取得手段15bは、取得した伝送波形を第2波形55bとして、取得した時刻を第2波形取得時刻56bとして記録する。
第1波形取得時刻56aおよび第2波形取得時刻56bは絶対時刻であってもよいし、電文取得開始からの相対時刻であってもよい。時刻の取得単位は、例えば1ミリ秒程度とする。
(S307)
第1波形取得手段15aは、取得された第1波形55aについて逐次、波形解析ルール151を用いて第1波形特徴量57aを導出し、第1波形55a及び第1波形取得時刻56aと合わせ、第1波形記憶手段16aに記憶させる。
第2波形取得手段15bは、取得された第2波形55bについて逐次、波形解析ルール151を用いて第2波形特徴量57bを導出し、第2波形55b及び第2波形取得時刻56bと合わせ、第2波形記憶手段16bに記憶させる。
ここで、第1波形特徴量57aおよび第2波形特徴量57bとは例えば、伝送波形の信号レベルや、瞬時に発生する電圧降下であるDroopにおける降下した電圧値、波形立上り部分の電圧振動であるRingingにおける振動の振幅、などの伝送波形を特徴付けるパラメータ毎に、その波形の異常度合いを図12のように数値化したものであって、波形解析ルール151とは波形特徴量を算出するための所定の演算式である。
(S308)
第1波形同期手段17aは、記憶手段18に格納されている第1電文52aおよび第1電文取得時刻53aを検索し、波形同期条件171を用いて、第1波形記憶手段16aに記憶された第1波形55aと第1電文52aとが同一の通信パケットを示しているかどうかを判別する。第2波形同期手段17bは、記憶手段18に格納されている第2電文52bおよび第2電文取得時刻53bを検索し、波形同期条件171を用いて、第2波形記憶手段16bに記憶された第2波形55bと第2電文52bとが同一の通信パケットを示しているかどうかを判別する。
波形同期条件171の内容は、例えば以下の(1)〜(4)のようにすることができる。
(1)波形取得時刻と電文取得時刻との差分が閾値以下である場合に、両者が同期しているとみなす。この判定基準によれば、簡易に同期判定を行うことができるため、演算負荷が少なくてすむ。
(2)電文をアナログ変換した波形と、波形取得手段が取得した波形との一致度が閾値以上である場合に、両者が同期しているとみなす。一致度の演算は、誤差の2乗平均による方法など、任意の演算手法を用いればよい。この判定基準によれば、(1)よりも厳密に一致判定を行うことができ、解析の精度が増す(下記(3)も同様)。
(3)波形取得手段が取得した波形をバイト列化した信号と電文との一致度が閾値以上である場合に、両者が同一の通信パケットを示しているとみなす。
(4)上述した(1)〜(3)の条件の論理積又は論理和。
(S309)
記憶手段18は、第1波形同期手段17aが「第1波形55aと同期している」と判別した第1電文52aが格納されている通信診断情報50に、第1波形55aと第1波形取得時刻56aと第1波形特徴量57aとを格納し、第2波形同期手段17bが「第2波形55bと同期している」と判別した第2電文52bが格納されている通信診断情報50に、第2波形と第2波形取得時刻56bと第2波形特徴量57bとを格納する。
【0026】
図13は、通信異常原因推定ステップS4の詳細を示すフローチャートである。以下、各処理について説明する。
(S401)
通信異常原因推定手段19は、記憶手段18に格納されている通信診断情報50を逐次監視し、通信異常原因推定結果58が格納されていない通信診断情報50があるかどうかを判定する。
(S402)
通信異常原因推定手段19は、通信異常原因推定結果58が格納されていない通信診断情報50があったとき、これを取得する。
(S403)
通信異常原因推定手段19は、取得した通信診断情報50について、通信異常原因推定ルール191を用い通信異常原因推定結果58を導出する。
ここで、通信異常原因推定ルール191とは例えば、第1電文52aあるいは第2電文52bの差異の有無を入力、通信異常原因推定結果58を出力とする論理式であってもよい。これにより、通信異常原因推定手段19は、第1電文52aあるいは第2電文52bに差異がある場合に、伝送路4の「第1電文取得手段11aおよび第1波形取得手段15aが接続されている箇所」と「第2電文取得手段11bおよび第2波形取得手段15bが接続されている箇所」との間に通信異常原因があると推定することができる。
また、通信異常原因推定ルール191とは例えば、第1電文エラー情報54a、第2電文エラー情報54b、第1波形特徴量57a、第2波形特徴量57bをパラメータ、通信異常原因推定結果58を出力とする所定の演算式であってもよい。これにより、通信異常原因推定手段19は、第1電文エラー情報54aと第2電文エラー情報54b、第1波形特徴量57aと第2波形特徴量57bとの間に差異がある場合に、伝送路4の「第1電文取得手段11aおよび第1波形取得手段15aが接続されている箇所」と「第2電文取得手段11bおよび第2波形取得手段15bが接続されている箇所」との間に通信異常原因があると推定することができる。
(S404)
通信異常原因推定手段19は、取得した通信診断情報50に通信異常原因推定結果58を格納し、記憶手段18に通知する。
(S405)
表示手段20は、記憶手段18が格納している通信診断情報50の一部または全部を表示する。
【0027】
この際、例えば第1電文52aおよび第2電文52bが簡易に比較できるように、例えば同列または同行に表示することで、伝送路4の「第1電文取得手段11aが接続されている箇所」と「第2電文取得手段11bが接続されている箇所」との間における通信異常発生内容を容易に把握できるように示すことができ、通信異常原因がある事を容易に推定することができる。
【0028】
また、例えば第1波形55aおよび第2波形55bが簡易に比較できるように例えば同列または同行または重ね合わせて表示することで、伝送波形の違いを容易に把握できるようになり、例えば伝送波形を乱す原因がノイズによるものであるなどの推定ができ、その伝送波形を乱す原因が伝送路4の「第1波形取得手段15aが接続されている箇所」と「第2波形取得手段15bが接続されている箇所」との間に存在するという発生箇所を明確に把握することができる。
【0029】
また、第1波形特徴量57aと第2波形特徴量57bとが伝送波形のレベルを含み、両者に明確な差異があった場合は、通信異常原因推定結果58は、『伝送路4の「第1波形取得手段15aが接続されている箇所」と「第2波形取得手段15bが接続されている箇所」との間で伝送波形が減衰している』とし、伝送路4の距離が長い場合には伝送路の長さにより伝送信号の減衰が発生していると推定し、表示手段20により伝送波形レベルを増幅させるリピータの設置をユーザに促してもよい。
【0030】
なお、上記の実施の形態1で説明した各動作ステップをコンピュータプログラムとしてコンピュータに実装し、実行させることによって、通信診断装置10として機能させることが可能である。
【0031】
実施の形態2.
実施の形態1においては、電文解析ルール111と波形取得条件141は固定的に構成するものとしたが、ユーザがこれらを設定するように構成することもできる。
ただし、ユーザが個別のプロトコルなどの設定を行うのは煩雑であるので、次のように構成することが好ましい。
【0032】
(1)電文解析ルール111
解析対象のプロトコルの選択肢をあらかじめ通信診断装置10内のいずれかの記憶手段に保持しておき、ユーザに選択用の画面を提供して、解析したいプロトコルを選択させることができる。
解析対象のプロトコルの候補としては、例えばTCP/IPのような基本的なプロトコルから、SMTPやHTTPのようなアプリケーション層のプロトコル、さらには設備機器管理ネットワークであれば、BACnetやLONといった専用のプロトコルが挙げられる。
解析対象のプロトコルをあらかじめ指定しておけば、チェックサムエラーがあるか、あるいはパケットのいずれの部分が送信元アドレスであるか等が容易に判別でき、パケットの解析がしやすい。
【0033】
(2)波形取得条件141
波形取得条件141として、実施の形態1で説明した「チェックサムエラーが有る」や「送信元アドレスが指定された値である」といった選択肢をあらかじめ波形解析装置10内のいずれかの記憶手段に保持しておき、ユーザに選択用の画面を提供して、波形取得条件141を選択させることができる。
【0034】
以降は、通信診断装置10による、空調システムにおける通信異常の発生箇所と原因とを自動推定する処理について説明する。
【0035】
通信診断装置10が有する第1電文取得手段11aと第2電文取得手段11bは、空調システムの伝送路4に接続されることで、各々、伝送路を流れる通信パケットを第1電文52aおよび第2電文52bとして取得し、その取得時刻を第1電文取得時刻53aおよび第2電文取得時刻53bとして記録し、電文記憶手段12に格納する。
【0036】
電文同期手段13は、電文記憶手段12に格納されている第1電文52aと第2電文52bとを順次参照し、第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの時間差があらかじめ設定された値以下であることをもって、第1電文52aと第2電文52bとが同一の通信パケットを示すものだと判定する。時間差をゼロに限らなくしているのは、通信遅延を考慮したためである。
【0037】
電文同期手段13は、同一の通信パケットと判定した第1電文52aと第2電文52b、また第1電文取得時刻53aと第2電文53bとを通信診断情報50に格納する。通信診断情報50は記憶手段18に記憶する。
【0038】
電文同期手段13は更に、同一の通信パケットを示すものと判定された第1電文52aと第2電文52bの内容が異なっていることをもって、「第1電文取得手段11aの接続箇所」と「第2電文取得手段11bの接続箇所」の間に、通信異常の発生箇所が存在すると推定する。
【0039】
例えば、室外機1同士を接続しているネットワークと、室外機1と室内機2とコントローラ3とを接続しているネットワークが別個であって、室外機1内で一方のネットワークから他方のネットワークへの通信パケット変換を実施している空調システムでは、図3のように第1電文取得手段11aと第2電文取得手段11bとを室外機1の両側に接続することで、該通信パケット変換が異常を起こしているか否かを簡易に推定することができる。
【0040】
また、伝送波形の減衰による通信異常抑止のために伝送波形増幅機能を有するリピータ5が伝送路4に設置される空調システムでは、図4のように第1電文取得手段11aと第2電文取得手段11bとをリピータ5の両側に接続することで、該伝送波形増幅機能が異常を起こしているか否かを簡易に推定することができる。
【0041】
また、多数の室内機2a〜2zが長い伝送路4により接続されている空調システムでは、図5のように第1電文取得手段11aと第2電文取得手段11bとを該長い伝送路4の両端に接続することで、該伝送路4が通信を維持できないほど長すぎるか否かを簡易に推定することができる。
【0042】
しかし図5のような場合では、第1電文取得手段11aと第2電文取得手段11bとを離れた位置に設置する必要があり、両者を1つのタイマで管理できない可能性がある。このとき、第1電文取得時刻53aと第2電文取得時刻53bとの時間差だけをもっている第1電文52aと第2電文52bとが同一の通信パケットと判定することは信頼性に乏しい。
【0043】
この対策として、第1電文取得手段11aと第2電文取得手段11bとが電文解析ルール111を有し、電文解析ルール111により第1電文52aおよび第2電文52bの発信元アドレス・発信先アドレス・通信プロトコルで定義されたエラーを第1電文エラー情報54aおよび第2電文エラー情報54bとして抽出し、電文同期手段13は抽出した発信元アドレス・発信先アドレスが同じであることをもって、第1電文52aと第2電文52bとを同一の通信パケットと判定する。なお、第1電文エラー情報54aおよび第2電文エラー情報54bも通信診断情報50に格納する。
【0044】
また、更に信頼性を向上させるために、電文記憶手段12に記憶されている第1電文52aと第2電文52bとが、あらかじめ設定された個数だけ連続して前記の条件を満たした場合に、初めて同一の通信パケットと判定するようにしてもよい。
【0045】
波形取得条件判定手段14は、1つの通信診断情報50に格納された第1電文52a、第1電文取得時刻53a、第1電文エラー情報54a、第2電文52b、第2電文取得時刻53b、第2電文エラー情報54bが波形取得条件141を満たしたとき、第1波形取得手段15aと第2波形取得手段15bとにトリガを発信する。第1波形取得手段15aと第2波形取得手段15bはトリガを受信したタイミングで、伝送波形をそれぞれ第1波形55aおよび第2波形55bとして取得し、その取得時刻を第1波形取得時刻56aおよび第2波形取得時刻56bとして記録する。
【0046】
第1波形取得手段15aおよび第2波形取得手段15bは波形解析ルール151を有し、波形解析ルール151により第1波形55aおよび第2波形55bから第1波形特徴量57aおよび第2波形特徴量57bを導出する。
【0047】
第1波形同期手段17aおよび第2波形同期手段は、記憶手段18に記憶されている第1電文52aおよび第2電文52bを逐次参照し、波形同期条件171により、第1波形55aと第1電文52a、および第2波形56aと第2電文52bとが同一の通信パケットを示すものであるかどうかを判定する。結果、同一の通信パケットを示していると判定された第1電文52aが格納されている通信診断情報50に、第1波形55a、第1波形取得時刻56a、第1波形特徴量57aを格納する。同一の通信パケットを示していると判定された第2電文52bが格納されている通信診断情報50に、第2波形55b、第2波形取得時刻56b、第2波形特徴量57bを格納する。これにより、同一の通信パケットより取得された第1電文52a、第2電文52b、第1波形55a、第2波形55bが全て、1つの通信診断情報50にまとめられる。
【0048】
この通信診断情報50の内容を表示手段20により表示することで、作業者が自らの視点で、同一の通信パケットより取得された第1電文52aおよび第2電文52b、また第1波形55aおよび第2波形55bの内容に差異があると判定し通信異常発生内容を容易に把握でき、「第1電文取得手段11aおよび第1波形取得手段15aの接続箇所」と「第2電文取得手段11bおよび第2波形取得手段15bの接続箇所」の間に通信異常の発生箇所が存在する、と推定することができる。
【0049】
更に、一般的に伝送波形の形状および波形特徴量は通信異常の原因に応じて変化するため、第1波形55a、第2波形55b、第1波形特徴量57a、第2波形特徴量57bを作業者に比較観察させることで、通信異常の原因の推定を支援することができる。
【0050】
しかし通信プロトコルや伝送波形に関する専門的な知識や経験が多くない作業者にとっては、前述のように各種データを表示するだけでは、通信異常原因の推定が困難なままであることが予想される。
そこで各種データの振る舞いから通信異常原因を推定する手順のうち、代表的かつ自動処理が可能なものを、通信異常原因推定手段19に通信異常原因推定ルール191として保持させる。
【0051】
通信異常原因推定ルール191は例えば、第1電文52aと第2電文52bとに差異があるかどうかを自動判定し、差異があったとき、「伝送路4の、第1電文取得手段11aおよび第1波形取得手段15aが接続されている箇所と、第2電文取得手段11bおよび第2波形取得手段15bが接続されている箇所との間に通信異常原因がある」という意味の文字列やシンボルを通信異常原因推定結果58に格納する。
【0052】
また例えば、通信異常原因推定ルール191は、第1波形55aと第2波形55bの形状に大きな差異があったとき、「伝送路4の、第1波形取得手段15aが接続されている箇所と、第2波形取得手段15bが接続されている箇所との間で、ノイズなどの影響で伝送波形が変形している」という意味の文字列やシンボルを通信異常原因推定結果58に格納する。
【0053】
あるいは、第1波形特徴量57aおよび第2波形特徴量57bがそれぞれ伝送波形の電圧レベルを含んでいるとし、通信異常原因推定ルール191は、伝送波形の電圧レベルがあらかじめ設定しておいた値以上の差異があるかどうかを自動判定し、差異があったとき、「伝送路4の、第1波形取得手段15aが接続されている箇所と、第2波形取得手段15bが接続されている箇所との間で、伝送波形の減衰が起こっている」という意味の文字列やシンボルを通信異常原因推定結果58に格納する。
【0054】
このように、本発明の通信診断装置10を、室外機1の両側に接続したり、リピータ5の両側に接続したり、伝送路4のある区間に接続したりすることにより、通信異常が発生した場合に、通信診断装置10が通信異常を検出すれば、通信診断装置10を接続した箇所の間で通信異常が発生したことを特定でき、通信異常原因推定手段19により通信異常の原因を推定することができる。
【0055】
また、こうして導出した通信異常原因推定結果58を表示することで、通信プロトコルや伝送波形に関する専門的な知識や経験が多くない作業者であっても、通信異常の発生箇所の特定と原因の推定を容易に行い、対処することができる。したがって、作業者の人手不足を解消し、経験を積んだ作業者の負荷を軽減し、システムトラブルを早期に解決できるという効果を生む。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の実施の形態として、ビル空調システムの通信ネットワークの通信異常解析について上述してきたが、本発明の活用例として、監視システム、ビル照明システム等、他の有線あるいは無線ネットワークシステムにおける通信異常解析を支援する通信診断装置が挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
1 室外機
2 室内機
3 コントローラ
4 伝送路
5 リピータ
10 通信診断装置
11a 第1電文取得手段
11b 第2電文取得手段
12 電文記憶手段
13 電文同期手段
14 波形取得条件判定手段
15a 第1波形取得手段
15b 第2波形取得手段
16a 第1波形記憶手段
16b 第2波形記憶手段
17a 第1波形同期手段
17b 第2波形同期手段
18 記憶手段
19 通信異常原因推定手段
20 表示手段
50 通信診断情報
51 通信診断情報ID
52a 第1電文
52b 第2電文
53a 第1電文取得時刻
53b 第2電文取得時刻
54a 第1電文エラー情報
54b 第2電文エラー情報
55a 第1波形
55b 第2波形
56a 第1波形取得時刻
56b 第2波形取得時刻
57a 第1波形特徴量
57b 第2波形特徴量
58 通信異常原因推定結果
111 電文解析ルール
131 電文同期フラグ
141 波形取得条件
161 波形解析ルール
171 波形同期条件
191 通信異常原因推定ルール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機器が有線又は無線により接続されるネットワークシステムの伝送路を流れる通信パケットの電文及び伝送波形を前記伝送路の異なる箇所よりほぼ同時に取得し解析する通信パケット取得手段と、
前記通信パケット取得手段にてそれぞれの箇所で取得した前記電文と前記伝送波形をそれぞれ第1電文と第1波形および第2電文と第2波形として記憶する通信パケット記憶手段と、
前記通信パケット記憶手段に記憶された前記第1電文と第2電文と第1波形と第2波形が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定する通信パケット同期手段と、
前記通信パケット同期手段にて同一の通信パケットから取得されたものと判定された前記第1電文と第2電文の違いおよび前記第1波形と第2波形の違いから通信異常の原因を推定する通信異常原因推定手段と、
を備えることを特徴とする通信診断装置。
【請求項2】
前記通信パケット同期手段は、電文同期手段と波形同期手段とを備え、
前記電文同期手段は、ほぼ同時に取得した前記第1電文と前記第2電文を解析し、前記第1電文と前記第2電文が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定し、
前記波形同期手段は、ほぼ同時に取得した前記第1電文と前記第1波形および前記第2電文と前記第2波形を解析し、前記第1電文と前記第1波形が同一の通信パケットから取得されたものかを判定し、前記第2電文と前記第2波形が同一の通信パケットから取得されたものかを判定することを特徴とする請求項1に記載の通信診断装置。
【請求項3】
前記通信パケット取得手段は、前記第1電文および前記第2電文および前記第1波形および前記第2波形を取得したそれぞれの時刻を記録し、
前記電文同期手段は、前記パケット取得手段により記録された前記第1電文の取得時刻と前記第2電文の取得時刻の差分があらかじめ設定された値以下である場合に前記第1電文と前記第2電文が同一の通信パケットから取得されたものと判定することを特徴とする請求項2に記載の通信診断装置。
【請求項4】
前記電文同期手段は、前記通信パケット取得手段が取得した前記第1電文と前記第2電文の内容が一致する場合に前記第1電文と前記第2電文が同一の通信パケットから取得されたものと判定することを特徴とする請求項2に記載の通信診断装置。
【請求項5】
前記第1電文および第2電文は、送信元の機器を示す送信元アドレスと送信先の機器を示す送信先アドレスを有し、
前記電文同期手段は、前記第1電文の送信元アドレスと第2電文の送信元アドレスおよび前記第1電文の送信先アドレスと前記第2電文の送信先アドレスが同一である場合に前記第1電文と前記第2電文が同一の通信パケットから取得されたものと判定することを特徴とする請求項2に記載の通信診断装置。
【請求項6】
前記通信パケット取得手段は、前記第1電文および前記第2電文および前記第1波形および前記第2波形を取得したそれぞれの時刻を記録し、
前記波形同期手段は、前記パケット取得手段により記録された前記第1電文の取得時刻と前記第1波形の取得時刻の差分があらかじめ設定された値以下である場合に前記第1電文と前記第1波形が同一の通信パケットから取得されたものと判定し、前記パケット取得手段により記録された前記第2電文の取得時刻と前記第2波形の取得時刻の差分があらかじめ設定された値以下である場合に前記第2電文と前記第2波形が同一の通信パケットから取得されたものと判定することを特徴とする請求項2に記載の通信診断装置。
【請求項7】
前記通信パケット取得手段は、電文取得手段と波形取得手段を有し、
前記電文取得手段で取得した前記第1電文と前記第2電文が、前記電文同期手段にて同一の通信パケットから取得されたと判定され前記第1電文と第2電文の解析結果があらかじめ設定された条件を満たしたときに前記伝送波形取得手段に伝送波形の取得を指示する波形取得条件判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の通信診断装置。
【請求項8】
前記波形取得条件判定手段は、前記電文同期手段にて同一の通信パケットから取得されたと判定された前記第1電文と前記第2電文の内容が異なるときに前記波形取得手段に伝送波形の取得を指示することを特徴とする請求項7に記載の通信診断装置。
【請求項9】
前記通信異常原因推定手段は、前記通信パケット記憶手段にて記憶した前記第1波形および前記第2波形からそれぞれの伝送電圧レベルを導出し、それぞれの前記伝送電圧レベルの差分値があらかじめ設定された値以上の場合に通信異常の原因を推定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の通信診断装置。
【請求項10】
複数の機器が有線又は無線により接続されるネットワークシステムの伝送路を流れる通信パケットの電文を前記伝送路の異なる箇所よりほぼ同時に取得し解析する通信パケット取得手段と、
前記通信パケット取得手段にてそれぞれの箇所で取得した前記電文をそれぞれ第1電文と第2電文として記憶する通信パケット記憶手段と、
前記通信パケット記憶手段に記憶された前記第1電文と第2電文が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定する通信パケット同期手段と、
前記通信パケット同期手段にて同一の通信パケットから取得されたものと判定された前記第1電文と第2電文の違いから通信異常の原因を推定する通信異常原因推定手段と、
を備えることを特徴とする通信診断装置。
【請求項11】
前記通信パケット記憶手段により記憶した前記第1電文と前記第2電文のデータを表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の通信診断装置。
【請求項12】
前記表示手段は、前記通信パケット記憶手段にて記憶した前記第1電文と第2電文とを同行又は同列に表示することを特徴とする請求項11に記載の通信診断装置。
【請求項13】
前記通信パケット記憶手段により記憶した前記第1波形と前記第2波形のデータを表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の通信診断装置。
【請求項14】
前記表示手段は、前記通信パケット記憶手段にて記憶した前記第1波形と第2波形とを同行または同列または重ね合わせて表示することを特徴とする請求項13に記載の通信診断装置。
【請求項15】
複数の機器が有線又は無線により接続されるネットワークシステムの伝送路を流れる通信パケットの電文及び伝送波形を前記伝送路の異なる箇所よりほぼ同時に取得し解析する通信パケット取得ステップと、
前記通信パケット取得ステップにてそれぞれの箇所で取得した前記電文と前記伝送波形をそれぞれ第1電文と第1波形および第2電文と第2波形として記憶する通信パケット記憶ステップと、
前記通信パケット記憶ステップに記憶された前記第1電文と第2電文と第1波形と第2波形が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定する通信パケット同期ステップと、
前記通信パケット同期ステップにて同一の通信パケットから取得されたものと判定された前記第1電文と第2電文の違い、または前記第1波形と第2波形の違い、または前記第1電文と前記第2電文の違いと前記第1波形と前記第2波形の違いの組合せから通信異常の原因を推定する通信異常原因推定ステップと、
を備えることを特徴とする通信診断方法。
【請求項16】
前記通信パケット同期ステップは、電文同期ステップと波形同期ステップとを有し、
前記電文同期ステップは、ほぼ同時に取得した前記第1電文と前記第2電文を解析し、前記第1電文と前記第2電文が同一の通信パケットから取得されたものかどうかを判定し、
前記波形同期ステップは、ほぼ同時に取得した前記第1電文と前記第1波形および前記第2電文と前記第2波形を解析し、前記第1電文と前記第1波形が同一の通信パケットから取得されたものかを判定し、前記第2電文と前記第2波形が同一の通信パケットから取得されたものかを判定することを特徴とする請求項15に記載の通信診断方法。
【請求項17】
前記通信パケット取得ステップは、前記第1電文および前記第2電文および前記第1波形および前記第2波形を取得したそれぞれの時刻を記録し、
前記電文同期ステップは、前記パケット取得ステップにより記録された前記第1電文の取得時刻と前記第2電文の取得時刻の差分があらかじめ設定された値以下である場合に前記第1電文と前記第2電文が同一の通信パケットから取得されたものと判定し、
前記波形同期ステップは、前記パケット取得ステップにより記録された前記第1電文の取得時刻と前記第1波形の取得時刻の差分があらかじめ設定された値以下である場合に前記第1電文と前記第1波形が同一の通信パケットから取得されたものと判定し、前記パケット取得ステップにより記録された前記第2電文の取得時刻と前記第2波形の取得時刻の差分があらかじめ設定された値以下である場合に前記第2電文と前記第2波形が同一の通信パケットから取得されたものと判定
することを特徴とする請求項16に記載の通信診断方法。
【請求項18】
前記通信パケット取得ステップは、電文取得ステップと波形取得ステップを有し、
前記電文取得ステップで取得した前記第1電文と前記第2電文が、前記電文同期ステップにて同一の通信パケットから取得されたと判定され前記第1電文と第2電文の内容が異なるときに前記伝送波形取得ステップに伝送波形の取得を指示する波形取得条件判定ステップと、
を備えることを特徴とする請求項16乃至17のいずれかに記載の通信診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−223154(P2011−223154A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87764(P2010−87764)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】