連続成膜装置
【課題】 両サイド解放タイプの連続成膜装置において、真空成膜時に固定チャンバ部に回転自在に支持されたロール群の軸間平行度が崩れないようにする。
【解決手段】 真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1の口字形外枠部25を固定チャンバ部15とし、前記外枠部25の側方開口を閉塞する側面壁26L,26Rを移動チャンバ部16L,16Rとし、前記固定チャンバ部15に対して開閉自在に設ける。前記固定チャンバ部15に成膜ロール2などのロールを回転軸が壁面に垂直になるように設ける。前記固定チャンバ部の背面壁21及び正面壁22は、前記真空チャンバ1を減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように設けられる。
【解決手段】 真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1の口字形外枠部25を固定チャンバ部15とし、前記外枠部25の側方開口を閉塞する側面壁26L,26Rを移動チャンバ部16L,16Rとし、前記固定チャンバ部15に対して開閉自在に設ける。前記固定チャンバ部15に成膜ロール2などのロールを回転軸が壁面に垂直になるように設ける。前記固定チャンバ部の背面壁21及び正面壁22は、前記真空チャンバ1を減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯状の被成膜基材を搬送しつつ、その表面に機能性薄膜を連続的に成膜する連続成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックや無機質などで形成された長尺のフィルムやシートからなる被成膜基材を、真空チャンバ内で連続的に走行搬送し、その表面に種々の機能性薄膜をスパッタリングや蒸着によって成膜する連続成膜装置がある。この種の連続成膜装置は、バッチ処理毎にスパッタ源の交換、マスクの交換や清掃、被成膜基材の交換や通紙というようなメンテナンスや段取り作業を行う必要がある。
【0003】
このため、従来の連続成膜装置は、例えば、特許文献1(特開平10−36967号公報)や特許文献2(特開2001−3168号公報)に記載されているように、一端が開口したチャンバ本体とその開口端を開閉自在に閉塞する閉塞蓋とを備えた真空チャンバを備え、成膜源あるいは基材搬送用ロール群を前記閉塞蓋に支持し、これらを閉塞蓋ごとチャンバ本体から引き出すような構造を備えていた。しかし、このような旧タイプの連続成膜装置は、基材搬送用ロール群あるいはスパッタ源をチャンバ本体から引き出す必要があるため、比較的広い設置スペース、メンテナンススペースが必要であり、またチャンバ本体内に残置された部材のメンテナンス作業性が劣るという問題があった。
【0004】
そこで、近年、このような作業性に優れ、設置スペースも少なくて済む連続成膜装置が提案されている。このような連続成膜装置の一例を図10及び図11に示す。この連続成膜装置は、真空チャンバ1を有し、その内部にフィルム基材(被成膜基材)が巻き掛けられた成膜ロール2が回転自在に設けられる。前記真空チャンバ1には、その内部を上下に区画する遮蔽板11が設けられており、真空チャンバ1の上部には巻出しロール3、巻取りロール4、フリーロール5、ロードセルロール6が、下部には成膜ロール2の側方向(横方向)の左右にカソードボックス(成膜源)7L,7Rが設けられている。また、真空チャンバ1の上部背面には真空排気ポンプ10が付設されている。前記成膜ロール2は、定速モータで駆動されてフィルム基材を定速搬送し、巻出しロール3、巻取りロール4はロードセルロール6で検出した張力をフィードバックしてトルク回転制御が行われ、所定の張力にて成膜処理が行われる。
【0005】
前記巻出しロール3には、フィルム基材をコイル状に巻いたボビンが装着され、ボビンに巻かれたフィルム基材は、フリーロール5、ロードセルロール6を介して成膜ロール2に連続的に供給される。真空チャンバ1の内部を真空に減圧した後、成膜ロール2に供給されたフィルム基材は、成膜ロール2の外周面上でスパッタ成膜された後、再びロードセルロール6、フリーロール5を介して巻取りロール4に装着されたボビンに巻き取られる。
【0006】
前記真空チャンバ1は、背面壁21とこれに対向配置された正面壁22とを上面壁23及び下面壁24によって連結した側面視が口字形(方形枠形)の外枠部25とその左右の開口を閉塞する側面壁26L,26Rとで構成された箱形をなしており、下部フレーム13の上に設置されている。そして前記外枠部25は固定チャンバ部15とされ、前記側面壁26L,26Rは移動チャンバ部16L,16Rとされ、左右の移動チャンバ部16L,16Rは、固定チャンバ部15の背面壁21の側端部に設けたヒンジ機構18により、固定チャンバ部15に対して気密に開閉自在とされている。前記成膜ロール2、巻出しロール3、巻取りロール4などのロール郡は前記記背面壁21と正面壁22の壁面に垂直に回転自在に支持されており、また前記カソードボックス7L,7Rは前記側面壁26L,26Rに着脱自在に取り付けられている。
【0007】
このため、フィルム基材を成膜した後、左右の移動チャンバ部16L,16Rを固定チャンバ部15から大きく開くだけで、固定チャンバ部15内のロール郡を取り外すことなく、容易にメンテナンスや段取り作業を行うことができる。また、カソードボックス7L,7Rも側面壁26L,26Rに付設されているので、交換やメンテナンスを容易に行うことができる。これらの作業は、移動チャンバ部を開くだけで行うことができるため、設置スペースやメンテナンススペースを小さくすることができる。
【0008】
上記連続成膜装置は、真空チャンバ1の外枠部25を固定チャンバ部15とし、左右の側面壁26L,26Rを左右の移動チャンバ部16L,16Rとしたが、固定チャンバ部、移動チャンバ部の設け方はこれに限らず、例えば特許文献3(特開2006−77284号公報)に記載された分割構造の真空チャンバ1Aの各分割部とすることができる。すなわち、図12に示すように、真空チャンバ1Aの背面壁21の一方の側端部と正面壁22の一方の側部と上面壁23及び下面壁24を通る第1分割面31と、前記背面壁21の他方の側端部と前記正面壁22の他方の側部と前記上面壁23及び下面壁24を通る第2分割面32とによって、真空チャンバ1Aを左分割部34L、中央分割部33及び右分割部34Rに3分割し、前記中央分割部33を固定チャンバ部15とし、前記左分割部34L及び右分割部34Rを左右の移動チャンバ部16L,16Rとしてもよい。このタイプは、移動チャンバ部16L,16Rが開いた際の開口領域がより広くなり、メンテナンス等の作業性をより向上させたものである。図10及び図11に示した連続成膜装置を含めて、これらを両サイド解放タイプの連続成膜装置と呼ぶ。
【特許文献1】特開平10−36967号公報
【特許文献2】特開2001−3168号公報
【特許文献3】特開2006−77284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
成膜ロールなどのロール群によって搬送されるフィルム基材は、成膜後、巻取りロールに巻き取られるが、搬送中にフィルム基材が蛇行すると、基材の端部が揃わないようになり、巻き取りが不良、著しいは場合は不能になる。従って、搬送中の蛇行を防止するには、基材の搬送に寄与する各ロールの回転軸の軸間平行度(以下、「ロール軸間平行度」という。)を許容範囲内に収めることが重要であり、一般的にはロール軸間平行度は20μm 程度内に収めることが望ましい。
【0010】
上記両サイド解放タイプの連続成膜装置において、成膜時に真空チャンバを真空排気すると、大気圧によって固定チャンバ部の背面壁及び正面壁が内側に撓むように変形する。このタイプの連続成膜装置は、上記のとおり、固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間に成膜ロールなどのロール群が壁面に垂直に回転自在に支持されるため、ロール軸間平行度が許容範囲外になると、フィルム基材の蛇行が著しくなり、巻取り不良ないし不能が発生し易いという問題があった。特に、真空チャンバが大型化する程、この傾向は著しくなり、大型化の障害となっている。
【0011】
この対策として、固定チャンバ部を構成する背面壁及び平面壁の板厚を大きくすることで、これらの壁面の変形を防止することができるが、板厚の増大は真空チャンバの重量の増大を招来し、ひいては装置重量の増大、耐床荷重の増大を招き、トータルコストの増大を余儀なくされる。
【0012】
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、両サイド解放タイプの連続成膜装置において、真空チャンバの背面壁及び正面壁の板厚を増大することなく、真空成膜時に固定チャンバ部に回転自在に支持されたロール群のロール軸間平行度が許容範囲内に収まる連続成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1(第1発明)は、被成膜基材を搬送しながら成膜する連続成膜装置であって、背面壁とこれに対向配置された正面壁とを上面壁及び下面壁によって連結した固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の左右の開口を閉塞する左右の側面壁をそれぞれ有する左右一対の移動チャンバ部とからなる真空チャンバと、前記真空チャンバ内に収容されて回転自在に設けられた成膜ロールと、前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に側方から成膜する側方成膜源と、前記被成膜基材を前記成膜ロールに供給する巻出しロール及び成膜後の被成膜基材を巻き取る巻取りロールとを備え、前記固定チャンバ部に対して前記左右の移動チャンバ部を開閉機構により開閉自在に設け、前記成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールは前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持され、前記側方成膜源は前記移動チャンバ部に着脱自在に設けられ、前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように設けられる。
【0014】
上記第1発明に係る連続成膜装置によれば、左右の移動チャンバ部を固定チャンバ部から開くことによって、固定チャンバ部内のロール郡並びに左右の移動チャンバ部に設けた側方成膜源のメンテナンスや段取り作業を容易に行うことができる。しかもロール群が回転自在に支持される前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等であるので、固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の板厚が比較的薄いものでも、背面壁及び正面壁の変形が面対称となるため、背面壁と正面壁の壁面に垂直に支持されたロール群のロール軸間平行度はほとんど変化しない。このため、被成膜基材を蛇行することなく搬送し、成膜済みの被成膜基材をその端部が揃った状態で巻き取ることができる。もちろん、固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、変形しないように板厚を厚くする必要がないので、真空チャンバひいては連続成膜装置の重量もほとんど増大しない。このため、特に、大型装置の場合、重量軽減、材料コストの軽減の点で極めて有利である。
【0015】
また、本発明の第2(第2発明)の連続成膜装置は、第1発明と同様、真空チャンバを、固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の側方開口に開閉自在に設けられた左右の移動チャンバ部とで構成し、成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールを前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持し、側方成膜源を前記移動チャンバ部に着脱自在に設け、さらに前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間にその間隔を維持する間隔規制部材を設けたものである。
【0016】
前記第2発明の連続成膜装置によっても、前記背面壁と正面壁の板厚を増大することなく、固定チャンバ部の背面壁と正面壁のの間に間隔規制部材を設けるだけで、前記背面壁と正面壁の変形を著しく軽減することができ、これらの壁面に垂直に回転自在に設けられたロール群のロール軸間平行度を維持することができ、被成膜基材を蛇行することなく搬送し、端部が揃った状態で巻き取ることができる。もちろん、壁の変形防止のために板厚を増大する必要がないので、大型装置の場合に有利である。
【0017】
前記間隔規制部材は、前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁に着脱自在に設けることが好ましい。このように設けることにより、移動チャンバ部を開いて固定チャンバ部内のロール群にアクセスする際、前記間隔規制部材を容易に取り外すことができるため、メンテナンスや通紙作業などの作業性を向上させることができる。また、第2発明においても、真空チャンバを減圧したとき、前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁を、それぞれの縦方向の中央に位置する中央横幅部が同量ないしほぼ同量たわむ横断面を備えた板材で形成してもよい。
【0018】
また、前記第1、第2発明にかかる連続成膜装置において、前記固定チャンバ部の背面壁及び側面壁の板厚を同等とし、真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように前記背面壁及び側面壁に開口を設けることが好ましい。
【0019】
前記固定チャンバ部の背面壁及び側面壁の板厚を同等とすることにより、各壁の横断面における板厚中心に関する曲げ剛性が同等となり、真空成膜時における前記背面壁、正面壁の変形を面対称にすることがでる。さらに、真空チャンバの真空減圧時に、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように前記背面壁及び側面壁に開口を設けるので、種々の開口を形成しても、真空成膜時における背面壁及び正面壁の変形を面対称に維持することができ、固定チャンバ部に支持されたロール群のロール軸間平行度を維持することができる。特に第2発明にかかる連続成膜装置では、間隔規制部材による固定チャンバ部の背面壁と側面壁との間の間隔の維持と相まって、真空成膜時において、ロール軸間平行度がより変化し難くなり、成膜後の被成膜基材をより安定的に巻き取ることができる。
【0020】
また、前記第1、第2発明にかかる連続成膜装置において、成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に下方から成膜する下方成膜源を設け、前記固定チャンバ部の正面壁に前記下方成膜源を挿脱自在に取り付ける挿脱用開口を設け、前記固定チャンバ部の背面壁に前記挿脱用開口と対向する部位に同形ないしほぼ同形のダミー開口を設けることができる。
【0021】
前記下方成膜源を挿脱自在に取り付ける挿脱用開口は、比較的大きなサイズとなり、固定チャンバ部の正面壁の変形に及ぼす影響が無視できないが、固定チャンバ部の背面壁の前記挿脱用開口と対向する部位に、挿脱用開口と同形ないしほぼ同形のダミー開口を設けることにより、固定チャンバ部の背面壁、正面壁に及ぼす前記開口の影響が同等となるため、真空成膜時における背面壁及び正面壁の変形の面対称が維持され、ロール軸間平行度への悪影響を無くすことができる。もちろん、下方成膜源は固定チャンバ部の正面壁から容易に着脱することができるので、メンテナンス性も良好である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の連続成膜装置によれば、固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等であるので、これらの壁の板厚を増大することなく、真空成膜時においてこれらの壁を面対称に変形させることができる。また、本発明の第2の連続成膜装置によれば、前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間にその間隔を維持する間隔規制部材を設けたものであるから、これらの板厚を増大することなく、真空成膜時におけるこれらの壁の変形を著しく軽減することができる。このため、これらの壁の壁面に垂直に回転自在に支持したロール群のロール軸間平行度が維持され、成膜済みの被成膜基材を良好に巻き取ることができる。特に、前記背面壁及び正面壁壁の変形防止のために板厚を増大する必要がないので、大型装置の場合、重量軽減、材料コストの軽減の点で極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の連続成膜装置の第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。なお、図10及び図11に示した従来の連続成膜装置と同部材は同符号を付して説明を省略あるいは簡略することとし、相違点を中心に説明する。
【0024】
この実施形態に係る連続成膜装置は、背面壁21とこれと対向配置された正面壁22とを上面壁23及び下面壁24によって連結した、側面視口字形の外枠部25及びその左右の開口を閉塞する左右の側面壁26L,26Rとで構成された真空チャンバ1を備え、前記外枠部25の背面壁21の板厚Tbは、正面壁22の板厚Tfと同厚とされている。
【0025】
前記外枠部25が固定チャンバ部15とされ、前記側面壁26L,26Rがそれぞれ左右の移動チャンバ部16L,16Rとされ、これらが固定チャンバ部15の背面壁21の側端部に設けたヒンジ機構18によって固定チャンバ部15に開閉自在に設けられている。また、外枠部25からなる固定チャンバ部15と側面壁26L,26Rからなる移動チャンバ部16L,16Rとの合わせ面にはシール部材が設けられており、移動チャンバ部16L,16Rが閉じた状態では固定チャンバ部15と気密に一体化する。
【0026】
前記固定チャンバ部15は、背面壁21及び正面壁22に架設された遮蔽板11A,11Bによってその内部が縦方向に上部、中部、下部に区画されている。前記固定チャンバ部15の上部において、巻出しロール3、巻取りロール4、フリーロール5、ロードセルロール6が背面壁21及び正面壁22に垂直に回転自在に支持されている。また、前記中部には、成膜ロール2が回転自在に支持され、この成膜ロール2に対して横方向の左右に、マスク12を介して、スパッタ源となる左右のカソードボックス7L,7Rが配置され、これらは側面壁26L,26Rに着脱自在に取り付けられている。前記マスク12は、成形ロール2の所定領域を成膜するためのものである。前記遮蔽板11A,11Bは、スパッタ膜の相互汚染を防止するためのものである。また、真空チャンバ1をコンパクトにするため、真空排気ポンプ10は固定チャンバ部15の上面壁23にゲート弁を介して付設されている。なお、図2では前記遮蔽板11A,11B及びマスク12は記載省略されている。
【0027】
前記固定チャンバ部15を構成する正面壁22には、図3に示すように、正面壁22の縦中心線上のほぼ中央部に直径150mm程度の通紙作業用開口27が貫通して設けられ、また縦中心線に対して左右対称に直径70mm程度の内部観察用開口28が上下2段に貫通して設けられている。前記通紙作業用開口27には開口を気密に閉塞する開閉蓋が設けられ、また前記内部観察用開口28には透明蓋が気密に嵌め込まれている。また、図示省略したが、背面壁22にも成膜ロール2、巻出しロール3、巻取りロール4などの駆動軸を通すための貫通状の開口が開設されている。
【0028】
この連続成膜装置におけるフィルム基材に対する成膜動作については基本的に従来と同様であり、真空チャンバ1の内部を真空排気した後、巻出しロール3から巻き出されたフィルム基材は、フリーロール5、ロードセルロール6を介して成膜ロール2に連続的に供給され、成膜ロール2の外周面上で右右の側方カソードボックスに各々設けられたターゲットから放出された成膜物質によって成膜された後、再びロードセルロール6、フリーロール5を介して巻取りロール4に巻き取られる。
【0029】
成膜されたフィルム基材が巻取りロール4に巻き取られると、真空チャンバ1内を大気圧に戻し、図3に示すように、まず左右の移動チャンバ部16L,16Rを固定チャンバ部15から離反させて開き、固定チャンバ部15の両側を解放した後、巻出しロール3、巻取りロール4のボビンの交換や通紙作業を行い、また必要に応じて、各カソードボックス7L,7Rのターゲットの交換を行った後、移動チャンバ部16L,16Rを固定チャンバ部15に気密に連結一体化し、真空チャンバ1内を真空排気した後、再び成膜を行う。
【0030】
上記実施形態の連続成膜装置は、固定チャンバ部15を構成する背面壁21及び平面壁22の板厚が等しいので、真空チャンバ1を真空に減圧すると、これらの壁は、内側に凸となるように変形し、背面壁21と正面壁22の変形は面対称となる。このため、背面壁21と正面壁22の壁面に垂直に回転自在に支持されたロール群の回転軸の軸間平行度はほとんど変化せず、ロール群を走行するフィルム基材は蛇行することなく、安定的に搬送され、巻取りロール4にフィルム基材の端部が揃うように巻き取られる。
【0031】
ここで、比較的大型の真空チャンバを真空に減圧した際の固定チャンバ部15を構成する外枠部25の所定部位の寸法変化の計算例について説明する。図4は、計算に用いた固定チャンバ部15(外枠部25)の側面図を示しており、一点鎖線は各壁の板厚中心線、寸法単位はmmであり、各壁の横幅は700mmである。また、変形の測定基準点は、外枠部25の高さ中心を通る横中心線と背面壁21の板厚中心線の交点Cb及び正面壁22の板厚中心線の交点Cf、並びに図に示したようにロール軸の背面壁21側の支持点Pb及び正面壁22側の支持点Pfである。前記ロールは背面壁21及び正面壁22の壁面に垂直に支持されるものとし、ロール軸の横方向設置位置は、背面壁21及び正面壁22の横幅中心とした。
【0032】
図5は、背面壁21の板厚Tbと正面壁22の板厚Tfとを共に50mmとした場合における、真空チャンバ内を真空に減圧した際の外枠部(固定チャンバ部)の変形状態を示す板厚中心線と、所定部位の変位状態を示す図である。固定チャンバ部の背面壁21、正面壁22は大気圧によって内側に面対称に変形し、Cb,Cfの内側への変位は、Δx1=Δx2=0.46mmであり、Pb,Pfの上方への変位は、Δy1=Δy2=33μm であった。このため、ロールの中心軸は真空減圧の前後によって傾きは生じず、常に水平に維持されることがわかる。従って、複数のロールを背面壁21及び正面壁22の壁面に垂直に支持するように設けた場合、これらのロールのロール軸間平行度も真空減圧の前後で変化せず、フィルム基材は蛇行することなく搬送、巻き取ることができる。
【0033】
前記第1実施形態では、正面壁22に通紙作業用開口27、内部観察用開口28が設けられ、また背面壁21にも各種ロールの駆動軸を挿通する開口が設けられているが、同一高さ位置における開口の幅の合計は、せいぜい150mm程度であり、正面壁22あるいは背面壁21の横幅を700mmとすると、開口の合計幅はその21%以下であるので、背面壁21、正面壁22の真空減圧時の壁の変形への影響は少なく、それらの変形はほぼ面対称となるので、ロール軸間平行度が許容外になるほどの悪影響はない。もっとも、そのようなロール軸間平行度に影響がない開口でも、背面壁21、正面壁22の縦方向の中心線に対してできるだけ対称に、上下方向に分散するように配置することが好ましい。一般的に、開口の幅が正面壁の幅の25%程度以上になる場合、正面壁22と背面壁21の同対向部位に同形の開口を設けることにより、開口の開設による背面壁21、正面壁22の真空減圧時における変形の非対称化を防止することができる。
【0034】
一方、比較例として図6を示す。これは背面壁21の板厚Tbを50mm、正面壁22の板厚Tfを35mmとした場合における、真空チャンバ内を真空に減圧した際の固定チャンバ部の変形状態を示す板厚中心線と、所定部位の変位状態を示す図である。固定チャンバ部の背面壁21、正面壁22は大気圧によって内側に非対称に変形し、Cb,Cfの内側への変位は、Δx1=0.5mm、Δx2=0.95mmであり、Pb,Pfの上方への変位は、Δy1=35μm 、Δy2=69μm であった。このため、外枠部25の横中心線上にロール軸中心線を有する他のロールが壁面に垂直に支持されていたとすると、真空減圧前にこれらのロールの軸間平行度を0μm に調整していても、真空減圧後には34μm となる。これより、複数のロールを背面壁21及び正面壁22の壁面に垂直に支持した場合、これらのロールのロール軸間平行度は真空減圧後にかなり変化し、フィルム基材をロール搬送した場合、蛇行のおそれがあることがわかる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態にかかる連続成膜装置を図7から図9を参照して説明する。なお、第1実施形態にかかる連続成膜装置と同部材は同符号を付して説明を省略あるいは簡略する。
【0036】
第2実施形態の連続成膜装置では、固定チャンバ部15の背面壁21と正面壁22との間にその間隔を保持する4本の間隔規制部材41が壁面に垂直に設けられている。
固定チャンバ部15の上部に設けた2本の間隔規制部材41は、固定チャンバ部15の縦方向の中心部付近であって、ロール群と干渉しない位置、すなわちロードセルロール6のほぼ横で、壁の縦中心線に対して左右対称位置に着脱自在に取り付けられている。前記背面壁21と正面壁22の内壁面には、U字形の受け部を有する支持部材42が付設されており、前記間隔規制部材41は前記支持部材42の受け部に着脱自在に載置されている。
【0037】
真空チャンバ1が真空減圧されると、上部の2本の間隔規制部材41の両端部が背面壁21と正面壁22の内壁面に直接当接して、壁の内側への変形を阻止するように突っ張る。このため、真空成膜時、固定チャンバ部15に設けたロール群のロール軸間平行度が変化し難く、フィルム基材を円滑に搬送、巻き取ることができる。前記固定チャンバ部15の背面壁21と正面壁22の板厚Tb、Tfは同一にする必要はないが、同一厚さとすることにより、間隔規制部材41が当接していない壁部の変形を面対称にすることができ、ロール軸間平行度の変化をより抑制することができる。固定チャンバ部15の下部に設けた2本の間隔規制部材41については後述する下方カソードボックス8について説明する際に言及する。
【0038】
前記間隔規制部材は、断面が円形や方形の棒材で製作することができる。具体的には、正面壁22の外形サイズが幅70cm、高さ110cmとすると、真空チャンバ1の内部を真空にしたとき、ここにかかる大気圧による外力は大略7700kgf(70×110×1kgf/cm2 )であり、30mm角の中実棒材からなる間隔規制部材2本でこれを受けた場合、部材にかかる圧縮応力は4.2kgf/mm2 程度である。この応力は、材料強度的にも座屈応力的にも問題のないレベルである。このように、間隔規制部材の横断面サイズは、比較的小さくて済み、通紙などの作業に対して邪魔になることはないので、真空チャンバを大型化した場合、かかる間隔規制部材41を付設したままでも、ロール群へのメンテナンス、通紙作用等を容易に行うことができる。
【0039】
ところで、梁の自由端分布荷重(両端単純支持梁が等分布荷重を受ける場合)では変位量は梁の長さの4乗に比例し、集中荷重を受ける場合でも長さの3乗に比例するので、背面壁21及び正面壁22の縦方向中心部に間隔規制部材41を設けた場合、変位量は1/8〜1/16になり、ロール軸の傾きもこれに比例するので、大幅にロール軸間平行度のずれを抑制することができる。例えば、図5の場合、背面壁21及び正面壁22の縦方向中心部に間隔規制部材41を設けると、元の変位量Δx1=Δx2=33μm は、少なくともその1/8の4μm まで低下させることができる。
【0040】
また、第2実施形態に係る連続成膜装置では、成膜ロール2の下面に対向するマスク12が設けられ、このマスク12の下方に下方カソードボックス8が設けられている。この下方カソードボックス8は、固定チャンバ部15の正面壁22に貫通状に設けられた挿脱用開口29に挿脱自在に取り付けられている。一方、固定チャンバ部15の背面壁21には、前記挿脱用開口29に対向する部位にこれと同形のダミー開口30が開設され、この開口を気密に閉塞する蓋が取り付けられている。
【0041】
前記下方カソードボックス8の挿脱は、正面壁22外に露呈した端部を着脱自在に固定する治具を備えた搬送台車によって行われる。すなわち、前記治具をカソードボックス8の端部に固定すると共に下方カソードボックス8の固定フランジを正面壁22に締結するボルトを外した後、搬送台車を後退することによって、正面壁22の手前へ引き出す。下方カソードボックス8を取り付ける場合はその逆を行い、下方カソードボックス8を挿脱用開口29に挿入した後、固定フランジによって正面壁22に気密に取り付ける。
【0042】
前記挿脱用開口29のサイズは、高さ200mm、幅300mm程度であり、正面壁22の横幅を700mm程度とすると、実質的な横幅は400mm程度となる。このため、背面壁21にダミー開口30を設けないと、真空チャンバ1の真空減圧時に背面壁21と正面壁22との変形が非対称になり、ロール軸間平行度が許容範囲外になり、フィルム基材をロール搬送する際に蛇行するおそれが生じる。この実施形態では、背面壁21に前記ダミー開口30を設けているので、背面壁21及び正面壁22の変形は面対称になり、ロール軸間平行度が変化しないようにすることができる。
【0043】
第2実施形態において、固定チャンバ部15の下部に設けた2本の間隔規制部材41は、固定チャンバ部15の正面壁22に下方カソードボックス8の挿脱用開口29を設け、背面壁21にそれに対応したダミー開口30を設けたため、これらによる壁の剛性の低下を配慮して補助的に付設したものである。下部の間隔規制部材41は、成膜ロール2の下側に設けたマスク12の着脱の支障のない位置であって、壁の縦中心線に対して左右対称位置に前記支持部材42によって着脱自在に取り付けられている。なお、この下部の間隔規制部材41は、比較的大きなサイズの挿脱用開口、ダミー開口を設けた場合に変形の面対称維持のために有効であるが、必ずしも必要ではない。
【0044】
前記間隔規制部材41は、ネジなどによって伸縮可能な構造とすることが好ましい。このような構造にすることにより、間隔規制部材41の着脱が容易になる。この場合、固定チャンバ部15の組立時に背面壁21と正面壁22との間隔を測定、記録しておくことで、間隔規制部材41を固定チャンバ部15に着脱する際に伸縮させることで、着脱が容易になり、また前記間隔規制部材41の長さを所定の間隔となるように容易に設定することができる。
【0045】
上記第1、第2実施形態では、移動チャンバ部16L,16Rのヒンジ機構18を背面壁21の両側端部に設けたが、固定チャンバ部15の正面壁21の両側端部に設けてもよい。また、上記実施形態において、固定チャンバ部15に設けたロール群は、図10のように、巻出しロール3、巻取りロール4をフリーロール5の下側に設けるようにしてもよい。
【0046】
また、上記第1、第2実施形態において、固定チャンバ部15を構成する外枠部25の連結構造は、各壁を構成する板材を溶接して一体化したものに限らず、両側面壁26L,26Rと上面壁23とを溶接一体化し、下面壁24のみをボルト等により連結一体化してもよく、あるいは各壁をそれぞれボルト等により連結一体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態の連続成膜装置の切り欠き正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】第1実施形態の正面図である。
【図4】真空減圧時における各部の変位を求める際に用いた外枠部の側面図である。
【図5】背面壁と正面壁の板厚が等しい場合の外枠部板厚中心線、所定部の変位説明図である。
【図6】背面壁と正面壁の板厚が異なる場合の外枠部板厚中心線、所定部の変位説明図である。
【図7】第2実施形態の連続成膜装置の切り欠き正面図である。
【図8】図7のA−A線断面図である。
【図9】第2実施形態の正面図である。
【図10】従来の連続成膜装置の切り欠き正面図である。
【図11】従来の連続成膜装置の平面図である。
【図12】他の従来の連続成膜装置の平面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 真空チャンバ、 2 成膜ロール、
3 巻出しロール、 4 巻取りロール、
7L,7R 側方カソードボックス、8 下方カソードボックス、
15 固定チャンバ部、 16L,16R 移動チャンバ部、
21 背面壁、 22 正面壁、
23 上面壁、 24 下面壁、
25 外枠部、 26L,26R 側面壁
41 間隔規制部材
【技術分野】
【0001】
本発明は帯状の被成膜基材を搬送しつつ、その表面に機能性薄膜を連続的に成膜する連続成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックや無機質などで形成された長尺のフィルムやシートからなる被成膜基材を、真空チャンバ内で連続的に走行搬送し、その表面に種々の機能性薄膜をスパッタリングや蒸着によって成膜する連続成膜装置がある。この種の連続成膜装置は、バッチ処理毎にスパッタ源の交換、マスクの交換や清掃、被成膜基材の交換や通紙というようなメンテナンスや段取り作業を行う必要がある。
【0003】
このため、従来の連続成膜装置は、例えば、特許文献1(特開平10−36967号公報)や特許文献2(特開2001−3168号公報)に記載されているように、一端が開口したチャンバ本体とその開口端を開閉自在に閉塞する閉塞蓋とを備えた真空チャンバを備え、成膜源あるいは基材搬送用ロール群を前記閉塞蓋に支持し、これらを閉塞蓋ごとチャンバ本体から引き出すような構造を備えていた。しかし、このような旧タイプの連続成膜装置は、基材搬送用ロール群あるいはスパッタ源をチャンバ本体から引き出す必要があるため、比較的広い設置スペース、メンテナンススペースが必要であり、またチャンバ本体内に残置された部材のメンテナンス作業性が劣るという問題があった。
【0004】
そこで、近年、このような作業性に優れ、設置スペースも少なくて済む連続成膜装置が提案されている。このような連続成膜装置の一例を図10及び図11に示す。この連続成膜装置は、真空チャンバ1を有し、その内部にフィルム基材(被成膜基材)が巻き掛けられた成膜ロール2が回転自在に設けられる。前記真空チャンバ1には、その内部を上下に区画する遮蔽板11が設けられており、真空チャンバ1の上部には巻出しロール3、巻取りロール4、フリーロール5、ロードセルロール6が、下部には成膜ロール2の側方向(横方向)の左右にカソードボックス(成膜源)7L,7Rが設けられている。また、真空チャンバ1の上部背面には真空排気ポンプ10が付設されている。前記成膜ロール2は、定速モータで駆動されてフィルム基材を定速搬送し、巻出しロール3、巻取りロール4はロードセルロール6で検出した張力をフィードバックしてトルク回転制御が行われ、所定の張力にて成膜処理が行われる。
【0005】
前記巻出しロール3には、フィルム基材をコイル状に巻いたボビンが装着され、ボビンに巻かれたフィルム基材は、フリーロール5、ロードセルロール6を介して成膜ロール2に連続的に供給される。真空チャンバ1の内部を真空に減圧した後、成膜ロール2に供給されたフィルム基材は、成膜ロール2の外周面上でスパッタ成膜された後、再びロードセルロール6、フリーロール5を介して巻取りロール4に装着されたボビンに巻き取られる。
【0006】
前記真空チャンバ1は、背面壁21とこれに対向配置された正面壁22とを上面壁23及び下面壁24によって連結した側面視が口字形(方形枠形)の外枠部25とその左右の開口を閉塞する側面壁26L,26Rとで構成された箱形をなしており、下部フレーム13の上に設置されている。そして前記外枠部25は固定チャンバ部15とされ、前記側面壁26L,26Rは移動チャンバ部16L,16Rとされ、左右の移動チャンバ部16L,16Rは、固定チャンバ部15の背面壁21の側端部に設けたヒンジ機構18により、固定チャンバ部15に対して気密に開閉自在とされている。前記成膜ロール2、巻出しロール3、巻取りロール4などのロール郡は前記記背面壁21と正面壁22の壁面に垂直に回転自在に支持されており、また前記カソードボックス7L,7Rは前記側面壁26L,26Rに着脱自在に取り付けられている。
【0007】
このため、フィルム基材を成膜した後、左右の移動チャンバ部16L,16Rを固定チャンバ部15から大きく開くだけで、固定チャンバ部15内のロール郡を取り外すことなく、容易にメンテナンスや段取り作業を行うことができる。また、カソードボックス7L,7Rも側面壁26L,26Rに付設されているので、交換やメンテナンスを容易に行うことができる。これらの作業は、移動チャンバ部を開くだけで行うことができるため、設置スペースやメンテナンススペースを小さくすることができる。
【0008】
上記連続成膜装置は、真空チャンバ1の外枠部25を固定チャンバ部15とし、左右の側面壁26L,26Rを左右の移動チャンバ部16L,16Rとしたが、固定チャンバ部、移動チャンバ部の設け方はこれに限らず、例えば特許文献3(特開2006−77284号公報)に記載された分割構造の真空チャンバ1Aの各分割部とすることができる。すなわち、図12に示すように、真空チャンバ1Aの背面壁21の一方の側端部と正面壁22の一方の側部と上面壁23及び下面壁24を通る第1分割面31と、前記背面壁21の他方の側端部と前記正面壁22の他方の側部と前記上面壁23及び下面壁24を通る第2分割面32とによって、真空チャンバ1Aを左分割部34L、中央分割部33及び右分割部34Rに3分割し、前記中央分割部33を固定チャンバ部15とし、前記左分割部34L及び右分割部34Rを左右の移動チャンバ部16L,16Rとしてもよい。このタイプは、移動チャンバ部16L,16Rが開いた際の開口領域がより広くなり、メンテナンス等の作業性をより向上させたものである。図10及び図11に示した連続成膜装置を含めて、これらを両サイド解放タイプの連続成膜装置と呼ぶ。
【特許文献1】特開平10−36967号公報
【特許文献2】特開2001−3168号公報
【特許文献3】特開2006−77284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
成膜ロールなどのロール群によって搬送されるフィルム基材は、成膜後、巻取りロールに巻き取られるが、搬送中にフィルム基材が蛇行すると、基材の端部が揃わないようになり、巻き取りが不良、著しいは場合は不能になる。従って、搬送中の蛇行を防止するには、基材の搬送に寄与する各ロールの回転軸の軸間平行度(以下、「ロール軸間平行度」という。)を許容範囲内に収めることが重要であり、一般的にはロール軸間平行度は20μm 程度内に収めることが望ましい。
【0010】
上記両サイド解放タイプの連続成膜装置において、成膜時に真空チャンバを真空排気すると、大気圧によって固定チャンバ部の背面壁及び正面壁が内側に撓むように変形する。このタイプの連続成膜装置は、上記のとおり、固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間に成膜ロールなどのロール群が壁面に垂直に回転自在に支持されるため、ロール軸間平行度が許容範囲外になると、フィルム基材の蛇行が著しくなり、巻取り不良ないし不能が発生し易いという問題があった。特に、真空チャンバが大型化する程、この傾向は著しくなり、大型化の障害となっている。
【0011】
この対策として、固定チャンバ部を構成する背面壁及び平面壁の板厚を大きくすることで、これらの壁面の変形を防止することができるが、板厚の増大は真空チャンバの重量の増大を招来し、ひいては装置重量の増大、耐床荷重の増大を招き、トータルコストの増大を余儀なくされる。
【0012】
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、両サイド解放タイプの連続成膜装置において、真空チャンバの背面壁及び正面壁の板厚を増大することなく、真空成膜時に固定チャンバ部に回転自在に支持されたロール群のロール軸間平行度が許容範囲内に収まる連続成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1(第1発明)は、被成膜基材を搬送しながら成膜する連続成膜装置であって、背面壁とこれに対向配置された正面壁とを上面壁及び下面壁によって連結した固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の左右の開口を閉塞する左右の側面壁をそれぞれ有する左右一対の移動チャンバ部とからなる真空チャンバと、前記真空チャンバ内に収容されて回転自在に設けられた成膜ロールと、前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に側方から成膜する側方成膜源と、前記被成膜基材を前記成膜ロールに供給する巻出しロール及び成膜後の被成膜基材を巻き取る巻取りロールとを備え、前記固定チャンバ部に対して前記左右の移動チャンバ部を開閉機構により開閉自在に設け、前記成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールは前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持され、前記側方成膜源は前記移動チャンバ部に着脱自在に設けられ、前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように設けられる。
【0014】
上記第1発明に係る連続成膜装置によれば、左右の移動チャンバ部を固定チャンバ部から開くことによって、固定チャンバ部内のロール郡並びに左右の移動チャンバ部に設けた側方成膜源のメンテナンスや段取り作業を容易に行うことができる。しかもロール群が回転自在に支持される前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等であるので、固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の板厚が比較的薄いものでも、背面壁及び正面壁の変形が面対称となるため、背面壁と正面壁の壁面に垂直に支持されたロール群のロール軸間平行度はほとんど変化しない。このため、被成膜基材を蛇行することなく搬送し、成膜済みの被成膜基材をその端部が揃った状態で巻き取ることができる。もちろん、固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、変形しないように板厚を厚くする必要がないので、真空チャンバひいては連続成膜装置の重量もほとんど増大しない。このため、特に、大型装置の場合、重量軽減、材料コストの軽減の点で極めて有利である。
【0015】
また、本発明の第2(第2発明)の連続成膜装置は、第1発明と同様、真空チャンバを、固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の側方開口に開閉自在に設けられた左右の移動チャンバ部とで構成し、成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールを前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持し、側方成膜源を前記移動チャンバ部に着脱自在に設け、さらに前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間にその間隔を維持する間隔規制部材を設けたものである。
【0016】
前記第2発明の連続成膜装置によっても、前記背面壁と正面壁の板厚を増大することなく、固定チャンバ部の背面壁と正面壁のの間に間隔規制部材を設けるだけで、前記背面壁と正面壁の変形を著しく軽減することができ、これらの壁面に垂直に回転自在に設けられたロール群のロール軸間平行度を維持することができ、被成膜基材を蛇行することなく搬送し、端部が揃った状態で巻き取ることができる。もちろん、壁の変形防止のために板厚を増大する必要がないので、大型装置の場合に有利である。
【0017】
前記間隔規制部材は、前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁に着脱自在に設けることが好ましい。このように設けることにより、移動チャンバ部を開いて固定チャンバ部内のロール群にアクセスする際、前記間隔規制部材を容易に取り外すことができるため、メンテナンスや通紙作業などの作業性を向上させることができる。また、第2発明においても、真空チャンバを減圧したとき、前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁を、それぞれの縦方向の中央に位置する中央横幅部が同量ないしほぼ同量たわむ横断面を備えた板材で形成してもよい。
【0018】
また、前記第1、第2発明にかかる連続成膜装置において、前記固定チャンバ部の背面壁及び側面壁の板厚を同等とし、真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように前記背面壁及び側面壁に開口を設けることが好ましい。
【0019】
前記固定チャンバ部の背面壁及び側面壁の板厚を同等とすることにより、各壁の横断面における板厚中心に関する曲げ剛性が同等となり、真空成膜時における前記背面壁、正面壁の変形を面対称にすることがでる。さらに、真空チャンバの真空減圧時に、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように前記背面壁及び側面壁に開口を設けるので、種々の開口を形成しても、真空成膜時における背面壁及び正面壁の変形を面対称に維持することができ、固定チャンバ部に支持されたロール群のロール軸間平行度を維持することができる。特に第2発明にかかる連続成膜装置では、間隔規制部材による固定チャンバ部の背面壁と側面壁との間の間隔の維持と相まって、真空成膜時において、ロール軸間平行度がより変化し難くなり、成膜後の被成膜基材をより安定的に巻き取ることができる。
【0020】
また、前記第1、第2発明にかかる連続成膜装置において、成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に下方から成膜する下方成膜源を設け、前記固定チャンバ部の正面壁に前記下方成膜源を挿脱自在に取り付ける挿脱用開口を設け、前記固定チャンバ部の背面壁に前記挿脱用開口と対向する部位に同形ないしほぼ同形のダミー開口を設けることができる。
【0021】
前記下方成膜源を挿脱自在に取り付ける挿脱用開口は、比較的大きなサイズとなり、固定チャンバ部の正面壁の変形に及ぼす影響が無視できないが、固定チャンバ部の背面壁の前記挿脱用開口と対向する部位に、挿脱用開口と同形ないしほぼ同形のダミー開口を設けることにより、固定チャンバ部の背面壁、正面壁に及ぼす前記開口の影響が同等となるため、真空成膜時における背面壁及び正面壁の変形の面対称が維持され、ロール軸間平行度への悪影響を無くすことができる。もちろん、下方成膜源は固定チャンバ部の正面壁から容易に着脱することができるので、メンテナンス性も良好である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の連続成膜装置によれば、固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等であるので、これらの壁の板厚を増大することなく、真空成膜時においてこれらの壁を面対称に変形させることができる。また、本発明の第2の連続成膜装置によれば、前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間にその間隔を維持する間隔規制部材を設けたものであるから、これらの板厚を増大することなく、真空成膜時におけるこれらの壁の変形を著しく軽減することができる。このため、これらの壁の壁面に垂直に回転自在に支持したロール群のロール軸間平行度が維持され、成膜済みの被成膜基材を良好に巻き取ることができる。特に、前記背面壁及び正面壁壁の変形防止のために板厚を増大する必要がないので、大型装置の場合、重量軽減、材料コストの軽減の点で極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の連続成膜装置の第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。なお、図10及び図11に示した従来の連続成膜装置と同部材は同符号を付して説明を省略あるいは簡略することとし、相違点を中心に説明する。
【0024】
この実施形態に係る連続成膜装置は、背面壁21とこれと対向配置された正面壁22とを上面壁23及び下面壁24によって連結した、側面視口字形の外枠部25及びその左右の開口を閉塞する左右の側面壁26L,26Rとで構成された真空チャンバ1を備え、前記外枠部25の背面壁21の板厚Tbは、正面壁22の板厚Tfと同厚とされている。
【0025】
前記外枠部25が固定チャンバ部15とされ、前記側面壁26L,26Rがそれぞれ左右の移動チャンバ部16L,16Rとされ、これらが固定チャンバ部15の背面壁21の側端部に設けたヒンジ機構18によって固定チャンバ部15に開閉自在に設けられている。また、外枠部25からなる固定チャンバ部15と側面壁26L,26Rからなる移動チャンバ部16L,16Rとの合わせ面にはシール部材が設けられており、移動チャンバ部16L,16Rが閉じた状態では固定チャンバ部15と気密に一体化する。
【0026】
前記固定チャンバ部15は、背面壁21及び正面壁22に架設された遮蔽板11A,11Bによってその内部が縦方向に上部、中部、下部に区画されている。前記固定チャンバ部15の上部において、巻出しロール3、巻取りロール4、フリーロール5、ロードセルロール6が背面壁21及び正面壁22に垂直に回転自在に支持されている。また、前記中部には、成膜ロール2が回転自在に支持され、この成膜ロール2に対して横方向の左右に、マスク12を介して、スパッタ源となる左右のカソードボックス7L,7Rが配置され、これらは側面壁26L,26Rに着脱自在に取り付けられている。前記マスク12は、成形ロール2の所定領域を成膜するためのものである。前記遮蔽板11A,11Bは、スパッタ膜の相互汚染を防止するためのものである。また、真空チャンバ1をコンパクトにするため、真空排気ポンプ10は固定チャンバ部15の上面壁23にゲート弁を介して付設されている。なお、図2では前記遮蔽板11A,11B及びマスク12は記載省略されている。
【0027】
前記固定チャンバ部15を構成する正面壁22には、図3に示すように、正面壁22の縦中心線上のほぼ中央部に直径150mm程度の通紙作業用開口27が貫通して設けられ、また縦中心線に対して左右対称に直径70mm程度の内部観察用開口28が上下2段に貫通して設けられている。前記通紙作業用開口27には開口を気密に閉塞する開閉蓋が設けられ、また前記内部観察用開口28には透明蓋が気密に嵌め込まれている。また、図示省略したが、背面壁22にも成膜ロール2、巻出しロール3、巻取りロール4などの駆動軸を通すための貫通状の開口が開設されている。
【0028】
この連続成膜装置におけるフィルム基材に対する成膜動作については基本的に従来と同様であり、真空チャンバ1の内部を真空排気した後、巻出しロール3から巻き出されたフィルム基材は、フリーロール5、ロードセルロール6を介して成膜ロール2に連続的に供給され、成膜ロール2の外周面上で右右の側方カソードボックスに各々設けられたターゲットから放出された成膜物質によって成膜された後、再びロードセルロール6、フリーロール5を介して巻取りロール4に巻き取られる。
【0029】
成膜されたフィルム基材が巻取りロール4に巻き取られると、真空チャンバ1内を大気圧に戻し、図3に示すように、まず左右の移動チャンバ部16L,16Rを固定チャンバ部15から離反させて開き、固定チャンバ部15の両側を解放した後、巻出しロール3、巻取りロール4のボビンの交換や通紙作業を行い、また必要に応じて、各カソードボックス7L,7Rのターゲットの交換を行った後、移動チャンバ部16L,16Rを固定チャンバ部15に気密に連結一体化し、真空チャンバ1内を真空排気した後、再び成膜を行う。
【0030】
上記実施形態の連続成膜装置は、固定チャンバ部15を構成する背面壁21及び平面壁22の板厚が等しいので、真空チャンバ1を真空に減圧すると、これらの壁は、内側に凸となるように変形し、背面壁21と正面壁22の変形は面対称となる。このため、背面壁21と正面壁22の壁面に垂直に回転自在に支持されたロール群の回転軸の軸間平行度はほとんど変化せず、ロール群を走行するフィルム基材は蛇行することなく、安定的に搬送され、巻取りロール4にフィルム基材の端部が揃うように巻き取られる。
【0031】
ここで、比較的大型の真空チャンバを真空に減圧した際の固定チャンバ部15を構成する外枠部25の所定部位の寸法変化の計算例について説明する。図4は、計算に用いた固定チャンバ部15(外枠部25)の側面図を示しており、一点鎖線は各壁の板厚中心線、寸法単位はmmであり、各壁の横幅は700mmである。また、変形の測定基準点は、外枠部25の高さ中心を通る横中心線と背面壁21の板厚中心線の交点Cb及び正面壁22の板厚中心線の交点Cf、並びに図に示したようにロール軸の背面壁21側の支持点Pb及び正面壁22側の支持点Pfである。前記ロールは背面壁21及び正面壁22の壁面に垂直に支持されるものとし、ロール軸の横方向設置位置は、背面壁21及び正面壁22の横幅中心とした。
【0032】
図5は、背面壁21の板厚Tbと正面壁22の板厚Tfとを共に50mmとした場合における、真空チャンバ内を真空に減圧した際の外枠部(固定チャンバ部)の変形状態を示す板厚中心線と、所定部位の変位状態を示す図である。固定チャンバ部の背面壁21、正面壁22は大気圧によって内側に面対称に変形し、Cb,Cfの内側への変位は、Δx1=Δx2=0.46mmであり、Pb,Pfの上方への変位は、Δy1=Δy2=33μm であった。このため、ロールの中心軸は真空減圧の前後によって傾きは生じず、常に水平に維持されることがわかる。従って、複数のロールを背面壁21及び正面壁22の壁面に垂直に支持するように設けた場合、これらのロールのロール軸間平行度も真空減圧の前後で変化せず、フィルム基材は蛇行することなく搬送、巻き取ることができる。
【0033】
前記第1実施形態では、正面壁22に通紙作業用開口27、内部観察用開口28が設けられ、また背面壁21にも各種ロールの駆動軸を挿通する開口が設けられているが、同一高さ位置における開口の幅の合計は、せいぜい150mm程度であり、正面壁22あるいは背面壁21の横幅を700mmとすると、開口の合計幅はその21%以下であるので、背面壁21、正面壁22の真空減圧時の壁の変形への影響は少なく、それらの変形はほぼ面対称となるので、ロール軸間平行度が許容外になるほどの悪影響はない。もっとも、そのようなロール軸間平行度に影響がない開口でも、背面壁21、正面壁22の縦方向の中心線に対してできるだけ対称に、上下方向に分散するように配置することが好ましい。一般的に、開口の幅が正面壁の幅の25%程度以上になる場合、正面壁22と背面壁21の同対向部位に同形の開口を設けることにより、開口の開設による背面壁21、正面壁22の真空減圧時における変形の非対称化を防止することができる。
【0034】
一方、比較例として図6を示す。これは背面壁21の板厚Tbを50mm、正面壁22の板厚Tfを35mmとした場合における、真空チャンバ内を真空に減圧した際の固定チャンバ部の変形状態を示す板厚中心線と、所定部位の変位状態を示す図である。固定チャンバ部の背面壁21、正面壁22は大気圧によって内側に非対称に変形し、Cb,Cfの内側への変位は、Δx1=0.5mm、Δx2=0.95mmであり、Pb,Pfの上方への変位は、Δy1=35μm 、Δy2=69μm であった。このため、外枠部25の横中心線上にロール軸中心線を有する他のロールが壁面に垂直に支持されていたとすると、真空減圧前にこれらのロールの軸間平行度を0μm に調整していても、真空減圧後には34μm となる。これより、複数のロールを背面壁21及び正面壁22の壁面に垂直に支持した場合、これらのロールのロール軸間平行度は真空減圧後にかなり変化し、フィルム基材をロール搬送した場合、蛇行のおそれがあることがわかる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態にかかる連続成膜装置を図7から図9を参照して説明する。なお、第1実施形態にかかる連続成膜装置と同部材は同符号を付して説明を省略あるいは簡略する。
【0036】
第2実施形態の連続成膜装置では、固定チャンバ部15の背面壁21と正面壁22との間にその間隔を保持する4本の間隔規制部材41が壁面に垂直に設けられている。
固定チャンバ部15の上部に設けた2本の間隔規制部材41は、固定チャンバ部15の縦方向の中心部付近であって、ロール群と干渉しない位置、すなわちロードセルロール6のほぼ横で、壁の縦中心線に対して左右対称位置に着脱自在に取り付けられている。前記背面壁21と正面壁22の内壁面には、U字形の受け部を有する支持部材42が付設されており、前記間隔規制部材41は前記支持部材42の受け部に着脱自在に載置されている。
【0037】
真空チャンバ1が真空減圧されると、上部の2本の間隔規制部材41の両端部が背面壁21と正面壁22の内壁面に直接当接して、壁の内側への変形を阻止するように突っ張る。このため、真空成膜時、固定チャンバ部15に設けたロール群のロール軸間平行度が変化し難く、フィルム基材を円滑に搬送、巻き取ることができる。前記固定チャンバ部15の背面壁21と正面壁22の板厚Tb、Tfは同一にする必要はないが、同一厚さとすることにより、間隔規制部材41が当接していない壁部の変形を面対称にすることができ、ロール軸間平行度の変化をより抑制することができる。固定チャンバ部15の下部に設けた2本の間隔規制部材41については後述する下方カソードボックス8について説明する際に言及する。
【0038】
前記間隔規制部材は、断面が円形や方形の棒材で製作することができる。具体的には、正面壁22の外形サイズが幅70cm、高さ110cmとすると、真空チャンバ1の内部を真空にしたとき、ここにかかる大気圧による外力は大略7700kgf(70×110×1kgf/cm2 )であり、30mm角の中実棒材からなる間隔規制部材2本でこれを受けた場合、部材にかかる圧縮応力は4.2kgf/mm2 程度である。この応力は、材料強度的にも座屈応力的にも問題のないレベルである。このように、間隔規制部材の横断面サイズは、比較的小さくて済み、通紙などの作業に対して邪魔になることはないので、真空チャンバを大型化した場合、かかる間隔規制部材41を付設したままでも、ロール群へのメンテナンス、通紙作用等を容易に行うことができる。
【0039】
ところで、梁の自由端分布荷重(両端単純支持梁が等分布荷重を受ける場合)では変位量は梁の長さの4乗に比例し、集中荷重を受ける場合でも長さの3乗に比例するので、背面壁21及び正面壁22の縦方向中心部に間隔規制部材41を設けた場合、変位量は1/8〜1/16になり、ロール軸の傾きもこれに比例するので、大幅にロール軸間平行度のずれを抑制することができる。例えば、図5の場合、背面壁21及び正面壁22の縦方向中心部に間隔規制部材41を設けると、元の変位量Δx1=Δx2=33μm は、少なくともその1/8の4μm まで低下させることができる。
【0040】
また、第2実施形態に係る連続成膜装置では、成膜ロール2の下面に対向するマスク12が設けられ、このマスク12の下方に下方カソードボックス8が設けられている。この下方カソードボックス8は、固定チャンバ部15の正面壁22に貫通状に設けられた挿脱用開口29に挿脱自在に取り付けられている。一方、固定チャンバ部15の背面壁21には、前記挿脱用開口29に対向する部位にこれと同形のダミー開口30が開設され、この開口を気密に閉塞する蓋が取り付けられている。
【0041】
前記下方カソードボックス8の挿脱は、正面壁22外に露呈した端部を着脱自在に固定する治具を備えた搬送台車によって行われる。すなわち、前記治具をカソードボックス8の端部に固定すると共に下方カソードボックス8の固定フランジを正面壁22に締結するボルトを外した後、搬送台車を後退することによって、正面壁22の手前へ引き出す。下方カソードボックス8を取り付ける場合はその逆を行い、下方カソードボックス8を挿脱用開口29に挿入した後、固定フランジによって正面壁22に気密に取り付ける。
【0042】
前記挿脱用開口29のサイズは、高さ200mm、幅300mm程度であり、正面壁22の横幅を700mm程度とすると、実質的な横幅は400mm程度となる。このため、背面壁21にダミー開口30を設けないと、真空チャンバ1の真空減圧時に背面壁21と正面壁22との変形が非対称になり、ロール軸間平行度が許容範囲外になり、フィルム基材をロール搬送する際に蛇行するおそれが生じる。この実施形態では、背面壁21に前記ダミー開口30を設けているので、背面壁21及び正面壁22の変形は面対称になり、ロール軸間平行度が変化しないようにすることができる。
【0043】
第2実施形態において、固定チャンバ部15の下部に設けた2本の間隔規制部材41は、固定チャンバ部15の正面壁22に下方カソードボックス8の挿脱用開口29を設け、背面壁21にそれに対応したダミー開口30を設けたため、これらによる壁の剛性の低下を配慮して補助的に付設したものである。下部の間隔規制部材41は、成膜ロール2の下側に設けたマスク12の着脱の支障のない位置であって、壁の縦中心線に対して左右対称位置に前記支持部材42によって着脱自在に取り付けられている。なお、この下部の間隔規制部材41は、比較的大きなサイズの挿脱用開口、ダミー開口を設けた場合に変形の面対称維持のために有効であるが、必ずしも必要ではない。
【0044】
前記間隔規制部材41は、ネジなどによって伸縮可能な構造とすることが好ましい。このような構造にすることにより、間隔規制部材41の着脱が容易になる。この場合、固定チャンバ部15の組立時に背面壁21と正面壁22との間隔を測定、記録しておくことで、間隔規制部材41を固定チャンバ部15に着脱する際に伸縮させることで、着脱が容易になり、また前記間隔規制部材41の長さを所定の間隔となるように容易に設定することができる。
【0045】
上記第1、第2実施形態では、移動チャンバ部16L,16Rのヒンジ機構18を背面壁21の両側端部に設けたが、固定チャンバ部15の正面壁21の両側端部に設けてもよい。また、上記実施形態において、固定チャンバ部15に設けたロール群は、図10のように、巻出しロール3、巻取りロール4をフリーロール5の下側に設けるようにしてもよい。
【0046】
また、上記第1、第2実施形態において、固定チャンバ部15を構成する外枠部25の連結構造は、各壁を構成する板材を溶接して一体化したものに限らず、両側面壁26L,26Rと上面壁23とを溶接一体化し、下面壁24のみをボルト等により連結一体化してもよく、あるいは各壁をそれぞれボルト等により連結一体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態の連続成膜装置の切り欠き正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】第1実施形態の正面図である。
【図4】真空減圧時における各部の変位を求める際に用いた外枠部の側面図である。
【図5】背面壁と正面壁の板厚が等しい場合の外枠部板厚中心線、所定部の変位説明図である。
【図6】背面壁と正面壁の板厚が異なる場合の外枠部板厚中心線、所定部の変位説明図である。
【図7】第2実施形態の連続成膜装置の切り欠き正面図である。
【図8】図7のA−A線断面図である。
【図9】第2実施形態の正面図である。
【図10】従来の連続成膜装置の切り欠き正面図である。
【図11】従来の連続成膜装置の平面図である。
【図12】他の従来の連続成膜装置の平面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 真空チャンバ、 2 成膜ロール、
3 巻出しロール、 4 巻取りロール、
7L,7R 側方カソードボックス、8 下方カソードボックス、
15 固定チャンバ部、 16L,16R 移動チャンバ部、
21 背面壁、 22 正面壁、
23 上面壁、 24 下面壁、
25 外枠部、 26L,26R 側面壁
41 間隔規制部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成膜基材を搬送しながら成膜する連続成膜装置であって、
背面壁とこれに対向配置された正面壁とを上面壁及び下面壁によって連結した固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の左右の開口を閉塞する左右の側面壁をそれぞれ有する左右一対の移動チャンバ部とからなる真空チャンバと、前記真空チャンバ内に収容されて回転自在に設けられた成膜ロールと、前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に側方から成膜する側方成膜源と、前記被成膜基材を前記成膜ロールに供給する巻出しロール及び成膜後の被成膜基材を巻き取る巻取りロールとを備え、
前記固定チャンバ部に対して前記左右の移動チャンバ部を開閉機構により開閉自在に設け、
前記成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールは前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持され、前記側方成膜源は前記移動チャンバ部に着脱自在に設けられ、
前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように設けられた、連続成膜装置。
【請求項2】
被成膜基材を搬送しながら成膜する連続成膜装置であって、
背面壁とこれに対向配置された正面壁とを上面壁及び下面壁によって連結した固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の左右の開口を閉塞する左右の側面壁をそれぞれ有する左右一対の移動チャンバ部とからなる真空チャンバと、前記真空チャンバ内に収容されて回転自在に設けられた成膜ロールと、前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に側方から成膜する側方成膜源と、前記被成膜基材を前記成膜ロールに供給する巻出しロール及び成膜後の被成膜基材を巻き取る巻取りロールとを備え、
前記固定チャンバ部に対して前記左右の移動チャンバ部を開閉機構により開閉自在に設け、
前記成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールは前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持され、前記側方成膜源は前記移動チャンバ部に着脱自在に設けられ、
前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間にその間隔を維持する間隔規制部材が設けられた、連続成膜装置。
【請求項3】
前記間隔規制部材は、前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁に着脱自在に設けられた請求項2に記載した、連続成膜装置。
【請求項4】
前記固定チャンバ部の背面壁及び側面壁は、それぞれの板厚が同等であり、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように前記背面壁及び側面壁に開口が設けられた、請求項1から3のいずれか1項に記載した連続成膜装置。
【請求項5】
前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に下方から成膜する下方成膜源が設けられ、前記固定チャンバ部の正面壁に前記下方成膜源を挿脱自在に取り付ける挿脱用開口が設けられ、前記固定チャンバ部の背面壁に前記挿脱用開口と対向する部位に同形ないしほぼ同形のダミー開口が設けられた、請求項1から4のいずれか1項に記載した連続成膜装置。
【請求項1】
被成膜基材を搬送しながら成膜する連続成膜装置であって、
背面壁とこれに対向配置された正面壁とを上面壁及び下面壁によって連結した固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の左右の開口を閉塞する左右の側面壁をそれぞれ有する左右一対の移動チャンバ部とからなる真空チャンバと、前記真空チャンバ内に収容されて回転自在に設けられた成膜ロールと、前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に側方から成膜する側方成膜源と、前記被成膜基材を前記成膜ロールに供給する巻出しロール及び成膜後の被成膜基材を巻き取る巻取りロールとを備え、
前記固定チャンバ部に対して前記左右の移動チャンバ部を開閉機構により開閉自在に設け、
前記成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールは前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持され、前記側方成膜源は前記移動チャンバ部に着脱自在に設けられ、
前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁は、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように設けられた、連続成膜装置。
【請求項2】
被成膜基材を搬送しながら成膜する連続成膜装置であって、
背面壁とこれに対向配置された正面壁とを上面壁及び下面壁によって連結した固定チャンバ部と、この固定チャンバ部の左右の開口を閉塞する左右の側面壁をそれぞれ有する左右一対の移動チャンバ部とからなる真空チャンバと、前記真空チャンバ内に収容されて回転自在に設けられた成膜ロールと、前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に側方から成膜する側方成膜源と、前記被成膜基材を前記成膜ロールに供給する巻出しロール及び成膜後の被成膜基材を巻き取る巻取りロールとを備え、
前記固定チャンバ部に対して前記左右の移動チャンバ部を開閉機構により開閉自在に設け、
前記成膜ロール、巻出しロール及び巻取りロールは前記固定チャンバ部の背面壁及び正面壁の壁面に垂直に回転自在に支持され、前記側方成膜源は前記移動チャンバ部に着脱自在に設けられ、
前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁との間にその間隔を維持する間隔規制部材が設けられた、連続成膜装置。
【請求項3】
前記間隔規制部材は、前記固定チャンバ部の背面壁と正面壁に着脱自在に設けられた請求項2に記載した、連続成膜装置。
【請求項4】
前記固定チャンバ部の背面壁及び側面壁は、それぞれの板厚が同等であり、前記真空チャンバを減圧したとき、背面壁と正面壁が内側に曲がることによって生じるたわみが縦方向の任意位置にて同等となるように前記背面壁及び側面壁に開口が設けられた、請求項1から3のいずれか1項に記載した連続成膜装置。
【請求項5】
前記成膜ロールに巻き掛けられた被成膜基材に下方から成膜する下方成膜源が設けられ、前記固定チャンバ部の正面壁に前記下方成膜源を挿脱自在に取り付ける挿脱用開口が設けられ、前記固定チャンバ部の背面壁に前記挿脱用開口と対向する部位に同形ないしほぼ同形のダミー開口が設けられた、請求項1から4のいずれか1項に記載した連続成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−31492(P2008−31492A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202723(P2006−202723)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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