説明

通気性膜および該膜を作製する方法

本発明は、プラズマ処理により膜の表面を改質するための方法に関し、前記方法は、前記膜に撥水性および不浸透特性を付与しながら、その蒸気浸透性および弾性特性を維持する。この方法は、とりわけ、炭化水素ガス、フルオロカーボンガス、これらの混合物、フルオロカーボン液体、フルオロカーボン固体から選択される前駆体化合物であって、F/C比が2未満であるように選択される前駆体化合物のプラズマで膜を処理するステップと、続いて、前のステップからの基材の同じ表面を、F/C比が少なくとも2であるように選択されるフルオロカーボンガスのプラズマで処理するステップとを含む。本発明はまた、得られる膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、膜の表面を改質するための新規な方法であり、この方法により、前記膜上に撥水性および不透過特性を付与しながら、その水蒸気透過性および弾性特性を維持することが可能となる。
【0002】
本発明の主題はまた、この方法により得られる膜である。
【背景技術】
【0003】
運動用衣料やゴム手袋だけでなく、燃料電池膜や限外濾過膜等の様々な用途において、液体状態の水に対しては不透過性であるが水蒸気に対しては透過性であるフィルムが、特に衣料品の場合には、発散により生じる水蒸気の蓄積を回避するために必要とされている。これらの2つの特性を有する物品は、通気性撥水性物品と呼ばれる。
【0004】
現在、布地への膜のコーティングおよび布地への膜のラミネーションという、通気性撥水性フィルムを製造するための2つのプロセスがある。
【0005】
コーティングプロセスは、布地にコーティングを直接塗布し、これが織布の糸の間の空間を遮り、布地を不透過性とする。通気性を維持するために、「硬化」後に溶媒の蒸発によりミクロ孔を生じさせるペーストが塗布される。ほとんどのミクロ多孔質コーティングは、ポリウレタンをベースとする。そのようなフィルムの例は、米国特許第4774131号;米国特許第5169906号;米国特許第5204403号および米国特許第5461122号に示されている。
【0006】
通気性撥水性膜は、大体において布材料上に支持される。これは、特に既知の通気性撥水性膜の低い機械的特性に起因するが、それは良好な通気特性を維持するためには微細(5ミクロンから50ミクロン)でなければならないためである。通気性撥水性膜には、親水性膜およびミクロ多孔質膜の2種類がある。ミクロ多孔質膜は、水蒸気は通過させるが水滴は阻止するミクロ孔からなる。除湿(発散)は物理作用により生じるが、親水性膜では、湿気の移動は化学現象により生じる。膜は水蒸気を吸収し、それを外側に廃棄する。この場合、ポンプに呼び水を入れる必要がある、すなわち、機能させるためにはまず膜に水を充填しなければならない。いずれの場合も、湿気の排出を駆動するのは圧力差である。ミクロ多孔質フィルムは、より迅速に水蒸気を排出する傾向があるが、液体形態の水を移動させない。
【0007】
従来技術のフィルムは、有利な水不透過特性および蒸気透過特性を有するが、一般に大きな欠陥、すなわち低い機械的特性および特に低弾性を有し、さらに、膜は支持体に接着接合されることが非常に多く、それにより、剥離の可能性、さらには、接着剤は必ずしも十分に通気するとは限らないため、通気特性の制限等の他の問題が追加される。
【0008】
したがって、支持体の機械的特性を改質することなく、満足できる撥水特性および良好な弾性を有し、これらの特性がさらに経時的に耐久性である通気性撥水性膜を得るためのプロセスが、依然として必要とされている。
【0009】
これらの特性を有する膜は、好適な支持体へのプラズマ処理により得ることができ、この処理により、水蒸気を通過させ、非常に疎水性で液体形態の水に対し不透過性であり、また弾性を有するナノ構造化架橋非晶質ポリマーの層が堆積され得る。
【0010】
そのような処理は、前駆体(気体、液体または固体にかかわらず)を励起状態に通過させ、基材上に堆積するイオン化種を生成するように、前記前駆体をエネルギー源に曝露することにより行うことができる。イオン化種は、PECVD(プラズマエンハンスト化学気相堆積)、LECVD(レーザエンハンスト化学気相堆積)、PVD(物理気相堆積)、反応性PVD、スパッタリングまたはその他の任意のプラズマ堆積技術で前駆体を処理することにより生成することができる。イオン化種の生成の好ましい様式は、RF(高周波)−PECVD処理である。
【0011】
従来技術から、期待される親水性または疎水性特性を付与するためにプラズマ処理によりポリマー膜を改質することが知られている。
【0012】
文献国際公開第02/04083号は、プラズマ処理により親水性化されたポリマー膜を記載している。これは、膜を疎水性にする可能性を示唆しているが、この目的の実用的な情報は含んでおらず、疎水性であるとともに水蒸気に対し透過性の膜を得る可能性も、この方法により良好な弾性特性を有する膜を得る可能性も示唆していない。記載された方法は、HOプラズマ処理であり、その結果酸化剤(H、O、O、O、H)が形成される。これらの酸化剤は、それらの作用に曝露された支持体の表面を改質し、親水性化する。処理される基材は、プラズマが形成される反応器の外側に設置され、反応器から来るフラックスに供される。そのような方法は、一般に、材料の層を基材上に堆積させるのではなく、むしろイオン化種の作用によりこの基材の特性を改質する。
【0013】
文献国際公開第02/100928号は、エラストマー材料へのポリマーコーティングの堆積を記載している。低圧の使用を含む用いられた方法は、非常に高度に架橋し、水蒸気に対し不透過性である連続フィルムの形成をもたらす。
【0014】
いわゆる超疎水性表面を得るために、様々なプラズマ処理法が使用されている。例えば、K.Teshimaら、Applied Surface Science、2005、244(1〜4)、619〜622頁は、ポリエチレンテレフタレートシートのプラズマ処理により、超疎水性表面を得ることができることを示している。この2段階処理は、まず、表面にナノ構造化を導入するために表面を酸素プラズマで処理すること、次いで、今度は疎水性基を導入するために得られた表面を(RF−PECVDを使用して)有機シリコーン液前駆体でプラズマ処理することにある。より一般的な別の方法は、液体混合物:有機シラン、有機シリコーンのマイクロ波プラズマ堆積(A.HozumiおよびO.Takai、Thin Solid Films、1997、303(1〜2)、222〜225頁)、または、別のガスが添加され、続いてフルオロシラン系化合物の化学的グラフトが行われる有機シリコーン化合物のプラズマ堆積(A.Nakajimaら、Thin Solid Films、2000、376(1〜2)、140〜143頁;Y.Wuら、Thin Solid Films、2004、457(1)、122〜127頁;Y.Wuら、Thin Solid Films、2002、407(1〜2)、45〜49頁)を含む。これらのコーティングはすべて、140°を超える水接触角を有する。これらはすべて、一般に非常に長い処理時間(>15分)を必要とし、水蒸気に対し透過性ではない。
【0015】
従来技術の方法と比較して、本発明の方法は単純で、前駆体イオン化処理、特にプラズマ処理に加えて化学反応ステップの使用を必要とせず、非常に疎水性の生成物をもたらしながら、得られるコーティング自体はガスおよび特に水蒸気に対し透過性である。本方法は迅速で、弾性特性を有するコーティングを提供する。支持体の伸張時、および応力が除去された後に疎水性および水蒸気透過特性は維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4774131号
【特許文献2】米国特許第5169906号
【特許文献3】米国特許第5204403号
【特許文献4】米国特許第5461122号
【特許文献5】国際公開第02/04083号
【特許文献6】国際公開第02/100928号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】K.Teshimaら、Applied Surface Science、2005、244(1〜4)、619〜622頁
【非特許文献2】A.HozumiおよびO.Takai、Thin Solid Films、1997、303(1〜2)、222〜225頁
【非特許文献3】A.Nakajimaら、Thin Solid Films、2000、376(1〜2)、140〜143頁
【非特許文献4】Y.Wuら、Thin Solid Films、2004、457(1)、122〜127頁
【非特許文献5】Y.Wuら、Thin Solid Films、2002、407(1〜2)、45〜49頁
【特許文献7】米国特許第4833026号
【特許文献8】米国特許第5908690号
【特許文献9】欧州特許第0591782号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、通気性撥水性膜を製造するための方法であって、
(i)ガス透過性材料で作製されたフィルムまたは膜からなる支持層が使用され、
(ii)必要に応じて、この支持層の面のうちの少なくとも1つが、
−アルゴン、酸素、ヘリウムおよびこれらの混合物から選択されるガスのプラズマを使用したプラズマ処理、ならびに
−化学洗浄ステップ
から選択される少なくとも1つの処理に供され、
(iii)ステップ(i)またはステップ(ii)から得られたフィルムまたは膜の同じ面が、炭化水素ガス、フルオロカーボンガスおよび炭化水素ガス/フルオロカーボンガス混合物;フルオロカーボン液体;ならびにフルオロカーボン固体から選択される前駆体化合物であって、F/C<2であるように選択される前駆体化合物のプラズマを使用したプラズマ処理に供され、また、
(iv)ステップ(iii)から得られたフィルムまたは膜の同じ面が、2以上のF/C比を有するように選択されるフルオロカーボンガスのプラズマを使用したプラズマ処理に供されることを特徴とする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】臭化カリウムペレット上のコーティングの赤外スペクトルを示す。
【図2】プラズマコーティングからの広域XPSスペクトルを示す。
【図3A】コーティングのナノ多孔質構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図3B】コーティングのナノ多孔質構造を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の方法において使用されるプラズマは、好ましくは、DCもしくはパルス(高周波(13.56MHz)、低周波もしくはマイクロ波)プラズマまたはマグネトロン生成プラズマである。それらはまた、PECVD(プラズマ化学気相堆積)もしくはLECVD(レーザ化学気相堆積)によるガスもしくは液体前駆体の処理、またはPVD(物理気相堆積)、スパッタリングもしくはその他の任意のプラズマ堆積技術による固体前駆体の処理から得ることができる。好ましい堆積法は、PECVDである。
【0021】
本発明の方法において使用される支持層は、ポリマー材料、不織布材料、織物または編物繊維材料、複合材、すなわちポリマーと天然および合成繊維から選択される少なくとも1種の材料とをベースとした材料、セルロース、ならびにセルロース誘導体で作製された膜であってもよい。好ましくは、支持層は、ポリマーで作製された、または複合材で作製された不織物または膜からなる。そのような膜は、表面上に通気性接着層を含んでもよい。
【0022】
支持層がポリマー材料から作製された、または複合材から作製された膜である場合、ガス、および特に水蒸気に対し透過性である材料から有利に選択される。これは、分子拡散機構を介して水蒸気をそれに通過させる親水性ミクロ多孔質膜の場合である。
【0023】
ポリマー材料または複合材で作製された膜は、特に、エラストマー材料で作製された膜、およびその成分のうちの少なくとも1つがエラストマーであるポリマーのブレンドから得られた膜を含み得る。
【0024】
ミクロ多孔質膜のうち、特に、ポリオレフィン、PTFE、ポリウレタンまたはPES(ポリエーテルスルホン)で作製された膜、例えば、特に米国特許第4833026号、米国特許第5908690号および欧州特許第0591782号に記載のもの等を挙げることができる。
【0025】
特に、微細穿孔膜、すなわちTranspore(登録商標)フィルム(3M製)およびOne Vision(登録商標)微細穿孔フィルム(Diatrace社から販売されている)を挙げることができる。
【0026】
親水性膜のうち、特に、改質ポリエステル、改質ポリアミド、およびバイオポリエステル(PHA:ポリヒドロキシアルカノエートおよびPLA:ポリ乳酸)を挙げることができる。
【0027】
挙げることができる不織布材料には、Vistamaxx(登録商標)(Exxon社製)、Elaxus(登録商標)不織物(Global Performance Fibers社製)、ならびにAlbi Nonwoven社から販売されているCuraflex(登録商標)およびCurastrain(登録商標)不織物をベースとした不織物が含まれる。
【0028】
挙げることができる織物または編物繊維材料には、Tissages de l’Aigle社から1148、1144および3600の製品番号で販売されているものが含まれる。
【0029】
本発明に従いコーティングの支持体として使用することができる材料は、ガスに対し透過性、好ましくは極性ガスに対し透過性の材料である。本発明は、最も具体的には、水蒸気に対し透過性の支持材料に関する。有利には、本発明の支持材料を構成するフィルムまたは膜は、ASTM E96標準、方法Bに従い測定される、1日あたり水蒸気250g毎平方メートル以上の水蒸気透過性を有する。
【0030】
有利には、それらは、良好な弾性を有し、特に、ISO2285標準に従い測定される、10%以下の50%伸張後の引張歪みを有する。
【0031】
一般に、これらの2つの特性を満足させる材料の任意のフィルムまたは膜が、本発明を実行するための好ましい支持体を構成する。これらのフィルムまたは膜は、等方性であっても異方性であってもよい。
【0032】
本発明によれば、支持層のすべて、またはその一部のみが、プラズマコーティングで被覆され得る。
【0033】
本発明の方法は、有利には、プラズマが反応器内で形成され、次いでそこからイオン化種のフラックスの形態で基材に運搬される遠隔プラズマプロセスとは異なり、直接型プラズマ反応器内、すなわち反応種が形成されるチャンバ内に基材が設置されるプラズマ反応器内で実行される。
【0034】
直接型プラズマ反応器は、通常、
−電磁波を供給する発生器を備える励起システムと、
−電極および対極を備えるアルミニウムチャンバ(1つの電極が発生器に直接接続され、一般にチャンバが対極として機能する。電極の形状は処理される生成物の種類に従い適合される)と、
−ポンピングシステムとを備える。
【0035】
上述のもの等、ガスプラズマを生成するための任意の方法およびすべての手段を使用して本発明を実行することができるが、高周波直接型プラズマ反応器を選択することが好ましい。
【0036】
処理は、通常20℃から350℃、有利には20℃から50℃の温度で行われる。
【0037】
処理は、通常0.05mbarから10mbar、有利には0.2mbarから1mbarの圧力で行われる。
【0038】
本発明の方法によれば、膜または支持フィルムの表面を改質するプラズマを生成するために、いくつかの化合物が連続して使用される。
【0039】
ステップ(ii)は任意選択的である。表面をいかなる不純物からも清浄化すること、および前記表面を活性化することが意図されるが、これは特に基材の表面上にラジカルを生成することになる。支持体の表面仕上げに依存して、ステップ(ii)は省略することができる。化学洗浄操作を行う場合、これは処理される支持体の面を例えば溶媒を使用して処理することであってもよい。
【0040】
好ましくは、本発明によれば、ステップ(ii)において、支持層はアルゴンプラズマ処理に供される。有利には、このステップを行うための出力Pは、カソードの有効面積に比例する。出力Pは、有利には、0.1W/cmから2W/cmである。例示として、20cm×20cmの寸法の電極の場合、50Wから250Wの出力が使用される。この出力は、基材の性質に従い適合される。有利には、このステップを行うための処理時間tは50秒から150秒であり、ガス流量Qはチャンバの容積に依存し、その中の圧力は0.3mbarから0.6mbarである。
【0041】
ステップ(iii)において使用することができるガスのうち、C〜C10アルカン;C〜C10アルケン;C〜C10アルキン;C〜C10フルオロアルカン;C〜C10フルオロアルケン;フッ素含有および硫黄含有ガス、例えばC、CF、CH、CHF、CおよびSF等を挙げることができる。有利には、ステップ(iii)において使用されるガスは、C/CF混合物である。有利には、ステップ(iii)において使用されるガスまたはガス混合物は、2≦C/CF≦5であるような体積比を有するC/CF混合物である。
【0042】
ステップ(iii)において前駆体として使用することができる液体のうち、フルオロアクリレートおよびフルオロメタクリレートを挙げることができる。
【0043】
ステップ(iii)において前駆体として使用することができる固体のうち、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー)、PVF(ポリフッ化ビニル)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、FEP(フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー)およびPFA(ペルフルオロアルコキシコポリマー)を挙げることができる。
【0044】
有利には、このステップを行うための出力Pは、カソードの有効面積に比例する。出力Pは、有利には、0.04W/cmから2W/cmである。処理時間tは30秒から150秒であり、ガス流量Qはチャンバの容積に依存し、その中の圧力は0.1mbarから0.4mbarである。
【0045】
有利には、ステップ(iv)において使用されるガスは、2以上のF/C比を有する。ステップ(iv)において使用することができるガスのうち、CF、CHFおよびCを挙げることができる。好ましくはCFが選択される。有利には、このステップにおける出力Pは、カソードの有効面積に比例する。この出力Pは、有利には、0.2W/cmから3W/cmである。処理時間tは50秒から300秒、好ましくは140秒から190秒であり、ガス流量Qはチャンバの容積に依存し、その中の圧力は0.25mbarから0.6mbarである。このステップは、前に堆積された層を構造化およびフッ素化するために使用される。これにより、生成物は疎水性であるとともに撥水性となる。
【0046】
本発明の別の主題は、本発明の方法により得ることができる膜であり、該膜は通気性撥水性膜であるという点で差別化される。
【0047】
これらの特性を有する膜は、支持体の処理により得られ、この処理により、水蒸気を通過させ、撥水性すなわち液体形態の水に対し不透過性であり、また弾性を有するナノ構造化架橋非晶質ポリマーの層が堆積され得る。
【0048】
ナノ構造化ポリマー層は、
−共有結合および/もしくはファンデルワールス結合により互いに連結したナノサイズ粒子の集合体もしくは凝集体であって、該集合体は、その多孔性がこれらの粒子の「圧縮」密度に依存する比較的多孔質の層を形成する、集合体もしくは凝集体、
または、
−ナノ多孔質ポリマーネットワーク、すなわちナノサイズの細孔を備えるポリマーネットワークを備える。
【0049】
そのような膜は、上述のもの等の膜またはフィルムの形態の少なくとも1つの支持層と、C、H、Fおよび必要に応じてOで構成されるナノ構造化架橋非晶質ポリマーからなるプラズマコーティングの少なくとも1つの層とを含み、C/Fモル比は1.5から2.5であり、この層は、
−炭素含有官能基、特に−CH−、−CH=CH−および−CHから選択される官能基と;
−フッ素含有官能基、特に−CHF、−CF−CF、−CF=CF−、−FC=CF、および−HC=CFから選択される官能基と;
−必要に応じてカルボニル官能基(−C=O)とを有する。
【0050】
この層は、10nmから500nm、好ましくは50nmから150nmのサイズのナノ粒子の形態であってもよい。これらのナノ粒子は、互いに集合していてもいなくてもよく、10nmから200nm、好ましくは20nmから100nmの範囲の細孔サイズを有する多孔質フィルムを形成する。それらは、10nmから200nm、好ましくは20nmから100nmの範囲の細孔サイズを有するナノ多孔質ポリマーフィルムの形態であってもよい。この層は、共有結合および/またはイオン結合および/またはファンデルワールス結合で基材に結合する。この層の厚さは、20nmから1000nm、有利には40nmから100nmの範囲であってもよい。
【0051】
本発明の膜は、水に対し不透過性であって水蒸気に対して透過性であるという利点、撥水性特性を備えるという利点、弾性を有するという利点、および良好な耐摩耗性を備えるという利点を有する。
【0052】
「弾性」という用語は、機械的応力の作用下で変形でき、この機械的応力が除去されたときにその初めの形状に復帰する特性を意味すると理解される。
【0053】
「撥水性」という用語は、液滴が支持体を貫通することなくその上を滑る能力を意味すると理解される。
【0054】
本発明の方法により得られる膜は、有利には、以下の特徴の少なくとも1つ、好ましくはいくつかを有する。
接触角:説明されるようなコーティングは超疎水性であり、すなわちこのコーティングと接触する水は140°を超える角度を成す。
撥水性:ISO4920標準を用いて評価されるカテゴリー5。
摩擦:耐摩耗性/摩擦の低減(より大きな滑り)。
通気性:本発明の膜の通気性は、ASTM E96標準、方法Bに従い測定される。本発明によるコーティングは、それが堆積された材料の水蒸気透過性を全く改質しない。
不透過性:水不透過性は、ISO811標準に従い測定される。膜は、100cmを超える水に対し耐性を有する場合、水不透過性であると言われる(一般に、通気性撥水性膜は、800cmを超え1000cmまでの水に対し耐性を有する)。本発明のプラズマ層のコーティングは、支持層の耐水性を著しく改善する。
コーティングの弾性:プラズマコーティングは、そのガス透過特性、特に水蒸気透過特性、および300%未満の伸張までその水不透過特性(NBR基材の場合)を有する。従来技術の生成物は、その連続的な性質に起因して、僅か数十パーセントの限られた弾性を有する。本発明のコーティングはナノスケールの構造を有し、大きな伸張まで超疎水特性および不透過特性の維持を可能とする。
【0055】
本発明の膜が含み得る用途は、特に、防護服、燃料電池膜および限外濾過膜の製造であるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0056】
機器および方法:
測定方法:
不透過性:これは、ISO811標準に従う耐透水性により測定される。
【0057】
伸張した状況下での撥水性の維持:マイクロメートルテーブルを使用する(検体の変位速度:6.25mm/秒および変位増分:5mm);
−検体サイズ 35mm×32mm、参照領域d=10mm。
【0058】
【化1】

【0059】
目的:表面の超疎水性に従う距離dの増加を追跡すること。
【0060】
撥水性:ISO4920標準に従う噴霧試験。
【0061】
分析技術:
−表面形態および表面粗度の分析:
−走査型電子顕微鏡法:Zeiss社により販売されているMEB−FEG Zeiss Supra 35機器を使用した。
【0062】
−原子間力顕微鏡法:Veeco社から販売されているNanoscope(登録商標)III機器を使用した。
【0063】
−層の厚さ:
−スタイラス式表面形状測定装置により測定:Veeco社から販売されているDektak(登録商標)8機器を使用した。
【0064】
−層の化学組成:
−X線光電子分光法:Leybold社から販売されているLHS12 X線光電子分光(XPS)機器を使用した。
【0065】
−フーリエ変換赤外分光法:Thermo Nicolet社から販売されているNexus(登録商標)FT−IR機器を使用した。スペクトルは4000cm−1から500cm−1の間で記録され、4cm−1の分解能で100回積算された。
【0066】
−コーティングの表面特性:
−水とコーティングとの間の接触角により測定した。Kruss社から販売されているG10 Contact Angle Measurement Systemを使用した。超疎水性は、懸滴技法による接触角の測定により得られる。水接触角が140°を超える場合、表面は超疎水性であり、次いで水滴は基材の表面上を転がる。
実施例1
A−プラズマ反応器
超疎水性表面を得るために使用したプラズマ反応器を以下で説明する。
a−励起システム
発生器は、0Wから500Wの範囲の出力で電磁(13.56MHz)波を供給するDressler(登録商標)モデルであった。反射出力は、自動同調ボックスを使用して最小限となるように調節した。
b−反応器
反応器は、直径35.5cmおよび深さ39.5cmであり、したがって50リットルの容積を有するアルミニウムチャンバであった。反応器は、テフロン(登録商標)板によりチャンバの残りの部分から絶縁されたアルミニウム板(寸法20cm×20cm)をカソードとして有していた。カソードは発生器に直接接続され、チャンバはアノードとして機能した。アノードとカソードとの間でプラズマが形成され、その強度は出力および流量により変化した。この反応器は、光学窓を備えていた。
c−ポンピングシステム
ポンピングシステムは、40m/h二段Edwards(登録商標)真空ポンプからなっていた。上記反応器の上に、圧電制御ゲージおよび容量プロセスゲージ(Instron(登録商標))の2種類のゲージが備えられ、それぞれ、0barから1barおよび0torrから1torrの範囲の圧力目盛で動作した。ガス流量(Q)は、Bruker(登録商標)流量計により制御された。表示される流量は%で表された。流量および圧力は連動したパラメータであり、流量とともに圧力が若干変化する。
【0067】
最適化される4つのパラメータである、励起出力P(W)、処理時間t(秒);圧力(mbar);およびガス流量Q(sccm)が、プラズマに曝露された材料の表面改質を決定付けた。
【0068】
5cm×5cmの寸法の未処理不織ポリエステル/ポリプロピレンマイクロファイバーフィルム(大和紡績株式会社製Miracloth(登録商標))を基材として使用した。また、通気性撥水性膜として、Tissages de Quintenas社から販売されている、ポリウレタンフィルムを含むポリアミドおよびエラスタンで作製されたAlpex(登録商標)07I24A膜に対しても試験を行った。
【0069】
以下の手順に従った。
−フィルムの面のうちの1つを、ガス流量Qを75sccm、圧力を0.45mbarとして、120秒の時間tの間200Wの出力Pのアルゴンプラズマを使用した処理に供した。
−この第1のステップから得られた膜の同じ面を、Cガス流量Qを30sccm、CFガス流量Qを13sccm、圧力を0.2mbarとして、50秒の時間tの間100Wの出力PのC/CFプラズマを使用した処理に供した。
−このステップから得られた膜の同じ面を、ガス流量Qを72sccm、圧力を0.4mbarとして、170秒の時間tの間300Wの出力Pを有するCFプラズマを使用した処理に供した。
−得られたコーティングを、フーリエ変換赤外分光法により分析した。得られたスペクトルを図1に示す。観察されたピークの詳細を、以下の第1表に記載する。
【0070】
【表1】

【0071】
詳細XPS分析
コーティングは、炭素(C)、フッ素(F)および酸素(O)からなっていた。層の広域スペクトルを図2に示す(シリコンウエハ上に堆積されたコーティング)。
【0072】
このコーティングは、63±5%炭素、31.3±5%フッ素および5.5±5%酸素を含み、基本的に以下の結合で構成された(図3):コーティングの超疎水性に寄与するテフロン(登録商標)型構造に関連したCF−CF(292.7eV);CF−CF(290.5eV);CF(287.3eV);およびC=CF(285.8eV)。
表面粗度測定
表面粗度(Ra)は、(50μm×50μm)画像走査から得られた。それぞれの値は、(25μm×25μm窓に対する)8回走査の平均であった。プラズマ処理に従う表面粗度の変動を第2表に示す。超疎水性プラズマコーティングは、139nmの表面粗度、すなわち対照として機能する基材の表面粗度よりも大きい表面粗度を有する。
【0073】
【表2】

【0074】
ナノ構造:
コーティングのナノ多孔質構造は、図3Aおよび3Bに示すような電子顕微鏡写真を用いて示した。
【0075】
得られた膜は、以下の特性を有していた。
−通気性(水蒸気透過性):
水蒸気透過性は、ASTM E96B標準に従い、23℃および50%湿度で測定した。結果を第3表に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
−撥水性
ISO4920標準に従い測定した。
【0078】
【表4】

【0079】
実施例2
NBR(ニトリルブチルゴム)膜を基材として使用した。
a−組成
【0080】
【表5】

【0081】
組成物の固形分は29%であった。
−プロセスステップ
フィルムは、前者を上記組成物中に浸漬することにより生成した。浸漬操作は1度だけ行った。次いでフィルムを50℃に加熱することにより乾燥させ、次いで170℃で加硫した。60ミクロンの厚さを有する膜が得られた。
b−励起システム
発生器は、0Wから1000Wの範囲の出力で電磁(13.56MHz)波を供給するDresslerモデルであった。反射出力は、自動同調ボックスを使用して最小限となるように調節した。パルスモードで使用可能であった。
c−反応器
反応器は、直径40cmおよび深さ40cmであり、したがって50リットルの容積を有するアルミニウムチャンバであった。カソードの寸法は20cm×30cmであり、チャンバが対極(アノード)として機能した。この反応器は、光学窓を備えていた。
d−ポンピングシステム
ポンピングシステムは、40m/h二段Edwards(登録商標)真空ポンプおよび250m/h Roots(登録商標)ポンプからなっていた。上記反応器の上に、圧電制御ゲージおよび容量プロセスゲージ(Instron(登録商標))の2種類のゲージが備えられ、それぞれ、0barから1barおよび0torrから1torrの範囲の圧力目盛で動作した。ガス流量(Q)は、Bruker(登録商標)流量計により制御された。表示された流量は%で表された。流量および圧力は連動したパラメータであり、流量とともに圧力が若干変化する。
【0082】
以下の手順に従った。
−膜の面のうちの1つを、ガス流量Qを75sccm、圧力を0.4mbarとして、120秒の時間tの間200Wの出力Pのアルゴンプラズマを使用した処理に供した。
−この第1のステップから得られた膜の同じ面を、Cガス流量Qを30sccm、CFガス流量Qを13sccmとして、50秒の時間tの間100Wの出力Pを有するC/CFプラズマを使用した処理に供した。励起システムは、1Hz周波数および90%デューティサイクルのパルスモードであった。
−このステップから得られた膜の同じ面を、ガス流量Qを70sccm、圧力を0.4mbarとして、170秒の時間tの間300Wの出力Pを有するCFプラズマを使用した処理に供した。
【0083】
この手順から得られた膜は、非常に高い弾性(>250%)を有し、また250%の伸張に対してその疎水性および水蒸気透過特性を維持した。
結果:
接触角:疎水性(表面に対する水の接触角を測定することにより得られる)を第4表に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
材料の通気性:これは第5表に示される。
【0086】
【表7】

【0087】
実施例3
様々なプラズマ処理後の接触角測定:
対照:NBRラテックス(実施例2に定義される組成を有する)
検体1(比較検体):対照+ガス流量Qを75sccm、圧力を0.4mbarとした、120秒の時間tの200Wの出力Pを有するアルゴンプラズマによる処理+ガス流量Qを70sccm、圧力を0.4mbarとした、170秒の時間tの300Wの出力PのCFプラズマ処理。
【0088】
検体2(比較例):対照+ガス流量Qを75sccm、圧力を0.4mbarとした、120秒の時間tの200Wの出力Pのアルゴンプラズマによる処理+Cガス流量Qを30sccm、CFガス流量Qを13sccmとした、50秒の時間tの100Wの出力PのC/CFプラズマによる処理。励起システムは、1Hz周波数および90%デューティサイクルのパルスモードであった。
【0089】
検体3(本発明による):対照+ガス流量Qを75sccm、圧力を0.4mbarとした、120秒の時間tの200Wの出力Pのアルゴンプラズマによる処理+Cガス流量Qを30sccm、CFガス流量Qを13sccmとした、50秒の時間tの100Wの出力PのC/CFプラズマによる処理。励起システムは、1Hz周波数および90%デューティサイクルのパルスモードであった。また、ガス流量Qを70sccm、圧力を0.4mbarとした、170秒の時間tの300Wの出力PのCFプラズマ処理を行った。
【0090】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜を製造するための方法であって、
(i)ガス透過性材料で作製されたフィルムまたは膜からなる支持層が使用され、
(ii)必要に応じて、この支持層の面のうちの少なくとも1つが、
−アルゴン、酸素、ヘリウムおよびこれらの混合物から選択されるガスのプラズマを使用したプラズマ処理、ならびに
−化学洗浄ステップ
から選択される少なくとも1つの処理に供され、
(iii)ステップ(i)またはステップ(ii)から得られたフィルムまたは膜の同じ面が、炭化水素ガス、フルオロカーボンガスおよび炭化水素ガス/フルオロカーボンガス混合物;フルオロカーボン液体;ならびにフルオロカーボン固体から選択される前駆体化合物であって、F/C<2であるように選択される前駆体化合物のプラズマを使用したプラズマ処理に供され、および、
(iv)ステップ(iii)から得られたフィルムまたは膜の同じ面が、2以上のF/C比を有するように選択されるフルオロカーボンガスのプラズマを使用したプラズマ処理に供されることを特徴とする方法。
【請求項2】
プラズマが、高周波により生成されるプラズマである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラズマが、PECVDによる前駆体の処理から得られる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
支持層が、ポリマー材料、不織布材料、織物または編物繊維材料、ポリマーと天然および合成繊維から選択される少なくとも1種の材料とをベースとした複合材、セルロース、ならびにセルロース誘導体から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
支持層が、エラストマー材料で作製された膜、およびその成分のうちの少なくとも1つがエラストマーであるポリマーのブレンドから得られた膜から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
支持層が、ASTM E96標準、方法Bに従い測定される、1日あたり水蒸気250g毎平方メートル以上の水蒸気透過性を有するフィルムまたは膜から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
支持層が、ISO2285標準に従い測定される、10%以下の50%伸張後の引張歪みを有するフィルムまたは膜から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(ii)において、支持層がアルゴンプラズマ処理に供され、その出力Pが有効電極面積1cmあたり0.1Wから2Wである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(iii)において使用されるガスがC/CF混合物であり、その出力Pがカソードの有効面積1cmあたり0.04Wから2Wである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(iii)におけるガスまたはガス混合物が、2≦C/CF≦5であるような体積比を有するC/CF混合物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(iv)におけるガスがCFであり、出力Pがカソードの有効面積1cmあたり0.2Wから3Wである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法により得ることができる膜であって、該膜はガス透過性材料で作製された膜またはフィルムの形態の支持層と、C、H、Fおよび必要に応じてOで構成されるナノ構造化架橋非晶質ポリマーからなるコーティングの少なくとも1つの層であって、C/Fモル比が1.5から2.5であり、炭素含有官能基、フッ素含有官能基および必要に応じてカルボニル官能基を有する層とを含むことを特徴とする膜。
【請求項13】
コーティング層が、10nmから500nm、好ましくは50nmから150nmのサイズを有するナノ粒子の形態である、請求項12に記載の膜。
【請求項14】
コーティング層が、10nmから200nm、好ましくは20nmから100nmの範囲の細孔サイズを有する多孔質フィルムを形成する、請求項12または13に記載の膜。
【請求項15】
コーティング層の厚さが20nmから1000nm、有利には40nmから100nmである、請求項12から14のいずれか一項に記載の膜。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2011−504207(P2011−504207A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532635(P2010−532635)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001577
【国際公開番号】WO2009/092922
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(591136931)
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
【Fターム(参考)】