説明

造粒焼結原料の製造方法

【課題】相対的に少量の水分で造粒粒子を製造することができ、ひいては、湿潤帯の縮小に伴う生産性の向上、焼結鉱強度の向上をもたらす、造粒焼結原料の製造方法を提案すること。
【解決手段】核粒子の造粒段階についてのみ適性な水分を添加して、造粒核粒子の大径化と生粒子強度の向上を達成し、次いで、その造粒核粒子表面に水の添加なしで、石灰系副原料と固体還元剤の粉を別々に、外装被覆した構造の造粒焼結原料を製造し、このことによってトータルの水分量が少なく、強度の高い焼結鉱を得るための多層状造粒焼結原料を効率よく製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結機に供給するための造粒焼結原料の製造方法に関し、とくに最外殻にコークスの付着層が形成されている多層状造粒焼結原料を適性水分量の調整下に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼結鉱は、通常、複数銘柄の粉状の鉄鉱石(以下、単に「鉱石」とも言う)に、石灰石、珪石、蛇紋岩等の副原料粉と、ダスト、スケール、返鉱等の雑原料と、粉コークス等の固体燃料とを適量づつ配合した焼結原料に、水分を添加してディスクペレタイザーやドラムミキサー等で混合造粒して擬似粒子化した造粒焼結原料を製造し、その造粒焼結原料を焼結機のパレット上に装入し、装入層表層部の固体燃料に着火し、下向き吸引下で焼成することによって製造されている。
【0003】
一般に、DL焼結機を用いて焼結鉱を製造する場合、前記造粒焼結原料の構造、性状が、前記装入層の通気性に強く影響し、ひいては焼結鉱の品質や生産性あるいは歩留を大きく左右することが知られている。特に、造粒焼結原料中の水分は、焼結原料中の微粉を粗粒(核粒子)の表面に付着させて擬似粒子を製造する上でバインダーとして作用することから、造粒を適正に行うためには、どうしてもこの水分量を適正に調整することが必要である。
【0004】
そこで、従来、微紛と核粒子とに付着力を付与することにより、擬似粒子化を促進させることを目的として、造粒時における焼結原料の水分量濃度を制御する試みが種々なされている。例えば、特許文献1、2には、焼結原料を構成する各粉状物質の飽和水分値を予め求めておき、この各飽和水分値と各粉状物質の配合割合とから加重平均によって焼結原料の飽和水分値を算出し、この加重平均飽和水分値の一定割合の水分を焼結原料に添加して造粒する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3、4には、焼結原料の給水率および造粒前粒度分布から水分添加後の焼結原料が付着力を有する水分濃度の下限値である臨界水分濃度を算出し、焼結原料の水分濃度がその臨界水分濃度以上となるように、水分添加量を制御する造粒方法が開示されている。
【0006】
ところで、近年は、焼結原料として、ピソライト鉱石やマラマンパ鉱石など吸水性の高い鉱石の配合率を増加させる傾向にある。これら吸水性の高い劣質鉱石を多量配合した焼結原料の場合、従来技術のように、単に、飽和水分値や吸水率といった指標のみに基づく制御では、適正な造粒水分濃度を精度良く予測することが困難であり、このことが、しばしば造粒時における過剰の水分添加を招いて、焼結機装入層内の湿潤帯の拡大を招いて、通気障害に伴う焼結鉱の生産性低下、被還元性や焼結鉱強度の低下を招くという問題があった。
【0007】
このような背景の下で、近年上述した鉄鉱石や雑原料、SiO系副原料を、
予め、石灰系原料およびコークスのような固体燃料と分離して造粒することにより、生成焼結鉱の表面には強度の高いカルシウムフェライト(CF)が生成するようにし、一方、該焼結鉱の内部には被還元性の高いヘマタイト(He)が生成するようにした焼結鉱を製造するための、下記特許文献5〜7に開示の焼結用原料の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−80849号公報
【特許文献2】特開平5−51654号公報
【特許文献3】特開平11−61281号公報
【特許文献4】特開2000−1725号公報
【特許文献5】特開2003−138319号公報
【特許文献6】特開2003−160815号公報
【特許文献7】WO2001/092588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献5〜7に記載される焼結用原料の製造方法については、従来の全ての焼結原料を一括して造粒するときの水分濃度制御を行っているのが実情である。そのため、核粒子となる鉄鉱石やSiO系副原料造粒時の水分が不足して、該核粒子の粒子径が小さくなり、そのため外層を形造る石灰系副原料と固体還元剤とからなる多層状擬似粒子径も相対的に小さくなるという問題があった。それは疎水性のコークスに水分をより多くとられるからである。一方で、核粒子大径化のためにより多量の水分を添加しようとすると、造粒焼結原料の全水分量が上がり、ひいては焼結装入層の通気性が悪くなるだけでなく、焼成ムラも発生しやすくなるという問題があった。こうした問題は、従来技術における上述した造粒焼結原料の水分量不適正制御は、造粒時に崩壊を招くことなく、高強度の擬似粒子を造粒できるようにするために、粒子全体について適正水分制御をしていることに由来しているものと考えられる。
【0010】
また、焼結原料としては、近年、鉄鉱石の価格の上昇に伴って、安価な吸水性の高い劣質鉄鉱石やペレットフィードと呼ばれている微粉鉄鉱石(≦150μm)を使用せざるを得ない状況下にある。従って、粗粒鉄鉱石やペレットフィードである微粉鉄鉱石とSiO系副原料とをまず、ディスクペレタイザーなどを使って核粒子を造粒し、次いで石灰系副原料と固体燃料とを外装する方法が採られている。こうした場合、適正水分の制御が難しいことに加え、造粒処理時間の延長、平均的に過剰な水分添加になることなどの問題点が多くなり、上述したように、焼結装入層中の湿潤帯の拡大に伴う通気性不良、さらには焼結鉱生産性の低下や焼結鉱強度の低下を招く原因になるのである。
【0011】
そこで、本発明の目的は、たとえ低品位微紛鉄鉱石を使用する場合であっても、相対的に少量の水分で造粒粒子を製造することができ、ひいては、湿潤帯の縮小に伴う生産性の向上、焼結鉱強度の向上をもたらす、造粒焼結原料の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来技術が抱えている上述したような問題点を克服できる技術を提案するために、核粒子の造粒段階についてのみ適性な水分を添加して、造粒核粒子の大径化と生粒子強度の向上を達成し、次いで、その造粒核粒子表面に水の添加なしで、石灰系副原料と固体還元剤の粉を別々に、外装被覆した構造の造粒焼結原料を製造し、このことによってトータルの水分量が少なく、強度の高い焼結鉱を得るための多層状造粒焼結原料を効率よく製造するようにする方法を提案する。
【0013】
即ち、本発明は、下方吸引のドワイトロイド式焼結機を用いて高炉用焼結鉱を製造するために用いられる造粒焼結原料の製造に当たり、まず返鉱を含む粗粒・微粉鉄鉱石およびSiO系副原料を、造粒に適した適正水分量の水を加えて混合・造粒して核粒子を製造し、次いで、その核粒子に対して水を加えることなく石灰石系副原料を加えて造粒することでその核粒子表面に、石灰石系副原料からなる中間層を形成し、その後さらに、水を加えることなく固体還元剤を加えて造粒することで、該中間層を有する核粒子の表面に固体還元剤からなる外殻層を形成することにより、鉄鉱石系原料からなる核粒子、石灰石系副原料からなる中間層および固体還元剤からなる外殻層との3層状構造からなる擬似粒子を造粒成形することを特徴とする造粒焼結原料の製造方法を提案する。
【0014】
なお、本発明においては、前記石灰石系副原料は、造粒ミキサー内にその装入側から順流の向きに添加して造粒する一方、前記固体還元剤は造粒ミキサーの排出口側から向流の向きに添加することを特徴とする。
【0015】
本発明において、前記中間層ならびに外殻層形成のために用いられる造粒ミキサーは、装入物の滞留時間が120秒以下となるドラム長としたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明において、外殻層形成用造粒ミキサー内への固体還元剤の添加に際しては、該造粒ミキサー内滞留時間が10〜60秒となるようにして造粒することを特徴とする。
【0017】
また、本発明において、前記石灰系副原料と固体還元剤とを除く、鉄鉱石、SiO系副原料を造粒して得られる前記核粒子に水分を添加してこれを混合造粒するに際しては、その水分添加に当たり、該焼結原料の吸収水分指数や粒度分布、化学組成、水との濡れ性を測定すると共に、実機操業時における副原料配合率から擬似粒子を造粒するために必要な適正造粒水分濃度を推定し、その推定適正造粒水分濃度となるように、前記水分の添加量を決定することを特徴とする。
【0018】
本発明において、前記推定適正造粒水分濃度[Wopt]は、鉄鉱石、SiO2系副原料に関する下記式により算出する。
[Wopt]=(吸収水分)+(付着水分)+(補正項)
【発明の効果】
【0019】
前記のように構成される本発明の焼結用原料の製造方法によれば、鉄鉱石やSiO系副原料をまず、適正水分量の水添加の下で造粒し、こうして得られる核粒子の表面に対して、まず、水を添加することなく造粒処理して石灰系副原料を付着させて中間層を形成し、その後さらに、水を添加することなく造粒処理して粉コークスなどの固体還元剤を付着させて最外層である外殻層形成することにより、少ない添加水分量で付着した層状の、特に、3層からなる造粒焼結原料が形成されることになる。その結果、粒径の大きい低水分量の擬似粒子が製造できるので、焼結機装入層中の湿潤帯の縮小、焼結時のムラ焼け発生を阻止して、焼結鉱の生産性ならびに焼結鉱強度を向上させるのに好適な造粒焼結原料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る造粒焼結原料の製造方法を示す説明図である。
【図2】造粒焼結原料の製造試験の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の作用を確認するために使用した試験用焼結鍋装置の概要図である。
【図4】焼結装入層の通気性、擬似粒子径に及ぼす造粒水分の影響を示すグラフである。
【図5】適正造粒水分のメカニズムを説明する図である。
【図6】含水率に及ぼす粒子径の影響を示すグラフである。
【図7】従来方法による適正造粒水分値の推定値と実測値との関係を示すグラフである。
【図8】本発明方法を適用した適正造粒水分地の推定値と実測地との関係を示すグラフである。
【図9】実施例で使用した造粒焼結原料製造プロセスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る造粒焼結用原料の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1において、符号の1は、SiO系副原料粉と必要に応じて返鉱を含む鉄鉱石粉とを、ここでのみ添加する水と共に攪拌する攪拌混合用ミキサー、2は、攪拌混合用ミキサー1で攪拌混合された混合原料を造粒して核粒子を得るディスクペレタイザー、符号3は、ディスクペレタイザー2で造粒された造粒核粒子に対し、まず石灰石を造粒粒子の移動方向に沿う順流で供給して中間層を形成するため、および最外層のコークス殻を形成するために用いられる造粒ミキサー(ドラムミキサー)である。
【0022】
上述したように、本発明の特徴は、鉄鉱石、SiO系副原料、必要に応じて添加される雑原料をディスクベレタイザー2で造粒するときにのみ、造粒に必要な適正水分量を供給して径の大きい造粒粒子(擬似粒子)をつくり、得られた造粒粒子である中心殻となる核粒子表面に対し、まず、石灰系(石灰石、生石灰)副原料および必要に応じて鉄鉱石微粉を加えた石灰系副原料の中間層を被覆形成する。その際には、造粒のためのバインダーや水は一切添加しないで、前記核粒子表面の水分のみを使ってまぶすように外装被覆するのである。従って、後述するように、この場合、造粒時の崩壊を防ぐために、あまり長時間の転動造粒は好ましくない。
【0023】
次いで、前記石灰系副原料の中間層を被覆した造粒核粒子の表面に、最外層として粉コークスなどの固体還元剤からなる外殻層を形成する。このときもまた、バインダーや水分を添加することはしない。従って、この場合も中間層の形成のときと同じように、短時間の転動造粒が好ましく、そうすれば、粒子の崩壊を招くことなく、径の大きい、水分含有量の少ない造粒焼結原料が得られるのである。
【0024】
そこで、発明者らは、まず、水分含有核粒子の表面に外装すべき中間層用石灰系副原料および外殻層形成用固体還元剤(以下、「粒コークス」という)とを造粒ミキサー(1基または個別に2基)内に供給する方法が重要であると考え、その供給の方法について試験を行った。その結果、中間層および外殻層形成用ドラムミキサー(コーティングミキサーともいう)3の中で、まず石灰石の中間層およびその外側の粉コークスの外殻層からなる3層構造の造粒粒子が形成される時間を求めたところ、特に、粉コークスの外殻層が形成される前記ドラムミキサー3の長さは、コークス装入後、造粒粒子排出までの滞留時間を120秒以下であった。即ち、ドラムミキサーは造粒装置であり、中では回転による造粒がなされるものの、実質的には破壊と造粒が繰り返されており、滞留時間が長くなると、造粒粒子そのものが破壊されてしまうため、その限界は120秒以下、好ましくは90秒以下とすることが好ましいと考えられる。
【0025】
なお、この試験では、石灰石中間層、粉コークス外殻層からなる外層形成用ドラムミキサー3内の粉コークス滞留時間と生産性、造粒性および焼結鉱品質の関係を評価した。試験水準は、好ましい滞留時間90秒の外層形成用ドラムミキサー3を用い、この外層形成用ドラムミキサー3の装入側から副原料を含む核粒子と共に粉コークスを装入する方法を従来例として併せて対比試験を行った。また、粉コークスの添加位置(試験3:順流、試験2:向流)を変えてドラムミキサー内での滞留時間と生産性の関係も試験した。その結果、粉コークスの滞留時間(外装時間)及びその他の造粒工程の時間は、下記表1のとおりであった。図2は、各試験における生産率、造粒物の平均径、被還元性の結果を図2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
これらの結果から、粉コークスの造粒(ドラム)ミキサー内滞留時間を短くすると生産性がよくなり、その生産性がよくなる条件は粉コークス滞留時間を30秒以下としたときである。これは、粉コークス滞留時間が30秒を超えると(試験1)、造粒粒子表層部の破壊部分と粉コークス混在部分が造粒粒子表層に位置し、粉コークス燃焼性の悪化から生産性を阻害するものと考えられる。それは、粉コークスは他の焼結原料と比べて、疎水性で造粒性が悪く、外層形成用ドラムミキサー内に造粒粒子と共に滞留させると外層形成用ドラムミキサー内での造粒・崩壊過程で、粉コークスが造粒粒子の粒子間に内装され、造粒粒子の崩壊を招き、造粒粒子径が小さくなる傾向にあるためであると考えられる。
【0028】
また、粉コークス添加後の滞留時間(外装時間)が30秒よりも短い(試験3)と造粒粒子径の崩壊は抑制されるものの、粉コークスが造粒粒子表層に均一にコーティングされず、焼成が不均一となり、生産性が低下する。被還元性については、粉コークス外装時間の短縮により、造粒粒子径が大きくなり、通気改善されるため、高温焼結により被嵌厳正の高いカルシウムフェライト組織が多く生成することが明らかとなった。
【0029】
なお、上記試験において、試験2、3に関しては、鉄鉱石、SiO系副原料、石灰系副原料および固体還元剤(粉コークス)からなる焼結原料を造粒するに際し、これらのうち、まず、石灰系副原料および固体燃料を除く焼結原料を攪拌混合用ミキサー1に装入して混合し、その混合原料をディスクペレタイザー2に供給して造粒し、次に、このようにして得た造粒粒子(核粒子)を外層形成用造粒ミキサー3に供給すると共に、この外層形成用ドラムミキサー3内に、まず、石灰系副原料粉下流側から順流の向きに添加し、さらにその後、粉コークスをこのドラムミキサー3の排出口から向流の向きに添加して造粒された3層構造の造粒焼結原料である。
【0030】
要するに、石灰系副原料を、外層形成用ドラムミキサーの装入側3aから添加し、一方、固体燃料該外層形成用ドラムミキサーの排出口側3bから添加することにより、造粒核粒子の表面には、石灰石等の中間層とコークスの外殻層とが明確に分かれた造粒粒子が得られる。
【0031】
また、前記外層形成用ドラムミキサー3を、各装入原料の滞留時間が120秒以下のドラムミキサ−長さとしたり、固体燃料の添加は、該ミキサー内滞留時間を30秒以下とすることにより、粒子崩壊を招くことなく造粒物の平均径を適正化でき、焼結鉱の被還元性を高めることができ、さらに歩留を低減して生産性を向上することができる。
【0032】
次に、上述したようにして製造される造粒焼結原料の適性水分量(水分濃度)を推定する方法について説明する。前述の説明から理解されるように、本発明では、その適性水分量は、外装すべき石灰系副原料と固体燃料を除いた、所謂、鉄鉱石、SiO系副原料、返鉱など雑原料からなる中心核を形造る核粒子造粒時の添加水分量の推定をすることになる。
【0033】
そこで、発明者らは、所定の焼結原料を用いて造粒焼結原料を製造する際に、その製造に先だって、該焼結原料中の鉄鉱石や副原料の「吸収指数(吸収水分指数)」、「粒度分布」、「化学組成」、「水との濡れ性」を測定し、これらの指数と、それぞれの原料の配合率に基づいて算出された適正水分予測値を用いたところ、造粒とくに核粒子の造粒を安定的にかつ適正に行われることを見出した。
【0034】
以下、焼結原料の造粒時、特にディスクペレタイザーを使って、造粒核粒子を造粒するときに要求される適正造粒水分の量についての、本発明の考え方について説明する。
図3は、核粒子径(擬似粒子径)と通気性に及ぼす造粒水分の影響を調査するために使用した、実験鍋設備の模式図を示す。使用した粉状鉱石については、鉱石単味銘柄毎に、水分の添加量を順次に変更しながら水分濃度を種々変化させてディスクペレタイザーやドラムミキサーにて混合造粒し、得られた造粒物である擬似粒子を上記試験焼結鍋内に充填し、冷間で大気を下向き吸引して冷間通気性指数JPU(Japan Permeability Unit)を下記(1)式から算出した。なお、JPUは大きいほど通気性が良好であることを示す値である。
【0035】
JPU=V/S(h/ΔP)0・6 …(1)
ここで、各係数は
V:風量[Nm/min]、
S:充填層断面積[m]、
h:充填層高さ[mm]、
△P:圧力損失[mmHO]
である。
【0036】
なお、図示の31はオリフイス、32は風箱、33は試験焼結鍋(φ150mm)、34はグレート、35はピトー管、36は差圧計、37は吸引ブロアである。
【0037】
図4は、2種の鉱石(A鉱石、B鉱石)について、造粒物の水分濃度を変化させた時の擬似粒子径(調和平均径)、通気度(JPU)の測定結果を示す。この図から明らかなように、水分の添加に伴い、擬似粒子の粒径は増加するものの、通気度(JPU)が最大となる造粒水分(適正造粒水分)は原料によって異なることがわかる。
【0038】
図5は、造粒水分の考え方を示す。即ち、焼結原料を造粒して擬似粒子を造るときの造粒水分というのは、図4に示した通気度(JPU)および擬似粒子径と擬似粒子水分(造粒水分)との関係から、造粒水分の鉱石粒子へのかかわり方には、吸収、付着、架橋の3つの段階があると考えられる。以下、それぞれの段階の考え方と、造粒時の水分に影響する因子について説明する。
【0039】
(1)鉄鉱石粒子への水分の吸収のされ方は、「吸収指数」として表される。この吸収指数に関しては、以下のように考えられる。
図5のグラフにおいて、鉱石が個々に分散した状態の領域においては、水分添加の効果が、擬似粒子径や通気度にはともにあまり影響しない。それは、図中の右側に、(A)領域として示すように、鉱石粒子表面には、微細な開気孔が存在し、添加された水分は最初にこの空隙内に浸透するのに使われるからと予想される。このことから、造粒に必要な水分は、気孔量、空隙量が多いほど、内包水分に費やされるため多くなると考えられる。
【0040】
(2)次に、核粒子への微粉の付着作用に及ぼす水分のかかわり方に影響する「粒度分布」、即ち、微粉および核粒子の質量比率として説明する。
図5(A)の状態からさらに水分を添加すると、図中の(B)の領域となり、この領域では図中の右側に(B)領域として示すように、鉱石粒子表面を濡らす付着水となり、隣接する鉱石粒子と接触すれば、架橋水として働く。いわゆるペンジュラー(Pendular)域、ファニキュラー(Fanicular)域、キャピラリー(Capillary)域と呼ばれる充填様式となる。この場合、鉱石粒子同士は接触が進み、微粉が核粒子の表面に付着するに到り、擬似粒子の径が増大して焼結原料中の粉率が低下することにより、通気度も上がる。
【0041】
図6は、2種の鉱石(A鉱石、B鉱石)について、浸漬試料の吸引濾過後の含水率に及ぼす粒子径の影響を示す図である。横軸は水没させた試料粒子径の比表面積1/dp[mm−1]を表す。図6から明らかなように、粒径が小さい程、比表面積が大きく、付着水分も増加することがわかる。すなわち、原料中の微粉の質量比率が大きい程、付着水量が多くなり、造粒に必要な水分が多くなることを示している。
【0042】
つまり、付着水分の量は、粒子径により異なるものであるといえる。焼結原料中に粒径の大きい粒子が多数存在すると、細粒比率が小さくなるので、造粒に必要な水分は減少する。原料によっては、細粒側と粗粒側の構成が大きく異なるため、粗粒比率も重要な指数となる。
【0043】
(3)次に、粉体どうしの架橋水、即ち、粉体の「水との濡れ性」について説明する。
一般に、擬似粒子を湿潤凝集粉体とみなした時、擬似粒子強度σの推定式は、下記(2)式、(3)式のように表すことができる。
σ=ψ・S・Pc …(2)
Pc=6・(1−ε)/ε・γ/Ds・cosθ …(3)
ここで、各係数は、
σ:造粒物強度[N]、
ψ:液体の充満度[−]、
S:粉体の表面積[m]、
Pc:吸引圧力[Pa]、
ε:造粒物の空隙率[−]、
γ:水の表面張力[N/m]、
Ds:比表面積球相当径[m]、
β:粉体との接触角[°]
である。
【0044】
上記式から判ることは、濡れ易い(接触角が小さい)粉体で構成された擬似粒子の強度は大きく、濡れ難い(接触角が大きい)粉体で構成された擬似粒子の強度は小さくなる。そして、粉体と水との濡れ性が悪いと、凝集粉中に水(架橋水)が保持されずに、凝集粉の外側に水が染み出しやすく、そのための余剰水分によって擬似粒子間の空隙が埋められ、通気性を阻害する。すなわち、濡れ性の悪い原料ほど、適正水分は少なくなると予想される。なお、粉体の水との濡れやすさである水との濡れ性は、種々の物理手法により測定可能である。
【0045】
(4)次に、「化学組成」について説明する。
a.ここでは、鉱石中の粘土組織が適正水分に及ぼす影響を説明する。一般に、鉄鉱石中には粘土鉱物であるカオリン鉱物が微量に含まれている。カオリン鉱物はアルミニウムの含水ケイ酸塩鉱物(粘土鉱物の一種)であり、Al質量比率が30〜40mass%程度である。カオリン鉱物の粒径は数μmと細かく、吸水性に富んでいる。すなわち、原料中のAl質量比率が増加すると、造粒に必要な水分が余分に多くなると考えられる。
【0046】
b.鉱石中のSiOの存在が正水分に及ぼす影響を説明する。焼結鉱は高炉において安定した原料して使用されなければならず、SiO、Al、MgO、CaO/SiOといったスラグ成分値は厳しく管理される。とくに、SiOは鉱石によって3〜8mass%と異なるため、珪石等の副原料で配合調整する必要がある。即ち、SiO含有量が少ない鉱石では、珪石を増配し、逆の場合には、珪石を減配する。珪石は吸収水に乏しい原料のため、珪石の増配により装入原料の必要水分量が少なくなると考えられる。
【0047】
そして、図5(B)の状態からさらに水を添加すると、図5(C)の状態となり、図中の右側に(C)領域として示すように、水分が過剰になるために、添加水分が連続して存在する、いわゆるスラリー(Slurry)域となる。粒径は増大するものの、この過剰水のために装入層の空隙率が低下し、通気度の低下を招く。
【0048】
以上のことから、少なくとも核粒子となる鉄鉱石+SiO副原料(+任意添加雑原料)からなる中心核製造用焼結原料に着目した場合の適正造粒水分量(Wopt)とは、鉄鉱石や副原料の「吸収指数」、「付着指数」、「濡れ性」、「化学成分」を考慮した場合に高い精度で決定できるようになると考えられる。即ち、焼結原料を混合造粒するときの適正造粒水分濃度(Wopt)は、「吸収水分」、「付着水分」を用い、下式に基づいて計算することができる。
【0049】
(Wopt)=(吸収水分)+(付着水分)+(補正指数)…(4)
【0050】
本発明はとくに、配合鉄鉱石種やそれの配合比率が未知の焼結原料に対しても、水分の添加前に、予めその焼結原料および副原料の「吸収指数」、「粒度分布」、「化学組成」、「水との濡れ性(水との接触指数)」が与えられれば、上記(4)式に基づいて、焼結原料の適正造粒水分濃度を算出することができるので、造粒時における水分添加量をより高精度に決定することができるようになる。
【0051】
その結果、例えば、鉱石の種類や配合比率の不明なブレンディング鉱石の使用にあたっても、適正な造粒(擬似粒子化)が図られるから、常に高強度の擬似粒子(造粒焼結原料)が得られる。ひいては、焼結機による焼成時での装入層の通気性が良好になるので、焼結鉱の品質の向上や生産性、歩留の向上に資するようになる。
【0052】
以下、本発明方法において行う適正造粒水分濃度の推定方法について説明する。まず、使用予定の原料をサンプリングし、物性値測定及び化学分析を実施する。
(a)「吸収指数」について、
この吸収指数としては、鉄鉱石、副原料とも、LOI(イグニッションロス)やCW(結合水)のような化学分析値を使用することができるが、気孔量を吸収指数として用いてもよい。その気孔量は、乾燥した焼結原料を4〜6.7mm径に整粒した粉状物質について、水銀圧入法により0.003μmから200μmまでの径を有する開気孔の合計体積を求め、これを単位質量あたりに換算した値を用いる。
また、この吸収指数としては、各粒度毎に整粒した焼結原料を水中に長時間浸漬させ、脱水後の含水率(浸漬水分)を用いてもよい。例えば、鉱石A、Bについて検証した図4に明らかなように、グラフの切片は、粒子径に無関係の定数項であり、鉱石自体の吸収性を表わしていると見ることができる。
上記の化学分析値、気孔量、吸収水分(浸漬水分)は相互に強い相関があり、使用に際してはいずれかの指標で統一して使用し、上記(4)式の係数を重回帰により再試算すればよい。
【0053】
(b)「粒度分布」について
粒度分布としては、微粉の質量比率として、−1mm、−0.5mm、−0.125mm、−0.063mmいずれかの質量比率、核粒子の質量比率として、原料中の+1mm、+2mm、+2.8mm、+4.0mmいずれかの質量比率を指標として用いる。場合によっては、他の篩目または、ある粒度区間の質量比率(例えば1〜2.8mm比率など)を、指標として使用してもよい。
【0054】
(c)「化学成分」である、Al比率、SiO比率について、
Al比率は、吸収性の著しいカオリン系鉱物の指標であるので、原料中1mm以下の粒径試料における分析値を使用する。鉱石中のAl比率は、−1mm試料と+1mm試料で強い相関があるため、鉱石有り姿の分析値を用いても構わない。
SiO比率は、装入原料全体のスラグ成分調整に影響する指標であるので、粉鉱石原料の有り姿の粒径試料における分析値を使用する。
【0055】
(d)「水との濡れ性」について、
濡れやすさの指標として、接触角θを使用する。粉体と水との接触角の測定は、鉱石の切り出し研磨面に微小水滴を滴下した時の接触角度を実測する方法、下記のHagen−Poiseuilleの式を活用した浸透法がある。浸透法による測定では、試料として粒径−1mmに整粒した鉱石を供し、鉱石充填層を上昇する水面の上昇速度から接触角θを算出する。
【0056】
H=(φRγcosθ/2η)0.5・t0.5 …(6)
ここで、各係数は、
H:水の上昇高さ[m]、
R:粒径[m]、
t:時間[sec]、
γ:水の表面張力[N/m]、
η:水の粘度[N/s・m]、
θ:水と粉体の接触角[°]である。
φ:ラビリンスファクター
【0057】
なお、水の濡れ性は、原料のFeO濃度と接触角には強い相関があり、FeO濃度が増加すると接触角が増加することから、このFeO濃度を測定して、指標として用いてもよい。
これらの指数を用い、上述した適正造粒水分濃度[Wopt]の推定式(4)の係数を決定する。
【0058】
次に、上記実施形態において推定した水分についての添加は、造粒ミキサー、即ち、ディスクペレタイザーやドラムミキサー等あるいは、造粒ミキサーより上流側、例えばヤード、ヤードから原料層へ搬送するコンベア上、原料槽内、および原料槽から造粒機へ搬送するコンベア上のいずれか1箇所または複数箇所で、予め水分を添加しておいてもよく、あるいは、この事前の添加と造粒機での添加との併用でもよい。
このようにして、(4)式に基づいて適正造粒水分量[Wopt]に調整された焼結原料(鉄鉱石、SiO系副原料)を造粒ミキサーにて造粒することにより、高強度の擬似粒子(造粒核粒子)を製造することができる。
【0059】
次いで、本発明では、このようにして得られた適正水分濃度を有する造粒核粒子を、外装用ドラムミキサーの上流側からは順流で石灰系副原料を装入して中間層を形成させると共に、該ドラムミキサーの下流側からは向流で粉コークスを装入して、最外層にコークスの外殻層を付着被覆させて、3層構造からなる造粒焼結原料とするが、この場合、水分は従来技術の元で計算されるものより、大幅に少なくすることができる。
【実施例】
【0060】
この実施例は、図1に示す造粒焼結原料製造プロセスに従って、本発明における核粒子製造のための適正造粒水分濃度の推定式と、従来方法(推定式)を用いた場合の造粒焼結鉱原料の製造例を比較して説明する。
【0061】
造粒作業に先んじ、適正造粒水分を実験において与えられた単味鉱石における化学組成、吸収指数、粒度分布、濡れ性から、上記(4)式の係数を重回帰分析により見積もった。操業に使用した各鉱石銘柄の化学成分、粒度分布、浸漬水分、濡れ性(θ)、適正造粒水分(Wopt)の測定結果を表2、表3に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
図7に従来方法、図8に本発明方法を用いて推定した場合における適正造粒水分濃度の推定値と、適正造粒水分実測値との相関を示す。なお、適正造粒水分の実測値とは、水分量を変えて造粒した際に、通気度が最高となった場合の水分量である
【0065】
また、図7、8において、単味とは原料が単一銘柄からなる場合、ブレンドとは、原料がブレンディング鉱石の場合である。図7と図8とを比較すると、従来方法で推定した適正造粒水分量は、実測値との相関が94%程度であるのに対し、本発明方法で推定した場合は相関が98%と高かった。
【0066】
次に、図9に示す製造プロセスに従って、鉄鉱石とSiO系副原料、および返鉱とをまずコンクリミキサー(20rpm)にて180秒予め混合し、次いで、添加水を5.5〜7.0%添加の下でドラムミキサー(12rpm)てに120秒攪拌造粒し、引続き1.1%の添加水(固定)でペレタイザー(18rpm)を使って120秒の造粒処理によって核粒子を製造した。その後、ドラムミキサーにて石灰石および/または生石灰を順流添加して60秒の造粒処理して中間層を形成してから、別のドラムミキサー(12rpm)にて粉コースを5mass%添加して粉コークス外殻層を形成し、焼結鉱試験を行った。
【0067】
なお、原料配合は表4に示すものを用いた。試験結果を表5に示す。表5中の比較例は、本発明の上記適正水分推定方法に従い、核粒子および石灰石、コークス粉を一括で混合造粒した内装形造粒例、発明例とは同方法での石灰、粉コークス外装造粒例を示しており、従来例は本発明の適正水分制御を行わなかった一括造粒例を示す。この表に示すとおり、従来例での造粒水分が8.1mass%であったが、本発明適用例では造粒焼成原料の水分は7.1mass%と低く抑えることができた。
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の造粒焼結原料の製造技術は、焼結原料以外の他の造粒物の適正造粒水分を推定するような場合においても、有効に用いられる。
【符号の説明】
【0071】
1 攪拌混合用ミキサー
2 ディスクペレタイザー
3 ドラムミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方吸引のドワイトロイド式焼結機を用いて高炉用焼結鉱を製造するために用いられる造粒焼結原料の製造に当たり、まず、返鉱を含む粗粒・微粉鉄鉱石およびSiO系副原料を、造粒に適した適正水分量の水を加えて混合・造粒して核粒子を製造し、次いで、その核粒子に対して水を加えることなく石灰石系副原料を加えて造粒することでその核粒子の表面に、石灰石系副原料からなる中間層を形成し、その後さらに、水を加えることなく固体還元剤を加えて造粒することで、該中間層を有する核粒子の表面に、固体還元剤からなる外殻層を形成することにより、鉄鉱石系原料からなる核粒子、石灰石系副原料からなる中間層および固体還元剤からなる外殻層との3層状構造からなる擬似粒子を造粒成形することを特徴とする造粒焼結原料の製造方法。
【請求項2】
前記石灰石系副原料は、前記造粒ミキサー内にその装入側から順流の向きに添加して造粒する一方、前記固体還元剤は造粒ミキサーの排出口側から向流の向きに添加して造粒することを特徴とする請求項1に記載の造粒焼結原料の製造方法。
【請求項3】
前記中間層ならびに外殻層形成のために用いられる造粒ミキサーは、装入物の滞留時間が120秒以下となるドラム長としたことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の焼結用原料の製造方法。
【請求項4】
前記外殻層形成用造粒ミキサー内への固体還元剤の添加に際しては、ミキサー内滞留時間が10〜60秒となるようにして造粒することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の焼結用原料の製造方法。
【請求項5】
前記石灰系副原料と固体還元剤とを除く、鉄鉱石、SiO系副原料を造粒して得られる前記核粒子に水分を添加してこれを混合造粒するに際しては、その水分添加に当たり、該焼結原料の吸収水分指数や粒度分布、化学組成、水との濡れ性を測定しすると共に、実機操業時における副原料配合率から擬似粒子を造粒するために必要な適正造粒水分濃度を推定し、その推定適正造粒水分濃度となるように、前記水分の添加量を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の焼結用原料の製造方法。
【請求項6】
前記推定適正造粒水分濃度[Wopt]は、鉄鉱石、SiO2系副原料に関する下記式により算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の焼結用原料の製造方法。
[Wopt]=(吸収水分)+(付着水分)+(補正項)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−126985(P2012−126985A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281514(P2010−281514)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】