説明

連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法および連続発酵用膜分離装置

【課題】本発明の目的は、連続発酵法による化学品の製造方法において、簡便な操作方法で、長時間にわたり安定して高生産性を維持するための分離膜モジュールの洗浄方法を提供することである。
【解決手段】発酵原料を連続的に発酵槽に導入し、微生物と化学品を含む培養液を分離膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ化学品を含んだ透過液を取り出す連続発酵における分離膜モジュールの洗浄方法であって、酸化剤を含んだ水を用いた逆圧洗浄を実施した後に、還元剤を含んだ水をろ過することを特徴とする連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵原料を連続的に発酵槽に導入し、微生物と化学品を含む培養液を分離膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ化学品を含んだ透過液を取り出す連続発酵における分離膜モジュールの洗浄方法および連続発酵用膜分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)回分発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed-Batch or Semi-Batch発酵法)と(2)連続発酵法(Continuous発酵法)に分類することができる。回分および流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し、純菌培養による生産物発酵の場合、培養に必要とした培養菌以外の雑菌による汚染が起きる可能性が低いというメリットがある。しかし、時間経過とともに培養液中の生産物濃度が高くなり、生産物阻害や浸透圧の上昇などの影響により生産性および収率が低下している。このため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持するのが困難である。
【0003】
連続発酵法は、発酵槽内で目的物質が蓄積するのを回避する事により、上述の回分および流加発酵法と比べ長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できる。従来の連続培養は、発酵槽へ新鮮培地を一定速度で供給し、これと同量の培養液を槽外へ排出することによって、発酵槽内の液量を常に一定に保つ培養法である。回分培養では初発基質濃度が消費されると培養が終了するが、連続培養では理論的には無限に培養を持続できる。すなわち、理論的には無限に発酵できる。
【0004】
しかし、従来の連続培養では培養液とともに微生物も槽外に排出され、発酵槽内の微生物濃度を高く維持することは難しい。そこで、発酵生産を行う場合には発酵を行う微生物を高濃度に保つことができれば、発酵容積当たりの発酵生産効率を向上させることができる。そのためには、微生物を発酵槽内に保持、あるいは還流させる必要がある。
【0005】
微生物を発酵槽内に保持あるいは還流させる方法としては、排出された培養液を遠心分離により固液分離し、沈殿物である微生物を発酵槽に返送する方法や、ろ過することで固形分である微生物を分離し、培養液上清のみを槽外に排出する方法があげられる。しかし、遠心分離による方法は動力コストが高く現実的ではない。ろ過による方法は、前述のようにろ過するために高い圧力を要することから、実験室レベルでの検討がほとんどであった。その一例として、「アプライドマイクロバイアルアンドマイクロバイオロジー」(Appl. Microbiol. Biotechnol.) , 32, 269-273 (1989).(ヒラノ・トシヒコら (Toshihiko Hirao et.al.))には、L-グルタミン酸やL-リジンの発酵について連続培養法が開示されている。しかし、これらの例では、連続発酵は行っているものの、培養液へ原料の連続的な供給を行うとともに、微生物や培養細胞を含んだ培養液も抜き出すために、培養液中の微生物や培養細胞が引き抜きおよび希釈され、発酵槽中の微生物濃度が低下することから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0006】
そこで、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で分離・濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に分離された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。例えば、特開平5―95778号公報や特開昭62―138184号公報、特開平10―174594号公報には、セラミックス膜を用いた連続発酵装置において、膜分離連続発酵に関する技術が開示されている。これらの技術は、既存の連続発酵と比べ、膜分離による微生物および培養細胞濃度を高く維持するという、膜分離連続発酵の優位性を示した。しかし、開示された技術は、セラミックス膜の目詰まりによる濾過流量や濾過効率の低下などの問題があり、詰まり防止のために、逆圧洗浄等を行っている。
【0007】
最近では、有機高分子分離膜を用いた連続培養装置により、連続培養する技術が提案されている(例えば、国際公開第07/097260号パンフレットや特開2008―212138号公報参照)。本提案では、微生物もしくは培養細胞を培養するための槽と、培養液から、目的とする発酵生産物と微生物、培養細胞との膜分離を行うための槽とを有した連続培養装置をもちいることで、回分培養法、流加培養法に比較して高い生産速度で様々な化学品を生産することが可能となった。
【0008】
更には、特開2010−22321号公報では、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続培養法による化学品の製造方法が示されている。しかしながら、循環液量あたりの濾過液量の回収率を制御する必要があり、循環ラインへの流量計設置等、コスト増となるため、より簡便に分離膜のろ過性を維持できる方法の開発が望まれている。
【0009】
このような分離膜を用いた連続発酵技術においては、コストダウンの観点から透水性能の向上が求められ、透水性能が優れている分離膜で膜面積を減らし、装置をコンパクト化する等によって設備費・膜交換費および設置面積の低減を試みている。このようなコストの観点から、体積に対してろ過面積が広い中空糸膜が注目されている。
【0010】
しかし、中空糸膜を含め、このような分離膜は、ろ過運転を通じてろ過面にSS(Suspended Solid)や吸着物が付着することでろ過能力が低下し、必要なろ過液量が得られなくなることがある。微生物や培養細胞の目詰まりの抑制方法については、多孔性分離膜の洗浄や濾過条件の設定などに関する技術がいくつか提案されているが、いずれも十分なものとは言えない。例えば、多孔性分離膜の洗浄方法としては、多孔性分離膜を温水で逆圧洗浄する方法(特許文献1)、多孔性分離膜を濾過透過水で逆圧洗浄する方法(特許文献2)などが開示されているが、いずれも発酵終了後の培養液から発酵生産物を濾過回収する場合の多孔性分離膜洗浄方法であり、濾過処理後に微生物や培養細胞を培養液に保持または還流する連続発酵方法に適用した場合、有機物による膜表面の汚れが効果的に洗浄できないため発酵の生産性を高く維持することが困難である。
【0011】
一方、分離膜を用いた水処理分野では、膜の原水側に気泡を導入し、膜を揺動させ、膜同士を触れ合わせることにより膜表面の付着物質を掻き落とす空気洗浄や、膜のろ過方法とは逆方向に膜ろ過液を圧力で押し込み、膜表面や膜細孔内に付着していた汚染物質を排除する逆圧洗浄等の物理洗浄が実用化されており、さらに洗浄効果を高めるため、特許文献3のように、逆圧洗浄水に次亜塩素酸ナトリウムを添加したり、特許文献4のように逆圧洗浄水にオゾン含有水を用いたりする方法が提案されている。酸化剤は、膜表面や膜細孔内に付着した発酵副生産物や微生物由来のタンパク質等の有機物を分解・除去する効果がある。
【0012】
しかし、近年、連続発酵によって生産された化学品を含む発酵ろ過液を、逆浸透膜あるいはナノろ過膜(以下、これらを合わせて半透膜という)を用いて濃縮・精製する方法が特開2009−34030号公報などによって提案されている。そこで、上記方法のように、膜表面に付着した有機物を酸化剤で酸化分解した後、分離膜モジュール内やろ過側の2次側配管内に酸化剤が残留している場合、ろ過開始直後の膜ろ過液には高濃度の酸化剤が含まれることが多い。発酵ろ過液の濃縮・精製のために半透膜による処理を適用する際に、半透膜、とりわけ膜材質がポリアミド系の半透膜については酸化剤によって酸化劣化を引き起こしやすいため、分離膜モジュール内やろ過側の2次側配管内を原水や膜ろ過液で十分に洗い流したり、チオ硫酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤を添加して酸化剤を還元中和したりする必要がある。さらに、高濃度の酸化剤が分離膜モジュールの中に残存した場合、酸化剤により微生物が分解されるなどの悪影響も考えられる。
【0013】
上記の中和を行う場合、分離膜モジュール内やろ過側の2次側配管内を発酵用培地、発酵用中和剤、膜ろ過液などで洗い流すだけでは、効率良く残留した酸化剤を還元中和できないことから、半透膜モジュールの前段で還元剤を常時添加する必要性が生じ、薬品コストが高くなる。また水処理分野では、酸化剤を添加しながら原水をろ過する造水方法において、特許文献5では定期的に分離膜モジュールの1次側を還元剤である重亜硫酸溶液で洗浄を行う方法が、特許文献6では定期的に還元剤を含有する洗浄水で逆圧洗浄する方法が提案されている。しかし、還元剤による洗浄と洗浄との間の膜ろ過液には酸化剤が含有されていることから、半透膜モジュールの前段で還元剤を常時添加する必要性が生じ、薬品コストが高くなる問題があった。
【0014】
このように従来の技術では、膜分離技術を用いた微生物の連続発酵運転に対する適切な洗浄方法について検討されておらず、膜面洗浄を行い分離膜のろ過性を維持しながら、かつ、発酵による化学品の生産性を高めるための方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−317273号公報
【特許文献2】特開平11−215980号公報
【特許文献3】特開2001−79366号公報
【特許文献4】特開2001−187324号公報
【特許文献5】特開2006−305444号公報
【特許文献6】特開2008−29906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、連続発酵法による化学品の製造方法において、簡便な操作方法で、長時間にわたり安定して高生産性を維持するための分離膜モジュールの洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成をとる。
【0018】
(1)発酵原料を連続的に発酵槽に導入し、微生物と化学品を含む培養液を分離膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ化学品を含んだ透過液を取り出す連続発酵における分離膜モジュールの洗浄方法であって、分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄を実施した後に、分離膜モジュールで還元剤を含む水をろ過することを特徴とする連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【0019】
(2)還元剤を含む水の膜ろ過液の少なくとも一部を、分離膜モジュールの2次側に設けられたバイパスラインから系外に排出することを特徴とする(1)に記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【0020】
(3)還元剤を含む水をろ過する前または後に、分離膜モジュールの2次側から1次側に、発酵原料の少なくとも一部を含む液、発酵に用いる中和剤の少なくとも一部を含む液および膜ろ過液からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む液を供給することを特徴とする、(1)または(2)のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【0021】
(4)分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄を実施した後に、分離膜モジュール内に酸化剤を含む水を所定時間保持することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【0022】
(5)分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄の実施前、実施中、実施後、または分離膜モジュール内に酸化剤を含む水を保持している時間の少なくとも一部に気体洗浄を実施することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【0023】
(6)化学品を含んだ透過液の少なくとも一部を半透膜でろ過することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【0024】
(7)発酵原料が連続的に導入される発酵槽と、微生物と化学品を含む培養液を化学品を含む透過液と非透過液とにろ過分離する分離膜モジュールと、発酵槽から分離膜モジュールに培養液を供給する培養液供給手段と、分離膜モジュールから発酵槽に非透過液を供給する非透過液供給手段と、分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する酸化剤供給手段と、分離膜モジュールの1次側に還元剤を含む水を供給する還元剤供給手段と、を備えることを特徴とする連続発酵用膜分離装置。
【0025】
(8)分離膜モジュールの2次側と系外とを連通するバイパスラインを備える、(7)に記載の連続発酵用膜分離装置。
【0026】
(9)発酵槽から分離膜モジュールまでの配管および/または分離膜モジュール下部に気体を供給することを特徴とする、(7)または(8)のいずれかに記載の連続発酵用膜分離装置。
【0027】
(10)膜ろ過液の少なくとも一部をろ過する半透膜モジュールを備える、(7)〜(9)のいずれかに記載の連続発酵用膜分離装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明によって、分離膜のろ過性が長時間にわたり安定させることが可能となり、更には発酵成績を高めることが可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定的に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明で用いられる連続発酵用膜分離装置の一例の概略図である
【図2】実施例および比較例に係る菌体濃度の経時変化を示す図である。
【図3】実施例および比較例に係るD-乳酸生産速度の経時変化を示す図である。
【図4】実施例および比較例に係る膜間差圧の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明で使用される発酵槽は、耐圧性、耐熱性および耐汚れ性に優れる材質で作られ、円筒型、多角筒型など、発酵原料、微生物、その他発酵に必要な固体・液体・気体を注入して撹拌することができ、必要に応じて滅菌でき、密閉することが可能な形状であれば良い。発酵原料と培養液や微生物の撹拌効率などを考慮すると、円筒型が好ましい。本発明で使用される発酵槽は、発酵槽の外部から発酵槽内部に雑菌が入り増殖することを防ぐため、発酵槽に圧力計を設け、常に発酵槽中の圧力を加圧状態に維持することが好ましい。
【0031】
本発明で使用される微生物や培養細胞の発酵原料は、発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。前記発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものを一部含む液体であれば、例えば廃水または下水も、そのまま、または滅菌処理などを行い、または発酵原料を添加して使用してもよい。
【0032】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉、澱粉加水分解物、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ケーンジュース、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの抽出物もしくは濃縮液、甜菜糖蜜またはケーンジュースのろ過液、シラップ(ハイテストモラセス)、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖、菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された精製糖、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0033】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0034】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜使用することができる。
【0035】
発酵原料には菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが、効率よい生産性を得るのに好ましい。
【0036】
本発明で使用される微生物や培養細胞としては、真核細胞または原核細胞が用いられ、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、乳酸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0037】
本発明で用いられる真核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造を持ち、細胞核(核)を有さない原核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで更に好ましくは酵母を好ましく用いることができる。本発明において好適な酵母としては、例えば、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母とサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母が挙げられる。
【0038】
本発明で用いられる原核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造をもたないことであり、細胞核(核)を有する真核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで乳酸菌を好ましく用いることができる。
【0039】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続発酵培養法であれば、発酵槽の数は問わない。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。その場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
【0040】
本発明において、微生物の発酵培養は、通常、pHが3以上10以下で、温度が15℃以上65℃以下の範囲で行うことができる。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【0041】
本発明に係る化学品の製造方法では、培養初期にBatch培養またはFed-Batch培養を行って、微生物濃度を高くした後に、連続培養(引き抜き)を開始しても良い。本発明の化学品の製造方法では、微生物濃度を高くした後に、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。本発明に係る化学品の製造方法では、適当な時期から原料培養液の供給及び培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0042】
本発明の分離膜モジュールに用いられる分離膜は、有機膜、無機膜を問わず、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、セラミックス製の膜のように、培養液のろ過に使用でき、気体による洗浄に対して耐久性を持つ分離膜であれば良い。中でも、培養液による汚れが発生しにくく、洗浄がしやすく、気体による洗浄に対して耐久性が優れているポリフッ化ビニリデン製の分離膜が好ましい。
【0043】
本発明で用いられる分離膜は、培養液の中の微生物を効果的に分離するため、平均細孔径が0.001μm以上10μm未満の細孔を有する多孔性膜であることが好ましい。また、分離膜の形状は、平膜、中空糸膜などいずれの形状のものも採用することができるが、モジュール体積に比べ膜面積が広い中空糸膜が好ましい。膜の平均孔径は、ASTM:F316−86記載の方法(別称:ハーフドライ法)にしたがって決定することができる。なお、このハーフドライ法によって決定されるのは、膜の最小孔径層の平均孔径である。
【0044】
なお、本発明においては、ハーフドライ法による平均孔径の測定は、使用液体にエタノールを用い、25℃、昇圧速度0.001MPa/秒での測定を標準測定条件とした。平均孔径[μm]は、下記式より求まる。
【0045】
平均孔径[μm]=(2860×表面張力[mN/m])/ハーフドライ空気圧力[Pa]
エタノールの25℃における表面張力は21.97mN/mである(日本化学会編、化学便覧基礎編改訂3版、II-82頁、丸善(株)、1984年)ので、本発明における標準測定条件の場合は、下記式で求めることができる。
【0046】
平均孔径[μm]=62834.2/(ハーフドライ空気圧力[Pa])
分離膜の形状としては、特に限定しないが、中空糸膜、平膜、管状膜、モノリス膜等があるが、いずれでも構わない。また加圧型分離膜モジュールの場合、外圧式でも内圧式であっても良いが、前処理の簡便さの観点から外圧式である方が好ましい。
【0047】
膜ろ過のろ過流量制御方法としては、定流量ろ過であっても定圧ろ過であっても差し支えはないが、ろ過液の生産水量の制御のし易さの点から定流量ろ過である方が好ましい。
【0048】
中空糸膜の径は、外圧式中空糸膜の場合は外径0.5mm以上3mm以下であることが望ましい。外径がこの範囲より小さいと中空糸膜中に流れるろ過液の抵抗が強く、大きいと培養液や気体による外圧により中空糸膜がつぶれる恐れがある。内圧式中空糸膜の場合は内径0.5mm以上3mm以下が望ましい。内径がこの範囲より小さいと中空糸膜中に流れる培養液の抵抗が強く、大きいと膜表面積が狭くなり、使用モジュール本数が増える恐れがある。
【0049】
本発明においての分離膜モジュールのケースは、耐圧性に優れる材質で作られ、円筒型、多角筒型など、培養液をモジュールの1次側へ供給することができる形状であれば良いが、培養液の流れやハンドリング性を考慮すると、円筒型が好ましい。
【0050】
本発明における膜ろ過方法は、全量ろ過でも、クロスフロ−ろ過でも良い。しかし、連続発酵運転の微生物の場合、微生物および膜詰まり物質など膜汚れ物質の膜への付着が多いため、クロスフロ−ろ過により培養液流れの剪断力で前記膜汚れ物質を除去しながらスクラビングろ過を行うことが好ましい。
【0051】
本発明において連続発酵のために供給される気体は、好気性発酵の場合は、酸素が含まれた気体が好ましい。また、純酸素で供給しても良く、発酵に悪影響のない気体、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、メタンガスなどを混合して酸素の濃度を調整した気体でも良い。培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を好適には21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。一方で嫌気性発酵の場合において、酸素の供給速度を下げる必要があれば、二酸化炭素、窒素およびアルゴンなど、酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0052】
ろ過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホン、またはクロスフロ−循環ポンプにより分離膜に膜間差圧を発生させることができる。また、ろ過の駆動力として分離膜モジュールの2次側に吸引ポンプを設置してもよい。また、クロスフロ−循環ポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。また、分離膜モジュールの2次側にバルブを設置し、バルブを制御することにより膜間差圧を制御することができる。また、前記方法を少なくとも一つ以上を使用し、より効果的に膜間差圧を制御することもできる。
【0053】
本発明における逆圧洗浄は、洗浄用液体を入れられる材質のタンク、洗浄用配管、ポンプを用いて、分離膜モジュールの2次側に設置し、分離膜モジュールのろ過停止やスクラビング洗浄を行う際、上記洗浄用液体を分離膜モジュールの2次側から分離膜モジュールの1次側に入れる。また、駆動力として、洗浄用液体と発酵培養液の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより分離膜モジュールに洗浄用液体を注入することもできる。本発明における逆圧洗浄のための配管は、洗浄用液体に対して耐久性を持ち、前記配管には、必要に応じて、圧力計、流量計、バルブ、滅菌用装置、滅菌用フィルタなどを設置することができる。本発明における逆圧洗浄の際には、洗浄用液体がろ過液タンクの方に流れないように、ろ過液の配管にバルブを設け、さらに洗浄用配管にバルブを設け、これらのバルブを制御する制御装置を設け、タイマーなどにより自動的に制御して供給することが望ましい。ここで、逆圧洗浄とは、多孔性膜処理水側から発酵培養液側へ洗浄用液体を送ることにより、膜面のファウリング物質を除去する方法である。
【0054】
本発明においての酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、過酸化水素水溶液、クロラミン水溶液などが使用できるが、使用しやすさとコストの観点から次亜塩素酸ナトリウム水溶液が好ましい。次亜塩素酸塩水溶液には、発明の効果を阻害しない範囲で、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどの塩基性化合物を含有しても構わない。
【0055】
酸化剤の濃度としては、次亜塩素酸塩水溶液の濃度は、遊離塩素濃度が10ppm以上5,000ppm以下の範囲であり、より好ましくは100ppm以上3,000ppm以下である。遊離塩素濃度がこの範囲より高いと、廃水を処理するコストが多く、またこの範囲より低いと洗浄効果が充分に得られないことがある。また、酸化剤の注入速度は、膜ろ過速度の0.5倍以上5倍以下の範囲であり、より好ましくは1倍以上3倍以下である。逆圧洗浄速度がこの範囲より高いと、ろ過膜モジュールに損傷を与える可能性があり、またこの範囲より低いと洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0056】
酸化剤による逆圧洗浄周期は膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、0.1回/時間以上12回/時間以下の範囲であり、より好ましくは4回/時間以上8回/時間以下である。逆圧洗浄周期がこの範囲より多いと、ろ過膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より少ないと、洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0057】
酸化剤による逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、5秒/回以上300秒/回以下の範囲であり、より好ましくは30秒/回以上120秒/回以下である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、ろ過膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0058】
酸化剤保管タンク、洗浄剤供給ポンプ、洗浄剤保管タンクからモジュールまでの配管およびバルブは、耐薬品性に優れるものを使用すれば良い。洗浄剤の注入は手動でも可能だが、ろ過・逆洗制御装置を設け、ろ過ポンプおよびろ過側バルブ、洗浄剤供給ポンプおよび洗浄剤供給バルブを、タイマーなどにより自動的に制御して注入することが望ましい。
【0059】
本発明においての還元剤は、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの無機系還元剤を使用することができる。還元剤の濃度としては、1ppm以上5000ppm以下の範囲でよく、分離膜モジュールやろ過側の2次側配管内に残留した酸化剤を還元中和するのに必要な理論濃度の1倍以上5倍以下程度にするのがより好ましい。
【0060】
還元剤を含む水をろ過する周期は、酸化剤による逆圧洗浄周期と合わせて決定される。微生物への影響など、必要に応じて、複数の酸化剤による逆圧洗浄を行った後、還元剤の洗浄を行うこともできる。
【0061】
還元剤を含む水をろ過する時間および注入速度としては、分離膜モジュールの中やろ過側の2次側配管内の酸化剤が還元中和されるまで行うことが好ましく、例えば酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、ろ過側の2次側配管中の遊離塩素濃度が0.1ppm程度となる程度まで実施することが好ましい。遊離塩素濃度の測定法には、DPD法、電流法、吸光光度法などが用いられる。測定は適宜採水し、DPD法および電流法により遊離塩素濃度の測定を行うか、吸光光度法を用いた連続自動測定機器により遊離塩素濃度の測定を行う。これら測定により、遊離塩素濃度を監視し、還元剤を添加した水をろ過する時間を決定および調整することが好ましい。
【0062】
還元剤保管タンク、還元剤供給ポンプ、還元剤保管タンクから還元剤注入口までの配管およびバルブは、耐薬品性に優れるものを使用すれば良い。還元剤の注入は手動でも可能だが、制御装置を設け、バルブおよび供給ポンプをタイマーなどにより自動的に制御して注入することが望ましい。
【0063】
次に、本発明で用いられる連続発酵装置について、図を用いて説明する。
【0064】
図1は、本発明の酸化剤および還元剤の供給方法が用いられる連続発酵装置を例示説明するための概略図である。図1において、連続発酵装置は、発酵槽1、分離膜モジュール2、ろ過液貯留槽23、酸化剤タンク24および還元剤タンク20で基本的に構成されている。
【0065】
図1において、発酵槽1では、レベルセンサー・制御装置6によって培地供給ポンプ9を制御し、培地を発酵槽1に投入し、必要に応じて、撹拌装置4で発酵槽1の中の発酵培養液を撹拌し、また、必要に応じて、温度制御装置3によって培養液の温度を制御し、また、必要に応じて、発酵槽気体供給装置21によって必要とする気体を供給することができる。前記気体供給の際、供給された気体を回収リサイクルして再び発酵槽気体供給装置21で供給することもできる。また、必要に応じて、pHセンサー・制御装置5によって中和剤供給ポンプ10を制御し、発酵培養液のpHを調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うこともできる。
【0066】
さらに、装置内の培養液は、循環制御バルブ18を開け、循環ポンプ8によって発酵槽1から分離膜モジュール2に供給する。前記培養液を前記モジュールに供給する際、必要に応じて、還元剤供給制御バルブ19を閉じることができる。また、必要に応じて、モジュール気体供給制御バルブ17とモジュール気体供給装置22を用いて、モジュールに培養液と気体を同時または間欠的に供給することもできる。
【0067】
化学品を含む培養液は、分離膜モジュール2によって微生物と化学品を含むろ過液にろ過・分離され、装置系から取り出すことができる。ここで、分離膜モジュール2には、多数の中空糸膜が組み込まれているが、場合によっては平膜でモジュールを作製して使用することもできる。また、ろ過・分離された微生物は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産速度の高い発酵生産を可能としている。また、ここで、分離膜モジュール2によるろ過工程には、循環ポンプ8による圧力によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じてろ過ポンプ11を設け、培養液量を適当に調整することができる。また、前記ろ過工程では、逆洗バルブ13を閉じ、ろ過液が酸化剤タンク24に入らないようにすることが望ましい。
【0068】
ここで、得られたろ過液は、ろ過液貯留槽23に送液されるが、必要に応じて、その後工程として別途半透膜モジュール(図示しない)を設け、ろ過液に含まれる溶質が除去された膜ろ過液と、ろ過液に含まれる溶質が濃縮された濃縮水に分離することによって、発酵およびろ過によって得られた化学品を濃縮することもできる。
【0069】
本発明では、さらに逆洗工程として、分離膜モジュール2の2次側に逆洗用配管を設け、逆洗ポンプ12および逆洗バルブ13を用いて、酸化剤を投入する。この際、必要に応じて、ろ過ポンプ11、ろ過バルブ14、排出制御バルブ15、循環ポンプ8、循環バルブ18、循環戻り制御バルブ16、還元剤供給ポンプ7、還元剤供給制御バルブ19、モジュール気体供給制御バルブ17、モジュール気体供給装置22の中の少なくとも一つ以上を止める、または閉じることができる。酸化剤が還元剤タンク20に入ることを防ぐためには還元剤供給制御バルブ19を閉じることが好ましく、酸化剤によるろ過液への影響を防ぐためにはろ過バルブ14を閉じることが好ましい。また、酸化剤を分離膜モジュール2に入れる圧力により、酸化剤が排出されることを防ぐためには排出制御バルブ15を閉めることが好ましく、酸化剤が分離膜モジュール2の洗浄に効果的に使われ、多量の未反応酸化剤が発酵槽1に入ることを防ぐためには循環ポンプ8を止め、循環制御バルブ18、循環戻り制御バルブ16を閉じることが望ましい。しかし、前記ポンプ作動やバルブの制御は、各タンクの位置関係や圧力関係、酸化剤が培養液、微生物およびろ過液に与える影響、酸化剤の濃度、未反応酸化剤の濃度、ろ過液での酸化剤濃度およびその濃度が半透膜モジュールに与える影響などによって判断し、必要に応じて制御することができる。
【0070】
酸化剤による分離膜モジュール2の逆圧洗浄を実施した後に、分離膜モジュール2や2次側配管内に残留した高濃度の酸化剤が培養液中の微生物へ悪影響を与える懸念があり、さらに、高濃度の酸化剤がろ過液貯留槽23に流入し、ろ過液の酸化を起こす懸念があり、さらに、高濃度の酸化剤が後段の半透膜モジュールに流入し、半透膜が酸化劣化を起こす懸念があるため、本発明では、酸化剤による分離膜モジュール2の逆圧洗浄を実施した後に、還元剤を分離膜モジュール2でろ過する還元工程を実施する。
【0071】
さらに、還元工程としては、逆圧洗浄が終了した後、逆洗バルブ13、ろ過バルブ14、循環制御バルブ18、循環戻り制御バルブ16を閉じ、循環ポンプ8、ろ過ポンプ11、逆洗ポンプ12を止め、排出制御バルブ15、還元剤供給制御バルブ19を開け、還元剤供給ポンプ7を作動することで、分離膜の表面や細孔内から剥離して分離膜モジュール2内で浮遊していたファウリング物質が系外に排出される。排水終了後、排出制御バルブ15、還元剤供給制御バルブ19を閉、循環制御バルブ18、循環戻り制御バルブ16、ろ過バルブ14を開とし、循環ポンプ8およびろ過ポンプ11を作動することでろ過を開始する。
【0072】
本発明においては、必要に応じて、分離膜モジュール2の2次側にバイパスライン25を設け、還元剤を含む水の膜ろ過液の少なくとも一部を、バイパスライン25を通じて系外に排出することができる。ここで、バイパスライン25は、図1に示すように分離膜モジュール2と逆洗バルブ13との間に設けることが望ましい。また、バイパスライン25は、分離膜モジュール2とろ過バルブ14との間に設けることもできる。しかし、この際には、配管中に残存する酸化剤の濃度、還元剤がろ過液へ与える影響などを考えて使用する必要がある。前記バイパスラインを設けることで、還元剤を含む水の膜ろ過液の一部を系の外に排出することができるようになり、これによって、必要以上の過大な還元剤がろ過液貯留槽に入らないよう調整することができる。過大な還元剤がろ過液貯留槽に入ると、ろ過により得られた化学品の不純物となるため、ろ過液貯留槽に過大な還元剤が入らないように調整する必要がある。
【0073】
また、本発明においては、必要に応じて、還元剤を含む水をろ過する前または後に、分離膜モジュールの2次側から1次側に、発酵原料の少なくとも一部を含む液、発酵に用いる中和剤の少なくとも一部を含む液、膜ろ過液の、少なくとも1つを含む液を供給することができる。例えば、上記還元工程を実施した後に、ろ過バルブ14を開け、ろ過ポンプ11を用いて、ろ過液貯留槽23に貯留している膜ろ過液を分離膜モジュール2に供給することで行うことができる。この供給によって、分離膜モジュールの1次側からろ過液貯留槽までの配管に残っている酸化剤や還元剤が希釈され、分離膜モジュールの1次側に供給される培養液中の微生物に与える悪影響を防ぐことができる。
【0074】
また、本発明においては、必要に応じて、分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄を実施した後に、分離膜モジュール内に酸化剤を含む水を所定時間保持することができる。酸化剤による膜表面の洗浄は、酸化剤の濃度と汚れ物質との接触時間に影響されるため、酸化剤を含む水を所定時間保持することで膜洗浄をより効果的に行うことができる。保持時間としては、1秒以上10時間以下で行うことが可能だが、20秒以上20分以下が好ましい。保持時間がこれより短いと酸化剤による汚れ物質の分解が十分に行えず、これより長いとろ過効率が下がり、かつ、分離膜に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0075】
また、本発明においては、必要に応じて、分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄の実施前、実施中、実施後、または分離膜モジュール内に酸化剤を含む水を保持している時間の少なくとも一部に、気体洗浄を実施することもできる。気体洗浄を実施することで、気体供給による分離膜の揺れが発生する。この揺れにより分離膜の汚れ物質が膜面から剥がれ、酸化剤と接触し分解される。気体洗浄に供給する気体は、発酵に悪影響のない気体であればよく、雑菌による汚染を防ぐためにフィルタ滅菌などを行ってから気体供給をすることが望ましい。例えば、圧縮窒素を市販の気体滅菌用フィルタを通して分離膜モジュールに供給することができる。
【0076】
また、本発明においては、必要に応じて、化学品を含んだ透過液の少なくとも一部を半透膜モジュールを用いてろ過することにより濃縮することができる。化学品を含んだ透過液を半透膜モジュールを用いてろ過すると、半透膜から水が分離され、ろ過液中の水分が減少するため、化学品を含んだ透過液を濃縮することができる。
【0077】
ここで半透膜とは、被分離混合液中の一部の成分、例えば溶媒を透過させ他の成分を透過させない半透性を有する膜であり、ナノろ過膜や逆浸透膜を包含する。その素材には酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材がよく使用されている。またその膜構造は膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い分離機能層を有する複合膜などを使用できる。膜形態には中空糸膜、平膜がある。本発明は、これら膜素材、膜構造や膜形態によらず実施することができいずれも効果があるが、代表的な膜としては、例えば酢酸セルロース系やポリアミド系の非対称膜およびポリアミド系、ポリ尿素系の分離機能層を有する複合膜などがあり、造水量、耐久性、塩排除率の観点から、酢酸セルロース系の非対称膜、ポリアミド系の複合膜を用いることが好ましい。
【0078】
また、本発明において、半透膜エレメントとは、前記半透膜を実際に使用するために形態化したものであり、平膜はスパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレーム型のエレメントとして、また中空糸膜は束ねた上でケースに組み込んで使用することができるが、本発明はこれらの半透膜エレメントの形態に左右されるのもではない。
【0079】
また、本発明において、ナノろ過膜または逆浸透膜を備えた半透膜モジュールは、前記半透膜エレメントを1〜数本圧力容器の中に収めたモジュールはもちろんであるが、このモジュールを複数本並列に配置したものをも含むものである。組合せ、本数、配列は必要に応じて合わせることができる。
【0080】
本発明においての逆洗工程および還元工程は、長期間に渡る連続発酵には効果的である。長期間の連続発酵には、微生物濃度の変化、目的産物の濃度変化、副生産物の濃度変化および分離膜の閉塞変化が影響すると考えられる。分離膜は、閉塞が起きてから逆洗などの洗浄を行うより、閉塞が起きないように維持していくことが効果的であり、特に、長期間の連続発酵では、微生物濃度の変化など膜閉塞に大きく影響する因子が変化するため、逆洗などの洗浄が必要になる。
【0081】
連続発酵では、主に有機物による膜閉塞が考えられるため、有機物による膜閉塞に効果的な酸化剤を使用して逆洗を行う必要がある。しかし、酸化剤を用いて逆洗を行うと、膜洗浄は効果的に行えるものの、逆洗により分離膜中に投入され、未反応で残留した酸化剤による微生物の分解も考えられる。この場合、連続発酵での微生物増殖速度より残留した酸化剤による微生物分解速度が速いと、微生物濃度が低減していく恐れがあり、微生物の濃度低下がなくても、微生物濃度の増加速度が遅くなる問題がある。微生物濃度は発酵速度に影響するため、微生物濃度低下は発酵速度の低下につながる可能性が高い。そこで、酸化剤が微生物濃度の低下に影響しないように、酸化剤による逆洗後、残留酸化剤を還元剤により中和することで、微生物濃度に影響することなく効果的に分離膜洗浄を行うことができ、長期間に渡って連続発酵を行うことが可能となる。
【0082】
以上、上記のろ過工程、逆洗工程、還元工程を繰り返し行うことにより、発酵微生物に大きなダメージを与えずに膜洗浄を行うことができ、酸化剤によるろ過液への悪影響を防ぎ、かつ、ろ過液を半透膜モジュールで濃縮する際、ろ過液中の酸化剤によるろ過液の半透膜モジュールへの悪影響を防ぐことができ、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵法による化学品の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、図1の概要図に示す装置を用いた連続発酵の具体的な実施形態について、実施例を挙げて説明する。
【0084】
実施例1
まず、膜ろ過モジュールを製作した。膜モジュールの製作に使用した中空糸膜は、東レ(株)製加圧式PVDF中空糸膜モジュール“HFS1020”を解体して、接着固定されていない部分のみを切り出し、得られたPVDF中空糸膜(公称孔径:0.05μm)を使用した。分離膜モジュール部材としてはポリカーボネート樹脂の成型品を用いた。作製した膜ろ過モジュールの容量は40mLで、膜ろ過モジュールの有効ろ過面積は260平方cmであった。製作した多孔性中空糸膜および膜ろ過モジュールを用いて、実施例1を行った。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
発酵培養槽容量:2(L)
発酵培養槽有効容積:1.5(L)
ろ過に使用した分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜60本
温度調整:37(℃)
発酵培養槽通気量:0.1(L/min)
発酵培養槽攪拌速度:600(rpm)
pH調整:3N NaOHによりpH6に調整
乳酸発酵培地供給速度:15〜300mL/hrの範囲で可変制御
培養液循環装置による循環液量:4.2(L/min)
膜ろ過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。微生物として Sporolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLCを用いて以下の条件下で行った。
【0085】
【表1】

【0086】
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5 mM p-トルエンスルホン酸(0.8 mL/min)
反応相:5 mM p-トルエンスルホン酸、20 mM ビストリス、0.1 mM EDTA・2Na(0.8 mL/min)
検出方法:電気伝導度
カラム温度:45℃
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相 :1 mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0 mL/分
検出方法 :UV 254 nm
温度 :30℃
L-乳酸の光学純度は、次式(i)で計算される。
光学純度(%)=100×(L-D)/(D+L) ・・・(i)
また、D-乳酸の光学純度は、次式(ii)で計算される。
光学純度(%)=100×(D-L)/(D+L) ・・・(ii)
ここで、LはL-乳酸の濃度を表し、DはD-乳酸の濃度を表す。
【0087】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの発酵培養槽に培地を入れて植菌し、付属の攪拌装置4によって攪拌し、発酵培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、循環ポンプ8を稼働させることなく、50時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、循環ポンプ8を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の培養液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、ろ過ポンプ11から出てくるろ過量を測定し、膜ろ過量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜ろ過培養液中の生産されたD−乳酸濃度および光学純度を測定した。
【0088】
連続発酵の膜ろ過運転は50時間から500時間まで行われ、逆洗工程と還元工程とともに行った。ろ過工程、逆洗工程および還元工程は、それぞれ8分ろ過、1分逆洗、1分還元で行い、前記工程を繰り返し行った。
【0089】
ろ過工程は、制御装置を用いて、還元剤供給制御バルブ19、排出制御バルブ15および逆洗バルブ13は閉じ、還元剤供給ポンプ7、逆洗ポンプ12を停止とし、循環戻り制御バルブ16とろ過バルブ14を開け、ろ過ポンプ11を用いて行い、ろ過流量は0〜50時間まではろ過を行わず、50〜500時間までは100mL/hの流量でろ過を行った。
【0090】
逆洗工程は50〜500時間まで行い、8分間ろ過工程後、1分間逆圧洗浄を行った。逆圧洗浄に使用した薬液は、有効塩素濃度10%の市販の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、遊離塩素濃度が1,000ppmになるよう蒸留水で希釈して使用した。逆洗工程は、制御装置を用いて、循環制御バルブ18、還元剤供給制御バルブ19、排出制御バルブ15およびろ過バルブ14は閉じ、還元剤供給ポンプ7、ろ過ポンプ11を停止とし、循環戻り制御バルブ16と逆洗バルブ13を開け、逆洗ポンプ12を起動して行い、逆洗流量は0〜50時間まではろ過を行わず、50〜500時間までは200mL/hの流量でろ過を行った。
【0091】
還元工程は、ろ過時間50〜500時間まで行い、8分間ろ過、1分間逆洗後に、1分間還元工程を行った。還元工程に使用した薬液は、35%濃度の市販の亜硫酸水素ナトリウムを用いて、濃度が30ppmになるよう蒸留水で希釈して使用した。
【0092】
還元工程は、循環制御バルブ18、気体供給バルブ17、ろ過バルブ14および逆洗バルブ13を閉め、循環ポンプ8、気体供給装置22、ろ過ポンプ11および逆洗ポンプ12を停止とした後、還元剤供給制御バルブ19と排出制御バルブ15を開け、還元剤供給ポンプ7を起動させて行った。この際、還元剤供給から数秒後に循環戻りバルブが閉まるようにして、分離膜モジュールのエア抜きができ、その後分離膜モジュールに圧力が掛かるようにした。還元剤供給流量は300mL/minで行った。
【0093】
ろ過差圧は差圧計を用いて1回/日で測定し、微生物濃度はOD600を用いて1回/日測定した。OD600の測定は、まず発酵槽からサンプルを採集し、サンプルのOD600が1前後になるように蒸留水を用いて希釈した後、波長600nmの吸光度を、吸光光度計(島津製作所UV-2450)を用いて測定した。得られた測定値に、蒸留水で希釈した倍率をかけ、サンプルのOD600として計算した。
【0094】
得られた菌体濃度、D-乳酸生産速度、膜間差圧を図2、3および4にそれぞれ示す。その結果、膜間差圧も安定的に維持することができ、かつ、高い菌体濃度およびD-乳酸生産速度を得ることが可能であった。
【0095】
比較例1
逆洗工程および還元工程で、次亜塩素酸ナトリウムおよび亜硫酸水素ナトリウムの代わりに水を使用した以外は、実施例1と同様の運転を行った。得られた菌体濃度、D-乳酸生産速度、膜間差圧を図2、3および4にそれぞれ示す。その結果、膜間差圧が上昇し、安定的なろ過運転ができなかった。
【0096】
比較例2
還元工程で、亜硫酸水素ナトリウムの代わりに水を使用した以外は、実施例1と同様の運転を行った。得られた菌体濃度、D-乳酸生産速度、膜間差圧を図2、3および4にそれぞれ示す。その結果、菌体濃度およびD-乳酸生産速度が低下し、高効率の連続発酵運転ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によって、分離膜のろ過性が長時間にわたり安定させることが可能となり、更には発酵成績を高めることが可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定的に生産することが可能となる。
【符号の説明】
【0098】
1 発酵槽
2 分離膜モジュール
3 温度制御装置
4 攪拌装置
5 pHセンサー・制御装置
6 レベルセンサー・制御装置
7 還元剤供給ポンプ
8 循環ポンプ
9 培地供給ポンプ
10 中和剤供給ポンプ
11 ろ過ポンプ
12 逆洗ポンプ
13 逆洗バルブ
14 ろ過バルブ
15 排出制御バルブ
16 循環戻り制御バルブ
17 モジュール気体供給制御バルブ
18 循環制御バルブ
19 還元剤供給制御バルブ
20 還元剤タンク
21 発酵槽気体供給装置
22 モジュール気体供給装置
23 ろ過液貯留槽
24 酸化剤タンク
25 バイパスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料を連続的に発酵槽に導入し、微生物と化学品を含む培養液を分離膜モジュールを用いてろ過し、連続的に非透過液を発酵槽に保持しつつ化学品を含んだ透過液を取り出す連続発酵における分離膜モジュールの洗浄方法であって、分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄を実施した後に、分離膜モジュールで還元剤を含む水をろ過することを特徴とする連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【請求項2】
還元剤を含む水の膜ろ過液の少なくとも一部を、分離膜モジュールの2次側に設けられたバイパスラインから系外に排出することを特徴とする請求項1に記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【請求項3】
還元剤を含む水をろ過する前または後に、分離膜モジュールの2次側から1次側に、発酵原料の少なくとも一部を含む液、発酵に用いる中和剤の少なくとも一部を含む液および膜ろ過液からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む液を供給することを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【請求項4】
分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄を実施した後に、分離膜モジュール内に酸化剤を含む水を所定時間保持することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【請求項5】
分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する逆圧洗浄の実施前、実施中、実施後、または分離膜モジュール内に酸化剤を含む水を保持している時間の少なくとも一部に気体洗浄を実施することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【請求項6】
化学品を含んだ透過液の少なくとも一部を半透膜でろ過することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の連続発酵用分離膜モジュールの洗浄方法。
【請求項7】
発酵原料が連続的に導入される発酵槽と、微生物と化学品を含む培養液を化学品を含む透過液と非透過液とにろ過分離する分離膜モジュールと、発酵槽から分離膜モジュールに培養液を供給する培養液供給手段と、分離膜モジュールから発酵槽に非透過液を供給する非透過液供給手段と、分離膜モジュールの2次側から1次側に酸化剤を含む水を供給する酸化剤供給手段と、分離膜モジュールの1次側に還元剤を含む水を供給する還元剤供給手段と、を備えることを特徴とする連続発酵用膜分離装置。
【請求項8】
分離膜モジュールの2次側と系外とを連通するバイパスラインを備える、請求項7に記載の連続発酵用膜分離装置。
【請求項9】
発酵槽から分離膜モジュールまでの配管および/または分離膜モジュール下部に気体を供給することを特徴とする、請求項7または8のいずれかに記載の連続発酵用膜分離装置。
【請求項10】
膜ろ過液の少なくとも一部をろ過する半透膜モジュールを備える、請求項7〜9のいずれかに記載の連続発酵用膜分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115783(P2012−115783A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269033(P2010−269033)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】