説明

通気性を有する繊維成形体の製造方法

【課題】原料の充填性が良く、短時間のうちに充填できると共に、繊維の配列の均一性に優れ、通気性の良好な繊維成形体を容易に得ることができる通気性を有する繊維成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】通気性を有する繊維成形体は、繊維、金型34の成形凹部33への充填を補助する充填補助剤及び水を含有する繊維成形体の原料を撹拌混合した後成形凹部33に充填し、加熱することにより製造される。この場合、原料は、水85〜95質量%、充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含有する。繊維成形体の原料は、チクソトロピー性を有することが好ましい。また、繊維成形体の原料には、非イオン性界面活性剤及びポリアリルアミンの少なくとも一種よりなる繊維滑り性向上剤を含有することが好ましい。さらに、加熱の温度は、好ましくは50〜100℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン吸気系におけるフィルター、空調装置のフィルターなどとして使用される通気性を有する繊維成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維成形体を製造する方法として、例えば繊維性の古紙を水に溶解させ、金網付きの金型に注入して水を除去した後、乾燥して成形体とするいわゆる湿式のパルプモールド法が知られている。また、開放状態にある金型の内面に、微小紙片と粉末状澱粉と水とを同時に吹き付け、金型を閉鎖した後加熱して固化することにより成形体とするいわゆる乾式のパルプモールド法も知られている。
【0003】
しかしながら、湿式のパルプモールド法においては、成形体の形状が単純で、肉厚が薄く、均一なものに限定されると共に、水の除去及び乾燥に長時間を要するため成形サイクルが長くなるなどの欠点があった。また、乾式のパルプモールド法においては、肉厚が湿式のパルプモールド法と同様に制限される上に、吹き付け作業が必要なため成形が煩雑になり、生産効率が悪いという欠点があった。
【0004】
さらに、予め発泡させておくか、又は発泡剤を練り込んだ紙を主原料とする成形材料を調製し、それを金型内に射出した後金型を昇温させ、発泡状の成形体を製作する方法も知られている。しかし、この方法では、成形体中の気泡が独立気泡となりやすく、成形体の通気性が低くなるという欠点があった。
【0005】
そのため、これらの欠点を解消すべく、高分子結合材及び水を添加して混練した繊維性主材料を、加熱した金型のキャビティ内に充填し、次いで添加した水を気化除去して固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この場合、キャビティ壁面温度は120〜240℃に設定される。この方法は、繊維成形体を成形材料として用いることにより、廃棄物の再利用等に利用できるものである。
【特許文献1】特開平9−76213号公報(第2頁、第3頁及び第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記特許文献1に記載されている繊維成形体の製造方法においては、繊維成形体の原料組成について、具体的には繊維性主材料としての古紙粉砕紙:高分子結合材としての馬鈴薯澱粉:水の配合割合が7:3:14に設定されている(特許文献1の実施例1)。すなわち、原料組成は、古紙粉砕紙29.2質量%、馬鈴薯澱粉12.5質量%及び水58.3質量%である。この場合、繊維性主材料及び高分子結合材の配合割合が多いことから、原料の粘性が上昇し、原料を金型の成形凹部に充填する場合の充填性が悪くなり、長時間に渡る充填を必要とするという問題があった。さらに、馬鈴薯澱粉などの高分子結合材は加熱成形時に水分が蒸発して繊維表面に被膜を形成しやすいことから、得られる繊維成形体は繊維間がその被膜で埋められ、通気性に欠けるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、原料の充填性が良く、短時間のうちに充填できると共に、繊維の配列の均一性に優れ、通気性の良好な繊維成形体を容易に得ることができる通気性を有する繊維成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法は、繊維、金型の成形凹部への充填を補助する充填補助剤及び水を含有する繊維成形体の原料を撹拌、混合した後、金型の成形凹部に充填し、加熱により水分を除去して繊維成形体を製造する方法である。この場合、繊維成形体の原料は、水85〜95質量%、充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法は、請求項1に係る発明において、前記加熱の温度は、50〜100℃であることを特徴とする。
請求項3に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記繊維成形体の原料は、その粘度が撹拌による剪断力の増大に伴って低くなるチクソトロピー性を有するものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記加熱の前に、加圧又は減圧により脱水することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に係る発明において、前記繊維成形体の原料には、非イオン性界面活性剤及びポリアリルアミンの少なくとも一種よりなる繊維滑り性向上剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法では、繊維成形体の原料は、水85〜95質量%、充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含有するものである。特に、充填補助剤の含有量は、少ないと原料の充填補助機能が不足して繊維が水中で離散し原料を成形凹部に充填することが困難になり、多いと原料の粘性が上昇して充填時間が長くなり過ぎて製造効率が悪化する。充填補助剤の含有量を水、繊維などの含有量に対して上記範囲に設定することにより、原料の適正な粘性と充填性が良好に発現される。さらに、繊維の含有量を抑えて充填時における繊維の配向を整えることができる。従って、原料の充填性が良く、短時間のうちに充填できると共に、繊維の配列の均一性に優れ、通気性の良好な繊維成形体を容易に得ることができる。
【0013】
請求項2に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法では、加熱の温度が50〜100℃であることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、水分の沸騰が防止され、繊維の凝集や繊維密度のばらつきを抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法では、繊維成形体の原料は、その粘度が撹拌による剪断力の増大に伴って低くなるチクソトロピー性を有するものである。このため、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、原料を撹拌して成形凹部に充填する場合には原料の粘度が低くなって充填性を改善することができ、充填後には粘度が高くなって繊維の移動が抑制され、繊維の配向性及び通気性を向上させることができる。
【0015】
請求項4に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法では、加熱の前に、加圧又は減圧により脱水することから、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、水分の除去を効率良く行うことができると共に、加熱による水分除去の負荷を軽減することができる。
【0016】
請求項5に係る通気性を有する繊維成形体の製造方法では、繊維成形体の原料には、非イオン性界面活性剤及びポリアリルアミンの少なくとも一種よりなる繊維滑り性向上剤を含有する。従って、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、繊維の滑り性を向上させることができ、充填性が改善されると共に、繊維の並びをより均一にでき、品質の良好な繊維成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良と思われる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の通気性を有する繊維成形体は、繊維、金型の成形凹部(キャビティ)への充填を補助する充填補助剤及び水を含有する繊維成形体の原料を撹拌、混合した後、金型の成形凹部に充填し、加熱により水分を除去することによって製造される。その場合、繊維成形体の原料は、水85〜95質量%、充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含有するものである。この原料には、必要により繊維間を接合する繊維接着剤等の添加剤が配合される。
【0018】
係る繊維成形体の原料について順に説明する。
(繊維について)
使用する繊維としては、綿(コットン)、パルプ、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等で、天然繊維、合成繊維を問わず用いられる。この繊維は、対象となる製品の通気性や除塵性、剛性等の要求値に基づいて選定され、単独又は複数の繊維が混合して使用される。繊維形状は、直径0.1〜100μm、長さ1〜10mmで、ストレート繊維、捲縮繊維等を問わず、要求される繊維成形体の厚さに対する繊維量(繊維密度)、繊維成形体の剛性、通気性等に基づいて、単独又は混合して使用することができる。
【0019】
また、繊維は後述する充填補助剤により繊維凝集がなく、均一に分散混合できれば良く、その状態は充填補助剤や繊維材質、繊維形状が大きく影響するため、上記直径又は長さの範囲を超えることもある。繊維断面は円形、矩形、異形等の種類があるが、これも通気性や除塵性、剛性等の要求値で決まり、単独又は複数の繊維を混合して使用することができる。特に、自動車用フィルターを成形する場合には、高温安定性のあるポリエステル繊維を主繊維としてポリプロピレン繊維、アクリル繊維、パルプ等を適量混合し、繊維の直径が0.1〜50μm、繊維の長さが1〜8mmの範囲で使用することが望ましい。
【0020】
厚さが1mm以上で通気性があり、均一な繊維密度を有する不織布状の繊維成形体を得る場合、金型の成形凹部に充填した繊維材料を加熱して水分を蒸発させる過程で、繊維が繊維成形体の表層に偏ってしまい内部が空洞化する可能性がある。この対策として、繊維成形体の厚さに応じて捲縮繊維量を増加する方法、繊維の長いものを選定する方法、繊維径を太くする方法等で構成繊維の剛性を上げて水分蒸発による影響を防止することができる。
【0021】
繊維の含有量は、充填補助剤及び水の含有量との相対量として決定されるが、繊維成形体の原料中に3〜14.5質量%の範囲で設定される。繊維の含有量が3質量%を下回ると、厚い繊維成形体を得ることができなくなり、また相対的に水分量が増えてその蒸発が困難になる。一方、14.5質量%を上回ると、原料中の繊維量が過剰になって繊維凝集が起きたりして充填性が悪くなる。
(充填補助剤について)
充填補助剤は、成形凹部への原料の充填性を改善するもので、その基本的な構成成分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーとしては、ポリアクリル酸又はその塩、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。ポリアクリル酸の塩としては、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。水溶性ポリマーの質量平均分子量は、200万〜500万のものが好適に用いられる。そして、水溶性ポリマーを水で希釈したものに繊維を混合して繊維成形体の原料とする。水溶性ポリマーは水へ微量添加することで高粘度の水溶液が得られる。その水溶液に繊維を混合させることで繊維間を均一に保持した状態に保つことができ、外力に対し繊維間隔(繊維密度)を均等に保ちながら高い展延性を得ることができる。
【0022】
また、水溶性ポリマーはチクソトロピー性が高いことから、剪断速度が高くなる充填時には粘度が低下して高流動性が得られ、充填後に剪断速度が低くなると高粘度となり繊維の移動が抑制されるため充填された繊維の疎密が生じにくくなる。この他にも水溶性ポリマーは、微量添加で効果が発現されるので、原料を加熱して水分を除去しても繊維間に残留する固形分が少ないことから、フィルター等の通気性を必要とし、通気抵抗を極力少なくしたい製品では非常に都合がよい。
【0023】
充填補助剤の含有量は、繊維成形体の原料中に0.5〜2質量%の範囲に設定される。すなわち、繊維の形状や含有量、金型の成形凹部の形状等にもよるが、水溶液の粘度で500〜30,000mPa・sが得られるように設定される。充填補助剤の含有量が0.5質量%より少ない場合には、金型の成形凹部への原料の充填性が改善されず、充填に時間を要する結果を招く。その一方、2質量%より多い場合には、繊維の凝集が起こる傾向があり、原料が不均一になって充填性が悪化したり、良好な繊維成形体が得られなくなったりする。
【0024】
充填補助剤の配合に際しては、充填補助剤の粘度が低いものに少量の繊維を配合した場合には、上記含有量の範囲であっても充填時に繊維と水分が分離して均一な繊維成形体が得られないことがある。また、繊維含有量が多いと繊維と充填補助剤を混合する段階で繊維凝集が起こり、これが充填後もそのまま残るため繊維密度に差が生じて、充填装置のノズルが詰まり射出不能になる場合がある。これらのことから、繊維の含有量及び充填補助剤の含有量は、その種類や含有量等によって大きく変わるため、前記条件を考慮して決定される。
(水について)
水は繊維及び充填補助剤を分散又は溶解させる媒体である。繊維成形体の原料中における水の含有量は、85〜95質量%に設定される。水の含有量が85質量%より少ない場合には、繊維及び充填補助剤の含有量が相対的に過剰になり、繊維の凝集が起きたり、原料の粘度が高くなって充填性が悪化する。その一方、95質量%より多い場合には、繊維及び充填補助剤の含有量が僅少になり、繊維が離散したり、繊維間が不均一になったりして繊維成形体の品質が損なわれる。
(繊維接着剤について)
繊維接着剤は繊維間を結合して集束するもので、必要により用いられ、バインダー繊維(繊維状接着剤)、エマルジョン系接着剤、ウレタン系接着剤等が使用される。バインダー繊維は従来、不織布製造時に繊維同士を接着するために使用されているもので、一定温度以上に加熱することで繊維全体が溶融し、未溶融の主繊維を融着するものと、芯鞘構造繊維で、鞘部が溶融して主繊維同士を接着し、芯部が成形構成繊維として残留するものとがある。これらのバインダー繊維の必要量、形状、材質等は、使用する主繊維材質、繊維形状、繊維成形体の形状、通気度、繊維密度等のあらゆる面から決定する必要がある。例えば、ポリエステル繊維が主繊維で、直径10μm、長さ5mm程度のものならば、ポリエステル系芯鞘構造のバインダー繊維であれば、直径5μm、長さ3mm程度で、主繊維量の50%程度の含有量で良好な結合状態を得ることができる。バインダー繊維を添加する時期は、状態が繊維であるため、主繊維に混ぜるか、又は主繊維を混ぜた直後に添加することが好ましい。
【0025】
エマルジョン系接着剤は樹脂を乳化剤を用いて水中に乳化させたもので、主繊維を結合することができるポリマーで構成されており、主繊維よりも低温で溶融するものや、低融点になるように重合したものを使用する。樹脂として熱可塑性樹脂では、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂等、熱硬化性樹脂ではフェノール樹脂等が挙げられる。エマルジョン系接着剤の役割は、繊維間を接着すること、バインダー繊維で接着できない部位の接合を補助すること、成形された繊維成形体の全体を被覆することで繊維に剛性を持たせ、繊維成形体の一部、又は全体の剛性を上げることである。
【0026】
これらエマルジョン系接着剤は、充填前の原料に添加する方法、或いは繊維成形体に塗布する方法がある。充填材料に直接添加する方法の添加時期は特に制限されず、充填する前に十分に均一分散されていれば問題ない。その含有量は、使用する主繊維の材質、繊維形状、繊維成形体の形状、通気度、繊維密度、バインダー繊維の添加の有無等、あらゆる面から検討して決定することが好ましい。特にポリエステル繊維が主繊維で、直径10μm、長さ5mm程度であれば、エマルジョン系接着剤の含有量はエマルジョンとして固形分50質量%のものを使用すると、主繊維の50質量%程度が良好である。この含有量が多いと繊維間に膜が生じて通気性が低下し、少ないと繊維間の接合性が低下する。また、エマルジョン系接着剤はバインダー繊維と併用することで接合強度をより向上させることができる。
【0027】
成形された繊維成形体の剛性を上げるためにエマルジョン系接着剤を使用することができる。その場合には、成形後の常温の繊維成形体に、スプレー等でエマルジョン系接着剤を散布する方法や、繊維成形体をエマルジョン槽内に浸漬させ、主繊維にエマルジョン系接着剤を付着させた後に余分な水分を脱水する等の方法で処理した後、加熱してエマルジョン系接着剤を固化させる方法などが採用される。脱水方法としては、エア吸引法、遠心脱水法等があり、脱水しない場合には繊維間に膜張りが生じて繊維成形体の通気性が悪化することがある。
(繊維滑り性向上剤について)
繊維を金型内に円滑に充填するため、水溶性ポリマーを充填補助剤として使用して原料を調製するが、これだけでは繊維成形体の形状に薄肉部や複雑な形状が見られる場合、充填不足になることがある。この場合には、繊維滑性向上剤を原料に添加することで対策可能である。繊維滑性向上剤には界面活性剤(乳化剤)と繊維コーティング剤の2種類があり、両剤を単独又は併用することで原料の充填性を損なわず、繊維の滑り性を向上させることができる。
【0028】
界面活性剤としては、充填補助剤として用いられるポリアクリル酸等が電気的に陰性を帯び、それらの影響を受けないという観点から、非イオン性界面活性剤が好適に用いられる。非イオン性界面活性剤としては特に制限されないが、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のエステル型のもの、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型のものが挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、1種又は2種以上が適宜組合せて使用される。
【0029】
非イオン性界面活性剤うち、繊維成形体の気泡の生成を抑えるという見地から、HLBが7以下のものが好ましい。ここで、HLBは界面活性剤分子中の親水基と親油基とのバランスを表し、界面活性剤分子中の親水基が0%のときを0、100%のときを20として等分したもので、計算又は実験により求めることができる。また、非イオン性界面活性剤を使用する場合には、潤滑性を向上させ、又は繊維成形体の気泡生成を抑制する目的で、植物油、鉱物油等を混合してもよい。さらに、非イオン性界面活性剤の水中での分散性を向上させる目的でグリセリン、ソルビトール等の多価アルコールを添加してもよい。
【0030】
非イオン性界面活性剤の含有量は、繊維に対して0.003〜1.5質量%であることが好ましい。この含有量が0.003質量%未満の場合には非イオン性界面活性剤の機能が十分に発現されず、1.5質量%を越える場合には原料が泡立つ現象が生じて原料の充填性が悪くなりやすい。
【0031】
前記繊維コーティング剤は、充填補助剤としてポリアクリル酸のようなアニオン性のポリマーを用いた場合に使用され、ポリアリルアミン又はその塩が好適に用いられる。塩としては、塩酸塩等が挙げられる。ポリアリルアミン又はその塩は、1種又は2種以上が適宜組合せて使用される。ポリアリルアミン又はその塩は、カチオン性のポリマーであり、分子中に含まれるアミンは、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウムのいずれの形でも差し支えない。また、ポリアリルアミン中に他の官能基を含んでいてもよい。
【0032】
繊維コーティング剤の含有量は、繊維に対して0.1〜20質量%であることが好ましい。この含有量が0.1質量%未満の場合には繊維コーティング剤の機能が十分に発現されず、20質量%を越える場合には繊維コーティング剤の含有量が過剰となり、繊維が離散しやすくなる傾向を示し、好ましくない。
【0033】
次に、繊維成形体の製造装置及び製造工程について説明する。
(繊維成形体の原料調製)
使用する繊維は予め単繊維の状態(繊維同士が付着していない状態)に分離しておくことが好ましい。これは、繊維と添加剤を均一に混合(ブレンド)させたり、多種類の繊維を均一に混合させたりするためである。特に繊維が綿状で単繊維の状態である場合や、束状の繊維でも粘性のある充填補助剤を用いて攪拌することで解繊されるような状態であれば解繊する必要はないが、解繊を実施することで原料を調製したときの繊維分散状態を安定化させることができる。
【0034】
繊維の解繊は、一般的な解繊機を使用しても可能であるが、繊維が短く十分な解繊状態を得るのに時間を要するため、エアブロー解繊を実施すると効率的である。解繊方法は、配合する繊維を所要割合に計量後解繊ホッパーへ投入し、ホッパー内へ圧縮エアを投入する方法で、これにより束状繊維は単繊維状に分解し、多種類の繊維を投入した場合には均一に分散させることができる。繊維によっては水分を含んでいる状態のものもあるので解繊前に乾燥するか、或いは乾燥させることで固化してしまう添加剤等が混合されている場合には、水中で攪拌洗浄した後、乾燥、解繊させることで対応する。このようにして解繊、混合された繊維を充填補助剤に添加して原料を調製する。
【0035】
一定量の水を攪拌しながら、そこへ充填補助剤としての水溶性ポリマーを少量ずつ凝集しないように添加することで均一な粘性のある状態を得ることができる。使用する水溶性ポリマーや添加剤の種類によっては、分散性が水温等に依存する場合があるため、温度管理が必要な場合もある。得られた水溶液を攪拌しながら、事前に解繊、混合した繊維を少量ずつ凝集しないように加えて、繊維成形体の原料を調製する。
【0036】
この繊維成形体の原料は、その粘度が撹拌による剪断力の増大に伴って低くなるチクソトロピー性を有するものであることが好ましい。原料がチクソトロピー性を有することにより、成形凹部への充填時には原料が低粘度になって充填性が良くなり、充填後には高粘度になって成形性が良好になる。具体的には、撹拌時の回転速度が6rpmのおける粘度と60rpmにおける粘度を測定することにより判断される。そして、例えば6rpmでの粘度が750mPa・s以上で、かつ60rpmでの粘度が250mPa・s以下という条件にて判断される。
【0037】
原料混合装置の概要を図2に示す。混合する繊維、水溶性ポリマー、その他添加剤等は原料混合装置10とは別の場所で計量される。原料混合装置10は、計量されたものを定量供給する装置となっており、設定された添加順序、添加タイミング、含有量等を正確に実行できる装置である。すなわち、混合槽11内には攪拌機12が複数機(図2では2機)備えられ、回転駆動用のモータ13で回転駆動され、混合槽11内の原料14を攪拌するように構成されている。混合槽11の上部には、繊維を供給するための第1ホッパー15、水溶性ポリマーを供給するための第2ホッパー16、その他の添加剤を供給するための第3ホッパー17及び第4ホッパー18が設けられている。
【0038】
混合槽11の底部には、循環用配管19の一端が接続され、その他端が混合槽11の上部の循環口に接続され、原料を循環させ、混合槽11内の原料14を均一に攪拌させるようになっている。循環用配管19の中間部には、モータ20で回転駆動される循環用スクリュー21が配置され、混合槽11の底部から抜き出された原料14を、混合槽11の上部に戻すようにしている。この循環用スクリュー21は循環機能と混錬機能とを有しており、原料14の均質性をより良好な状態にすることができる。循環用配管19の上端部には、原料14を充填装置へ供給するための供給配管22が接続されている。前記循環口には原料の循環量を調節する絞り弁23が設けられ、供給配管22の接続部には原料14の供給量を調節する調節弁24が設けられている。そして、攪拌が完了した原料14は、循環口の絞り弁23を絞り、調節弁24を開いた状態で、循環用スクリュー21を駆動させることにより図1に示す充填装置30へ供給される。
(充填工程)
図1に示すように、充填装置30はピストン31を備えた充填シリンダ32と、成形凹部33を備えた金型34と、充填シリンダ32のピストン31を往復駆動させる駆動装置35とで構成されている。充填シリンダ32の上部中央には原料供給管36が接続され、原料混合装置10の供給配管22からの原料14を充填シリンダ32内へ供給するようになっている。原料供給管36の充填シリンダ32内への開口部は原料投入口37となっており、該原料投入口37には図示しない逆流防止バルブが設置され、充填シリンダ32内に供給された原料14が逆流するのを防止している。駆動装置35はモータを備え、駆動軸38によって充填シリンダ32のピストン31を前後動させる。充填シリンダ32の先端開口部は金型34の成形凹部33と同じ大きさに絞られ、開口されている。金型34内の成形凹部33は、繊維成形体の形状に基づいて断面がジグザグ状に形成されている。
【0039】
原料14が原料投入口37から充填シリンダ32内へ供給されるタイミングは、ピストン31が前進して充填シリンダ32内の原料14を金型34の成形凹部33内へ注入した後に戻されるときであり、充填シリンダ32内の負圧と原料混合装置10の循環用スクリュー21の搬送力で充填シリンダ32内に充填される。充填シリンダ32の先端開口部32aにはシャットオフバルブが設けられ、ピストン31が後退するときには閉じる機構になっている。
【0040】
充填シリンダ32への原料投入量は1ショット分であり、その量の測定はピストン31の移動量で決定されるようになっている。原料14が充填シリンダ32から射出される速度や圧力は、金型34の成形凹部33内での原料14の流動性や充填状態等を考慮した条件が駆動装置35にプログラムされている。また、充填シリンダ32内の原料14は温度調節されており、外部環境に影響されない状態になっている。その温度は原料14の物性を維持でき、できる限り金型温度に近い温度である。充填シリンダ32の先端開口部32aは金型34の成形凹部33の開口部とゲート39を介して連通しており、原料14が成形凹部33以外の外部に漏れない構造になっている。充填シリンダ32の先端開口部32aの原料射出流路の断面は直径1mm以上の開口であればよい。
(成形工程)
図3〜図5は成形装置40と金型41を示す概略正面図である。なお、この金型41は前記図1の金型34とは異なる構造のものである。成形装置40は、上部支持盤43と下部支持盤44とが対向配置されると共に、複数の支柱45で連結され、その内部空間に金型41が配設されている。金型41は上型46と下型47とからなり、上型46は上部支持盤43の下面に固定され、下型47は繊維成形体の取り出しができるように型開閉装置48で上下に駆動され、型開き及び型締めができる構造になっている。型開閉装置48による上下の駆動は、空気圧、油圧、電動モータ等により行われる。成形凹部33の開口部は、上型46側に形成される構造であるため、型開閉動作で充填シリンダ32の先端開口部32aを移動させなくてもよい。原料14の充填は、金型41を型締めした状態で実施される。また、成形凹部33への図示しないゲートは上型46と下型47の型割面や成形凹部33の中央部、端部等のどこでもよく、ゲート形状は直径1mm以上の開口を有し、形状は限定されない。特に繊維成形体の厚さと同じ高さで、幅方向を広げたゲートは、射出充填性が良く、薄型繊維成形体に好適である。
【0041】
金型温度は好ましくは50〜100℃に設定され、この温度は原料14の物性に影響がない範囲で適宜決定される。金型温度が50℃より低い場合には、原料中の水分の蒸発が遅く、良好な繊維成形体が得られなくなると共に、成形に時間を要して好ましくない。一方、100℃より高い場合には、原料中の水分が沸騰し、繊維の凝集が生じたり、繊維成形体の表面に凹凸が形成されたりして好ましくない。繊維成形体は成形後の型開き時に下型47に残す状態にするため、外部から繊維成形体と上型46との接触面間にエアを供給して離型させる。この方法は、上型46の少なくとも一部にエアを供給するためのエア供給孔を設けておき、型開きと同時又はその少し前にエア供給孔からエアを供給して、型開きをすることで上型46との離型を確実に行うことができる。エア供給孔は、充填された繊維が入り込まない程度に形成され、又は焼結材等の微細孔が無数に開いた多孔材料によって形成される。このエア供給孔は成形後に必ずエアが通り、自己洗浄するため目詰まりすることがない。繊維成形体の取り出しは、下型47を下降させ、又は繊維成形体を保持した型部品の一部又は充填前に繊維成形体の骨格にするため事前に型内に設置しておいた骨格材53(図4及び図5に示す)上に充填された繊維成形体等を成形凹部33から搬出することで行う。
【0042】
金型41は上型46の1個に対し、下型47又は繊維成形体を保持する型部品の一部は複数個あり、下型47等が上型46から離間され、搬出された後には、別の下型47等を使用して原料14の充填が行われる構造になっている。成形時に骨格材53をインサートする場合の金型41は上型46と下型47の一対となる。本金型41は原料14を充填後、原料14に含まれる不要な水分を型外に排出することができ、図6に示すような構造になっている。下型47は、原料充填部の一部又は充填部全体に充填された原料14の水分のみを通過するネット49と、それを保持する多孔板50と、それら全体を支える型枠51とで構成されており、充填圧力により原料14中の繊維のみを残し、繊維密度を高くさせる構造である。ネット49は80メッシュで線径は0.1〜0.2mm程度のものが良く、多孔板50は直径1mm、ピッチ2mmのパンチングメタル等が適当である。このように、加熱の前に、加圧により原料14の脱水を行うことによって、水分の除去を効率良く行うことができる上に、加熱による水分除去の負荷を軽減することができる。この場合、加圧に代えて減圧により原料14の脱水を行うこともできる。
【0043】
繊維成形体の繊維密度は充填圧力で変化し、ポリエステル繊維で、繊維径5〜20μm、繊維長3mm程度のものであれば、充填厚さ1mmで50〜800g/mの程度の繊維成形体を得ることができる。繊維成形体の成形可能な形状は、平面状、曲面状、ジャバラ状、円筒状、蜂の巣状等、金型が製作可能な形状であれば全て成形することができる。
(固化工程)
金型41内に充填された原料14は下型47ごと、又は充填された原料14を保持した状態で取り出して固化処理を行う。その方法は、熱源に熱風、赤外線、加熱蒸気、マイクロ波等の固化処理ができる炉に、例えば成形された原料14を入れるという方法であり、連続炉にすると効率よく処理することができる。熱源は単一熱源でも複数の異なる熱源を連続炉内に並べて使用してもよい。加熱温度は、接着剤やバインダー繊維の溶融温度以上で、主繊維や接着剤、バインダー繊維の分解温度以下にする必要がある。
【0044】
そのため、加熱時の繊維成形体の温度を制御して実施する。例えば、主繊維にポリエステル繊維を使用し、140℃で溶融する低融点バインダー繊維を使用した場合には、加熱蒸気180℃で1〜7分後、常温(冷風)で100℃以下に冷却処理することで良好な濾材を成形することができる。しかし、充填時に脱水が十分にされていない原料14の場合、加熱工程で急激に100℃以上の温度にすると水分が沸騰して原料14内に気泡が生じることで空洞や繊維の疎密ができることがある。この場合には、繊維接着用の加熱処理の前に水分除去用の予備加熱(100℃以下)をすることで解消できる。
(作用)
さて、本実施形態の作用について説明すると、通気性を有する繊維成形体は、繊維、充填補助剤及び水を含有する繊維成形体の原料を撹拌、混合した後、金型の成形凹部に射出して充填し、加熱して水分を除去することにより製造される。このとき、繊維成形体の原料は、水85〜95質量%、水溶性ポリマー等の充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含んでいる。このため、原料には少量の繊維に対して適正量の充填補助剤が配合されており、水分蒸発時に繊維表面に移動する充填補助剤を少量に抑え、充填補助剤によって繊維間が弱い結合力で束ねられると同時に、原料は低い粘性でもって円滑に流動する。その結果、成形凹部への原料の注入が円滑に進行すると共に、その過程で繊維間の配向が整えられ、かつ繊維間が均一に保持される。
(実施形態の効果のまとめ)
・ この実施形態の通気性を有する繊維成形体の製造方法では、繊維成形体の原料は、水85〜95質量%、充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含有するものである。従って、原料の充填性が良く、短時間のうちに充填できると共に、繊維の配列の均一性に優れ、通気性の良好な繊維成形体を、原料組成の調整により容易に製造することができる。しかも、厚さ1mm以上という厚肉の繊維成形体も容易に成形することができる。よって、この繊維成形体を自動車のエンジン吸気系におけるフィルター、空調装置のフィルターなどとして好適に使用することができる。その場合、従来の平板不織布を折り曲げて製作していたフィルターに比べ、自由な形状のフィルターを成形することができ、それに伴う小型化も可能である。
【0045】
・ 加熱の温度を50〜100℃に設定することにより、急激な温度変化を抑えると共に、水分の沸騰がなく、繊維の凝集や繊維密度のばらつきを抑制し、成形安定性を向上させることができる。
【0046】
・ 繊維成形体の原料は、その粘度が撹拌による剪断力の増大に伴って低くなるチクソトロピー性を有するものである。このため、原料を撹拌して成形凹部に充填する場合には原料の粘度が低くなって充填性を改善することができ、充填後には粘度が高くなって繊維の移動が抑制され、繊維の配向性及び通気性を向上させることができる。
【0047】
・ 繊維成形体の原料には、非イオン性界面活性剤及びポリアリルアミンの少なくとも一種よりなる繊維滑り性向上剤を含有することにより、繊維の滑り性を向上させることができ、充填性が改善されると共に、繊維の並びをより均一にでき、品質の良好な繊維成形体を得ることができる。
【0048】
・ 加熱の前に、加圧又は減圧により脱水することにより、水分の除去を効率良く行うことができると共に、加熱による水分除去の負荷を軽減することができる。
・ 充填補助剤としてのポリエチレンオキサイドは直鎖状であるが、加熱や攪拌時の剪断力により分子が断裂しやすい性質があり、これにより粘性も低下する。さらに、加熱処理した後の繊維成形体は保水性が低くなるため、水濡れしても通気抵抗となり難く、また繊維間に残存する通気抵抗となる固形分も微細化するため、その影響を少なくすことができる。さらに、成形後の離型性も良好になる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1及び2並びに比較例1及び2)
繊維として、直径20μmで長さ5mmの捲縮ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維と、直径3μmで長さ3mmのPET繊維とを質量比1:1の割合で混ぜて使用した。充填補助剤として、ポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた。そして、水100質量部に対して繊維混合物を5質量部、充填補助剤を表1に示す質量部で配合し、撹拌、混合することにより繊維成形体の原料を調製した。
【0050】
一方、図7に示す金型の試験装置を用い、前記原料14の充填及び加熱、成形を行った。すなわち、図7に示すように、成形凹部としての円筒状をなす充填容器52には充填シリンダ32bが連結され、充填容器52と充填シリンダ32bとはゲート39aで連通され、充填シリンダ32b内の原料14がピストン31aにより、ゲート39aを介して充填容器52内に充填されるようになっている。また、充填容器52の温度は80℃に設定されている。そして、前記実施例1、2及び比較例1、2の原料を充填シリンダ32bにより充填容器52に充填した後80℃に加熱し、繊維成形体を成形した。この場合の充填率及び充填時間を下記の方法で測定すると共に、得られた繊維成形体の繊維間の膜の有無(膜はり)を目視にて観察した。
【0051】
ここで、比較例1では充填補助剤としてのポリエチレンオキサイドの含有量を0.2質量%という過少量に設定し、比較例2ではポリエチレンオキサイドの含有量を2.5質量%という過剰量に設定した。以上の結果を表1に示した。
【0052】
充填率(%):射出シリンダ内に最初に供給した原料14(質量部)に対し、充填容器52内に充填された充填原料14a(質量部)の割合を百分率で表したものである。
充填時間(秒):原料14が充填シリンダ32b内から充填容器52内に充填されるまで(原料の流動が止まるまで)の時間を測定した。
【0053】
【表1】

表1に示した結果より、実施例1及び2では充填補助剤としてポリエチレンオキサイドを0.5〜2.0質量%という少量範囲で配合したことから、原料の充填率100%、充填時間1.8〜4.8秒という短時間で、しかも繊維成形体の膜はりは認められなかった。その一方、ポリエチレンオキサイドの含有量が0.2質量%という過少量の場合(比較例1)には、充填補助剤としてのポリエチレンオキサイドの機能が発現されず、繊維と水が分散してゲート部で詰まる傾向が強く、充填性が悪化し、充填率が78%まで低下した。また、ポリエチレンオキサイドの含有量が2.5質量%という過剰量の場合(比較例2)には、原料の粘性が高くなるため充填速度が遅くなり、充填時間が8.1秒まで遅延する結果を招いた。
(実施例3及び4並びに比較例3及び4)
実施例3及び4では実施例1及び2において、比較例3及び4では比較例1及び2において、充填補助剤として、ポリエチレンオキサイドをポリアクリル酸ナトリウムに代え、その含有量を表2に示すように設定したほかは実施例1及び2並びに比較例1及び2と同様に実施した。ポリアクリル酸ナトリウムの含有量は表2に示すように設定した。そして、充填率、充填時間及び膜はりの有無を目視にて観察した。それらの結果を表2に示した。
【0054】
【表2】

表2に示した結果より、実施例3及び4では充填補助剤としてポリアクリル酸ナトリウムを0.5〜2.0質量%という少量範囲で配合したことから、原料の充填率100%、充填時間3.9〜5.7秒という短時間で、しかも繊維成形体の膜はりは認められなかった。一方、ポリアクリル酸ナトリウムの含有量が0.2質量%という過少量の場合(比較例3)には、充填性が悪くなり、充填率が87%まで低下した。また、ポリアクリル酸ナトリウムの含有量が2.5質量%という過剰量の場合(比較例4)には、原料の粘性が上昇して充填速度が遅くなり、充填時間が8.3秒まで遅延した。
(実施例5〜8)
実施例1において、充填容器52の加熱温度を実施例5では20℃、実施例6では50℃、実施例7では100℃及び実施例8では130℃とし、その他は実施例1と同じ条件で実施した。そして、成形状態を目視により観察すると共に、加熱処理時間(分)を測定した。それらの結果を表3に示した。
【0055】
【表3】

表3に示したように、実施例5では成形状態は良好であったが、加熱温度が低かったため加熱処理時間が目標とする12分を越え、成形に時間を要する結果であった。実施例6及び7では、成形状態が良好で、かつ加熱処理時間も12分以内で短く、優れた結果であった。実施例8では、加熱処理時間は5分という短時間であったが、加熱温度が130℃という高い温度であったため成形時に繊維の凝集が見られた。従って、加熱温度は50〜100℃が好適であることが明らかになった。
(実施例9、10及び比較例5、6)
実施例9、10及び比較例5、6では繊維成形体の原料のチクソトロピー性を判断するために、原料を6rpmと60rpmの回転速度で撹拌して粘度(mPa・s)を測定した。原料としては、実施例9では実施例1の原料、実施例10では実施例2の原料、比較例5では比較例1の原料、比較例6では比較例2の原料を用いた。その結果を表4に示した。
【0056】
【表4】

表4に示したように、比較例5では60rpmでの粘度が目標値である250mPa・s以下に対して400mPa・sという高い値を示した。また、比較例6では6rpmでの粘度が目標値である750mPa・s以上に対して600mPa・sという低い値を示した。これに対して、実施例9及び10では共に、60rpmでの粘度の目標値及び6rpmでの粘度の目標値を満足することができた。従って、実施例9及び10では共に原料が適切なチクソトロピー性を示した。
(実施例11〜16)
実施例1及び2において、繊維成形体の原料に繊維滑り性向上剤として、実施例11〜16では非イオン性界面活性剤を繊維に対してそれぞれ0.003質量%、0.1質量%及び1.5質量%配合し、その他は実施例1及び2と同じ条件で実施した。表5において、非イオン性界面活性剤の欄の( )内の数値は、繊維に対する非イオン性界面活性剤の割合(質量%)を表す。そして、実施例1及び2と同様にして充填率、充填時間及び膜はりの有無を目視にて観察した。それらの結果を表5に示した。
【0057】
【表5】

表5に示したように、実施例11〜16では非イオン性界面活性剤を繊維に対して0.003〜1.5質量%配合したところ、充填率は全て100%、充填時間は1.1〜2.4秒であると共に、膜の形成は全く見られず、良好な結果が得られた。また、繊維成形体は繊維の並びが均一で、品質の良好なものであった。
(実施例17〜22)
実施例3及び4において、繊維成形体の原料に繊維滑り性向上剤として、実施例17〜22ではポリアリルアミンを繊維に対してそれぞれ0.1質量%、1質量%及び20質量%配合し、その他は実施例3及び4と同じ条件で実施した。表6において、ポリアリルアミンの欄の( )内の数値は、繊維に対するポリアリルアミンの割合(質量%)を表す。そして、実施例3及び4と同様にして充填率、充填時間及び膜はりの有無を目視にて観察した。それらの結果を表6に示した。
【0058】
【表6】

表6に示したように、実施例17〜22ではポリアリルアミンを繊維に対して0.1〜20質量%配合したところ、充填率は全て100%、充填時間は0.9〜2.4秒であると共に、膜の形成は全く見られず、良好な結果であった。得られた繊維成形体は繊維が均一に並び、品質の良好なものであった。
【0059】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 各実施例において、繊維成形体の原料14を加熱する前に減圧によって脱水を行うことができる。
【0060】
・ 加熱の温度を、50〜100℃の範囲で、初期には低い温度に設定し、次第に昇温するように構成することも可能である。
・ 繊維成形体の原料の分散安定性を図るために、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギナン、キサンタンガム等を配合することもできる。
【0061】
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記繊維は、捲縮繊維を含む複数の繊維により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の通気性を有する繊維成形体の製造方法。この製造方法によれば、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、繊維密度のより均一な繊維成形体を製造することができる。
【0062】
・ 前記加熱後に固化処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の通気性を有する繊維成形体の製造方法。この製造方法によれば、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、実用価値の高い固化された繊維成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施形態における充填装置を要部破断して示す概略説明図。
【図2】原料混合装置を一部破断して示す概略説明図。
【図3】金型が型開き状態の成形装置を示す概略正面図。
【図4】金型が型締め状態の成形装置を示す概略正面図。
【図5】金型を示す拡大断面図。
【図6】(a)は下型を示す拡大断面図、(b)は(a)の6b部分を拡大して示す断面図。
【図7】実施例における充填装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0064】
14…繊維成形体の原料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、金型の成形凹部への充填を補助する充填補助剤及び水を含有する繊維成形体の原料を撹拌、混合した後、金型の成形凹部に充填し、加熱により水分を除去して繊維成形体を製造する方法において、
前記繊維成形体の原料は、水85〜95質量%、充填補助剤0.5〜2質量%及び残部として少なくとも繊維を含有することを特徴とする通気性を有する繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱の温度は、50〜100℃であることを特徴とする請求項1に記載の通気性を有する繊維成形体の製造方法。
【請求項3】
前記繊維成形体の原料は、その粘度が撹拌による剪断力の増大に伴って低くなるチクソトロピー性を有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の通気性を有する繊維成形体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱の前に、加圧又は減圧により脱水することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の通気性を有する繊維成形体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維成形体の原料には、非イオン性界面活性剤及びポリアリルアミンの少なくとも一種よりなる繊維滑り性向上剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の通気性を有する繊維成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−94020(P2008−94020A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279910(P2006−279910)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】