説明

造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持し得るポリペプチドおよびそれをコードするDNA

造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する細胞と、支持しない細胞との間で、発現する遺伝子を比較することで単離された造血幹細胞または造血前駆細胞を支持する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。単離された遺伝子を発現するストローマ細胞または単離された遺伝子の発現産物を用いて造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存が支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持し得るポリペプチド、同ポリペプチドをコードするDNA、および、同ポリペプチドを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中の成熟血液細胞の寿命は短期間であり、絶えず造血前駆細胞の分化により成熟血液細胞が供給されることにより、血液の恒常性が保たれている。造血前駆細胞は、さらに未分化な造血幹細胞により生成する。造血幹細胞は、すべての分化系列に分化できる能力(分化多能性)を有しているとともに、分化多能性を保持したまま自己複製することで生涯にわたり、造血細胞を供給する。つまり、造血幹細胞は自己複製をすることで多能性幹細胞を生じるとともに、一部は造血前駆細胞を経て各種の成熟血液細胞に分化することが知られている。
【0003】
このような血液細胞の分化は、種々のサイトカインにより調節されている。エリスロポエチンは赤血球系の細胞の分化を促進し、G-CSFは好中球系の、トロンボポエチンは巨核
球、血小板産生細胞の分化を促進することが知られている。しかしながら、造血幹細胞が分化多能性を保持したまま自己複製するに際し、どのような因子が必要とされるかは分かっていない。造血幹細胞の増殖因子として、SCF/MGF(Williams, D. E., Cell, 63:167-174, 1990; Zsebo, K. M., Cell, 63:213-224, 1990)や、SCGF(WO98/08869)などいくつかの報告があるが、いずれも造血幹細胞の分化多能性を十分に維持する作用を有していない。また、既知のサイトカインを複数組み合わせて添加することにより造血幹細胞を培養する試みがなされているが、造血幹細胞を効率的に増幅させる系の確立はされていない(Miller CL, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94:13648-13653, 1997; Yagi M., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96: 8126-8131, 1999; Shih C. C. Blood, 94:5 1623-1636 1999)。
【0004】
一方、造血幹細胞の維持、増殖に適した環境を提供するストローマ細胞を利用して造血幹細胞を分化させずに維持、増殖させる試みがなされている(Moore K. A., Blood, 89:12 4337-4347 1997)。また、WO99/03980には、マウス胎児のAGM(Aorta-Gonad-Mesonephros)領域から樹立された、造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖または生存を支持し得るストローマ細胞株が開示されている。
【0005】
これまでの造血細胞に作用する因子に加え、ストローマ細胞とともに、あるいはサイトカインなどの刺激因子とともに、あるいは単独で、造血幹細胞、および造血前駆細胞を効率的に増幅させる効果を持つ新たなペプチドを見いだすことが可能であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ストローマ細胞と造血幹細胞および造血前駆細胞の共培養により、造血幹細胞および造血前駆細胞の生体外での増殖または生存を支持することが可能であることから、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する因子がストローマ細胞により生産されていることが予想される。本発明は、ストローマ細胞から、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する因子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前述の如く、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持す
る因子がマウス由来ストローマ細胞により生産されていることを予想した。そして、ストローマ細胞の中には、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する能力(以下、「造血幹細胞支持活性」ということがある)を持つストローマ細胞と造血幹細胞支持活性をもたないストローマ細胞が存在することに注目した。本発明者らは、このような能力の違いは、造血幹細胞支持活性を担う因子をコードする遺伝子の発現が造血幹細胞支持活性を持つストローマ細胞では亢進し、造血幹細胞支持活性を持たないストローマ細胞では低いことによると推測し、造血幹細胞支持活性を有する細胞において発現の高い遺伝子の中から造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する因子を同定することが可能であると考えた。その結果、造血幹細胞支持活性を有するAGM-s3-A9細胞で発現
が高く、造血幹細胞支持活性を有さないAGM-s3-A7細胞で発現が低い、あるいは発現して
いない遺伝子を同定し、これらの遺伝子群を強発現させた細胞の造血幹細胞支持活性がを評価することにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 以下の(A)または(B)のポリペプチドをコードするDNA。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【0009】
(2) 以下の(a)または(b)のDNAである(1)記載のDNA。
(a)配列番号47において塩基番号18〜746からなる塩基配列を少なくとも有するDNA。
(b)(a)に記載の塩基配列を有するDNAまたは同DNAから調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0010】
(3) 前記ストリンジェントな条件が、6×SSC、5×Denhardt、0.5% SDS、68℃(SSC;3M NaCl、0.3M クエン酸ナトリウム)(50×Denhardt;1% BSA、1% ポリビニルピロリド
ン、1% Ficoll 400)または6×SSC、5×Denhardt、0.5% SDS、50% ホルムアミド、42℃である(2)記載のDNA。
【0011】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載のDNAを発現可能な形態で含む発現ベクター。
【0012】
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載のDNAが発現可能な形態で導入された細胞。
【0013】
(6) (1)〜(3)のいずれかに記載のDNAの発現産物であり、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【0014】
(7) 配列番号48のアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有する(6)記載のポリペプチド。
【0015】
(8) ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリ(N-ビニル−ピロリドン)、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキ
シドのコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコールのいずれか、またはそれらの2種以上の組合わせによって修飾された(6)または(7)に記載のポリペプチド。
【0016】
(9) (6)〜(8)のいずれかに記載のポリペプチドに結合するモノクローナル抗体。
【0017】
(10) 以下の(A)または(B)のポリペプチドをコードするDNAが発現したストローマ細胞を造血幹細胞または造血前駆細胞と共培養することを含む、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する方法。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【0018】
(11) DNAが以下の(a)または(b)のDNAである(10)記載の方法。
(a)配列番号47において塩基番号18〜746からなる塩基配列を少なくとも有するDNA。
(b)(a)に記載の塩基配列を有するDNAまたは同DNAから調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0019】
(12) 以下の(A)または(B)のポリペプチドであって、その存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養したときに造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を示すポリペプチドの存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養することを含む、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する方法。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【0020】
(13) 以下の(A)または(B)のポリペプチドであって、その存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養したときに、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を示すポリペプチドを有効成分として含む、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持し得る医薬組成物。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【0021】
本明細書において用いる用語につき、以下の通り定義する。
造血幹細胞とは、血球の全ての分化系列に分化し得る多分化能を有する細胞であり、かつ、その多分化能を維持したまま自己複製することが可能な細胞である。造血前駆細胞とは、単一の血液細胞分化系列あるいは、全てではない複数の分化系列に分化できる細胞を称する。ストローマ細胞とは、生体内の造血環境を模してインビトロで造血環境を再現させようとするときに使用できる造血幹細胞と共培養に供すことが可能な細胞を指す。インビトロで造血細胞と共培養できる細胞であればその由来を問わない。
【0022】
赤血球前駆細胞は、インビトロの培養環境で維持増幅させることは困難であり急速に消失してしまう。赤血球前駆細胞の維持、増殖が確認される場合は、より未分化な造血幹細胞あるいは造血前駆細胞が維持、増殖されることで、赤血球前駆細胞が継続的に産生されていることと考えられる。従い、ヒト造血幹細胞の評価系では、赤血球前駆細胞(BFU-E
、CFU-E、CFU-Emix)が維持、増殖されているかを指標とすることで造血幹細胞あるいは
未分化な造血前駆細胞が増殖していることを確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
造血幹細胞支持活性を有するAGM-s3-A9細胞で発現が高く、造血幹細胞支持活性を有さ
ないAGM-s3-A7細胞で発現が低い、あるいは発現していない遺伝子として同定され、それ
を強発現させた細胞において造血幹細胞支持活性が増強または付与されたことが確認された遺伝子は以下のものである。なお、遺伝子の番号は便宜のために本発明者らにより付与されたものである。
【0024】
遺伝子SCR-2
GenBank登録番号AF185613のマウス遺伝子Mus musculus glypican-1 (GPC-1) と同一の
遺伝子である。
【0025】
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号8に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号9に示す。
【0026】
GPC-1のヒトアミノ酸配列はGenBank登録番号P35052に、ヒト塩基配列はGenBank登録番
号AX020122で登録されている。ヒトの遺伝子でも同様の活性が検出されると考えてよい。
【0027】
ヒト由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号10に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号11に示す。
【0028】
グリピカンは、細胞表面に存在する主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、システインに富む球状領域(cysteine rich globular domain)、短いグリコサミノグリカン
結合領域、グリコシルフォスファチジルイノシトール膜結合領域の特徴的な構造を有している。これまでにグリピカン-1からグリピカン-6までの6種類のファミリー遺伝子が発見されている。(J Biol Chem 1999 Sep 17;274(38):26968-77、Glypican-6, a new member
of the glypican family of cell surface heparan sulfate proteoglycans. Veugelers
M, De Cat B, Ceulemans H, Bruystens AM, Coomans C, Durr J, Vermeesch J, Marynen
P, David G)
【0029】
GPC-1の生物学活性については、種々の報告がなされている。ヘパリン結合性の成長因
子(fibroblast growth factor 2 (FGF2) 、heparin-binding EGF-like growth factor (HB-EGF))の増殖刺激活性を調節し、これらの増殖因子の刺激によるオートクライン増殖
するガン細胞の増殖を促進する。(J Clin Invest 1998 Nov 1;102(9):1662-73、The cell-surface heparan sulfate proteoglycan glypican-1 regulates growth factor action
in pancreatic carcinoma cells and is overexpressed in human pancreatic cancer.
、Kleeff J, Ishiwata T, Kumbasar A, Friess H, Buchler MW, Lander AD, Korc M)。HGF(hepatocyte groth factor)と結合し、抗原特異的なB細胞のサイトカインに対する
反応性を促進する。細胞と接着分子との会合に関与し細胞の浸潤性に関与する(J Biol Chem 1998 Aug 28;273(35):22825-32、Heparan sulfate proteoglycans as adhesive and anti-invasive molecules. Syndecans and glypican have distinct functions.、Liu W,
Litwack ED, Stanley MJ, Langford JK, Lander AD, Sanderson RD)。これらの知見は
、GPC-1が種々の細胞刺激因子の活性発現に関与することを示している。また、グリピカ
ンファミリー遺伝子の骨髄での発現を確認した報告もある( Biochem J 1999 Nov 1;343 Pt 3:663-8、Expression of proteoglycan core proteins in human bone marrow stroma.、Schofield KP, Gallagher JT, David G)。しかし、これらの報告では、造血幹細胞あるいは造血前駆細胞へのGPC-1の作用について記載されていない。
【0030】
遺伝子SCR-3
GenBank登録番号U15209、Mus musculus chemokine MMRP2 mRNA,、U19482、Mus musculus C10-like chemokine mRNA、U49513、Mouse macrophage inflammatory protein-1gamma mRNAのマウス遺伝子と同一の遺伝子である。
【0031】
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号12に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号13に示す。
【0032】
遺伝子SCR-4
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号14に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号15に示す。
【0033】
この配列は、GenBank登録番号AF131820 Homo sapiens clone 25077 mRNA、sequenceと
高い相同性が確認され、AF131820のマウスオーソログと判断される。また、この配列はWO
00/66784に記載されている。
【0034】
ヒト由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号16に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号17に示す。
【0035】
遺伝子SCR-5
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号18に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号19に示す。
【0036】
この配列は、GenBank登録番号AF325503 Homo sapiens esophageal cancer related gene 4 protein (ECRG4) mRNAと高い相同性が確認され、AF325503のマウスオーソログと判断される。
【0037】
ヒト由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号20に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号21に示す。
【0038】
遺伝子SCR-6
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号22に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号23に示す。
【0039】
ヒト由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号47に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号48に示す。
【0040】
遺伝子SCR-7
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号24に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号25に示す。
【0041】
遺伝子SCR-8
GenBank登録番号AB009673 Mus musculus mRNA for ADAM23、と同一の遺伝子である。
【0042】
マウス由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号26に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号27に示す。
【0043】
この配列は、特開平11-155574に記載された配列と高い相同性を示し、従って、特開平11-155574に記載の配列はヒトオーソログ遺伝子と判断される。
【0044】
ヒト由来のものの塩基配列及びその塩基配列から推測されるアミノ酸配列を配列番号2
8に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号29に示す。
【0045】
これらの遺伝子の産物であるポリペプチドは、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有する。造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するとは、そのポリペプチドの存在下で、または、そのポリペプチドを発現するストローマ細胞の存在下で、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存が支持されることをいう。
【0046】
従って、本発明は、上記ポリペプチド及びそれをコードするDNAの用途、及び、そのうちの新規なポリペプチド及びそれをコードするDNAを提供するものである。
【0047】
上記のDNAによりコードされるポリペプチドである幹細胞増殖支持因子は、前記DNAを適当な宿主細胞に導入して形質転換細胞を調製し、該形質転換細胞中で前記DNAを発現させることによって製造することができる。
【0048】
上記のDNAは、コードされる幹細胞増殖支持因子の活性が損なわれない限り、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入された同因子をコードするものであってもよい。このような幹細胞増殖支持因子と実質的に同一のポリペプチドをコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆位を含むように塩基配列を改変することによって得られる。
【0049】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の造血幹細胞支持活性を調べることにより、幹細胞増殖支持因子と実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードするDNAが得られる。また、変異を有する幹細胞増殖支持因子をコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば配列番号8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28もしくは47記載の塩基配列(ORFの部分)を有するDNA、またはこれらのDNAから調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、造血幹細胞支持活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、幹細胞増殖支持因子と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。プローブの長さは通常には300〜1000塩基である。ストリンジェントな条件としては、例えば、70%以上、好ましくは80%以上の相同性(DNASIS version 3.7(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)のcompare機能のhomology searchを用いて特定することができる)を有するDNAがハイブリダイズし、それよりも相同性の低いDNA同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。前記ストリンジェントな条件としては、6×SSC、5×Denhardt、0.5% SDS、68℃(SSC;3M NaCl、0.3M クエン酸ナトリウム)(50×Denhardt;1% BSA、1% ポリビニルピロリドン、1% Ficoll 400)または6
×SSC、5×Denhardt、0.5% SDS、50% ホルムアミド、42℃などが挙げられる。
【0050】
上記のDNAを発現させるための宿主としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、酵母等の微生物、動物または植物由来の培養細胞等が用いられる。宿主としては、哺乳動物由来の培養細胞が好ましい。尚、原核細胞を宿主とする場合は、シグナルペプチド部位を、β−ラクタマーゼ(bla)、アルカリフォスファターゼ(phoA)、外膜タンパ
ク質A(ompA)等の原核細胞に適したリーダー配列に置換するか、成熟型タンパク質のN末端部位にメチオニン残基を付加した状態で発現させると良い。
【0051】
上記のDNAの宿主細胞への導入は、例えば、宿主に対応したベクターに、上記のDNAを発現可能な形態で組み込み、得られる組換えベクターを宿主細胞に導入することによって行うことができる。
【0052】
哺乳動物由来の培養細胞としては、CHO細胞、293細胞、COS7細胞等が挙げられる。上記
のDNAを発現させるためのプロモーターなどの発現調節配列は、上記遺伝子固有のものであっても、他の遺伝子由来のもの、例えばサイトメガロウイルスプロモーター、エロンゲーションファクター1プロモーター等であってもよい。
【0053】
また、動物培養細胞用のベクターとしては、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター(Neering, S.J., Blood, 88:1147, 1996)、ヘルペスウ
イルスベクター(Dilloo, D., Blood, 89:119, 1997)、HIVベクターなどが挙げられる。
【0054】
組換えベクターを培養細胞に導入するには、培養細胞の形質転換に通常用いられている方法、例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法等が用いられる。
【0055】
本発明のポリペプチドには、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、または、配列番号48に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドに加えて、このアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞支持活性を有するポリペプチドも含まれる。すなわち、マウスおよびヒト由来の幹細胞増殖支持因子にアミノ酸が置換、欠失または挿入等の改変を加えたものであっても、幹細胞増殖支持因子の本質的な機能を保持するものは、幹細胞増殖支持因子と実質的に同等なものとみなすことができる。
【0056】
このような修飾された幹細胞増殖支持因子は、幹細胞増殖支持因子をコードするDNAまたは該DNAを保持する宿主を変異剤で処理するか、または該DNAに部位特異的変異法によって特定の部位のアミノ酸が置換、欠失または挿入されるように変異を導入することによって、取得することができる。得られた変異ポリペプチドが、造血幹細胞支持活性を保持することは、後記実施例に示すように、変異型ポリペプチドの存在下で培養した造血幹細胞を、放射線照射したマウスへ移植し、移植後の末梢血液像を経時的に調べることによって、確認することができる。
【0057】
また、アミノ酸の欠失については、N末端および/またはC末端のアミノ酸配列を欠失したフラグメントであってもよい。N末端および/またはC末端のアミノ酸配列を欠失したフラグメントは通常の方法により得ることができ、フラグメントが、造血幹細胞支持活性を保持することは、変異ポリペプチドについて説明したのと同様にして確認することができる。特に、アミノ酸配列にシグナル配列や膜貫通領域と予測される部分がある場合には、それを指標にして造血幹細胞支持活性を有するフラグメントを予測できる。例えば、ヒトSCR-8のコードするタンパク質は、タイプIの1回膜貫通型のタンパク質であり、膜
貫通領域を欠失した可溶性タンパク質であっても造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有することが予測される。膜貫通領域は、アミノ酸配列に基づいて公知のプログラムにより予測できる。例えば、PSORT IIと呼ばれるプログラム(インターネットにより入手可能、URL: http://psort.nibb.ac.jp/index.html)により予測し
た場合、膜貫通領域は配列番号29において790〜806位のアミノ酸であり、789位までのフラグメントでも造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有することが予測される。
【0058】
上記DNAは、本発明によってそれらの塩基配列が明らかにされたので、それらの配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRによって、または該配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーションによって、マウスまたはヒトのcDNAライブラリーもしくは染色体DNAライブラリーから、単離することによっても取得することができる。
【0059】
本発明のDNAは、本発明を完成するに際しては、後述するように、造血幹細胞支持活性を有するマウスストローマ細胞株であるAGM-s3-A9細胞のcDNAライブラリーから、SBH法(Sequencing By Hibridization)(Drmanac, S., Nat. Biotechnol., 16. 54, 1998; Drmanac, R., Methods. Enzymol., 303, 165, 1999)によって単離した。造血幹細胞支持活性を有するマウスストローマ細胞株は、WO99/03980号記載の方法によって、あるいは理化学研究所細胞開発銀行またはATCCより取得することができる。
【0060】
以下に、SBH法の概要について述べる。配列の異なる8または9塩基よりなるプローブ
を準備する。標的遺伝子の中にプローブと一致する配列が存在すれば、そのプローブは遺伝子とハイブリダイズすることができる。ハイブリダイズしたことはプローブをRIあるいは蛍光色素でラベルしておくことで、容易に確認できる。ライブラリーのクローンを一つずつピックアップしてメンブランにブロットする。そして、上記のプローブと繰り返しハイブリダイゼーションを行い、各クローンがどのプローブとハイブリダイズしたかを検出する。遺伝子ごとにハイブリダイズするプローブの組み合わせは決まっているので、同一の遺伝子にハイブリダイズするプローブの組み合わせは一定である。すなわち、ハイブリダイズするプローブの組み合わせから同一の遺伝子を一つのグループ(クラスター)として同定することができる。cDNAライブラリーの個々のクローンを、ハイブリダイズするプローブのパターンにより分類、計数することにより、個々の遺伝子のクローンがライブラリー中に何個含まれるか知ることができる。このようにして、各遺伝子のライブラリー中の発現頻度を同定することが可能である。
【0061】
cDNAライブラリーは造血幹細胞支持活性を有する細胞、および同活性を有しない細胞から作製する。クラスタリングはこのcDNAライブラリーに対して行う。各細胞間での遺伝子発現状況を比較し、支持細胞で特異的に発現が亢進している遺伝子を選択する。これらの遺伝子についてさらに、前述の各細胞での発現状況を、ノーザンブロット解析によりさらに検討し、造血幹細胞支持活性を有する細胞に発現が高い遺伝子を取得する。
【0062】
上記の遺伝子は、上記の過程を経て取得された支持細胞に特異的に発現が高い遺伝子である。AGM-s3-A9細胞由来cDNAライブラリーより、全長遺伝子をクローン化した。
【0063】
さらに、遺伝子産物の造血支持能について評価するため遺伝子のORFを含む遺伝子断片
をストローマ細胞にレトロウィルスベクターを用いて遺伝子導入し、同細胞の造血幹細胞造支持活性の変化を検討した。実際には、遺伝子を導入していないストローマ細胞またはコントロールベクターを導入したストローマ細胞と遺伝子を導入したストローマ細胞のそれぞれと、マウス造血幹細胞を共培養したのち、放射線照射マウスに造血細胞を移植した。移植したマウスでの共培養した造血細胞の生着について検討した。その結果、遺伝子を導入した細胞で共培養した造血幹細胞を移植したマウスでは、遺伝子を導入していない細胞と比較して、移植後のキメリズムが上昇していた。この結果は、遺伝子を発現させたストローマ細胞では、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を支持する活性が増強されたまたは付与されたことを示す。この結果から、上記の遺伝子の発現は、ストローマ細胞において上記活性を増強または付与する作用を持つことが明らかとなった。したがい、上記の遺伝子の産物は造血幹細胞または造血前駆細胞に作用し、その生存あるいは増殖を支持する活性を有する、あるいは、ストローマ細胞に作用し造血幹細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかになった。
【0064】
本発明のポリペプチドは、造血幹細胞または造血前駆細胞に作用し、その生存あるいは増殖を支持する活性を有するものである場合、すなわち、その存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養したときに造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を示す場合には、ヒト造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または支持のための医薬として用いることができる。当該医薬組成物は、ヒトの造血幹細胞または造血前駆細胞
の生体外での増殖または生存の支持に利用することができる。末梢血幹細胞移植、臍帯血幹細胞移植などの造血幹細胞移植療法では、移植する造血幹細胞数が十分量取得できず移植が実施できないときがある。十分量の幹細胞が取得できない場合でも、該ポリペプチドを利用することで造血幹細胞数を試験管内で増幅し、必要量の造血幹細胞を取得し移植することが可能である。すなわち、該ポリペプチドを培養液に含む様な培地で造血幹細胞を培養することで、造血幹細胞を分化させずに増幅することが可能である。その際に、種々のサイトカインを添加し、造血幹細胞をより効率的に増幅することも可能と考えられる。
【0065】
本発明のポリペプチドを含む培地で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養する際、用いる造血幹細胞または造血前駆細胞は、これらのいずれか一方が単離されたものであってもよく、これらの両方であってもよい。また、造血幹細胞または造血前駆細胞の少なくとも一方を含み、さらに他の造血細胞を含むのであってもよい。さらには、造血幹細胞または造血前駆細胞を含む細胞群から分画された造血幹細胞または造血前駆細胞を含む分画であってもよい。
【0066】
本発明の方法における造血幹細胞および造血前駆細胞の採取源としては、ヒトおよびマウス等の哺乳動物の胎児肝臓、骨髄、胎児骨髄、末梢血、サイトカインおよび/または抗癌剤の投与によって幹細胞を動員した末梢血、および臍帯血等が挙げられる。造血幹細胞を含む組織であればいずれであってもよい。
【0067】
造血幹細胞または造血前駆細胞を培養するにあたっては、いわゆる培養用のシャーレ、フラスコを用いた培養法が可能である。造血幹細胞または造血前駆細胞の培養は、培地組成、pHなどを機械的に制御し、高密度での培養が可能なバイオリアクターによって改善することもできる(Schwartz, Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,88:6760,1991; Koller, M.R., Bio/Technology, 11:358, 1993; Koller, M.R.,Blood, 82: 378, 1993; Palsson, B.O., Bio/Technology, 11:368, 1993)。
【0068】
本発明のポリペプチドをコードするDNAを発現するストローマ細胞は、DNAの発現に関して記載したようにして得ることができる。
【0069】
ストローマ細胞と造血細胞の共培養は、骨髄を採取したのち、そのまま培養を行うことで可能である。また、骨髄を採取した上で、ストローマ細胞、造血細胞、その他の細胞群などを分離し、骨髄を採取した個人以外のストローマ細胞、造血細胞の組み合わせで共培養を実施することも可能である。また、ストローマ細胞のみを培養し増殖させた後に造血細胞を添加し共培養を実施することも可能である。その際に、ストローマ細胞を、細胞刺激因子を培養系に添加することによって、より有効に増殖、生存を支持することができる。このような細胞刺激因子として、具体的には、SCF(幹細胞因子)、IL-3(インターロイキン-3)、GM-CSF(顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(granulocyte/macrophage colony-stimulating factor))、IL-6(インターロイキン-6)、TPO(トロンボポ
エチン)、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor))、TGF-b(トランスフォーミング成長因子-b)、MIP-1a(Davatelis, G., J. Exp. Med.
167:1939, 1988)、などのサイトカインに代表される増殖因子、EPO(エリスロポエチン)のような造血ホルモン、ケモカイン、Wnt遺伝子産物、ノッチリガンドのような分化増
殖調節因子、発生調節因子などがあげられる。
【0070】
また、本発明のポリペプチドが、造血幹細胞または造血前駆細胞に作用し、その生存あるいは増殖を支持する活性を有するものである場合、すなわち、その存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養したときに造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を示す場合には、ストローマ細胞の非存在下で本発明のポリペプチドの組換え体を単独で、あるいは細胞刺激因子の存在下に造血幹細胞または造血前駆細胞に作用さ
せることで、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を維持することが可能である。この際使用される細胞刺激因子としては、上記に記載してある細胞刺激因子などが挙げられる。
【0071】
培養に用いる培地としては、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存が害されない限り特に制限されない。例えばMEM-α培地(GIBCO BRL)、SF-02培地(三光純薬)、Opti-MEM培地(GIBCO BRL)、IMDM培地(GIBCO BRL)、PRMI1640培地(GIBCO BRL)、が好ま
しいものとして挙げられる。培養温度は、通常25〜39℃、好ましくは33〜39℃である。また、培地に添加する物質としては、ウシ胎児血清、ヒト血清、ウマ血清、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2−メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸が挙げられる。COは、通常、4〜6%であり、5%が好ましい。
【0072】
造血幹細胞は、全ての造血系の分化系列へ分化が可能なので、試験管内で造血幹細胞を増幅後種々の細胞種に分化させ移植することが可能である。例えば、赤血球が必要であれば、患者の幹細胞を培養し増幅した後、EPOなどの赤血球分化誘導を促進する因子を利用
して赤血球を主成分とする造血細胞を人為的に産生することが可能である。
【0073】
本発明のポリペプチドを用いて培養された造血幹細胞または造血前駆細胞は、従来の骨髄移植や臍帯血移植に代わる血液細胞移植用の移植片として用いることができる。造血幹細胞の移植は、移植片が半永久的に生着させられることから、従来の血液細胞移植治療を改善することができる。
【0074】
造血幹細胞の移植は、白血病に対する全身X線療法や高度化学療法を行う際に、これらの治療と組み合わせる他、種々の疾患に用いることができる。例えば、固形癌患者の化学療法、放射線療法等の骨髄抑制が副作用として生じる治療を実施する際に、施術前に骨髄を採取しておき、造血幹細胞、造血前駆細胞を試験管内で増幅し、施術後に患者に戻すことで、副作用による造血系の障害から早期に回復させることができ、より強力な化学療法を行えるようになり、化学療法の治療効果を改善する事ができる。また、本発明により得られる造血幹細胞ならびに造血前駆細胞を各種血液細胞に分化させ、それらを患者の体内に移入することにより、各種血液細胞の低形成により不全な状況を呈している患者の改善を図ることができる。また、再生不良性貧血などの貧血を呈する骨髄低形成に起因する造血不全症を改善することができる。その他、本発明の方法による造血幹細胞の移植が有効な疾患としては、慢性肉芽腫症、重複免疫不全症候群、無ガンマグロブリン血症、Wiskott-Aldrich症候群、後天性免疫不全症候群(AIDS)等の免疫不全症候群、サラセミア、酵
素欠損による溶血性貧血、鎌状赤血球症等の先天性貧血、Gaucher病、ムコ多糖症等のリ
ソゾーム蓄積症、副腎白質変性症、各種の癌または腫瘍等が挙げられる。
【0075】
造血幹細胞の移植は、用いる細胞以外は、従来行われている骨髄移植や臍帯血移植と同様に行えばよい。
【0076】
上記のような造血幹細胞移植に用いられる可能性のある造血幹細胞の由来は、骨髄に限られず、前述したような胎児肝臓、胎児骨髄、末梢血、サイトカインおよび/または抗癌剤の投与によって幹細胞を動員した末梢血、および臍帯血等を用いることができる。
【0077】
移植片は、本発明の方法によって産生した造血幹細胞および造血前駆細胞の他に、緩衝液等を含む組成物としてもよい。
【0078】
また、本発明により産生される造血幹細胞または造血前駆細胞は、ex vivoの遺伝子治
療に用いることができる。造血幹細胞に対する遺伝子治療は、幹細胞が静止期にあり染色体との組換え率が低いこと、また、培養中に幹細胞が分化してしまうこと等から困難であったが、本発明を利用することによって、幹細胞を分化させずに増幅でき、遺伝子導入効率に大幅な改善が見込める。この遺伝子治療は、造血幹細胞または造血前駆細胞に外来遺伝子(治療用遺伝子)を導入し、得られる遺伝子導入細胞を用いて行われる。導入される外来遺伝子は、疾患によって適宜選択される。血液細胞を標的細胞とする遺伝子治療の対象となる疾患としては、慢性肉芽腫症、重複免疫不全症候群、無ガンマグロブリン血症、Wiskott-Aldrich症候群、後天性免疫不全症候群(AIDS)等の免疫不全症候群、サラセミ
ア、酵素欠損による溶血性貧血、鎌状赤血球症等の先天性貧血、Gaucher病、ムコ多糖症
等のリソゾーム蓄積症、副腎白質変性症、各種の癌または腫瘍等が挙げられる。
【0079】
造血幹細胞または造血前駆細胞に治療用遺伝子を導入するには、通常動物細胞の遺伝子導入に用いられる方法、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス等のレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、単純ヘルペスウ
イルスベクター、HIVベクター等のウイルス由来の遺伝子治療に用いられる動物細胞用ベ
クター(遺伝子治療用ベクターについては、Verma, I.M., Nature, 389:239, 1997 参照
)を用いる方法、リン酸カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーシ
ョン法、リポソーム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等を用いることができる。これらの中では、標的細胞の染色体DNAに組み込まれて恒久的に遺伝子の発
現が期待できるという点から、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはHIVベクターが好ましい。
【0080】
例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、次のようにして作製することができ
る。まず、野生型アデノ随伴ウイルスDNAの両端のITR(inverted terminal repeat)の間に治療用遺伝子を挿入したベクタープラスミドと、ウイルスタンパク質を補うためのヘルパープラスミドを293細胞にトランスフェクションする。続いてヘルパーウイルスのアデ
ノウイルスを感染させると、AAVベクターを含むウイルス粒子が産生される。あるいは、
アデノウイルスの代わりに、ヘルパー機能を担うアデノウイルス遺伝子を発現するプラスミドをトランスフェクションしてもよい。次に、得られるウイルス粒子を造血幹細胞または造血前駆細胞に感染させる。ベクターDNA中において、目的遺伝子の上流には、適当な
プロモーター、エンハンサー、インシュレーター等を挿入し、これらによって遺伝子の発現を調節することが好ましい。さらに、治療用遺伝子に加えて薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を用いると、治療用遺伝子が導入された細胞の選択が容易となる。治療用遺伝子は、センス遺伝子であってもアンチセンス遺伝子であってもよい。
【0081】
遺伝子治療用組成物は、本発明の方法によって産生された造血幹細胞および造血前駆細胞の他に、緩衝液、新規の活性物質等を含む組成物としてもよい。
【0082】
また、本発明のDNAを常法により発現ベクターに組み込み、遺伝子治療用のベクターを製造することができる。当該遺伝子治療用ベクターは、ヒトの造血幹細胞の維持・増殖を必要とする疾病の治療に有用である。すなわち、造血幹細胞に当遺伝子治療ベクターを導入し、in vitroで培養することで造血幹細胞、造血前駆細胞を優位に増殖させることが可能となる。このように処理した造血幹細胞を体内に戻すことで、体内で造血幹細胞を増殖させることが可能になる。また、当遺伝子治療ベクターを体内に移入することで体内での造血幹細胞の増殖を促進することが可能になる。あるいは、患者から取得した骨髄細胞をそのまま培養し当遺伝子治療ベクターを移入することで培養系の中で造血幹細胞、前駆細胞を増殖させることが可能になる。あるいは、骨髄よりストローマ細胞を分離培養し得られるストローマ細胞、間質幹細胞(mesenchymal stem cell)に当遺伝子治療ベクター
を移入することで、造血幹細胞支持能を付与または上昇させることが可能である。
【0083】
また、実施例に示すとおり造血幹細胞支持能のないストローマ細胞に本発明のDNAを導入することにより造血幹細胞支持能を付与することが可能になることから、ヒトあるいはマウス由来のストローマ細胞に遺伝子移入することで造血幹細胞支持能を有するストローマ細胞を作製することができる。本発明のDNAを発現するストローマ細胞と造血幹細胞あるいは造血前駆細胞を共培養することで造血幹細胞あるいは造血前駆細胞を維持、増殖させ種々の治療に役立てることが可能である。
【0084】
本発明のDNAがストローマ細胞に発現されることで、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存が維持されることから、本発明のDNAの発現を指標にしてストローマ細胞の造血幹細胞支持能を評価することが可能である。その方法としては、本発明のDNAによりコードされるポリペプチドに対する抗体を用いてストローマ細胞での発現を確認することが可能である。また、塩基配列からPCRプライマーを作製し、目的ストローマ細胞からRNAを調製し、RT-PCRを実施することで本発明のDNAの発現を確認することも可能
である。上記抗体については後述する。
【0085】
また、本発明の医薬組成物は、ヒトに投与することもできる。本発明のポリペプチドを医療上許容される希釈剤、安定化剤、担体および/またはその他の添加物と混合することにより、ヒトの造血幹細胞または造血前駆細胞に対する増殖または支持作用を有する医薬組成物を製造することができる。その際、本発明のポリペプチドは、タンパク質の生体内での安定性を高める修飾剤によって修飾されていてもよい。このような修飾剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリ(N-ビニル−ピロリドン)、ポリ
プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドのコポ
リマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。PEGに
よるタンパク質の修飾は、例えば、PEGの活性エステル誘導体とタンパク質を反応させる
方法、あるいは、PEGの末端アルデヒド誘導体とタンパク質とを還元剤の存在下で反応さ
せる方法等によって行うことができる。このようなタンパク質の修飾については、特表平10-510980号に詳細に開示されている。
【0086】
本発明の医薬組成物をヒトに投与することによって、抗癌剤の副作用による造血抑制からの回復、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植時の造血細胞の早期回復、再生不良性貧血(AA)、骨髄異形成症候群(MDS)などの汎血球減少症の造血機能回復が期待できる

【0087】
本発明の抗体は、上記本発明のポリペプチドと特異的に反応する。本発明の抗体は、該ポリペプチドと特異的に反応し得るものであればモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。
【0088】
本発明の抗体は、常法に従って調製することができ、例えば、アジュバントとともに抗原で動物を一回あるいは数週間をはさんで複数回追加免疫する生体内(in vivo)の方法、
免疫細胞を分離して適当な培養系で感作させる生体外(in vitro)の方法のいずれかの方法によって調製し得る。本発明の抗体を産生し得る免疫細胞としては、例えば脾細胞、扁桃腺細胞、リンパ節細胞などがあげられる。
【0089】
抗原として使用するポリペプチドは、必ずしも上記の本発明のポリペプチド全体を使用する必要はなく、該ポリペプチドの一部分を抗原として使用してもよい。抗原が短いペプチド、特にアミノ酸20残基前後の場合は、キーホールリンペットヘモシアニンや牛血清アルブミンのような抗原性の高いキャリアタンパク質と化学修飾などによって結合させて用いるか、あるいは、キャリアタンパク質のかわりに分枝骨格を持つペプチド、例えばリジンコア MAPペプチド(Posnett et al.,J.Biol.Chem.263,1719-1725,1988; Lu et al.,Mol.Immunol.28,623-630,1991; Briand et al.,J.Immunol.Methods 156,255-
265,1992 )と共有結合させて用いる。
【0090】
アジュバントは、例えば、フロイントの完全、または不完全アジュバントや水酸化アルミニウムゲルなどが用いられる。抗原を投与する動物としては例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ウシ、ウマ、モルモット、ハムスターなどが用いられる。ポリクローナル抗体はこれらの動物から血液を採取して血清を分離し、硫安沈澱および陰イオン交換クロマトグラフィーまたはプロテインAまたはGクロマトグラフィーで免疫グロブリンを精製して得られる。
【0091】
ニワトリの場合、卵より抗体を精製することもできる。モノクローナル抗体は、例えばin vitroで感作した、あるいは上記動物の免疫細胞を培養可能な親細胞と融合させて作製したハイブリドーマ(hybridoma)細胞の培養上清から、もしくは同ハイブリドーマ細胞
を動物腹腔内接種して得られる腹水から精製して調製することができる。親細胞としては、例えばX63、NS-1、P3U1、X63.653、SP2/0、Y3、SKO-007、GM1500、UC729-6、HM2.0、NP4-1細胞などがあげられる。また、in vitroで感作した、あるいは上記動物の免疫細胞にEBウイルスなどの適当なウイルスを感染させ、得られる不死化抗体産生細胞を培養することにより調製することもできる。
【0092】
これら細胞工学的手法とは別に、in vitroで感作した、あるいは上記動物の免疫細胞から抗体遺伝子をPCR(polymerase chain reaction)反応によって増幅して取り出し、大腸菌等の微生物に導入して抗体を産生させたり、抗体を融合タンパク質としてファージ表面に発現させたりするなど、遺伝子工学的手法により得ることもできる。
【0093】
本発明の抗体を用いて、生体におけるポリペプチドを定量する事により、ポリペプチドの各種疾患の病態との係わりを解明する事が出来、さらに同抗体は疾患の診断ひいては治療、且つポリペプチドの効率的なアフィニティー精製に資する事が出来る。
【0094】
本発明により、造血幹細胞または造血前駆細胞に作用し、その生存あるいは増殖を支持する活性を有する、あるいは、ストローマ細胞に作用し造血幹細胞支持活性を付与する活性を有するポリペプチド、およびそれをコードするDNAが提供される。本発明のポリペプチドを用いることにより、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を効率的に維持することが可能になる。
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0096】
造血幹細胞支持細胞に特異的に発現する遺伝子の断片の取得
(I)マウスAGM由来ストローマ細胞株の取得
(1)マウス胎児のAGM領域の分離
C3H/HeNSLcマウス(日本エスエルシー株式会社より購入)の雌雄をSPF(specific pathogen-free)の環境のもとで飼育した。1ないし2匹の雌を1匹の雄と一晩、同じケージにいれ、翌朝、膣栓の存在が確認された雌マウスを新しいケージに移して飼育した。膣栓の確認された日を懐胎0.5日とした。懐胎10.5日目のマウスを頚椎脱臼により死に至らしめた後、胎児を摘出した。AGMの分離は、Godin等(Godin, I., Proc. Natl. Aacd. Sci. U.S.A., 92:773-777, 1995)、 Medvinsky等(Medvinsky, A.L., Blood, 87:557-565,1996)の方法に準拠して実施した。胎児が浸る程度にPBS(−)(リン酸緩衝生理食塩水)(日水製薬製)を入れた培養皿に胎児を入れ、実体顕微鏡下で、AGM領域を他の領域を含まないように慎重に切除し、新たな24ウェルの培養皿(Nunc社)に移した。
【0097】
(2)AGM由来細胞株の樹立
24ウェルの培養皿(Nunc社)に移したAGM領域に、10% FCS(Hyclone社)を含むMEM培地(Sigma社)を一滴加え、一晩、培養器中で培養した。培養は、10% FCS(Hyclone社)を含むMEM培地(Sigma社)、37℃、5% CO、湿度100%の条件下で行った。一晩の培養で、AGM領域の細胞が培養皿に付着したところで、さらに、2mlの10% FCSを含むMEM培地を添加した。その後、培養を継続することにより、AGM領域組織片の周辺には次第にス
トローマ細胞が出現した。さらに1週間培養を継続した後、接着細胞をトリプシン処理(0.05% トリプシン, 0.53mM EDTA(Gibco BRL社)を含むPBS中、37℃、3〜5分)によって
剥がした後、培地で2回洗浄し、6ウェル培養皿(Nunc社)に播種した。翌日、培養皿に付着しなかった細胞を培地とともに除去し、新たに新鮮な培地を添加した。6ウェル培養皿に移してから2週間後に、内在する造血細胞を除去するため900 Radのγ線を照射した
。この培養系から限界希釈法で直接細胞のクローニングを行ったが、細胞の増殖は認められず、クローニングすることはできなかった。そこで、一つのウェルに播種する細胞数を増やし、少ない細胞からの増殖に耐えられるように細胞を馴化してから限界希釈法によるクローニングを実施することとした。
【0098】
すなわち、上記と同様にして、AGMを摘出して培養を行い、γ線を照射してから2週間になる培養系をトリプシン処理(0.05% トリプシン, 0.53mM EDTAを含むPBS中、37℃、3〜5分)して細胞を懸濁し、50〜100細胞/ウェルとなるように24-ウェル培養皿に播種した。3週間培養を継続した後、限界希釈法により、0.3細胞/ウェルとなるように96ウェル培養皿(Nunc社)に細胞を播種し、一個の細胞のみが播種されているウェルから増殖してきた細胞を拡大培養した。その結果、線維芽細胞様の細胞と、敷石状の細胞が得られ、クローニングに成功した。
【0099】
ヒト臍帯血由来CD34陽性細胞分画を、線維芽細胞様の細胞と二週間共培養し、培養系中のコロニー形成細胞の有無について検討したところ、線維芽細胞様の細胞との共培養系中にはコロニー形成細胞が認められなかった。そこで、敷石状の形態を示す細胞7クローンについて同様の検討を行い、ヒト造血幹細胞増殖支持活性を有するクローンが3つ得られた。これらをAGM-s1、AGM-s2およびAGM-s3と命名した。
【0100】
(II)マウス骨髄からの造血幹細胞の調製
C57BL/6-Ly5.1 pep(8〜10週齢、雄)(筑波大学 中内啓光教授より供与)の大腿骨内
の骨髄を採取し、PBSに懸濁した。定法に従い(高津聖志、免疫研究の基礎技術、羊土社1995)、マウス骨髄単核球細胞画分を比重遠心法により濃縮した後、染色バッファー(5% FCS, 0.05% NaNを含むPBS)に懸濁し、以下の方法で造血幹細胞分画を取得した(Osawa,
M. et al., Science 273:242-245, 1996)。
【0101】
FITC結合CD34抗体、フィコエリスリン結合Sca-1抗体、アロフィコシアニンc-Kit(全てPharmingen社製)、および、分化マーカー(Lin)として以下の6種類のビオチン化した分
化抗原特異的な抗体、CD45R, CD4, CD8, Gr-1, Ter119, CD11c(全てPharmingen社製)を、骨髄単核球細胞懸濁液に添加し、氷中で20分間放置し反応させた。染色バッファーで2回洗浄した後に、セルソーター(FACS Vantage, Becton Dickinson社)により、CD34陰性、Sca-1陽性、c-Kit陽性、Lin陰性細胞を分取した。
【0102】
(III)マウスストローマ細胞株のサブクローニング、および各種細胞株の造血幹細胞支
持活性の評価
(1)マウスストローマ細胞株のサブクローニング
1)AGM-s3サブクローンの分離
非働化10%FCS(ウシ胎児血清、Hyclone社)を含むMEMα培地(GIBCO BRL社)で継代培
養をしているAGM由来ストローマ細胞株AGM-s3を5% FCS含有PBS(PBS-FCS)に懸濁し、セ
ルソーター(FACS Vantage; Becton Dickinson)を用いて1細胞/ウェルで96ウェル培養皿
(Falcon社)にクローンソーティングを行なった。96ウェル中、細胞が増殖してきたウェルについて拡大培養し、13種のAGM-s3のサブクローンを得た。これらのAGM-s3サブクローンについて造血細胞の支持能を検討した。
【0103】
2)ヒト臍帯血CD34陽性幹細胞の分離
ヒト臍帯血は、キリンビール医薬探索研究所倫理委員会の基準に準拠し、正常分娩時に採取した。臍帯血は凝固しないようにヘパリンを添加したシリンジを用いて採取した。ヘパリン処理臍帯血をLymphoprep(NYCOMED PHARMA )に重層し、比重遠心(400G、室温、30
分間)により単核細胞を分離した。単核細胞に混入した赤血球は、塩化アンモニウム緩衝液(0.83% NH4Cl-Tris HCl 20mM, pH6.8)で室温2分間処理して溶血させた。PBS-FCSで
単核細胞を洗浄後、10mgのヒトIgGを添加し、氷冷下、10分間放置した後、さらに細胞をPBS-FCSで洗浄し、ヒト分化血球に特異的な抗原に対するビオチン化抗体すなわち、CD2、CD11c(ATCCハイブリドーマを入手し精製)、CD19(Pharmingen社)、CD15、CD41(Leinco Technologies, Inc.社)、Glycophorin A(コスモバイオ社)に対する抗体を添加し氷冷下、20分間放置した。細胞をPBS-FCSで洗浄後、5% FCS、10mM EDTA、0.05% NaNを含むPBS(PBS-FCS-EDTA-NaN)1mlに懸濁し、ストレプトアビジン結合磁性体ビーズ(BioMag, PerSeptive Diagnostics社)を添加して氷冷下、40分間放置した。分化抗原を発現した分化血球をマグネチックセパレーター(Dynal MPC-1, Dynal社)を用いて除去し、残りの分化血球抗原陰性分画にFITC標識抗CD34抗体(Immunotech S.A., Marseilles, France)を添加
し、氷冷下、20分間のインキュベーションの後、セルソーターによりCD34陽性分画を回収した。この細胞集団をヒト臍帯血由来造血幹細胞集団とした。
【0104】
3)ヒト造血幹細胞とAGM-s3サブクローンとの共培養
13種のAGM-s3のサブクローンおよびマウス骨髄由来ストローマ細胞株MS-5のそれぞれを、1x10/ウェルで24ウェル培養皿(Falcon社)に播種し、10% FCSを含むMEMα培地1mlで培養し、細胞がウェルの底一面を覆うまで増殖させた。上記ストローマ細胞上にCD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞を500個/ウェルで重層し、1mlの10% FCSを含むMEMα培地に
て共培養した。共培養開始1週間後に同様の培地1mlをさらに添加した。共培養開始2週間
目にトリプシン処理(0.05% トリプシン、0.5mM EDTAを含むPBS(GIBCO BRL社)で37℃、2〜5分間放置)によりストローマ細胞とヒト血液細胞を同時に培養皿より剥がし、造血幹細胞支持活性をコロニーアッセイにより評価した。
【0105】
4)コロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況の評価
上記共培養系にて増殖した細胞は、適宜稀釈して1mlメチルセルロース培養系に付し、
解析を行なった。メチルセルロース培養系は、MethoCult H4230(Stem Cell Technologies Inc.社)に10ng/ml ヒトSCF、ヒトIL-3、ヒトIL-6、ヒトG-CSF、ヒトTPO、2 IU/ml EPOを添加し、6ウェル培養皿(Falcon社)にて実施した。上記で用いた各種造血因子は、い
ずれもリコンビナント体であり、純粋なものである。2週間の培養の後、出現してきたコ
ロニーを顕微鏡下で観察し、CFU-GM(granulocyte-macrophage colony-forming unit)、BFU-E(erythroid burst forming unit)、および、CFU-E mix(erythrocyte mixed colony-forming unit)の数を計測した。
【0106】
図1にCD34陽性造血幹細胞とAGM-s3サブクローンA9、A7またはD11との2週間共培養の結果を示す。13種のAGM-s3サブクローンのうちA9とD11の2クローンが、CFU-GM、BFU-E、お
よび、CFU-E mixのすべての分化系列の細胞の増殖を支持した。特に赤血球系の前駆細胞
であるBFU-E、および、CFU-E mix を維持することは通常困難であるが、A9またはD11細胞との共培養系ではその増殖が認められた。この結果は、A9またはD11細胞との共培養によ
り造血幹細胞あるいは造血前駆細胞が増殖あるいは維持されることにより、常に赤血球系の前駆細胞が出現してきていることを示している。一方、A7は、その細胞の形態がA9に似ているが、CFU-GM、BFU-E、および、CFU-E mixを支持しなかった。
【0107】
5)A9とマウス胎仔由来ストローマ細胞株OP9のヒト造血幹細胞支持活性の比較
上記手法を用いて、さらに、AGM-s3サブクローンA9、A7とマウス胎仔由来ストローマ細胞株OP9(RCB1124、理化学研究所 細胞開発銀行)のCD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞
に対する幹細胞支持能の比較をCFU-GM、BFU-E、CFU-E、および、CFU-E mixを指標に、上
記の評価系を用いて実施した。図2に2週間共培養の結果を示す。A7細胞培養系では、CFU-GM、BFU-E、および、CFU-Eの有意な減少が確認され、CFU-E mixは完全に消失していた。一方、OP9細胞ではA9には劣るが、CFU-E mixを含む各種血球前駆細胞が維持されており、造血幹細胞支持能を有することが明らかとなった。
【0108】
(2)各種細胞株の造血幹細胞支持活性の評価
前記の各ストローマ細胞株(AGM-s3-A9、AGM-s3-A7、AGM-s3-G1)、3T3Swiss(ATCC)
、OP9およびNIH3T3(ATCC)を5×10個ずつ24ウエルの培養皿(Falcon社)に播種し、非働化10% FCS(ウシ胎児血清、Hyclone社製)を含むMEMα培地(GIBCO BRL社製)にて1日培養し、細胞が培養皿の底一面を覆うまで増殖させた。その後、1mlの新たな培地に交換
し、上記(II)で得たマウス造血幹細胞(C57BL/6-Ly5.1由来)30個をこれらの細胞上
に重層し、培養を開始した。
【0109】
培養7日目に、細胞をトリプシン処理(0.05% トリプシン、0.5mM EDTAを含むPBS(GIBCO BRL社)で37℃、2〜5分間放置)し、培養皿の全ての細胞を剥がし回収した。回収した各全細胞を、それぞれ20万個の全骨髄細胞(C57BL/6-Ly5.2マウス由来、チャールス
リバー社)と共に、8.5GyのX線を照射したC57BL/6-Ly5.2(チャールスリバー社、8週齢
、雄)マウスに尾静注より移植した。移植後、経時的に眼窩より末梢血を回収し、FACSによりC57BL/6-Ly5.1 pepマウス由来の細胞数の割合を算定した。定法に従い(高津聖志、
免疫研究の基礎技術、羊土社1995)、末梢血の解析を行った。末梢血50μlに蒸留水を350μl加え、30秒間放置し、赤血球を溶血させた後に、2倍濃度のPBSを加え遠心し、白血球を回収した。細胞を染色バッファー(5% FCS、0.05% NaNを含むPBS)で1回洗浄した後に、抗CD16抗体、FITC結合抗Ly5.1(CD45.1)抗体、フィコエリスリン結合抗Gr-1抗体お
よびCD11c抗体、ならびに、アロフィコシアニン結合CD90 (Thy1)抗体およびCD45R (B220)抗体(全て、Pharmingen社より購入)を添加し、氷中で30分放置して反応させた後に、染色バッファーで洗浄後、FACS解析を行った。
【0110】
移植後経時的に、末梢血中の、Gr-1またはCD11c陽性細胞(骨髄球系)のLy5.1陽性の割合と、CD90またはCD45R陽性細胞(リンパ球系)のLy5.1陽性の割合を、それぞれ算定することにより、造血幹細胞培養期間中の再構築を行うことが可能な細胞数の増減を推定した。
【0111】
結果を図3に示す。AGM-s3-A9細胞、OP9細胞、または、3T3Swiss細胞と共培養した細胞を移植した場合は、移植後ドナー細胞の高いキメリズムが維持され、これらのストローマ細胞が高い造血幹細胞支持活性を有することが観察された。一方、AGM-s3-A7細胞、AGM-s3-G1細胞、または、NIH3T3細胞の場合、移植した細胞由来の高いキメリズムが認められず、これらのストローマ細胞株の造血幹細胞または造血前駆細胞の支持活性は低い。
【0112】
(IV)造血幹細胞支持細胞に特異的に発現する遺伝子の配列の同定
AGM-s3-A9細胞、AGM-s3-A7細胞、および、OP9細胞のそれぞれをISOGEN(日本国ニッポ
ンジーン)20 mlに溶解し、添付文書に従ってトータルRNAを調製した。トータルRNA 1mg
を用いて、mRNA purification kit(米国Amersham Pharmacia社)のプロトコルに従い、
メッセンジャーRNAを調製した。本メッセンジャーRNAを用いて定法によりcDNAを合成し、pSPORT1(米国GIBO Lifetech社)を用いてcDNAライブラリー(以下、それぞれAGM-s3-A9 cDNA、AGM-s3-A7 cDNAおよびOP9 cDNAともいう)を構築した。本ライブラリーを用いて、
SBH法(米国Hyseq社)により、AGM-s3-A7細胞と比べた場合にAGM-s3-A9細胞あるいはOP9
細胞に特異的に高発現するcDNA断片を有するクローンを取得した。取得したクローンについて、ABI377 DNAシーケンサー(米国Perkin Elmer社)を用いて塩基配列を決定した。
【0113】
この結果、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および、配列番号7に示す塩基配列またはその一部を有する遺伝子の発現が、AGM-s3-A9あるいはOP9細胞でAGM-s3-A7細胞より高いことが判明した。これらの遺伝子
を、それぞれ、SCR-2、SCR-3、SCR-4、SCR-5、SCR-6、SCR-7、および、SCR-8と命名した

【実施例2】
【0114】
SCR-2のクローニングおよび活性評価
配列番号1の塩基配列に関し、GenBankデータベースをBLASTを用いて検索することで、SCR-2は、登録番号AF185613のマウス遺伝子Mus musculus glypican-1 (GPC-1)と同一の遺伝子であることが判明した。SCR-2のORF(Open Reading Frame)の塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号8に示す。アミノ酸配列のみを配列番号9に示す。
【0115】
GPC-1のヒト塩基配列は、GenBankデータベースに登録番号AX020122で登録されている。AX020122のORFの塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号10
に示す。アミノ酸配列のみを配列番号11に示す。
【0116】
SCR-2の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0117】
(1)マウスSCR-2発現レトロウイルスベクターの構築
SCR-2のORFの塩基配列に基づいてレトロウィルスベクタークローニング用に、下記の塩基配列を有するSCR-2FsalおよびSCR-2Recoプライマーを作製し、OP9 cDNAをテンプレートに用いてPCRを実施した。
【0118】
SCR-2Fsal
CCGGTCGACCACCatggaactccggacccgaggctgg (配列番号30)
SCR-2Reco
CCGAATTCttaccgccacctgggcctggctgc (配列番号31)
【0119】
増幅断片を制限酵素EcoRIとSalIで消化し、電気泳動の後、JETSORB(独国Genomed社)
を用いてDNA断片の精製を行った。精製DNA断片を、同様にEcoRIおよびXhoIで消化したpMX-IRES-GFPベクター(東大医科研、北村俊雄教授より分与)と連結した。pMX-IRES-GFPベ
クターは、レトロウイルスベクターpMXにIRES(Internal Ribosome Entry Site)、およ
び、GFP(Green Fluorescence Protein)をコードする配列を挿入したプラスミドである
。IRESは、mRNAの途中からリボゾームがアクセスできる。したがい、発現ベクターを構築するときに一つの転写単位の中にIRESを挟んで上流、下流に遺伝子を繋げることで、一つのmRNAから二つの遺伝子を発現させることが可能となる。上記プラスミドでは、上流にSCR-2のcDNAが挿入され、下流に蛍光蛋白質であるGFP(Green Fluorescence Protein)をコードする配列が挿入されており、GFPの発現状況をFACSで検出することによって、SCR-2の発現をモニターすることができる。
【0120】
得られた組換えベクターを大腸菌DH5αに遺伝子導入し、100 μg/mlアンピシリンを含
むLB寒天培地に蒔き、単一コロニーを形成させた。単離したコロニーを100 μg/mlアンピシリンを含むLB培地100mlで培養後、QIAGENtip100(米国QIAGEN社)を用いてプラスミド
の精製を行った。挿入遺伝子の配列を常法にしたがって決定し、SCR-2のORFの塩基配列と
一致していることを確認した。
【0121】
(2)SCR-2強発現ストローマ細胞の作製
コラーゲンタイプIコート60mm dish(旭テクノグラス社)に2×106個のBOSC23細胞を
蒔き、37℃、5% CO2、湿度100%の条件下、10% FCSを含むDMEM培地(GIBCO BRL社)で培養を開始し、12〜18時間後に前記培地をOPTI MEM培地(GIBCO BRL社)2mlで置換した。
【0122】
前記のpMX-IRES-GFPにSCR-2を挿入したプラスミド約3μgを、OPTI MEM培地100μlで希
釈したLIPOFECTAMINE Reagent(GIBCO BRL社)18μlに加え、30分室温に静置した。調製
したDNA溶液を上記で用意したBOSC23細胞培養液中に添加した。約5時間後に2mlの20% FCSを含むDMEM培地(GIBCO BRL社)を添加した。
【0123】
約24時間後に、培地を10%FCS入りDMEM 4mlに置換し、さらに約48時間後に培養液を回収した。培養液を0.45μmフィルターでろ過後、1200gで16時間遠心し、培養上清を捨てることでウイルス沈殿を取得した。
【0124】
AGM-s3-A7あるいはAGM-s3-A9細胞を24wellプレート(FALCON社)に1×104個ずつ、10% FCSを含むMEMα培地(GIBCO BRL社)1ml中で培養した。12〜18時間後に、ウイルス沈殿を1mlの10% FCSを含むMEMα培地に懸濁し、ストローマ細胞培養液とウィルス懸濁液を置換
した。さらにPOLYBRENE(シグマ、SEQUA-BRENE)を10μg/mlになるように添加し、培養皿を700gで45分遠心後、37℃、5% CO、湿度100%の条件下で培養した。48時間後、培
地を10% FCSを含むMEMα培地1mlに置換し、さらに24時間後、6wellプレート(FALCON社)に継代し10% FCSを含むMEMα培地3mlで培養した。継代48時間後、セルソーター(FACSVantage、Becton Dickinson社)にてストローマ細胞のGFP発現を確認し、80%以上の細胞
がSCR-2を発現していることを間接的に確認した。
【0125】
また、pMX-IRES-GFPにSCR-2を挿入したプラスミドの代わりにpMX-IRES-GFPベクターを
用いて同様の操作を行い、コントロールベクターを導入したストローマ細胞を調製した。
【0126】
(3)ヒト造血幹細胞とSCR-2強発現ストローマ細胞との共培養、ならびに、コロニーア
ッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況の評価
実施例1の(III)(1)3)〜4)に記載のようにして、レトロウイルスによりSCR-2を強発現させたAGM-s3-A9細胞もしくはAGM-s3-A7細胞、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9細胞もしくはAGM-s3-A7細胞、または、AGM-s3-A9細胞もしくはAGM-s3-A7細胞を、CD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞と共培養し、コロニーアッセイにより造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を評価した。
【0127】
図4に、CD34陽性造血幹細胞と、SCR-2を強発現するAGM-s3-A9(A9/SCR-2)、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9(A9/pMXIG)またはAGM-s3-A9(A9)とを2週間共培養
したときの結果を示す。また、図5にSCR-2を強発現するAGM-s3-A7、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A7またはAGM-s3-A7とを2週間共培養したときの結果を示す。この結
果、SCR-2強発現AGM-s3-A9またはSCR-2強発現AGM-s3-A7で共培養により、BFU-EおよびCFU-Cの増加が認められた。従い、SCR-2を強発現することにより、AGM-s3-A9あるいはAGM-s3-A7の造血幹細胞あるいは造血前駆細胞の支持活性が増強されることが示された。この結
果から、SCR-2の遺伝子産物は、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を支持する
活性を有するあるいはストローマ細胞に作用し造血細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかとなった。
【実施例3】
【0128】
SCR-3のクローニングおよび活性評価
配列番号2の塩基配列に関し、GenBankデータベースをBLASTを用いて検索することで、SCR-3は、登録番号U15209、Mus musculus chemokine MMRP2 mRNA,、U19482、Mus musculus C10-like chemokine mRNA、および、U49513、Mouse macrophage inflammatory protein-1gamma mRNAのマウス遺伝子と同一の遺伝子であることが判明した。SCR-3のORFの塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号12に示す。アミノ酸配列のみを配列番号13に示す。
【0129】
SCR-3の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0130】
(1)マウスSCR-3発現レトロウイルスベクターの構築
SCR-3のORFの塩基配列に基づいてレトロウィルスベクタークローニング用に、下記の塩基配列を有するSCR-3FxhoIおよびSCR-3Reco配列のプライマーを作製し、AGM-s3-A9 cDNA
をテンプレートに用いてPCRを実施した。増幅断片を、実施例2の(1)と同様の方法に
よりレトロウィルスベクターpMX-IRES-GFPに挿入した。
【0131】
SCR-3FxhoI
ccgCTCGAGccaccATGAAGCCTTTTCATACTGCC (配列番号32)
SCR-3Reco
tccGAATTCttattgtttgtaggtccgtgg (配列番号33)
【0132】
(2)SCR-3強発現ストローマ細胞株の作製
上記のレトロウィルスベクターを用いて、実施例2の(2)と同様にしてSCR-3強発現AGM-s3-A7細胞を作製した。
【0133】
(3)SCR-3強発現ストローマ細胞の造血幹細胞支持活性の評価
AGM-s3-A7細胞、レトロウイルスによりSCR-3を強発現させたAGM-s3-A7細胞、ならびに
、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A7細胞を、それぞれ、1×10個ずつ24ウエルの培養皿に播種することの他は、実施例1の(III)(2)と同様にして造血幹細胞支持
活性の評価を行った。
【0134】
結果を図6に示す。SCR-3を強発現するAGM-s3-A7細胞と共培養した造血幹細胞(A7/SCR-3)は移植後、それぞれの親株またはコントロールベクターを導入した細胞と共培養した造血幹細胞(A7またはA7/pMXIG)に比べて、レシピエント個体で高いキメリズムを示した。この高いキメリズムは2ヶ月後の骨髄球系およびリンパ球系細胞で確認され、放射線照射マウスの体内で造血系を再構築できる造血幹細胞および造血前駆細胞が、共培養期間中に、SCR-3を導入されていない細胞との共培養と比べて優位に維持・増幅されていたことが
判明した。この結果から、SCR-3の強発現により、ストローマ細胞の造血幹細胞または造
血前駆細胞の生存、増殖支持能が増強されることが示された。したがい、SCR-3の発現産
物は造血幹細胞または造血前駆細胞に作用し、その生存あるいは増殖を支持する活性を有する、あるいは、ストローマ細胞に作用し造血幹細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかになった。
【実施例4】
【0135】
SCR-4のクローニングおよび活性評価
配列番号3の塩基配列に関し、GenBankデータベースをBLASTを用いて検索したところ、SCR-4は、登録番号AF131820 Homo sapiens clone 25077 mRNAと高い相同性が確認され、SCR-4はAF131820のマウスオーソログと判明した。また、この配列はWO 00/66784に記載さ
れている。
【0136】
AF131820のORFの塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号1
6に示す。アミノ酸配列のみを配列番号17に示す。
【0137】
その塩基配列およびその塩基配列においてORFと考えられる塩基配列から推定されるア
ミノ酸配列を配列番号14に示す。アミノ酸配列のみを配列番号15に示す。
【0138】
SCR-4の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0139】
(1)ヒトSCR-4発現レトロウイルスベクターの構築
胎児肝臓由来メッセンジャーRNA(米国CLONTECH社)3μgより、オリゴdTプライマー
、逆転写酵素(SuperscriptII、GIBCO-BRL社)を用いてcDNAを合成した。本cDNAを鋳型として、ヒトSCR-4のORF領域を下記の塩基配列を有するプライマーHSCR-4FxhoIおよびHSCR-4RecoRVでPCR増幅し、XhoIで消化した後に、実施例2(1)と同様の方法によりレトロウィルスベクターpMX-IRES-GFPに挿入した。その際、pMX-IRES-GFPは制限酵素EcoRIで消化
の後、KOD DNA合成酵素(東洋紡日本国)を用いて平滑化した後に制限酵素XhoIで消化し
た。
【0140】
HSCR-4FxhoI
CCGCTCGAGCCACCatgttggctgcaaggctggtgt (配列番号34)
HSCR-4RecoRV
CCGGATATCtcatttctttctgttgcctcca (配列番号35)
【0141】
(2)ヒトSCR-4強発現ストローマ細胞株の作製
上記のレトロウィルスベクターを用いて、実施例2の(2)と同様にしてヒトSCR-4強
発現AGM-s3-A9細胞を作製した。
【0142】
(3)ヒト造血幹細胞とヒトSCR-4強発現ストローマ細胞との共培養、ならびに、コロニ
ーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況の評価
実施例1の(III)(1)3)〜4)に記載のようにして、レトロウイルスによりSCR-4を強発現させたAGM-s3-A9細胞、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9細胞、または、AGM-s3-A9細胞細胞を、CD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞と共培養し、コロニーアッ
セイにより造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を評価した。
【0143】
図7に、CD34陽性造血幹細胞と、ヒトSCR-4を強発現させたAGM-s3-A9、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9、または、AGM-s3-A9とを2週間共培養したときの結果を示す
。この結果、ヒトSCR-4強発現AGM-s3-A9との共培養により、BFU-E、ならびにCFU-Cの増加が認められた。従い、ヒトSCR-4を強発現することにより、AGM-s3-A9の造血幹細胞あるいは造血前駆細胞の支持活性が増強されることが示された。この結果から、ヒトSCR-4は、
造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を支持する活性を有するあるいはストローマ細胞に作用し造血幹細胞支持活性を付与する活性を有することが明らかとなった。
【実施例5】
【0144】
SCR-5のクローニングおよび活性評価
SBH解析で得られた配列番号4の塩基配列には、ORFの存在が推測された。ORFの塩基配
列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号18に示す。アミノ酸配列のみを配列番号19に示す。
【0145】
配列番号18の塩基配列に関し、GenBankデータベースをBLASTを用いて検索したところ、登録番号AF325503 Homo sapiens esophageal cancer related gene 4 protein (ECRG4)
mRNAと高い相同性が確認され、SCR-5はAF325503のマウスオーソログと判明した。
【0146】
AF325503のORFの塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号2
0に示す。アミノ酸配列のみを配列番号21に示す。
【0147】
SCR-5の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0148】
(1)マウスSCR-5発現レトロウイルスベクターの構築
SCR-5のORFの配列に基づいてレトロウィルスベクタークローニング用に、下記の塩基配列を有するSCR-5FxhoIおよびSCR-5Rbluntプライマーを作製し、配列番号23の塩基配列
を有するDNAをテンプレートに用いてPCRを実施し、増幅断片を制限酵素XhoIで消化後、実施例2の(1)と同様の方法によりレトロウィルスベクターpMX-IRES-GFPに挿入した。その際、pMX-IRES-GFPは制限酵素EcoRIで消化の後、KOD DNA合成酵素(東洋紡日本国)を用いて平滑化した後に制限酵素XhoIで消化した。
【0149】
SCR-5FxhoI
ccgCTCGAGccaccatgagcacctcgtctgcgcg (配列番号36)
SCR-5Rblunt
tccGTTAACttaatagtcatcatagttca (配列番号37)
【0150】
(2)SCR-5強発現ストローマ細胞株の作製
上記のレトロウィルスベクターを用いて、実施例2の(2)と同様にしてSCR-5強発現AGM-s3-A7細胞を作製した。
【0151】
(3)SCR-5強発現ストローマ細胞の造血幹細胞支持活性の評価
実施例3の(3)と同様にして造血幹細胞支持活性の評価を行った。
【0152】
結果を図8に示す。SCR-5を強発現するAGM-s3-A7細胞と共培養した造血幹細胞(A7/SCR-5)は移植後、それぞれの親株あるいはコントロールベクターのみを発現させた細胞と共培養した造血幹細胞(A7もしくはA7/pMXIG)に比べて、レシピエント個体で高いキメリズムを示した。この高いキメリズムは2ヶ月後の骨髄球系およびリンパ球系細胞で確認され、放射線照射マウスの体内で造血系を再構築できる造血幹細胞および造血前駆細胞が、共培養期間中にSCR-5を導入されていない細胞より優位に維持・増幅されていたことが判明
した。この結果から、SCR-5の強発現により、ストローマ細胞の造血幹細胞あるいは造血
前駆細胞の生存、増殖支持能が増強されることが示された。したがい、SCR-5の遺伝子産
物は造血幹細胞または造血前駆細胞に作用し、その生存あるいは増殖を支持する活性を有する、あるいは、ストローマ細胞に作用し造血幹細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかになった。
【実施例6】
【0153】
SCR-6のクローニングおよび活性評価
配列番号5の塩基配列をもとにプローブを作製し、AGM-s3-A9 cDNAをハイブリダイゼーションによりスクリーニングすることで、マウスSCR-6のORFを含む遺伝子を取得した。
【0154】
AGM-S3-A9細胞1.4×108個をISOGEN(日本国ニッポンジーン)20mlに溶解し、添付文書
に従ってトータルRNAを調製した。トータルRNA 1mgを用いて、mRNA purification kit(
米国Amersham Pharmacia社)のプロトコルに従い、メッセンジャーRNAを調製した。調製
したメッセンジャーRNA 2μgより、SMART cDNAライブラリー作製キット(米国CLONTECH)を用いて、添付文書に従ってcDNAライブラリーを15画分に分けて作製した。本ライブラリーは、独立なクローンを合計で約40万種類含んでいた。各画分について以下の条件にてPCRを実施し、SCR-6 cDNAを含む画分を同定した。
【0155】
マウスSCR-6部分遺伝子断片の配列に基づいて以下のプライマーを合成し、AGM-S3-A9 cDNAライブラリー各画分を鋳型として、94℃、30秒、55℃、30秒、72℃、1分
からなる工程を1サイクルとして35サイクルのPCRを実施した。
【0156】
SCR-6F
AGCTCATTACTGTATATTTA (配列番号22:1971-1990) (配列番号38)
SCR-6R
GCTATATTTCATAAGTCATC (配列番号22:2330-2349) (配列番号39)
【0157】
PCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動し、予想されるサイズのPCR産物が得られた画分を同定した。陽性画分のうち2画分について、15cmのシャーレに50,000プラークずつ各2枚蒔き、37℃で10時間保温した後、Biodyne(米国Pall社)ナイロンフィルターに
各1枚ずつプラークを写しとった。転写したナイロンフィルターに対し添付文書に従ってDNAの固定処理を行い、32P標識したDNAプローブにてスクリーニングを実施した。
【0158】
プローブは、以下のようにして調製した。SCR-6FとSCR-6Rを用いて、マウスSCR-6部分
遺伝子断片を含むプラスミドを鋳型として、94℃、30秒、55℃、30秒、72℃、1分からなる工程を1サイクルとして35サイクルのPCRを実施した。PCR産物を2%アガロースゲルにて電気泳動し、増幅断片をJETSORBを用いて精製した。得られたPCR断片25ngを鋳型として、Megaprime labeling kit(米国Amersham Pharmacia社)を用いて、32P標識したDNAプローブを調製した。
【0159】
ハイブリダイゼーション及び洗浄は、ExpressHybSolution(米国CLONTECH社)を用いて、添付文書に従って実施し、X線フィルム(日本国フジフィルム)に一日間露光し、フジフィルム自動現像機にて現像し、結果を解析した。その結果、強く露光された部分に相当する位置のプラークをシャーレから掻き取り、10cmシャーレに200個程度のプラークが出るように再度蒔き直した。上記方法にて再度スクリーニングを実施し、単一のプラークを単離した。得られたファージクローンについて、SMART cDNAライブラリー作製キットの添付文書に従って大腸菌BM25.8株に感染させ、細胞中でプラスミドに変換させて、50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地上でコロニーを形成させた。単一コロニーを、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地3mlに植菌し、30℃で一夜培養したのち、RPM Kit(米国BIO101)にてプラスミドを抽出し、約10mgのプラスミドを取得した。
【0160】
挿入断片の両端を、λTriplEx5'LD-Insert Screening Amplimer(CTCGGGAAGCGCGCCATTGTGTTGGT(配列番号40):米国CLONTECH)を用いて、ABI377 DNAシーケンサーにより配列決定したところ、配列番号5の1番目以降の塩基配列を含むcDNAを含むことが判明した。さらにABI377 DNAシーケンサーを用いて全長の塩基配列を決定した。その塩基配列およびその塩基配列においてORFと考えられる塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号
22に示す。アミノ酸配列のみを配列番号23に示す。
【0161】
マウスSCR-6の塩基配列を用いてBLASTホモロジー検索を行うことで、かずさDNA研究所
cDNAデータベースより相同性を持つヒト遺伝子配列HJ08186Rを見出した。HJ08186Rは、
マウスSCR-6の319番目のグアニンから917番目のアデニンまでの部分と高い相同性を有し
ているがORF全長をコードしていないと予測された。
【0162】
HJ08186Rの、マウスSCR-6の推測される開始メチオニンの前後と相同な塩基配列5’- CCG CCC AGA TGC AGT TTC GC -3’(配列番号49の塩基番号10〜29)の5’側にXhoIサイトを付加したプライマーKF305X:5’- CCG CTC GAG CCG CCC AGA TGC AGT TTC GC -3’
(配列番号49)を調製した。DNAポリメラーゼおよび酵素反応系にKOD-PLUS- (東洋紡 #KOD201)を用い、添付のプロトコールに従って3’-RACEを行った。5’側プライマーにKF30
5Xを、3’側プライマーにMarathon Ready cDNA(CLONTECH社)添付のAP1プライマーを用い
た(終濃度各0.2 μM)。鋳型DNAには、 Marathon Ready cDNA Human Fetal Liver (CLONTECH社#7403-1) を用いた。PCRはGeneAmp PCR System9700(Applied Biosystems社)で行った。増幅反応は、94℃・5分、(94℃・10秒、72℃・4分)を5サイクル、(94℃・10秒
、70℃・4分)を5サイクル、(94℃・10秒、68℃・4分)を20サイクル、72℃・7分、4℃
の条件で行った後、この増幅産物の1/50量(1 μL)を鋳型DNAとして、5’側プライマー
にKF305Xを、3’側プライマーにAP2プライマーを用いて(終濃度各0.2 μM)更に2次増幅を行った。増幅反応は、94℃・5分、(94℃・10秒、72℃・4分)を5サイクル、(94℃・10秒、70℃・4分)を5サイクル、(94℃・10秒、68℃・4分)を35サイクル、72℃・7分、4℃の条件で行った。この結果、約2 kbの増幅バンドを得た。
【0163】
2次増幅反応液にdNTPs(終濃度40 μM)およびTakara Taq(宝酒造 #R001A)5ユニットを添加して72℃で7分反応を行い、この反応産物をアガロースゲル電気泳動に付した後、JETSORB Gel Extraction Kit(Genomed 社#110150)を用いて約2 kbのDNA断片を精製した
。このDNA断片をpGEM-T Easyベクター(Promega社)へ常法によりクローニングした。
【0164】
取得したクローンについて、ABI PRISM 3700 DNAシーケンサー(Applied Biosystems社)を用いて塩基配列を決定した。その塩基配列およびその塩基配列においてORFと予想さ
れる塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号47に示す。また、アミノ酸配列のみを配列番号48に示す。この配列は、732bpのORF(配列番号47の塩基番号18-749)が存在し、マウスSCR-6コード領域と塩基配列で92.3%、アミノ酸配列で95.9%の相同性が認
められ、ヒトSCR-6と判断された。なお、ホモロジー解析は、DNASIS version 3.7(日立
ソフトウェアエンジニアリング社)を用いて行った。
【0165】
SCR-6の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0166】
(1)マウスSCR-6発現レトロウイルスベクターの構築
SCR-6のORFの塩基配列に基づいてレトロウィルスベクタークローニング用に、下記の塩基配列を有するSCR-6FxhoIおよびSCR-6Recoプライマーを作製し、配列番号22の塩基配
列を有するDNAをテンプレートに用いてPCRを実施し、増幅断片を実施例2の(1)と
同様の方法によりレトロウィルスベクターpMX-IRES-GFPに挿入した。
【0167】
SCR-6FxhoI
ccgctcgagccaccATGCGTTTTTGCCTCTTCTC (配列番号41)
SCR-6Reco
cggaattcTTATTGGTTCACTCTGTCTG (配列番号42)
【0168】
(2)SCR-6高発現ストローマ細胞株の作製
上記のレトロウィルスベクターを用いて、実施例2の(2)と同様にしてSCR-6強発現AGM-s3-A9細胞を作製した。
【0169】
(3)ヒト造血幹細胞とSCR-6強発現ストローマ細胞との共培養、ならびに、コロニーア
ッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況の評価
実施例1の(III)(1)3)〜4)に記載のようにして、レトロウイルスによりSCR-6を強発現させたAGM-s3-A9細胞、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9細胞、または、AGM-s3-A9細胞を、CD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞と共培養し、コロニーアッセイ
により造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を評価した。
【0170】
図9に、CD34陽性造血幹細胞と、SCR-6を強発現させたAGM-s3-A9(A9/SCR-6)、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9(A9/pMXIG)またはAGM-s3-A9(A9)とを2週間共培
養した結果を示す。この結果、SCR-6発現AGM-s3-A9との共培養により、BFU-E、ならびにCFU-Cの増加が認められた。従い、SCR-6を強発現することにより、AGM-s3-A9の造血幹細胞あるいは造血前駆細胞の支持活性が増強されることが示された。この結果から、SCR-6の
遺伝子産物は、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を支持する活性を有するあるいはストローマ細胞に作用し造血細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかとなった。
【実施例7】
【0171】
SCR-7のクローニングおよび活性評価
SBH解析で得られた配列番号6の塩基配列には、ORFの存在が推測された。ORFの塩基配
列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号24に示す。アミノ酸配列のみを配列番号25に示す。
【0172】
SCR-7の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0173】
(1)マウスSCR-7発現レトロウイルスベクターの構築
SCR-7のORFの塩基配列に基づいてレトロウィルスベクタークローニング用に、下記の塩基配列を有するSCR-7FsalIおよびSCR-7Recoのプライマーを作製し、配列番号24の塩基
配列を有するDNAをテンプレートに用いてPCRを実施し、増幅断片を実施例2の(1)
と同様の方法によりレトロウィルスベクターpMX-IRES-GFPに挿入した。
【0174】
SCR-7FSalI
acgcgtcgacccaccATGCCCCGCTACGAGTTG (配列番号43)
SCR-7Reco
attGAATTCTCACTTCTTCCTCCTCTTTG (配列番号44)
【0175】
(2)SCR-7高発現ストローマ細胞株の作製
上記のレトロウィルスベクターを用いて、実施例2の(2)と同様にしてSCR-7強発現AGM-s3-A9細胞を作製した。
【0176】
(3)ヒト造血幹細胞とSCR-7強発現ストローマ細胞との共培養、ならびに、コロニーア
ッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況の評価
実施例1の(III)(1)3)〜4)に記載のようにして、レトロウイルスによりSCR-7を強発現させたAGM-s3-A9細胞、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9細胞、または、AGM-s3-A9細胞を、CD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞と共培養し、コロニーアッセイ
により造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を評価した。
【0177】
図10に、CD34陽性造血幹細胞と、SCR-7を強発現するAGM-s3-A9(A9/SCR-7)、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9(A9/pMXIG)、または、AGM-s3-A9(A9)と2週間共
培養したときの結果を示す。この結果、SCR-7強発現AGM-s3-A9との共培養により、BFU-E
、ならびにCFU-Cの増加が認められた。従い、SCR-7を強発現することにより、AGM-s3-A9
の造血幹細胞あるいは造血前駆細胞の支持活性が増強されることが示された。この結果から、SCR-7の遺伝子産物は、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖、生存を支持する活性
を有する、あるいはストローマ細胞に作用し造血細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかとなった。
【実施例8】
【0178】
SCR-8のクローニングおよび活性評価
配列番号7の塩基配列に関し、GenBankデータベースをBLASTを用いて検索することで、SCR-8は、登録番号AB009673 Mus musculus mRNA for ADAM23、と同一の遺伝子であること
が判明した。SCR-8のORFの塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号26に示す。アミノ酸配列のみを配列番号27に示す。
【0179】
また、JP11155574-Aに記載されたHuman MDC3 protein. [Homo sapiens]のコードする配列は、SCR-8と90%以上の相同性を示し、SCR-8のヒトオーソログ遺伝子である。このORFの塩基配列および同塩基配列より推定されるアミノ酸配列を配列番号28に示す。アミノ酸配列のみを配列番号29に示す。
【0180】
SCR-8の造血幹細胞または造血前駆細胞支持活性評価を以下のように行った。
【0181】
(1)マウスSCR-8発現レトロウイルスベクターの構築
SCR-8のORFの塩基配列に基づいてレトロウィルスベクタークローニング用に下記の塩基配列を有するSCR-8FxhoおよびSCR-8Recoプライマーを作製し、AGM-s3-A9 cDNAをテンプレートに用いてPCRを実施し、増幅断片を実施例2の(1)と同様の方法によりレトロウィ
ルスベクターpMX-IRES-GFPに挿入した。
【0182】
SCR-8FxhoI
ccgctcgagccaccATGAAGCCGCCCGGCAGCATC (配列番号45)
SCR-8Reco
cggaattcTCAGATGGGGCCTTGCTGAGT (配列番号46)
【0183】
(2)SCR-8高発現ストローマ細胞株の作製
上記のレトロウィルスベクターを用いて、実施例2の(2)と同様にしてSCR-8強発現AGM-s3-A9細胞を作製した。
【0184】
(3)ヒト造血幹細胞とSCR-8強発現ストローマ細胞との共培養、ならびに、コロニーア
ッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況の評価
実施例1の(III)(1)3)〜4)に記載のようにして、レトロウイルスによりSCR-8を強発現させたAGM-s3-A9細胞、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9細胞、または、AGM-s3-A9細胞を、CD34陽性ヒト臍帯血由来造血幹細胞と共培養し、コロニーアッセイ
により造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を評価した。
【0185】
図11に、CD34陽性造血幹細胞と、SCR-8を強発現するAGM-s3-A9、コントロールベクターを導入したAGM-s3-A9、または、AGM-s3-A9とを2週間共培養したときの結果を示す。こ
の結果、SCR-8発現AGM-s3-A9との共培養により、BFU-EおよびCFU-Cの増加が認められた。従い、SCR-8を強発現することにより、AGM-s3-A9の造血幹細胞あるいは造血前駆細胞の支持活性が増強されることが示された。この結果から、SCR-8の遺伝子産物は、造血幹細胞
または造血前駆細胞の増殖、生存を支持する活性を有する、あるいはストローマ細胞に作用し造血細胞支持活性を増強または付与する活性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0186】
ストローマ細胞に由来する、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有する因子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】CD34陽性造血幹細胞とAGM-s3サブクローンA9、A7、D11とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図2】CD34陽性造血幹細胞とAGM-s3サブクローンA9、A7、またはOP9細胞とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図3】各種ストローマ細胞株と共培養した造血幹細胞を移植された放射線照射マウスの末梢血における、骨髄球系およびリンパ球系細胞のドナー由来細胞キメリズムの経時変化を示す図である。
【図4】CD34陽性造血幹細胞と、遺伝子SCR-2を強発現するAGM-S3-A9細胞(A9/SCR-2)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A9細胞(A9/pMXIG)、または、AGM-S3-A9細胞(A9)とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図5】CD34陽性造血幹細胞と、遺伝子SCR-2を強発現するAGM-S3-A7細胞(A7/SCR-2)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A7細胞(A7/pMXIG)、または、AGM-S3-A7細胞(A7)とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図6】遺伝子SCR-3を強発現するAGM-S3-A7細胞(A7/SCR-3)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A7細胞(A7/pMXIG)、または、AGM-S3-A7細胞(A7)と共培養した造血幹細胞を移植された放射線照射マウスの末梢血における、骨髄球系およびリンパ球系細胞のドナー由来細胞キメリズムの経時変化を示す図である。
【図7】CD34陽性造血幹細胞と、遺伝子SCR-4を強発現するAGM-S3-A9細胞(A9/SCR-4)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A9細胞(A9/pMXIG)、または、AGM-S3-A9細胞(A9)とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図8】遺伝子SCR-5を強発現するAGM-S3-A7細胞(A7/SCR-5)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A7細胞(A7/pMXIG)、または、AGM-S3-A7細胞(A7)と共培養した造血幹細胞を移植された放射線照射マウスの末梢血における、骨髄球系およびリンパ球系細胞のドナー由来細胞キメリズムの経時変化を示す図である。
【図9】CD34陽性造血幹細胞と、遺伝子SCR-6を強発現するAGM-S3-A9細胞(A9/SCR-6)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A9細胞(A9/pMXIG)、または、AGM-S3-A9細胞(A9)とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図10】CD34陽性造血幹細胞と、遺伝子SCR-7を強発現するAGM-S3-A9細胞(A9/SCR-7)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A9細胞(A9/pMXIG)、または、AGM-S3-A9細胞(A9)とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【図11】CD34陽性造血幹細胞と、遺伝子SCR-8を強発現するAGM-S3-A9細胞(A9/SCR-8)、コントロールベクターを導入したAGM-S3-A9細胞(A9/pMXIG)、または、AGM-S3-A9細胞(A9)とを2週間共培養した後のコロニーアッセイによる造血幹細胞および造血前駆細胞の増殖状況を示す図である。
【配列表】


















































【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)または(B)のポリペプチドをコードするDNA。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
以下の(a)または(b)のDNAである請求項1記載のDNA。
(a)配列番号47において塩基番号18〜746からなる塩基配列を少なくとも有するDNA。
(b)(a)に記載の塩基配列を有するDNAまたは同DNAから調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項3】
前記ストリンジェントな条件が、6×SSC、5×Denhardt、0.5% SDS、68℃(SSC;3M NaCl
、0.3M クエン酸ナトリウム)(50×Denhardt;1% BSA、1% ポリビニルピロリドン、1% Ficoll 400)または6×SSC、5×Denhardt、0.5% SDS、50% ホルムアミド、42℃である請
求項2記載のDNA。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のDNAを発現可能な形態で含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のDNAが発現可能な形態で導入された細胞。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のDNAの発現産物であり、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【請求項7】
配列番号48のアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有する請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリ(N-ビニル−ピロリドン)、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドのコ
ポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコールのいずれか、またはそれらの2種以上の組合わせによって修飾された請求項6又は7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載のポリペプチドに結合するモノクローナル抗体。
【請求項10】
以下の(A)または(B)のポリペプチドをコードするDNAが発現したストローマ細胞を造血幹細胞または造血前駆細胞と共培養することを含む、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する方法。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【請求項11】
DNAが以下の(a)または(b)のDNAである請求項10記載の方法。
(a)配列番号47において塩基番号18〜746からなる塩基配列を少なくとも有するDNA。
(b)(a)に記載の塩基配列を有するDNAまたは同DNAから調製され得るプローブ
とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項12】
以下の(A)または(B)のポリペプチドであって、その存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養したときに造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を示すポリペプチドの存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養することを含む、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する方法。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。
【請求項13】
以下の(A)または(B)のポリペプチドであって、その存在下で造血幹細胞または造血前駆細胞を培養したときに、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を示すポリペプチドを有効成分として含む、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持し得る医薬組成物。
(A)配列番号48のアミノ酸配列を少なくとも有するポリペプチド。
(B)(A)に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失または挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ、造血幹細胞または造血前駆細胞の増殖または生存を支持する活性を有するポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2006−506045(P2006−506045A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−587838(P2003−587838)
【出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【国際出願番号】PCT/JP2003/005383
【国際公開番号】WO2003/091280
【国際公開日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】