説明

連続鋳造における二次冷却方法

【課題】 連続鋳造設備の二次冷却帯にて鋳造中の鋳片を冷却するにあたり、鋳片表面に過冷却現象を発生させることなく、鋳片を均一に冷却することのできる二次冷却方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、連続鋳造機1で鋳造されている鋳片10を、鋳片支持ロール6で支持しながら鋳型5の下方に設けた複数の冷却ゾーンからなる二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却するに際し、前記冷却水の水温を50℃以上として鋳片を二次冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速鋳造時であっても鋳片を均一に冷却することのできる、連続鋳造設備の二次冷却帯における鋳片の冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、取鍋内の溶鋼を一旦タンディッシュに注入し、タンディッシュ内に所定量の溶鋼が滞在した状態で、タンディッシュ内の溶鋼を、タンディッシュ底部に設置した浸漬ノズルを介して鋳型に注入している。鋳型内に注入された溶鋼は冷却されて鋳型との接触面に凝固シェルを形成し、この凝固シェルを外殻とし、内部に未凝固溶鋼を有する鋳片は、鋳型下方に設けられた二次冷却帯において、鋳片表面に噴射される冷却水(「二次冷却水」ともいう)によって冷却されながら鋳型下方に連続的に引抜かれ、やがて中心部までの凝固が完了する。中心部までの凝固の完了した鋳片を所定の長さに切断して、圧延用素材である鋳片が製造されている。
【0003】
二次冷却帯において、不均一な冷却が発生すると、鋳片の表面や内部に割れが生じたり、鋳片中心部の中心偏析が悪化したりするので、鋳片の鋳造方向及び幅方向で均一な冷却を行うことが提案され、実施されてきた。この場合、スラブ鋳片は幅が広く、複数個のスプレーノズルを幅方向に配置する必要があることから、幅方向で不均一冷却になりやすく、特に、鋳片幅方向で均一な冷却を行うことが重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、スプレーノズルの先端に複数の噴射孔を設け、隣り合うロール間において、前記噴射孔から噴射される互いに平行な、複数条のフラットスプレー水で鋳片表面を冷却することが開示されている。特許文献1によれば、複数条のスプレー水で冷却するので、冷却−復熱の温度差が小さくなり、それに応じて繰り返しの熱応力が軽減され、鋳片の表面割れが軽減されるとしている。
【0005】
特許文献2には、スプレーノズルから噴射される冷却水の、鋳片引き抜き方向の水量分布で、水量分布における最大部の20%となる点をA及びBとしたとき、AとBとの間では最大部の20%以上の水量分布が連続し、且つ、スプレーノズルの噴射孔中心をCとしたとき、角ACBが30度以上であるスプレーノズルを用いて鋳片を冷却することが開示されている。特許文献2によれば、鋳片に対する冷却能を効率良く高めることができるとしている。
【0006】
また、特許文献3には、加圧系にブースターポンプを備えた送水機構を介して、鋳片に25〜100kgf/cm2(2.5〜9.8MPa)の給水圧の冷却水を吹き付けて冷却しながら連続鋳造することが開示されている。特許文献3によれば、鋳片に衝突した冷却水の跳ね返りが霧状化され、鋳片表面の部分的な溜り水の発生が防止され、部分的な過冷却が防止されて、均一な冷却が実現されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50−103426号公報
【特許文献2】特開2003−136205号公報
【特許文献3】特開昭57−91857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼の連続鋳造において、一般に、二次冷却帯の鋳片の表面温度は700〜1000℃に制御されているが、近年の鋳造速度の高速化に伴い、二次冷却の能力が強化され、鋳造中の鋳片表面温度は全般的に低下する傾向にある。また、鋳造速度の高速化に伴って、鋳片に、700℃を下回る表面温度の部位が局部的に生じる現象(「過冷却現象」と呼ぶ)が発生するようになった。過冷却現象の発生した鋳片の表面温度は、鋳片幅方向に温度ムラが生じる。
【0009】
この過冷却現象は、鋳造中の鋳片の表面が二次冷却帯における過冷却によって低下する現象であり、図1に、過冷却のスラブ鋳片における温度ムラの発生状況(図1(A))と、冷却後のスラブ鋳片の表面割れの発生状況(図1(B))との関係を示す。図1に示すように、鋳造後の鋳片を観察すると、温度ムラの発生部位に表面割れが集中することが分かる。尚、本発明者らは、この過冷却現象の発生原因を追求し、鋳片の温度ムラ発生と、鋳片表面に滞留する二次冷却水(滞留する二次冷却水を「残留水」と呼ぶ)の水温とのあいだに相関があることを知見している。
【0010】
この過冷却現象つまり温度ムラを防止する観点から上記従来技術を検証すれば、上記従来技術は、何れも過冷却現象の防止には効果がないか、効果があっても効率的ではない。
【0011】
即ち、特許文献1は、スプレー水の噴射される面積、つまり冷却面積を広げて過冷却を防止しているが、フラットスプレーノズルを使用しており、フラットスプレーノズルのみで冷却する限り、冷却時の衝突圧力が強く、二次冷却水量も多いので、残留水の発生を防ぐことはできず、高速鋳造下での過冷却現象の発生を防ぐことはできない。
【0012】
特許文献2は、鋳造方向の噴射角度を広げたスプレーノズルであり、特許文献1のフラットスプレーノズルに比較すれば、冷却時の衝突圧力を弱くすることができるので、過冷却現象は発生しにくくなる。しかしながら、スプレーノズルを用いて従前の冷却方法で冷却する限り、残留水の発生を防ぐことはできず、鋳造速度を高速化すると、過冷却現象が発生する。
【0013】
特許文献3は、鋳片に25〜100kgf/cm2の高圧の二次冷却水を噴射することにより、残留水の発生を防ぎ、均一冷却を行うものであり、高圧水によって残留水の発生は抑制され、過冷却現象防止の効果が発現される。しかしながら、鋼の連続鋳造機においては、二次冷却帯の長さは20mから長いものでは50mにも達し、全ての二次冷却ゾーンで高圧水による冷却を実施することは設備費のみならず運転費が嵩み、たとえ上流部の二次冷却ゾーンだけに絞ったとしても運転費が高く、実用的ではない。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、連続鋳造設備の二次冷却帯にて鋳造中の鋳片を冷却するにあたり、鋳片表面に過冷却現象を発生させることなく、鋳片を均一に冷却することのできる二次冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための第1の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳片支持ロールで支持しながら鋳型の下方に設けた複数の冷却ゾーンからなる二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却するに際し、前記冷却水の水温を50℃以上として鋳片を二次冷却することを特徴とするものである。
【0016】
第2の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、第1の発明において、二次冷却帯の全ての冷却ゾーンで、前記冷却水の水温を50℃以上とすることを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、第1の発明において、鋳型直下から少なくとも二次冷却帯全長の1/2の距離までの範囲の二次冷却帯の冷却ゾーンで、前記冷却水の水温を50℃以上とすることを特徴とするものである。
【0018】
第4の発明に係る連続鋳造における二次冷却方法は、第1の発明において、冷却水量が100リットル/(m2・min)以上の二次冷却帯の冷却ゾーンで、前記冷却水の水温を50℃以上とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水温が50℃以上の冷却水で連続鋳造中の鋳片を二次冷却するので、連続鋳造中の鋳片表面に二次冷却水の残留水が溜まったとしても残留水の温度は高く、残留水が多くなる鋳造速度を高めた条件下であっても鋳片表面は過冷却とならず、鋳片表面に温度ムラを発生させることなく、鋳片を均一に冷却することが実現される。その結果、表面割れのない表面品質に優れた鋳片を高い生産性で鋳造することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】過冷却のスラブ鋳片における温度ムラの発生状況と、冷却後のスラブ鋳片の表面割れの発生状況との関係を示す図である。
【図2】鋳片の二次冷却を模擬した実験装置の概略図である。
【図3】模擬実験装置における、供給する冷却水の水温と、スリット出口位置での冷却水の水温との関係を示す図である。
【図4】本発明を適用したスラブ連続鋳造機の概略図である。
【図5】実施例1における鋳片幅方向の表面温度分布を示す図である。
【図6】実施例2における鋳片幅方向の表面温度分布を示す図である。
【図7】実施例3における鋳片幅方向の表面温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に至った経緯を説明する。
【0022】
本発明者らは、実機連続鋳造機の操業結果から、鋳造速度が速くなると、前述した図1に示すように、温度ムラの原因である鋳片の過冷却現象が多発し、それに応じて鋳片の表面割れが多発することを確認した。そこで、鋳造速度が速くなると過冷却現象が起こりやすくなる原因を追求した。
【0023】
連続鋳造機の設備長は限られており、従って、鋳造速度が速くなると、限られた設備長の範囲内で鋳片の凝固を完了させなければならず、そのために、二次冷却帯における冷却能力を強くする。通常、二次冷却帯の水スプレーノズルやエアーミストスプレーノズル(以下、まとめて「スプレーノズル」とも記す)から噴射される冷却水量或いはエアーミスト量(冷却水と空気との混合体)を増加させて、二次冷却帯における冷却能力を強くしている。一般的に、連続鋳造機の二次冷却は、鋳造される溶鋼1kgあたりの冷却水量が一定となるように制御されており、この場合には、鋳造速度が2倍になると、単位時間あたりの二次冷却水量は2倍になる。
【0024】
スプレーノズルから噴射された冷却水は、鋳片表面に衝突した後の水温が初期状態の常温から沸騰温度まで上昇することによる顕熱、及び、蒸発による蒸発潜熱によって鋳片から熱を奪い、且つ、冷却水の衝突力による冷却促進作用が働いて、鋳片表面の冷却が行われる。この場合、噴射された二次冷却水は蒸発しきれず、鋳片表面上や、鋳片支持ロールと鋳片とに挟まれて残留水となって滞留する。また、一部の残留水は鋳片幅方向に流れて鋳片表面から落下し、また、一部の残留水は、鋳片幅方向で2以上に分割された分割型鋳片支持ロールのロールチョックの間隙を通って鋳片表面上を沿うようにして下流側へ流下する。尚、分割型鋳片支持ロールは、鋳片の支持面積を増加させるべくロールピッチ(鋳造方向のロール間距離)を小さくすると、自ずと鋳片支持ロールのロール径が小さくなり、ロール径が小さくなるとロールの剛性が低下してロール自体のたわみが大きくなるので、このたわみを少なくするための鋳片支持ロールである。当然ながら、分割型鋳片支持ロールが配置されないスラブ連続鋳造機も存在する。
【0025】
鋳造速度が低速の範囲は二次冷却水量が少ないので、鋳片上に滞留している残留水の水温は80℃以上の高温であることが確認されている。また、この場合には、過冷却現象は発生しないことが確認されている。しかしながら、鋳造速度が上がって二次冷却水量が増加すると、鋳片上に滞留する残留水が多くなり、残留水の水温は低下することが予測される。
【0026】
そこで、図2に示す、鋳片の二次冷却を模擬した実験装置を用いて、二次冷却水量とそのときの残留水の温度との関係について調査した。実験は、加熱した平らな厚鋼板13を斜め(傾斜角度:45°)に配置し、この厚鋼板13の上端部に、ロールチョックの間隙を模擬したスリット(スリットの数:1、スリットの間隔:100mm)を有する遮蔽箱14を配置し、この遮蔽箱14の内側に2本の水供給管15から冷却水を供給し、この冷却水がスリットを通って厚鋼板13の表面を流下するようにして行った。流下する冷却水の温度は、スリットの出口位置に、厚鋼板13の表面から2mm離して配置した熱電対(図示せず)により測定し、厚鋼板13の温度は、スリットの出口位置に、厚鋼板13の表面から1mm離れた厚鋼板13の内部に埋め込んだ熱電対(図示せず)により測定した。
【0027】
厚鋼板13を遮蔽箱14とともに均熱炉で1000℃に加熱し、この厚鋼板13及び遮蔽箱14を均熱炉から取り出して所定の位置に配置し、厚鋼板13の温度が900℃になった時点で、遮蔽箱14の内側に35℃の冷却水を水供給管15から供給した。冷却水の供給量は10リットル/min及び15リットル/minの2水準とした。
【0028】
冷却水の供給量が10リットル/minの場合には、スリット出口位置の冷却水の水温は85〜90℃と高温のままであり、また、厚鋼板の温度はほぼ一定速度で低下し、給水開始から50秒を経過した時点では約800℃であり、過冷却現象は発生しなかった。しかし、冷却水の供給量が15リットル/minの場合には、冷却水の水温は、給水直後は約80℃程度であったが、給水開始から20秒を過ぎた頃から水温が80℃以下に下がりだし、給水開始から50秒を経過した時点では約60℃程度となった。また、スリット出口位置の冷却水の水温が80℃未満になった以降、厚鋼板の温度も急激に下がりだし、給水開始から50秒を経過した時点では約400℃まで低下した。つまり、冷却水の供給量が15リットル/minの場合には過冷却現象が発生した。
【0029】
これらの結果から、二次冷却水の滞留水の水温が低下することが、過冷却現象の原因であることが分かった。つまり、鋳造速度が上がって二次冷却水量が増加すると、鋳片上に滞留する残留水が多くなり、残留水の水温は80℃未満に低下する。鋳片の幅方向に流れて鋳片表面左右から落下する残留水は問題とならないが、分割型鋳片支持ロールのロールチョックの間隙を通って鋳片表面上を沿うようにして下流側へ流下する残留水は、残留水の水温が低下することに伴ってサブクール度が高くなり、この残留水には鋳片を冷却する作用が発現する。残留水による冷却の作用が一旦鋳片に働くと、その部位の鋳片の表面温度が低下し、鋳片表面の濡れ性が良くなって更に冷却作用が強くなり、局部的に表面温度の低い部位が形成される。そして、これが過冷却現象の発生原因であることを見出した。尚、サブクールとは、冷却水の飽和温度と冷却水温度との温度差によって冷却される効果のことで、サブクール度は、冷却水の飽和温度と冷却水との温度差を示す。
【0030】
そこで更に、過冷却現象に及ぼす冷却水の水温の影響について、上記の図2に示す実験装置を用いて調査した。この試験では、水供給管15から供給する冷却水の供給量は15リットル/minの一定とし、供給する冷却水の水温を10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃の6水準とした。
【0031】
その結果、冷却水の水温が40℃以下では過冷却現象が発生したが、冷却水の水温が50℃以上では過冷却現象は発生しないことが確認できた。図3に、供給する冷却水の水温が30℃、40℃及び50℃のときの、スリット出口位置での冷却水の水温の測定結果を示す。図3に示すように、冷却水の水温が50℃以上の場合には、スリット出口位置での水温は90℃以上になっており、サブクール度は10度以下であった。この場合、厚鋼板の温度はほぼ一定速度で低下し、給水開始から50秒を経過した時点では約770℃であり、過冷却現象は発生しなかった。一方、冷却水の水温が40℃以下の場合には、スリット出口位置での水温は給水開始時は80℃程度を確保していたが、時間の経過とともに低下し、給水開始から50秒を経過した時点では約60℃程度となり、サブクール度も10度以上に増加した。この場合、スリット出口位置の冷却水の水温が80℃未満になった以降、厚鋼板の温度も急激に下がりだし、給水開始から50秒を経過した時点では約400℃まで低下し、過冷却現象が発生した。
【0032】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳片支持ロールで支持しながら鋳型の下方に設けた複数の冷却ゾーンからなる二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却するに際し、前記冷却水の水温を50℃以上として鋳片を二次冷却することを特徴としている。
【0033】
連続鋳造機の二次冷却帯は、複数の冷却ゾーンで構成されていて、一般的には冷却ゾーン毎に冷却水量が制御されている。また、鋳片表面に噴霧された冷却水は、スケールピット、沈殿槽、冷却塔、給水槽を経由し、再度二次冷却水として循環使用されることが一般的であり、スプレーノズルから噴霧される冷却水の水温は、冷却塔出口における水温により左右される。つまり、冷却塔の冷却ファンの稼動数を変更するなどして冷却塔での抜熱量を調整して冷却水の水温を制御している。
【0034】
本発明においても、冷却塔における抜熱量の調整により供給する冷却水の水温を50℃以上に制御することを基本とする。但し、循環使用される冷却水の水温は、冷却塔を経由しないでバイパスを設置したとしても、50℃を超えることは希であり、特に厳寒の冬場は、50℃を確保することは困難である。従って、本発明を実施するにおいては、供給する冷却水の温度を50℃以上に確保するために、スケールピット、沈殿槽、給水槽などに水没式の加熱器などを設置する、或いは蒸気を吹き込むなどして水温を50℃以上に確保する。
【0035】
また、本発明において、供給する冷却水の温度を50℃以上とする冷却ゾーンは、二次冷却水の給水設備を温度条件によらずに1つにまとめることができることから、全ての冷却ゾーンとすることが好ましいが、設備長の長い大型の連続鋳造機では二次冷却帯が広大で、水温を50℃以上に確保するための加熱器などの容量が大きくなりすぎる恐れがある。このような場合には、過冷却現象が生じ易い、鋳型直下から二次冷却帯全長の1/2の距離までの範囲の冷却ゾーン、或いは、冷却水量が100リットル/(m2・min)以上の冷却水量の多い冷却ゾーンだけで、供給する冷却水の水温を50℃以上としてもよい。このように、供給する冷却水の水温を50℃以上とする冷却ゾーンを特定の冷却ゾーンに限る場合には、給水経路に別途給水槽などを設け、水温を独立して制御することが必要となる。
【0036】
また、水スプレーノズルが配置された冷却ゾーンであっても、エアーミストスプレーノズルが配置された冷却ゾーンであっても、冷却水を使用する限り、本発明を適用することができる。
【0037】
このように、本発明によれば、水温が50℃以上の冷却水で連続鋳造中の鋳片を二次冷却するので、連続鋳造中の鋳片表面に二次冷却水の残留水が溜まったとしても残留水の温度は高く、残留水が多くなる鋳造速度を高めた条件下であっても鋳片表面は過冷却とならず、鋳片表面に温度ムラを発生させることなく均一に冷却することが実現される。
【実施例1】
【0038】
図4に示すスラブ連続鋳造機における本発明の実施例を説明する。図4において、符号1は、垂直曲げ型のスラブ連続鋳造機、2は、取鍋から供給される溶鋼を鋳型に中継供給するためのタンディッシュ、3は、鋳型への溶鋼流量調整用のスライディングノズル、4は、溶鋼を鋳型内に注入するための浸漬ノズル、5は、溶鋼を冷却して鋳片の外殻形状を形成するための鋳型、6は、鋳片を支持・案内するための鋳片支持ロール、7は、鋳造された鋳片を搬送するための搬送ロール、8は、鋳造された鋳片を所定長さに切断するためのガス切断機、9は溶鋼、10は鋳造されつつある鋳片、10aは切断された鋳片、11は凝固シェル、12は未凝固相である。
【0039】
使用したスラブ連続鋳造機1の設備長は45mであり、幅2000mmのスラブ鋳片の鋳造が可能な設備である。鋳型5の上端から鋳型5の下端までが1mであり、鋳型直下から機端までの44mの範囲が二次冷却帯であり、この二次冷却帯を、およそ11m毎に、鋳型直下側から機端側に向いて、第1冷却ゾーン、第2冷却ゾーン、第3冷却ゾーン、第4冷却ゾーンの4つの二次冷却ゾーンに分け、それぞれの二次冷却ゾーン毎に冷却条件を設定した。図4において、A−A’位置からB−B’位置直上の鋳片支持ロール6までの範囲が第1冷却ゾーン、B−B’位置からC−C’位置直上の鋳片支持ロール6までの範囲が第2冷却ゾーン、C−C’位置からD−D’位置直上の鋳片支持ロール6までの範囲が第3冷却ゾーン、D−D’位置から機端の鋳片支持ロール6までの範囲が第4冷却ゾーンである。二次冷却帯の各二次冷却ゾーンにはエアーミストスプレーノズル(図示せず)が配置されており、このエアーミストスプレーノズルから噴射されるエアーミストにより、鋳片10は冷却される。
【0040】
この構成のスラブ連続鋳造機1を用い、供給する二次冷却水の水温を30℃に制御し、二次冷却帯の第3冷却ゾーンと第4冷却ゾーンとの境界の鋳片上面側に設置した、赤外線カメラからなる表面温度プロフィール計(図示せず)で鋳片表面温度を測定しながら、厚み250mm、幅2000mmのスラブ鋳片を1.5m/minの鋳造速度(Vc)で鋳造開始した。
【0041】
鋳片表面温度プロフィール計で測定された鋳片幅方向の表面温度分布を図5に示す。鋳造速度が1.5m/minの場合には、鋳片表面温度プロフィール計で測定される鋳片幅方向の表面温度分布は、温度偏差が約40℃以下であり、ほぼ均一に冷却されていた。
【0042】
その後、鋳造速度を2.0m/minに増速し、二次冷却水量を鋳造速度に比例して増加したところ、ロールチョックの部位に相当する鋳片表面部位で過冷却が発生し、図5に示すように、鋳片表面温度の偏差は250℃以上に拡大した。そこで、供給する二次冷却水の水温を50℃に昇温した。供給する冷却水の水温を50℃としてから約5分後に鋳片表面温度の偏差が小さくなり始め、約10分後には、図5に示すように鋳片表面温度の偏差は40℃以内となった。
【実施例2】
【0043】
図4に示すスラブ連続鋳造機を用い、供給する二次冷却水の水温を30℃に制御し、二次冷却帯の第3冷却ゾーンと第4冷却ゾーンとの境界の鋳片上面側に設置した、赤外線カメラからなる表面温度プロフィール計で鋳片表面温度を測定しながら、厚み250mm、幅2000mmのスラブ鋳片を1.5m/minの鋳造速度(Vc)で鋳造開始した。
【0044】
鋳片表面温度プロフィール計で測定された鋳片幅方向の表面温度分布を図6に示す。鋳造速度が1.5m/minの場合には、鋳片表面温度プロフィール計で測定される鋳片幅方向の表面温度分布は、温度偏差が約40℃以下であり、ほぼ均一に冷却されていた。
【0045】
その後、鋳造速度を2.0m/minに増速し、二次冷却水量を鋳造速度に比例して増加したところ、ロールチョックの部位に相当する鋳片表面部位で過冷却が発生し、図6に示すように、鋳片表面温度の偏差は250℃以上に拡大した。そこで、第3冷却ゾーン及び第4冷却ゾーンに供給する二次冷却水の水温を50℃に昇温した。しかしながら、供給する冷却水の水温を50℃としてから10分間経過しても温度差はほとんど縮小しなかった。その後、第1冷却ゾーン及び第2冷却ゾーンに供給する二次冷却水の水温のみを50℃に昇温した。第1冷却ゾーン及び第2冷却ゾーンに供給する冷却水の水温を50℃としてから約5分後に鋳片表面温度の偏差が小さくなり始め、約10分後には、図6に示すように鋳片表面温度の偏差は40℃以内となった。
【実施例3】
【0046】
図4に示すスラブ連続鋳造機を用い、供給する二次冷却水の水温を30℃に制御し、二次冷却帯の第3冷却ゾーンと第4冷却ゾーンとの境界の鋳片上面側に設置した、赤外線カメラからなる表面温度プロフィール計で鋳片表面温度を測定しながら、厚み250mm、幅2000mmのスラブ鋳片を1.5m/minの鋳造速度(Vc)で鋳造開始した。
【0047】
鋳造速度が1.5m/minにおける二次冷却水量は、第1冷却ゾーンは93リットル/(m2・min)、第2冷却ゾーンは77リットル/(m2・min)、第3冷却ゾーンは60リットル/(m2・min)、第4冷却ゾーンは43リットル/(m2・min)であった。
【0048】
鋳片表面温度プロフィール計で測定された鋳片幅方向の表面温度分布を図7に示す。鋳造速度が1.5m/minの場合には、鋳片表面温度プロフィール計で測定される鋳片幅方向の表面温度分布は、温度偏差が約40℃以下であり、ほぼ均一に冷却されていた。
【0049】
その後、鋳造速度を2.0m/minに増速し、二次冷却水量を鋳造速度の増速に応じて増加した。鋳造速度が2.0m/minにおける二次冷却水量は、第1冷却ゾーンは127リットル/(m2・min)、第2冷却ゾーンは110リットル/(m2・min)、第3冷却ゾーンは93リットル/(m2・min)、第4冷却ゾーンは77リットル/(m2・min)であった。
【0050】
鋳造速度を2.0m/minに増速したところ、ロールチョックの部位に相当する鋳片表面部位で過冷却が発生し、図7に示すように、鋳片表面温度の偏差は250℃以上に拡大した。そこで、冷却水量が100リットル/(m2・min)以上である第1冷却ゾーン及び第2冷却ゾーンに供給する二次冷却水の水温を50℃に昇温した。第1冷却ゾーン及び第2冷却ゾーンに供給する冷却水の水温を50℃としてから約5分後に鋳片表面温度の偏差が小さくなり始め、約10分後には、図7に示すように鋳片表面温度の偏差は40℃以内となった。
【符号の説明】
【0051】
1 スラブ連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 鋳片支持ロール
7 搬送ロール
8 ガス切断機
9 溶鋼
10 鋳片
11 凝固シェル
12 未凝固相
13 厚鋼板
14 遮蔽箱
15 水供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造されている鋳片を、鋳片支持ロールで支持しながら鋳型の下方に設けた複数の冷却ゾーンからなる二次冷却帯にて冷却水または冷却水と気体との混合体を用いて二次冷却するに際し、前記冷却水の水温を50℃以上として鋳片を二次冷却することを特徴とする、連続鋳造における二次冷却方法。
【請求項2】
二次冷却帯の全ての冷却ゾーンで、前記冷却水の水温を50℃以上とすることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造における二次冷却方法。
【請求項3】
鋳型直下から少なくとも二次冷却帯全長の1/2の距離までの範囲の二次冷却帯の冷却ゾーンで、前記冷却水の水温を50℃以上とすることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造における二次冷却方法。
【請求項4】
冷却水量が100リットル/(m2・min)以上の二次冷却帯の冷却ゾーンで、前記冷却水の水温を50℃以上とすることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造における二次冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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