説明

連続浸炭方法

【課題】過大なコストアップを招くことなく浸炭むらの発生を抑えるとともに、表面異常層の増加も抑制することのできる連続浸炭方法を提供する。
【解決手段】被処理物の搬送方向上流側に位置する仕切扉と、この仕切扉に続いて設けられた昇温ゾーンと、この昇温ゾーンに続いて炉内搬送方向下流側に設けられた浸炭ゾーンと拡散ゾーンとを備える浸炭炉の各ゾーンに、炭化水素ガスおよびエアーを直接供給して前記浸炭ゾーンと拡散ゾーンに浸炭性雰囲気を形成し、前記被処理物に連続的に浸炭処理を施す連続浸炭方法であって、前記被処理物を昇温ゾーンに搬入して前記仕切扉を閉鎖した直後、前記昇温ゾーンに供給される炭化水素ガスおよびエアーの混合気体に、所定流量のCO2ガスを、所定の時間添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品等に用いられる各種ギアや転がり軸受、あるいは等速ジョイント等の部品などの被処理物を、浸炭性の雰囲気ガスを流動させた炉内で加熱浸炭する連続ガス浸炭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼部品の表面層に固溶した炭素を拡散させることにより、鉄鋼部品の表面層のみを硬化するガス浸炭方法として、変成炉を用いず、炭化水素ガスとエアーを直接炉内に供給して、この炉内で炭化水素を分解させて浸炭ガスを生成する炉内変成方式のガス浸炭方法(酸浸炭法)と、変成炉を用いて変成した吸熱型ガス(RXガス)をキャリアガスとし、これに少量の炭化水素ガス(例えば、プロパンガスやブタンガス,メタンガス等)からなるエンリッチガスを添加して供給し、炉内を浸炭雰囲気とするガス浸炭法と、が知られている(例えば、特許文献1〜2等を参照。)。
【0003】
図2に、炉内変成方式のガス浸炭を連続して行う従来の連続浸炭炉の概略構成図を示す。
連続浸炭炉には、炉の入口(炉内搬送方向上流)側に、装入室(入口パージ室)Pと第1仕切扉1を介して、搬送方向上流側から順に、昇温ゾーンA,浸炭ゾーンB,拡散ゾーンC,第2仕切扉2,降温ゾーンD等が設けられている。また、炉の入口(搬送方向上流)側および出口(搬送方向下流側)側にはそれぞれ入口扉10および図示しない出口扉が設けられ、これら入口扉10および出口扉の外側には、フレームカーテン(図示省略)が設けられている。そして、被処理物を載せたトレイが、プッシャーやローラにより搬送されながら、これらのゾーンを順次通過するように構成されている。
【0004】
なお、炉内変成方式(酸浸炭法)の場合は、昇温A,浸炭B,拡散Cの各ゾーンに、それぞれ所定流量の炭化水素ガスとエアーが導入できるようになっており、それらにより雰囲気ガスが構成される。また、変成炉方式の場合は、これら各ゾーンに、所定流量のキャリアガス(RXガスやメタノール分解ガス)と、さらに浸炭ゾーンと拡散ゾーンには少量の炭化水素ガスが供給され、雰囲気ガスが構成される。そして、これら浸炭ゾーンと拡散ゾーンに導入する各気体の供給量を制御することにより、これらのゾーンのカーボンポテンシャルが調整されている。
【特許文献1】特開昭63−45358号公報
【特許文献2】特開2004−332080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような従来の連続浸炭炉においては、ワーク(被処理物)が搬入される昇温ゾーンの温度が低いため、カーボンポテンシャルの高い浸炭ゾーンや拡散ゾーンの雰囲気ガスが昇温ゾーンに流れ込むと、まだ温度の低い被処理物の表面に煤を発生させ、いわゆるスーティングを起こすことがある。また、このスーティングに起因して、浸炭むらが発生する場合があることが知られている。
【0006】
そこで、本出願人らは、これを解決するための予備的実験として、炉内変成方式において、昇温ゾーンに供給される炭化水素ガスとエアーのエアー量を、浸炭ゾーンおよび拡散ゾーンに比べて一定量増量する試みを行った。しかしながら、この方法では、浸炭むらが改善されたものの、ワークの合金成分であるクロムの粒界酸化によると思われる表面異常層の厚みが、従来の炉内変成方式による連続浸炭法を用いた場合に比べてやや増加してしまう結果となった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、過大なコストアップを招くことなく、浸炭むらの発生を抑えるとともに、表面異常層の増加も抑制することのできる連続浸炭方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被処理物の搬送方向上流側に位置する仕切扉と、この仕切扉に続いて設けられた昇温ゾーンと、この昇温ゾーンに続いて炉内搬送方向下流側に設けられた浸炭ゾーンと拡散ゾーンとを備える浸炭炉の各ゾーンに、炭化水素ガスおよびエアーを直接供給して前記浸炭ゾーンと拡散ゾーンに浸炭性雰囲気を形成し、前記被処理物に連続的に浸炭処理を施す連続浸炭方法であって、前記被処理物を昇温ゾーンに搬入して前記仕切扉を閉鎖した直後、前記昇温ゾーンに供給される炭化水素ガスおよびエアーの混合気体に、所定流量のCO2ガスを、所定の時間添加することを特徴とする。
【0009】
また、同じ目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、被処理物の搬送方向上流側に位置する仕切扉と、この仕切扉に続いて設けられた昇温ゾーンと、この昇温ゾーンに続いて炉内搬送方向下流側に設けられた浸炭ゾーンと拡散ゾーンとを備える浸炭炉の各ゾーンに、変成炉で作製したキャリアガスを供給して前記浸炭ゾーンと拡散ゾーンに浸炭性雰囲気を形成し、前記被処理物に連続的に浸炭処理を施す連続浸炭方法であって、前記被処理物を昇温ゾーンに搬入して前記仕切扉を閉鎖した直後、前記昇温ゾーンに供給されるキャリアガスに、所定流量のCO2ガスを、所定の時間添加することを特徴とする。
【0010】
本発明は、連続浸炭炉を用いて行うガス浸炭方法において、炉の搬送方向上流側仕切扉に隣接する昇温ゾーンに被処理物が搬入された直後に、この昇温ゾーンにCO2ガスを添加することによって、所期の目的を達成しようとするものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、炉の搬送方向上流側の仕切扉に隣接する昇温ゾーンに被処理物が搬入され、この昇温ゾーンが比較的低温になっている時に、該昇温ゾーンにのみ、炭化水素ガスおよびエアーの混合気体に、所定量のCO2ガスを所定時間添加することにより、このゾーンに供給される雰囲気ガスの酸化力を抑制し、カーボンポテンシャルを下げることが可能になる。従って、本発明の連続浸炭方法によれば、過大なコスト上昇を招くことなく、昇温ゾーンにおける浸炭むらや表面異常層の増加を防止することができる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明も同様に、炉の搬送方向上流側の仕切扉に隣接する昇温ゾーンに被処理物が搬入され、この昇温ゾーンが比較的低温になっている時に、該昇温ゾーンにのみ、キャリアガスに、所定量のCO2ガスを所定時間添加することにより、このゾーンに供給される雰囲気ガスの酸化力を抑制し、カーボンポテンシャルを下げることが可能になる。従って、本発明の連続浸炭方法によれば、昇温ゾーンにおける浸炭むら並びに表面異常層の増加を防止することができる。
【0013】
また、請求項2に記載の連続浸炭方法によれば、大掛かりな設備の変更なしに、浸炭むらと表面異常層の増加を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の連続浸炭方法によれば、最小限のコストアップで、浸炭むらの防止と、表面異常層の増加抑制を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における炉内変成方式の連続浸炭炉の構造を示す概略構成図である。この実施形態における連続浸炭炉も、従来例とほぼ同様の構成であり、炉内搬送方向上流側および下流側の第1仕切扉1と第2仕切扉2との間に、昇温ゾーンA,浸炭ゾーンB,拡散ゾーンC,降温ゾーンDが設けられている。また、昇温A,浸炭B,拡散Cの各ゾーンには、配管3を通じて、それぞれ所定流量の炭化水素(ブタン)ガスおよびエアーが導入できるようになっている。
【0016】
この実施形態における連続浸炭炉が従来例と異なる点は、搬送方向上流側の第1仕切扉1の直後に設けられた昇温ゾーンAに前記キャリアガスを供給する配管3に連通して、別途追加の配管4と、この配管4に繋がるCO2ボンベ等のCO2ガス供給設備(図示せず)が配設されている点である。
【0017】
[実施例]
次に、このCO2ガス供給設備を備える連続浸炭炉を用いて行った試験の結果について述べる。
試験は、工程の稼動(ランニング)中に行い、下記した以外の試験条件は、通常の製品製造と同じである。
鋼種:SCr20,SCM20
ワーク(被処理物):アウトプットシャフト,ギヤカウンタなど
ワーク単重量:0.4〜4.7kg
チャージ:170〜200kg/トレー(昇温〜拡散ゾーンに15トレー)
タクトタイム:15〜20分(サイクルタイム)
なお、炭化水素ガスとしてブタンを使用(ただし、メタン,プロパン等でも可)。
また、CO2ガスの添加時間は、炉の搬送方向上流側の仕切扉の閉鎖後1分間とした。
【0018】
(実施例1)
ブタン:(エアー):CO2=1:(9.5〜11):10 [単位:L/min]を第1仕切扉の閉鎖後1分間添加した。
(実施例2)
ブタン:(エアー):CO2=1:(15):10 [単位:L/min]を第1仕切扉の閉鎖後1分間添加した。
(比較例1)
ブタン:(エアー)=1:(9.5〜11) [単位:L/min]を供給して従来通り製造。
(比較例2)
ブタン:(エアー)=1:(15) [単位:L/min]を供給して従来通り製造。
(比較例3)
ブタン:(エアー)=1:(30) [単位:L/min]を供給して従来通り製造。
【0019】
試験は、製品製造中に5日間かけて行った。その結果を「表1」に示す。
なお、結果は「浸炭むら(表面硬度)」と「表面異常層」の状態を3段階に判定したものであり、○:従来より良好,△従来と同等,×:従来より悪化を表す。
【0020】
【表1】

【0021】
これらの結果から、CO2ガスの添加量は、炭化水素ガス供給量に分子式中の炭素数を乗じて得られる値の2.5〜5倍程度で、かつ、エアーと同程度の流量が好ましいことが分かった。すなわち、添加CO2ガスの流量は、あるワークの搬入から次のワークの搬入までの時間(タクトタイム)に比べて十分に短い時間で、昇温ゾーンの雰囲気に対する外乱(ワーク搬入時の急激な温度低下と外気の混入)の影響を解消できるとともに、その下流の浸炭ゾーンと拡散ゾーンのカーボンポテンシャルに影響が出ない程度であることが望ましい。
【0022】
なお、上記実施例とは別に、吸熱型変成ガス(RXガス)をキャリアガスとし、これに炭化水素ガス(ブタンガス)からなるエンリッチガスを添加して供給するタイプの連続浸炭炉でも、同様の試験を行ったので、その結果を記す。
【0023】
(実施例3)RXガスにCO2ガスを第1仕切扉の閉鎖後1分間 10L/min添加
表面異常層の厚さの平均 : 13〜14μm
(比較例4)CO2ガスの添加なし
表面異常層の厚さの平均 : 18μm
【0024】
この結果から、RXガスをキャリアガスとする連続浸炭炉においても、同等の効果が得られることが推察される。
【0025】
また、本発明は、上記実施形態における例に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態における連続浸炭炉の構造を示す概略構成図である。
【図2】従来の連続浸炭炉の構造を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0027】
1 (搬送方向上流側)仕切扉
2 (搬送方向下流側)仕切扉
3 配管
4 配管
10 入口扉
P 装入室(入口パージ室)
A 昇温ゾーン(#1,#2)
B 浸炭ゾーン(#1,#2)
C 拡散ゾーン
D 降温ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の搬送方向上流側に位置する仕切扉と、この仕切扉に続いて設けられた昇温ゾーンと、この昇温ゾーンに続いて炉内搬送方向下流側に設けられた浸炭ゾーンと拡散ゾーンとを備える浸炭炉の各ゾーンに、炭化水素ガスおよびエアーを直接供給して前記浸炭ゾーンと拡散ゾーンに浸炭性雰囲気を形成し、前記被処理物に連続的に浸炭処理を施す連続浸炭方法であって、
前記被処理物を昇温ゾーンに搬入して前記仕切扉を閉鎖した直後、前記昇温ゾーンに供給される炭化水素ガスおよびエアーの混合気体に、所定流量のCO2ガスを、所定の時間添加することを特徴とする連続浸炭方法。
【請求項2】
被処理物の搬送方向上流側に位置する仕切扉と、この仕切扉に続いて設けられた昇温ゾーンと、この昇温ゾーンに続いて炉内搬送方向下流側に設けられた浸炭ゾーンと拡散ゾーンとを備える浸炭炉の各ゾーンに、変成炉で作製したキャリアガスを供給して前記浸炭ゾーンと拡散ゾーンに浸炭性雰囲気を形成し、前記被処理物に連続的に浸炭処理を施す連続浸炭方法であって、
前記被処理物を昇温ゾーンに搬入して前記仕切扉を閉鎖した直後、前記昇温ゾーンに供給されるキャリアガスに、所定流量のCO2ガスを、所定の時間添加することを特徴とする連続浸炭方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−303444(P2008−303444A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153461(P2007−153461)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】