連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御方法
【課題】連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御を行うに際して、外乱である定在波の影響を除去して、的確にモールド内湯面レベル制御を実施することができるモールド内湯面レベル制御方法を提供する。
【解決手段】湯面レベル計18をモールド幅中心位置に設置しているとともに、その湯面レベル計18が計測した湯面レベル信号から2次定在波の影響を除去するための周波数フィルター20を湯面レベル制御装置19に設置している。
【解決手段】湯面レベル計18をモールド幅中心位置に設置しているとともに、その湯面レベル計18が計測した湯面レベル信号から2次定在波の影響を除去するための周波数フィルター20を湯面レベル制御装置19に設置している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機のモールド内の湯面レベル制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機において、モールド内の溶融金属(溶鋼)の湯面レベルの変動を抑止して、湯面レベルが一定になるように制御することは、操業の安定上のみならず、鋳片の品質管理上からも極めて重要なことである。
【0003】
通常、このモールド内湯面レベル制御方法としては、モールド内の溶鋼の湯面レベルを湯面レベル計によって計測し、この計測値に基づき溶鋼流量調整装置としてのスライディングノズルの開度を調節して、モールドから引き抜かれていく溶鋼とタンディッシュから注入される溶鋼のマスバランスを釣り合わせるという方法がとられている。
【0004】
すなわち、図1に、スラブ連続鋳造機のモールド周辺部の代表例を示すが、スラブ連続鋳造機のモールド12の上方所定位置にはタンディッシュ11が配置され、このタンディッシュ11の底部には、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13が配置されており、タンディッシュ11に一旦滞留した溶鋼1は、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13を介してモールド12へ注入されるようになっている。スライディングノズル14は、固定板14a、摺動板14bを備えており、摺動板14bがアクチュエータ15と連結されており、アクチュエータ15によって摺動板14bが固定板14aと密着した状態のまま摺動することで、スライディングノズル14の開度が増減し、タンディッシュ11からモールド12への溶鋼1の流出量が制御されるようになっている。その際、アクチュエータ15は、湯面レベル制御装置19からスライディングノズル開度制御装置16を経由して入力される信号によって作動する。一方、モールド12内の溶鋼湯面の上方には、湯面レベル計(例えば、渦流センサ−)18が配置されている。湯面レベル計18はモールド12における溶鋼湯面のレベル(高さ位置)を計測する装置であり、湯面レベル計18の計測信号(湯面レベル信号)は湯面レベル制御装置19に入力されている。
【0005】
これにより、取鍋(図示せず)からタンディッシュ11に注入された溶鋼1は、タンディッシュ11の底部に設置されたスライディングノズル14で定まる開度に応じて、浸漬ノズル13を経てモールド12へ注入される。モールド12へ注入された溶鋼1は、モールド12により冷却されてモールド12との接触面で凝固して凝固シェル2を形成し、外殻を凝固シェル2とし内部を未凝固層とする鋳片はガイドロール及びピンチロール17に支持されながら、ピンチロール17によってモールド12の下方へ引き抜かれる。その際に、湯面レベル制御装置19は、湯面レベル計18から得られる湯面レベル信号と、予め設定されている湯面レベル設定値との偏差を算定し、この偏差に基づいて、スライディングノズル開度制御装置16を経由させてアクチュエータ15にスライディングノズル14の開度指令を出力することで、モールド内の溶鋼の湯面レベルが一定値(設定値)となるように制御する。
【0006】
ちなみに、モールド内の溶鋼の湯面レベルの変動する最も大きな要因は、ガイドロールやピンチロールなどの鋳片支持ロールの間で生じる鋳片の厚み方向への膨らみ(バルジング)に起因する湯面レベル変動(バルジンク性湯面レベル変動)であるといわれている。
【0007】
従来、このバルジンク性湯面レベル変動に対応した湯面レベル制御方法として、特許文献1には、湯面レベル計からの湯面レベル信号を周波数解析し、特定の周波数が検出された場合、その波形を微分し、信号として90°進んだ値でFF制御を行う帯域微分制御方式の湯面レベル制御方法が記載されている。また、特許文献2には、ピンチロールのトルクを検出し、特定の周波数で変動する場合、その信号位相が湯面変動より進んでいる場合は、FF制御を行うトルクFF制御方式の湯面レベル制御方法が記載されている。
【特許文献1】特開2007−260693号公報
【特許文献2】特開2005−271067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
連続鋳造機において、モールド内の湯面レベルを制御する際に、制御するのは、上述したようなバルジンク性湯面レベル変動等の実質的な湯面レベルの変動であって、湯面の波打ちのような局所的な湯面の変動は外乱であり、その影響を除去する必要がある。
【0009】
このような外乱の代表例として、特にスラブのような幅と厚さの比率の大きいモールドにおいて、モールド幅に応じた固有振動数で湯面変動を起こす定在波の存在がある。図2は、その定在波を示すものであり、特に問題となるのが、図2(a)に示すような、振動の節が1個であって、その節がモールド幅中央(モールド幅1/2位置)にある1次定在波と、図2(b)に示すような、振動の節が2個であって、その節がモールド幅中央とモールド幅端の中間(モールド幅1/4位置)にある2次定在波である。
【0010】
これに対して、前記の特許文献1や特許文献2に記載されている湯面レベル制御方法においては、上記のような定在波を外乱として処理することは考慮されていない。
【0011】
このような定在波を外乱として処理しない状態でモールド12内の湯面制御を行うと、実質的な湯面レベルの変動でない定在波による湯面変化を制御しようとして、制御系が安定せずに、発散することがある。例えば、図3に示すように、湯面レベル計18、湯面レベル制御装置19、スライディングノズル開度制御装置16、アクチュエータ15、スライディングノズル14と流れる信号・動作がループを描いて収束しない状態となり、図4に示すように、スライディングノズル14の開度が頻繁に変化して、モールド12に流入する溶鋼1の量が不安定になり、モールド12内の湯面変動を逆に大きくする可能性がある。
【0012】
これに対して、上記の問題を防ぐために、湯面レベル制御の制御ゲインを下げると、全体的に制御性の悪化を招いてしまう。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御を行うに際して、外乱である定在波の影響を除去して、的確にモールド内湯面レベル制御を実施することができるモールド内湯面レベル制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0015】
[1]連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御するモールド内湯面レベル制御方法であって、湯面レベル計を、1次定在波成分を除去するように、モールドの中心位置に設置して、モールドの中心位置の湯面レベルを計測し、その計測した湯面レベル信号から、周波数フィルターを用いて2次定在波の周波数成分を除去した補正湯面レベル信号を求め、その求めた補正湯面レベル信号が一定になるように、スライディングノズルの開度を調節することを特徴とする連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御を行うに際して、外乱である定在波の影響を適切に除去して、モールド内湯面レベル制御を的確に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明の基本的な考え方を述べる。
【0018】
前述したように、特に問題となる定在波は、図2(a)に示した1次定在波と、図2(b)に示した2次定在波である。そこで、1次定在波に対しては、図5(a)に示すように、1次定在波の節であるモールド幅中央に湯面レベル計18を設置すれば、その影響を除去することができ、2次定在波に対しては、図5(b)に示すように、2次定在波の節であるモールド幅1/4位置に湯面レベル計18を設置すれば、その影響を除去することができるが、両者を同時に行うことは制御上非常に難しい。
【0019】
そこで、湯面レベル計をモールド幅中央またはモールド幅1/4位置のいずれかに設置することによって、1次定在波または2次定在波のいずれか一方の影響を除去し、残った他方の定在波については、周波数フィルター処理によってその影響を除去することにした。ただし、その際のフィルター処理は、実質的な湯面レベル変動制御の制御性に悪影響を及ぼさないようにすることが肝要となる。発明者らは、実質的な湯面レベル変動(定在波成分を含まない湯面レベルの上下変動)の周波数帯域と定在波成分の変動周波数帯域を比較して、以下の知見を得た。
【0020】
通常、1次定在波の周波数f1(例えば、約0.5Hz)は、実質的な湯面レベル変動の周波数f0(例えば、0.1〜0.3Hz)に近い。したがって、周波数フィルターを用いて1次定在波の影響を除去しようとすると、それに伴って実質的湯面レベル変動成分も除去されるため、実質的湯面レベル変動が見えなくなってしまって、湯面レベル制御の遅れ等が生じ、実質的湯面レベル変動制御の制御性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
一方、2次定在波の周波数f2(例えば、約0.8Hz)は、実質的な湯面レベル変動の周波数f0から離れている。したがって、周波数フィルターを用いて2次定在波の周波数帯域成分を除去して、2次定在波成分の影響を除去しても、実質的湯面レベル変動成分は除去されず、実質的な湯面レベル変動が見えなくなってしまうことはなく、実質的湯面レベル変動制御の制御性に悪影響を及ぼすことはない。
【0022】
なお、発生する1次定在波の周波数f1、2次定在波の周波数f2は、鋳型幅(モールド幅)から、例えば、下記の式により求めればよい。なお、上記例示周波数はL=2.3mとして求めた。
【0023】
【数1】
【0024】
上記のことから、本発明においては、湯面レベル計をモールド幅中心位置に設置して、1次定在波の影響を除去し、その湯面レベル計が計測した湯面レベル信号に対して周波数フィルターを用いて2次定在波の影響を除去するようにしている。そして、1次定在波と2次定在波の影響が除去された実質的湯面レベル信号に基づいて、その実質的湯面レベル信号が一定値(設定値)になるように、スライディングノズルの開度を調節するようにしている。
【0025】
なお、上記において、湯面レベル計18が設置されるモールド幅中心位置とは、湯面レベル計18と浸漬ノズル13との干渉を考慮して、モールド幅中央(モールド幅1/2位置)からモールド幅の1/8の距離だけ離れた位置までの範囲を意味している。好ましくは、モールド幅中央からモールド幅の1/16の距離だけ離れた位置までの範囲に設置するのがよい。
【0026】
次に、上記の2次定在波の影響を除去するための周波数フィルターについて述べる。
【0027】
その周波数フィルターの一例は、概念的には図6と下記(1)式で示すようなものである。すなわち、湯面レベル計が実測した実測データ(実測信号)をY(i)とし、周波数フィルター処理によって補正された後の補正データ(補正信号)をYf(i)としたときに(ここで、iはデータのサンプリング番号)、過去3個分の実測データY(n)、Y(n−1)、Y(n−2)と、過去2個分の補正データYf(n−1)、Yf(n−2)を用いて、下記(1)式から、現在の補正データYf(n)を得るものである。
【0028】
Yf(n)=(1/a0)×{b0×Y(n)+b1×Y(n−1)+b2×Y(n−2)−a1×Yf(n−1)−a2×Yf(n−2)} ・・・・・・(1)
ここで、a0、a1、a2、b0、b1、b2はフィルター係数である。
【0029】
このような周波数フィルターを用いることによって、特定の周波数を減衰・削除することができる。ただし、問題点としては、その周波数より低い部分で位相遅れを発生し、それによる制御性の悪化を招く可能性がある。そこで、前述のフィルター係数を適切に設定することにより、フィルターの強度(特定周波数の減衰強度、減衰率)を調整して、所望の制御性が得られるようにすることが肝要である。
【0030】
ちなみに、図7(a)に示すように、フィルター強度(減衰強度)を上げると、位相遅れが大きくなり、図7(b)に示すように、フィルター強度(減衰強度)を下げると、位相遅れが小さくなるので、従来は、位相遅れを避けるために、図7(b)に示すような、フィルター強度の低いものを使用するのが普通であるが、ここでは、図7(a)に示すような、フィルター強度の高いものを使用するようにしている。
【0031】
その理由は、前述したように、除去したい2次定在波の周波数f2(0.8Hz位)付近には、実質的湯面レベル変動制御に用いる周波数f0(0.1〜0.3Hz)が存在しないため、位相遅れがあっても制御系に与える影響が少ないからである。また、最終的には実質的湯面レベル変動制御の制御ゲインを2倍程度に上げるため、フィルター強度(減衰強度)を50%超えにして、定在波の影響をできるだけ無くしておきたいからである。
【0032】
そして、上記のような考え方に基づいて構成された本発明の一実施形態を以下に述べる。
【0033】
本発明の一実施形態における基本的な構成は、図1に示したものと同様であり、図1に示したように、スラブ連続鋳造機のモールド12の上方所定位置にはタンディッシュ11が配置され、このタンディッシュ11の底部には、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13が配置されており、タンディッシュ11に一旦滞留した溶鋼1は、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13を介してモールド12へ注入されるようになっている。スライディングノズル14は、固定板14a、摺動板14bを備えており、摺動板14bがアクチュエータ15と連結されており、アクチュエータ15によって摺動板14bが固定板14aと密着した状態のまま摺動することで、スライディングノズル14の開度が増減し、タンディッシュ11からモールド12への溶鋼1の流出量が制御されるようになっている。その際、アクチュエータ15は、湯面レベル制御装置19からスライディングノズル開度制御装置16を経由して入力される信号によって作動する。一方、モールド12内の溶鋼湯面の上方には、湯面レベル計(例えば、渦流センサ−)18が配置されている。湯面レベル計18はモールド12における溶鋼湯面のレベル(高さ位置)を計測する装置であり、湯面レベル計18の計測信号(湯面レベル信号)は湯面レベル制御装置19に入力されている。
【0034】
これにより、取鍋(図示せず)からタンディッシュ11に注入された溶鋼1は、タンディッシュ11の底部に設置されたスライディングノズル14で定まる開度に応じて、浸漬ノズル13を経てモールド12へ注入される。モールド12へ注入された溶鋼1は、モールド12により冷却されてモールド12との接触面で凝固して凝固シェル2を形成し、外殻を凝固シェル2とし内部を未凝固層とする鋳片はガイドロール及びピンチロール17に支持されながら、ピンチロール17によってモールド12の下方へ引き抜かれる。その際に、湯面レベル制御装置19は、湯面レベル計18から得られる湯面レベル信号に基づいて、スライディングノズル開度制御装置16を経由させてアクチュエータ15にスライディングノズル14の開度指令を出力することで、モールド内の溶鋼の湯面レベルが一定値(設定値)となるように制御する。
【0035】
その上で、この実施形態においては、図8に示すように、湯面レベル計18をモールド幅中心位置に設置しているとともに、その湯面レベル計18が計測した湯面レベル信号から2次定在波の影響を除去するためのフィルター20を湯面レベル制御装置19に設置している。
【0036】
これにより、この実施形態では、1次定在波の影響が除去された湯面レベル信号が湯面レベル制御装置19に送られ、そこで周波数フィルター20によって2次定在波の影響を除去する。そして、湯面レベル制御装置19は、1次定在波と2次定在波の影響が除去された実質的湯面レベル信号と、予め設定されている湯面レベル設定値との偏差を算定し、この偏差に基づいて、実質的湯面レベル信号が一定値(設定値)になるように、スライディングノズル14の開度を調節する。
【0037】
その結果、図3、図4に示したような、定在波(外乱)による制御系の不安定・発散が抑制され、制御ゲインを上げることが可能になるので、図9に示すように、モールド内湯面レベル制御が的確に実施される。
【0038】
ちなみに、図10は、周波数フィルター20によって2次定在波の影響が除去される状態を示す一例である。図10において、細線が湯面レベル計18からの実測湯面レベル信号であり、太線がその実測信号に対して周波数フィルター20による処理を行った後の補正湯面レベル信号である。なお、横軸は信号のサンプリング番号であり、縦軸はそれぞれの湯面レベル信号値を基準化して示している。これにより、周波数フィルター20によって2次定在波の影響が除去され、実質的湯面レベル信号が抽出されていることが分かる。すなわち、この実質的湯面レベル信号を用いることで、モールド内湯面レベル制御を的確に実施することができることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】スラブ連続鋳造機のモールド周辺部を示す図である。
【図2】定在波を示す図である。
【図3】湯面レベル制御がループを描いて収束しない状態を示す図である。
【図4】図3に示した状態になると湯面変動が増大することを示す図である。
【図5】定在波の節と湯面レベル計の設置位置の関係を示す図である。
【図6】周波数フィルター処理の概念図である。
【図7】周波数フィルターの強度と位相遅れの状態を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態の湯面レベル制御を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態の湯面レベル制御による湯面状態を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態における周波数フィルター処理の効果を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 溶鋼
2 凝固シェル
11 タンディッシュ
12 モールド
13 浸漬ノズル
14 スライディングノズル
14a 固定板
14b 摺動板
15 アクチュエータ
16 スライディングノズル開度制御装置
17 ピンチロール
18 湯面レベル計
19 湯面レベル制御装置
20 周波数フィルター
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機のモールド内の湯面レベル制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機において、モールド内の溶融金属(溶鋼)の湯面レベルの変動を抑止して、湯面レベルが一定になるように制御することは、操業の安定上のみならず、鋳片の品質管理上からも極めて重要なことである。
【0003】
通常、このモールド内湯面レベル制御方法としては、モールド内の溶鋼の湯面レベルを湯面レベル計によって計測し、この計測値に基づき溶鋼流量調整装置としてのスライディングノズルの開度を調節して、モールドから引き抜かれていく溶鋼とタンディッシュから注入される溶鋼のマスバランスを釣り合わせるという方法がとられている。
【0004】
すなわち、図1に、スラブ連続鋳造機のモールド周辺部の代表例を示すが、スラブ連続鋳造機のモールド12の上方所定位置にはタンディッシュ11が配置され、このタンディッシュ11の底部には、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13が配置されており、タンディッシュ11に一旦滞留した溶鋼1は、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13を介してモールド12へ注入されるようになっている。スライディングノズル14は、固定板14a、摺動板14bを備えており、摺動板14bがアクチュエータ15と連結されており、アクチュエータ15によって摺動板14bが固定板14aと密着した状態のまま摺動することで、スライディングノズル14の開度が増減し、タンディッシュ11からモールド12への溶鋼1の流出量が制御されるようになっている。その際、アクチュエータ15は、湯面レベル制御装置19からスライディングノズル開度制御装置16を経由して入力される信号によって作動する。一方、モールド12内の溶鋼湯面の上方には、湯面レベル計(例えば、渦流センサ−)18が配置されている。湯面レベル計18はモールド12における溶鋼湯面のレベル(高さ位置)を計測する装置であり、湯面レベル計18の計測信号(湯面レベル信号)は湯面レベル制御装置19に入力されている。
【0005】
これにより、取鍋(図示せず)からタンディッシュ11に注入された溶鋼1は、タンディッシュ11の底部に設置されたスライディングノズル14で定まる開度に応じて、浸漬ノズル13を経てモールド12へ注入される。モールド12へ注入された溶鋼1は、モールド12により冷却されてモールド12との接触面で凝固して凝固シェル2を形成し、外殻を凝固シェル2とし内部を未凝固層とする鋳片はガイドロール及びピンチロール17に支持されながら、ピンチロール17によってモールド12の下方へ引き抜かれる。その際に、湯面レベル制御装置19は、湯面レベル計18から得られる湯面レベル信号と、予め設定されている湯面レベル設定値との偏差を算定し、この偏差に基づいて、スライディングノズル開度制御装置16を経由させてアクチュエータ15にスライディングノズル14の開度指令を出力することで、モールド内の溶鋼の湯面レベルが一定値(設定値)となるように制御する。
【0006】
ちなみに、モールド内の溶鋼の湯面レベルの変動する最も大きな要因は、ガイドロールやピンチロールなどの鋳片支持ロールの間で生じる鋳片の厚み方向への膨らみ(バルジング)に起因する湯面レベル変動(バルジンク性湯面レベル変動)であるといわれている。
【0007】
従来、このバルジンク性湯面レベル変動に対応した湯面レベル制御方法として、特許文献1には、湯面レベル計からの湯面レベル信号を周波数解析し、特定の周波数が検出された場合、その波形を微分し、信号として90°進んだ値でFF制御を行う帯域微分制御方式の湯面レベル制御方法が記載されている。また、特許文献2には、ピンチロールのトルクを検出し、特定の周波数で変動する場合、その信号位相が湯面変動より進んでいる場合は、FF制御を行うトルクFF制御方式の湯面レベル制御方法が記載されている。
【特許文献1】特開2007−260693号公報
【特許文献2】特開2005−271067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
連続鋳造機において、モールド内の湯面レベルを制御する際に、制御するのは、上述したようなバルジンク性湯面レベル変動等の実質的な湯面レベルの変動であって、湯面の波打ちのような局所的な湯面の変動は外乱であり、その影響を除去する必要がある。
【0009】
このような外乱の代表例として、特にスラブのような幅と厚さの比率の大きいモールドにおいて、モールド幅に応じた固有振動数で湯面変動を起こす定在波の存在がある。図2は、その定在波を示すものであり、特に問題となるのが、図2(a)に示すような、振動の節が1個であって、その節がモールド幅中央(モールド幅1/2位置)にある1次定在波と、図2(b)に示すような、振動の節が2個であって、その節がモールド幅中央とモールド幅端の中間(モールド幅1/4位置)にある2次定在波である。
【0010】
これに対して、前記の特許文献1や特許文献2に記載されている湯面レベル制御方法においては、上記のような定在波を外乱として処理することは考慮されていない。
【0011】
このような定在波を外乱として処理しない状態でモールド12内の湯面制御を行うと、実質的な湯面レベルの変動でない定在波による湯面変化を制御しようとして、制御系が安定せずに、発散することがある。例えば、図3に示すように、湯面レベル計18、湯面レベル制御装置19、スライディングノズル開度制御装置16、アクチュエータ15、スライディングノズル14と流れる信号・動作がループを描いて収束しない状態となり、図4に示すように、スライディングノズル14の開度が頻繁に変化して、モールド12に流入する溶鋼1の量が不安定になり、モールド12内の湯面変動を逆に大きくする可能性がある。
【0012】
これに対して、上記の問題を防ぐために、湯面レベル制御の制御ゲインを下げると、全体的に制御性の悪化を招いてしまう。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御を行うに際して、外乱である定在波の影響を除去して、的確にモールド内湯面レベル制御を実施することができるモールド内湯面レベル制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0015】
[1]連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御するモールド内湯面レベル制御方法であって、湯面レベル計を、1次定在波成分を除去するように、モールドの中心位置に設置して、モールドの中心位置の湯面レベルを計測し、その計測した湯面レベル信号から、周波数フィルターを用いて2次定在波の周波数成分を除去した補正湯面レベル信号を求め、その求めた補正湯面レベル信号が一定になるように、スライディングノズルの開度を調節することを特徴とする連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御を行うに際して、外乱である定在波の影響を適切に除去して、モールド内湯面レベル制御を的確に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明の基本的な考え方を述べる。
【0018】
前述したように、特に問題となる定在波は、図2(a)に示した1次定在波と、図2(b)に示した2次定在波である。そこで、1次定在波に対しては、図5(a)に示すように、1次定在波の節であるモールド幅中央に湯面レベル計18を設置すれば、その影響を除去することができ、2次定在波に対しては、図5(b)に示すように、2次定在波の節であるモールド幅1/4位置に湯面レベル計18を設置すれば、その影響を除去することができるが、両者を同時に行うことは制御上非常に難しい。
【0019】
そこで、湯面レベル計をモールド幅中央またはモールド幅1/4位置のいずれかに設置することによって、1次定在波または2次定在波のいずれか一方の影響を除去し、残った他方の定在波については、周波数フィルター処理によってその影響を除去することにした。ただし、その際のフィルター処理は、実質的な湯面レベル変動制御の制御性に悪影響を及ぼさないようにすることが肝要となる。発明者らは、実質的な湯面レベル変動(定在波成分を含まない湯面レベルの上下変動)の周波数帯域と定在波成分の変動周波数帯域を比較して、以下の知見を得た。
【0020】
通常、1次定在波の周波数f1(例えば、約0.5Hz)は、実質的な湯面レベル変動の周波数f0(例えば、0.1〜0.3Hz)に近い。したがって、周波数フィルターを用いて1次定在波の影響を除去しようとすると、それに伴って実質的湯面レベル変動成分も除去されるため、実質的湯面レベル変動が見えなくなってしまって、湯面レベル制御の遅れ等が生じ、実質的湯面レベル変動制御の制御性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
一方、2次定在波の周波数f2(例えば、約0.8Hz)は、実質的な湯面レベル変動の周波数f0から離れている。したがって、周波数フィルターを用いて2次定在波の周波数帯域成分を除去して、2次定在波成分の影響を除去しても、実質的湯面レベル変動成分は除去されず、実質的な湯面レベル変動が見えなくなってしまうことはなく、実質的湯面レベル変動制御の制御性に悪影響を及ぼすことはない。
【0022】
なお、発生する1次定在波の周波数f1、2次定在波の周波数f2は、鋳型幅(モールド幅)から、例えば、下記の式により求めればよい。なお、上記例示周波数はL=2.3mとして求めた。
【0023】
【数1】
【0024】
上記のことから、本発明においては、湯面レベル計をモールド幅中心位置に設置して、1次定在波の影響を除去し、その湯面レベル計が計測した湯面レベル信号に対して周波数フィルターを用いて2次定在波の影響を除去するようにしている。そして、1次定在波と2次定在波の影響が除去された実質的湯面レベル信号に基づいて、その実質的湯面レベル信号が一定値(設定値)になるように、スライディングノズルの開度を調節するようにしている。
【0025】
なお、上記において、湯面レベル計18が設置されるモールド幅中心位置とは、湯面レベル計18と浸漬ノズル13との干渉を考慮して、モールド幅中央(モールド幅1/2位置)からモールド幅の1/8の距離だけ離れた位置までの範囲を意味している。好ましくは、モールド幅中央からモールド幅の1/16の距離だけ離れた位置までの範囲に設置するのがよい。
【0026】
次に、上記の2次定在波の影響を除去するための周波数フィルターについて述べる。
【0027】
その周波数フィルターの一例は、概念的には図6と下記(1)式で示すようなものである。すなわち、湯面レベル計が実測した実測データ(実測信号)をY(i)とし、周波数フィルター処理によって補正された後の補正データ(補正信号)をYf(i)としたときに(ここで、iはデータのサンプリング番号)、過去3個分の実測データY(n)、Y(n−1)、Y(n−2)と、過去2個分の補正データYf(n−1)、Yf(n−2)を用いて、下記(1)式から、現在の補正データYf(n)を得るものである。
【0028】
Yf(n)=(1/a0)×{b0×Y(n)+b1×Y(n−1)+b2×Y(n−2)−a1×Yf(n−1)−a2×Yf(n−2)} ・・・・・・(1)
ここで、a0、a1、a2、b0、b1、b2はフィルター係数である。
【0029】
このような周波数フィルターを用いることによって、特定の周波数を減衰・削除することができる。ただし、問題点としては、その周波数より低い部分で位相遅れを発生し、それによる制御性の悪化を招く可能性がある。そこで、前述のフィルター係数を適切に設定することにより、フィルターの強度(特定周波数の減衰強度、減衰率)を調整して、所望の制御性が得られるようにすることが肝要である。
【0030】
ちなみに、図7(a)に示すように、フィルター強度(減衰強度)を上げると、位相遅れが大きくなり、図7(b)に示すように、フィルター強度(減衰強度)を下げると、位相遅れが小さくなるので、従来は、位相遅れを避けるために、図7(b)に示すような、フィルター強度の低いものを使用するのが普通であるが、ここでは、図7(a)に示すような、フィルター強度の高いものを使用するようにしている。
【0031】
その理由は、前述したように、除去したい2次定在波の周波数f2(0.8Hz位)付近には、実質的湯面レベル変動制御に用いる周波数f0(0.1〜0.3Hz)が存在しないため、位相遅れがあっても制御系に与える影響が少ないからである。また、最終的には実質的湯面レベル変動制御の制御ゲインを2倍程度に上げるため、フィルター強度(減衰強度)を50%超えにして、定在波の影響をできるだけ無くしておきたいからである。
【0032】
そして、上記のような考え方に基づいて構成された本発明の一実施形態を以下に述べる。
【0033】
本発明の一実施形態における基本的な構成は、図1に示したものと同様であり、図1に示したように、スラブ連続鋳造機のモールド12の上方所定位置にはタンディッシュ11が配置され、このタンディッシュ11の底部には、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13が配置されており、タンディッシュ11に一旦滞留した溶鋼1は、スライディングノズル14及び浸漬ノズル13を介してモールド12へ注入されるようになっている。スライディングノズル14は、固定板14a、摺動板14bを備えており、摺動板14bがアクチュエータ15と連結されており、アクチュエータ15によって摺動板14bが固定板14aと密着した状態のまま摺動することで、スライディングノズル14の開度が増減し、タンディッシュ11からモールド12への溶鋼1の流出量が制御されるようになっている。その際、アクチュエータ15は、湯面レベル制御装置19からスライディングノズル開度制御装置16を経由して入力される信号によって作動する。一方、モールド12内の溶鋼湯面の上方には、湯面レベル計(例えば、渦流センサ−)18が配置されている。湯面レベル計18はモールド12における溶鋼湯面のレベル(高さ位置)を計測する装置であり、湯面レベル計18の計測信号(湯面レベル信号)は湯面レベル制御装置19に入力されている。
【0034】
これにより、取鍋(図示せず)からタンディッシュ11に注入された溶鋼1は、タンディッシュ11の底部に設置されたスライディングノズル14で定まる開度に応じて、浸漬ノズル13を経てモールド12へ注入される。モールド12へ注入された溶鋼1は、モールド12により冷却されてモールド12との接触面で凝固して凝固シェル2を形成し、外殻を凝固シェル2とし内部を未凝固層とする鋳片はガイドロール及びピンチロール17に支持されながら、ピンチロール17によってモールド12の下方へ引き抜かれる。その際に、湯面レベル制御装置19は、湯面レベル計18から得られる湯面レベル信号に基づいて、スライディングノズル開度制御装置16を経由させてアクチュエータ15にスライディングノズル14の開度指令を出力することで、モールド内の溶鋼の湯面レベルが一定値(設定値)となるように制御する。
【0035】
その上で、この実施形態においては、図8に示すように、湯面レベル計18をモールド幅中心位置に設置しているとともに、その湯面レベル計18が計測した湯面レベル信号から2次定在波の影響を除去するためのフィルター20を湯面レベル制御装置19に設置している。
【0036】
これにより、この実施形態では、1次定在波の影響が除去された湯面レベル信号が湯面レベル制御装置19に送られ、そこで周波数フィルター20によって2次定在波の影響を除去する。そして、湯面レベル制御装置19は、1次定在波と2次定在波の影響が除去された実質的湯面レベル信号と、予め設定されている湯面レベル設定値との偏差を算定し、この偏差に基づいて、実質的湯面レベル信号が一定値(設定値)になるように、スライディングノズル14の開度を調節する。
【0037】
その結果、図3、図4に示したような、定在波(外乱)による制御系の不安定・発散が抑制され、制御ゲインを上げることが可能になるので、図9に示すように、モールド内湯面レベル制御が的確に実施される。
【0038】
ちなみに、図10は、周波数フィルター20によって2次定在波の影響が除去される状態を示す一例である。図10において、細線が湯面レベル計18からの実測湯面レベル信号であり、太線がその実測信号に対して周波数フィルター20による処理を行った後の補正湯面レベル信号である。なお、横軸は信号のサンプリング番号であり、縦軸はそれぞれの湯面レベル信号値を基準化して示している。これにより、周波数フィルター20によって2次定在波の影響が除去され、実質的湯面レベル信号が抽出されていることが分かる。すなわち、この実質的湯面レベル信号を用いることで、モールド内湯面レベル制御を的確に実施することができることが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】スラブ連続鋳造機のモールド周辺部を示す図である。
【図2】定在波を示す図である。
【図3】湯面レベル制御がループを描いて収束しない状態を示す図である。
【図4】図3に示した状態になると湯面変動が増大することを示す図である。
【図5】定在波の節と湯面レベル計の設置位置の関係を示す図である。
【図6】周波数フィルター処理の概念図である。
【図7】周波数フィルターの強度と位相遅れの状態を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態の湯面レベル制御を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態の湯面レベル制御による湯面状態を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態における周波数フィルター処理の効果を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 溶鋼
2 凝固シェル
11 タンディッシュ
12 モールド
13 浸漬ノズル
14 スライディングノズル
14a 固定板
14b 摺動板
15 アクチュエータ
16 スライディングノズル開度制御装置
17 ピンチロール
18 湯面レベル計
19 湯面レベル制御装置
20 周波数フィルター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御するモールド内湯面レベル制御方法であって、
湯面レベル計を、1次定在波成分を除去するように、モールドの中心位置に設置して、モールドの中心位置の湯面レベルを計測し、
その計測した湯面レベル信号から、周波数フィルターを用いて2次定在波の周波数成分を除去した補正湯面レベル信号を求め、
その求めた補正湯面レベル信号が一定になるように、スライディングノズルの開度を調節することを特徴とする連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御方法。
【請求項1】
連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御するモールド内湯面レベル制御方法であって、
湯面レベル計を、1次定在波成分を除去するように、モールドの中心位置に設置して、モールドの中心位置の湯面レベルを計測し、
その計測した湯面レベル信号から、周波数フィルターを用いて2次定在波の周波数成分を除去した補正湯面レベル信号を求め、
その求めた補正湯面レベル信号が一定になるように、スライディングノズルの開度を調節することを特徴とする連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−69513(P2010−69513A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240729(P2008−240729)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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