造血機能に関して刺激活性を示すMDP誘導体および複合体ならびにそれらを含む組成物
【課題】造血機能を刺激して、骨髄由来の幹細胞を大量に動員し、血流中に生じせしめることができる薬学的組成物を提供する。
【解決手段】例えばムラジメチド(Muradimetide)、ムロクタシン(muroctasine)またはMTP-PEなどの水溶性ムラミルペプチド誘導体を少なくとも1つ含む、造血機能を刺激するための、およびある種の治療による骨髄毒性効果を防止するための薬学的組成物。ヒト体重kgあたり0.1〜25mgの用量で経口投与が可能なように調合されることが望ましい。
【解決手段】例えばムラジメチド(Muradimetide)、ムロクタシン(muroctasine)またはMTP-PEなどの水溶性ムラミルペプチド誘導体を少なくとも1つ含む、造血機能を刺激するための、およびある種の治療による骨髄毒性効果を防止するための薬学的組成物。ヒト体重kgあたり0.1〜25mgの用量で経口投与が可能なように調合されることが望ましい。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、造血機能を刺激して、骨髄由来の幹細胞を大量に動員し、血流中に生じせしめることができる薬学的組成物に関する。本発明が提供し得るのは、
1)新しい抗骨髄毒性治療
2)骨髄幹細胞の新しい採取方法であって、
a)自己移植または同種移植
b)遺伝子治療技術における使用
を目的とする骨髄生検を代替し得る方法である。
【0002】
前記薬学的組成物は、下記の一般式(I)のMDP誘導体を少なくとも一つ含み、本発明の主題として特に印象的な例は、式Nac-Mur-L-Ala-D-Glu-[OCH3]-OCH3で表されるムラジメチド(Muradimetide)またはMDPAジメチルエステルである。
【0003】
ムラミルペプチドおよびそれらのエステル誘導体は、N-アセチル-ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(MDP:ムラミルジペプチド)として初めて記載されて以来、多くの刊行物および特許に記載されてきた一群の分子である。
【0004】
簡潔にいえば、それらは、免疫アジュバント活性、抗感染活性、抗癌活性、抗アレルギー活性およびサイトカインの分泌調節を含む多様な生物学的活性を示し得る。しかしながら、これらのムラミルペプチドの多くは、非常に有用な生物学的活性を示しながらも、しばしば副作用や欠点(特に毒性効果または水溶液中への低溶解性による処方の難しさ)をも発現するため、医薬として用いることが妨げられている。
【0005】
さらに、ムラミルペプチドは、作用スペクトルが非常に広い。
【0006】
ごく最近、下記の一般式(I)で表されるムラミルペプチドジエステル、特にムラジメチドは、免疫刺激性という特別な性質を有し、同時に、効能、処方、無毒性など、他のMDP誘導体には見られなかった多数の有用性をもっていることが示されてきた。特に外部からの投与(特にエアロゾルおよび経口による)で活性な免疫活性調節物質であるため、この免疫刺激薬をより広くまた柔軟に使用することができると予想される。また、全身投与を行ったときの許容度が高いという利点もある。 MDP誘導体に関して既に記載された特性の、本質的な特色は、液性または細胞性免疫システムの増強に関連している。
【0007】
驚くべきことに、本発明は、下記の式(I)、(II)、(III)で表されるいくつかの型のMDP誘導体を、適切であれば式(IV)の化合物または式(V)と(VI)の複合体と組み合わせると、とりわけAZTを何度も投与することによって循環白血球のレベルがかなり減少した後に、正常または未成熟な血液成分(特に循環血液中の好中球)を増大せしめるという発見の結果である。事実、薬学的組成物を投与後、骨髄球/前骨髄球の大幅な増加を伴って、血流中の正常な白血球が増加し、次に好中球が、その後リンパ球が増加することが観察された。もっとも特筆すべきは、極度の骨髄毒性を示す用量のAZTによる処置と組み合わせた後でさえも、この効果は大変強く観察されたことである。
【0008】
全ての血液細胞は、骨髄に由来する共通の幹細胞から生じる。分化の最終段階に達する前に、これらの細胞は異なる段階を経る。多分化能性幹細胞は、TまたはB前リンパ細胞、または赤血球・骨髄球・顆粒球および骨髄核細胞の(myelokaryocytic)幹細胞のうちのいずれかに分化する。これらの異なる中間段階の中では、それらを形態的に区別することができないので、最も幼若なもを前骨髄球/骨髄球という用語で、最も分化に間近いものを後骨髄球という用語で示す。
【0009】
これ以降の本明細書中では、これらの未分化細胞を、集合的にHSC(Hematopoietic Stem Cell:造血性幹細胞)と称する。
【0010】
正常状態では、HSCのレベルは、血液中に存在する白血球の1%程度である。
【0011】
以下の三つのケースにおいては、造血を亢進させ、HSCを動員することが有用である。
【0012】
1)ある種の薬物の骨髄毒性作用を打ち消し、血液細胞(特に好中球)を正常レベルに維持する
2)骨髄細胞の同種または自己移植のために、骨髄生検の替わりに、循環血液中の高レベルのHSCを採取する
3)ある種の遺伝子治療を行うための担体として用いるために、循環血液中から高レベルのHSCを得る。
【0013】
1)抗骨髄毒性治療:
癌やAIDSの化学療法、免疫療法または放射線療法のように、治療または医薬のなかには、造血機能を低下させ、治療中の感染リスクを著しく増大せしめるものがある。本発明の薬学的組成物は、骨髄毒性により生じる免疫系細胞、特に好中球の減少を打ち消すことができる。さらに、免疫療法、特にサイトカインを用いる治療の中には、細胞毒性を生じるものがあるが、本発明の組成物は、これに対する拮抗剤の役割を果たすことができる。
【0014】
2)骨髄移植の実施を可能にする細胞を得る:
強烈な化学療法または放射線療法による抗癌治療は、血液細胞および免疫系細胞の崩壊を起こす。これらのケースでは、造血系は、骨髄細胞の移植によって再構成される。自己移植は、癌が骨髄細胞以外の細胞を冒す場合に行われ、この場合、破壊的な治療の前に、患者自身からサンプルをとる。同種移植(すなわち、適合性のある提供者由来の細胞を使用すること)は、骨髄細胞自体が癌であるときに行われる。
【0015】
どちらの場合においても、骨髄の幹細胞を増やすことは非常に有用であるが、循環血液から幹細胞を大量に採取できるようにして、移植への利用を促進することは最も有用である。事実、現在では、移植の準備のためにHSCの豊富な血液を使用するには、大量のサンプルを多数とらねばならず、これは非常に長期間にわたる。さらに、HSCの増加した血液は、高価かつ許容度の低いサイトカイン(GM-CSF)の投与に引き続き、大量の血液サンプルを多数採取して得られ、これは毎回入院を要する集団的処置を行うことによってなされるので、患者と提供者に苦痛を与える準備を実施する必要がある。本発明の薬学的組成物は、処置からわずか数日後(処置後約4日)に、血液中のHSCの数を200倍も増幅させるので、通院患者から骨髄移植に必要な素材を得ることが可能となる。
【0016】
3)遺伝子治療に使用できる、精製容易な幹細胞の取得
ある種の遺伝子治療技術の使用は、循環血液中のHSCを大量に得ることができるかどうかにかかっている。この目的は、骨髄から精製することが非常に困難なHSCを血液から非常に高い割合で得ることを可能にする本発明の薬学的組成物によって達成され得る。
【0017】
遺伝子治療の前臨床試験および臨床試験により、長寿命で、発現能力が高く、全身に分布するような幹細胞を用いることが必要であることが示された。HSCは、ゴーシェ病のような免疫不全または重度免疫不全(SCID:重症複合免疫不全症)症状を打ち消すか、または骨髄腫、白血病、乳ガンまたは卵巣癌およびそれに類する癌を打ち消すか、または感染性の疾病(特にAIDS)に対する抵抗性を誘導するための、非常に有用な遺伝子担体であることが広く認められている。
【0018】
それ故、これらの目的を満たすためには、通常の細胞分離技術によって循環血液から、容易に大量精製することが可能なHSCを随意に得ることが必須であり、これはまさに、本発明の組成物またはそれを含有する医薬によって得られる状態といえる。
【0019】
本発明の組成物は、無処置では1%にも満たない細胞しか検出できない循環HSCの割合を200倍も増幅させる結果、循環血液中の細胞を使用して、細胞破壊後に造血機能を再構築する方法の開発を企画できるようになった。
【0020】
このHSCに対する影響は、以下の実施例7に示すように、前記幹細胞の分化段階にかかわらず起こる。
【0021】
本発明は、あるMDP誘導体の新しい特性の発見の結果としてなされたものであり、活性成分として次式(I)、(II)または(III)で表される少なくとも一つの化合物を含むことを特徴とする、ある種の治療による骨髄毒性を予防または治療すること、および/または造血機能を刺激することを目的とした新規薬学的組成物に関する。
【0022】
すなわち、上記活性成分は、
【化1】
【0023】
ここで、R = HまたはCH3
X = L-AlaまたはL-Thr
Rx = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
Ry = OH(Rx= NH2の場合を除く)またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
または、次式(II)のムロクタシン(muroctasine):
Nac-Mur-L-Ala-D-イソGln-Nσ-ステアロイル-L-Lys
【化2】
【0024】
または以下の式(III)のMTP-PE:
モノナトリウムNac-Mur-L-Ala-D-isoGln-L-alanyl-2-(1’,2’-ジ-パルミトイル-sn-グリセロ-3’-フォスフォリル)エチルアミドである。
【化3】
【0025】
式(I)に相当する化合物のなかで、特に印象的な例は、以下の式で表されるムラジメチドである。Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMe
この組成物は、血液中に存在する成分、特に赤血球および血小板を正常またはそれ以上に回復させることができる。
【0026】
式(I)、(II)または(III)の化合物の用量が、ヒトまたは動物のkg体重あたり0.1〜25mgの経口投与、または有効成分の量がkg体重あたり0.05〜2.5mgの全身投与になるような組成により、これらの化合物の希望の効果を得ることができる。
【0027】
AZTを用いる治療は、骨髄毒性という欠点を有する。驚くべきことに、式(I)または(II)または(III)の誘導体を下記の一般式(IV)のヌクレオシド誘導体とともに投与すると、血液中のHSCレベルが10〜300倍、200倍前後増加するので、有利には、本発明の組成物は、式(I)、(II)または(III)の誘導体とともに式(IV)の誘導体をも含む。
【化4】
【0028】
Bは、プリンまたはピリミジン塩基であり、
R = H、N3またはハロゲンである。
【0029】
この誘導体の例は、3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)である。また、AZTに類似した骨髄毒性および抗レトロウイルス活性を示す全てのヌクレオシド、特にデオキシリボースではなくリボースを含むヌクレオシドと組み合わせることができる。これ以降、本明細書中で我々がAZTというときはいつも、当業者は同様の使用において、他のヌクレオシドを用いることが可能であり、AZTと同等であると考えられることが分かるであろう。
【0030】
本発明の組成物において、AZTをMDP誘導体と組み合わせるときには、当該組成物は、1〜150mg/kgの1日用量を経口または全身投与し得る量のAZTを含有し、この1日投与量は1回でまたは数回に分けて投与することが可能である。
【0031】
式(I)、(II)または(III)のMDP誘導体と同時に式(IV)の誘導体を投与するには、
− 少なくともこれら2種類の化合物を含む医薬(このような医薬は本発明の一部である)によって、または
− 各々が1種類の化合物を含む医薬を同時に投与するか(同時に投与するとは、少なくともある期間、それらの効果が重複して発現していることである)または、
− 同一の分子に式(I)と(IV)の化合物を結合する複合体を生成することによって行われる。
【0032】
同時投与とは、同じ処方で経口または全身投与されるか、または逆に、二つの別個の処方で、一つまたは他の有効成分の効果が同時に生じるように十分に短い時間間隔で投与することを意味することが、当然に理解されよう。
【0033】
本発明はまた、抗骨髄毒性効果を示すか、または循環血液中に造血性幹細胞を動員することができる複合体であって、以下の式のうちの一つで特定される複合体に関する。
【0034】
第一は、
【化5】
【0035】
ここで、R = HまたはCH3
Rα = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
X = L-AlaまたはL-Thr
x = 0,1,2
Y = アミノ酸残基
ここで、Aは、5’位のデオキシリボース残基にヒドロキシル官能基またはアミン官能基を有し、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含むヌクレオシドである。
【0036】
式(V)に相当する有利な複合体は、以下の通りである。
【0037】
R = CH3
X = L-Ala
x = 1
Y = L-Ala
Rα = OCH3
本発明による別の複合体は、以下の式に相当するものである。
【化6】
【0038】
ここで、X = L-AlaまたはL-Thr
Yは、ジカルボン酸、特にコハク酸残基のようなアームである
Z = OまたはNH
R = HまたはCH3
RαおよびRγは、式(I)中と同じ意味であり、
Aは、デオキシリボース残基の5’位にヒドロキシル官能基またはアミン
官能基を有し、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含むヌクレオシドである。
【0039】
式(VI)に相当する有利な複合体は、以下の通りである。
【0040】
X = L-Ala
R = CH3
Rα= OCH3およびRγ= OCH3
xY = CO-(CH2)2-CO
Z = O
Aは、AZTである。
【0041】
本発明はまた、ある種の治療または医薬による骨髄毒性効果の拮抗剤として用いることができる薬学的組成物であって、経口または全身投与において薬学的に許容可能な担体とともに、活性成分として式VまたはVIの複合体を含むことにより特徴付けられる組成物に関する。
【0042】
これらの化合物は新規であり、これらを合成する方法も本発明の一部をなす。
【0043】
式(V)の化合物を合成するためには、2’-デオキシリボヌクレオシドのプリンまたはピリミジン残基中に存在するであろうアミンまたはヒドロキシル官能基を、一時的な保護を与える基によって一旦マスクする。すなわち、ヌクレオシド誘導体の5’位の官能基は、メシル基(これはアジドに変えられ、最終的にはアミン官能基へと水素化することができる)を経て、任意にアミン官能基に変換することができる。ヌクレオシド誘導体の3’位の官能基は、水素、ハロゲン、アジド基、またはアジド基もしくはハロゲンのような求核試薬で置換することができるメシル基の中のいずれかである。
【0044】
混合無水物法、あるいはカルボジイミド法を用い、任意にイミダゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールまたは代わりにDMAP(ジメチルアミノピリジン)のような添加剤を用いて、ヌクレオシド誘導体の5’位のヒドロキシルまたはアミン官能基を、Rγがヒドロキシルまたはアミノ酸残基である式(I)のムラミルペプチド誘導体に結合させる。
【0045】
Rγがアミノ酸残基であれば、まず、ヌクレオシド誘導体と保護されたアミノ酸との結合にを行い、次いで脱保護の後、グルタミン酸のγ-カルボキシル基が遊離している式(I)のムラミルペプチド誘導体への結合を行うことができる。
【0046】
過程の最後で、(V)型の複合体を得るために、存在し得る一時的保護基を除去し、適切であれば3’位のメシル基を、アジドまたはハロゲンに転換する。
【0047】
その他の方法では、
i)ヌクレオシド誘導体の5’位のヒドロキシルまたはアミン官能基と保護されたアミノ酸とを結合し、続くステップで、ペプチド合成技術にしたがい、
ii)適切に保護されたD-グルタミン酸誘導体を結合し、
iii)保護されたL-アラニンまたはL-スレオニンを結合し、
iv)保護されたN-アセチルムラミン酸誘導体を結合する。
【0048】
操作の終わりに、(V)型の複合体を得るために、最終的には一時的保護基を除去し、適切な場合には、3’位のメシル基をアジドまたはハロゲンに転換する。
【0049】
式(VI)の化合物を合成するために、2’-デオキシリボヌクレオシドのプリンまたはピリミジン塩基の残基中に存在するであろうアミンまたはヒドロキシル官能基を、一時的保護を与える基で一旦マスクする。すなわち、ヌクレオシド誘導体の5’位の官能基は、(これは最終的に水素化してアミン官能基にすることができるアジド官能基に修飾し得る)メシル基を経て、任意にアミン官能基に変換することができる。
【0050】
ヌクレオシド誘導体の3’位の官能基は、水素、ハロゲン、またはアジド基、またはアジド基もしくはハロゲンのような求核試薬で置換することができるメシル基の中のいずれかである。
【0051】
混合無水物法、あるいはカルボジイミド法、任意にイミダゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールまたは代わりにDMAP(ジメチルアミノピリジン)を用いて、ヌクレオシド誘導体の5’位のヒドロキシルまたはアミン官能基を、Aが欠如した式(VI)のムラミルペプチド誘導体に結合させる。:
アノマー水酸基(C1)は、一時的に保護されているか、または保護されておらず、
ZはNHまたはOであり、
Yは、ジカルボン酸残基、特にコハク酸残基である。
【0052】
このようなムラミルペプチド誘導体は、式(I)のムラミルペプチド誘導体から調製されるが、この合成法は現在では非常によく知られたものであり、水素化分解可能なベンジルグルコシドまたは他の適切な基で一時的にアノマーヒドロキシル基(C1)を保護し、水素化分解可能なベンジリデン基または酸分解可能なイソプロピリデン基で、4および5位のヒドロキシル基を保護するものである。一時的保護を除去することにより、主要なヒドロキシル官能基(C6)を解離させ、例えばコハク酸基で置換、または最終的に水素化してアミン官能基にすることができるアジド官能基に修飾し得るメシル基を経て、アミン官能基に変換することができる。このアミン官能基は、それから、例えばコハク酸基で置換される。
【0053】
過程の終わりに、(VI)型の複合体を産生するために、存在している一時的保護基を除去し、適切であれば、3’位のメシル基はアジドまたはハロゲンに変換される。
【0054】
本発明はまた、単独もしくは式(IV)の化合物と組み合わせた式(I)、(II)、(III)、(V)または(VI)の化合物の使用であって、ある種の治療または医薬による骨髄毒性効果に対する拮抗剤として、または一般的血液循環において造血機能を刺激することができる医薬の製造における使用に関する。
【0055】
特に、AIDSまたはある種の癌を治療するための化学療法の骨髄毒性効果を打ち消すのに、このような使用を推奨する。
【0056】
組み合わせという用語は、二つの化合物を同一の薬学的組成物中で投与するか、または別個の組成物であるが、各成分の少なくとも一部の効果が同時に発現するような時間間隔内にヒトまたは動物に投与することを意味する。
【0057】
このような使用により、問題の医薬品は循環血液中の造血性幹細胞を増加させることができる。自家移植もしくは同種移植で骨髄移植を行う場合に、あるいは遺伝子治療を行うためにHSCを使用する場合に、この種の増加は有用である。何故ならば、先に説明したように、HSCによって構成される全能性幹細胞は、患者に全身性再投与をした後、異種遺伝子を十分に発現させるための最良の候補だからである。必然的に、与えられた時間内に、随意に血中のSHCはきわめて高濃度になり、従って長期間反復投与する場合に推奨される通常の用量より多量のAZTを、短い時間間隔で与えることが適切となる。さらに、非経口、経口または全身投与にかかわらず投与すべきAZTの用量は似ており、同じような範囲内にある。
【0058】
この使用は、式(I)の化合物が式Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMeのムラジメチド、または式(II)の誘導体がムロクタシン(muroctasine)、または式(III)の誘導体がMTP-PEであることを特徴とする。
【0059】
本発明の好適な使用において、式(IV)の化合物は、3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)である。
【0060】
最後に、本発明は、ある種の化学療法の骨髄毒性効果を打ち消すために、あるいは血液中のSHC濃度を増大させるために、本発明の組成物を用いて治療する方法を含む。
【0061】
以下の実施例は、新しい使用法において、一群の化合物のうちの一つがもつ全く驚くべき効果を示すことを目的とし、制限を示唆するものではない。実施例は、マウスを用いて行われたものであり、明細書中に記載された表1、2および3と図1〜13によって示されている。下記にその意味するところを説明するとともに、式(I)に含まれるクラスの成分のうちの一つ、すなわちムラジメチドが有する特別の効果について、抗骨髄毒性効果および血流中へのHSCの動員をともに明確に実証する。この効果は、MDPAのような他のMDP誘導体または骨髄球を刺激するために通常用いられる、GM-CSFのようなリンフォカインを用いても生じない。
【0062】
実施例1−単独投与されたムラジメジドの活性
下記の表1は、25mg/kgの用量で単独投与されたムラジメチド処置後の時間に対して、白血球、好中球、リンパ球および骨髄球数を示したものである。
【0063】
前記処置は、静脈内投与によって、4日間連続で行った。
【0064】
表1
4日間連続で、マウスをムラジメチド(25mg/kg)で静脈内投与したときの、正常な循環白血球数(特に、好中球とリンパ球)および未成熟循環白血球数(骨髄球)の変動に対する影響。
【表1】
【0065】
この表は、単独投与されたムラジメチドが、3日および4日目に、きわめて有意な循環骨髄球数の増加を誘導したことを明確に示している。
【0066】
実施例2−好中球、白血球および骨髄球数の増加に及ぼすAZT処理後のムラジメジド処理の影響
AZTの単独処理は、従来どおり、循環白血球および好中球数の減少を引き起こす。減少後、処理開始後およそ4〜7日に回復する。AZT40mg/kgで処理後、ムラジメチドを全身的または経口的に投与した場合、細胞数の減少はなく、逆に、既に4日後には白血球数が少なくとも1.5倍、好中球数が3倍増幅されている。この結果を下の表2にまとめる。
【0067】
0〜3日目に、雄のCDIマウス(グループあたり5匹)に対してkgあたり40mgの用量でAZTを投与した。同じ日に、静脈内にkgあたり10mgまたは経口でkgあたり50mgの用量で、ムラジメチドを投与した。細胞の計数は、0日目(処理前)および3日目と4日目に行った。
【0068】
表2:AZT(40mg/kg)の静脈内投与によって引き起こされた細胞数の変動に対する、マウスへのムラジメチドの静脈内または経口処置の影響:
【表2】
【0069】
表2は、投与様式にかかわらず、ムラジメチド存在下では、骨髄球または前骨髄球の割合が顕著に増加していることを示している。
【0070】
実施例3−赤血球および血小板に対する、AZTとムラジメチドの同時経口処置の影響
赤血球および血小板数に対する7日間の処置の影響を、それぞれ図9と図10に示す。計数は、0日において得られたカウントに対する百分率として示されている。雌BALB/cマウス(グループあたり5匹)を、7日間連続で毎日1回、100mg/kg AZT(△)、50mg/kg AZT(□)または100mg/kg AZTと50mg/kgムラジメチドで同時(○)に処置した。0日から処置開始後10日まで、血小板または赤血球の計数を行った。AZT、ムラジメチドまたはAZTとムラジメチドの混合物のいずれについても血小板に対する毒性は観察されなかった。血小板数は、4日〜5日目に上昇する傾向がある。他方、処置群で貧血が見られることがあるのは、出血が繰り返されるためかもしれない。それにもかかわらず、AZT単独処置群で観察されるのに比べて、二つの生産物の混合物で処置した動物は、貧血の割合と程度が非常に減少している。このことは、混合物が、AZTの毒性を打ち消す効果は、白血球だけではなく、赤血球にも及ぶ可能性があることを示唆している。
【0071】
実施例4−AZTとムラジメチドの同時経口処置後のHSCの動員
下記の表3と図11は、kgあたり50mgのAZT投与前、同時または投与後に、マウスをムラジメチドで経口処置したときの循環骨髄球数に対する影響を、4日間毎日投与してから24時間後に試験した結果を示す。
【表3】
【0072】
処置前の平均循環骨髄球数は、5つのグループで1mlあたり3〜15×104細胞である。
【0073】
「p-値」は、Mann-WhitneyのU階級テストで算出した。
【0074】
NSは、差が有意でないことを示す。この表から、AZTとムラジメチドの共同効果があるときは、循環骨髄球は、およそ200増加することが確認される。組み合わせた2つの構成成分は、経口で同時にまたは別の時間に投与した。
【0075】
図11は、第一週には0,1,2および3日目に、第二週には7,8,9および10日目に、25mg/kg MDM(×)、50mg/kg AZT(○)および二つの混合物(□)で2週間処置したときの、マウスの骨髄球数に対する影響を示している。ムラジメチド単独でも、およびムラジメチドとAZTの混合物では特に、SHCの動員に対して顕著な効果を有するが、AZT単独ではほとんど効果がないことが明白である。効果は第一週において特に顕著であり、このことは異なる処置サイクル間では、処置にはある種の時間経過が必要であり、適切な場合には、反復処置が有用であることを示している。
【0076】
実施例5− AZT、MDMおよびこれらの化合物の混合物を経口処置したときの脾臓摘出マウスの循環骨髄球数に対する影響
マウスでは、造血活性をもつ臓器は、骨髄の他には脾臓しかないということが知られている。MDMとAZTの混合物がSHCの動員に及ぼす影響が、脾臓由来なのか骨髄由来なのかを決定するために、50mg/kgのAZT(○)、25mg/kgのMDM(△)およびこれらの化合物の混合物(○)を10日前に脾臓を摘出したマウスに投与した。得られた結果を図12に示す。4日連続で混合物を投与すると末梢循環中に循環骨髄球が顕著に出現するが、これは正常マウスにおいて観察されるのと同じ程度の強度であり、既に二度目の投与でSHCの増加が見られる(図11)。このことは、SHCの動員が脾臓由来ではなくて、骨髄由来であることを明確に示しており、骨髄が造血機能を担う主要組織であるヒトに対して、このような治療を行うことを類推する上できわめて重要である。
【0077】
実施例6−AZT、MDMまたはこれらの化合物の混合物を経口投与したときの、シクロフォスファミド処置マウスにおけるHSC動員に対する影響
上記処置が、化学療法における細胞毒性効果を打ち消す効果を、シクロフォスファミドでマウスを処置することによって研究した。
【0078】
0日において、マウスにシクロフォスファミド(200mg/kg)を単回皮下注射し、4つのグループに分けて、生理学的食塩水(×)、50mg/kg AZT(□)、25mg/kg MDM(△)およびこれらの化合物の混合物(○)を経口で与えた。経口処置は、0,1,2,および3日目になされ、処置開始後14日目まで細胞数の評価を行った。その結果を図13に示す。ここでも、きわめて強い動員が起こっているのが明確に見られ、特にAZTとMDMの混合物存在下で最も顕著である。程度は弱いが、MDMの単独投与においても、循環好中球数に対する同様の効果が観察された。
【0079】
実施例7−本発明の組成物が、分化段階が異なるHSCの動員に及ぼす影響
これらの実験の目的は、循環血液中に異なるHSC群が存在することを実証することである。
【0080】
CFAC(coblestone area forming cells)およびLTC-IC(long term culture-initiating cells)のような培養液中の識別可能な最も原始的段階のもので、分化の兆候を示していないものから、HPP、LPP-CFU(それぞれ、高増殖能および低増殖能コロニー形成単位)のような中間段階を経たGM-CFU(顆粒球マクロファージコロニー形成単位)までの段階において探索がなされた。全てのケースで、培養条件、特に期間は、異なる群を最適に検出することができるように選択した。
【0081】
この研究のために、生理的食塩水(×)、50mg/kg AZT、25mg/kg MDMおよび二つの混合物の投与が、循環HSC数に対して及ぼす影響を比較した。精製後の単核細胞を5日間培養してGM-CFU(顆粒球マクロファージコロニー形成単位)を計測し、28日間培養して低増殖能(LPP)および高増殖能(HPP)CFUを計測した。CAFCは、培養14日後に計数を行い、LTC-ICは28日後に行った。結果は、それぞれ図14a,14b,14cおよび14dに示されている。マウス(グループあたり10匹のBalb/c)に、1日1回3日間連続で、生理学的食塩水、AZT、MDMまたは二つの混合物を、上記の用量で投与した。最後の投与から24時間後に、各群の全てのマウスから採血した。図14a,14b,14cに示されている実験では、単核細胞を密度勾配上で分離し、GM-CFUの場合は5日間、LPP-CFUの場合は28日間、半固形培地中で培養した。これらの全ての図において、MDM単独での効果、さらにMDMとAZTの混合物の効果が明瞭である。
【0082】
この処置がCAFCおよびLTC-ICに及ぼす影響を測定するために、生産物を最後に投与してから24時間後に採血し、単核細胞を精製して、放射能を受けた細胞の栄養層上で、異なる細胞密度にて培養した。計数は、培養を開始してから14日後に行い、生理学的食塩水で処置した対照細胞で得られた細胞数に対するパーセントで表されている。図は、3または4つの独立した実験の平均である。培養を28日間継続すると、LTC-IC(long term culture-initiating cells)が形成されるが、処置後28日における、これらの細胞の形成に対する影響は、CAFCの場合に観察されるものと類似している。
【0083】
これらの実験は全て、AZTとMDMを同時に経口処置すると、どのような分化段階にあるHSCの動員に対しても非常に効果的な影響を及ぼすことを示す。
【0084】
実施例8−非骨髄毒性量または骨髄毒性量のAZTと組み合わせて、マウスをムラジメチドで経口処置したときの、循環白血球および好中球数の変化に対する影響
この影響は、図1および2に示してあり、図1Aと2AはAZTが非骨髄毒性量の場合、図1Bと2BはAZTが骨髄毒性量の場合を示している。
【0085】
この実験においては、0,1,2および3日目において、雌のスイスマウスにkgあたり5または40mgのAZTを静脈内投与した。4日間毎日、AZTの投与4時間前に、5匹の個体からなるマウスのグループに対して緩衝液またはkgあたり25mgの用量でムラジメチドを与えた。
【0086】
細胞の計数は、0,1,2,3,4および7日になされた。ヒストグラム上のアスタリスクは、得られた結果が、処理前に観察されたレベルと有意に異なっていることを示している。
【0087】
図3に、骨髄球を計数している、同様の実験を示す。
【0088】
図1,2および3の3つの図から、処置の開始から4日後に効果が最大であることが明らかである。このことは、刺激後に白血球と好中球が正常レベルに復活する傾向があるという事実によって容易に説明され、骨髄球に関しては、ベースラインへ回復することは、上記の場合(遺伝子治療、骨髄移植、自家移植および類するもの)に人工的刺激が、非常に有用であることを意味している。HSCは成熟細胞に分化し、および/または臓器中に定着するという事実より、効果の消失は当然のことであるといえる。
【0089】
実施例9−ムラジメチドとGM-CSFの効果の比較
AZT処理を受けたマウスを、ムラジメチドに対して用いたのと同条件下にて、GM-CSFで処理した場合、AZTとムラジメチドを組み合わせて使ったときに観察されたのは対照的に、白血球数と好中球数は増加を示さない。他方、単球数の増加はみられた。図4,5,6および7は、マウスをムラジメチドまたはmGM-CSFで処理したときの、AZTの静脈内投与後の循環好中球、循環白血球または循環単球または循環骨髄球の変化に及ぼす影響をそれぞれ示している。
【0090】
0,1,2および3日目において、雌のスイスマウスにkgあたり40mgのAZTを静脈内投与した。 AZTの投与4時間前に、マウスのグループに対して(グループあたり5匹)、生理学的食塩水、またはkgあたり25mgのムラジメチド、またはkgあたり125μgのmGM-CSFを静脈内投与した。計数は、0,2,3,4,および8日になされている。ヒストグラム上のアスタリスクは、0日目の処理前に得られた値と比べて、数に有意な差があることを示している。mGM-CSFが単球数を増加させることができるのに対して、ムラジメチドは好中球および白血球に著明な影響を及ぼすことが分かる。さらに、GM-CSFとは異なり、ムラジメチドは血液中のHSCを極度に上昇せしめる。
【0091】
mGM-CSFとムラジメチドとの効果の比較は、図7に明示されており、GM-CSFがHSCの動員を起こさない条件下で、ムラジメチドは動員を起こすことが明らかに示されている。
【0092】
実施例10−ムラジメチドと他のMDP誘導体との効果の比較
ムラジメチドの特別な効果を実証するために用いた誘導体は、MDPAである。図8は、マウスに経口処置を行い、つづいてAZTを静脈内投与することによって引き起こされた骨髄球数の変化を示している。この実験では、0,1,2および3日目において、雌のスイスマウスにkgあたり40mgのAZTを静脈内投与した。4日間同じ日に、AZTの4時間前に、5匹のマウスからなる各グループに対して、生理学的食塩水、またはkgあたり25mgのMDPA、またはkgあたり25mgのムラジメチドを経口投与した。骨髄球の計数は、0,2,3,4および8日目に行った。ヒストグラム上のアスタリスクは、前の図と同じ意味である。
【0093】
式(I)の誘導体、特にムラジメチドの特性が、全てのムラミルペプチドに共通する特性と異なることは明らかである。このことは、MDPA(ムラジメチドはMDPAのジエステル誘導体である)との比較によって、特に十分に実証される。
【0094】
実施例11−N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミン α-メチルエステル γ-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン(式V)
a)Boc-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン(1)の合成
102mg(1mmol)のジメチルアミノピリジンを含むジメチルホルムアミド無水物20ml中に溶かしたBoc-L-アラニン189mg(1mmol)に、206mg(1mmol)のN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加する。反応混合物に267mg(1mmol)の3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)を添加し、24時間室温で攪拌する。ジシクロヘキシル尿素の沈殿物を濾過した後、真空下で反応混合物を濃縮した。シリカゲルのカラムで精製した後、最終的に生成物を得る。
【0095】
b)L-アラニン3’-アジド-3’デオキシチミジン塩酸(2)の合成
氷酢酸中の1N塩酸溶液2mlに、260mg(0.6mmol)の(1)を溶解する。室温で30分後、反応混合物を乾燥するまで濃縮する。得られた残留物をアセトン中に入れ、乾燥するまで濃縮する。このプロセスを数度繰り返し、真空下で乾燥した残留物をそのまま次のステップで用いる:225mg(100%)。
【0096】
c)N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック α-メチルエステル γ-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン(3) (式V)の合成:
10mlのジメチルフォルムアミド無水物に溶かした507mg(1mol)のN-アセチルムラミル-L-アラニルD-グルタミックα-メチルエステル()に、 -15℃で0.11ml(1mmol)のN-メチルモルフォリンと0.13ml(1mmol)のイソブチルクロロ炭酸を順次添加する。5分後、0.11mlのN-メチルモルフォリンを含んだ、-15℃に冷却した5mlのジメチルホルムアミドに溶かし、225mg(0.60mmol)の(2)を加える。-15℃で、反応混合物を24時間攪拌した後、真空下で濃縮する。エタノールと水の混合液で、Lichroprep RP18(Merck)カラムから溶出して、精製した後、最終的に生成物を得る。(3)の水溶液を凍結乾燥することによって、(3)が最終的に得られる。:272mg(60%)
実施例12−6-O-(サクシニル-3’-アジド-3’-デオキシチミジン)-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル(式VI)の合成
a)α-ベンジル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステルの合成:
1.4g(2mmol)のα-ベンジル-4,6OBZi-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル(1)を、完全に溶解するまで、56%酢酸水溶液100ml存在下で還流処理する。真空下で、反応混合物を濃縮する。得られた残留物を、順次水、トルエンおよびに入れて濃縮し、真空下で乾燥する。クロロホルムとメタノールの混合物で、シリカゲルカラムから溶出して、(1)を精製する。:305mg(50%)
b)6-O-サクシニル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミックジメチルエステル(2)の合成:
10mlのピリジン無水物に溶かした300mg(1mmol)の(1)に、44mg(4mmol)のコハク酸無水物を添加する。反応混合物を室温で4日間攪拌した後、真空下で濃縮する。得られた残留物をアセトンに入れ、数回濃縮した後、真空下で乾燥する。得られた生成物(α-ベンジル-6-O-サクシニル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル)を15mlの氷酢酸に溶かし、100mgの木炭上の5%パラジウム100mg存在下で、大気圧にて4時間水素化を行う。触媒を濾過して取り除いた後、反応混合物を真空下で濃縮する。得られた残留物をアセトンにいれ、数回濃縮した後、真空下で乾燥させる。次に、水に入れ、AG1X2(H+)(BIORAD)カラムにかけ、酢酸水溶液の勾配で溶出して精製する。最終的に、(2)の水溶液を凍結乾燥して、(2)を得る。:450mg(70%)
c)6-O-(サクシニル-3’-アジド-3’-デオキシチミジン)-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル (3)(式VI)の合成
0.05ml(0.5mmol)のN-メチルモルフォリンと0.06ml(0.5mmol)のイソブチルクロロ炭酸を、10mlのジメチルホルムアミド無水物に溶かした320mg(0.5mmol)の(2)に、-15℃下で順次添加する。5分後、267mg(1mmol)の3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)を添加する。反応混合物を、15℃で24時間攪拌し、真空下で濃縮する。Lichroprep Rpli(Merck)にかけ、エタノールと水の混合物で溶出して、最終的に生成物を得る。(3)の水溶液を凍結乾燥して、最終的に(3)を得る。:440mg(50%)
他方、式(I)、(II)、(III)式の化合物は、式(IV)の誘導体または式(V)および(VI)の新規複合体(実は、式(I)と式(IV)の化合物が共有結合したもの)と組み合わせると、きわめて使用範囲の広い、新しいクラスの医薬が得られる。実施例と特許請求の範囲の記載以外でも、血液中の細胞数の変化を元に戻す必要がある場合には、または何らかの理由で、血液循環から骨髄球を採取することが必要なときには、それらを使用することができるはずである。本記述の冒頭で説明したように、HSCはきわめて重要な全能性の細胞である。本発明によって、痛みを伴う長期的な処置が不要になり、一度血液サンプルをとるだけで、生物学的ツールとしてまたは治療目的で、それらを採取することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、非骨髄毒性量(kgあたり5mg)(図1A)または骨髄毒性量(kgあたり40mg)(図1B)のAZTとともにムラジメチドをを用いて経口的にマウスを処置したときの、循環白血球の変化に対する影響を示している。
【図2】図2は、好中球数についての同様な図である。図2Aは非骨髄毒性量のAZT(kgあたり5mg)で行った実験、図2Bは骨髄毒性量のAZT(kgあたり40mg)で行った実験を示している。
【図3】図3は、骨髄球数について同様に表したものである。図3Aは非骨髄毒性量のAZT(kgあたり5mg)を示し、図3Bは骨髄毒性量のAZT(kgあたり40mg)を示している。
【図4】図4は、AZT投与後における、ムラジメチドとrmGM-CSF(recombinant mouse GM-CSF)の循環好中球数に対する影響を示している。
【図5】図5には、循環白血球数に対する同様の比較を示している。
【図6】図6には、循環単球数に対する同様の比較を示している。
【図7】図7には、循環骨髄球数に対する同様の比較を示している。
【図8】図8は、マウスにおいて、AZTの静脈内投与により誘起された、循環血液中の骨髄球数の変化に対する、ムラジメチドを経口的に用いた処置の影響を表している。比較している二つのMDP誘導体は、MDPA(Nac-Mur-L-Ala-D-Glu)とムラジメチドである。
【図9】図9は、7日間連続でAZT、ムラジメチド(MDM)またはこれらの化合物の混合物を経口的にBALB/cマウスに与える処置が、血小板数に及ぼす影響を表している。
【図10】図10は、7日間連続でAZT、ムラジメチド(MDM)またはこれらの化合物の混合物を経口的にBALB/cマウスに与える処置が、赤血球数に及ぼす影響を表している。
【図11】図11は、2週連続(1週あたり4日)でAZT、ムラジメチド(MDM)または両者の混合物を経口的にBALB/cマウスに与える処置が、循環骨髄球数に及ぼす影響を表している。
【図12】図12は、図11に示されたものと同種の実験を表しており、脾臓摘出を行ったマウスに対する影響をみている。
【図13】図13は、細胞毒性をもつ薬物(シクロフォスファミド)を事前に投与する処置を行った正常マウスに対する、類似の実験を表している。
【図14−1】図14−1は、生理的食塩水、50mg/kg AZT、25mg/kg MDMおよび二つの混合物の投与が、循環HSC数に対して及ぼす影響を比較している。
【図14−2】図14−2は、生理的食塩水、50mg/kg AZT、25mg/kg MDMおよび二つの混合物の投与が、循環HSC数に対して及ぼす影響を比較している。
【発明の開示】
【0001】
本発明は、造血機能を刺激して、骨髄由来の幹細胞を大量に動員し、血流中に生じせしめることができる薬学的組成物に関する。本発明が提供し得るのは、
1)新しい抗骨髄毒性治療
2)骨髄幹細胞の新しい採取方法であって、
a)自己移植または同種移植
b)遺伝子治療技術における使用
を目的とする骨髄生検を代替し得る方法である。
【0002】
前記薬学的組成物は、下記の一般式(I)のMDP誘導体を少なくとも一つ含み、本発明の主題として特に印象的な例は、式Nac-Mur-L-Ala-D-Glu-[OCH3]-OCH3で表されるムラジメチド(Muradimetide)またはMDPAジメチルエステルである。
【0003】
ムラミルペプチドおよびそれらのエステル誘導体は、N-アセチル-ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(MDP:ムラミルジペプチド)として初めて記載されて以来、多くの刊行物および特許に記載されてきた一群の分子である。
【0004】
簡潔にいえば、それらは、免疫アジュバント活性、抗感染活性、抗癌活性、抗アレルギー活性およびサイトカインの分泌調節を含む多様な生物学的活性を示し得る。しかしながら、これらのムラミルペプチドの多くは、非常に有用な生物学的活性を示しながらも、しばしば副作用や欠点(特に毒性効果または水溶液中への低溶解性による処方の難しさ)をも発現するため、医薬として用いることが妨げられている。
【0005】
さらに、ムラミルペプチドは、作用スペクトルが非常に広い。
【0006】
ごく最近、下記の一般式(I)で表されるムラミルペプチドジエステル、特にムラジメチドは、免疫刺激性という特別な性質を有し、同時に、効能、処方、無毒性など、他のMDP誘導体には見られなかった多数の有用性をもっていることが示されてきた。特に外部からの投与(特にエアロゾルおよび経口による)で活性な免疫活性調節物質であるため、この免疫刺激薬をより広くまた柔軟に使用することができると予想される。また、全身投与を行ったときの許容度が高いという利点もある。 MDP誘導体に関して既に記載された特性の、本質的な特色は、液性または細胞性免疫システムの増強に関連している。
【0007】
驚くべきことに、本発明は、下記の式(I)、(II)、(III)で表されるいくつかの型のMDP誘導体を、適切であれば式(IV)の化合物または式(V)と(VI)の複合体と組み合わせると、とりわけAZTを何度も投与することによって循環白血球のレベルがかなり減少した後に、正常または未成熟な血液成分(特に循環血液中の好中球)を増大せしめるという発見の結果である。事実、薬学的組成物を投与後、骨髄球/前骨髄球の大幅な増加を伴って、血流中の正常な白血球が増加し、次に好中球が、その後リンパ球が増加することが観察された。もっとも特筆すべきは、極度の骨髄毒性を示す用量のAZTによる処置と組み合わせた後でさえも、この効果は大変強く観察されたことである。
【0008】
全ての血液細胞は、骨髄に由来する共通の幹細胞から生じる。分化の最終段階に達する前に、これらの細胞は異なる段階を経る。多分化能性幹細胞は、TまたはB前リンパ細胞、または赤血球・骨髄球・顆粒球および骨髄核細胞の(myelokaryocytic)幹細胞のうちのいずれかに分化する。これらの異なる中間段階の中では、それらを形態的に区別することができないので、最も幼若なもを前骨髄球/骨髄球という用語で、最も分化に間近いものを後骨髄球という用語で示す。
【0009】
これ以降の本明細書中では、これらの未分化細胞を、集合的にHSC(Hematopoietic Stem Cell:造血性幹細胞)と称する。
【0010】
正常状態では、HSCのレベルは、血液中に存在する白血球の1%程度である。
【0011】
以下の三つのケースにおいては、造血を亢進させ、HSCを動員することが有用である。
【0012】
1)ある種の薬物の骨髄毒性作用を打ち消し、血液細胞(特に好中球)を正常レベルに維持する
2)骨髄細胞の同種または自己移植のために、骨髄生検の替わりに、循環血液中の高レベルのHSCを採取する
3)ある種の遺伝子治療を行うための担体として用いるために、循環血液中から高レベルのHSCを得る。
【0013】
1)抗骨髄毒性治療:
癌やAIDSの化学療法、免疫療法または放射線療法のように、治療または医薬のなかには、造血機能を低下させ、治療中の感染リスクを著しく増大せしめるものがある。本発明の薬学的組成物は、骨髄毒性により生じる免疫系細胞、特に好中球の減少を打ち消すことができる。さらに、免疫療法、特にサイトカインを用いる治療の中には、細胞毒性を生じるものがあるが、本発明の組成物は、これに対する拮抗剤の役割を果たすことができる。
【0014】
2)骨髄移植の実施を可能にする細胞を得る:
強烈な化学療法または放射線療法による抗癌治療は、血液細胞および免疫系細胞の崩壊を起こす。これらのケースでは、造血系は、骨髄細胞の移植によって再構成される。自己移植は、癌が骨髄細胞以外の細胞を冒す場合に行われ、この場合、破壊的な治療の前に、患者自身からサンプルをとる。同種移植(すなわち、適合性のある提供者由来の細胞を使用すること)は、骨髄細胞自体が癌であるときに行われる。
【0015】
どちらの場合においても、骨髄の幹細胞を増やすことは非常に有用であるが、循環血液から幹細胞を大量に採取できるようにして、移植への利用を促進することは最も有用である。事実、現在では、移植の準備のためにHSCの豊富な血液を使用するには、大量のサンプルを多数とらねばならず、これは非常に長期間にわたる。さらに、HSCの増加した血液は、高価かつ許容度の低いサイトカイン(GM-CSF)の投与に引き続き、大量の血液サンプルを多数採取して得られ、これは毎回入院を要する集団的処置を行うことによってなされるので、患者と提供者に苦痛を与える準備を実施する必要がある。本発明の薬学的組成物は、処置からわずか数日後(処置後約4日)に、血液中のHSCの数を200倍も増幅させるので、通院患者から骨髄移植に必要な素材を得ることが可能となる。
【0016】
3)遺伝子治療に使用できる、精製容易な幹細胞の取得
ある種の遺伝子治療技術の使用は、循環血液中のHSCを大量に得ることができるかどうかにかかっている。この目的は、骨髄から精製することが非常に困難なHSCを血液から非常に高い割合で得ることを可能にする本発明の薬学的組成物によって達成され得る。
【0017】
遺伝子治療の前臨床試験および臨床試験により、長寿命で、発現能力が高く、全身に分布するような幹細胞を用いることが必要であることが示された。HSCは、ゴーシェ病のような免疫不全または重度免疫不全(SCID:重症複合免疫不全症)症状を打ち消すか、または骨髄腫、白血病、乳ガンまたは卵巣癌およびそれに類する癌を打ち消すか、または感染性の疾病(特にAIDS)に対する抵抗性を誘導するための、非常に有用な遺伝子担体であることが広く認められている。
【0018】
それ故、これらの目的を満たすためには、通常の細胞分離技術によって循環血液から、容易に大量精製することが可能なHSCを随意に得ることが必須であり、これはまさに、本発明の組成物またはそれを含有する医薬によって得られる状態といえる。
【0019】
本発明の組成物は、無処置では1%にも満たない細胞しか検出できない循環HSCの割合を200倍も増幅させる結果、循環血液中の細胞を使用して、細胞破壊後に造血機能を再構築する方法の開発を企画できるようになった。
【0020】
このHSCに対する影響は、以下の実施例7に示すように、前記幹細胞の分化段階にかかわらず起こる。
【0021】
本発明は、あるMDP誘導体の新しい特性の発見の結果としてなされたものであり、活性成分として次式(I)、(II)または(III)で表される少なくとも一つの化合物を含むことを特徴とする、ある種の治療による骨髄毒性を予防または治療すること、および/または造血機能を刺激することを目的とした新規薬学的組成物に関する。
【0022】
すなわち、上記活性成分は、
【化1】
【0023】
ここで、R = HまたはCH3
X = L-AlaまたはL-Thr
Rx = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
Ry = OH(Rx= NH2の場合を除く)またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
または、次式(II)のムロクタシン(muroctasine):
Nac-Mur-L-Ala-D-イソGln-Nσ-ステアロイル-L-Lys
【化2】
【0024】
または以下の式(III)のMTP-PE:
モノナトリウムNac-Mur-L-Ala-D-isoGln-L-alanyl-2-(1’,2’-ジ-パルミトイル-sn-グリセロ-3’-フォスフォリル)エチルアミドである。
【化3】
【0025】
式(I)に相当する化合物のなかで、特に印象的な例は、以下の式で表されるムラジメチドである。Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMe
この組成物は、血液中に存在する成分、特に赤血球および血小板を正常またはそれ以上に回復させることができる。
【0026】
式(I)、(II)または(III)の化合物の用量が、ヒトまたは動物のkg体重あたり0.1〜25mgの経口投与、または有効成分の量がkg体重あたり0.05〜2.5mgの全身投与になるような組成により、これらの化合物の希望の効果を得ることができる。
【0027】
AZTを用いる治療は、骨髄毒性という欠点を有する。驚くべきことに、式(I)または(II)または(III)の誘導体を下記の一般式(IV)のヌクレオシド誘導体とともに投与すると、血液中のHSCレベルが10〜300倍、200倍前後増加するので、有利には、本発明の組成物は、式(I)、(II)または(III)の誘導体とともに式(IV)の誘導体をも含む。
【化4】
【0028】
Bは、プリンまたはピリミジン塩基であり、
R = H、N3またはハロゲンである。
【0029】
この誘導体の例は、3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)である。また、AZTに類似した骨髄毒性および抗レトロウイルス活性を示す全てのヌクレオシド、特にデオキシリボースではなくリボースを含むヌクレオシドと組み合わせることができる。これ以降、本明細書中で我々がAZTというときはいつも、当業者は同様の使用において、他のヌクレオシドを用いることが可能であり、AZTと同等であると考えられることが分かるであろう。
【0030】
本発明の組成物において、AZTをMDP誘導体と組み合わせるときには、当該組成物は、1〜150mg/kgの1日用量を経口または全身投与し得る量のAZTを含有し、この1日投与量は1回でまたは数回に分けて投与することが可能である。
【0031】
式(I)、(II)または(III)のMDP誘導体と同時に式(IV)の誘導体を投与するには、
− 少なくともこれら2種類の化合物を含む医薬(このような医薬は本発明の一部である)によって、または
− 各々が1種類の化合物を含む医薬を同時に投与するか(同時に投与するとは、少なくともある期間、それらの効果が重複して発現していることである)または、
− 同一の分子に式(I)と(IV)の化合物を結合する複合体を生成することによって行われる。
【0032】
同時投与とは、同じ処方で経口または全身投与されるか、または逆に、二つの別個の処方で、一つまたは他の有効成分の効果が同時に生じるように十分に短い時間間隔で投与することを意味することが、当然に理解されよう。
【0033】
本発明はまた、抗骨髄毒性効果を示すか、または循環血液中に造血性幹細胞を動員することができる複合体であって、以下の式のうちの一つで特定される複合体に関する。
【0034】
第一は、
【化5】
【0035】
ここで、R = HまたはCH3
Rα = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
X = L-AlaまたはL-Thr
x = 0,1,2
Y = アミノ酸残基
ここで、Aは、5’位のデオキシリボース残基にヒドロキシル官能基またはアミン官能基を有し、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含むヌクレオシドである。
【0036】
式(V)に相当する有利な複合体は、以下の通りである。
【0037】
R = CH3
X = L-Ala
x = 1
Y = L-Ala
Rα = OCH3
本発明による別の複合体は、以下の式に相当するものである。
【化6】
【0038】
ここで、X = L-AlaまたはL-Thr
Yは、ジカルボン酸、特にコハク酸残基のようなアームである
Z = OまたはNH
R = HまたはCH3
RαおよびRγは、式(I)中と同じ意味であり、
Aは、デオキシリボース残基の5’位にヒドロキシル官能基またはアミン
官能基を有し、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含むヌクレオシドである。
【0039】
式(VI)に相当する有利な複合体は、以下の通りである。
【0040】
X = L-Ala
R = CH3
Rα= OCH3およびRγ= OCH3
xY = CO-(CH2)2-CO
Z = O
Aは、AZTである。
【0041】
本発明はまた、ある種の治療または医薬による骨髄毒性効果の拮抗剤として用いることができる薬学的組成物であって、経口または全身投与において薬学的に許容可能な担体とともに、活性成分として式VまたはVIの複合体を含むことにより特徴付けられる組成物に関する。
【0042】
これらの化合物は新規であり、これらを合成する方法も本発明の一部をなす。
【0043】
式(V)の化合物を合成するためには、2’-デオキシリボヌクレオシドのプリンまたはピリミジン残基中に存在するであろうアミンまたはヒドロキシル官能基を、一時的な保護を与える基によって一旦マスクする。すなわち、ヌクレオシド誘導体の5’位の官能基は、メシル基(これはアジドに変えられ、最終的にはアミン官能基へと水素化することができる)を経て、任意にアミン官能基に変換することができる。ヌクレオシド誘導体の3’位の官能基は、水素、ハロゲン、アジド基、またはアジド基もしくはハロゲンのような求核試薬で置換することができるメシル基の中のいずれかである。
【0044】
混合無水物法、あるいはカルボジイミド法を用い、任意にイミダゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールまたは代わりにDMAP(ジメチルアミノピリジン)のような添加剤を用いて、ヌクレオシド誘導体の5’位のヒドロキシルまたはアミン官能基を、Rγがヒドロキシルまたはアミノ酸残基である式(I)のムラミルペプチド誘導体に結合させる。
【0045】
Rγがアミノ酸残基であれば、まず、ヌクレオシド誘導体と保護されたアミノ酸との結合にを行い、次いで脱保護の後、グルタミン酸のγ-カルボキシル基が遊離している式(I)のムラミルペプチド誘導体への結合を行うことができる。
【0046】
過程の最後で、(V)型の複合体を得るために、存在し得る一時的保護基を除去し、適切であれば3’位のメシル基を、アジドまたはハロゲンに転換する。
【0047】
その他の方法では、
i)ヌクレオシド誘導体の5’位のヒドロキシルまたはアミン官能基と保護されたアミノ酸とを結合し、続くステップで、ペプチド合成技術にしたがい、
ii)適切に保護されたD-グルタミン酸誘導体を結合し、
iii)保護されたL-アラニンまたはL-スレオニンを結合し、
iv)保護されたN-アセチルムラミン酸誘導体を結合する。
【0048】
操作の終わりに、(V)型の複合体を得るために、最終的には一時的保護基を除去し、適切な場合には、3’位のメシル基をアジドまたはハロゲンに転換する。
【0049】
式(VI)の化合物を合成するために、2’-デオキシリボヌクレオシドのプリンまたはピリミジン塩基の残基中に存在するであろうアミンまたはヒドロキシル官能基を、一時的保護を与える基で一旦マスクする。すなわち、ヌクレオシド誘導体の5’位の官能基は、(これは最終的に水素化してアミン官能基にすることができるアジド官能基に修飾し得る)メシル基を経て、任意にアミン官能基に変換することができる。
【0050】
ヌクレオシド誘導体の3’位の官能基は、水素、ハロゲン、またはアジド基、またはアジド基もしくはハロゲンのような求核試薬で置換することができるメシル基の中のいずれかである。
【0051】
混合無水物法、あるいはカルボジイミド法、任意にイミダゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールまたは代わりにDMAP(ジメチルアミノピリジン)を用いて、ヌクレオシド誘導体の5’位のヒドロキシルまたはアミン官能基を、Aが欠如した式(VI)のムラミルペプチド誘導体に結合させる。:
アノマー水酸基(C1)は、一時的に保護されているか、または保護されておらず、
ZはNHまたはOであり、
Yは、ジカルボン酸残基、特にコハク酸残基である。
【0052】
このようなムラミルペプチド誘導体は、式(I)のムラミルペプチド誘導体から調製されるが、この合成法は現在では非常によく知られたものであり、水素化分解可能なベンジルグルコシドまたは他の適切な基で一時的にアノマーヒドロキシル基(C1)を保護し、水素化分解可能なベンジリデン基または酸分解可能なイソプロピリデン基で、4および5位のヒドロキシル基を保護するものである。一時的保護を除去することにより、主要なヒドロキシル官能基(C6)を解離させ、例えばコハク酸基で置換、または最終的に水素化してアミン官能基にすることができるアジド官能基に修飾し得るメシル基を経て、アミン官能基に変換することができる。このアミン官能基は、それから、例えばコハク酸基で置換される。
【0053】
過程の終わりに、(VI)型の複合体を産生するために、存在している一時的保護基を除去し、適切であれば、3’位のメシル基はアジドまたはハロゲンに変換される。
【0054】
本発明はまた、単独もしくは式(IV)の化合物と組み合わせた式(I)、(II)、(III)、(V)または(VI)の化合物の使用であって、ある種の治療または医薬による骨髄毒性効果に対する拮抗剤として、または一般的血液循環において造血機能を刺激することができる医薬の製造における使用に関する。
【0055】
特に、AIDSまたはある種の癌を治療するための化学療法の骨髄毒性効果を打ち消すのに、このような使用を推奨する。
【0056】
組み合わせという用語は、二つの化合物を同一の薬学的組成物中で投与するか、または別個の組成物であるが、各成分の少なくとも一部の効果が同時に発現するような時間間隔内にヒトまたは動物に投与することを意味する。
【0057】
このような使用により、問題の医薬品は循環血液中の造血性幹細胞を増加させることができる。自家移植もしくは同種移植で骨髄移植を行う場合に、あるいは遺伝子治療を行うためにHSCを使用する場合に、この種の増加は有用である。何故ならば、先に説明したように、HSCによって構成される全能性幹細胞は、患者に全身性再投与をした後、異種遺伝子を十分に発現させるための最良の候補だからである。必然的に、与えられた時間内に、随意に血中のSHCはきわめて高濃度になり、従って長期間反復投与する場合に推奨される通常の用量より多量のAZTを、短い時間間隔で与えることが適切となる。さらに、非経口、経口または全身投与にかかわらず投与すべきAZTの用量は似ており、同じような範囲内にある。
【0058】
この使用は、式(I)の化合物が式Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMeのムラジメチド、または式(II)の誘導体がムロクタシン(muroctasine)、または式(III)の誘導体がMTP-PEであることを特徴とする。
【0059】
本発明の好適な使用において、式(IV)の化合物は、3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)である。
【0060】
最後に、本発明は、ある種の化学療法の骨髄毒性効果を打ち消すために、あるいは血液中のSHC濃度を増大させるために、本発明の組成物を用いて治療する方法を含む。
【0061】
以下の実施例は、新しい使用法において、一群の化合物のうちの一つがもつ全く驚くべき効果を示すことを目的とし、制限を示唆するものではない。実施例は、マウスを用いて行われたものであり、明細書中に記載された表1、2および3と図1〜13によって示されている。下記にその意味するところを説明するとともに、式(I)に含まれるクラスの成分のうちの一つ、すなわちムラジメチドが有する特別の効果について、抗骨髄毒性効果および血流中へのHSCの動員をともに明確に実証する。この効果は、MDPAのような他のMDP誘導体または骨髄球を刺激するために通常用いられる、GM-CSFのようなリンフォカインを用いても生じない。
【0062】
実施例1−単独投与されたムラジメジドの活性
下記の表1は、25mg/kgの用量で単独投与されたムラジメチド処置後の時間に対して、白血球、好中球、リンパ球および骨髄球数を示したものである。
【0063】
前記処置は、静脈内投与によって、4日間連続で行った。
【0064】
表1
4日間連続で、マウスをムラジメチド(25mg/kg)で静脈内投与したときの、正常な循環白血球数(特に、好中球とリンパ球)および未成熟循環白血球数(骨髄球)の変動に対する影響。
【表1】
【0065】
この表は、単独投与されたムラジメチドが、3日および4日目に、きわめて有意な循環骨髄球数の増加を誘導したことを明確に示している。
【0066】
実施例2−好中球、白血球および骨髄球数の増加に及ぼすAZT処理後のムラジメジド処理の影響
AZTの単独処理は、従来どおり、循環白血球および好中球数の減少を引き起こす。減少後、処理開始後およそ4〜7日に回復する。AZT40mg/kgで処理後、ムラジメチドを全身的または経口的に投与した場合、細胞数の減少はなく、逆に、既に4日後には白血球数が少なくとも1.5倍、好中球数が3倍増幅されている。この結果を下の表2にまとめる。
【0067】
0〜3日目に、雄のCDIマウス(グループあたり5匹)に対してkgあたり40mgの用量でAZTを投与した。同じ日に、静脈内にkgあたり10mgまたは経口でkgあたり50mgの用量で、ムラジメチドを投与した。細胞の計数は、0日目(処理前)および3日目と4日目に行った。
【0068】
表2:AZT(40mg/kg)の静脈内投与によって引き起こされた細胞数の変動に対する、マウスへのムラジメチドの静脈内または経口処置の影響:
【表2】
【0069】
表2は、投与様式にかかわらず、ムラジメチド存在下では、骨髄球または前骨髄球の割合が顕著に増加していることを示している。
【0070】
実施例3−赤血球および血小板に対する、AZTとムラジメチドの同時経口処置の影響
赤血球および血小板数に対する7日間の処置の影響を、それぞれ図9と図10に示す。計数は、0日において得られたカウントに対する百分率として示されている。雌BALB/cマウス(グループあたり5匹)を、7日間連続で毎日1回、100mg/kg AZT(△)、50mg/kg AZT(□)または100mg/kg AZTと50mg/kgムラジメチドで同時(○)に処置した。0日から処置開始後10日まで、血小板または赤血球の計数を行った。AZT、ムラジメチドまたはAZTとムラジメチドの混合物のいずれについても血小板に対する毒性は観察されなかった。血小板数は、4日〜5日目に上昇する傾向がある。他方、処置群で貧血が見られることがあるのは、出血が繰り返されるためかもしれない。それにもかかわらず、AZT単独処置群で観察されるのに比べて、二つの生産物の混合物で処置した動物は、貧血の割合と程度が非常に減少している。このことは、混合物が、AZTの毒性を打ち消す効果は、白血球だけではなく、赤血球にも及ぶ可能性があることを示唆している。
【0071】
実施例4−AZTとムラジメチドの同時経口処置後のHSCの動員
下記の表3と図11は、kgあたり50mgのAZT投与前、同時または投与後に、マウスをムラジメチドで経口処置したときの循環骨髄球数に対する影響を、4日間毎日投与してから24時間後に試験した結果を示す。
【表3】
【0072】
処置前の平均循環骨髄球数は、5つのグループで1mlあたり3〜15×104細胞である。
【0073】
「p-値」は、Mann-WhitneyのU階級テストで算出した。
【0074】
NSは、差が有意でないことを示す。この表から、AZTとムラジメチドの共同効果があるときは、循環骨髄球は、およそ200増加することが確認される。組み合わせた2つの構成成分は、経口で同時にまたは別の時間に投与した。
【0075】
図11は、第一週には0,1,2および3日目に、第二週には7,8,9および10日目に、25mg/kg MDM(×)、50mg/kg AZT(○)および二つの混合物(□)で2週間処置したときの、マウスの骨髄球数に対する影響を示している。ムラジメチド単独でも、およびムラジメチドとAZTの混合物では特に、SHCの動員に対して顕著な効果を有するが、AZT単独ではほとんど効果がないことが明白である。効果は第一週において特に顕著であり、このことは異なる処置サイクル間では、処置にはある種の時間経過が必要であり、適切な場合には、反復処置が有用であることを示している。
【0076】
実施例5− AZT、MDMおよびこれらの化合物の混合物を経口処置したときの脾臓摘出マウスの循環骨髄球数に対する影響
マウスでは、造血活性をもつ臓器は、骨髄の他には脾臓しかないということが知られている。MDMとAZTの混合物がSHCの動員に及ぼす影響が、脾臓由来なのか骨髄由来なのかを決定するために、50mg/kgのAZT(○)、25mg/kgのMDM(△)およびこれらの化合物の混合物(○)を10日前に脾臓を摘出したマウスに投与した。得られた結果を図12に示す。4日連続で混合物を投与すると末梢循環中に循環骨髄球が顕著に出現するが、これは正常マウスにおいて観察されるのと同じ程度の強度であり、既に二度目の投与でSHCの増加が見られる(図11)。このことは、SHCの動員が脾臓由来ではなくて、骨髄由来であることを明確に示しており、骨髄が造血機能を担う主要組織であるヒトに対して、このような治療を行うことを類推する上できわめて重要である。
【0077】
実施例6−AZT、MDMまたはこれらの化合物の混合物を経口投与したときの、シクロフォスファミド処置マウスにおけるHSC動員に対する影響
上記処置が、化学療法における細胞毒性効果を打ち消す効果を、シクロフォスファミドでマウスを処置することによって研究した。
【0078】
0日において、マウスにシクロフォスファミド(200mg/kg)を単回皮下注射し、4つのグループに分けて、生理学的食塩水(×)、50mg/kg AZT(□)、25mg/kg MDM(△)およびこれらの化合物の混合物(○)を経口で与えた。経口処置は、0,1,2,および3日目になされ、処置開始後14日目まで細胞数の評価を行った。その結果を図13に示す。ここでも、きわめて強い動員が起こっているのが明確に見られ、特にAZTとMDMの混合物存在下で最も顕著である。程度は弱いが、MDMの単独投与においても、循環好中球数に対する同様の効果が観察された。
【0079】
実施例7−本発明の組成物が、分化段階が異なるHSCの動員に及ぼす影響
これらの実験の目的は、循環血液中に異なるHSC群が存在することを実証することである。
【0080】
CFAC(coblestone area forming cells)およびLTC-IC(long term culture-initiating cells)のような培養液中の識別可能な最も原始的段階のもので、分化の兆候を示していないものから、HPP、LPP-CFU(それぞれ、高増殖能および低増殖能コロニー形成単位)のような中間段階を経たGM-CFU(顆粒球マクロファージコロニー形成単位)までの段階において探索がなされた。全てのケースで、培養条件、特に期間は、異なる群を最適に検出することができるように選択した。
【0081】
この研究のために、生理的食塩水(×)、50mg/kg AZT、25mg/kg MDMおよび二つの混合物の投与が、循環HSC数に対して及ぼす影響を比較した。精製後の単核細胞を5日間培養してGM-CFU(顆粒球マクロファージコロニー形成単位)を計測し、28日間培養して低増殖能(LPP)および高増殖能(HPP)CFUを計測した。CAFCは、培養14日後に計数を行い、LTC-ICは28日後に行った。結果は、それぞれ図14a,14b,14cおよび14dに示されている。マウス(グループあたり10匹のBalb/c)に、1日1回3日間連続で、生理学的食塩水、AZT、MDMまたは二つの混合物を、上記の用量で投与した。最後の投与から24時間後に、各群の全てのマウスから採血した。図14a,14b,14cに示されている実験では、単核細胞を密度勾配上で分離し、GM-CFUの場合は5日間、LPP-CFUの場合は28日間、半固形培地中で培養した。これらの全ての図において、MDM単独での効果、さらにMDMとAZTの混合物の効果が明瞭である。
【0082】
この処置がCAFCおよびLTC-ICに及ぼす影響を測定するために、生産物を最後に投与してから24時間後に採血し、単核細胞を精製して、放射能を受けた細胞の栄養層上で、異なる細胞密度にて培養した。計数は、培養を開始してから14日後に行い、生理学的食塩水で処置した対照細胞で得られた細胞数に対するパーセントで表されている。図は、3または4つの独立した実験の平均である。培養を28日間継続すると、LTC-IC(long term culture-initiating cells)が形成されるが、処置後28日における、これらの細胞の形成に対する影響は、CAFCの場合に観察されるものと類似している。
【0083】
これらの実験は全て、AZTとMDMを同時に経口処置すると、どのような分化段階にあるHSCの動員に対しても非常に効果的な影響を及ぼすことを示す。
【0084】
実施例8−非骨髄毒性量または骨髄毒性量のAZTと組み合わせて、マウスをムラジメチドで経口処置したときの、循環白血球および好中球数の変化に対する影響
この影響は、図1および2に示してあり、図1Aと2AはAZTが非骨髄毒性量の場合、図1Bと2BはAZTが骨髄毒性量の場合を示している。
【0085】
この実験においては、0,1,2および3日目において、雌のスイスマウスにkgあたり5または40mgのAZTを静脈内投与した。4日間毎日、AZTの投与4時間前に、5匹の個体からなるマウスのグループに対して緩衝液またはkgあたり25mgの用量でムラジメチドを与えた。
【0086】
細胞の計数は、0,1,2,3,4および7日になされた。ヒストグラム上のアスタリスクは、得られた結果が、処理前に観察されたレベルと有意に異なっていることを示している。
【0087】
図3に、骨髄球を計数している、同様の実験を示す。
【0088】
図1,2および3の3つの図から、処置の開始から4日後に効果が最大であることが明らかである。このことは、刺激後に白血球と好中球が正常レベルに復活する傾向があるという事実によって容易に説明され、骨髄球に関しては、ベースラインへ回復することは、上記の場合(遺伝子治療、骨髄移植、自家移植および類するもの)に人工的刺激が、非常に有用であることを意味している。HSCは成熟細胞に分化し、および/または臓器中に定着するという事実より、効果の消失は当然のことであるといえる。
【0089】
実施例9−ムラジメチドとGM-CSFの効果の比較
AZT処理を受けたマウスを、ムラジメチドに対して用いたのと同条件下にて、GM-CSFで処理した場合、AZTとムラジメチドを組み合わせて使ったときに観察されたのは対照的に、白血球数と好中球数は増加を示さない。他方、単球数の増加はみられた。図4,5,6および7は、マウスをムラジメチドまたはmGM-CSFで処理したときの、AZTの静脈内投与後の循環好中球、循環白血球または循環単球または循環骨髄球の変化に及ぼす影響をそれぞれ示している。
【0090】
0,1,2および3日目において、雌のスイスマウスにkgあたり40mgのAZTを静脈内投与した。 AZTの投与4時間前に、マウスのグループに対して(グループあたり5匹)、生理学的食塩水、またはkgあたり25mgのムラジメチド、またはkgあたり125μgのmGM-CSFを静脈内投与した。計数は、0,2,3,4,および8日になされている。ヒストグラム上のアスタリスクは、0日目の処理前に得られた値と比べて、数に有意な差があることを示している。mGM-CSFが単球数を増加させることができるのに対して、ムラジメチドは好中球および白血球に著明な影響を及ぼすことが分かる。さらに、GM-CSFとは異なり、ムラジメチドは血液中のHSCを極度に上昇せしめる。
【0091】
mGM-CSFとムラジメチドとの効果の比較は、図7に明示されており、GM-CSFがHSCの動員を起こさない条件下で、ムラジメチドは動員を起こすことが明らかに示されている。
【0092】
実施例10−ムラジメチドと他のMDP誘導体との効果の比較
ムラジメチドの特別な効果を実証するために用いた誘導体は、MDPAである。図8は、マウスに経口処置を行い、つづいてAZTを静脈内投与することによって引き起こされた骨髄球数の変化を示している。この実験では、0,1,2および3日目において、雌のスイスマウスにkgあたり40mgのAZTを静脈内投与した。4日間同じ日に、AZTの4時間前に、5匹のマウスからなる各グループに対して、生理学的食塩水、またはkgあたり25mgのMDPA、またはkgあたり25mgのムラジメチドを経口投与した。骨髄球の計数は、0,2,3,4および8日目に行った。ヒストグラム上のアスタリスクは、前の図と同じ意味である。
【0093】
式(I)の誘導体、特にムラジメチドの特性が、全てのムラミルペプチドに共通する特性と異なることは明らかである。このことは、MDPA(ムラジメチドはMDPAのジエステル誘導体である)との比較によって、特に十分に実証される。
【0094】
実施例11−N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミン α-メチルエステル γ-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン(式V)
a)Boc-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン(1)の合成
102mg(1mmol)のジメチルアミノピリジンを含むジメチルホルムアミド無水物20ml中に溶かしたBoc-L-アラニン189mg(1mmol)に、206mg(1mmol)のN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加する。反応混合物に267mg(1mmol)の3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)を添加し、24時間室温で攪拌する。ジシクロヘキシル尿素の沈殿物を濾過した後、真空下で反応混合物を濃縮した。シリカゲルのカラムで精製した後、最終的に生成物を得る。
【0095】
b)L-アラニン3’-アジド-3’デオキシチミジン塩酸(2)の合成
氷酢酸中の1N塩酸溶液2mlに、260mg(0.6mmol)の(1)を溶解する。室温で30分後、反応混合物を乾燥するまで濃縮する。得られた残留物をアセトン中に入れ、乾燥するまで濃縮する。このプロセスを数度繰り返し、真空下で乾燥した残留物をそのまま次のステップで用いる:225mg(100%)。
【0096】
c)N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック α-メチルエステル γ-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン(3) (式V)の合成:
10mlのジメチルフォルムアミド無水物に溶かした507mg(1mol)のN-アセチルムラミル-L-アラニルD-グルタミックα-メチルエステル()に、 -15℃で0.11ml(1mmol)のN-メチルモルフォリンと0.13ml(1mmol)のイソブチルクロロ炭酸を順次添加する。5分後、0.11mlのN-メチルモルフォリンを含んだ、-15℃に冷却した5mlのジメチルホルムアミドに溶かし、225mg(0.60mmol)の(2)を加える。-15℃で、反応混合物を24時間攪拌した後、真空下で濃縮する。エタノールと水の混合液で、Lichroprep RP18(Merck)カラムから溶出して、精製した後、最終的に生成物を得る。(3)の水溶液を凍結乾燥することによって、(3)が最終的に得られる。:272mg(60%)
実施例12−6-O-(サクシニル-3’-アジド-3’-デオキシチミジン)-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル(式VI)の合成
a)α-ベンジル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステルの合成:
1.4g(2mmol)のα-ベンジル-4,6OBZi-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル(1)を、完全に溶解するまで、56%酢酸水溶液100ml存在下で還流処理する。真空下で、反応混合物を濃縮する。得られた残留物を、順次水、トルエンおよびに入れて濃縮し、真空下で乾燥する。クロロホルムとメタノールの混合物で、シリカゲルカラムから溶出して、(1)を精製する。:305mg(50%)
b)6-O-サクシニル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミックジメチルエステル(2)の合成:
10mlのピリジン無水物に溶かした300mg(1mmol)の(1)に、44mg(4mmol)のコハク酸無水物を添加する。反応混合物を室温で4日間攪拌した後、真空下で濃縮する。得られた残留物をアセトンに入れ、数回濃縮した後、真空下で乾燥する。得られた生成物(α-ベンジル-6-O-サクシニル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル)を15mlの氷酢酸に溶かし、100mgの木炭上の5%パラジウム100mg存在下で、大気圧にて4時間水素化を行う。触媒を濾過して取り除いた後、反応混合物を真空下で濃縮する。得られた残留物をアセトンにいれ、数回濃縮した後、真空下で乾燥させる。次に、水に入れ、AG1X2(H+)(BIORAD)カラムにかけ、酢酸水溶液の勾配で溶出して精製する。最終的に、(2)の水溶液を凍結乾燥して、(2)を得る。:450mg(70%)
c)6-O-(サクシニル-3’-アジド-3’-デオキシチミジン)-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル (3)(式VI)の合成
0.05ml(0.5mmol)のN-メチルモルフォリンと0.06ml(0.5mmol)のイソブチルクロロ炭酸を、10mlのジメチルホルムアミド無水物に溶かした320mg(0.5mmol)の(2)に、-15℃下で順次添加する。5分後、267mg(1mmol)の3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)を添加する。反応混合物を、15℃で24時間攪拌し、真空下で濃縮する。Lichroprep Rpli(Merck)にかけ、エタノールと水の混合物で溶出して、最終的に生成物を得る。(3)の水溶液を凍結乾燥して、最終的に(3)を得る。:440mg(50%)
他方、式(I)、(II)、(III)式の化合物は、式(IV)の誘導体または式(V)および(VI)の新規複合体(実は、式(I)と式(IV)の化合物が共有結合したもの)と組み合わせると、きわめて使用範囲の広い、新しいクラスの医薬が得られる。実施例と特許請求の範囲の記載以外でも、血液中の細胞数の変化を元に戻す必要がある場合には、または何らかの理由で、血液循環から骨髄球を採取することが必要なときには、それらを使用することができるはずである。本記述の冒頭で説明したように、HSCはきわめて重要な全能性の細胞である。本発明によって、痛みを伴う長期的な処置が不要になり、一度血液サンプルをとるだけで、生物学的ツールとしてまたは治療目的で、それらを採取することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、非骨髄毒性量(kgあたり5mg)(図1A)または骨髄毒性量(kgあたり40mg)(図1B)のAZTとともにムラジメチドをを用いて経口的にマウスを処置したときの、循環白血球の変化に対する影響を示している。
【図2】図2は、好中球数についての同様な図である。図2Aは非骨髄毒性量のAZT(kgあたり5mg)で行った実験、図2Bは骨髄毒性量のAZT(kgあたり40mg)で行った実験を示している。
【図3】図3は、骨髄球数について同様に表したものである。図3Aは非骨髄毒性量のAZT(kgあたり5mg)を示し、図3Bは骨髄毒性量のAZT(kgあたり40mg)を示している。
【図4】図4は、AZT投与後における、ムラジメチドとrmGM-CSF(recombinant mouse GM-CSF)の循環好中球数に対する影響を示している。
【図5】図5には、循環白血球数に対する同様の比較を示している。
【図6】図6には、循環単球数に対する同様の比較を示している。
【図7】図7には、循環骨髄球数に対する同様の比較を示している。
【図8】図8は、マウスにおいて、AZTの静脈内投与により誘起された、循環血液中の骨髄球数の変化に対する、ムラジメチドを経口的に用いた処置の影響を表している。比較している二つのMDP誘導体は、MDPA(Nac-Mur-L-Ala-D-Glu)とムラジメチドである。
【図9】図9は、7日間連続でAZT、ムラジメチド(MDM)またはこれらの化合物の混合物を経口的にBALB/cマウスに与える処置が、血小板数に及ぼす影響を表している。
【図10】図10は、7日間連続でAZT、ムラジメチド(MDM)またはこれらの化合物の混合物を経口的にBALB/cマウスに与える処置が、赤血球数に及ぼす影響を表している。
【図11】図11は、2週連続(1週あたり4日)でAZT、ムラジメチド(MDM)または両者の混合物を経口的にBALB/cマウスに与える処置が、循環骨髄球数に及ぼす影響を表している。
【図12】図12は、図11に示されたものと同種の実験を表しており、脾臓摘出を行ったマウスに対する影響をみている。
【図13】図13は、細胞毒性をもつ薬物(シクロフォスファミド)を事前に投与する処置を行った正常マウスに対する、類似の実験を表している。
【図14−1】図14−1は、生理的食塩水、50mg/kg AZT、25mg/kg MDMおよび二つの混合物の投与が、循環HSC数に対して及ぼす影響を比較している。
【図14−2】図14−2は、生理的食塩水、50mg/kg AZT、25mg/kg MDMおよび二つの混合物の投与が、循環HSC数に対して及ぼす影響を比較している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
ここで、R = HまたはCH3
X = L-AlaまたはL-Thr
Rx = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
Ry = OH (Rx= NH2の場合を除く) またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
または次式(II)のムロクタシン:
Nac-Mur-L-Ala-D-isoGln-Nε-ステアロイル-L-Lys
【化2】
または次式(III)のMTP-PE:
モノナトリウムNac-Mur-L-Ala-D-isoGln-L-alanyl-2-(1’,2’-ジ-パルミトイル-sn-グリセロ-3’-ホスホリル)エチルアミド
【化3】
のうちの少なくとも一つの化合物を有効成分として含有する組成物であって、
造血機能の刺激によってある種の治療もしくは疾病の骨髄毒性効果を防止もしくは治療することができ、または血液中の造血性幹細胞を増加させることができ、或いはこれら両方を同時に行うことができることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の薬学的組成物であって、式(I)に相当する化合物が、式:Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMeのムラジメチドであることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、式(I)または(II)または(III)の化合物は、ヒト体重kgあたり0.1〜25mgの用量で経口投与が可能なように調合されていることを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の組成物であって、ヒトに全身投与することができ、1回の投与ごとにkg体重あたり0.05〜2.5mgの投与が可能なように有効成分が調合されていることを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物であって、さらに一般式:
【化4】
Bは、プリンまたはピリミジン塩基
R = H,N3またはハロゲン
のヌクレオシド誘導体を含有することを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物であって、前記ヌクレオシド誘導体が3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)であることを特徴とする組成物。
【請求項7】
式(V)により特徴づけられる複合体。
【化5】
ここで、
R = HまたはCH3
Rα = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
X = L-AlaまたはL-Thr
x = 0,1または2
Y = アミノ酸残基
Aは、デオキシリボース残基の5’位にヒドロキシルまたはアミン官能基
を、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含有するヌクレオシド
【請求項8】
式(VI)により特徴付けられる複合体。
【化6】
ここで、
X = L-AlaまたはL-Thr
Yは、ジカルボン酸、特にコハク酸残基のようなアームである
Z = OまたはNH
R = HまたはCH3
RαおよびRγは、式(I)中と同じ意味であり、
Aは、デオキシリボース残基の5’位にヒドロキシルまたはアミン官能
基を、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含むヌクレオシド
【請求項9】
請求項7または8に記載の複合体であって、
X = L-Ala
R = H
Rα = OCH3およびRγ = OCH3
であることを特徴とする複合体。
【請求項10】
請求項7または8のいずれかに記載の複合体であって、AがAZTであることを特徴とする複合体。
【請求項11】
活性成分として請求項7ないし10のいずれか1項に記載の複合体を含有することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の薬学的組成物であって、癌またはAIDSに対する化学療法、放射線療法または免疫療法のような、治療または医薬の骨髄毒性効果を相殺し得ることを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の組成物であって、血液中の成分、特に赤血球および血小板を正常またはそれ以上のレベルに回復し得ることを特徴とする組成物。
【請求項14】
請求項11に記載の薬学的組成物であって、血液の造血性幹細胞を増加させ得ることを特徴とする組成物。
【請求項15】
式(V)の複合体の合成法であって、少なくとも
(a)Boc-L-アラニンおよびAZTからBoc-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン (1)を合成するステップと、
(b)(1)からL-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン塩酸 (2)を合成するステップと、
(c)(2)にN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック α-メチルエステルを添加して、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック α-メチルエステル γ-L-アラニン 3’-アジド-3’-デオキシチミジンを合成するステップと
を具備してなることを特徴とする合成法。
【請求項16】
式(VI)の複合体の合成法であって、少なくとも
(a)α-ベンジル-4,6-OBzi-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステルからα-ベンジル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル(1)を得るステップと、
(b)(1)をスクシニル化して、6-O-スクシニル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル (2)を得るステップと、
(c)(2)にAZTを結合させて、6-O-(スクシニル-3’-アジド-3’-デオキシチミジン)-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル (3)を合成するステップと
を具備してなることを特徴とする合成法。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物、または請求項7〜10のいずれか1項に記載の複合体、または請求項11に記載の組成物の使用であって、単独もしくは式(IV)の化合物と組み合わせて、ある種の治療もしくは医薬の骨髄毒性効果に対する拮抗剤、または造血性幹細胞を全身血流中に動員することができる医薬の製造における使用。
【請求項18】
請求項17に記載の使用であって、式(I)の化合物が、
式:Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMeのムラジメチドであることを特徴とする使用。
【請求項19】
請求項18に記載の使用であって、式(III)の誘導体がMTP-PEであることを特徴とする使用。
【請求項20】
請求項19に記載の使用であって、式(II)の誘導体がムロクタシンであることを特徴とする使用。
【請求項21】
請求項17ないし20のいずれか1項に記載の使用であって、式(IV)の化合物が3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)であることを特徴とする使用。
【請求項22】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が癌またはAIDSの治療における化学療法の効果を相殺するための医薬であることを特徴とする使用。
【請求項23】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が循環血液中の造血性幹細胞を増加させることができる医薬であることを特徴とする使用。
【請求項24】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が、異種遺伝子導入用の担体として使用し得る血液中の幹細胞を得ることを可能にする医薬であることを特徴とする使用。
【請求項25】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が、自家骨髄移植または同種骨髄移植に使用し得る血液中の幹細胞を得ることができるようにする医薬であることを特徴とする使用。
【請求項26】
請求項17ないし25のいずれか1項に記載の使用であって、前記化合物は式(IV)の化合物と組み合わせて処方されることを特徴とする使用。
【請求項1】
式(I):
【化1】
ここで、R = HまたはCH3
X = L-AlaまたはL-Thr
Rx = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
Ry = OH (Rx= NH2の場合を除く) またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
または次式(II)のムロクタシン:
Nac-Mur-L-Ala-D-isoGln-Nε-ステアロイル-L-Lys
【化2】
または次式(III)のMTP-PE:
モノナトリウムNac-Mur-L-Ala-D-isoGln-L-alanyl-2-(1’,2’-ジ-パルミトイル-sn-グリセロ-3’-ホスホリル)エチルアミド
【化3】
のうちの少なくとも一つの化合物を有効成分として含有する組成物であって、
造血機能の刺激によってある種の治療もしくは疾病の骨髄毒性効果を防止もしくは治療することができ、または血液中の造血性幹細胞を増加させることができ、或いはこれら両方を同時に行うことができることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の薬学的組成物であって、式(I)に相当する化合物が、式:Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMeのムラジメチドであることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、式(I)または(II)または(III)の化合物は、ヒト体重kgあたり0.1〜25mgの用量で経口投与が可能なように調合されていることを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の組成物であって、ヒトに全身投与することができ、1回の投与ごとにkg体重あたり0.05〜2.5mgの投与が可能なように有効成分が調合されていることを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物であって、さらに一般式:
【化4】
Bは、プリンまたはピリミジン塩基
R = H,N3またはハロゲン
のヌクレオシド誘導体を含有することを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物であって、前記ヌクレオシド誘導体が3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)であることを特徴とする組成物。
【請求項7】
式(V)により特徴づけられる複合体。
【化5】
ここで、
R = HまたはCH3
Rα = NH2またはO(CH2)xH (X = 1〜4)
X = L-AlaまたはL-Thr
x = 0,1または2
Y = アミノ酸残基
Aは、デオキシリボース残基の5’位にヒドロキシルまたはアミン官能基
を、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含有するヌクレオシド
【請求項8】
式(VI)により特徴付けられる複合体。
【化6】
ここで、
X = L-AlaまたはL-Thr
Yは、ジカルボン酸、特にコハク酸残基のようなアームである
Z = OまたはNH
R = HまたはCH3
RαおよびRγは、式(I)中と同じ意味であり、
Aは、デオキシリボース残基の5’位にヒドロキシルまたはアミン官能
基を、3’位に水素、ハロゲンまたはアジド基を含むヌクレオシド
【請求項9】
請求項7または8に記載の複合体であって、
X = L-Ala
R = H
Rα = OCH3およびRγ = OCH3
であることを特徴とする複合体。
【請求項10】
請求項7または8のいずれかに記載の複合体であって、AがAZTであることを特徴とする複合体。
【請求項11】
活性成分として請求項7ないし10のいずれか1項に記載の複合体を含有することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の薬学的組成物であって、癌またはAIDSに対する化学療法、放射線療法または免疫療法のような、治療または医薬の骨髄毒性効果を相殺し得ることを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の組成物であって、血液中の成分、特に赤血球および血小板を正常またはそれ以上のレベルに回復し得ることを特徴とする組成物。
【請求項14】
請求項11に記載の薬学的組成物であって、血液の造血性幹細胞を増加させ得ることを特徴とする組成物。
【請求項15】
式(V)の複合体の合成法であって、少なくとも
(a)Boc-L-アラニンおよびAZTからBoc-L-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン (1)を合成するステップと、
(b)(1)からL-アラニン3’-アジド-3’-デオキシチミジン塩酸 (2)を合成するステップと、
(c)(2)にN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック α-メチルエステルを添加して、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック α-メチルエステル γ-L-アラニン 3’-アジド-3’-デオキシチミジンを合成するステップと
を具備してなることを特徴とする合成法。
【請求項16】
式(VI)の複合体の合成法であって、少なくとも
(a)α-ベンジル-4,6-OBzi-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステルからα-ベンジル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル(1)を得るステップと、
(b)(1)をスクシニル化して、6-O-スクシニル-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル (2)を得るステップと、
(c)(2)にAZTを結合させて、6-O-(スクシニル-3’-アジド-3’-デオキシチミジン)-N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-グルタミック ジメチルエステル (3)を合成するステップと
を具備してなることを特徴とする合成法。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物、または請求項7〜10のいずれか1項に記載の複合体、または請求項11に記載の組成物の使用であって、単独もしくは式(IV)の化合物と組み合わせて、ある種の治療もしくは医薬の骨髄毒性効果に対する拮抗剤、または造血性幹細胞を全身血流中に動員することができる医薬の製造における使用。
【請求項18】
請求項17に記載の使用であって、式(I)の化合物が、
式:Nac-Mur-L-Ala-D-Glu[OMe]-OMeのムラジメチドであることを特徴とする使用。
【請求項19】
請求項18に記載の使用であって、式(III)の誘導体がMTP-PEであることを特徴とする使用。
【請求項20】
請求項19に記載の使用であって、式(II)の誘導体がムロクタシンであることを特徴とする使用。
【請求項21】
請求項17ないし20のいずれか1項に記載の使用であって、式(IV)の化合物が3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)であることを特徴とする使用。
【請求項22】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が癌またはAIDSの治療における化学療法の効果を相殺するための医薬であることを特徴とする使用。
【請求項23】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が循環血液中の造血性幹細胞を増加させることができる医薬であることを特徴とする使用。
【請求項24】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が、異種遺伝子導入用の担体として使用し得る血液中の幹細胞を得ることを可能にする医薬であることを特徴とする使用。
【請求項25】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の使用であって、前記医薬が、自家骨髄移植または同種骨髄移植に使用し得る血液中の幹細胞を得ることができるようにする医薬であることを特徴とする使用。
【請求項26】
請求項17ないし25のいずれか1項に記載の使用であって、前記化合物は式(IV)の化合物と組み合わせて処方されることを特徴とする使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14−1】
【図14−2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14−1】
【図14−2】
【公開番号】特開2006−182785(P2006−182785A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37750(P2006−37750)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【分割の表示】特願平8−530052の分割
【原出願日】平成8年4月5日(1996.4.5)
【出願人】(506053412)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【分割の表示】特願平8−530052の分割
【原出願日】平成8年4月5日(1996.4.5)
【出願人】(506053412)
【Fターム(参考)】
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